(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058731
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】非対称鏡像力駆動型の静電発電機
(51)【国際特許分類】
H02N 1/08 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
H02N1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166006
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】398055026
【氏名又は名称】酒井 捷夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198373
【弁理士】
【氏名又は名称】江畑 耕司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 捷夫
(57)【要約】
【課題】電荷搬送体に高電位充電電極と異極性の電荷を帯電させ、該電荷搬送体と充電電極との間に生じる後退鏡像力よりも、該電荷搬送体とその先にある電荷回収電極との間に生じる前進鏡像力の方が大きくなる非対称鏡像力現象を利用して該電荷搬送体を駆動し前進させ、前記電荷搬送体が前記回収電極に到達した時点で保有する余剰エネルギーで、該帯電電荷を電気的により高いポテンシャルまで持ち上げる非対称鏡像力駆動型静電発電機において、現状で利用可能な3.5kV以下のエレクトレットを高電位充電電極として使用可能にすること。
【解決手段】充電電極と回収電極との間隔を適正化することで、余剰エネルギーを増大させることで達成した。
【効果】余剰エネルギーが増大した結果、より低い電位のエレクトレットが使用可能になった。
【選択図】
図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電位を有する高電位源と、電荷回収電極と、前記高電位源から電荷回収電極へ進行し、その進行方向に直角な軸に対して前後非対称の形状を有する導電性の電荷搬送体とからなり、
高電位を有する前記高電位源に前記電荷搬送体を接近させ、同時にこれを接地することで、前記高電位源と異極性の電荷を該電荷搬送体に充電させて帯電し、前記電荷搬送体と高電位源電極との間に生じる後退鏡像力よりも、前記電荷搬送体と前記電荷回収電極との間に生じる前進鏡像力の方が大きくなる非対称鏡像力を生じさせ、該後退鏡像力と該前進鏡像力との差で該電荷搬送体を駆動し、且つ前記帯電電荷を電気的により高いポテンシャルまで持ち上げ、前記電荷回収電極で回収して発電する非対称鏡像力駆動型の静電発電機において、 高電位源の電位を2kV以上とする静電発電機。
【請求項2】
請求1において、前記高電位源と前記回収電極の間隔を、出力が最大となる間隔の前後近傍とする静電発電機。
【請求項3】
請求項1において、前記高電位源と前記回収電極の間隔を、前記電荷搬送体の幅の約10±2.5倍とする静電発電機。
【請求項4】
請求項1において、前記高電位源と前記回収電極の間隔を約7.5±2mmとする静電発電機。
【請求項5】
請求項1において、前記高電位源と前記回収電極の間に複数の電荷搬送体が入れる静電発電機。
【請求項6】
請求項1において、前記回収電極に替えて接地電極を置いた静電モータ。
【請求項7】
請求項5において、前記高電位源と前記接地電極を直線的に配置した静電加速器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その進行方向に直角な軸に対し前後非対称な形状を有する電荷搬送体に帯電電荷を保持させ、該帯電電荷に作用する鏡像力の強さが、該進行方向の前後で異なる現象(以下非対称鏡像力という)を利用して得た非対称な鏡像力をその駆動力とする静電発電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球の温暖化と、環境問題を解決するために、二酸化炭素を発生しない発電方法がいろいろと実施されている。例えば、原子力発電、太陽光発電、風力発電等である。しかしながら、これらは、安全性、安定性、コスト、及び耐久性、並びに小型化等の観点で難がある。
他方、静電発電機は、製造、使用、及び廃棄を通じて危険性はなく、又、天候、発電時刻に左右されず、発電量は常時安定である。
更に、小型化も容易なため、蓄電器や送電線も不要である。更に、エネルギーの補給やメンテナンスも略不要であり、長い(約100年)寿命を有し、低コストでできる電源である。
