(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058789
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】サジー種子オイルを含有する遺伝子の発現増強剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/92 20060101AFI20240422BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240422BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20240422BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240422BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20240422BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240422BHJP
【FI】
A61K8/92
A61Q19/08
A61P17/18
A61P39/06
A61K36/185
A61K8/9789
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166105
(22)【出願日】2022-10-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】507307260
【氏名又は名称】宇航人ジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】309033932
【氏名又は名称】株式会社フィネス
(71)【出願人】
【識別番号】521342201
【氏名又は名称】株式会社サジーワン
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】楊 建標
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 守恒
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083BB11
4C083BB47
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C088AB12
4C088AC04
4C088BA07
4C088CA12
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC41
4C088ZC52
(57)【要約】
【課題】活性酸素種を消去する抗酸化酵素や抗酸化物質の合成にかかわる酵素などがコードされた抗酸化関連遺伝子の発現を増強することができる、新規の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤およびこれを含有する皮膚外用組成物を提供する。
【解決手段】サジー種子オイルを有効成分として含有する、抗酸化関連遺伝子の発現増強剤。前記抗酸化関連遺伝子の発現増強剤を含有し、抗酸化関連遺伝子の発現を増強するために用いられる、皮膚外用組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サジー種子オイルを有効成分として含有する、抗酸化関連遺伝子の発現増強剤。
【請求項2】
前記抗酸化関連遺伝子が、HMOX1、GCLC、GSR、GLRX、TXN、PRDX1およびCATからなる群から選択される1以上である、請求項1に記載の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤。
【請求項3】
皮膚に存在する前記抗酸化関連遺伝子の発現を増強させる、請求項1または2に記載の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤を含有し、抗酸化関連遺伝子の発現を増強するために用いられる、皮膚外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化関連遺伝子の発現増強剤および皮膚外用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、外界と生体を隔てる臓器である。皮膚は、紫外線など外的な環境に常に曝されており、活性酸素(フリーラジカル)が発生しやすい臓器である。また、加齢や乾燥、ストレス、生活習慣(飲酒や喫煙)などによっても、活性酸素が増えることが知られている。発生した活性酸素は、抗酸化酵素や抗酸化物質によって消去されているが、活性酸素の消去が追い付かず、活性酸素が過剰な状態となると、酸化が引き起こされる。皮膚の酸化は、肌荒れや、シミ、しわ、たるみなど老化現象を引き起こす原因の一つといわれている。
【0003】
抗酸化酵素や抗酸化物質の合成にかかわる酵素をコードする抗酸化関連遺伝子の発現を増強することで、肌荒れや皮膚の老化現象を抑えることができると考えられる。特許文献1には、抗酸化酵素の発現を増強させる材料として、炭素数が11~23の範囲であり、ポリエチレングリコール鎖におけるnが11~46の範囲内である、特定の構造を有するジアシルグリセロールPEG付加物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、健康や美容への意識が高まり、肌荒れや、皮膚の老化現象を抑えることができる材料が注目されている。かかる状況下、本発明は、新規の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤およびこれを含有する皮膚外用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0007】
<1> サジー種子オイルを有効成分として含有する、抗酸化関連遺伝子の発現増強剤。
<2> 前記抗酸化関連遺伝子が、HMOX1、GCLC、GSR、GLRX、TXN、PRDX1およびCATからなる群から選択される1以上である、前記<1>に記載の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤。
