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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058872
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】制振装置、及び制振方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240422BHJP
   F16F 15/18 20060101ALI20240422BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240422BHJP
   E01D 19/04 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/18 Z
E04H9/02 351
E04H9/02 341C
E01D19/04 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166253
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 奈々子
(72)【発明者】
【氏名】松尾 直樹
(72)【発明者】
【氏名】富岡 佐和子
(72)【発明者】
【氏名】工藤 朗太
【テーマコード(参考)】
2D059
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059GG12
2E139AA01
2E139AA17
2E139AB00
2E139AC03
2E139AC06
2E139AC20
2E139BA04
2E139BA12
2E139BA23
2E139BB36
3J048AC07
3J048AD07
3J048BF01
3J048CB01
3J048CB18
3J048CB21
3J048EA38
3J048EA39
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち対象物の振動を収めるとともに、従来技術に比してより長くしかも安定的に発電することができる制振装置と、これを用いた制振方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の制振装置は、振動する対象物に取り付けられ、対象物を制振する装置であって、主錘と主ばね、主ダンパー、補助錘、補助ばね、補助ダンパー、錘間ばね、慣性質量ダンパー、発電素子を備えたものである。そして、対象物が振動している間は、主錘と補助錘が振動することによって対象物を制振する「制振モード」と、主錘に対する補助錘の相対振動に伴って発電素子が発電する「発電モード」の2つの機能を備えたものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動する対象物に取り付けられ、該対象物を制振する装置であって、
主錘と、
一端が前記主錘に固定される主ばねと、
一端が前記主錘に固定される主ダンパーと、
補助錘と、
一端が前記補助錘に固定される補助ばねと、
一端が前記補助錘に固定される補助ダンパーと、
一端が前記主錘に固定されるとともに他端が前記補助錘に固定される錘間ばねと、
一端が前記主錘に固定されるとともに他端が前記補助錘に固定される慣性質量ダンパーと、
前記主錘と前記補助錘との間に配置される発電素子と、を備え、
前記主ばね及び前記主ダンパーの他端を前記対象物に固定するとともに、前記補助ばね及び前記補助ダンパーの他端を該対象物に固定することによって、該対象物に取り付けられ、
前記対象物が振動している間は、前記主錘と前記補助錘が振動する「制振モード」として機能し、
前記対象物の振動が収まると、前記主錘の振動が収まるとともに前記補助錘の振動が継続する「発電モード」として機能し、
前記制振モードにおいては、前記主錘と前記補助錘が振動することによって前記対象物を制振し、
前記発電モードにおいては、前記主錘に対する前記補助錘の相対振動に伴って前記発電素子が発電する、
ことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
一端が前記主錘に固定されるとともに他端が前記補助錘に固定される錘間ダンパーを、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の制振装置。
【請求項3】
前記主錘、前記補助錘、及び前記対象物が、上下方向に並んで配置され、
前記補助錘が、前記主錘と前記対象物との間に配置され、
前記対象物の上方又は下方に配置された、
ことを特徴とする請求項1記載の制振装置。
【請求項4】
前記主錘と前記補助錘が、横方向に並んで配置され、