【0003】
かかる静電発電機は、低電位の電荷注入電極(以下注入電極という)で、電荷を電荷搬送体に注入し、電界においてこれに作用する静電力に逆らって、該電荷搬送体を高電位の電荷回収電極(以下回収電極という)まで搬送し持ち上げ、そこで、搬送した電荷を回収するものである。
ただし、バンデグラーフの静電発電機では、電荷搬送体を静電力に逆らって搬送するために機械力(電気モータ)を使用しており、該電気モータで消費される電力が、生成される電力よりも大きいため、高電位(100万ボルト)発生装置ではあるが発電機とは言えない。
【0004】
これに対して、非対称静電力を利用して電荷搬送体を低電位から高電位まで引き上げる駆動力とする静電発電方法が提案されており(特許文献1~5)、非対称鏡像力を駆動力として使用する物がある。以下これを簡単に説明する。
【0005】
図1に示すように、点電荷1が、接地された導電性の平板2から距離rにあるとき、該点電荷1には、下記(1)式で計算される静電気力(静電力)が働く。これが鏡像力に相当する。
F = q
2/4πε
0(2r)
2 (1)
尚、電荷は、点電荷または球状帯電体として説明されるが、非球状の帯電体でも同様に鏡像力が発生する。
ここで、帯電体の形状が対称形であれば、該帯電体が移動する電界の向きが反転しても、電荷に作用する鏡像力の強度は変わらないが、非対称形状の場合は、該電界が反転したとき、その強度は大きく変わる(非特許文献1、2)。
【0006】
例えば、
図2に示した横置き樋型の電荷搬送体4の帯電量が1μCで、接地された導体板2との距離が1.0mmのとき、開口部を接地導体板2に向けたときは、該搬送体4に作用する鏡像力は32.4Nで、逆に底面を接地導体板2に向けたときは69.0Nになることが二次元差分法のシミュレーションで明らかになった。以下、この現象を非対称鏡像力と言う。
【0007】
この非対称鏡像力を電荷搬送体の駆動力とする静電発電機の基本構造を
図3に示す。主要部品は、充電電位源3(例えば、充電電極または充電エレクトレット)、横置き樋型の電荷搬送体4と、回収電極5のみである。但し、実際の装置には、そこに、回収電極コンデンサー6、電荷を注入する導電性端子7と、電荷を回収する導電性端子8が加わるが、以下、簡略化のため、主に主要部品のみについて説明する。
【0008】
電荷搬送体4が、
図3の左から、上下一対の充電電極(例えばエレクトレット)3の間に入り、
図3に示される位置に来たとき、電荷搬送体4の上下平板42と、上下一対の充電エレクトレット3間に、夫々空気コンデンサーが形成される。この時、電荷注入端子7により電荷搬送体4が接地されると、該空気コンデンサーへの充電電荷が、大地より電荷搬送体4に注入される。
その後、帯電された電荷搬送体4は、さらに図示右方向に進み、上下一対の回収電極5の中に入るそして、上下一対の回収電極5内に設けられ、電荷搬送体4と当接する電荷回収端子8により、該回収電極5と電荷搬送体4は電気的に連結され、帯電電荷は回収電極5を通って、回収電極コンデンサー6に蓄積される。そして、帯電電荷は、さらに図示しない回路を通じて外部負荷に流れる。
【0009】
充電電極たるエレクトレット3が負帯電の場合、電荷搬送体4は正帯電される。その結果、充電電極たるエレクトレット3と回収電極5の間を、図示右に進む電荷搬送体4には、充電電極たるエレクトレット3と回収電極5間に形成された電界により図示左向きに静電力が働く、以下この力を電界力と言う。
加えて充電電極たるエレクトレット3の背面電極により、やはり図示左向きに鏡像力が働く。以下この力を後退鏡像力と言う。同時に、回収電極5により図示右向きの鏡像力も働く。以下この力を前進鏡像力と言う。
ここで、充電電極たるエレクトレット3を出た直後は、左向きの後退電界力と後退鏡像力の合力が強いが、回収電極5に接近すると、右向きの前進鏡像力と左向きの後退電界力の和の方が強くなる。
【0010】
従い、電荷搬送体4が非対称である場合、電荷搬送体4の上下水平板42のエッジに働く左向きの電界力、および後退鏡像力は弱く、水平板42の表裏に垂直に働く電界力は、上方向と下方向が同じ強さで相殺され、前方垂直板部41に働く右向きの前進鏡像力は強い。
この結果、右向きの前進鏡像力が、左向きの後退電界力と後退鏡像力の和より強くなり、電荷搬送体4は、充電電極たるエレクトレット3から回収電極5に到達することができる。よって、電荷搬送体4により搬送された電荷が回収電極5に回収されれば、この装置は静電発電機になる。回収されなければ、該装置は静電モータになる。
【0011】
