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特開2024-58839微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬、検出キット、診断キット、及び微生物又はウイルスの検出方法
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  • 特開-微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬、検出キット、診断キット、及び微生物又はウイルスの検出方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058839
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬、検出キット、診断キット、及び微生物又はウイルスの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6813 20180101AFI20240422BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240422BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z
C12Q1/04
G01N33/569
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166198
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000232092
【氏名又は名称】NECソリューションイノベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】堀井 克紀
(72)【発明者】
【氏名】笠木 枝里
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR90
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 微生物やウイルスを簡便に検出するための、微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬、検出キット、診断キット、及び微生物又はウイルスの検出方法を提供する。
【解決手段】本発明の微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬は、
核酸分子及びシグナル発生物質を含み、
前記核酸分子は、ターゲット結合領域(T)、及び、シグナル発生領域(S)を含み、
前記ターゲット結合領域(T)は、検出ターゲット物質が結合可能であり、
前記シグナル発生領域(S)は、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合した場合に、前記シグナル発生物質と相互作用して前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能であり、
前記検出ターゲット物質は、微生物及びウイルスの少なくとも一方に由来する物質である。
【選択図】 図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸分子及びシグナル発生物質を含み、
前記核酸分子は、ターゲット結合領域(T)、及び、シグナル発生領域(S)を含み、
前記ターゲット結合領域(T)は、検出ターゲット物質が結合可能であり、
前記シグナル発生領域(S)は、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合した場合に、前記シグナル発生物質と相互作用して前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能であり、
前記検出ターゲット物質は、微生物及びウイルスの少なくとも一方に由来する物質である、
微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬。
【請求項2】
前記検出試薬は、液状検出試薬であり、
前記液状検出試薬は、前記検出ターゲット物質の検出対象となる検出対象物に接触させることが可能である、
請求項1記載の検出試薬。
【請求項3】
検出試薬、及び、シグナル発生装置を含み、
前記検出試薬は、請求項1又は2記載の検出試薬であり、
前記シグナル装置は、前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能である、
微生物検出用又はウイルス検出用の検出キット。
【請求項4】
前記検出試薬に含まれる前記シグナル発生物質は、蛍光色素であり、
前記シグナル発生装置は、蛍光を発生可能な光を発生可能なライトである、
請求項3記載の検出キット。
【請求項5】
さらに、シグナル検出装置を含む、
請求項3記載の検出キット。
【請求項6】
請求項3記載の検出キットを含み、
前記検出ターゲット物質が、病原体由来のターゲット物質である、
診断キット。
【請求項7】
検出試薬接触工程、及びシグナル発生工程を含み、
前記検出試薬接触工程は、請求項1又は2記載の検出試薬を前記検出ターゲット物質の検出対象となる検出対象物に接触する工程であり、
前記シグナル発生工程は、前記シグナル発生物質からシグナルを発生させる工程である、
微生物又はウイルスの検出方法。
【請求項8】
前記検出試薬に含まれる前記シグナル発生物質は、蛍光色素であり、
前記シグナル発生工程は、蛍光を発生可能な光を発生可能なライトを照射する工程である、
請求項7記載の検出方法。
【請求項9】
さらに、シグナル検出工程を含み、
前記シグナル検出工程は、前記発生したシグナルを検出する工程である、
請求項7記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬、検出キット、診断キット、及び微生物又はウイルスの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスや微生物を検出する方法として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR、polymerase chain reaction)法が知られている(特許文献1)。また、近年ではSARS-CoV-2の感染拡大を受けて、感染有無の判断手法の一つとして体温測定をする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007-503213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PCR法は検出感度が非常に高い。そのため、体内からウイルス等を排出するリスクが低い場合であっても、検査結果が陽性と判断されれば療養を余儀なくされ、療養期間が過度に長くなる場合がある。また、発熱などの症状が出る前であってもウイルス等を排出している場合があるため、前述の体温測定は病原体を多く排出しているか否かを判断する指標として十分なものとは言えない。