前記対象物の上方又は下方に配置された、
ことを特徴とする請求項1記載の制振装置。
【請求項5】
整流器と、
蓄電池と、をさらに備え、
前記発電素子が発電した交流の電気を前記整流器が直流に変換するとともに、前記蓄電池が直流の電気を蓄電する、
ことを特徴とする請求項1記載の制振装置。
【請求項6】
電動装置、をさらに備え、
前記電動装置は、前記発電素子が発電した電気を動力として作動する、
ことを特徴とする請求項1記載の制振装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の前記制振装置を前記対象物に取り付けることによって、該対象物を制振する方法であって、
前記主錘及び前記補助錘の質量と、前記主ばね、前記補助ばね及び前記錘間ばねのばね定数と、前記主ダンパー及び前記補助ダンパーの減衰性能と、前記慣性質量ダンパーの減衰性能を含む部材仕様を決定する設計工程と、
前記設計工程で決定された前記部材仕様に係る前記制振装置を、該対象物に取り付ける設置工程と、を備え、
前記設計工程では、前記対象物が振動している間は前記制振装置が前記制振モードとして機能するとともに、前記対象物の振動が収まると該制振装置が前記発電モードとして機能するように、前記部材仕様を決定し、
前記設置工程では、前記主ばね及び前記主ダンパーの他端を前記対象物に固定するとともに、前記補助ばね及び前記補助ダンパーの他端を該対象物に固定することによって、前記制振装置を前記対象物に取り付ける、
ことを特徴とする制振方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、振動する対象物の制振に関する技術であり、より具体的には、対象物の振動を収める「制振モード」と、対象物の振動収束後に発電素子が発電する「発電モード」の2つの機能を備えた制振装置と、これを用いた制振方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に集中的に整備されてきた建設インフラストラクチャー(以下、「建設インフラ」という。)は、既に相当な老朽化が進んでいることが指摘されている。平成26年には「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(社会資本整備審議会)」がとりまとめられ、平成24年の笹子トンネルの例を挙げて「近い将来、橋梁の崩落など人命や社会装置に関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らし、建設インフラの維持管理の重要性を強く唱えている。
【0003】
代表的な建設インフラの一つである橋梁も、やはりその老朽化が問題となっている。例えば都市高速道路の高架橋などは、1日当たりの断面交通量が10万台近くもあり、しかも大型車混入率が極めて高く、すなわち長年にわたっておびただしい回数の輪荷重とともに鉛直方向の振動(鉛直振動)を受けているため、高架橋を構成する主部材に疲労損傷が生じていることが容易に想像できる。都市高速道路の高架橋に限らず多くの橋梁は日常的に繰り返し鉛直振動を受けており、したがって疲労をはじめとする種々の要因から各種部材に損傷が生じ、これに伴い橋梁の老朽化が進行しているおそれがある。すなわち日常的に発生する鉛直振動は、橋梁にとって有害なものであり、何らかの対策が求められているところである。
【0004】
また、我が国は地震が頻発する国として知られ、近年では、東北地方太平洋沖地震や、兵庫県南部地震、平成28年熊本地震など大きな地震が発生している。そのため、橋梁に代表される土木構造物や、オフィスビルや集合住宅といった建築構造物などは、想定される地震に対して相当の対策を施したうえで構築されるのが一般的である。
【0005】
上記した鉛直振動や地震振動を含む様々な振動に対する対策としては、耐振(耐震)と免震、そして制振(制震)という3つの対策が挙げられる。このうち耐振は、土木構造物や建築構造物など(以下、総称して「建造物」という。)を堅固な構造にすることによって、振動に抵抗しようという振動対策である。これに対して免震は、地盤と建造物の間に設置した免震装置によって、地盤の揺れを建造物に伝えないという振動対策であり、制振は、建造物に設置された制振装置が、地盤の揺れを吸収するという振動対策である。いわば、耐振が「剛な振動対策」であるのに対して、免震と制振が「柔な振動対策」である。
【0006】
耐振対策は、建造物そのものの被害は免れるものの、建造物に配置された物(例えば、機器や家屋内の家具等)は大きく揺れるためその被害は避けられないという短所がある。また免震対策は、一般的に免震装置が高価であるため設置を含む工事費が増大するうえ、基本的には新設時に設置するものであって供用中に追加設置することが難しいなどの短所がある。一方、制振対策は、建造物はもちろん建造物に配置された物の被害を防ぐことができるうえ、工事費を抑えることができ、建造物の状況によっては追加的に対策を施すこともでき、しかも定期的なメンテナンスを軽減できるといった長所がある。そのため近年では、制振対策も数多く採用されるようになってきた。
