(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058726
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】パウチ食品内容物供給ノズル
(51)【国際特許分類】
B65B 39/00 20060101AFI20240422BHJP
B65B 37/06 20060101ALI20240422BHJP
B65B 3/12 20060101ALI20240422BHJP
A23L 3/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B65B39/00 Z
B65B37/06
B65B3/12
A23L3/00 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166001
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】519217434
【氏名又は名称】株式会社サーフテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100134212
【弁理士】
【氏名又は名称】提中 清彦
(72)【発明者】
【氏名】下平 英二
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正夫
(72)【発明者】
【氏名】荻原 秀実
【テーマコード(参考)】
3E055
3E118
4B021
【Fターム(参考)】
3E055AA02
3E055AA03
3E055AA09
3E055CA08
3E055CB01
3E055DA05
3E055DA10
3E055FA01
3E118AA07
3E118AB16
3E118BB18
3E118CA05
3E118EA03
4B021LA05
4B021LT04
4B021LW02
4B021LW03
4B021LW04
4B021MC10
4B021MQ01
(57)【要約】
【課題】 パウチ食品内容物供給ノズルのピストンとシリンダの摺動による摩耗や塩分による腐食摩耗を抑制することで、内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みを低減し、パウチのシール不良の発生を抑制することができるパウチ食品内容物供給ノズルを提供する。
【解決手段】 本発明は、往復移動されるピストン1と、当該ピストンを摺動自在に収容するシリンダ2Aを有し前記ピストン1の上死点と下死点の間で前記シリンダ2A内にパウチ食品の内容物を供給する内容物供給通路3が接続されたノズル部2と、を備えたパウチ食品内容物供給ノズル10であって、前記ピストン1の先端面1B付近の少なくとも外周面1AにDLCコーティングを施したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウチ食品の生産に用いられるパウチ食品内容物供給ノズルであって、
往復移動されるピストンと、
当該ピストンを摺動自在に収容するシリンダを有し、前記ピストンの上死点と下死点の間で前記シリンダ内にパウチ食品の内容物を供給する内容物供給通路が接続されたノズル部と、
を備え、
前記ピストンの上死点から下死点へ向けた移動を利用して、前記ピストンの先端面により、前記内容物供給通路から前記シリンダ内に供給された前記内容物を前記ノズル部の先端から押し出して、パウチの上方開口を介してパウチ内に供給するパウチ食品内容物供給ノズルにおいて、
前記ピストンの先端面付近の少なくとも外周面にDLCコーティングを施した
ことを特徴とするパウチ食品内容物供給ノズル。
【請求項2】
パウチ食品の生産に用いられるパウチ食品内容物供給ノズルであって、
往復移動されるピストンと、
当該ピストンを摺動自在に収容するシリンダを有し、前記ピストンの上死点と下死点の間で前記シリンダ内にパウチ食品の内容物を供給する内容物供給通路が接続されたノズル部と、
を備え、
前記ピストンの上死点から下死点へ向けた移動を利用して、前記ピストンの先端面により、前記内容物供給通路から前記シリンダ内に供給された前記内容物を前記ノズル部の先端から押し出して、パウチの上方開口を介してパウチ内に供給するパウチ食品内容物供給ノズルにおいて、
前記ピストンの先端面にDLCコーティングを施した
ことを特徴とするパウチ食品内容物供給ノズル。
【請求項3】
前記シリンダの少なくとも前記ノズル部の先端付近における内周面にDLCコーティングを施したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパウチ食品内容物供給ノズル。