【0005】
そこで、本発明は、微生物やウイルスを簡便に検出するための、微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬、検出キット、診断キット、及び微生物又はウイルスの検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬は、
核酸分子及びシグナル発生物質を含み、
前記核酸分子は、ターゲット結合領域(T)、及び、シグナル発生領域(S)を含み、
前記ターゲット結合領域(T)は、検出ターゲット物質が結合可能であり、
前記シグナル発生領域(S)は、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合した場合に、前記シグナル発生物質と相互作用して前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能であり、
前記検出ターゲット物質は、微生物及びウイルスの少なくとも一方に由来する物質である。
【0007】
本発明の微生物検出用又はウイルス検出用の検出キットは、
検出試薬、及び、シグナル発生装置を含み、
前記検出試薬は、本発明の検出試薬であり、
前記シグナル装置は、前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能である。
【0008】
本発明の診断キットは、
本発明の前記検出キットを含み、
前記検出ターゲット物質が、病原体由来のターゲット物質である。
【0009】
本発明の微生物又はウイルスの検出方法は、
検出試薬接触工程、及びシグナル発生工程を含み、
前記検出試薬接触工程は、本発明の検出試薬を前記検出ターゲット物質の検出対象となる検出対象物に接触する工程であり、
前記シグナル発生工程は、前記シグナル発生物質からシグナルを発生させる工程である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微生物やウイルスを簡便に検出することができる。このため、本発明は、例えば、臨床医療等の様々な分野における研究および検査に、極めて有用な技術といえる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、本発明の検出試薬が検出ターゲット物質と結合した際のシグナル発生の一例を示す説明図である。
図1B図1Bは、本発明の検出試薬が検出ターゲット物質と結合した際のシグナル発生の別の一例を示す説明図である。
図2図2は、本発明の検出方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の検出方法を用いた検出ターゲット物質の検出の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.検出試薬]
まず、本発明の検出試薬について説明する。
【0013】
本発明の検出試薬は、前述のとおり、核酸分子及びシグナル発生物質を含む。前記核酸分子は、ターゲット結合領域(T)、及び、シグナル発生領域(S)を含む。前記核酸分子は、例えば、さらに、ブロッキング領域(B)を含んでもよい。前記核酸分子は、例えば一本鎖核酸であってもよく、または、前記ターゲット結合領域(T)を持つ核酸と、前記シグナル発生領域(S)を持つ核酸の複数核酸とからなるハイブリッドであってもよい。または、前記ターゲット結合領域(T)を持つ核酸と、前記ブロッキング領域(B)を持つ核酸と、前記シグナル発生領域(S)を持つ核酸の複数核酸とからなるハイブリッドであってもよい。
【0014】
前記核酸分子が前記ブロッキング領域(B)を含む場合、前記核酸分子は、例えば、前記ターゲット結合領域(T)、前記ブロッキング領域(B)、および前記シグナル発生領域(S)をこの順序で有し、前記ブロッキング領域(B)が、前記シグナル発生領域(S)における部分領域(Sp)に対して相補的であり、前記ターゲット結合領域(T)における前記ブロッキング領域(B)側の末端領域(Tb)が、前記シグナル発生領域(S)における前記部分領域(Sp)の隣接領域(Sf)に相補的であり、且つ、前記ターゲット結合領域(T)における前記ブロッキング領域(B)側とは反対側の末端領域(Tf)に相補的な一本鎖核酸分子である。前記隣接領域(Sf)は、例えば、前記末端領域(Tb)に相補的なブロッキング領域ということもできる。
【0015】
前記核酸分子が前記ブロッキング領域(B)を含まない場合、前記核酸分子は、例えば、前記シグナル発生領域(S)における前記ターゲット結合領域(T)側の末端領域(St)および前記ターゲット結合領域(T)における前記シグナル発生領域(S)側の末端領域(Ts)が、他の核酸分子(以下、「Blocking-DNA」という場合がある。)のブロッキング配列に対して相補的である。
【0016】
前記核酸分子は、例えば、ヌクレオチド残基のみからなる分子でもよいし、ヌクレオチド残基を含む分子であってもよい。前記ヌクレオチドは、例えば、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドおよびそれらの誘導体である。前記核酸分子は、例えば、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドおよびそれらの誘導体のいずれか一種類のみを含んでもよいし、二種類以上を含んでもよいし、全てを含んでもよい。具体的に、前記核酸分子は、例えば、リボヌクレオチドおよび/またはその誘導体を含むRNAでもよいし、デオキシリボヌクレオチドおよび/またはその誘導体を含むDNAでもよいし、前者と後者とを含むキメラ(DNA/RNA)でもよい。前記核酸分子は、一本鎖でもよいし、二本鎖でもよい。一本鎖の場合、例えば、一本鎖DNA、一本鎖RNA、一本鎖キメラ(DNA/RNA)等があげられ、二本鎖の場合、例えば、二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA-RNAの二本鎖、二本鎖のキメラ(DNA/RNA)等があげられる。
【0017】
前記核酸分子は、例えば、天然の核酸分子であっても良いし、非天然の核酸分子(修飾核酸)であってもよい。この場合、前記ヌクレオチドは、塩基として、例えば、天然塩基(非人工塩基)、非天然塩基(人工塩基)を含んでもよい。前記天然塩基は、例えば、A、C、G、T、Uおよびこれらの修飾塩基があげられる。前記修飾は、例えば、メチル化、フルオロ化、アミノ化、チオ化等があげられる。前記非天然塩基は、例えば、2’-フルオロピリミジン、2’-O-メチルピリミジン等があげられ、具体例としては、2’-フルオロウラシル、2’-アミノウラシル、2’-O-メチルウラシル、2-チオウラシル等があげられる。前記ヌクレオチドは、例えば、修飾されたヌクレオチドでもよく、前記修飾ヌクレオチドは、例えば、2’-メチル化-ウラシルヌクレオチド残基、2’-メチル化-シトシンヌクレオチド残基、2’-フルオロ化-ウラシルヌクレオチド残基、2’-フルオロ化-シトシンヌクレオチド残基、2’-アミノ化-ウラシルヌクレオチド残基、2’-アミノ化-シトシンヌクレオチド残基、2’-チオ化-ウラシルヌクレオチド残基、2’-チオ化-シトシンヌクレオチド残基等があげられる。前記核酸分子は、例えば、PNA(ペプチド核酸)、LNA(Locked Nucleic Acid)等を含んでもよい。
