(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058704
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】水砕スラグ製造設備の管理方法及び水砕スラグ製造設備の管理設備
(51)【国際特許分類】
C21B 3/08 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
C21B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165957
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 優希
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 諒
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012AB02
4K012AB03
4K012AB04
4K012AB07
4K012AB08
(57)【要約】
【課題】水砕スラグ製造設備においてスラリーを一時保管する撹拌槽での水蒸気爆発の発生を抑制できるようにすること。
【解決手段】溶融スラグに冷却水を噴射することで溶融スラグを水砕スラグにすることが可能な水砕スラグ化装置と、水砕スラグを含むスラリーを一時保管することが可能な撹拌槽と、撹拌槽で保管されていたスラリーを固液分離することが可能な固液分離装置と、を備える水砕スラグ製造設備において、スラリーより高温の溶融スラグ若しくは水砕スラグが投入される撹拌槽のスラリーの液温を温度センサで測定し、熱バランスを管理する水砕スラグ製造設備の管理方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融スラグに冷却水を噴射することで溶融スラグを水砕スラグにすることが可能な水砕スラグ化装置と、水砕スラグを含むスラリーを一時保管することが可能な撹拌槽と、撹拌槽で保管されていたスラリーを固液分離することが可能な固液分離装置と、を備える水砕スラグ製造設備において、
スラリーより高温の溶融スラグ若しくは水砕スラグが投入される撹拌槽のスラリーの液温を温度センサで測定し、熱バランスを管理する水砕スラグ製造設備の管理方法。
【請求項2】
溶融スラグと冷却水の熱バランスを管理する請求項1に記載の水砕スラグ製造設備の管理方法。
【請求項3】
スラリーの液温の異常な上昇がみられた場合に、溶融スラグの単位重量当たりの冷却水の噴射量を増加させる請求項1又は2に記載の水砕スラグ製造設備の管理方法。
【請求項4】
スラリーの液温の異常な上昇がみられた場合に、溶融スラグの排出量と想定されている値と、冷却水の量の比である管理水比値を変更する請求項3に記載の水砕スラグ製造設備の管理方法。
【請求項5】
溶融スラグに冷却水を噴射することで溶融スラグを水砕スラグにすることが可能な水砕スラグ化装置と、水砕スラグを含むスラリーを一時保管することが可能な撹拌槽と、撹拌槽で保管されていたスラリーを固液分離することが可能な固液分離装置と、撹拌槽の液温を測定可能な温度センサと、温度センサで得られた結果が閾値を超えているか否かを判定可能な判定手段を有する管理制御手段と、
を備えた水砕スラグ製造設備の管理設備。
【請求項6】
管理制御手段に、利用者に注意を促す注意喚起手段を備えた請求項5に記載の水砕スラグ製造設備の管理設備。
【請求項7】
管理制御手段に、溶融スラグの排出量と想定されている値と、冷却水の量の比である管理水比値を変更可能な水比変更手段を備えた請求項5又は6に記載の水砕スラグ製造設備の管理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水砕スラグ製造設備の管理方法及び水砕スラグ製造設備の管理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉工程で生成及び抽出された溶融スラグは、冷却及び粉砕処理により粉体化されることでスラグ製品となる。このスラグ製品の性質は溶融スラグの冷却方法により変化する。そのため水砕処理と徐冷処理の2種類から得られるスラグ製品は異なった性質を持つ。水砕処理とは、溶融スラグを水で急冷することで、水砕スラグを得る処理方法である。この水砕処理を行うことができる設備を水砕スラグ製造設備という。また徐冷処理は、溶融スラグを冷却ヤードにて自然放冷する処理方法である。この処理からは、徐冷スラグが得られる。水砕スラグは急冷によりガラス化率が高く潜在水硬性を有するために徐冷スラグに比べ単価が高く需要もある。その為、溶融スラグ処理方法においては、通常、水砕処理が優先的に実施される。
