(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058702
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】表層崩壊危険箇所の抽出方法及び抽出システム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240422BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165955
(22)【出願日】2022-10-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000121844
【氏名又は名称】応用地質株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】濱田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】信岡 大
(72)【発明者】
【氏名】松井 恭
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA09
5L096BA08
5L096CA22
5L096CA24
5L096DA01
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】災害発生前に表層崩壊危険箇所を精度よく自動的に抽出できる技術を提供する。
【解決手段】入力部1は、対象地域の地形図及び数値標高モデルの入力を受け付ける。処理部2は、機械学習により生成された学習済みモデル3を用いて、対象地域の地形図及び数値標高モデルから表層崩壊危険箇所を示すマップを生成する。これにより表層崩壊危険箇所を抽出することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地域の地形図及び数値標高モデルの入力を受け付けるステップと、
機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記対象地域の地形図及び数値標高モデルから表層崩壊危険箇所を示すマップを生成するステップと
を有する表層崩壊危険箇所の抽出方法。
【請求項2】
前記学習済みモデルは、地形図及び数値標高モデルと、作業者により表層崩壊危険箇所に関連付けられた地形判読図とを教師データとして機械学習により生成されたものである
請求項1に記載の表層崩壊危険箇所の抽出方法。
【請求項3】
前記表層崩壊危険箇所を示すマップは、表層崩壊危険箇所である確率が示された確率マップであり、
前記確率マップから、確率の閾値、あるいは、斜面傾斜角度の情報を用いて、表層崩壊危険度マップを生成するステップをさらに有する
請求項1又は2に記載の表層崩壊危険箇所の抽出方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項5】
対象地域の地形図及び数値標高モデルの入力を受け付ける入力部と、
機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記対象地域の地形図及び数値標高モデルから表層崩壊危険箇所を示すマップを生成する処理部と
を有する表層崩壊危険箇所の抽出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表層崩壊危険箇所の抽出方法及び抽出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、技術者が地形図を判読して表層崩壊危険箇所を抽出し、土砂災害リスクの軽減を図っている。しかしながら、技術者が広範囲かつ網羅的にこのような判読を行うことは困難である。
【0003】
下記特許文献1には、土砂災害発生後に撮影された画像から、人工知能モデルを用いて土砂移動範囲を抽出する技術が記載されている。しかしながらこれは、災害発生前に表層崩壊危険箇所を抽出できるシステムではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】緊急対応を想定したAIによる土砂災害分析の適用性、リモートセンシング学会 学会誌 40巻(2020年)第3号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、災害発生前に表層崩壊危険箇所を精度よく自動的に抽出できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0007】
(項目1)
対象地域の地形図及び数値標高モデルの入力を受け付けるステップと、
機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記対象地域の地形図及び数値標高モデルから表層崩壊危険箇所を示すマップを生成するステップと
を有する表層崩壊危険箇所の抽出方法。