【0018】
前記ターゲット結合領域(T)は、検出ターゲット物質が結合可能である。前記ターゲット結合領域(T)は、例えば、アプタマー等があげられる。
【0019】
前記ターゲット結合領域(T)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、12塩基長、15塩基長、18塩基長であり、上限は、例えば、140塩基長、80塩基長、60塩基長であり、その範囲は、例えば、12~140塩基長、15~80塩基長、18~60塩基長である。
【0020】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、前記ブロッキング領域(B)は、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合しない場合に、前記シグナル発生領域(S)と前記シグナル発生物質との相互作用を阻止可能である。前記ブロッキング領域(B)は、例えば、前記シグナル発生領域(S)の部分領域(Sp)と相補的であり、前記ブロッキング領域(B)は、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合しない場合に、前記部分領域(Sp)と相補的な結合をすることで、前記シグナル発生領域(S)と前記シグナル発生物質との相互作用を阻止可能である。前記相補的な結合とは、例えば、水素結合である。
【0021】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、前記他の核酸分子は、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合しない場合に、前記シグナル発生領域(S)と前記シグナル発生物質との相互作用を阻止可能である。前記他の核酸分子のブロッキング配列は、例えば、前記シグナル発生領域(S)の末端領域(St)と相補的であり、前記他の核酸分子のブロッキング配列は、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合しない場合に、前記末端領域(St)と相補的な結合をすることで、前記シグナル発生領域(S)と前記シグナル発生物質との相互作用を阻止可能である。
【0022】
前記シグナル発生領域(S)は、例えば、G-カルテット形成領域(D)を含む。前記G-カルテット形成領域(D)を含む場合であって、前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、例えば、前記ブロッキング領域(B)は、前記G-カルテット形成領域(D)の部分領域(Dp)と相補的であり、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合しない場合に、前記部分領域(Dp)と相補的な結合をすることで、前記シグナル発生領域(S)と前記シグナル発生物質との相互作用を阻止可能である。
【0023】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、例えば、前記他の核酸分子のブロッキング配列は、前記G-カルテット形成領域(D)の部分領域(Dt)と相補的であり、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合しない場合に、前記部分領域(Dt)と相補的な結合をすることで、前記シグナル発生領域(S)と前記シグナル発生物質との相互作用を阻止可能である。
【0024】
本発明において、ある配列に対して他の配列が相補的であるとは、例えば、両者間でアニーリングが生じ得る配列であることを意味する。前記アニーリングを、ステム形成ともいう。本発明において、相補的とは、例えば、2種類の配列をアラインメントした際の相補性が、例えば、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、100%、すなわち完全相補である。また、核酸分子内において、ある配列に対して他の配列が相補的であるとは、一方の5’側から3’側に向かう配列と、他方の3’側から5’側に向かう配列とを対比させた際に、互いの塩基が相補的であることを意味する。
【0025】
前記G-カルテット(G-tetradともいう)は、一般に、G(グアニン)が四量体となった面の構造として知られている。本発明において、G-カルテット形成領域(D)は、例えば、複数の塩基Gを有し、その領域内で、複数の塩基GによるG-カルテット構造を形成する領域である。本発明において、前記G-カルテット構造は、例えば、パラレル型およびアンチパラレル型のいずれでもよく、好ましくは、パラレル型である。本発明において、前記G-カルテット形成領域(D)において形成されるG-カルテット構造の個数は、特に制限されず、例えば、1面でも、2面以上の複数でもよいが、前記G-カルテット形成領域(D)は、G-カルテットが複数面重なった、グアニン四重鎖(またはG-quadruplexという)構造を形成することが好ましい。本発明において、前記G-カルテット形成領域(D)の配列は、前記G-カルテット構造を形成する配列であればよく、より好ましくは、グアニン四重鎖構造を形成する配列である。
【0026】
前記シグナル発生領域(S)は、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合した場合に、前記シグナル発生物質と相互作用して前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能である。前記シグナル発生領域(S)は、例えば、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合した場合に、前記相補的な結合が解除されることで、前記シグナル発生物質と相互作用して前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能である。
【0027】
前記検出ターゲット物質は、微生物及びウイルスの少なくとも一方に由来する物質であり、例えば、これらの産出された産出物があげられる。そのほかにも、例えば、タンパク質、細菌、菌類、及びこれらの産出された産出物があげられる。前記前記検出ターゲット物質は、例えば、病原体であってもなくてもよい。病原体でない前記検出ターゲット物質を検出する場合、例えば、発酵等の工業的培養や研究等における微生物等の定性分析又は定量分析等をすることができる。
【0028】
