(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058786
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】噛合い機構
(51)【国際特許分類】
F16H 61/04 20060101AFI20240422BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20240422BHJP
F16H 61/68 20060101ALI20240422BHJP
F16H 59/40 20060101ALI20240422BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20240422BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20240422BHJP
F16H 3/083 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
F16H61/04
F16H59/68
F16H61/68
F16H59/40
F16H59/42
F16H63/50
F16H3/083
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166097
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】597021598
【氏名又は名称】株式会社イケヤフォ-ミュラ
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】池谷 信二
(72)【発明者】
【氏名】眞島 薫
(72)【発明者】
【氏名】堀口 翔梧
【テーマコード(参考)】
3J528
3J552
【Fターム(参考)】
3J528EA21
3J528EA22
3J528EA28
3J528EB62
3J528FB05
3J528FC32
3J528FC42
3J528FC47
3J528GA01
3J552MA04
3J552NA08
3J552NB01
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3J552PA51
3J552QB08
3J552QC07
3J552RA03
3J552SA23
3J552SA26
3J552SB36
3J552UA08
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VA74Z
3J552VA78W
3J552VC02W
(57)【要約】
【課題】操作者により任意のタイミングで行われるシフト操作に対するドグ歯のエッジ当たりを無くすことを可能とした噛合い機構を提供する。
【解決手段】軸方向へシフト移動可能な一方の回転部材33、35、37と、一方の回転部材との間でトルク伝達を行わせるための他方の回転部材9、11、17、19、23、27と、一方及び他方の回転部材のそれぞれに備えられ回転方向に噛合って前記トルク伝達を行わせるドグ歯33a、33b、・・・と、一方の回転体をシフト操作によりシフト移動させて前記ドグ歯を噛合わせるシフト機構39と、シフト機構に備えられ前記シフト操作による一方の回転体のシフト移動を待機させる待ち機構41と、一方及び他方の回転部材のドグ歯の回転位置を別々に検出する一対のセンサーと、一対のセンサーがそれぞれ検出する回転位置により前記ドグ歯が突き当たらずに噛合うための噛合いタイミングを演算し待ち機構の待機を解除する制御部45とを備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向へシフト移動可能な一方の回転部材と、
前記一方の回転部材との間でトルク伝達を行わせるための他方の回転部材と、
前記一方及び他方の回転部材のそれぞれに備えられ回転方向に噛合って前記トルク伝達を行わせるドグ歯と、
前記一方の回転体をシフト操作によりシフト移動させて前記ドグ歯を噛合わせるシフト機構と、
前記シフト機構に備えられ前記シフト操作による前記一方の回転体のシフト移動を待機させる待ち機構と、
前記一方及び他方の回転部材のドグ歯の回転位置を別々に検出する一対のセンサーと、
前記一対のセンサーがそれぞれ検出する回転位置により前記ドグ歯が突き当たらずに噛合うための噛合いタイミングを演算し前記待ち機構の待機を解除する制御部と、
を備えた噛合い機構。
【請求項2】
請求項1の噛合い機構であって、
前記制御部は、前記待ち機構の待機の解除を前記一方及び他方の回転部材間の回転差又は入力トルクを低減させながら行う、
噛合い機構。
【請求項3】
請求項1又は2の噛合い機構であって、
前記一方の回転部材は、入力軸又は出力軸に備えられたクラッチリングであり、
前記他方の回転部材は、前記入力軸又は出力軸に備えられた常時噛合いの変速ギヤの一方であり、
前記クラッチリングのドグ歯が前記一方の変速ギヤのドグ歯に噛合うと前記常時噛合いの変速ギヤを介して前記入出力軸間のトルク伝達を行わせる、
噛合い機構。
【請求項4】
請求項1又は2の噛合い機構であって、
前記センサーは、前記入力軸の回転パルスを検出する入力軸センサーと前記出力軸の回転パルスを検出する出力軸センサーとを備えた、
噛合い機構。
【請求項5】
請求項1又は2の噛合い機構であって、
前記待ち機構は、伝達部とシフト駆動アームと解除機構とを備え、
前記伝達部は、シフト機構の操作力を弾性体の介在により伝達し、
前記シフト駆動アームは、前記伝達部を介した操作力で動作し、