【0008】
(項目2)
前記学習済みモデルは、地形図及び数値標高モデルと、作業者により表層崩壊危険箇所に関連付けられた地形判読図とを教師データとして機械学習により生成されたものである
項目1に記載の表層崩壊危険箇所の抽出方法。
【0009】
(項目3)
前記表層崩壊危険箇所を示すマップは、表層崩壊危険箇所である確率が示された確率マップであり、
前記確率マップから、確率の閾値、あるいは、斜面傾斜角度の情報を用いて、表層崩壊危険度マップを生成するステップをさらに有する
項目1又は2に記載の表層崩壊危険箇所の抽出方法。
【0010】
(項目4)
項目1又は2に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【0011】
(項目5)
対象地域の地形図及び数値標高モデルの入力を受け付ける入力部と、
機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記対象地域の地形図及び数値標高モデルから表層崩壊危険箇所を示すマップを生成する処理部と
を有する表層崩壊危険箇所の抽出システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の技術によれば、災害発生前に表層崩壊危険箇所を精度よく自動的に抽出することが可能になる。抽出された表層崩壊危険箇所を広範囲かつ網羅的な災害予防に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態における、表層崩壊危険箇所の抽出システムを説明するための概略的なブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態において用いる学習済みモデルを生成する手順を説明するための説明図である。
【
図3】
図2の学習済みモデルを用いた表層崩壊危険箇所の抽出方法の手順を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る表層崩壊危険箇所の抽出システム(以下単に「抽出システム」又は「システム」ということがある)の一実施形態を、
図1を参照しながら説明する。
【0015】
(本実施形態の抽出システム)
本実施形態の抽出システムは、対象地域の地形図及び数値標高モデルの入力を受け付ける入力部1と、機械学習により生成された学習済みモデル3を用いて、対象地域の地形図及び数値標高モデルから表層崩壊危険箇所を示すマップを生成する処理部2と、このマップを出力する出力部4とを有している。
【0016】
処理部2は、コンピュータハードウエア、コンピュータソフトウエア又はそれらの組み合わせにより構成することができる。
【0017】
出力部4は、例えばディスプレイやプリンタであるが、データを保存、加工、転送する機能要素であってもよい。
【0018】
本例のシステムを構成する各機能要素は、ネットワーク上に分散して存在するものであってもよい。また、各機能要素が結合して一つの要素となっていてもよいし、一つの要素が複数の要素の結合により実現されていてもよい。
【0019】
この抽出システムの詳しい動作については、表層崩壊危険箇所の抽出方法として後述する。
【0020】
(学習済みモデルの生成)
次に
図2を参照して、表層崩壊危険箇所の抽出に用いる学習済みモデル3を生成する手順について説明する。
【0021】
学習においては、学習データとして、地形図及び数値標高モデル(DEM)、正解データとして、技術者により判読された表層崩壊危険箇所に係る下記(a)~(j)の地形的特徴が用いられる。ここで地形図とは、通常、電子地形図(制約されないが通常は25000分の1)である。数値標高モデル及び電子地形図としては様々な地域におけるものが用いられる。正解データは、電子地形図上に、表層危険箇所を示す適宜なアノテーションが施されているものとする。これら学習データ及び正解データが教師データとなる。この学習済みモデルは表層危険箇所である確率を示すマップ(後述)を出力するようになっている。
【0022】
(a) 0次谷
(b) 長大斜面
(c) 遷急線
(d) 遷緩線
(e) 水系
(f) 尾根
(g) 急崖
(h) 段丘
(i) 鞍部
(j) 堆積土溜まり
【0023】
ただしこれらすべての地形的特徴を用いる必要はなく、いくつかの特徴を省略することは可能である。また他の特徴を追加して用いることも可能である。
【0024】
これにより、本実施形態に用いる学習済みモデル3を生成することができる。学習済みモデルとしては例えば深層学習モデル(多層階のニューラルネットワークモデル)であるが、これには制約されず、他の機械学習モデルであってもよい。深層学習モデルとしては例えば畳み込みニューラルネットワークモデル(CNN)であるが、これ以外の利用可能なモデルを適宜用いることもできる。
【0025】
(本実施形態における表層崩壊危険箇所の抽出方法)
次に、本実施形態のシステムを用いて表層崩壊危険箇所を抽出する方法について、