前記検出ターゲット物質は、具体的には、例えば、コロナウイルス(例えば、SARSの原因ウイルスであるSARS-CoV、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2、MERSの原因ウイルスであるMERS-CoVを含む)、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、マイコプラズマ、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、ESBL産生菌、淋菌、結核菌、溶血性レンサ球菌、クロストリジウム・ディフィシル、腸内細菌、腸球菌、アシネトバクター、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンピロバクター、カンジタ、非チフス性サルモネラ菌、チフス菌、赤痢菌、A群連鎖球菌、B群連鎖球菌、非結核性抗酸菌、スピロヘータ、真菌類、及びそれらの産出物等;試料中のB細胞、T細胞、及び抗体等のタンパク質;等があげられる。
【0029】
前記シグナルは、例えば、蛍光、燐光、発光、色調変化、及び酸化還元等の電気的に検出可能な反応等を含む化学反応等があげられる。
【0030】
前記シグナル発生物質は、例えば、蛍光材料、燐光材料、外部刺激等により発光、色調変化、化学反応等する材料等があげられる。前記シグナル発生物質が蛍光材料である場合、前記シグナル発生物質は、例えば、蛍光色素であってもよい。
【0031】
前記蛍光色素は、例えば、ポルフィリンがあげられる。前記ポルフィリンは、特に制限されず、例えば、無置換体のポルフィリン、その誘導体があげられる。前記誘導体は、例えば、置換体のポルフィリンおよび金属元素と錯体を形成した金属ポルフィリン等があげられる。前記ポルフィリンは、例えば、N-メチルメソポルフィリン、Zn-DIGP、ZnPP9およびTMPyP等があげられる。前記金属ポルフィリンは、例えば、三価鉄錯体であるヘミン等があげられる。
【0032】
例えば、前記シグナル発生領域(S)が、G-カルテット構造を形成し、前記シグナル発生物質が、ポルフィリンであり、前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、ポルフィリン存在下で前記G-カルテット構造を形成した領域は、ポルフィリンとの複合体形成により、蛍光を発する。本発明の検出試薬は、例えば、前記ターゲットの非存在下では、前記G-カルテット形成領域(D)が、G-カルテット構造の形成を阻害されており、前記ターゲット存在下で、前記ターゲット結合領域(T)に前記ターゲットが接触することで、前記G-カルテット形成領域(D)のG-カルテット構造の形成阻害が解除され、前記G-カルテット形成領域(D)がG-カルテット構造を形成する。このため、本発明の検出試薬によれば、前記ターゲット非存在下では、前記G-カルテット形成領域(D)がG-カルテット構造を形成できないため、ポルフィリンとの複合体形成による蛍光は発することなく、前記ターゲット存在下で、はじめて前記G-カルテット形成領域(D)がG-カルテット構造を形成し、ポルフィリンとの複合体形成によるシグナルとして蛍光が生じる(図1A)。
【0033】
なお、図1Aでは一本鎖の例をあげたが、図1Bのように、前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、例えば、前記他の核酸分子により、G-カルテット構造の形成を阻害することができる。図1Bのように、前記ターゲットの非存在下では、前記G-カルテット形成領域(D)が、G-カルテット構造の形成を阻害されており、前記ターゲット存在下で、前記ターゲット結合領域(T)に前記ターゲットが接触することで、前記G-カルテット形成領域(D)のG-カルテット構造の形成阻害が解除され、前記G-カルテット形成領域(D)がG-カルテット構造を形成するものであってもよい。このため、例えば、試料における前記ターゲットの存在の有無または前記ターゲットの量を、G-カルテット形成領域(D)とポルフィリンとの複合体形成による蛍光によって、分析できる。
【0034】
前記G-カルテット構造を形成する核酸分子としては、例えば、酵素の触媒機能を生じる核酸分子(触媒核酸分子)が知られている。前記触媒機能は、特に制限されず、例えば、酸化還元反応の触媒機能である。前記酸化還元反応は、例えば、基質から生成物が生成される過程において、二つの基質の間に電子の授受を生じる反応である。前記酸化還元反応の種類は、特に制限されない。前記酸化還元反応の触媒機能は、例えば、酵素と同様の活性があげられ、具体的には、例えば、ペルオキシダーゼと同様の活性(以下、「ペルオキシダーゼ様活性」という)等があげられる。前記ペルオキシダーゼ活性は、例えば、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(HRP)活性があげられる。前記触媒核酸分子は、一般に、DNA配列の場合、DNAエンザイムまたはDNAzymeと呼ばれ、RNA配列の場合、RNAエンザイムまたはRNAzymeと呼ばれる。本発明において、前記G-カルテット形成領域(D)は、例えば、このような前記触媒核酸分子を使用できる。なお、本発明において、前記G-カルテット形成領域(D)は、G-カルテット構造を形成できればよく、前記触媒機能の有無は制限されない。
【0035】
前記DNAzymeとしては、例えば、下記論文(1)~(4)等の核酸分子が例示できる。
(1)Travascioら, Chem. Biol., 1998年, vol.5, p.505-517
(2)Chengら, Biochemistry, 2009年, vol.48, p.7817-7823
(3)Tellerら, Anal. Chem., 2009年, vol.81, p.9114-9119
(4)Taoら, Anal. Chem., 2009年, vol.81, p.2144-2149
【0036】
前記G-カルテット形成領域(D)は、例えば、一本鎖型でもよいし、二本鎖型でもよい。前記一本鎖型は、例えば、一本鎖のG-カルテット形成領域(D)内で、G-カルテット構造を形成でき、前記二本鎖型は、例えば、第1領域と第2領域とからなり、前記第1領域と前記第2領域との間で、G-カルテット構造を形成できる。後者の二本鎖型は、例えば、前記第1領域と、前記第2領域とが、間接的に連結された構造があげられる。
【0037】
前記一本鎖型のG-カルテット形成領域(D)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、11塩基長、13塩基長、15塩基長であり、上限は、例えば、60塩基長、36塩基長、18塩基長である。
【0038】
