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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058832
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】車両用衝撃吸収構造体
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/12 20060101AFI20240422BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240422BHJP
   B60R 19/18 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
F16F7/12
F16F7/00 B
F16F7/00 J
B60R19/18 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166189
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中越 宏明
【テーマコード(参考)】
3J066
【Fターム(参考)】
3J066AA02
3J066AA23
3J066BA03
3J066BD05
3J066BF02
3J066BG10
(57)【要約】
【課題】衝撃を加えた際に荷重が略一定となる特性を得ることができる車両用衝撃吸収構造体を提供する。
【解決手段】衝撃吸収部を備えた車両用衝撃吸収構造体であって、衝撃吸収部は、衝撃エネルギーを吸収可能に構成されているとともに、衝撃荷重入力側の端面が衝撃荷重反入力側に向けて膨出する湾曲部に形成され該湾曲部の少なくとも片側に平板部が接続された複数のリブが、一つのリブの湾曲部または平板部が隣接リブの湾曲部または平板部と交差するように連結された連結構造を有し、複数のリブの湾曲部の少なくとも一部が衝撃荷重反入力側外部に直接露出されている車両用衝撃吸収構造体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃吸収部を備えた車両用衝撃吸収構造体であって、
前記衝撃吸収部は、
衝撃荷重作用時に衝撃荷重入力側の端部からの変形もしくは破壊により衝撃エネルギーを吸収可能に構成されているとともに、
衝撃荷重入力側の端面が衝撃荷重反入力側に向けて膨出する湾曲部に形成され該湾曲部の少なくとも片側に平板部が接続された複数のリブが、一つのリブの湾曲部または平板部が隣接リブの湾曲部または平板部と交差するように連結された連結構造を有し、
前記複数のリブの湾曲部の少なくとも一部が衝撃荷重反入力側外部に直接露出されていることを特徴とする車両用衝撃吸収構造体。
【請求項2】
前記複数のリブのうち、前記湾曲部の両側に平板部が接続されたリブにおいては、該平板部間の距離が前記湾曲部から遠ざかるにつれて大きくなるように設定されている、請求項1に記載の車両用衝撃吸収構造体。
【請求項3】
前記複数のリブのうち少なくとも1つのリブの湾曲部頂面までの高さが、他のリブの湾曲部頂面までの高さとは異なる、請求項1に記載の車両用衝撃吸収構造体。
【請求項4】
前記複数のリブのうち少なくとも1つのリブの湾曲部の曲率が、他のリブの湾曲部の曲率とは異なる、請求項1に記載の車両用衝撃吸収構造体。
【請求項5】
前記衝撃吸収部の前記複数のリブの配列方向最外層として、衝撃荷重入力方向に沿う方向に延びる最外板状支柱が設けられている、請求項1に記載の車両用衝撃吸収構造体。
【請求項6】
前記複数のリブのうち少なくとも1つのリブの湾曲部に至るまでのリブの高さ範囲内に、衝撃荷重入力方向に沿う方向に延びる板状支柱が設けられている、請求項1に記載の車両用衝撃吸収構造体。
【請求項7】
熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂により構成されている、請求項1~6のいずれかに記載の車両用衝撃吸収構造体。
【請求項8】