前記解除機構は、前記シフト駆動アームの動作を解除可能に止めて前記操作力を前記弾性体に蓄積させ前記制御部の制御で前記解除を行わせる、
噛合い機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両等に供される噛合い機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の噛合い機構として特許文献1に記載の鞍乗型車両に適用されたものがある。
【0003】
この噛合い機構は、回転角検出器で検出された入力軸及び出力軸の少なくともいずれかの回転角に基づいて処理の開始タイミングを設定し、ドグ当たりが生じた場合と、ドグ当たりが生じない場合とに分けた制御を行っている。かかる制御は、シフトペダル操作検出器による操作の検出タイミングを基準とした動力源の出力の増大又は減少を開始するタイミングが異なるよう、少なくとも動力源の出力を増大又は減少する処理を開始するようにしているものである。
【0004】
これにより、例えばドグ当たりに拘わらず、ショックをキャンセルするようなタイミングで処理を開始することができる。この結果、運転者の足の操作力によって変速段の切換えの動作が行われる変速機でも、イナーシャ相ショックを低減することができるとしている。
【0005】
しかし、かかる噛合い機構では、操作者により任意のタイミングで行われるシフトペダル操作に対しドグ歯の当たりは防止できないという問題がある。つまり、ドグ歯当たりが生じる場合に、ドグ歯当たりの生じない場合よりも遅いタイミングで動力減少処理を開始する。このため、ドグ歯当たりの影響を抑えることはできるが、ドグ歯のエッジ当たりを招くという問題は残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、操作者により任意のタイミングで行われるシフト操作に対しドグ当たりの影響を抑えることはできるが、ドグ歯のエッジ当たりを招く点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の噛合い機構は、操作者により任意のタイミングで行われるシフト操作に対しドグ歯のエッジ当たりを無くすことを可能とするために、軸方向へシフト移動可能な一方の回転部材と、前記一方の回転部材との間でトルク伝達を行わせるための他方の回転部材と、前記一方及び他方の回転部材のそれぞれに備えられ回転方向に噛合って前記トルク伝達を行わせるドグ歯と、前記一方の回転体をシフト操作によりシフト移動させて前記ドグ歯を噛合わせるシフト機構と、前記シフト機構に備えられ前記シフト操作によるシフト移動を待機させる待ち機構と、前記一方及び他方の回転部材のドグ歯の回転位置を別々に検出する一対のセンサーと、前記一対のセンサーがそれぞれ検出する回転位置から前記ドグ歯が突き当たらずに噛合うための噛合いタイミングを演算し前記待ち機構の待機を解除する制御部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の噛合い機構は、上記構成としたため、一対のセンサーがそれぞれ検出する回転位置等からドグ歯が突き当たらずに噛合うための噛合いタイミングを演算し待ち機構の待機を解除するから、操作者により任意のタイミングで行われるシフト操作に対するドグ歯のエッジ当たりを無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1に係り、ドグ歯を用いた噛合い機構を有するトランスミッションの要部概略断面図である。
【
図2】
図1のトランスミッションに用いる待ち機構の概略図である。
【
図3】
図1のトランスミッションに用いる待ち機構が共用する弾性体を備えたクイックシフトセンサーに係り、(A)はOFF状態、(B)はシフトアップ時、(C)はシフトダウン時の断面図である。
【
図4】
図1のトランスミッションの待ち機構を含めたシフトアップ時のタイムチャートである。
【
図5】実施例2に係り、ドグ歯を用いた噛合い機構を有するトランスミッションの他の例を示す概略断面図である。
【
図6】
図5のトランスミッションに用いるドグ歯の浅い噛合いを示す要部断面図である。
【
図7】比較例に係るシフトピンとシフトドラムとの関係を示す要部展開図である。
【
図8】
図5のトランスミッションに用いるドグ歯の噛合いの失敗例を示す要部断面図である。
【
図9】
図5のトランスミッションに用いるシフトピンの位置を示すシフトドラムの展開図である。
【
図10】
図9のシフトドラムにおける要部展開図である。
【
図11】シフトドラムが有するチェック機構の説明図である。
【
図12】比較例に係りドグ歯の噛合い状態とシフトドラムに対するシフトピンの位置との関係を示す一蘭図である。
【
図13】実施例2に係りドグ歯の噛合い状態とシフトドラムに対するシフトピンの位置との関係を示す一蘭図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
操作者により任意のタイミングで行われるシフト操作に対するドグ歯のエッジ当たりを無くすことを可能にするという目的を、以下のように実現した。
【0012】
軸方向へシフト移動可能な一方の回転部材と、一方の回転部材との間でトルク伝達を行わせるための他方の回転部材と、一方及び他方の回転部材のそれぞれに備えられ回転方向に噛合って前記トルク伝達を行わせるドグ歯と、一方の回転体をシフト操作によりシフト移動させて前記ドグ歯を噛合わせるシフト機構と、シフト機構に備えられ前記シフト操作による前記一方の回転体のシフト移動を待機させる待ち機構と、一方及び他方の回転部材のドグ歯の回転位置を別々に検出する一対のセンサーと、一対のセンサーがそれぞれ検出する回転位置により前記ドグ歯が突き当たらずに噛合うための噛合いタイミングを演算し前記待ち機構の待機を解除する制御部とを備える形態で実現した。