前記二本鎖型のG-カルテット形成領域(D)において、前記第1領域および前記第2領域の長さは、特に制限されず、両者は同じであっても異なってもよい。前記第1領域の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、7塩基長、8塩基長、10塩基長であり、上限は、例えば、30塩基長、20塩基長、10塩基長、その範囲は、例えば、7~30塩基長、7~20塩基長、7~10塩基長である。前記第2領域の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、7塩基長、8塩基長、10塩基長であり、上限は、例えば、30塩基長、20塩基長、10塩基長、その範囲は、例えば、7~30塩基長、7~20塩基長、7~10塩基長である。
【0039】
前記シグナル発生領域(S)が、前記G-カルテット形成領域(D)を含み、前記シグナル発生物質が、ポルフィリンである場合、前記核酸分子は、例えば、以下のようなメカニズムに基づいて、検出ターゲット物質の存否により、前記G-カルテット構造の形成のON-OFF、及び前記Gカルテット構造への前記ポルフィリンの配位が制御される。なお、本発明は、このメカニズムには制限されない。一般的に、核酸配列は、形成し得る構造の間で熱力学的に揺らいでおり、相対的に安定性の高いものの存在比率が高くなると考えられている。そして、アプタマー等の結合核酸分子は、一般的に、ターゲット存在下では、ターゲットとの接触によって、より安定な立体構造に変化して、前記ターゲットに結合することが知られている。また、DNAzyme等の核酸分子も、一般的に、G-カルテット構造のような安定な立体構造によって、触媒活性を生起することが知られている。
【0040】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、前記核酸分子において、例えば、前記G-カルテット形成領域(D)の前記部分領域(Dp)が、前記ブロッキング領域(B)と相補的であり、且つ、前記G-カルテット形成領域(D)における隣接領域(Df)が、前記ターゲット結合領域(T)の前記末端領域(Tb)と相補的であるため、これらの相補関係において、ステム形成が可能である。このため、ターゲットの非存在下では、前記G-カルテット形成領域(D)の部分領域(Dp)と前記ブロッキング領域(B)とのステム形成および前記G-カルテット形成領域(D)の隣接領域(Df)と前記ターゲット結合領域(T)の前記末端領域(Tb)とのステム形成が生じる。前者のステム形成により、前記G-カルテット形成領域(D)のG-カルテット構造の形成が阻害され、結果として、前記G-カルテット形成領域(D)とポルフィリンとの複合体形成が阻害され(スイッチ-OFF)、後者のステム形成により、前記ターゲット結合領域(T)において、前記より安定な立体構造の形成がブロックされ、ターゲットと結合していない状態のブロッキング型構造が維持される。この状態の前記分子の構造を、ブロッキング型または不活性型ともいう。一方、ターゲットの存在下では、前記ターゲット結合領域(T)への前記ターゲットの接触により、前記ターゲット結合領域(T)がより安定な立体構造に変化する。これに伴い、前記ターゲット結合領域(T)におけるステム形成が解除され、分子内アニーリングによって前記より安定な立体構造に変化した前記ターゲット結合領域(T)に、前記ターゲットが結合する。そして、前記ターゲット結合領域(T)におけるステム形成の解除に伴う前記ターゲット結合領域(T)の前記立体構造化により、前記G-カルテット形成領域(D)のステム形成も解除され、前記G-カルテット形成領域(D)が分子内アニーリングによってより安定な立体構造に変化し、結果的に、前記G-カルテット形成領域(D)の領域内でG-カルテット構造が形成され、結果として、前記G-カルテット形成領域(D)とポルフィリンとの複合体が形成され、蛍光を発する(スイッチON)。この状態の構造を、活性型ともいう。
【0041】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、前記核酸分子において、例えば、前記末端領域(St)及び前記末端領域(Ts)と、前記他の核酸分子のブロッキング配列とが相補的であるため、これらの相補関係において、二本鎖の形成が可能となる。二本鎖の形成により、前記G-カルテット形成領域(D)のG-カルテット構造の形成が阻害され、結果として、前記G-カルテット形成領域(D)とポルフィリンとの複合体形成が阻害される(スイッチ-OFF)。この状態の前記分子の構造を、ブロッキング型または不活性型ともいう。一方、ターゲットの存在下では、前記ターゲット結合領域(T)への前記ターゲットの接触により、前記ターゲット結合領域(T)がより安定な立体構造に変化する。これに伴い、前記ターゲット結合領域(T)における二本鎖の形成が解除され、分子内アニーリングによって前記より安定な立体構造に変化した前記ターゲット結合領域(T)に、前記ターゲットが結合する。そして、前記ターゲット結合領域(T)における二本鎖の形成の解除に伴う前記ターゲット結合領域(T)の前記立体構造化により、前記G-カルテット形成領域(D)の二本鎖の形成も解除され、前記G-カルテット形成領域(D)が分子内アニーリングによってより安定な立体構造に変化し、結果的に、前記G-カルテット形成領域(D)の領域内でG-カルテット構造が形成され、結果として、前記G-カルテット形成領域(D)とポルフィリンとの複合体が形成され、蛍光を発する(スイッチON)。この状態の構造を、活性型ともいう。
【0042】
このため、本発明の検出試薬によれば、ターゲット非存在下では、前記複合体形成による蛍光が発生せず、ターゲット存在下でのみ、前記複合体形成による蛍光が発生するため、定性または定量等のターゲット分析が可能となる。
【0043】
前記核酸分子は、例えば、さらに、安定化領域を有してもよい。前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、前記シグナル発生領域(S)、前記ブロッキング領域(B)、前記ターゲット結合領域(T)、および前記安定化領域が、この順序で連結されていることが好ましい。また、前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、前記シグナル発生領域(S)、前記ターゲット結合領域(T)、および前記安定化領域が、この順序で連結されていることが好ましい。以下、前記核酸分子として、前記安定化領域を有する一本鎖核酸分子の形態を示す場合、前記安定化領域は、任意であり、含まない形態でもよい。
【0044】
安定化領域について、前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合を例にあげて説明する。前記安定化領域は、例えば、前記ターゲット結合領域(T)がターゲットと結合する際の構造を安定化するための配列である。前記安定化領域は、例えば、前記ブロッキング領域(B)に相補的またはその一部に相補的であり、具体的には、前記ブロッキング領域(B)における前記ターゲット結合領域(T)側の末端領域(Ba)に相補的であることが好ましい。この場合、例えば、ターゲット存在下、分子内アニーリングによる前記ターゲット結合領域(T)の立体構造が形成された際、前記ターゲット結合領域(T)に連結する前記安定化領域と、前記ターゲット結合領域(T)に連結する前記ブロッキング領域(B)の末端領域(Ba)との間でも、ステムが形成される。前記ターゲット結合領域(T)に連結する領域において、このようなステムが形成されることによって、ターゲットと結合する前記ターゲット結合領域(T)の立体構造が、より安定化される。