【0003】
しかし水砕スラグ製造設備のトラブルにより水砕処理が困難となる場合がある。トラブルの発生時に、徐冷処理への柔軟な切り替えを行うことができるとは限らず、水砕スラグ製造設備においてトラブルが発生した場合は、溶融スラグ処理が滞り、高炉の安定操業に影響を与える。したがって、水砕スラグ製造設備におけるトラブル抑制が必要であった。特に水砕スラグ製造設備では水蒸気爆発が発生することを回避できるようにするのが大事である。
【0004】
ところで、特許文献1に記載されていることから理解されるように、溶融スラグの重量と冷却水の重量の比である水比を管理するようなことはなされている。そこで、従来は、水比の値を水蒸気爆発の兆候を把握する指標として活用していた。
【0005】
水蒸気爆発は主に、水砕処理時に熱バランスが崩れ、投入熱量が過大となることで発生する。この熱バランスは、水砕処理時の冷却能力と溶融スラグ熱量によって変化する。水砕処理時の冷却能力は、水砕スラグ処理に使用される冷却水流量によって変化するが、水比を利用する場合、溶融スラグの重量に定数を掛けあわせた冷却水の量にするということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
しかしながら、このように管理しても水砕スラグを一時保管する撹拌槽で水蒸気爆発が生じる場合があった。そこで、発明者らは、水比は、「その実際値を正確に把握できない」という点と「水比には熱バランス(input条件の溶融スラグ熱量)が考慮されていない」という点から、管理指標として不十分なのではないかと考えた。
【0008】
水比が「その実際値を正確に把握できない」のは、溶融スラグが、センサ類による正確な重量計測ができないほど高温の溶融物だからである。このため従来は、水比に適用する溶融スラグの重量は、溶融スラグを水砕スラグにした後に重量を計測し、その値をフィードバックさせることにより大まかに推定していた。
【0009】
「水比には熱バランス(input条件の溶融スラグ熱量)が考慮されていない」という点については、熱バランスを把握するために、冷却能力の指標となる水比に加えて、溶融スラグ熱量を考慮することが考えられる。しかしながら、溶融スラグ熱量は手測定で計測される溶銑温度を用いた計算によって把握されている。このため、水蒸気爆発の兆候をオンラインで正確に把握する技術としては、確立されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような背景でなされた発明であり、本発明が解決しようとする課題は、水砕スラグ製造設備においてスラリーを一時保管する撹拌槽での水蒸気爆発の発生を抑制できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、溶融スラグに冷却水を噴射することで溶融スラグを水砕スラグにすることが可能な水砕スラグ化装置と、水砕スラグを含むスラリーを一時保管することが可能な撹拌槽と、撹拌槽で保管されていたスラリーを固液分離することが可能な固液分離装置と、を備える水砕スラグ製造設備において、スラリーより高温の溶融スラグ若しくは水砕スラグが投入される撹拌槽のスラリーの液温を温度センサで測定し、熱バランスを管理する水砕スラグ製造設備の管理方法とする。
【0012】
また、溶融スラグと冷却水の熱バランスを管理することが好ましい。
【0013】
また、スラリーの液温の異常な上昇がみられた場合に、溶融スラグの単位重量当たりの冷却水の噴射量を増加させることが好ましい。
【0014】
また、スラリーの液温の異常な上昇がみられた場合に、溶融スラグの排出量と想定されている値と、冷却水の量の比である管理水比値を変更することが好ましい。
【0015】