【0013】
噛合い機構は、操作者の任意のシフト操作によりドグ歯を噛合わせるものであれば適用する対象は限定されない。例えば、四輪車、二輪車、バギー車、スノーモービル、鞍乗型車両、産業機械、農業機械、船舶、小型飛行機等に適用することができる。
【0014】
一方の回転部材は、クラッチリングで実現するが、クラッチリングを兼ねたギヤ等で実現してもよい。
【0015】
ドグ歯は、一般的なドグ歯、シームレスシフト用のドグ歯等特で限定されずに実現できる。
【0016】
シフト機構は、一方の回転体をシフト操作によりシフト移動させて前記ドグ歯を噛合わせることができればよく、シフトペダルによるシフト操作、シフレバーによるシフト操作等でも限定されずに実現できる。
【0017】
待ち機構は、シフト操作による一方の回転体のシフト移動を待機させることができればよく、弾性体、ソレノイド等を含んで実現できる。
【0018】
待ち機構は、伝達部とシフト駆動アームと解除機構とを備え、伝達部は、シフト機構の操作力を弾性体の介在により伝達し、シフト駆動アームは、伝達部を介した操作力で動作し、解除機構は、シフト駆動アームの動作を解除可能に止めて操作力を弾性体に蓄積させ制御部の制御で解除を行わせる形態で実現した。
【0019】
シフト駆動アームの動作は、ソレノイドで止めて実現するが、ソレノイドを電動モーターに代えて実現することもできる。また、伝達部を電気的に構成し、シフト機構の操作を電気的に検出し、演算した噛合いタイミングでソレノイドや電動モーターによりシフト駆動アームを動作させる形態で実現することもできる。
【0020】
制御部は、待ち機構の待機の解除を一方及び他方の回転部材間の回転差又は入力トルクを低減させながら行う形態で実現した。回転差及び入力トルクの双方を低減させて実現することも含まれる。
【0021】
回転差又は入力トルクの低減は、内燃機関の場合に点火カットで実現するが、一方及び他方の回転部材間の回転差又は入力トルクを低減させることができればよい。回転差又は入力トルクの低減は、点火時期変更、燃料カット、入力軸ブレーキ、発進クラッチ切断で実現することもできる。動力が電動モーターの場合は、電流低減、入力軸ブレーキ(回生)等で実現することもできる。
【0022】
一方の回転部材は、入力軸又は出力軸に備えられたクラッチリングであり、他方の回転部材は、入力軸又は出力軸に備えられた常時噛合いの変速ギヤの一方であり、クラッチリングのドグ歯が一方の変速ギヤのドグ歯に噛合うと常時噛合いの変速ギヤを介して入出力軸間のトルク伝達を行わせる形態で実現した。
【0023】
センサーは、入力軸の回転パルスを検出する入力軸センサーと出力軸の回転パルスを検出する出力軸センサーとを備えて実現した。
【実施例0024】
[トランスミッションの概要]
図1は、ドグ歯を用いた噛合い機構を有するトランスミッションの要部概略断面図である。
【0025】
図1のトランスミッション1は、例えば鞍乗型車両に用いられているものである。
図1のように、トランスミッション1は、入力軸3及び出力軸5を備えている。これら入力軸3及び出力軸5は、軸受等によりトランスミッションケース(図示せず。)に回転自在に支持されている。
【0026】
入力軸3と出力軸5とには、複数段の変速ギヤとして1速ギヤ7、9、2速ギヤ11、13、3速ギヤ15、17、4速ギヤ19、21、5速ギヤ23、25、6速ギヤ27、29が支持され、相互に常時噛合っている。
【0027】
入力軸3の1速ギヤ7、3速ギヤ15は、入力軸3に一体回転可能に支持され、出力軸5の2速ギヤ13、4速ギヤ21、5速ギヤ25、6速ギヤ29は、出力軸3に一体回転可能に支持されている。
【0028】
入力軸3の2速ギヤ11、4速ギヤ19、5速ギヤ23、6速ギヤ27は、入力軸3に相対回転可能に支持され、出力軸5の1速ギヤ9、3速ギヤ17は、出力軸5に相対回転可能に支持されている。
【0029】
トランスミッション1は、変速のための噛合い機構31を備えている。噛合い機構31は、一方の回転部材33、35、37と、他方の回転部材9、11、17、19、23、27と、ドグ歯33a、33b、35a、35b、37a、37b、9a、11a、17a、19a、23a、27aと、シフト機構39と、待ち機構41と、一対の入力軸センサー43a、43bと、制御部45とを備えている。
【0030】
一方の回転部材33、35、37は、第1、第2、第3のクラッチリングで構成されている。第1、第2、第3のクラッチリング33、35、37は、出力軸5へのスプライン嵌合により軸方向へシフト移動可能となっている。
【0031】
他方の回転部材9、11、17、19、23、27は、第1のクラッチリング33との間でトルク伝達を行わせるための出力軸5上の1速ギヤ9及び3速ギヤ17,第2のクラッチリング35との間でトルク伝達を行わせるための入力軸3上の2速ギヤ11及び5速ギヤ23,第3のクラッチリング37との間でトルク伝達を行わせるための入力軸3上の4速ギヤ19及び6速ギヤ27である。
【0032】
ドグ歯33a及び33bは、第1のクラッチリング33に備えられ、ドグ歯9a及びドグ歯17aは、1速ギヤ9及び3速ギヤ17のそれぞれに分けて備えられている。ドグ歯33a及びドグ歯9a又はドグ歯33b及びドグ歯17aが回転方向に噛合って1速ギヤ9又は3速ギヤ17から出力軸5へのトルク伝達を行わせる。
【0033】