熱可塑性樹脂組成物もしくは熱硬化性樹脂組成物により構成されている、請求項1~6のいずれかに記載の車両用衝撃吸収構造体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂組成物もしくは前記熱硬化性樹脂組成物が、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維の少なくとも1つの繊維を含む繊維強化樹脂からなる、請求項8に記載の車両用衝撃吸収構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の衝撃吸収構造体に係り、特に、軽量化の効果的な実現と共に入力される衝撃エネルギーを有利に吸収し得るように改良された車両用衝撃吸収構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
人と車両、とくに自動車との接触や車同士の正面衝突、側面衝突、後面衝突に備えて、車両の各部位には衝撃吸収構造体を設けておくことが望ましい。このような車両用衝撃吸収構造体においては、十分にエネルギーを吸収することが求められる。一方で、歩行者や乗員へ及ぼされる衝撃荷重が大きすぎると、人に傷害を発生させるおそれがあるため、衝撃荷重をある荷重以下に抑えつつエネルギー吸収量を確保するために、荷重を略一定に保つ(衝突時の荷重-変位線図を矩形波にする)ことが望ましい。
【0003】
このような中、ドアトリムの車室外側面と交差する配置で並設された複数のリブを有し、隣り合うリブがほぼ同一間隔を保持しながら波形に形成された波形リブと、前記波形リブにおいて前記ドアトリムと反対側の端縁同士を連結した天板と、前記天板と前記ドアトリムの車室外側面との間に配設され、隣り合う前記リブ同士を連結した中間板とを備えた側突用樹脂衝撃吸収体(特許文献1)、あるいは、車両部材に固定するための固定部と、衝突方向に向かって凸状に湾曲して膨出する先端部と、該先端部から前記固定部に向かって延び該先端部と前記固定部を接続する筒状の胴体部とを有し、前記胴体部は、前記先端部側から前記固定部側に向かう方向に沿って拡径されており、かつ、内部に、少なくとも前記胴体部を補強するためのリブが設けられており、前記先端部は、車両用衝撃エネルギー吸収構造体の中心軸に沿う方向に見て、先端に位置し中心軸に沿う方向に凸状に湾曲して膨出する1段目先端部と、該1段目先端部と前記胴体部の間に位置し径方向外側に向かって凸状に湾曲して膨出する2段目先端部とを有していることを特徴とする車両用衝撃エネルギー吸収構造体(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5310012号公報
【特許文献2】特許第6679970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように、衝突時、衝撃荷重をある荷重以下に抑えつつエネルギー吸収量を確保するために荷重を略一定に保つことは、現状では難しい。
【0006】
例えば、特許文献1では、ドアトリムの車室外側面と交差する配置で並設された複数のS字リブを有し、隣り合うS字リブがほぼ同一間隔を保持しながら波形に形成された波形リブと、波形リブにおいてドアトリムと反対側の端縁同士を連結した天板と、天板とドアトリムの車室外側面との間に配設され、隣り合うS字リブ同士を連結した中間板とを備えた構造が提案されている。これにより、側突時に、天板から各リブに入力荷重が均一に伝達され、波形リブの曲面部分が屈曲中心となって座屈が誘導されるため、座屈時における各リブの挙動を制御することができる。そして、中間板を備えているため、天板と中間板間のリブ高さの調整が容易となり、座屈時に隣り合うリブが重なり合わない間隔で各リブを複数配置することができ、効率的に衝撃を吸収することができる。また、中間板を設けて2段構造にしたことで、1段当たりの高さを抑えつつ、2段分の高さを有する波形リブを形成することができるため、結果として波形リブの高さを高くできるとしている。しかし、この側突用樹脂衝撃吸収体で特徴としているS字リブを有する波形リブでは、座屈を誘発しやすく、負荷できる荷重が直線のリブに比べて低くなり、エネルギー吸収効率が低下する。また、同形状の波形リブが等間隔に配置されているため、荷重負荷時に複数の波形リブが同様に変形し、座屈や破断が同時に発生するため荷重を支える部分が無くなり荷重を略一定に保つことは困難であり、本構造においては荷重の変化を抑える効果は期待できない。