【請求項4】
前記DLCコーティングは、無電解ニッケルめっきの上に施されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパウチ食品内容物供給ノズル。
【請求項5】
前記DLCコーティングの表面に微小凹凸を無数にランダムに形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパウチ食品内容物供給ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルトパウチ食品等のパウチ食品の生産過程において、上方開口の袋状に形成された包装フィルム内にパウチ食品用の内容物(例えば、中華丼、親子丼、カレーなど)を押し出して供給(充填)するノズルの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食品製造の各社から中華丼、親子丼、カレーなどのレトルトパウチ食品が市販されている。このようなレトルトパウチ食品の生産の際、略垂直に設置されている空のパウチ(左右端及び下端が閉じられた上方開口の袋状に成形された包装フィルム)の上方開口に対し、同じく略垂直にセットされているピストン式の食材供給ノズルの下端から丼液と具材などの食材を供給(充填)している。ここでの食材はパウチ食品用の内容物である。
【0003】
例えば、食材供給ノズル10としては、具材をその先端面にて押し出すための略円柱状の押し出しピストン1と、該押し出しピストン1を摺動自在に嵌挿する円筒状のシリンダ2Aを有するノズル部2と、を備えて構成されている。また、ノズル部2のシリンダ2Aの側面には、ピストン1が上死点位置に移動したときにシリンダ2Aと連通し、ピストン1が所定位置まで下降したときにシリンダ2Aとの連通が遮断される食材供給通路3が開口されている(
図1参照)。すなわち、ピストン1の上下動により、食材供給通路3と、ノズル部2のシリンダ2Aと、が連通されたり、連通が遮断されたりするように構成されている。なお、このような方式の食材供給ノズルの一例としては、例えば、特許文献1に記載がある。
【0004】
そして、ピストン1のシリンダ2Aに対する上下方向相対位置が、食材供給通路3と、ノズル部2のシリンダ2Aと、を連通させる位置のときに、食材供給通路3の上流側から加圧ポンプなどを介して(或いは自重などにより)食材が送出されてシリンダ2A内に供給される(
図1(A)参照)。
その後、
図1(A)の状態から、ピストン1が下降されるが、それにより、シリンダ2Aに対するピストン1の上下方向相対位置が、食材供給通路3と、ノズル部2のシリンダ2Aと、の連通を遮断する状態となり、その後は、ピストン1の下死点までの下降に伴い、シリンダ2A内の食材(パウチ食品の内容物)が、ピストン1の先端面1Bによってノズル部2の先端(下端)2Bから押し出され、先端(下端)2Bの下方にセットされている空のパウチの内部に供給(充填)されるようになっている(
図1(B)参照)。
【0005】
ピストン1が下死点まで下降した後は、ピストン1は上昇されて初期位置(例えば上死点位置)まで戻されることになる。かかるピストン1の上下動(往復動)は、例えば電磁式のアクチュエータ4を駆動源として実行することができる。但し、アクチュエータ4は、サーボモータ等の電動モータ、或いはエアや油圧を用いた流体圧シリンダ等のアクチュエータなどとすることもできる。
なお、ピストン1とシリンダ2Aの間の摺動においては、食材(例えば、中華丼等の丼液など)が潤滑剤の代わりとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような食材供給ノズル10を用いてパウチ内への食材(例えば、中華丼等の丼液(調理済みの中華丼の具)等、すなわち、パウチ食品の内容物)の供給(充填)を生産ラインにて繰り返していると、パウチに丼液を排出した後、「パウチが食材供給ノズル10から離れ下流工程へと搬送される際」や「次の空のパウチが所定位置にセットされる際」などに、食材供給ノズル10の先端2Bから丼液が垂れ落ちて、これがパウチの上方開口のシール予定部に付着等して、生産ラインの下流工程においてヒートシール(加熱溶着)を施してパウチの上方開口を閉じて密封する際に、シール部にシール不良が生じてしまうといった問題があった(
図2参照)。
【0008】