ドグ歯35a及び35bは、第2のクラッチリング35に備えられ、ドグ歯11a及び23aは、2速ギヤ11及び5速ギヤ23のそれぞれに分けて備えられている。ドグ歯35a及び11a又はドグ歯35b及びドグ歯23aが回転方向に噛合って入力軸3から2速ギヤ11又は5速ギヤ23へのトルク伝達を行わせる。
【0034】
ドグ歯37a及び37bは、第3のクラッチリング37に備えられ、ドグ歯19a及び27aは、4速ギヤ19及び6速ギヤ27とのそれぞれに分けて備えられている。ドグ歯37a及び19a又はドグ歯37b及びドグ歯27aが回転方向に噛合って入力軸3から4速ギヤ19又は6速ギヤ27へのトルク伝達を行わせる。
【0035】
ドグ歯33a、33b、35a、35b、37a、37b、9a、11a、17a、19a、23a、27aの形状は、通常のドグ歯、シームレスシフトのドグ歯等特に限定されず、種々の形状を採用することができる。実施例はシームレスシフトで説明する。
【0036】
シフト機構39は、第1、第2、第3のクラッチリング33、35、37の何れかをシフト操作によりシフト移動させるものである。シフト機構39は、後述のシフトペダルのシフト操作に連動するシフトドラム(図示せず。)、シフトロッド、シフトフォークなどを備えている。シフトドラムの回転がシフトカム、シフトロッドを介して第1、第2、第3のクラッチリング33、35、37の各別のシフトフォークに伝達され、シフト操作に応じて第1、第2、第3のクラッチリング33、35、37の何れかがシフト移動される。
【0037】
第1のクラッチリング33をシフト移動させてドグ歯33a及びドグ歯9aの1速ドグクラッチ又はドグ歯33b及びドグ歯17aの3速ドグクラッチを噛合わせる。第2のクラッチリング35をシフト移動させてドグ歯35a及びドグ歯11aの2速ドグクラッチ又はドグ歯35b及びドグ歯23aの5速ドグクラッチを噛合わせる。第3のクラッチリング37をシフト移動させてドグ歯37a及びドグ歯19aの4速ドグクラッチ又はドグ歯27a及びドグ歯37bの6速ドグクラッチを噛合わせる。
【0038】
待ち機構41は、シフト機構39に備えられシフト操作による第1クラッチリング33又は第2クラッチリング35若しくは第3のクラッチリング37のシフト移動を待機させるものである。
【0039】
一対のセンサー43a及び43bは、一方及び他方の回転部材のドグ歯の回転位置を別々に検出する入力センサー及び出力軸センサーである。入力軸センサー43aは、入力軸3の検出歯車47を検出し、出力軸センサー43bは、出力軸5の検出歯車49を検出するように取り付けられている。入力軸センサー43a及び出力軸センサー43bの検出パルスは制御部45へ入力されるようになっている。
【0040】
入力軸センサー43aは、入力軸3の回転位置を検出する。この検出に基づいて第2クラッチリング35及び第3のクラッチリング37のドグ歯35a、35b、37a、37b、1速、3速ギヤ9,17のドグ歯9a、17aの回転位置を検出する。
【0041】
出力軸センサー43bは、出力軸5の回転位置を検出する。この検出に基づいて第1クラッチリング33のドグ歯33a、33b、2速、4速、5速、6速ギヤ11、19、23、27のドグ歯11a、19a、23a、27aの回転位置を検出する。
【0042】
制御部45は、変速時に各変速段のドグ歯33a、9a、ドグ歯35a、11a、ドグ歯33b、17a、ドグ歯37a、19a、ドグ歯35ba、23a、ドグ歯37b、27aがそれぞれ突き当たらずに噛合うための噛合いタイミングを演算し待ち機構41の待機を解除するように制御を行う。
【0043】
制御部45は、MPU、ROM、RAMなどを備えて構成されている。制御部45は、入力されたパルス信号と、シフトアップの各変速段のドグ歯35a、11a、ドグ歯33b、17a、ドグ歯37a、19a、ドグ歯35ba、23a、ドグ歯37b、27aが噛み合うときの入出力軸3、5の相対回転位置と、どの変速段のドグ歯33a、9a・・・が噛み合っているかの情報と、各変速段のドグ歯33a、9a・・・の回転位置のカウントとから前記噛合うための噛合いタイミングを演算する。
【0044】
(シフト機構及び待ち機構)
図2は、シフト機構39のシフトペダル等を示す機構図である。
【0045】
図2のシフトペダル51は、鞍乗型車両の運転者の足で操作されるタイプであり、支軸53により車体側に回転自在に支持されている。シフトペダル51は、足で操作する操作部55とロッド連結部56とを備えている。
【0046】
ロッド連結部56には、伝達部として連動ロッド58の一端が回転自在に結合され、連動ロッド58の他端に当接板57が固定されている。連動ロッド58は、伸縮構造で弾性体59が備えられ、図示しないシフトセンサーが備えられている。シフトセンサーの検出信号は制御部45に入力されるようになっている。なお、
図2では、弾性体59を表現しているが、後述のようにクイックシフトセンサーとしてケース内に配置されている。待ち機構41の弾性体59は、クイックシフトセンサーの弾性体を共用している。待ち機構41及びクイックシフトセンサーの動作についてはシフトペダル51の操作と共に後述する。
【0047】
当接板57には、連動ロッド58と共に当接板57を挟むようにアーム連結部60が固定されている。アーム連結部60は、シフト駆動アーム61の一端に相対回転可能に結合されている。シフト駆動アーム61の他端は、軸61aが図示しないシフトシャフト(図示せず。)に同軸に結合されている。シフトシャフトの回転によりシフトラチェット(図示せず。)を介してシフトドラム(本実施例では図示せず。)が回動すると前記のように第1、第2、第3のクラッチリング33、35、37の何れかがシフト移動される。