【0007】
従来、制振対策としては、揺れに伴って建造物の一部(例えば、梁)が大きく変形する箇所に粘性減衰を付加する方法(以下、「粘性減衰法」という。)と、揺れ(振幅)が大きい箇所に動吸振器を設置する方法(以下、「同調質量ダンパー法」という。)が主流であった。この粘性減衰法は、同調質量ダンパー法に比して外力の振動数への依存性は小さいものの、粘性減衰要素の変形量が小さいため一般的に振動低減効果は限定的である。
【0008】
一方、同調質量ダンパー法は、共振振動数近傍の振動を効果的に抑制できるものの、同調比に対するロバスト性を向上させるためには梁など(建造物の一部)に対する動吸振器(特に重錘)の質量比を大きくする必要があり、その建造物が負担する荷重が増加することになる。また同調質量ダンパー法は、対象とする梁などの固有周期に極めて近い固有周期を有する重錘を選定して利用することから、様々な揺れに対して相応の効果を発揮するものではなく、いわば目的の揺れのパターンを狙った対策であり、故に対応できる揺れのパターンは極めて限定的となる。
【0009】
このように粘性減衰法、同調質量ダンパー法ともに短所があることから、近時、慣性質量ダンパー(RIMD:Rotating Inertial Mass Damper)を利用した制振対策(以下、「慣性質量ダンパー法」という。)も用いられるようになってきた。この慣性質量ダンパーは、同調質量ダンパー(動吸振器)のように著しく大きな質量の重錘を用意する必要がないという特長があり、また反共振の帯域で効果を発揮することができるものである。換言すれば慣性質量ダンパーは、所定範囲内にある振幅の揺れに対しては相応の効果を発揮することができるものであり、すなわち同調質量ダンパー法に比して様々な揺れのパターンに柔軟に対応することができるものである。
【0010】
そこで、慣性質量ダンパーを利用した制振技術が、これまでにも提案されている。例えば特許文献1では、同調質量ダンパー(TMD:Tuned Mass Damper)の素子として慣性質量ダンパーを利用した発明について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2021-14905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、近年、地球温暖化に伴う環境問題が叫ばれる中、温室効果ガスの削減は喫緊の課題とされている。これに応じて発電の方法も次第に変化しており、1980年頃には石油、石炭による発電が全体の約5割を占めていたのに対し、現在ではその割合は3割程度まで減少している。代わりに増加してきたのが原子力発電である。しかしながら、先の東北地方太平洋沖地震では原子炉破損によって放射性物質が大量に漏れ出すという事故が発生し、原子力発電に対する不安が一気に高まった。そのため、原子力エネルギーへの過度な依存から脱却し、安全な再生可能エネルギーの積極的な利用が求められており、再生可能エネルギーを生み出す新たな技術が切望されているところである。
【0013】
このような背景もあり、特許文献1でも開示しているように、振動体の振動を利用して発電する技術が近時普及しつつある。制振装置が吸収した振動エネルギーを、電気エネルギーに変換するわけである。しかしながら、同調質量ダンパー法を利用した発電機(以下、「同調質量ダンパー式発電機」という。)は、いくつかの問題を指摘することができる。
【0014】
通常、制振装置は、対象物の振動をできるだけ早く収めることを目的として設置される。一方、発電装置は、できるだけ長く稼働することが望ましい。ところが同調質量ダンパー式発電機は、制振対象物の振動が収まると同調質量ダンパー(TMD)の振動も収まることとなり、対象物の振動の継続時間と発電の継続時間はほぼ等しく短い。つまり、同調質量ダンパー式発電機は、対象物の振動を早く収めるが故に、発電するための十分な時間が確保されないという短所があるわけである。
【0015】
また、対象物の振動を収めるまでの間その振幅は絶えず変化しており、これに伴って同調質量ダンパー(TMD)も振幅を変えながら振動することとなる。しかも同調質量ダンパー式発電機では、電気エネルギーに変換する前に急激にその振幅が変化することが知られている。すなわち同調質量ダンパー式発電機は、効率的かつ安定して発電することができないという短所もある。