そこで、充電電極たるエレクトレット3と回収電極5間で、帯電した電荷搬送体4に働く静電力をシミュレーションで求めた。その一例を
図4に示す。図中、充電電極たるエレクトレットの右端と電荷搬送体の左端の間隔(距離)を以て電荷搬送体の位置とする(以下同じ)。
先ず、電荷搬送体4が、充電電極たるエレクトレット3を出た後、約10mmの間は、該電荷搬送体4に働く静電力はマイナス、すなわち左向きであるが、10mmを越えるとプラス、すなわち右向きに転じ、しかもその絶対値がより大きくなることが
図4より明らかである。このため、回収電極5に到達した電荷搬送体4には余剰の運動エネルギーが残されている。この余剰エネルギーを使って、低電位(0V)から搬送してきた電子をより高い電位(例えば、-1000V)に引き上げることができる。すなわち、発電できる。
【0012】
実際に、該原理に基づいて非対称鏡像力駆動型の静電発電実験機(ベンチモデル)を試作し、発電を行った結果は、特許文献5(特開2022-084111号公報)に記載されているが、以下、概略縦断面
図5と、概略横断面図(又は平面図)6を参照して簡単に説明する。
該当図中、参照番号4は樋型電荷搬送体、同3は半径方向にみて内外一対の板状充電電極たるエレクトレット、参照番号5は半径方向にみて内外一対の板状回収電極、参照番号9は非対称鏡像力を強める半径方向にみて内外一対の板状加速電極であって、接地されている。参照番号10は、充電電極たるエレクトレット3の高電位が回収電極5に影響することを阻止する半径方向にみて内外一対の板状シールド電極であって接地されている。参照番号11は電荷搬送体を保持する保持円板で、参照番号12はステンレス製の回転軸(支柱)である。注入用端子、及び回収用端子は省略した。参照番号13は、電荷搬送体の保持円板11のセンターに固定され、固定回転軸12の周りを回転する高性能のボールベアリングである。
ここで、加速電極9を1個置いたときのシミュレーションされた静電力を
図7に示す。
図4と比較するとその効果の違いは明らかである。
【0013】
図において、電荷搬送体保持円板11の半径は45mmで、各内外一対の充電電極たるエレクトレット3、加速電極9、及び回収電極5の各外側部分は、半径50mmの円周の上に形成し、各内側部分は半径30mmの円周の上に形成した。この結果、充電電極たるエレクトレット3の内外電極間間隔は20mmになる。
充電電極たるエレクトレット3と回収電極5の外側部分の幅は40mmで、加速電極9の同幅は20mmである。
これら充電電極たるエレクトレット3、加速電極9、及び回収電極5の外側部分の高さは共に65mmで、内側部分の高さは55mmである。図中、樋型電荷搬送体4の幅と奥行きと高さは、夫々、5mm、5mm、及び50mmである。
【0014】
該実験装置で、まず、エレクトレットではない充電電極を使用して、非対称鏡像力駆動型の静電発電機の実験を行った。
具体的には、充電電極3に対し図示しない高圧電源から、高電圧を印加して、エアースプレイで電荷搬送体4を3~30秒間強制回転させた。この後、電荷搬送体に加わる静電力(前進鏡像力-(後退電界力+後退鏡像力))が、電荷搬送体に加わる空気抵抗力+機械的摩擦力よりも大きければ、電荷搬送体円板11は回転を続け、充電電極3で充電された電荷は回収電極5で回収され、その結果、回収コンデンサー6の表面電位は勢いよく上昇する。すなわち、発電が継続される。
【0015】
充電電極3に印加する電圧を、-3.0kVから-0.5kVずつ上げたところ、-5.0kVまでは強制回転から連続回転に移らず、数十秒後に止まってしまったが、-5.5kVでは、緩やかに回転続け、回収コンデンサー6の電位も緩やかに上昇した。又、回収コンデンサー6を3回アースしたが、そのたびに、その電位は0Vからプラス方向に上昇した。
【0016】
しかしながら、充電エレクトレットを充電電極として使用する場合、現状-3.5kVの出力が限界であり、-5.5kV以上を出力する高電位エレクトレットを作製できず、利用できない。なお、発電装置内を真空にして空気抵抗をゼロにすれば、低電位の充電エレクトレットでも使用可能になるが、民生品で長期間真空を維持するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
[特許文献1] 特開2008-5690号公報
[特許文献2] 特開2020-150780号公報
[特許文献3] 特開2021-108524号公報
[特許文献4] 特開2022-2436号公報
[特許文献5] 特開2022-84111号公報
【非特許文献】
【0018】
[非特許文献1]2006年米国静電気学会年次大会予稿集 P.137