【0048】
当接板57には、アーム連結部60に並ぶ位置にストッパー63が配置されている。ストッパー63は、車体側に回転自在に支持されている。ストッパー63は、回転軸周りの連結突起63aに解除機構65の解除ロッド65aが回転自在に結合されている。ストッパー63は、解除機構65により回転が位置決められ、先端のローラー部63bが当接板57に当接している。解除機構65は、ソレノイドなどで構成されている。解除機構65は、制御部45に接続され、電気的に制御されるようになっている。
【0049】
待ち機構41は、解除機構65、ストッパー63、当接板57,及び共用する弾性体59で構成され、シフトペダル51の操作力を一時的に蓄積する弾性体59に蓄積する。制御部45による制御で解除機構65が動作し、待ち機構41が解除される。
【0050】
図3(A)は、クイックシフトセンサーのOFF時の断面図である。
図3(B)は、クイックシフトセンサーのシフトアップ時の断面図である。
図3(C)は、クイックシフトセンサーのシフトダウン時の断面図である。
【0051】
図3のように、連動ロッド58は、ペダル側の第1ロッド58aと当接板側の第2ロッド58bとに分割されている。弾性体59を備えるクイックシフトセンサー67は、第1、第2ロッド58a、58b間に介設されている。第1ロッド58aにケース67aが固定され、第2ロッド58bにケース67a内に配置された一対のフランジ67b、67cが設けられている。フランジ67b、67c間に可動の接点板67d、67eが配置され、接点板67d、67e間に弾性体59が介設されている。一方の接点板67dにスイッチ67fが取り付けられ、スイッチ67fの接点が他方の接点板67eに向いている。接点板67d、67eは、制御部45側に電気的に接続され、スイッチ67fの検出信号が制御部45へ入力されるようになっている。
【0052】
(シフトアップ操作)
図2において、シフトペダル51の操作部53が足の操作で引き上げ方向(矢印方向)にシフトアップ操作されるとロッド連結部56が連動ロッド58を当接板57に対して軸方向に押圧する。
【0053】
連動ロッド58が押圧されると
図3のように第1ロッド58aのケース67aが一方の接点板67dを押圧する。この押圧により
図3(A)の状態から
図3(B)のように接点板67dが第2ロッド58bに対して相対移動し、弾性体59が圧縮されて操作力が蓄積される。スイッチ67fは、他方の接点板67eに接触する。この接触でスイッチ67fがONとなってシフト操作を検出し、検出信号を制御部45へ入力する。
【0054】
制御部45が演算する噛合いタイミングが適正でなければ
図2の状態で待ち機構41は解除されず、適正であれば制御部45の制御で待ち機構41の解除機構65が動作する。この動作によりストッパー63の連結突起63aが引かれ、ストッパー63が回転してローラー部63bが当接板57から瞬時に外れる。この外れにより当接板57の位置決めが解放され、弾性体59が解放されて連動ロッド58が伸長すると当接板57が瞬時に移動する。
【0055】
この移動によりアーム連結部60を介してシフト駆動アーム61の一端が押し込まれ、シフト駆動アーム61が軸61aを中心に回動する。軸61aの回転によりシフトシャフト及びシフトラチェットを介してシフトドラムが回動する。この回動によりシフトアップ操作に応じて前記のように第1、第2、第3のクラッチリング33、35、37の何れかがシフト移動され、シフトアップ時に1~6速の各変速段のドグ歯33a、9a(1速)、ドグ歯35a、11a(2速)、ドグ歯33b、17a(3速)、ドグ歯37a、19a(4速)、ドグ歯35ba、23a(5速)、ドグ歯37b、27a(6速)を適正な噛合いタイミングで噛合わせることができる。
【0056】
(シフトダウン操作)
シフトペダル51の操作部53が足の操作で踏み込み方向(反矢印方向)にシフトダウン操作されるとロッド連結部56が連動ロッド58を当接板57に対し軸方向に引く方向へ動作する。
【0057】
連動ロッド58が引かれると
図3のように第1ロッド58aによりケース67aが他方の接点板67eから離れる方向に引かれる。この引き動作により
図3(A)の状態から
図3(C)のように他方の接点板67eがフランジ67cに対して離れるように移動し、弾性体59が圧縮されて他方の接点板67eがスイッチ67fに接触する。この接触でスイッチ67fがONとなってシフト操作を検出し、検出信号を制御部45へ入力する。
【0058】
シフトダウン操作では待ち機構41は働かず、制御部45がスイッチ67fの信号に基づき変速段を記憶すると共に、1~5速の各変速段のドグ歯33a、9a(1速)、ドグ歯35a、11a(2速)、ドグ歯33b、17a(3速)、ドグ歯37a、19a(4速)、ドグ歯35ba、23a(5速)を噛合わせることができる。
【0059】
(噛合いタイミング)
噛合いタイミングの検出は入力軸と出力軸をパルスセンサーで位相検出することに基づいて行う。入力軸3は、各変速段の入力側のドグ歯に対しギヤの噛合いにより、或いはクラッチリングにより機械的に連結されている。例えば1速、3速では、1速ギヤ7、9の噛合い、3速ギヤ15、17の噛合いによりドグ歯9a、17aが入力軸3に連結されている。2速、5速では、第2のクラッチリング35によりドグ歯35a、35bが入力軸3に連結されている。4速、6速では、第3のクラッチリング37によりドグ歯37a、37bが入力軸3に連結されている。
【0060】