【0007】
特許文献2では、構造体の先端部が衝突方向に向かって凸状に湾曲して膨出する形状、つまり、ある曲率をもって凸状に湾曲膨出する形状に形成されているので、湾曲膨出の形状を適切に設定しておくことで、衝突方向(衝突角度)が多少変化しても、どの角度から衝突しても略同じ形状部位に対する衝突と略同じ状態となるようにすることが可能になる。また、その先端部に続く筒状の胴体部が、固定部側に向かう方向に沿って拡径されている形状に形成されているので、この胴体部は先端部側から固定部側に向かう方向に沿って構造体の中心軸に対し傾斜する形状に形成され、先端部に対し正面から衝撃が加えられた際にも斜めから衝撃が加えられた際にも先端部からの伝達荷重が胴体部によって同様に効率よく受け持たれることが可能になる。そして、内部に、少なくともこの胴体部を補強するためのリブが設けられているので、先端部から伝達される荷重を受け持つ胴体部は、リブを介して所望の強度を有することが可能であり、衝撃エネルギー吸収にとって好適な荷重―変位特性を持つことが可能になるとしている。すなわち、先端部の特定の構造により、どの角度からの衝突時にも略同じ形態で衝撃荷重が入力され、入力され伝達されようとする衝撃荷重が、胴体部の特定の構造により、先端部におけるどの角度からの衝突時にも略同じ形態で効率よく受け持たれることが可能になり、構造体全体として、先端部におけるどの角度からの衝突時にも略同じ荷重―変位特性を発現することが可能になるとしている。したがって、この車両用衝撃エネルギー吸収構造体は、荷重方向の違いによるエネルギー吸収量の変化を小さくすることを目的とした構造であり、エネルギー吸収の際の荷重を略一定に保つことを目的とした構造とは言えないため、荷重を略一定に保つことについては実際には達成できない。また、構造体の先端部が単一の湾曲膨出形状で構成されているため、より幅の広い衝撃吸収が求められる構造体には適していない。
【0008】
以上のように、従来の技術では、構造体の変形が進む過程においてエネルギー吸収特性を確保しつつ荷重が略一定となる特性を得ることができないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の課題は、とくに、衝撃を加えた際に荷重が略一定となる特性を得ることができる車両用衝撃吸収構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、衝撃吸収部を備えた車両用衝撃吸収構造体であって、前記衝撃吸収部は、衝撃荷重作用時に衝撃荷重入力側の端部からの変形もしくは破壊により衝撃エネルギーを吸収可能に構成されているとともに、衝撃荷重入力側の端面が衝撃荷重反入力側に向けて膨出する湾曲部に形成され該湾曲部の少なくとも片側に平板部が接続された複数のリブが、一つのリブの湾曲部または平板部が隣接リブの湾曲部または平板部と交差するように連結された連結構造を有し、前記複数のリブの湾曲部の少なくとも一部が衝撃荷重反入力側外部に直接露出されていることを特徴とする車両用衝撃吸収構造体を提供する。
【0011】
このような本発明に係る車両用衝撃吸収構造体においては、前記複数のリブのうち、前記湾曲部の両側に平板部が接続されたリブにおいては、該平板部間の距離が前記湾曲部から遠ざかるにつれて大きくなるように設定されていることが好ましい。
【0012】
また、前記複数のリブのうち少なくとも1つのリブの湾曲部頂面までの高さが、他のリブの湾曲部頂面までの高さとは異なっていてもよい。
【0013】
また、前記複数のリブのうち少なくとも1つのリブの湾曲部の曲率が、他のリブの湾曲部の曲率とは異なっていてもよい。
【0014】
また、前記衝撃吸収部の前記複数のリブの配列方向最外層として、衝撃荷重入力方向に沿う方向に延びる最外板状支柱が設けられていることが好ましい。
【0015】
また、前記複数のリブのうち少なくとも1つのリブの湾曲部に至るまでのリブの高さ範囲内に、衝撃荷重入力方向に沿う方向に延びる板状支柱が設けられていることが好ましい。
【0016】
また、本発明の車両用衝撃吸収部構造体を構成する材料は特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂により構成することができる。