[非特許文献2][Asymmetric Electrostatic Forces and a New Electrostatic Generator], Nova Science Publishers, New York, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、非対称鏡像力駆動型の静電発電機において、表面電位が3.5kV以下の充電エレクトレットを使用して、空気抵抗等に打ち勝つに十分な余剰エネルギーが得られる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記本発明の目的は、充電エレクトレットと回収電極間との距離を適正化することで達成できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の実施例によれば、表面電位が3.5kV以下の充電エレクトレットで、空気抵抗等に打ち勝つに十分な余剰エネルギーが得られるようになったので、非対称鏡像力駆動型の静電発電機を実現できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、従来公知の鏡像力の原理を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、非対称鏡像力の原理を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、非対称鏡像力駆動型の静電発電機の基本構造を示す正面図である。
【
図4】
図4は、充電電極たるエレクトレットと回収電極間において、帯電した電荷搬送体に働く静電力を示すグラフである。
【
図5】
図5は、試作した非対称鏡像力駆動型の静電発電実験機の概略縦断面図である。
【
図6】
図6は、試作した非対称鏡像力駆動型の静電発電実験機の概略横断面図である。
【
図7】
図7は、加速電極を1個加えた場合における電荷搬送体に働く静電力を示すグラフである。
【
図8】
図8は、一定の角度で電荷搬送体を水平に乗せた電荷搬送体円板の構成を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、電荷搬送体円板とそれを上下で挟む電極板で構成される実験機の構成を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、電極板上の充電エレクトレットおよび回収電極の配置を示す平面図である。
【
図11】
図11は、充電電位に対して充電電荷量をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、電荷搬送体が、充電エレクトレットを抜けて回収電極に至る工程で受ける静電力をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、各充電電位別に求めた余剰エネルギーを示すグラフである。
【
図14】
図14は、電荷密度の二乗と余剰エネルギーとの関係をプロットしたグラフである。
【
図15】
図15は、充電電極と回収電極との距離と、電荷搬送体に作用する鏡像力との関係をシミュレーションで求めたグラフである。
【
図16】
図16は、充電電極と回収電極との距離と、電荷搬送体に作用する鏡像力との関係をシミュレーションで求めた他のグラフである。
【
図17】
図17は、充電電極と回収電極の距離と、余剰エネルギーとの関係を算出したグラフである。
【
図18】
図18は、充電電極と回収電極の距離と、余剰エネルギーで搬送電荷が高められる電位との関係を算出したグラフである。
【
図19】
図19は、充電電極と回収電極の間隔と、1秒間に回収コンデンサーに回収される電荷量、すなわち電流との関係を算出したグラフである。
【
図20】
図20は、充電電極と回収電極の間隔と、それぞれの電位と電流に基づいて算出された出力との関係を示すグラフである。
【
図21】
図21は、充電エレクトレットと回収電極の間隔が1760μmのとき、電荷搬送体に加わる静電力(鏡像力+後退電界力)をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【
図22】
図22は、充電電極と回収電極との距離が7360μmの場合、2個の電荷搬送体が2280μmの間隔を空けて移動する間に受ける静電力と、電荷搬送体が1個の場合に受ける静電力との関係を比較しつつ示すグラフである。
【
図23】
図23は、円筒型の充電エレクトレットと、円筒型の回収電極と、円筒型の電荷搬送体とで構成される加速器の概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
