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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058721
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】レーザ照射装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/067 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
A61N5/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165985
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】522405613
【氏名又は名称】村上 正志
(71)【出願人】
【識別番号】510303291
【氏名又は名称】飛鳥メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】村上 正志
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠司
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082RA01
4C082RC09
4C082RE17
4C082RE34
4C082RE35
4C082RL03
4C082RL30
(57)【要約】
【課題】
レーザ光を用いた生体などに対する改質に関し、治療者の技能の習熟度に依らず、レーザ光を適切に照射することができるレーザ照射装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
レーザ光を出力する光源と、前記光源と接続され前記レーザ光を対象物に照射する照射部と、前記照射部の位置を移動させる移動手段と、前記レーザ光が照射されているときに前記照射部が移動可能に前記移動手段を制御する制御部を備えることを特徴とするレーザ照射装置により解決することができた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力する光源と、前記光源と接続され前記レーザ光を対象物に照射する照射部と、前記照射部の位置を移動させる移動手段と、前記レーザ光が照射されているときに前記照射部が移動可能に前記移動手段を制御する制御部を備えることを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項2】
レーザ光を出力する光源と、前記レーザ光を反射する反射部と、前記光源と接続され前記レーザ光を前記反射部を介して対象物に照射する照射部と、前記レーザ光が照射されているときに前記反射部が移動可能に前記反射部を制御する制御部を備えることを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項3】
前記光源は、複峰性の光分布を有するレーザ光を出射することを特徴とする請請求項1又は請求項2に記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
前記光源は、連続波のレーザ光を出射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記レーザ光の発振波長は700~1000nmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
前記レーザ光の光出力は1~30Wであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
前記光源は半導体レーザであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ照射装置。
【請求項8】
前記照射部の移動速度は毎秒2~3cmであることを特徴とする請求項1に記載のレーザ照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光が有する干渉作用を用い、レーザの被照射物の性質、特性を変化させる装置に関するものである。ここでレーザの被照射物としては、工業製品/部品、食品、動物、人間などを対象とし、性質、特性とは、硬さ、導電率などの材料物性、味、匂いなどの感覚特性、疾患、疾病などの生体特性を示す。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光は、工業分野では板金類の溶接、切断、改質のために用いられ、食品分野では植物生育促進のために用いられ、医療分野では細胞切除など、様々な分野で物質の性質、特性を変化させるために用いられている。例えば、医療分野においては、レーザ光を用いた医療が活発に行われている。炭酸ガスレーザ(波長10.6μm)やYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ(波長1.06μm)を用いたレーザメスは生体を精密に切開し止血もでき、術中の出血や術後の腫れや痛みも少ないことから、手術等で多用されている。これはレーザ光が有する高い集光性を活かしたものである。一方、レーザ光の特徴として、光波の位相が揃っていることによる光干渉作用がある。同じ波長のレーザ光が異なる位相である位置に到達すると、それらレーザ光の各電界(または磁界)強度が共に最大となる位相関係では強め合い、またその各強度が共に最小となる位相関係では弱めあう。この光の強弱が光干渉である。