【0017】
また、本発明の車両用衝撃吸収部構造体を構成する材料は、熱可塑性樹脂組成物もしくは熱硬化性樹脂組成物により構成されていてもよい。
【0018】
また、前記熱可塑性樹脂組成物もしくは前記熱硬化性樹脂組成物が、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維の少なくとも1つの繊維を含む繊維強化樹脂により構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両用衝撃吸収構造体によれば、衝撃を加えた際に荷重が略一定となる荷重特性を得ることができるので、最大荷重を抑えつつ高効率な衝撃エネルギー吸収特性を発現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用衝撃吸収構造体を示しており、(A)は概略斜視図、(B)は側面図、(C)は正面図である。
図2】本発明に係る車両用衝撃吸収構造体の自動車への取り付け例を示す自動車前部の概略構成図である。
図3図2に示された車両用衝撃吸収構造体取り付け時の拡大構成図である。
図4図1に示された車両用衝撃吸収構造体に対して落錘試験の状態を模式的に示す説明図であって、(A)は錘と構造体の天面部とが接触する前の状態、(B)は錘が天面部に接触した状態、(C)は構造体の頂部が変形し始めた状態、(D)は構造体の変形と頂部の破壊が進行した状態を、それぞれ示している。
図5】比較例として、リブ部のリブ厚みを均等にし等間隔に格子状に配置した従来の車両用衝撃吸収構造体を示しており、(A)は概略斜視図、(B)は側面図、(C)は正面図である。
図6図5に示された車両用衝撃吸収構造体に対して落錘試験の状態を模式的に示す説明図であって、(A)は錘と構造体の天面部とが接触する前の状態、(B)は錘が天面部に接触した状態、(C)は構造体の頂部が変形し始めた状態、(D)は構造体の変形と頂部の破壊が進行した状態を、それぞれ示している。
図7図1に示された車両用衝撃吸収構造体、図5に示された車両用衝撃吸収構造体のそれぞれに対して落錘試験を行った際の、荷重―変位特性を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用衝撃吸収構造体を示している。図1において、10は衝撃吸収部100を備えた車両用衝撃吸収構造体を示しており、車両用衝撃吸収構造体10は、例えば、図2に示されるように、自動車車体の前部において、衝突時に入力される衝突エネルギー200を吸収し得るように好適に用いられる。但し、本構造は車体前部以外の後部または側面部にも好適に用いることができ、自動車車体の前部のみに限定せずに用いられる。
【0022】
図1における車両用衝撃吸収構造体10を車両前方に設置する場合について、より具体的には図3に示されるように、車両用衝撃吸収構造体10が他の車両部材302と接続されている。なお、図3における符号300は衝突エネルギー、符号301はバンパーを示している。
【0023】
図1の車両用衝撃吸収構造体10の衝撃吸収部100は、衝撃荷重作用時に衝撃荷重入力側の端部からの変形もしくは破壊により衝撃エネルギー110を吸収可能に構成されているとともに、衝撃荷重入力側の端面が衝撃荷重反入力側に向けて(図1におけるZ方向に向けて)膨出する湾曲部101と、該湾曲部101の少なくとも片側に平板部102が接続された複数のリブ103が、一つのリブの湾曲部101または平板部102が隣接リブ103Aの湾曲部101Aまたは平板部102Aと交差するように連結された連結構造104を有し、前記複数のリブの湾曲部101の少なくとも一部が衝撃荷重反入力側外部105に直接露出されている。これは、衝撃荷重入力時に湾曲部101の頂点から荷重が入力され、荷重が増大するに従い湾曲部101が押し広げられるように変形して徐々に接触面積が上昇することで、荷重の急激な立ち上がりを防止し、効率的にエネルギー吸収可能とするためである。また、リブの湾曲部101または平板部102の連結構造104によって、リブ単独で設置するよりも剛性が上がり荷重の底上げが可能となるためエネルギー吸収量が増加することが期待できる。さらに、湾曲部101または平板部102から入力された荷重が連結構造104を介して、他の湾曲部101または平板部102に分散されることで効率的にエネルギー吸収可能となる。