また、溶融スラグに冷却水を噴射することで溶融スラグを水砕スラグにすることが可能な水砕スラグ化装置と、水砕スラグを含むスラリーを一時保管することが可能な撹拌槽と、撹拌槽で保管されていたスラリーを固液分離することが可能な固液分離装置と、撹拌槽の液温を測定可能な温度センサと、温度センサで得られた結果が閾値を超えているか否かを判定することが可能な判定手段を有する管理制御手段と、を備えた水砕スラグ製造設備の管理設備とすることが好ましい。
【0016】
また、管理制御手段に、利用者に注意を促す注意喚起手段を備えた構成とすることが好ましい。
【0017】
また、管理制御手段に、溶融スラグの排出量と想定されている値と、冷却水の量の比である管理水比値を変更可能な水比変更手段を備えた構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明を用いると、水砕スラグ製造設備においてスラリーを一時保管する撹拌槽での水蒸気爆発の発生を抑制できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】水砕スラグ製造設備の構成の例を示す図である。
【
図2】水比と撹拌槽の水温の関係を示す実験データである。
【
図3】水比が一定の場合の溶融スラグ温度と撹拌槽の水温の関係を示す実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に発明を実施するための形態を示す。本実施形態の水砕スラグ製造設備1の管理方法では、溶融スラグに冷却水を噴射することで溶融スラグを水砕スラグにすることが可能な水砕スラグ化装置11と、水砕スラグを含むスラリーを一時保管することが可能な撹拌槽12と、撹拌槽12で保管されていたスラリーを固液分離することが可能な固液分離装置13と、を備える水砕スラグ製造設備1において、スラリーより高温の溶融スラグ若しくは水砕スラグが投入される撹拌槽12のスラリーの液温を温度センサで測定し、熱バランスを管理する。このため、水砕スラグ製造設備1において水蒸気爆発の発生を抑制することが可能となる。なお、溶融スラグの量は直接測定し難いが、撹拌槽12の液温なら、0から100度までを測定できる温度センサで測定が可能であるため、容易に測定をすることができる。
【0021】
ここで、水砕スラグ製造設備1の例について説明をする。
図1に示されていることから理解されるように、実施形態の水砕スラグ製造設備1は、高炉から排出される溶融スラグを水砕スラグとなるように処理するものである。
【0022】
図1に示す例では、水砕スラグを含むスラリーを撹拌槽12で一時保管しているが、撹拌槽12では、内部で撹拌しつつ、スラリーの気液分離を行う。これにより、撹拌槽12から圧送する際に用いられる水砕ポンプ14で空気が噛み込むことを抑制できる。
【0023】
この例では、溶融スラグに冷却水を噴射することで溶融スラグを水砕スラグにすることが可能な水砕スラグ化装置11により、撹拌槽12の内部に加圧された冷却水を噴射するようにしている。撹拌槽12の内部に投入された溶融スラグが撹拌槽12にためられたスラリーの液面より上方で冷却水に接することにより、多くの溶融スラグは急冷化され水砕スラグへと変質し、ガラス化率が高く潜在水硬性を有するようになる。
【0024】
なお、水砕スラグ化装置11による溶融スラグの冷却は、必ずしも撹拌槽12で行われなくても良く、撹拌槽12より上流側で行っても良い。
【0025】
特定のタイミングで撹拌槽12の下部から引き抜かれるスラリーは水砕ポンプ14により固液分離装置13に送られる。実施形態における固液分離装置13は、インバフィルタであるが、他のフィルタにするなど、スラリーの固液分離ができる装置であればよい。
【0026】
固液分離装置13でスラリーから固体として取り除かれた水砕スラグは、コンベヤなどを用いて製品槽15と呼ばれる容器に搬送され、貯留される。
【0027】
固液分離装置13でスラリーから水砕スラグが取り除かれた液体は、冷却塔などを用いて温度が下げられた後、給水ポンプ16などを用いて撹拌槽12に戻され、冷却水として再び利用される。
【0028】
このような水砕スラグ製造設備1において、撹拌槽12の内部で貯留されているスラリーの温度は、溶融スラグの持つ熱と冷却水の持つ熱による影響が大きい。例えば、溶融スラグの持つ熱量が大きいと、冷却水で十分に温度を低下することができず、徐々にスラリーの温度が高くなってくることが考えられる。このような状況が継続すれば、水砕スラグ製造設備1の運転に支障が出る。また、スラリーの温度が高くなるということは、高温の水砕スラグ若しくは溶融スラグがスラリーの液面に到達する可能性が高まるということもいえるため、水蒸気爆発の発生の可能性が高まっているともいえる。