【0003】
特許文献1には、レーザ光源を用いた上述したような光干渉を利用して医療分野にて応用している発明が記載されている。本文献は血管内の血液を観察する装置であり、レーザ光源からのレーザ光は血管内視鏡を通じて、血管内を照射している。血管壁や血液で反射されたレーザ光は、再び血管内視鏡を通じて撮像素子で像を結ぶ。この際、その反射光の光路長が異なる(すなわち位相が異なる)ため撮像素子表面で干渉が起こり、像の濃淡が発生する。この濃淡を解析することで血管内を観察する装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2においては、一つのレーザ光源からの出力光を分岐して患部に均一にレーザ―光を照射する温熱治療機器が示されている。同一レーザ光源からの照射のため被照射部では干渉が生じていると考えられるが、干渉作用については明示されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-98016号公報
【特許文献2】特開昭63-216579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のレーザ光を用いた医療用の装置では、レーザ光の光干渉性を用いているものの観察装置に過ぎず、とりわけ、生体内にて光干渉状態を用いた改質させるものではなく、また、特許文献2に記載のレーザ光照射装置では、生体に対してレーザ光照射による温熱による治療を行うことができるものの、レーザ光の照射位置や照射時間などについて治療者の技能により左右され、生体に対する改質の効果に差が生じ得るという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、レーザ光を用いた生体などに対する改質に関し、治療者の技能の習熟度に依らず、レーザ光を適切に照射することができるレーザ照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕すなわち、本発明は、レーザ光を出力する光源と、前記光源と接続され前記レーザ光を対象物に照射する照射部と、前記照射部の位置を移動させる移動手段と、前記レーザ光が照射されているときに前記照射部が移動可能に前記移動手段を制御する制御部を備えることを特徴とするレーザ照射装置である。
【0009】
〔2〕そして、レーザ光を出力する光源と、前記レーザ光を反射する反射部と、前記光源と接続され前記レーザ光を前記反射部を介して対象物に照射する照射部と、前記レーザ光が照射されているときに前記反射部が移動可能に前記反射部を制御する制御部を備えることを特徴とするレーザ照射装置である。
【0010】
〔3〕そして、前記光源は、複峰性の光分布を有するレーザ光を出射することを特徴とする前記〔1〕又は前記〔2〕に記載のレーザ照射装置である。
【0011】
〔4〕そして、前記光源は、連続波のレーザ光を出射することを特徴とする前記〔1〕又は前記〔2〕に記載のレーザ照射装置である。
【0012】
〔5〕そして、前記レーザ光の発振波長は700~1000nmであることを特徴とする前記〔1〕又は前記〔2〕に記載のレーザ照射装置である。
【0013】
〔6〕そして、前記レーザ光の光出力は1~30Wであることを特徴とする前記〔1〕又は前記〔2〕に記載のレーザ照射装置ある。
【0014】
〔7〕そして、前記光源は半導体レーザであることを特徴とする前記〔1〕又は前記〔2〕に記載のレーザ照射装置である。
【0015】
〔8〕そして、前記照射部の移動速度は毎秒2~3cmであることを特徴とする前記〔1〕に記載のレーザ照射装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のレーザ照射装置によれば、レーザ光を用いた生体などに対する改質に関し、治療者の技能の習熟度に依らず、レーザ光を適切に照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一実施形態のレーザ照射装置を示す概略図である。
図2】本発明の第一実施形態のレーザ照射装置の光源及び半導体レーザを示す概略図である。
図3】本発明の第一実施形態のレーザ照射装置の光源及び半導体レーザのバリエーション示す概略図である。
図4】本発明の第一実施形態のレーザ照射装置の照射部の内部構造を示す概略図である。
図5】本発明の第一実施形態のレーザ照射装置を用いたときの対象物内部の光干渉を示す概略図である。
図6】本発明の第一実施形態のレーザ照射装置を用いたときの対象物内部の光干渉により生じる温度変調領域の分布を示す概略図である。
図7】本発明の第二実施形態のレーザ照射装置を示す概略図である。
図8】本発明の第三実施形態のレーザ照射装置を示す概略図である。
図9】本発明の第四実施形態のレーザ照射装置を示す概略図である。