出願人は、非対称鏡像力駆動型の静電発電機において、充電エレクトレット3の表面電位が-3.5kV以下であっても、前記余剰エネルギーが、空気抵抗力等を上回って電荷搬送体4が回転を続けられる状態、すなわち連続発電の状態を、充電エレクトレット3と回収電極5との距離を適正化することで実現した。
【実施例0024】
ここで、充電エレクトレット3の電位を下げるためには、装置全体のダウンサイズが有効である。サイズを1/2にすることで、充電エレクトレット3の電位を、-5.5kVから、約半分の-3.0kVにすることが可能であるからである。
また、充電エレクトレット3の電位が、-3.0kVであっても、電荷搬送体4に充電できる電荷量が、その電位が-5.5kVの場合と同じであれば、同様の余剰エネルギーが得られ、電荷搬送体円板11が回転を続け、発電が継続されることができる。従い、上記試作機では、充電エレクトレット3と電荷搬送体4の間隔7.5mmを、半分の3.75mmにすればよい。
しかしながら、縦方向に吊るした電荷搬送体4を採用した試作機では、電荷搬送体円板11の回転とともに、電荷搬送体4の下端が遠心力で膨らみ、外周の該電極に接触し、上記間隔の維持は困難である。
【0025】
そこで、出願人は、
図8に示すように、電荷搬送体4を吊り下げる方式から、電荷搬送体円板11上において、一定の角度間隔で水平に載せる方式に変更した。それに伴って、充電エレクトレット3と、回収電極5も、
図9に示すように、電荷搬送体円板11を挟む上下の電極円板15と14の各表裏に向かい合わせに設置した。よって、この方式ならば、電荷搬送体が遠心力で外に広がり、各電極と接触することは無くなる。しかしながら、この方式では、充電電極3と回収電極5の幅を一定とすると、円板14,15の中心付近では、充電電極3と回収電極5の間隔が狭まって、その間に、リークまたは放電が発生してしまう。
そこで、両電極の形状を
図9に示すように、中心に近づくにつれて狭くなる台形形状とした。また電荷搬送体4も
図8に示すように同様に台形形状とした。
【0026】
具体的には、
図8に示すように、厚さ0.5mm、半径50mmの絶縁性円板たる電荷搬送体円板11に、外周マージン5mm空けて、長さ25mm、下底1.0mm、上底0.5mm、高さ1.0mm、及び厚さ0.04mmの横置き樋型の電荷搬送体4を82個セットする。
また、
図10に示すように、同一形状の絶縁性円板である、上下電極円板14,15夫々に、外周マージン5mm空け、長さ25mm、下底1.5mm、及び上底0.75mmの台形の充電エレクトレット3と、長さ25mm、上底2.0mm、及び下底1.0mmの台形の回収電極5を交互に設け、一組の充電エレクトレット3と回収電極5の配置を、外間隔3.2mm、及び内間隔1.6mmとし、次の組の回収電極5と充電エレクトレット3の外間隔を0.8mm、内間隔0.4mmとして41組セットする。以下、該1組を1ユニットと言う。
従い、ユニットの外幅は7.5mm、内幅は3.75mmになる。上下電極板14,15間隔は1.24mmであり、基板の厚さ0.5mmを加えるとユニットの高さは1.74mmになる。なお、横置き樋型電荷搬送体4の上下水平板42と、上下一対の充電エレクトレット3の各間隔は0.1mm、充電エレクトレットの厚さ(9図で上下)は0.04mm、比誘電率は2.0である。
【0027】
かかる方式において、出願人は、充電エレクトレット3の電位を変えて、電荷搬送体4に充電される電荷量と、該充電により帯電した電荷搬送体4と、充電エレクトレット3と回収電極5間で作用する静電力の関係をシミュレーションで求めてみた。
ここで、台形の電荷搬送体4のシミュレーションは、2次元差分法ではできないので、長方形の電荷搬送体4にして行った。そして、電荷搬送体4の幅は、上底と下底の平均値をとり0.75mmとした。同様に、上底と下底の平均値たる充電エレクトレット3の幅、充電エレクトレット3と回収電極5の間隔、上底と下底の平均値たる回収電極5の幅、及び回収電極5と隣の組の充電エレクトレット3との間隔も、それぞれ、1.12mm、2.4mm、1.6mm、及び0.6mmとした。よって、1ユニットの長さはこの合計で5.72mmになる。
【0028】
更に、充電エレクトレット3の電荷密度を、0.1mC/m2 、0.2mC/m2、0.4mC/m2、及び1.0mC/m2と変えて、電荷搬送体4が上下充電エレクトレット3間にあるときの充電電荷量をシミュレーションした。