出力軸5も同様に、各変速段の出力側のドグ歯に対しギヤの噛合いにより、或いはクラッチリングにより機械的に連結されている。例えば1速、3速では、第1のクラッチリング33によりドグ歯33a、33bが出力軸5に連結されている。2速、5速では、2速ギヤ11、13の噛合い、5速ギヤ23、25の噛合いによりドグ歯11a、23aが出力軸5に連結されている。4速、6速では、4速ギヤ19、21の噛合い、6速ギヤ27、29の噛合いによりドグ歯17a、27aが出力軸5に連結されている。
【0061】
したがって、入力軸3及び出力軸5の検出パルスをカウントすれば各変速段のドグ歯33a、9a(1速)、ドグ歯35a、11a(2速)、・・・の回転角度を算出することができる。
【0062】
何れかの変速段のドグクラッチのドグ歯33a、9a(1速)、ドグ歯35a、11a(2速)、・・・が噛み合っている場合、他の変速段のギヤ及びドグ歯は一定の比率で規則的に回転する。その結果、各変速段のドグ歯が突き当たらずに噛合うための噛合いタイミングは規則的に表れる。
【0063】
何れかの変速段にシフト操作しドライブトルクを印加すると入出力軸3、5間の駆動力伝達に遊びがなくなる。このとき制御部45が現在の変速段のドグクラッチの入力側のドグ歯と出力側のドグ歯の相対角度が0°であることを記憶する。この操作をキャリブレーションとする。キャリブレーションは、各変速段のドグクラッチがドライブトルク印加状態で噛み合うたびに実行される。
【0064】
キャリブレーションをした変速段をここでは例えば3速とする。
【0065】
キャリブレーションされた状態から4速にアップシフトする場合、4速のドグクラッチが噛み合った瞬間から3速の入力側のドグ歯17aと出力側のドグ歯33bに相対角度が生じる。その角度変化を検出し、3速の噛み合い離脱判定をする。噛み合い離脱時点から検出パルスにより3速のドグ歯17a、33bの回転角のカウントを開始する。
【0066】
パルスのカウントは、各変速段の入力側のドグ歯と出力側のドグ歯をそれぞれ独立して行う。例えば、6速変速機であれば制御部45の制御ソフト上に12個のパルスカウンターを設定する。
【0067】
3速から4速へアップシフトする際に、パルスカウンターのパルス数から相対角度を演算し、ドグ歯19a、37aの噛合いタイミングを割り出す。
【0068】
(ドグ歯の回転角の割り出し)
初回のキャリブレーションは、1段ずつ全段をかみ合わせる。噛合った位置として入出力軸3、5の入力軸センサー43a、43bの検出パルスの関係を制御部45が記憶する。ドグ歯が噛み合った位置を検出した位相を記憶し、ドグ歯が抜けた後も何回転何度かを記憶することで再度の噛合いにおけるドグ歯が一致する噛合いタイミングを演算する。
【0069】
(入出力軸のドグ位相)
噛合いが外れたときから再度ドグ歯が一致する角度を算出する。
【0070】
ギヤ比×(360/爪数)=次のドグ歯が同じ角度となる回転角
例1:1速 ギヤ比15/36、ドグ歯の歯数5の場合→入力軸3の検出パルスから出力軸5上の1速ギヤ9の回転角を算出する。
(36/15)×(360/5)=172.8°
【0071】
入力軸3の回転が172.8°でドグ歯9aが同じ回転角度になる。
【0072】
例2:2速 ギヤ比19/39、ドグ歯の歯数5の場合→出力軸5の検出パルスから入力軸3上の2速ギヤ11の回転角を算出する。
(19/39)×(360/5)=35.07692°
【0073】
入力軸3の回転が147.7895°でドグ歯11aが同じ回転角度になる。
【0074】
制御部45のカウンターメモリーは、オーバーフローを防ぐために割り切れる回転角毎にリセットし0°とする。
【0075】
例1の割り切れる回転角=(36、15)の最小公倍数→180回転
例2の割り切れる回転角=(39、19)の最小公倍数→741回転
この角度でリセットが行われる。
【0076】
(N→1速)シフト
(1)1速ギヤ9の回転角検出
1速ギヤ9は、入力軸3の1速ギヤ7と噛合って回転するため1速減速比の回転角となり、入力軸3側の入力軸センサー43aの検出パルスをカウントする。
(入力軸側パルス数×パルス間隔の角度×1速減速比)=1速ギヤ9の回転角
【0077】
(2)第1のクラッチリングの回転角検出
第1のクラッチリング33は、出力軸5と一体に回転するため出力軸5側の出力軸センサー43bの検出パルスをカウントする。
(出力軸側パルス数×パルス間隔の角度)=第1のクラッチリング33の回転角
【0078】
(3)噛合いタイミングの演算
シフト開始から噛合い可能となる軸方向距離に到達する時間を制御部45に記憶させておく。1速ギヤ9及び第1のクラッチリング33の相対角度を演算し、第1のクラッチリング33のドグ歯33aが1速ギヤ9のドグ歯9aに噛合い可能な軸方向距離に到達する時間から逆算し、シフト開始タイミングが演算される。
【0079】
(1速→2速)シフト
1速ギヤ9及び第1のクラッチリング33の1速ドグクラッチ(ドグ歯9a、33a)が噛み合って駆動されている状態から第2のクラッチリング35及び2速ギヤ11の2速ドグクラッチ(ドグ歯35a、11a)を噛合わせる。1速ギヤ9及び第1のクラッチリング33の1速ドグクラッチは噛合いが外れる。
【0080】
(4)2速ギヤ11の回転角検出
2速ギヤ11は、出力軸5の2速ギヤ13と噛合って回転するため2速減速比の回転角となり、出力軸5側の出力軸センサー43bの検出パルスをカウントする。
(出力軸側パルス数×パルス間隔の角度×2速減速比)=2速ギヤ11の回転角
【0081】
(5)第2のクラッチリングの回転角検出
第2のクラッチリング35は、入力軸3と一体に回転するため入力軸3側の入力軸センサー43aの検出パルスをカウントする。
(入力軸側パルス数×パルス間隔の角度)=第2のクラッチリング35の回転角