また、丼液に比較的長さの長い具材(長もの具材;例えば、タケノコ、シイタケ、白菜等の野菜の切れ端、細かく刻まれた昆布や肉片など)が存在すると、それが食材供給ノズル10の先端2Bにおいてピストン1とシリンダ2Aの間に挟み込まれて下方に垂れ下がり、丼液充填が完了したパウチが移動すると、それに伴い丼液充填前の空のパウチがノズル直下に移動して来るが、その際にノズルより垂れ下がっている長もの具材に付着している丼液がパウチの上方開口のシール予定部に付着等して、下流工程においてヒートシールを施してパウチの上方開口を閉じて密封する際に、シール部にシール不良が生じてしまうといった問題があった(
図2参照)。
【0009】
これは、食材供給ノズル10の使用の際に、ピストン1がシリンダ2Aの内面を摺動することでシリンダ2Aの内面が摩耗し内径が拡大し、ピストン1と、食材供給ノズル10の先端(下流先端)2B付近のシリンダ2Aと、の間に丼液が溜まり、その溜まった丼液が下方に垂れ落ちること(丼液の液垂れ)が原因の一つとなっているものと考えられる。
【0010】
また、シリンダ2A側だけでなく、ピストン1も摩耗し外径が小さくなる。特に、ピストン1において下流側先端面1B及びその近傍にて摩耗による小径化が顕著であることが確認された。
【0011】
このことは、ピストン1がシリンダ2A内を上下動する際に倒れが発生し、ピストン1の外周面1Aの先端付近が先端面1Bに向けて先細り状に摩耗し、ピストン先端外径で100μm以上縮小していることが原因であると考えられる。
【0012】
このピストン1の外周面1Aの先端付近の先細り状の摩耗による縮径と、シリンダ2Aの内周壁の拡径と、により、その隙間(クリアランス)が大きくなるため、当該隙間に溜まる丼液の量が増えて垂れ落ちる頻度や量も増えると共に、前記隙間にタケノコ、シイタケなどの長もの具材が噛み込むおそれが高まり、これらが上述したようにシール不良の原因となっているものと考えられる。
【0013】
更に、充填する丼液は、食品であり塩分を含んだ液体或いはある程度粘度のある流動体であるので、ノズル部2(シリンダ2A)とピストン1は通常鉄系金属、若しくは非鉄軽金属で作られているが、塩分により腐食を発現し基材露出が生じるといった問題がある。
【0014】
この腐食対策として、例えば、ピストン1の外周にニッケルめっき等を施す場合があるが、既述の通りピストン1の摺動により摩耗が生じるためニッケルめっきが消失して腐食が進行し、長期に亘って正常な状態(正常なクリアランス)を維持することができないといった問題がある。なお、かかる塩分による摩耗の増大は、上述したシール不良の発生を助長することとなる。
【0015】
本発明は、上述したような実情に鑑みなされたもので、レトルト食品等のパウチ食品の生産に用いられるパウチ食品内容物供給(充填)ノズルのピストンとシリンダの摺動による摩耗や塩分による腐食摩耗を抑制することで、内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みを低減し、パウチのシール不良の発生を抑制することができるパウチ食品内容物供給ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、
パウチ食品の生産に用いられるパウチ食品内容物供給ノズルであって、
往復移動されるピストンと、
当該ピストンを摺動自在に収容するシリンダを有し、前記ピストンの上死点と下死点の間で前記シリンダ内にパウチ食品の内容物を供給する内容物供給通路が接続されたノズル部と、
を備え、
前記ピストンの上死点から下死点へ向けた移動を利用して、前記ピストンの先端面により、前記内容物供給通路から前記シリンダ内に供給された前記内容物を前記ノズル部の先端から押し出して、パウチの上方開口を介してパウチ内に供給するパウチ食品内容物供給ノズルにおいて、
前記ピストンの先端面付近の少なくとも外周面にDLCコーティングを施した
ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、
パウチ食品の生産に用いられるパウチ食品内容物供給ノズルであって、
往復移動されるピストンと、
当該ピストンを摺動自在に収容するシリンダを有し、前記ピストンの上死点と下死点の間で前記シリンダ内にパウチ食品の内容物を供給する内容物供給通路が接続されたノズル部と、
を備え、
前記ピストンの上死点から下死点へ向けた移動を利用して、前記ピストンの先端面により、前記内容物供給通路から前記シリンダ内に供給された前記内容物を前記ノズル部の先端から押し出して、パウチの上方開口を介してパウチ内に供給するパウチ食品内容物供給ノズルにおいて、
前記ピストンの先端面にDLCコーティングを施した
ことを特徴とする。
【0018】
本発明において、前記シリンダの少なくとも前記ノズル部の先端付近における内周面にDLCコーティングを施したことを特徴とすることができる。