【0029】
つまり、水砕スラグ製造設備1の撹拌槽12の周りでの不具合を抑制するには、熱バランスを管理するのが有効である。熱バランスを管理し、適切な運転となるように適宜修正を行えば、水砕スラグ製造設備1に生じる不具合を抑制することができる。特に溶融スラグと冷却水の熱バランスと捉えて管理することで、溶融スラグが持ち込む熱量が多い場合には、冷却水の量を多くし、溶融スラグが持ち込む熱量が少ない場合には、冷却水の量を低減させるようにするのが好ましい。このようにすれば、運転管理上のコストを抑制しつつ、不具合の発生も抑制することができる。
【0030】
このようにするためにも、スラリーの液温の異常な上昇がみられた場合に、溶融スラグの単位重量当たりの冷却水の噴射量を増加させるようにするのが好ましい。また、溶融スラグの排出量と想定されている値と、冷却水の量の比である管理水比値を設定して冷却水の量を自動制御するのであれば、スラリーの液温の異常な上昇がみられた場合に、管理水比値を変更して、溶融スラグの単位重量当たりの冷却水の噴射量を増加させるようにするのが好ましい。
【0031】
ところで、このような管理を適切に行うためにも管理設備を適切に構築することが好ましい。この際、溶融スラグに冷却水を噴射することで溶融スラグを水砕スラグにすることが可能な水砕スラグ化装置11と、水砕スラグを含むスラリーを一時保管することが可能な撹拌槽12と、撹拌槽12で保管されていたスラリーを固液分離することが可能な固液分離装置13と、撹拌槽12の液温を測定可能な温度センサと、温度センサで得られた結果が閾値を超えているか否かを判定することが可能な判定手段を有する管理制御手段と、を備えた水砕スラグ製造設備1の管理設備とするのが好ましい。このようにすれば、管理制御手段の判定手段により温度センサで得られた結果が閾値を超えているか否かの判定ができるため、水砕スラグ製造設備1の適切な運転がしやすくなる。
【0032】
また、判定手段の判定結果に問題がある場合、利用者が迅速に把握できるようにするのが好ましい。このため、管理制御手段に、利用者に注意を促す注意喚起手段を備えるようにするのが好ましい。注意喚起手段は、利用者に注意を促すことができるのならば、どのようなものであっても良いが、例えば、警告音を鳴らすような手段であっても良いし、危険性があることが理解できるメッセージなどを画面表示するような手段であっても良い。
【0033】
また、管理制御手段に、管理水比値を変更可能な水比変更手段を備えるようにすれば、この水比変更手段を操作することで管理水比値を変更することができる。このように管理制御手段に判定手段も、水比変更手段も備えるようにすれば、管理設備を用いた水砕スラグ製造設備1の管理がしやすくなる。
【0034】
ここで、水比と撹拌槽12の水温の関係についての実験データについて説明をする。この実験では、溶融スラグ温度が1500度以上で10度程度の温度差となるようにした場合に設定した水比(冷却水の重さを溶融スラグの重さで割ったもの)と、撹拌槽12の水温に関するデータを取得した。その結果は
図2に示すとおりである。このように溶融スラグ温度がほぼ一定であれば、水比と撹拌槽12の水温には負の相関関係があることが分かる。ここから、水比を指標とするのに変えて撹拌槽12の水温を指標とすることが可能であることが分かる。
【0035】
次に、溶融スラグの温度と撹拌槽12の水温の関係についての実験データについて説明をする。この実験では、水比を一定とした場合の溶融スラグ温度と、撹拌槽12の水温に関するデータを取得した。その結果は
図3に示すとおりである。このように水比が一定の場合に、撹拌槽12の水温は溶融スラグ温度に影響されることが分かる。ここから、水比を変化しない場合に、撹拌槽12の水温から溶融スラグ熱量の変化を把握し、熱バランスの変化を捉えることができると考えられる。
【0036】
以上、実施形態を中心として本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 水砕スラグ製造設備
11 水砕スラグ化装置
12 撹拌槽
13 固液分離装置
14 水砕ポンプ
15 製品槽
16 給水ポンプ