【0045】
なお、前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、前記核酸分子は、例えば、前記ブロッキング領域(B)に代えて、前記安定化領域に相補的な前記ブロッキング領域(B)又は前記末端領域(Ba)に相当する領域を含んでもよく、前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合と同様のメカニズムで前記ターゲット結合領域(T)の立体構造を安定化させてもよい。
【0046】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、前記核酸分子において、前記シグナル発生領域(S)、前記ブロッキング領域(B)、および前記ターゲット結合領域(T)、ならびに前記安定化領域の順序は、特に制限されず、例えば、5’側からこの順序で連結してもよいし、3’側からこの順序で連結してもよい。前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、前記核酸分子において、前記シグナル発生領域(S)、および前記ターゲット結合領域(T)、ならびに前記安定化領域の順序は、特に制限されず、例えば、5’側からこの順序で連結してもよいし、3’側からこの順序で連結してもよい。
【0047】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、前記核酸分子の一例は、前記シグナル発生領域(S)、前記ブロッキング領域(B)、前記ターゲット結合領域(T)、および前記安定化領域を、この順序で有する。前記核酸分子は、例えば、ターゲット非存在下では、前記シグナル発生領域(S)の一部が、前記ブロッキング領域(B)および前記ターゲット結合領域(T)の一部と結合して、ステムを形成し、ブロッキング型の一本鎖核酸分子となる。他方、前記核酸分子は、例えば、ターゲットの存在下では、前記ターゲット結合領域(T)への前記ターゲットの接触により、前記ターゲット結合領域(T)は、その分子内アニーリングにより立体構造を形成し、それに伴い、前記シグナル発生領域(S)におけるステム形成も解除され、前記シグナル発生領域(S)は、その分子内アニーリングにより、G-カルテット構造を形成する。また、例えば、前記ブロッキング領域(B)と前記安定化領域とが結合することによって、前記ターゲット結合領域(T)の立体構造が、より安定化される。
【0048】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、前記核酸分子の一例は、前記シグナル発生領域(S)、前記ターゲット結合領域(T)、および前記安定化領域を、この順序で有する。前記核酸分子は、例えば、ターゲット非存在下では、前記他の核酸分子の一部が、前記シグナル発生領域(S)および前記ターゲット結合領域(T)の一部と結合して、二本鎖を形成し、ブロッキング型の二本鎖核酸分子となる。他方、前記核酸分子は、例えば、ターゲットの存在下では、前記ターゲット結合領域(T)への前記ターゲットの接触により、前記ターゲット結合領域(T)は、その分子内アニーリングにより立体構造を形成し、それに伴い、前記シグナル発生領域(S)における二本鎖の形成も解除され、前記シグナル発生領域(S)は、その分子内アニーリングにより、G-カルテット構造を形成する。また、例えば、前記安定化領域に相補的な前記ブロッキング領域(B)又は前記末端領域(Ba)に相当する領域と、前記安定化領域とが結合することによって、前記ターゲット結合領域(T)の立体構造が、より安定化される。
【0049】
前記核酸分子において、例えば、前記シグナル発生領域(S)、前記ブロッキング領域(B)、および前記ターゲット結合領域(T)、ならびに前記安定化領域は、それぞれの間が、スペーサー配列が介在することにより間接的に連結してもよいが、前記スペーサー配列が介在することなく直接的に連結していることが好ましい。
【0050】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、前記シグナル発生領域(S)は、例えば、前記ブロッキング領域(B)に相補的な配列を有し、且つ、前記ターゲット結合領域(T)の一部にも相補的な配列を有してもよい。また、前記ブロッキング領域(B)は、例えば、前記シグナル発生領域(S)の一部と相補的であり、また、前記安定化領域を有する場合は、前記安定化領域にも相補的である。
【0051】
前記ブロッキング領域(B)の配列および長さは、特に制限されず、例えば、前記シグナル発生領域(S)の配列および長さ等に応じて、適宜設定できる。
【0052】
前記ブロッキング領域(B)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、1塩基長、2塩基長、3塩基長であり、上限は、例えば、20塩基長、15塩基長、10塩基長であり、その範囲は、例えば、1~20塩基長、2~15塩基長、3~10塩基長である。
【0053】
これに対して、前記シグナル発生領域(S)の前記部分領域(Sp)の長さは、例えば、下限は、例えば、1塩基長、2塩基長、3塩基長であり、上限は、例えば、20塩基長、15塩基長、10塩基長であり、その範囲は、例えば、1~20塩基長、2~15塩基長、3~10塩基長である。前記ブロッキング領域(B)の長さと前記シグナル発生領域(S)の前記部分領域(Sp)の長さは、例えば、同じであることが好ましい。
【0054】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、前記核酸分子において、前記シグナル発生領域(S)における前記部分領域(Sp)の位置、すなわち、前記シグナル発生領域(S)における前記ブロッキング領域(B)のアニール領域は、特に制限されない。前記シグナル発生領域(S)、前記ブロッキング領域(B)、および前記ターゲット結合領域(T)、ならびに前記安定化領域が、この順序で連結している場合、前記部分領域(Sp)は、例えば、以下の条件で設定できる。
【0055】
前記シグナル発生領域(S)における前記部分領域(Sp)の隣接領域であって、前記部分領域(Sp)のブロッキング領域(B)側末端と前記ブロッキング領域(B)における前記シグナル発生領域(S)側末端との間の領域(Sb)の長さは、下限が、例えば、3塩基長、4塩基長、5塩基長であり、上限が、例えば、40塩基長、30塩基長、20塩基長であり、その範囲が、例えば、3~40塩基長、4~30塩基長、5~20塩基長である。
【0056】
前記シグナル発生領域(S)における前記部分領域(Sp)の隣接領域であって、前記ブロッキング領域(B)側とは反対側の領域(Sf)の長さは、下限が、例えば、0塩基長、1塩基長、2塩基長であり、上限は、例えば、40塩基長、30塩基長、20塩基長であり、その範囲は、例えば、0~40塩基長、1~30塩基長、2~20塩基長である。