【0082】
(6)噛合いタイミングの演算
シフト開始から噛合い可能となる軸方向距離に到達する時間を制御部45に記憶させておく。2速ギヤ11及び第2のクラッチリング35の相対確度を演算し、第2のクラッチリング35のドグ歯35aが2速ギヤ11のドグ歯11aに噛合い可能な軸方向距離に到達する時間から逆算し、シフト開始タイミングが演算される。
【0083】
何れの変速段での噛合いタイミングにおいても点火カットによる回転位相制御を行っている。但し、点火カットは省略することもできる。
【0084】
(角速度検出)
前記説明において角度変化は、直前の検出パルス間の時間から角速度を演算し、この角速度の情報を基に何ms後に何度に達するかを推定することができる。
【0085】
(タイムチャート)
図4は、シフトアップ時の待ち機構、シフトドラム、及びドグ歯の噛合いタイミング等との関係を示すタイムチャートである。
図4の左側は、シフトアップの一例である3速から4速への変速例を示す。
図4の右側は、シフトアップの一例である2速から3速への変速例を示す。
【0086】
図4の左側(3―4UP)は、3速から4速へのシフトアップに関するタイムチャートを示している。上から順に変速指令の矩形波、待ち機構解除信号の矩形波、シフトドラム変位線、3rd相対角度(3速ドグクラッチのドグ歯33bのドグ歯17aに対する相対角度)、4thドグの一致周期(4速ドグクラッチのドグ歯19aのドグ歯37aに対する一致周期)、3rdドグの一致周期(3速ドグクラッチのドグ歯33bのドグ歯17aに対する一致周期)、点火カット信号が示されている。
【0087】
変速指令の矩形波において、A時点が4速ドグクラッチのドグ歯19aのドグ歯37aに対する噛合い点である。
【0088】
前記のようにシフトペダル51によるシフト操作は、ライダーが足で任意のタイミングで行う。このタイミングは、制御部45が演算する噛合いタイミングと合っているときもあれば合わないときもある。
【0089】
シフトペダル51からの変速指令があり噛合いタイミングが合わないとき、待ち機構解除信号は出されず、
図2の状態が維持される。
【0090】
シフトペダル51からの変速指令があり噛合いタイミングが合ったとき、待ち機構解除信号は出され、待ち機構41及びシフトドラム等の動作時間、例えば50m/s程度を考慮して待ち機構41を解除し、A時点で第3のクラッチリング37を動作させて4速ドグクラッチのドグ歯37aをドグ歯19aに噛合わせる。
【0091】
このとき、シフトドラムは、3rd位置で待ち機構41により変位が止められている状態から待ち機構41による解除と共に変位し、4th位置となる。
【0092】
変速前後の3rd相対角度である3速ドグクラッチのドグ歯33bのドグ歯17aに対する相対角度は、3速ドグ歯が噛合っているときに相対角度0°である。3速ドグ歯が外れて4速ドグ歯が噛合うと3速のドグ歯17a、33bの相対角度がドグ歯が周回で3個と仮定すると120°毎に一致周期がくる。
【0093】
4thドグの一致周期である4速ドグクラッチのドグ歯19aのドグ歯37aに対する一致周期は、前記のように一定周期で現れており、その噛合いタイミングで噛合うように待ち機構41が解除される。4thが噛合った後は、上記のように3速ドグ歯の相対角度がずれていき4速ドグ歯の相対角度は0°となる。
【0094】
(点火カットタイミング)
シフトアップ時の慣性マスによるショックトルクを低減するため、適切なタイミングで点火カットを行う。
【0095】
噛合いタイミングは、前記のように検出パルス数から演算した相対角度により行う。しかし実際にドグクラッチのドグ歯が噛み合うタイミングは変速動作を開始してから時間の遅れがある。したがって現実のシフトタイミングはセンサーの信号に前記時間の遅れを加味して推定する。
【0096】
点火カットは、適切なタイミングの所定時間前に開始し所定時間継続する。適切なタイミング及び継続時間は変速時点で印加されるトルクや慣性マス及び回転速度等により決定される。
【0097】
【0098】
(C)の点火カットは、噛合い点Aよりも所定時間前に設定時間だけ行う。
【0099】
(D)の点火カットは、噛合い点Aよりも所定時間前から所定時間後まで継続する。
【0100】
これによって、噛合い前に相対回転しているクラッチリング及びギヤ間のドグ歯の回転差を低減させながら行うことができ、変速ショックを抑制できる。
【0101】
図4の右側(2―3UP)は、2速から3速へのシフトアップに関するタイムチャートの一部を示している。
【0102】
例えば3速へのシフトアップにおいて3速ドグクラッチのドグ歯33bのドグ歯17aに対する演算した相対角度は、実際の噛合いタイミングとのずれtを生ずる。このため、ずれtは前記のようにキャリブレーションによりリセットされ、ずれが蓄積されることはない。
【0103】
[作用効果]
本発明の実施例では、一対の入力軸センサー43a、43bがそれぞれ検出する回転位置等からドグ歯が突き当たらずに噛合うための噛合いタイミングを演算し待ち機構41の待機を解除するから、操作者により任意のタイミングで行われるシフト操作に対するドグ歯33a、9a(1速)、ドグ歯35a、11a(2速)、ドグ歯33b、17a(3速)、ドグ歯37a、19a(4速)、ドグ歯35ba、23a(5速)、ドグ歯37b、27a(6速)のエッジ当たりを無くすことができる。
【0104】
待ち機構41は、クイックシフトセンサーの弾性体59を共用することができ、構造を簡単にすることができる。