図10】本発明の第五実施形態のレーザ照射装置の光源及び照射部を示す概略図である。
図11】本発明の第六実施形態のレーザ照射装置の照射部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るレーザ照射装置に関する実施形態について詳しく説明する。また、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するに好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨が明記されていない限り、この形態に限定されるものではない。なお、説明中における範囲を示す表記「~」のある場合は、上限と下限を含有するものである。
【0019】
〔第一実施形態〕
図1に示すように、本発明のレーザ照射装置は、光源101と、光源101からのレーザ光を通す導光部である光ファイバー102と、光ファイバー102からのレーザ光を受けて外部に発出する照射部103と、照射部103の移動手段である移動台104及びレール106などを備えており、移動台104及びレール106を有する移動手段の動作を制御する、図示しない制御部も備えている。光源101が、光ファイバー102によって照射部103に間接的に接続されていることで、光源101にて出力されたレーザ光が光ファイバー102を通じて照射部103から発出される。そして、照射部103は、基台105の上に取り付けられたレール106に沿って移動可能な移動台104に取り付けられている。移動台104は、外部電力などの動力源によりレール106と歯車で噛合するなどしてレール106に対して相対的に移動することが可能である。図示しない制御部は、光源101におけるレーザの出力から算出され又は予め指定された移動台104の移動速度などの各種条件に基づいて、移動台104を移動させる。そして、基台105上には対象物150が位置している。照射部103から出力されたレーザ光110により、対象物150の表面にレーザスポット120が形成される。照射部103から出力されたレーザ光110は対象物150の内部に入り込み、後述する光干渉を起こす。
【0020】
また、光ファイバー102やレール106は十分な長さがあるため、移動台104がレール106に対して矢印107の方向へ移動すると、照射部103からレーザ光110を照射しながらレーザスポット120が矢印108の方向に容易に移動することができる。また、図示しない電気配線類も移動を阻害しないよう束ねられている。
【0021】
以下では各要素について詳しく述べる。なお、各図面にXYZなどの軸を記載しているが、図面説明のためであり、各図面間において必ずしも同一方向ではない(例えば図1図2のXYZ方向は同一とは限らない)。
【0022】
まず、レーザの光源101について述べる。図2(a)において示すように、レーザの光源101の内部には、単一の半導体レーザ素子200が存在している。この半導体レーザ素子200の光出力は1~30Wであることが好ましく、15~25Wであることがさらに好ましい。光出力がこの範囲であると、生体に損傷が生じることを抑制することができる。そして、半導体レーザ素子200の発振波長は、700~1000nmであることが好ましく、750~900nmであることが好ましい。発振波長がこの範囲であると、生体でのレーザの吸収が小さく、生体内部で干渉を起こしやすく改質の効果を高めることができる。本実施形態において、半導体レーザ素子200の光出力は20Wであり、発振波長は810nmである。半導体レーザ素子200からのレーザ光200Aは、コリメートレンズ101Aおよび集光レンズ101Bにより光ファイバー102に導かれる。
【0023】
半導体レーザ200の断面構造を図2(b)に示す。波長810nm帯で発振する半導体レーザの材料はガリウム砒素系半導体である。この半導体はGaAsだけでなくAlAsとの混晶であるAlγGa1-γAsを含む(γはAl組成比)。一般に図2(b)に示すように、n型GaAs基板201上に、n型AlαGa1-αAsクラッド層202、AlβGa1-βAs活性層203、p型AlαGa1-αAsクラッド層204がY軸方向に積層され(Al組成β<Al組成α)、所謂、ダブルヘテロ構造になっている。また、電流を導通させるためのp型電極205、n型電極206が形成されている。レーザ発振を起こすためには、電流、および、光を狭い空間に閉じ込める必要があり、p型AlαGa1-αAsクラッド層204の表面上に凸状のリッジ207が形成されている。p型電極205はこのリッジ207上に形成されるため、表面の電流はこのリッジ207内部に狭窄され高電流密度になる。高電流密度は活性層203に電子/正孔の反転分布を生じさせ、リッジ207直下の活性層203は光利得を有する。一方、このリッジ207は周囲(表面凸になっていない領域)に比べ屈折率が高い。光は屈折率が高い部分に集まるので、このリッジ207内部に光も集まる。この結果、リッジ207直下に光が閉じ込められ、その光がZ方向に伝搬するとき、活性層203からの光利得により指数関数的に強度を増す。素子の表端面208および後端面209は、例えば半導体結晶の劈開などによる鏡面化がなされている。Z方向に伝搬する光は表端面208および後端面209で反射され往復し、定在波となり共振する。以上の高強度と共振が相まって、リッジ207直下の光は位相が揃ったレーザ光となる。このレーザ光の一部が素子外部に取り出され、出力されたレーザ光200Aとなる。