【0019】
本発明において、前記DLCコーティングは、無電解ニッケルめっきの上に施されることを特徴とすることができる。
【0020】
本発明において、前記DLCコーティングの表面に微小凹凸を無数にランダムに形成したことを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、レトルト食品等のパウチ食品の生産に用いられるパウチ食品内容物供給(充填)ノズルのピストンとシリンダの摺動による摩耗や塩分による腐食摩耗を抑制することで、内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みを低減し、パウチのシール不良の発生を抑制することができるパウチ食品内容物供給ノズルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(A)本発明の一実施の形態に係るパウチ食品内容物供給ノズル(ピストンが上死点付近にある状態)の一例を概略的に示す縦断面図であり、(B)は同上パウチ食品内容物供給ノズル(ピストンが下死点付近にある状態)の一例を概略的に示す縦断面図である。
【
図2】同上実施の形態に係るパウチ食品内容物供給ノズルに起因するパウチのシール不良を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る一実施の形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。なお、上で既に説明した要素と同一或いは同様の要素には、同じ符号を付している。
【0024】
レトルト食品とは、気密性及び遮光性を有する容器で密封し、加圧加熱殺菌を施した食品を意味し、レトルトパウチ食品とは、レトルト食品を袋状の容器に密封したものを指すものとする。レトルト食品としては、例えば、中華丼、親子丼、カレーなどがある。
なお、レトルト食品を含め、レトルト食品以外の食品を袋状の容器に密封したものを総称して、ここではパウチ食品と言うものとする。
【0025】
本実施の形態に係る食材供給(充填)ノズル10は、
図1に示したように、円柱状の押し出しピストン1(外径(Φ)は数mmから数cm程度)(以下、単にピストンとも称する)と、これを摺動自在に嵌挿するシリンダ2A(内径(Φ)は数mmから数cm程度)を有するノズル部2と、を含んで構成されている。また、シリンダ2Aへ食材(内容物)を供給する食材供給通路3が備えられている。
なお、食材供給(充填)ノズル10が、本発明に係るパウチ食品内容物供給ノズルの一例に相当し、食材供給通路3が本発明に係る内容物供給通路の一例に相当する。ここでの食材は、パウチ食品としてパウチされる内容物(丼液や具材など)をいうものとする。
【0026】
本実施の形態において、ピストン1と、シリンダ2Aを有するノズル部2は、ステンレス鋼(例えば、SUS440C)を基材としている。
【0027】
そして、前記ピストン1のシリンダ2Aと摺動する外周面1A(外周全体でもよいが、少なくとも先端面1Bから
図1の上下方向に沿って数mm~数cm程度の範囲の全外周面)に、高耐摩耗性を有する硬質炭素薄膜であるDLCコーティングを施した。
【0028】
ここで、DLCコーティングとは、Diamond-Like Carbon コーティング(皮膜)のことである。DLCコーティング(皮膜)は、イオンを利用した気相合成法により合成されるダイヤモンドに類似した高硬度・電気絶縁性・赤外線透過性などを持つ炭化物系皮膜で、主として炭化水素、あるいは、炭素の同素体から成る非晶質(アモルファス)の硬質膜である。DLC皮膜は、薄膜にもかかわらず、非常に固い膜を作ることができ、一般的に、窒化処理の3~7倍、TiNに対しても同等若しくは2倍以上の硬度を有する(但し、硬度は、DLCの成膜法によって変化する)。
DLCコーティングは高硬度で生体親和性が良いため、食品が触れる箇所に対して安全な保護膜として有効であるという利点もある。
【0029】
ここで、本実施の形態においては、DLCコーティング(DLC成膜)処理は、プラズマCVD(PECVD:Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition プラズマ励起化学気相成膜)法を利用して行った。プラズマCVD法は、反応性気体をプラズマ化することで、活性ラジカルやイオンを生成し、そのラジカルやイオンが成膜対象物の表面で化学反応を起こすことで、薄膜を積層、形成する方法である。但し、DLCコーティング(DLC成膜)処理の方法はこれに限らず、例えば、PVD法や、大気圧プラズマCVD法とすることも可能である。