図3を参照しながら説明する。
【0026】
(
図3のステップSA-1)
まず、対象地域(危険度抽出の対象となる地域)の地形図(通常は25000分の1の電子地形図)及び数値標高モデルの入力を入力部1が受け付ける。入力部1は受け付けた情報を処理部2に送る。
【0027】
(
図3のステップSA-2~SA-3)
処理部2の学習済みモデル3は、入力部1が受け付けた地形図及び数値標高モデルに基づいて、表層崩壊危険箇所の確率を示す確率マップを生成する。ここで確率マップは、具体例としては、地形図上の座標と確率とが紐づけられたものである。これにより、本実施形態では、学習済みモデル3を用いて、対象地域の地形図及び数値標高モデルから表層崩壊危険箇所を示すマップを生成できるようになっている。
【0028】
(
図3のステップSA-4)
その後、本実施形態の処理部2は、あらかじめ設定された確率の閾値を用いて、前記確率マップから表層崩壊危険箇所を抽出し、表層崩壊危険箇所が示されたマップを生成する。
【0029】
(
図3のステップSA-5)
さらに本実施形態の処理部2は、生成されたマップに基づいて、崩壊危険度が高い箇所を示すマップを生成する。この生成においては、表層崩壊危険箇所における傾斜角の情報を用いる。つまり閾値となる傾斜角を設定することで危険度の高い箇所を抽出する。閾値となる傾斜角は任意にあるいは経験的に設定可能である。傾斜角は地形図及び数値標高モデルから取得可能である。
【0030】
本実施形態では、崩壊危険度が高い箇所を示すマップを、表層崩壊危険箇所を示すマップとして出力部4に送る。出力部4は適宜な方法によりユーザにこのマップを提示する。ここで、前記したステップSA-4で生成したマップを、表層崩壊危険箇所を示すマップとして出力部4に送ることもできる。ここでユーザに提示されるマップとしては、表層崩壊危険箇所が濃淡や色彩で視認しやすいように表されていることが好ましい。
【0031】
本実施形態によれば、地形及び地質的特徴の異なる複数地域の地形図及び数値標高モデルで学習することにより、学習済みモデルの汎用性を高めることができる。よって、表層崩壊危険箇所の抽出精度を高めることができる。
【0032】
また本実施形態によれば、学習済みモデルを用いて広範囲での表層崩壊危険箇所を比較的短時間で把握することができる。すなわち、災害発生前に表層崩壊危険箇所を精度よく自動的に抽出することができる。したがって広範囲で網羅的な災害予防を行うことができる。
【0033】
なお、前記実施形態の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【符号の説明】
【0034】
1 入力部
2 処理部
3 学習済みモデル
4 出力部
【手続補正書】
【提出日】2023-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地域の地形図及び数値標高モデルの入力を受け付けるステップと、
機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記対象地域の地形図及び数値標高モデルから表層崩壊危険箇所を示すマップを生成するステップと
を有しており、
前記学習済みモデルは、地形図及び数値標高モデルと、作業者により表層崩壊危険箇所に関連付けられた地形判読図とを教師データとして機械学習により生成されたものであり、
前記表層崩壊危険箇所は、下記(a)~(j)の地形的特徴のうちの複数である
(a) 0次谷
(b) 長大斜面
(c) 遷急線
(d) 遷緩線
(e) 水系
(f) 尾根
(g) 急崖
(h) 段丘
(i) 鞍部
(j) 堆積土溜まり
表層崩壊危険箇所の抽出方法。
【請求項2】
前記表層崩壊危険箇所を示すマップは、表層崩壊危険箇所である確率が示された確率マップであり、
前記確率マップから、確率の閾値、あるいは、斜面傾斜角度の情報を用いて、表層崩壊危険度マップを生成するステップをさらに有する
請求項1に記載の表層崩壊危険箇所の抽出方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項4】
対象地域の地形図及び数値標高モデルの入力を受け付ける入力部と、
機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記対象地域の地形図及び数値標高モデルから表層崩壊危険箇所を示すマップを生成する処理部と
を有しており
前記学習済みモデルは、地形図及び数値標高モデルと、作業者により表層崩壊危険箇所に関連付けられた地形判読図とを教師データとして機械学習により生成されたものであり、
表層崩壊危険箇所は、下記(a)~(j)の地形的特徴のうちの複数である
(a) 0次谷
(b) 長大斜面
(c) 遷急線
(d) 遷緩線
(e) 水系
(f) 尾根
(g) 急崖
(h) 段丘
(i) 鞍部
(j) 堆積土溜まり
表層崩壊危険箇所の抽出システム。