【0024】
ところで、リッジ207内の光はZ軸方向に定在波を有するだけでなく、X軸方向にも定在波を発生させる。図3を用いて、このことを説明する。例えば、光ディスクに使うレーザ(5~100mW級)ではリッジ幅208は数μmである(図3(a))。この場合、X軸方向定在波は基本横モードしか許容されず、X軸方向の光分布が単峰性でリッジ207直下をZ方向に導波する(図3(b))。XY平面で見れば、照射スポット120は単一(図3(c))になる。
【0025】
一方、半導体レーザ素子は、高出力化に伴う出射面光密度上昇により出射部が破壊することが知られている(端面破壊現象)。またレーザ素子に投入された電力の一部はジュール熱などによる無効電力になりリッジ207を発熱させ発光効率を低下させる(高出力状態=高注入電流状態で顕著)。これらの観点から、高出力なワット級レーザでは、図3(d)に示すように、リッジ幅208を広げ(数十μm)、光密度と熱密度を下げる手段が用いられる。このようにリッジ207が広い構造では、X軸方向に高次の横モード定在波が許容される。このため、X軸方向の光分布が複峰性でリッジ207直下をZ方向に導波する(図3(e))。XY平面で描けば、図3(f)のように複数スポットになる(図3(e)(f)では簡単のため1次モードを描いているが、2次,3次などの高次モードも存在する)。
【0026】
本実施形態において、出力1~30Wの高出力の半導体レーザ素子を用いており、X軸方向の光分布が複峰性を有していることから、レーザの光源101からは複数スポットのレーザ光が光ファイバー102に入射し、光ファイバー102から出力されたレーザ光110も複数のレーザスポット120となる。また、本実施形態において、CW駆動を用いたが、パルス動作を行っても構わない。パルス駆動レーザ光源と照射部の移動を組み合わせることで干渉が存在しない箇所が発生するものの、後述する温度変調領域の移動方向に対する均一化を抑えることができる。
【0027】
次に、光ファイバー102およびレーザ光の照射部103について、図4で説明する。光ファイバー102は、光源101からのレーザ光を透過させる特性を有し、石英やプラスチックなどで作製される。本実施形態では高次横モード(複峰性光分布)を有するレーザ光を用いるので、マルチモードファイバを用いる(後述の実施形態によってはシングルモードファイバーでも可)。光ファイバー102の先端部はレーザ光の照射部103の内部に取り込まれ、レーザ光103Cを放出する。そのレーザ光103Cはコリメートレンズ103Aで平行化され、集光レンズ103Bで集光される。その集光されたレーザ光110は対象物150の表面にレーザスポット120を形成する。
【0028】
対象物150は、レーザ光110を透過する物体であり、例えば、生体における外皮などが好ましい。ここでの「透過」とは透過率100%を意味するのではなく、後述する光干渉が対象物150の内部で発生する限り、透過中での光減衰も許容する。波長がおおよそ700nm~1000nmである電磁波は、「生体の窓」と呼ばれ、ヘモグロビンや水分の吸収が少ない。そこで、対象物150が生体である場合、レーザ光の波長をこの範囲にすれば、レーザ光は生体内部によく入り、生体内部で後述する光干渉を強く起こすことが可能である。
【0029】
<対象物150内部の光干渉>
図5は対象物150の断面ならびにレーザ光の状態(横軸を位置、縦軸を強度とした光分布)を示す。レーザスポット120は、図5(a)では単峰性の場合、図5(b)では複峰性の場合である。対象物150は生体の場合、皮膚300と皮下組織301で構成される。皮膚300の表面は微小な凹凸を有する。図5(a)に示すように、単峰性のレーザスポット120の場合、皮膚300で散乱されたレーザ光302は皮下組織301を広がりながら伝搬する(303)。したがって、図5(b)に示すように、皮下組織301における光強度は緩やかな強度分布があるだけである。一方、複峰性のレーザスポット120の場合、図5(c)に示すように、皮膚300で散乱されたレーザ光302は皮下組織301を広がりながら伝搬するが、もともと複峰性で広がっているため、散乱光がオーバーラップしやすい(305、特に点線部分)。上述したようにレーザ光は位相が揃っているため、オーバーラップしている各場所において同位相なら強度を強めあい、逆位相なら強度を弱めあう光干渉が生じる。すなわち、図5(d)に示すように、皮下組織301において多数の光強弱が発生する。
【0030】