【0030】
なお、本実施の形態において、より具体的には、ピストン1を装置チャンバー内にセットし、真空引き後アルゴンガスを導入し、30分間基板表面のボンバードメント処理を実施した。その後アルゴンガスを止め、炭化水素系ガスを導入しDLCコーティングを180分間成膜した。
【0031】
本実施の形態において、上記条件で成膜したDLCコーティングの硬度は、1500~2500HV(ビッカース硬さ)で、膜厚は約1μmであった。
また、DLCコーティング前のピストン1の外周面1Aの表面粗さは、算術平均高さ(Ra)が0.14μm程度、最大高さ(Rz)が1.12μm程度であった。DLCコーティング後のピストン1の外周面1Aの表面粗さは上記と同様であった。
【0032】
なお、DLCコーティング未処理のシリンダ2A(SUS440C)の内周面の表面粗さは、算術平均高さ(Ra)が0.12~0.14μm程度、最大高さ(Rz)が1.12~1.32μm程度であった。
なお、本実施の形態における表面粗さ等の表面形状データは、東京精密社製「SURFCOM NEX 001 DX-13」表面粗さ測定機を用いて取得した。触針式粗さ計測に用いる触針先端は最小で2.0μmR(半径)であるが、今回は0.5μmRの触針を併用し測定した。
【0033】
本実施の形態に係るDLCコーティング後のピストン1を実機の食材供給(充填)ノズル10に装着して試験したところシリンダ2Aとの摺動による摩耗が低減され、内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みが低減され、パウチ食品の生産ラインにおけるパウチのシール不良の発生を抑制することができた。
また、内容物(丼液など)の塩分による腐食摩耗を抑制することもでき、腐食摩耗に起因する内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みが低減され、パウチ食品の生産ラインにおけるパウチのシール不良の発生を抑制することができた。
【0034】
なお、本実施の形態において、上述した効果が得られるDLCコーティング後の表面粗さの範囲としては、ピストン1の外周面1Aもシリンダ2Aの内周面の何れも、Ra≦0.5μm、 Rz≦5μm、或いは、0.05μm≦Ra≦0.5μm、0.5μm≦Rz≦5μm、或いは0.07μm≦Ra≦0.3μm、0.7μm≦Rz≦3μm程度とすることできる。
また、DLCコーティングの膜厚については、膜厚≦3μm、或いは0.5μm≦膜厚≦3μm程度とすることができる。
【0035】
なお、本実施の形態に係るDLCコーティングはそれ自身が高耐摩耗性である一方で、摺動性の良い炭素系のコーティングであるので、摺動する相手に対しても摩耗低減効果がある。したがって、シリンダ2Aの内面の摩耗も同時に低減することができるため、このことも、内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みの低減、延いてはパウチのシール不良の発生の抑制に貢献している。
【0036】
ところで、本実施の形態に係るDLCコーティングを施したピストン1を食材供給(充填)ノズル10に用いた場合、摩耗の低減によりパウチのシール不良を抑制できるが、それだけでなく、ピストン1が丼液を押し出した後、丼液がパウチに充填される際にピストン1の先端面1Bに押されて落下するが、その際に落下する丼液から、従来(DLCコーティング無し)のピストン1ではピストン側に残る丼液が分離し、その分離した丼液が遅れて落下して(後垂れ的な丼液が)パウチのシール予定部に付着してシール不良を招いていた。しかし、DLCコーティングを施したピストン1の場合には、ピストン1の先端面1Bに丼液が押し出されてノズル部2の先端2Bから丼液が落下してパウチに充填される際に、この丼液から分離してピストン1側に残る丼液の量が格段に少なくなる。このため、後垂れ的に丼液が落下して、これが「次工程へ移動するパウチのシール予定部」や「搬送されてきた次の空のパウチのシール予定部」に付着してシール不良を招くといったことを抑制できることがわかった。
【0037】
これは、DLCコーティングの持つ撥水性、撥油性によりピストンに対する丼液の付着力が弱まり、パウチ内に塊状で落下する丼液から分離してピストン側に残ろうとする力より、塊状で落下する丼液側の丼液と一体的に落下しようとする力の方が大きくなるからと考えられる。
【0038】
このため、ピストン1に施すDLCコーティングとしては、シリンダ2Aと摺動する摺動面(外周面)1Aだけでなく、丼液が付着して残り易い先端面1B(押し出し面)にもDLCコーティングを施すとより効果的に、丼液の付着に起因するシール不良を抑制することができる。