このとき、充電エレクトレット3の表面電位は、周囲に電荷搬送体4が存在しないとき、それぞれ、225V、450V、900V、及び2250Vである。充電のために接地された電荷搬送体4が、充電エレクトレット3に対し0.1mmの間隔を空けて置かれた場合は、2250Vあった電位は、1882V~2111Vに下がる。以下、シミュレーション結果を電位で表示する場合は、周囲に電荷搬送体4が存在しないときの電位である。
【0029】
充電エレクトレット3の電荷密度が、0.1mC/m
2 、0.2mC/m
2、0.4mC/m
2、及び1.0mC/m
2のときの充電電位を公式に基づいて計算すると、それぞれ、225V、450V、900V、2250Vになる。すなわち、充電電位は、エレクトレットの電荷密度に正比例して増加する。
それぞれの充電電位に対して、電荷搬送体4に注入される充電電荷量をシミュレーションした結果を表示すると、
図11のようになる。すなわち、充電電荷量は、充電電位に正比例して増加する。
【0030】
次に、充電エレクトレットの電荷密度が、0.1mC/m
2 、0.2mC/m
2、0.4mC/m
2、及び1.0mC/m
2(即ち、充電電位が、225v、450V、900V、及び2250V)のときの充電電荷量を有する電荷搬送体4が、充電エレクトレット3を抜けて回収電極5に至る工程で受ける静電力をシミュレーションした。その結果を
図12に示す。
図11と合わせて考えると、電荷搬送体4の帯電量が増えると、電荷搬送体4が受ける静電力は、充電エレクトレット3を抜けた初期において後方に引かれるとき、及び中盤から後半にかけてその前方に引かれるときにおいても大幅に増加することが解る。
【0031】
更に、その関係を定量的にみるために、該静電力と電荷搬送体4の移動距離をもとに、電荷搬送体4が受ける正負の運動エネルギーを各充電電位別に計算し、それを合計して、各充電電位別の余剰エネルギーを求めた。その結果を、
図13に示す。
図13から、充電電位は、すくなくとも2.0kV以上が望ましいことが解る。
【0032】
なお、同
図13から、余剰エネルギーは、充電電位の二乗に略比例している。そこで、充電電位と充電電荷量は、
図11に示したように正比例するので、充電電位に替えて、充電電荷量の二乗に対して対応する余剰エネルギーをプロットした。その結果を示すグラフを
図14に示す。
同
図14から、余剰エネルギーは、略正確に、充電電荷量、すなわち、充電電位の二乗に正比例している。以上より、余剰エネルギーを大きくするためには、充電エレクトレットの帯電電位をより高くすることが効果的である。
この結果になったのは、充電電極3と回収電極5の間隔が狭くなると、充電電極3を抜けた電荷搬送体4には、充電電極3との間において左に引く後退鏡像力が働くのみならず、少し離れた回収電極5との間においては、右に引っ張る前進鏡像力が、距離が短い分だけより強く働き、その結果、間隔2380μmよりも、間隔1760μmの方が、作用する鏡像力は少し小さくなったと考えられる。
逆に、回収電極5に近づいた時も、距離が短い分だけ、後退鏡像力が強く、間隔2380μmよりも、間隔1760μmの方が、作用する鏡像力は少し小さくなったと考えられる。よって、前記した鏡像力の公式は当てはまらず、以下を検討した。
充電電極3と回収電極5との間隔が、2380μmから1760μmに短縮された結果、円周上の1ユニットの長さも、5700μmから5130μmに短くなり、その結果、円周上に配置できるユニットの数は、41個から46個に増えた。
そこで、それぞれの場合において、電荷搬送体円板11が1回転したときの出力を比較した。まず、その発生電圧Vは、余剰エネルギーWがすべて搬送された電荷qの電位を上げるのに使用できると仮定すると、下記式(2)で計算される。
(数3)
V = W/q (2)
それぞれの場合、搬送電荷量qはともに1.0nCで、余剰エネルギーWは0.168μJと0.247μJなので、発生電圧Vは168Vと247Vになる。
よって、間隔1760μmの場合、電荷搬送体円板11が1回転するとき、1個の電荷搬送体4は、46個の回収電極に1.0nCの電荷を運ぶので、搬送電荷量は合計46nCになる。46個の電荷搬送体4があるので、電荷搬送体円板11の1回転で、合計2116nCの電荷が、回収電極5のコンデンサー6に蓄えられる。
電荷搬送体円板11の回転数が1000rpmだとすると、1秒間に16.7回転する。その結果、1秒間に回収コンデンサー6に回収される電荷の量、すなわち電流は35.3μAとなり、電圧との掛け算で得る出力は5.94mWとなる。同様の計算を、充電電極3と回収電極5との間隔が2380μmの場合も行うと、得られる電圧は247V、電流は28.0μA、及び出力は6.92mWとなり、間隔1760μmの場合より大きくなる。