しかし、噛合いタイミングを合わせる機能が故障したとき、或いは噛合いタイミングを合わせる機能を備えないタイプのトランスミッションにおいてシームレスシフトが行われる構造であると、後述のように不具合を招く恐れがある。
本実施例2のトランスミッション1は4段変速であり、第1、第2のクラッチリング33、35共に出力軸5上に配置されている。第2のクラッチリング35は2速ギヤ13と4速ギヤ21との間に配置されている。
入力軸3にはクラッチ69を介して入力ギヤ71が支持されている。入力ギヤ71は駆動ギヤ73に噛合い、駆動ギヤ73はエンジン75のクランクシャフト77に結合されている。
第1、第2のクラッチリング33、35は、シフトフォーク79、81に係合構成されている。シフトフォーク79、81のシフトピン83、85は、シフトドラム87のシフトカム89、91に係合配置されている。
シフト操作によりシフトドラム87が回転するとシフトカム89、91がシフトピン83、85をガイドする。このガイドによりシフトカム89、91の形状に応じてシフトフォーク79、81を介して第1、第2のクラッチリング33、35が選択的に移動する。この移動によりシフト操作に応じてドグ歯の噛合いを選択的に行わせることができる。
シフトドラム87には、チェック機構93が設けられている。チェック機構93は、チェックカム95がシフトドラム87の端部に取り付けられている。チェックカム95の周面にはミッションケース側に支持されたチェックスプリング97で付勢されたチェックボール99が弾接する構成となっている。
ドグ噛33b及びドグ噛17aは、周方向でそれぞれ均一の高さに設定されている。ドグ噛33b及びドグ噛17aは、出力軸5の軸心に対して螺旋状に形成されている。このため、ドグ噛33b及びドグ噛17aが噛合うとき或は離脱するときネジのような動作を伴って相対的に螺旋ガイドされる。
3速ギヤ17のドグ噛17aの歯先には、離脱ガイド用の歯先斜面101が備えられている。ドグ噛17aには、ドライブトルク伝達方向の後部の歯先側にドライブ噛合い面103が備えられ、歯元側に移動ガイド面105が備えられている。ドグ歯17aの前部には、コースト噛合い面107が備えられている。
歯先斜面101は、出力軸5の回転軸心に対し回転方向に漸次傾斜して形成されている。この傾斜により歯先斜面101は、コースティングトルクにより他方のドグ歯33bの歯先をガイドして第1のクラッチリング33に対し噛合い解除方向の軸力を発生させる機能を有する。
ドグ噛17aのコースト噛合い面107は、変速時、エンジンブレーキ時にドグ歯33bが噛み合う。コースト噛合い面107は、歯先斜面101の傾斜下端において出力軸5の軸心方向に立ち上がっている。コースト噛合い面107は、出力軸5の回転軸心に対してコースティングトルクの伝達方向に対し歯底から歯先斜面101に向かって後方へ傾斜するように設定されている。このコースト噛合い面107の傾斜設定により、コースティングトルクによりドグ歯33bが噛み合ったときドグ歯33bを噛合い方向に引き込む作用を奏する。
ドグ噛33bの歯先面108は、平坦面やアール面(曲面)で形成されている。ドグ噛33bには、ドライブ噛合い面109、コースト噛合い面111が形成されている。ドライブ噛合い面109及びコースト噛合い面111は、ドグ噛17aのドライブ噛合い面103、コースト噛合い面107に対応して傾斜が設定されている。
つまり、3速から同時噛み合いを経て他の変速段の4速へシフトアップするとき3速のドグ歯33bが第1の噛合い位置から第2の噛合い位置となるように移動ガイド面105が第1のクラッチリング33を移動させる。
3速から4速へシフトアップするとき、シフトペダル51のシフトアップ操作によるシフトドラム87の回転に応じて第1、第2のクラッチリング33、35が同時噛み合いを経る。この同時噛合いは、第1のクラッチリング33の噛合いにより3速ギヤ17を出力軸5に結合している状態において第2のクラッチリング35の噛合いにより4速ギヤ21を出力軸5に結合する状態となる。
この同時噛合いを経て3速ドグクラッチの結合から4速ドグクラッチの結合へ変更するときに3速のドグ噛17a、33bが相対トルクを受けてドグ歯33bの歯先をドグ歯17aの歯先斜面101に当接させ、第1のクラッチリング33を3速ギヤ17から離間移動させる。
この場合、相対回転は、第1、第2のクラッチリング33、35での同時噛み合いにより下段の変速段に発生するコースティングトルク及び上段の変速段に発生するドライブトルクに起因する。
4速から3速へシフトダウンするときは、シフトペダル51のシフトダウン操作によるシフトドラム87の回転に応じて第2のクラッチリング35が噛み合いを離脱し、第1のクラッチリング33のドグ歯33bが3速ギヤ17のドグ歯17aに対して第1の噛合い位置となるように移動力を受ける。
このため、軸力Pが発生するとシフトピン83の推力によりシフトドラム87のカム山が押圧されてシフトドラム87が回転駆動されシフトピン83の推力を逃がすことができる。
したがって、ドグ歯17a及びドグ歯33bの噛合いタイミングが次に合うとチェックスプリング97の弾性エネルギーが解放され、チェックボール99がチェックカム95のカム山間に落ち込むようにしてチェックカム95が回転付勢される。
ここで、移動付勢機構117は、例えば出力軸5側に備えられスプリング(図示せず。)で径方向外側へ付勢されたチェックボール119を備えている。チェックボール119は第1のクラッチリング33の内周に形成された斜面に当接する構成となっている。斜面は、第1のクラッチリング33の軸方向で両側に形成されている。このような移動付勢機構は、第2のクラッチリング35と出力軸5との間にも同一構造で備えられている。