【0039】
すなわち、丼液を押し出すピストン1は、食材供給ノズル10のノズル部2の下流先端2Bより僅かに突き出て丼液押し出し工程(食材充填工程)を終了するが、この下流先端2Bから突き出たピストン1の外周面1A及び先端面1Bから、充填工程で付着した丼液や具材が垂れることでもシール不良を引き起こすこともあったが、DLCコーティングを施したピストン1ではピストン1の先端面1B付近の外周面及び先端面1Bへの付着が抑制されるため、このようなピストン1の外周面や先端下面1Bへの丼液の付着に起因するシール不良を抑制することができる。
【0040】
また、本実施の形態によれば、ピストン1とシリンダ2Aの間の具材の噛み込みについても、DLCコーティングによる摩耗の低減による噛み込み抑制効果があるが、それ以外にも、DLCコーティングを施したピストン1の外周面1Aに対する具材の滑りが良くなるため、具材の噛み込み量や噛み込み頻度を減らすことができるため、具材の揺れなどに起因して、丼液がパウチのシール予定部に付着してシール不良を招くといったことも抑制することができる。
【0041】
本実施の形態に係るDLCコーティングは、摺動性の良い炭素系のコーティングであるので、ピストン1の外周面に施したうえに、ノズル部2の内周面(シリンダ2A)にDLCコーティングを施すことも可能で、これによりノズル部2の内周面(シリンダ2A)の摺動による摩耗及び塩分による摩耗を抑制できるため、より一層、長期に亘って、内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みなどの低減を図ることができ、延いてはパウチのシール不良の発生をより一層抑制することができる。
【0042】
なお、ノズル部2の内周面(シリンダ2A)にDLCコーティングを施す場合には、ピストン1の外周面1AへのDLCコーティングを施さない構成とすることも可能である。
【0043】
また、本実施の形態に係るDLCコーティングは、ノズル部2の下流先端2Bの外周や先端下面に施すことも可能で、これにより、ノズル部2の下流先端2Bの外周や先端下面への丼液の付着に起因する後だれ的な丼液のシール予定部への付着を抑制できるため、より一層効果的に、内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みなどの低減を図ることができ、延いてはパウチのシール不良の発生をより高いレベルで抑制することができる。
【0044】
このように、本実施の形態によれば、レトルト食品等のパウチ食品の生産に用いられるパウチ食品内容物供給ノズルのピストンとシリンダの摺動による摩耗や塩分による腐食摩耗を抑制することで、内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みを低減し、パウチのシール不良の発生を抑制することができるパウチ食品内容物供給ノズルを提供することができる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、ピストン1、その外周面1A、その先端面1B、ノズル部2、シリンダ2Aへのパウチ食品の内容物の付着を抑制することができ、これにより、内容物(丼液など)の液垂れ、具材等の噛み込みを低減し、パウチのシール不良の発生を抑制することができるパウチ食品内容物供給ノズルを提供することができる。
【0046】
また、本実施の形態に係るDLCコーティングを、ピストン1の外周面1Aや先端面1B、シリンダ2Aの内周面、ノズル部2の下流先端2Bの外周や先端下面に施した後に、その上から微細な凹凸を形成するMD処理(微粒子投射処理)を施すことで、DLCコーティングの表面に微小凹凸を無数にランダムに形成することができる。但し、MD処理(微粒子投射処理)を先に施した後に、DLCコーティングを施す構成とすることができ、いずれの場合でも、以下の作用効果を奏することができる。
すなわち、微小凹凸を無数にランダムに形成することにより、ピストン1の外周や先端などに対する丼液の付着抑制を一層高めることができる。このため、ピストン1に丼液が押し出されてノズル部2の先端2Bから丼液が落下してパウチに充填される際に、この丼液から分離してピストンやシリンダ側に残る丼液の量をより一層少なくすることができる。したがって、後垂れ的に丼液が落下して、これが「次工程へ移動するパウチのシール予定部」や「搬送されてきた次の空のパウチのシール予定部」に付着してシール不良を招くといったことをより一層抑制でき、丼液の垂れによるパウチシール不良を大幅に削減することが可能となる。