【0057】
前記ターゲット結合領域(T)における前記ブロッキング領域(B)側の末端領域(Tb)は、前述のように、例えば、前記シグナル発生領域(S)の隣接領域(Sf)に相補的である。ここで、前記ターゲット結合領域(T)の末端領域(Tb)は、前記シグナル発生領域(S)の隣接領域(Sf)の全領域に対して相補的でもよいし、前記隣接領域(Sf)の部分領域に対して相補的でもよい。後者の場合、前記ターゲット結合領域(T)の末端領域(Tb)は、前記隣接領域(Sf)における、前記シグナル発生領域(S)の部分領域(Sp)側の末端領域に対して相補的であることが好ましい。
【0058】
前記シグナル発生領域(S)の隣接領域(Sf)に相補的な、前記ターゲット結合領域(T)における末端領域(Tb)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、1塩基長であり、上限は、例えば、20塩基長、8塩基長、3塩基長であり、その範囲は、例えば、1~20塩基長、1~8塩基長、1~3塩基長である。
【0059】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、前記核酸分子において、前記シグナル発生領域(S)における前記ターゲット結合領域(T)側の末端領域(St)の位置、すなわち、前記シグナル発生領域(S)における前記他の核酸分子のブロッキング配列のアニール領域は、特に制限されない。前記シグナル発生領域(S)、および前記ターゲット結合領域(T)、ならびに前記安定化領域が、この順序で連結している場合、前記末端領域(St)は、例えば、以下の条件で設定できる。
【0060】
前記シグナル発生領域(S)における前記末端領域(St)を除く領域の長さは、下限が、例えば、3塩基長、4塩基長、5塩基長であり、上限が、例えば、40塩基長、30塩基長、20塩基長であり、その範囲が、例えば、3~40塩基長、4~30塩基長、5~20塩基長である。
【0061】
前記ターゲット結合領域(T)における前記シグナル発生領域(S)側の末端領域(Ts)は、前述のように、例えば、前記他の核酸分子のブロッキング配列に相補的である。ここで、前記ターゲット結合領域(T)の末端領域(Ts)は、前記ターゲット結合領域(T)の隣接領域(Tf)の全領域に対して相補的でもよいし、前記隣接領域(Tf)の部分領域に対して相補的でもよい。
【0062】
前記他の核酸分子のブロッキング配列に相補的な、前記ターゲット結合領域(T)における末端領域(Ts)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、1塩基長であり、上限は、例えば、20塩基長、8塩基長、3塩基長であり、その範囲は、例えば、1~20塩基長、1~8塩基長、1~3塩基長である。
【0063】
前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含む場合、前記安定化領域は、前述のように、例えば、ブロッキング領域(B)に相補的またはその一部に相補的であり、具体的には、前記ブロッキング領域(B)における前記ターゲット結合領域(T)側の末端領域(Ba)に相補的であることが好ましい。前記核酸分子がブロッキング領域(B)を含まない場合、前記安定化領域は、前述のように、例えば、前記ブロッキング領域(B)に相当する領域、またはその一部相当する領域に相補的であり、具体的には、前記ブロッキング領域(B)における前記ターゲット結合領域(T)側の末端領域(Ba)に相当する領域に相補的であることが好ましい。
【0064】
前記安定化領域の配列および長さは、特に制限されず、例えば、前記ブロッキング領域(B)の配列および長さ、前記ブロッキング領域(B)に相当する領域の配列および長さ、前記ターゲット結合領域(T)の配列および長さ等に応じて適宜決定できる。前記安定化領域の長さは、下限が、例えば、0塩基長、1塩基長であり、上限が、例えば、10塩基長、5塩基長、3塩基長であり、その範囲は、例えば、0~10塩基長、1~5塩基長、1~3塩基長である。これに対して、例えば、前記安定化領域が前記ブロッキング領域(B)、又は前記ブロッキング領域(B)に相当する領域の全体と相補的な場合、前記ブロッキング領域(B)、又は前記ブロッキング領域(B)に相当する領域は、前記安定化領域と同じ長さであり、例えば、前記安定化領域が前記ブロッキング領域(B)の一部、又は前記ブロッキング領域(B)に相当する領域の一部と相補的な場合、前記ブロッキング領域(B)の一部、又は前記ブロッキング領域(B)に相当する領域の一部、例えば、前記末端領域(Ba)、又は前記末端領域(Ba)に相当する領域は、前記安定化領域と同じ長さである。
【0065】
前記核酸分子の全長の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、25塩基長、35塩基長、40塩基長であり、上限は、例えば、200塩基長、120塩基長、80塩基長であり、その範囲は、例えば、25~200塩基長、35~120塩基長、40~80塩基長である。
【0066】
前記核酸分子は、例えば、一方の末端または両端に、さらにリンカー領域が付加されてもよい。前記末端に付加されたリンカー領域を、以下、付加リンカー領域ともいう。前記付加リンカー領域の長さは、特に制限されず、例えば、1~60塩基長である。
【0067】
本発明の検出試薬は、例えば、液状検出試薬である。前記液状検出試薬は、例えば、前記検出ターゲット物質(以下、単に「ターゲット」という場合がある。)の検出対象となる検出対象物に接触させることが可能である。
【0068】
前記検出対象物は、特に限定されないが、例えば、マスク、ハンカチ、タオル、テーブルクロス、衣服、テーブル、机、椅子、ベッド、寝具等があげられる。
【0069】
前記接触は、例えば、塗布、噴霧、浸漬等があげられるが、前記検出対象物に接触可能な方法であれば特に限定されない。
【0070】
前記検出は、陽性又は陰性等を判断するための定性分析;数値計測等の定量分析等があげられる。
【0071】
[2.検出キット、診断キット]
つぎに、本発明の微生物検出用、又はウイルス検出用の検出キット、及び診断キットについて説明する。
【0072】
本発明の検出キットは、前述のとおり、検出試薬、及び、シグナル発生装置を含む。前記検出試薬は、前述の本発明の検出試薬である。
【0073】
前記シグナル発生装置は、前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能である。前記シグナル発生装置は、例えば、蛍光を発生可能な光(励起光)を発生可能なライトや、電圧の印加によって酸化還元反応を促進するための、電圧印加装置等があげられる。
【0074】
前記シグナル発生装置が、励起光を発生可能なライトである場合、励起波長は、例えば、350~550nm、350~450nm、399nmである。蛍光発光波長は、例えば、550~700nm、550~650nm、605nmである。