<3> 皮膚に存在する前記抗酸化関連遺伝子の発現を増強させる、前記<1>または<2>に記載の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤を含有し、抗酸化関連遺伝子の発現を増強するために用いられる、皮膚外用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤およびこれを含有する皮膚外用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0010】
<抗酸化関連遺伝子の発現増強剤>
本発明は、サジー種子オイルを有効成分として含有する、抗酸化関連遺伝子の発現増強剤(以下、「本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤」と記載する場合がある。)に関するものである。発明者らは、サジー種子オイルが、HMOX1やGSRなどの抗酸化関連遺伝子の発現を増強する作用を有することを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0011】
抗酸化関連遺伝子の発現増強とは、抗酸化関連遺伝子の転写産物および/または抗酸化関連遺伝子にコードされたタンパク質が増加することである。具体的には、抗酸化関連遺伝子(DNA)からmRNAへの転写を誘導または促進すること、mRNAからタンパク質への翻訳を誘導または促進することが挙げられる。
【0012】
(サジー)
サジー(沙棘、学名:Hippophae rhamnoides L.、英語名:Sea buckthorn)は、ユーラシア大陸原産のグミ科ヒッポファエ属の植物であり、7千万年以上も前から生育していたと言われている。
【0013】
(サジー種子オイル)
サジー種子オイルは、サジーの種子から抽出された油(疎水性成分)である。サジーの種子は、果実そのものや、果実を加工した後の残渣などから取り出して、オイルの抽出に用いることができる。その抽出方法は特に限定されず、従来公知の方法を利用して、サジー種子オイルを得ることができる。例えば、サジーの種子を、適宜、破砕や粉砕した後、超臨界二酸化炭素抽出法や、水蒸気蒸留法、有機溶媒抽出法、圧搾抽出法などの抽出方法により抽出し得られた抽出物をサジー種子オイルとして利用することができる。中でも、低温で抽出でき、熱に弱い成分も壊さずに抽出することができる超臨界二酸化炭素抽出法を利用することが好ましいため、サジー種子オイルは、サジー種子の超臨界二酸化炭素抽出物であることが好ましい。
【0014】
(抗酸化関連遺伝子)
抗酸化関連遺伝子は、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、一酸化窒素等の活性酸素種を消去する抗酸化酵素や、グルタチオンやビリルビン、チオレドキシンなどの抗酸化物質の生成を触媒する酵素などがコードされた遺伝子である。具体的には、HMOX1、グルタチオン関連の遺伝子(GCLC、GSR,GLRX、MGST2、GPX1、GSSなど)、TXN、CAT、PRDX1、SOD遺伝子(SOD1、SOD3など)、MT1F、NANOS2、NANOS3、NFE2L2などの遺伝子が挙げられる。なお、前記遺伝子は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に記載のGene symbolに従って遺伝子の略称で記載している。
【0015】
中でも、本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤は、HMOX1、GCLC、GSR、GLRX、TXN、PRDX1およびCATからなる群から選択される1以上の発現を増強する作用を有するものとして用いることができる。
【0016】
特に、本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤は、皮膚に存在するこれらの抗酸化関連遺伝子の発現を増強する作用を有するものとして用いることができる。
【0017】
本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤は、そのまま使用することもできるが、添加剤として製品に配合して使用することもできる。中でも、本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤は、皮膚外用組成物に用いることが好ましい。
【0018】
本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤やこれを配合した組成物の使用対象は、ヒトを含む動物である。ヒト以外の動物としては、イヌやネコなどが挙げられる。
【0019】
<皮膚外用組成物>
本発明の皮膚外用組成物は、本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤を含有するものである。すなわち、本発明の皮膚外用組成物は、サジー種子オイルを含有するものである。上記の通り、サジー種子オイルは、抗酸化関連遺伝子の発現を増強する作用があり、本発明の皮膚外用組成物は、抗酸化関連遺伝子の発現を増強するために用いることができる。サジー種子オイルは、天然物由来であり、安全性にも優れたものとすることができる。
【0020】
本発明の皮膚外用組成物は、サジー種子オイルにより皮膚細胞の抗酸化酵素や抗酸化物質にかかわる酵素の発現を増強することで、抗酸化能(活性酸素を消去する能力)を向上させる。これは、サジー種子オイルに含まれる抗酸化成分に起因する作用とは異なる作用である。この抗酸化能の向上により、肌荒れや、シミ、しわ、たるみなどを予防や改善することができる。これにより、肌のキメを整えたり、ハリやツヤを与えたりするなど、肌の状態を整えることができる。このため、本発明の皮膚外用組成物は、抗老化のために用いることが好ましい。
【0021】
本発明の皮膚外用組成物は、皮膚に適用することができるものであればよく、化粧料、医薬部外品または医薬品のいずれとしてもよい。本発明の皮膚外用組成物の形態は、特に限定されず、水溶液や乳化液、分散液、エマルジョンなどの液状;ゲル状や軟膏状、ペースト状などの半固形状;固形状などいずれの形状であってもよい。例えば、液剤、ジェル剤、クリーム剤、ゲル剤、軟膏剤、貼付剤、パック剤、エアゾール剤などが挙げられる。
【0022】
具体的には、化粧水、化粧液、クリーム、乳液、日やけ止め、洗浄料、パック、化粧用油、ボディリンス、マッサージ料、頭皮料、洗髪料、ヘアリンス、リップケア化粧料等が挙げられる。
【0023】