【0047】
なお、本実施の形態において、MD処理(微粒子投射処理)により形成した微小凹凸を有する表面の粗さ測定の結果、面粗度Ra=0.52μm、Rz=3.04μm、要素の平均長さ(≒凹凸ピッチ)RSm=92.3μm程度であった。なお、シール不良の抑制可能な微小凹凸を有する表面の面粗度は、0.001μm≦Ra≦0.1μm、0.01μm≦Rz≦0.5μm、要素の平均長さ(≒凹凸ピッチ)は、0.5μm≦RSm≦20μm程度とすることができる。或いは、シール不良の抑制可能な微小凹凸を有する表面の面粗度として、0.1μm<Ra≦5.0μm、0.5μm<Rz≦15μm、10μm≦RSm≦200μm程度とすることも可能である。
【0048】
なお、本実施の形態に係るMD処理(微粒子投射処理:ショット材投射処理)は、微粒子状のメディアをショット材としてを部材表面に噴射(投射)することにより行うが、例えば、噴射装置としては、ブラスト装置を用いることができ、ブラスト装置の一例としては、例えば、株式会社不二製作所製の「PNEUMA BLASTER」(型式:SCシリーズ、SGシリーズなど)などを用いることができる。また、例えば、特開2019-25584号公報などに記載されているものを用いることができる。
【0049】
ところで、本実施の形態においては、基材の上にまず無電解ニッケルめっき等を行い、その上にDLCを成膜するようにしてもよい。
DLCの成膜より先に基材の上に無電解ニッケルめっきを行っておくと、DLCコーティング(黒色)が摩耗等した際に、DLCコーティングの下層の無電解ニッケルめっき膜(銀色)が露出してくるため、DLC再成膜のタイミングを明確に知ることができる、という利点がある。
このことは、パウチ食品の生産ラインにおいて、作業者の目視による日常点検にてDLC再成膜のタイミング、すなわち食材供給(充填)ノズル10の交換時期を簡単かつ正確に知ることができるため、シール不良が発生しそれに気付いてから交換するような場合に比べて、不良品の生産を未然に防ぐことができる点で極めて有益なものとなる。
なお、無電解ニッケルめっきの厚さは、例えば、3~20μmとすることができる。
また、無電解ニッケルめっき以外でも、CrN や TiNなどのコーティングなどでも同様の効果は得られる。
【0050】
無電解ニッケルめっき(electroless nickel plating)は、電気めっきとは異なり、通電による電子ではなく、めっき液に含まれる還元剤の酸化によって放出される電子により、液に含浸することで被めっき物に金属ニッケル皮膜を析出させる無電解めっきの一種であり、電気めっきのように通電を必要としないため、素材の形状や種類にかかわらず均一な厚みの皮膜が得られ、プラスチックやセラミックスのような不導体にもめっき可能である。無電解ニッケルめっきは、複雑な形状の部品にも均一にめっきすることができると共に、無電解ニッケルめっきの断面は層状構造をもち、電気ニッケルめっきと比較してピンホールが少ないといった長所がある。
【0051】
なお、本発明のピストン1、ノズル部2(シリンダ2A)の基材は、SUS440Cに限定されるものではなく、特に非磁性のオーステナイト系のステンレス(SUS303、304、316など)であれば、どれでも同等の効果が得られると考えられる。また、ステンレス材以外の金属材料(例えば、鉄の場合には、例えばスチール(SS400など)、アルミニウム、チタン等の金属製或いは合金製など)であっても本発明は適用可能である。
【0052】
ところで、本実施の形態では、微粒子投射処理(ショット材投射処理)により、ディンプル状の微小凹部を無数にランダムに形成したが、本発明はこれに限定されるもではなく、部材の表面に化学研磨(化学エッチング)を施すことで、微小凹部をランダムに複数(多数)形成することができる。なお、化学研磨(化学エッチング)としては、例えば、塩酸・硝酸・硫酸・リン酸などの酸性薬剤や塩化鉄(III)などを任意の割合で水溶液に調製し使用することが想定される。
【0053】
また、部材の表面に、アルゴンボンバード処理を施すことで、接触面にサブミクロン以下の凹部をランダムに複数(多数、無数)形成することもできる。
【0054】
ところで、本発明は、上述した発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 ピストン(押し出しピストン)
1A (ピストンの)外周面
1B (ピストンの)先端面
2 ノズル部
2A シリンダ
2B (ノズル部の)先端(下端)
3 食材供給通路(内容物供給通路の一例)
4 アクチュエータ(駆動源)
10 食材供給ノズル(パウチ食品内容物供給ノズルの一例)