【0075】
本発明の検出キットは、例えば、さらに、シグナル検出装置を含む。前記シグナル検出装置は、例えば、前記シグナル発生装置により発生した蛍光を検出可能な装置であり、分光光度計等であってもよい。
【0076】
本発明は、例えば、前記検出キットを含み、前記ターゲット物質が、病原体由来のターゲット物質である、診断キットであってもよい。前記病原体は、例えば、前記検出ターゲット物質として列挙したものであってもよい。
【0077】
[3.検出方法]
つぎに、本発明の微生物、又はウイルスの検出方法について、図2を用いて説明する。
【0078】
まず、本発明の検出試薬を、検出ターゲット物質の検出対象となる検出対象物に接触させる(S10、検出試薬接触工程)。前記検出対象物は、例えば、前述のものと同様である。また、前記接触は、例えば、前述のものと同様である。前記接触させる時間は、特に制限されず、例えば、1~30分である。前記検出試薬接触工程において、後述するシグナル検出をするまでの処理時間は、例えば、1~30分である。前記接触の際の温度条件は、特に制限されず、例えば、15~37℃である。前記検出試薬接触工程におけるpHは、例えば、7.4~9.0であり、好ましくは7.4~8.5であり、より好ましく7.4である。前記pHは、例えば、緩衝液により制御することが好ましく、例えば、前述のpHを示す、Tris-HCl等の緩衝液が使用できる。
【0079】
つぎに、シグナル発生物質から前記シグナルを発生させる(S11、シグナル発生工程)。前記シグナル発生工程は、例えば、蛍光を発生可能な光(励起光)を発生可能な前記ライトを照射する工程であってもよく、酸化還元反応を促進するために電圧を印加する工程であってもよい。
【0080】
本発明の検出方法は、例えば、さらに、前記発生したシグナルを検出してもよい(S12、シグナル検出工程)。前記検出は、例えば、目視でもよいし、シグナル検出装置によるシグナル検出工程であってもよい。前述のように蛍光発光を発生させた場合であれば、目視であってもシグナルを検出することができる。目視で確認できないシグナルの場合、又は目視で確認できる場合であっても定性分析又は定量分析等が必要な場合は、前述のものと同様のシグナル検出装置を使用してもよい。
【0081】
なお、図2においてはS12の後にフローが終了(END)しているが、S11の後にフローを終了(END)してもよい。
【0082】
以下、図2を用いて、前記ターゲットがSARS-CoV-2である場合を例にあげて説明する。
【0083】
前記検出対象物がマスクである場合において、マスク表面にSARS-CoV-2が存在する(図3(a))。この時、前記検出試薬接触工程により、マスクに対して本発明の検出試薬を付着させる(図3(b))。前記検出試薬は、例えば、スプレー等により噴霧することで付着させることができる。マスクにSARS-CoV-2が付着している場合、前記検出試薬に含まれる核酸分子がSARS-CoV-2と選択的に結合する(図3(c))。すると、前記核酸分子中のシグナル発生領域(S)とシグナル発生物質との相互作用が生じるため、シグナル発生が可能となる。すなわち、SARS-CoV-2が存在する場合に限りシグナル発生が可能となるため、前記シグナル発生工程により、例えば、マスクに励起光を発生可能なライトを照射すると、前記シグナルとして蛍光発光が発生する(図3(d))。前記シグナル検出工程によって、例えば、蛍光発光であれば、その発光強度によってマスクに存在するSARS-CoV-2の量を目視でも検出可能である。定性分析又は定量分析が必要であれば、分光光度計のようなシグナル検出装置して、前記シグナルを検出してもよい。
【0084】
このように、本発明によれば、微生物やウイルスの検出を簡便にすることができる。また、本発明によりウイルス等を検出しなければ、ウイルス等を排出するリスクの低いと判断することができ、療養期間を短縮することができる。さらに、発熱などの症状がない場合であっても、ウイルス等を排出するリスクがあるか否かを容易に判断することが可能となる。
【0085】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【0086】
<付記>
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
核酸分子及びシグナル発生物質を含み、
前記核酸分子は、ターゲット結合領域(T)、及び、シグナル発生領域(S)を含み、
前記ターゲット結合領域(T)は、検出ターゲット物質が結合可能であり、
前記シグナル発生領域(S)は、前記ターゲット結合領域(T)に前記検出ターゲット物質が結合した場合に、前記シグナル発生物質と相互作用して前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能であり、
前記検出ターゲット物質は、微生物及びウイルスの少なくとも一方に由来する物質である、
微生物検出用又はウイルス検出用の検出試薬。
(付記2)
前記検出試薬は、液状検出試薬であり、
前記液状検出試薬は、前記検出ターゲット物質の検出対象となる検出対象物に接触させることが可能である、
付記1記載の検出試薬。
(付記3)
検出試薬、及び、シグナル発生装置を含み、
前記検出試薬は、付記1又は2記載の検出試薬であり、
前記シグナル装置は、前記シグナル発生物質からシグナルを発生させることが可能である、
微生物検出用又はウイルス検出用の検出キット。
(付記4)
前記検出試薬に含まれる前記シグナル発生物質は、蛍光色素であり、
前記シグナル発生装置は、蛍光を発生可能な光を発生可能なライトである、
付記3記載の検出キット。
(付記5)
さらに、シグナル検出装置を含む、
付記3又は4記載の検出キット。
(付記6)
付記3から5のいずれかに記載の検出キットを含み、
前記検出ターゲット物質が、病原体由来のターゲット物質である、
診断キット。
(付記7)
検出試薬接触工程、及びシグナル発生工程を含み、
前記検出試薬接触工程は、付記1又は2記載の検出試薬を前記検出ターゲット物質の検出対象となる検出対象物に接触する工程であり、
前記シグナル発生工程は、前記シグナル発生物質からシグナルを発生させる工程である、
微生物又はウイルスの検出方法。
(付記8)
前記検出試薬に含まれる前記シグナル発生物質は、蛍光色素であり、
前記シグナル発生工程は、蛍光を発生可能な光を発生可能なライトを照射する工程である、
付記7記載の検出方法。
(付記9)
さらに、シグナル検出工程を含み、
前記シグナル検出工程は、前記発生したシグナルを検出する工程である、
付記7又は8記載の検出方法。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の検出試薬、検出キット、診断キット、及び微生物又はウイルスの検出方法によれば、微生物やウイルスを簡便に検出することができる。このため、本発明は、例えば、臨床医療、食品、環境等の様々な分野における研究および検査に、極めて有用な技術といえる。
図1A
図1B
図2
図3