【0016】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち対象物の振動を収めるとともに、従来技術に比してより長くしかも安定的に発電することができる制振装置と、これを用いた制振方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明は、対象物の振動を収める「制振モード」、振動収束後に発電素子が発電する「発電モード」の2つの機能を併せ持つ、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0018】
本願発明の制振装置は、振動する対象物に取り付けられ、対象物を制振する装置であって、主錘と主ばね、主ダンパー、補助錘、補助ばね、補助ダンパー、錘間ばね、慣性質量ダンパー(RIMD)、発電素子を備えたものである。主ばねと主ダンパーは、それぞれ一端が主錘に固定され、他端は対象物に固定される。また補助ばねと補助ダンパーは、それぞれ一端が補助錘に固定され、他端は対象物に固定される。錘間ばねと錘間ダンパーは、それぞれ一端が主錘に固定され、他端は補助錘に固定される。発電素子は、主錘と補助錘との間に配置される。なお錘間ダンパーは、慣性質量ダンパーとされる。そして、対象物が振動している間は、主錘と補助錘が振動する「制振モード」として機能し、対象物の振動が収まると、主錘の振動が収まるとともに補助錘の振動が継続する「発電モード」として機能する。この制振モードにおいては、主錘と補助錘が振動することによって対象物を制振し、一方の発電モードにおいては、主錘に対する補助錘の相対振動に伴って発電素子が発電する。
【0019】
本願発明の制振装置は、一端が主錘に固定されるとともに他端が補助錘に固定される錘間ダンパーをさらに備えたものとすることもできる。
【0020】
本願発明の制振装置は、主錘と補助錘、対象物振が上下方向に並んで配置されたものとすることもできる。この場合、補助錘は主錘と対象物との間に配置され、装置全体は対象物の上方又は下方に配置される。
【0021】
本願発明の制振装置は、補助錘と主錘が横方向に並んで配置されたものとすることもできる。この場合、装置全体は対象物の上方又は下方に配置される。
【0022】
本願発明の制振装置は、整流器と蓄電池をさらに備えたものとすることもできる。この場合、発電素子が発電した交流の電気を整流器が直流に変換するとともに、蓄電池が直流の電気を蓄電する。
【0023】
本願発明の制振装置は、電動装置をさらに備えたものとすることもできる。この電動装置は、発電素子が発電した電気を動力として作動するものである。
【0024】
本願発明の制振方法は、本願発明の制振装置を対象物に取り付けることによって、対象物を制振する方法であって、設計工程と設置工程を備えた方法である。このうち設計工程では、「主錘及び補助錘の質量」と、「主ばね、補助ばね及び錘間ばねのばね定数」、「主ダンパー及び補助ダンパーの減衰性能」と、「慣性質量ダンパーの減衰性能」を含む部材仕様を決定する。また設置工程では、設計工程で決定された部材仕様に係る制振装置を対象物に取り付ける。なお設計工程では、対象物が振動している間は制振装置が制振モードとして機能するとともに、対象物の振動が収まると制振装置が発電モードとして機能するように、部材仕様を決定する。また設置工程では、主ばねと主ダンパーの他端を対象物に固定するとともに、補助ばねと補助ダンパーの他端を対象物に固定することによって、制振装置を対象物に取り付ける。
【発明の効果】
【0025】
本願発明の制振装置、及び制振方法には、次のような効果がある。
(1)対象物の振動を収めることができるうえに、発電することができる。しかもこの発電によって得られる電気は、再生可能エネルギーである。
(2)対象物の振動収束後に、動吸振器(主錘と主ばね、主ダンパー)が相対運動を一定振動数で継続することができる。そして、この相対運動する部分に発電素子が取り付けられていることから、長くしかも安定的に発電することができる。
(3)また電動装置を備える場合、その電動装置の作動に必要な電力を提供することができる。例えば、電動装置として付加の小さなダイオード等の照明を備える場合、車両通過後しばらく点灯し続けることができ、断続的な車両通過があれば継続的な照明を得ることも可能となる。あるいは電動装置としてデリネーターの清掃装置を備えることもできる。従来、風力で回転する翼によってデリネーターを清掃していたが、ウォッシャー液射出装置やワイパーなどを利用した清掃装置とすれば、従来技術よりも効果的にデリネーターを清掃することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本願発明の制振装置が設置された道路橋を模式的に示す側面図。
図2】主錘と補助錘が上下に配置された制振装置の主な構成を示すブロック図。
図3】主錘と補助錘が左右に配置された制振装置の主な構成を示すブロック図。