本発明の皮膚外用組成物は、化粧品や医薬品の分野における公知の方法で製造することができる。また、その剤型に応じて、本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤に加えて、化粧品や医薬品の分野で用いられる各種基材や添加剤などを1以上組み合わせて用いることができる。本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤とともに、本発明の皮膚外用組成物に配合することができる成分としては、結合剤、賦形剤、増粘剤、希釈剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、保存剤、分散剤、乳化剤、可溶化剤、溶解補助剤、キレート剤、界面活性剤、ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、抗酸化剤、殺菌剤、抗菌剤、美白剤、色素、香料等が挙げられる。
【0024】
本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤の含有量は、本発明の効果を達成できる範囲であれば特に限定されず、皮膚外用組成物の形態や使用方法等に応じて、適宜設定することができる。例えば、皮膚外用組成物に含まれる本発明の抗酸化関連遺伝子の発現増強剤の含有量は、0.001~10質量%や、0.01~5質量%などとすることができる。また、本発明の皮膚外用組成物の用法・用量は特に限定されず、その剤型や使用者の状態に応じて、通常、一日数回、適量を皮膚に塗布して用いることができる。
【実施例0025】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
1.試験試料
1.1.サジー種子オイル
H.rhamnoidesの果実(内モンゴル産)を用いたサジー果汁加工後の搾汁残渣(種子、果皮の一部を含む)から種子を選別し、飲用水で洗浄した。その後、乾燥させたものを粉砕し、超臨界二酸化炭素抽出により油分を溶解・分離した。充填は無菌条件で包装・密封を行った。
【0027】
1.2.サジー果実オイル(参考試料)
H.rhamnoidesの果実(内モンゴル産)を枝葉がついた状態で-18℃に冷凍し、冷凍状態のまま枝葉を取り除き、飲用水で洗浄した。傷んだ果実を除去した。次いで、果実を果皮がついた状態で圧搾し、ピューレ状にした後、回転式振動ふるい機(160メッシュ)、遠心分離機(200~300メッシュ)、沈泥分離機(2回)、オイル分離機(2回)の順に処理し、果実オイル原料を得た。その後、さらに遠心分離機(3200回転/分)を用いて濾過し、殺菌・充填を行った。
【0028】
2.試験目的
試験試料の各種遺伝子発現に対する作用を、正常ヒト表皮細胞を用いたDNAマイクロアレイ法にて評価した。
【0029】
3.試験方法
3.1.試験濃度設定
正常ヒト表皮細胞を、Humedia-KG2培地(KG2培地)を用いて96穴マイクロプレートに70~80%の密度(2.0×104cells/well)にて播種した。一晩培養した後、所定濃度の試験試料を含有したHuMedia-KB2培地(KB2培地)に交換した。24時間培養した後、33μg/mL neutral red(NR)を含有するKB2培地にて2時間培養した。培養後、リン酸緩衝液で十分に洗浄し、30%エタノール含有0.1M HCl溶液を用いてNRを抽出した。抽出液の550nmおよび650nmにおける吸光度を測定し、550nmにおける吸光度より細胞濁度に由来する650nmにおける吸光度を差し引き、細胞に取り込まれたNRの吸光度とした。細胞生存率は、試験試料未処理細胞(コントロール)に取り込まれたNRの吸光度を100とした百分率、Index(%)で示した。統計処理はStudent t検定を用いた有意差検定を行い、p値0.05未満を統計学的に有意差ありとした。
【0030】
3.2.マイクロアレイ
正常ヒト表皮細胞を、KG2培地を用いて12穴プレートに2.5×105cells/wellにて播種した。一晩培養した後、3.1.項にて決定した濃度の試験試料を含有したKB2培地に交換した。24時間培養した後、リン酸緩衝液にて3回洗浄した。細胞をQIAzol(登録商標)Lysis reagentに浸漬し-80度で凍結した。凍結融解した溶解液からmiRNeasy(登録商標)Mini Kit(QIAGEN)を用いて精製したRNAを回収した。回収したRNAをさらに、OneStep PCR Inhibitor Removal Kit(ZYMO RESEARCH)を使用して精製した。その後、回収したRNAを所定量のRNAを用いてビオチン標識ターゲットを調製した後、Clariom Sを用いたDNAマイクロアレイを実施した。
マイクロアレイで得られたデータを、ソフトウェアTranscriptome Viewerを用いて解析し、各種遺伝子発現解析の結果は、試験試料未処理細胞(コントロール)の補正値を1とした相対値で表した。統計処理はStudent t検定をもちいた有意差検定を行い、p値0.05未満を統計学的に有意差ありとした。
【0031】
4.結果
4.1.試験濃度設定
試験試料の正常ヒト表皮細胞に対する細胞生存率(n=4)を評価した結果を表1に示す。サジー種子オイルは、0.100%においてIndex(%)を有意に減少させ、0.05%において有意に増加させた。サジー果実オイルは、0.025%および0.013%においてIndex(%)を有意に増加させた。以上より、マイクロアレイの試験処理濃度は毒性の認められなかった最高濃度とし、サジー種子オイルは0.05%、サジー果実オイルは0.025%に設定した。
【0032】
【0033】
4.2.マイクロアレイの評価結果
マイクロアレイによる遺伝子発現解析結果(n=3)を表2に示す。表2中のGene Symbol(遺伝子シンボル)や、mRNA Accession(mRNAアクセッション)は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に記載のデータに基づく記載である。
【0034】
表2に示すように、参考試料であるサジー果実オイルでは、抗酸化関連遺伝子群の発現を増加させる効果はほとんど見られていない。これに対して、サジー種子オイルは、カタラーゼ(CAT)、グルタチオン関連の酵素(GSR、GLRX、GCLC)、チオドレキシン(TXN)、ヘム分解酵素(HMOX1)、PRDX1と多種の抗酸化関連遺伝子群で、試験試料未処理群との相対比1.5倍以上(発現比1.5以上)の遺伝子変動(遺伝子の発現の増加)が認められた。特に、ヘム分解酵素であるHMOX1は顕著な発現増加を示した。
【0035】