また、光干渉からの変換であるが、任意の物質は程度の差があれ光を吸収する。ミクロに見れば、対象物150を構成する原子や分子などに光は吸収され、そのエネルギーは熱に変換され、温度を上昇させる。したがって、光干渉によって、対象物150の内部に発生した多数の光強弱において、強領域は温度が高くなる。したがって、図6(a)に示すように対象物の内部に、最高温度Tmax、最低温度Tminなる多数の温度変調領域が発生する。なお、レーザ光は光子エネルギーを有し、この光子エネルギーによって、生体を構成する細胞、あるいは、生体に投与された薬液などが反応し、改質(例えば分子間結合の切断など)する場合もある。ここでは、上記において、光干渉が熱に変換された場合で説明する。レーザ光の照射部103が移動すると位相揺らぎが生じ、図6(b)に示すように、この位相揺らぎは光干渉の変動を引き起こし、干渉位置(強弱の位置)を変化させる。このため、一定の場所にレーザスポット120を照射し続けた場合には、図6(b)における実線と破線が平均化されたようになり、図6(c)に示すように温度変調領域の強弱が弱まってしまう。これを避けるためには、位相揺るぎが起こる前にレーザスポット120を移動させることが有効である。すなわち、図6(b)における実線と破線が同時に起こらないようにすることが有効である。そこでレーザ照射中に照射部103を移動させることが有効であり、本実施形態において、照射部103を移動させる移動手段として移動台104やレール106が設けられている。
【0031】
制御部は、上述したように、光源101におけるレーザの出力から算出され又は予め指定された移動台104の移動速度などの各種条件に基づいて、移動台104を移動させる制御を行う部材である。制御部により、移動台104の移動速度などの各種条件を予め設定し、プログラミングにより実行されるので、治療者の技能の習熟度に依らず、レーザ光を適切に照射することができ、温度変調領域(光干渉領域)を移動させることができるため、抗腫瘍、消炎、鎮痛などの医療上の所望の効果を奏することができる。制御部は移動台104やレール106の移動手段に組み込まれていてもよいし、移動手段とは別体に設けられていてもよい。また、制御部は、光源101や照射部103におけるレーザ光の発出や消失を電圧の調整やシャッターの開閉などにて行ってレーザ光をパルス波として対象物105に照射するように制御し、移動手段の移動速度も制御することで、図6(b)に示すような位相揺らぎによる光干渉の変動を生じさせず、図6(a)に示すような多数の高温点を有する温度変調領域をより効率的に発生させることができる。対象物150である生体内で、図6(a)に示すような温度変調を生じさせると、多数の高温点は多数の刺激を細胞に与え、抗腫瘍、消炎、鎮痛などの医療上の所望の効果を奏することができる。なお、本実施形態において、照射部103の移動速度は、制御部により毎秒2~3cmで制御されることが好ましい。移動速度が毎秒1cm未満の場合は生体内のメラニン色素やたんぱく質への蓄熱により熱傷を起こすリスクが高まる。毎秒3cmより大きい場合は、生体との相互作用が不十分となり、この場合は医療的作用が小さくなる。
【0032】
〔第二実施形態〕
第二実施形態では、レーザスポットの移動が、第一実施形態とは異なる。図1に示すように、第一実施形態ではレーザスポット120は矢印108に示す方向にしか動かない。それに対して、図7に示すように、第二実施形態では、基台105に固定されたレール106Aおよび106Bに沿って動く第一の移動台104A、第二の移動台104Bの間に架設レール310が取り付けてあり、第三の移動台311は架設レール310に沿って動くことが可能である。第三の移動台311にレーザ光の照射部103が取り付けてある。なお、図7には示されていないが、照射部103は、光ファイバーを介してレーザを出力する光源に接続されており、レーザ光110を照射することができる。第一から第三の各移動台104A・104B・311にはサーボモータが内蔵されており、それらと接続された外部の制御部からプログラミングによって、レーザ光110を二次元的に動かすよう制御することができる。たとえば、対象物150の表面に「8の字」のような軌跡312でレーザスポットを動かすことができる。このような二次元的な動きにより、例えば医療応用では、患部周囲をなでるように、温度変調領域(光干渉領域)を移動させることができ、多数の高温点は多数の刺激を細胞に与え、抗腫瘍、消炎、鎮痛などの医療上の所望の効果を奏することができる。
【0033】
〔第三実施形態〕
第三実施形態では、図8に示すように、移動手段として多関節のロボットアーム32を用いた形態である。ロボットアーム32は、回転軸321・322・324・326および上腕325、下腕323、先端部327などから構成され、基台105に固定されて、所定範囲の角度θ1~θ4にて回動することが可能である。各回転軸にはサーボモータが内蔵され、それらと接続された外部の制御部からプログラミングによって、ロボットアーム32の動作が制御される。図8には示されていないが、照射部103は、光ファイバーを介してレーザを出力する光源に接続されており、レーザ光110を照射することができる。例えば、対象物329が図8に示すような立体的な形をしていても、ロボットアーム32の動作を制御部で制御することにより、ロボットアーム32の先端部327に固設された照射部103を所望の位置に配置して、レーザ光110を適切な箇所に照射し、温度変調領域(光干渉領域)を必要な面に形成することが可能である。
【0034】
〔第四実施形態〕