【0024】
また、複数のリブ103のうち、湾曲部101の両側に平板部102が接続されたリブ103においては、該平板部102間の距離が前記湾曲部101から遠ざかるにつれて大きくなるように設定されていてもよい。これは、湾曲部101を頂点とする三角形を模した構造となることから、湾曲部101から伝わる荷重を、平板部102を介して効率的に伝えることができるためである。
【0025】
ここで、前記複数のリブ103のうち少なくとも1つのリブ103の湾曲部101頂面までの高さが、他のリブ103Aの湾曲部101A頂面までの高さとは異なることが好ましい。とくに全リブの湾曲部頂点までの高さがお互いに異なると尚良い。これは、衝突時に湾曲部の変形が異なったタイミングで発生する方が、安定かつ均一にリブ部が破壊し、荷重の変化や振動が小さくなって効率的にエネルギー吸収可能となるためである。
【0026】
また、前記複数のリブ103のうち少なくとも1つのリブ103の湾曲部101の曲率が、他のリブ103Aの湾曲部101Aの曲率とは異なる方が望ましい。これは、異なる曲率の湾曲部があると衝突時に湾曲部の変形が異なったタイミングで発生するため、安定かつ均一にリブ部が破壊し、荷重の変化や振動が小さくなって効率的にエネルギー吸収可能となるためである。
【0027】
また、前記衝撃吸収部100の複数のリブ103の配列方向最外層として、衝撃荷重入力方向に沿う方向に延びる最外板状支柱106が設けられていてもよい。これにより、全体的な荷重が上昇するため、エネルギー吸収量を向上することができる。また、車両用衝撃吸収構造体10の再外層が平坦な面となるため、車両取り付け時の扱いが容易になる。
【0028】
また、前記複数のリブ103のうち少なくとも1つのリブ103の湾曲部101に至るまでのリブ103の高さ範囲内に、衝撃荷重入力方向に沿う方向(図1におけるZ方向に沿う方向)に延びる板状支柱107が設けられていてもよい。これにより、全体的な荷重が上昇するため、エネルギー吸収量を向上することができる。
【0029】
本発明に係る車両用衝撃吸収構造体の効果について、落錘試験を有限要素法によりシミュレーションした結果をもとに説明する。この試験においては、車両用衝撃吸収構造体10の寸法は、40mm×80mm、高さが100mmである。また、各リブ103の湾曲部101、平板部102、最外板状支柱106、板状支柱107の板厚はすべて3mmとなっている。この試験においては、図4(A)に示すように車両用衝撃吸収構造体10を立設させた状態で、固定面としての定盤402の上に車両用衝撃吸収構造体10を設置し、上方から所定の錘401を衝撃エネルギー400の方向に落下させて、車両用衝撃吸収構造体10を軸方向に押し潰す手法を採用している。この落錘試験の諸条件としては、錘の重さ200kg、落錘高さ2mとして、車両用衝撃吸収構造体10の圧縮変形挙動を観察するとともに、車両用衝撃吸収構造体10の圧縮変形開始からの変位と、かかる圧縮変形により発生した荷重とを出力した。車両用衝撃吸収構造体10に使用する樹脂は、東レ(株)製ガラス繊維強化ナイロン(弾性率:6.3GPa、強度:62MPa)を用いた。
【0030】
上記のような落錘試験のシミュレーションについて、先ずは、図5に示された、上記実施形態の車両用衝撃吸収構造体10と同等の重量となる2.5mmでリブ部のリブ501の厚みが統一された比較例について図6のように実施した。図6には、錘401と車両用衝撃吸収構造体500の天面部とが接触する前の状態(A)、錘401が構造体500の天面部に接触した状態(B)、構造体500の頂部が変形し始めた状態(C)、構造体500の変形と頂部の破壊が進行した状態(D)を、それぞれ示した。結果、図7の符号700で示すような荷重-変位線図を得た。変形直後に急激に荷重が上昇する。このとき、リブ部の各リブ501は厚みが2.5mmで統一され、リブ501が均等に配置されているため、錘400と接触している側のリブ501の破壊が一度に発生し、錘400とリブ部との接触がなくなるため、ピーク荷重に達した後に荷重が急落する。破壊の領域を過ぎ、更に錘400が落下し、破壊していないリブ部のリブ先端に接触し始めると、再度荷重が上昇していき、再度破壊を生じたタイミングで荷重が急落する現象を繰り返す。このようにリブ部のリブ501の厚みとリブ配置が統一されている本比較例の構造では、変形が進むにしたがい、荷重が大きく波打ち、発生する荷重が目標荷重付近を略一定に推移しない。