第四実施形態では、図9に示すように、遠隔照射を用いた形態である。レーザ光の照射部103から出射したレーザ光311が反射部340で反射し、レーザ光322となって対象物333に照射される。図9には示していないが、照射部103は、光ファイバーを介してレーザを出力する光源に接続されており、レーザ光331を照射することができる。反射部340におけるレーザ光311が当たる表面には、反射鏡340Cを備えている。そして、反射部340には、所定方向340Aまたは340Bの少なくとも一方に回動するサーボモータが内蔵されており、反射部340に接続されている図示しない制御部により反射部340の動作を制御することにより、反射鏡340Cの角度が変えられるため、反射部340の反射鏡340Cにて反射したレーザ光322を対象物333の適切な箇所に照射させ、温度変調領域(光干渉領域)を必要な面に形成することが可能である。なお、本実施形態では反射部340として2軸光スキャナを用いたが、他の実施形態において、ガルバノミラー、デジタルマイクロミラー(Digital Micro Mirror :DMD)などを用いてもよい。このような遠隔照射を用いると、空間的に余裕ができ、図9に示すように対象物333が大きな場合にも対応できる。
【0035】
〔第五実施形態〕
第五実施形態では、第一実施形態において光源101、光ファイバー102及び照射部103の構造の変形例であり、その他の構造は第一実施形態と同様であり上述したとおりである。図10に示すように、レーザ光の照射部400に、2つの光源101A・101Bが各々光ファイバー102A・102Bを介して接続されている。照射部400の内部は、光ファイバー102A・102Bから出射したそれぞれのレーザ光401A・401Bがコリメートレンズ402A・402Bで平行化された後、集光レンズ403A・403Bにより、集光されたレーザ光404A・404Bとなり、対象物150の表面にレーザスポット405A・405Bを形成する。ここで、2つのレーザ光404A・404Bの光軸の間の角度をθdとする。レーザ照射部400はθdを可変する機構をも有する。これにより、対象物150の内部で生じる光干渉の状態をさらに調整することができる。なお、2つのレーザ光404A・404Bが干渉を起こすためには、2つの光源101A・101Bは同じ波長で発振する必要がある。このため、これら2つの光源101A・101Bに内蔵されたレーザ発振部には、発振波長が原子材料で決定するYAGレーザを用いた。このレーザは、ネオジウムをドープしたYAG結晶を利得媒質とした4準位レーザであり、安定して発振する。もし半導体レーザを使う場合には、外部共振器型や分布帰還型など、発振波長を制御したレーザ素子を用いればよい。また、この場合は、2ビームを干渉させるので、2つの光源101A・101Bは単峰性の光分布でもよく、光ファイバー102A・102Bもシングルモードファイバーでもよい(θdを大きくすれば、2つのレーザ光404A・404Bのオーバーラップも大きくなる)。
【0036】
〔第六実施形態〕
第六実施形態では、第一実施形態において照射部103の構造の変形例であり、その他の構造は第一実施形態と同様であり上述したとおりである。図11に示すように、ひとつの光源101からのレーザ光をふたつに分ける場合である。レーザ光の照射部410に光源101が光ファイバー102を介して接続されている。照射部410の内部では、光ファイバー102から出射したレーザ光451がコリメートレンズ452で平行化された後、ハーフミラー454により2つのレーザ光455A・455Bに分けられる。レーザ光455Aは、集光レンズ470Aにより集光されたレーザ光471Aとなり、対象物150の表面にレーザスポット472Aを形成する。一方、レーザ光455Bは鏡456で反射され(レーザ光457)、レトロリフレクタ(入射に平行に反射する鏡)458で折り返し((レーザ光460)、鏡461で反射されて集光レンズ470Bに向かう。集光されたレーザ光471Bとなり、対象物150の表面にレーザスポット472Bを形成する。図10の場合同様、レーザ照射部410はθd(2つのレーザ光471A・471Bの光軸の間の角度)を可変する機構を有する。加えて、レトロレフレクタ458はレーザ光457の入射方向と同じ方向459に移動する機構を有する。例えば、左側に動くと、その動いた距離の2倍だけ、レーザ光の伝搬距離が変わる。つまり、レーザ光471Bの位相を変えることができる。これら二つの機構により、対象物内部の光干渉をより精密に制御できる。また図11の場合に比べて、光源や光ファイバーが一つで済み、コストの低減を図ることができる。なお、レトロリフレクタで位相を変える機構は、図10に示した第五実施形態においても導入するができる。図10の第五実施形態の照射部400、図11の第六実施形態の照射部410の内部において、2本のレーザ光で示したが、他の実施形態において、照射部内で分波し、或いは光源の数を増やすなどして、3本以上のレーザ光に拡張することができる。
【符号の説明】
【0037】
101、101A、101B・・・光源
102、102A、102B・・・光ファイバー
103、400、410・・・照射部
104、104A、104B、311・・・移動台(移動手段)
105・・・基台
106、106A、106B・・・レール(移動手段)
150、329・・・対象物
200・・・半導体レーザ
32・・・ロボットアーム(移動手段)
340・・・反射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11