【0031】
次に、本発明の実施形態に係る車両用衝撃吸収構造体10のシミュレーションを実施した。図4には、錘401と車両用衝撃吸収構造体10の天面部とが接触する前の状態(A)、錘401が構造体10の天面部に接触した状態(B)、構造体10の頂部が変形し始めた状態(C)、構造体10の変形と頂部の破壊が進行した状態(D)を、それぞれ示した。結果、図7の符号701で示すような荷重-変位線図を得た。変形直後は衝撃荷重入力側の端面が衝撃荷重反入力側に向けて膨出する湾曲部101の頂点と最外板状支柱106が錘400と接触し荷重が上昇していくが、湾曲部101は曲率を変化させながら錘400に沿って平坦状になるように変形することで徐々に荷重が上昇する。変形が進むに従い、接触している湾曲部101、最外板状支柱106、板状支柱107の破壊が段階的に進行することで、錘400とリブ103との接触がなくなるタイミングを最小限にとどめることができるため、ピーク荷重に達した後からの荷重の急落を防ぐことができる。破壊の領域を過ぎ、更に錘400が落下し、破壊していない別の湾曲部101、最外板状支柱106、板状支柱107に接触し始めると、再度荷重が上昇していくが、同様の構造が設けられているため、目標荷重以上の急激な荷重の上昇も抑えられる。これは、図7の700と701の荷重-変位線図の推移をみても、目標荷重付近を推移する701の方が、700よりも、変形が進む過程においてエネルギー吸収特性を確保しつつ荷重が略一定となる効果が、発現していることは明らかである。
【0032】
ここで、より詳細に荷重が略一定となる効果を評価する方法として、荷重-変位線図の目標荷重以上に達している荷重と目標荷重との差と変位量の積分値を過剰エネルギー量として比較する。図7において、比較例の荷重-変位線図700の目標荷重以上の領域710の面積が比較例の過剰エネルギーとなり、本発明の実施形態の荷重―変位線図701の目標荷重以上の領域711の面積が本発明の実施形態における過剰エネルギーとなる。目標荷重を35kNとした場合、比較例の面積710の過剰エネルギー量は1120Jとなり、これに対して、本発明の実施形態の過剰エネルギー量は420Jとなり60%以上の荷重の一定化の効果がみられている。
【0033】
また、車両用衝撃吸収構造体10は、熱可塑性樹脂、もしくは熱硬化性樹脂、もしくは熱可塑性樹脂組成物、もしくは熱硬化性樹脂組成物により構成されていると、より優れた軽量化効果と衝撃吸収性を得られるため好ましい。さらには、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂にガラス繊維、炭素繊維、金属繊維の少なくとも1つの繊維を混ぜた繊維強化樹脂とすることで、目標荷重が高い場合などにも効果的に対応できるため、好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の車両用衝撃吸収構造体は、衝撃吸収が望まれる車両のあらゆる部位に適用可能であり、特に、自動車車体の前部に加え、後部や側面部に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
10:車両用衝撃吸収構造体
100:衝撃吸収部
101、101A:湾曲部
102、102A:平板部
103、103A:リブ
104:連結構造
105:衝撃荷重反入力側外部
106:最外板状支柱
107:板状支柱
110、400:衝撃エネルギー
200、300:衝突エネルギー
301:バンパー
302:他の車両部材
401:錘
402:固定面としての定盤
500 比較例に係る車両用衝撃吸収構造体
501 リブ
700 比較例における荷重-変位線図
701 本発明の実施形態における荷重-変位線図
710 比較例における目標荷重以上の領域
711 本発明の実施形態における目標荷重以上の領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7