図4】ボールねじ式の慣性質量ダンパーを鉛直面で切断した断面図。
図5】ラックピニオン式の慣性質量ダンパーを鉛直面で切断した断面図。
図6】発電素子を有するボールねじ式の慣性質量ダンパーを鉛直面で切断した断面図。
図7】(a)は制振モードを説明するモデル、(b)は発電モードを説明するモデル。
図8】制振装置の運動方程式、制振装置と対象物運動方程式を示す数式図。
図9】(a)は対象物の時刻歴波形を示すグラフ図、(b)は補助錘の相対運動の時刻歴波形を示すグラフ図。
図10】本願発明の制振方法の主な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明の制振装置、及び制振方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0028】
1.全体概要
図1は、本願発明の制振装置100が設置された道路橋を模式的に示す側面図である。この図に示すように本願発明の制振装置100は、例えば橋梁の梁材(主桁や床版)など振動する物(以下、「対象物」という。)に設置することによって、その対象物(この場合は梁材)の振動を抑制(制振)するものである。特に、図1に示す2基の橋脚の支間中央部分など、比較的振幅が大きい振動が発生する箇所に設置することによって、直接的にその位置の振動を抑制することができるものである。なお本願発明の制振装置100、及び制振方法は、橋梁のほかオフィスビルやマンションの床面など振動するあらゆるものを「対象物」とすることができるが、便宜上ここでは図1に示す道路橋の梁材を対象物とする例で説明する。
【0029】
2.制振装置
本願発明の制振装置100について、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の制振方法は、制振装置100を用いて対象物の振動を制振する方法である。したがってまずは制振装置100について説明し、その後に本願発明の制振方法について説明することとする。
【0030】
図2は、本願発明の制振装置100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように制振装置100は、2種類の質量体を含んで構成される。便宜上ここでは、これら質量体を区別するため、一方の質量体を「主錘113」、他方の質量体を「補助錘123」ということとする。
【0031】
図2に示すように主錘113には、ばね(以下、「主ばね111」という。)の一端(図では上端)が固定されるとともに、ダンパー(以下、「主ダンパー112」という。)の一端(図では上端)が固定される。同様に補助錘123にも、ばね(以下、「補助ばね121」という。)の一端(図では上端)が固定されるとともに、ダンパー(以下、「補助ダンパー122」という。)の一端(図では上端)が固定される。
【0032】
また主錘113と補助錘123との間にも、ばね(以下、「錘間ばね131」という。)とダンパー(以下、「錘間ダンパー132」という。)が配置され、さらに慣性質量ダンパー140と発電素子150も配置されている。この錘間ばね131と錘間ダンパー132、慣性質量ダンパー140は、それぞれの一端(図では上端)が主錘113に固定され、他端(図では下端)が補助錘123に固定されている。なお、図2で梁材GRと地盤との間に示す要素は、橋梁を1自由度モデルに置換した場合の「等価ばね係数BS」と「等価減衰係数BD」である。
【0033】
図2では、制振装置100が対象物である梁材GRの上方に配置されており、しかも補助錘123より上方となるように主錘113が配置されている。そして、主ばね111と主ダンパー112それぞれの下端を梁材GRに固定するとともに、補助ばね121と補助ダンパー122それぞれの下端を梁材GRに固定することによって、制振装置100が梁材GRに取り付けられる。なおこの図では梁材GRの上側に制振装置100を取り付けているが、もちろん梁材GRの下側に制振装置100を取り付けることもできる。この場合、上から梁材GR、補助錘123、主錘113の順で配置されることとなる。
【0034】
また本願発明の制振装置100は、図3に示すように主錘113と補助錘123が左右に並ぶように配置されたものとすることもできる。図3では、制振装置100が対象物である梁材GRの上方に配置されており、しかも補助錘123より右側となるように主錘113が配置されている。そして、主ばね111と主ダンパー112それぞれの下端を梁材GRに固定するとともに、補助ばね121と補助ダンパー122それぞれの下端を梁材GRに固定することによって、制振装置100が梁材GRに取り付けられる。もちろん梁材GRの下側に制振装置100を取り付けることもできるし、補助錘123が右側で主錘113が左側となるように配置することもできる。
【0035】
図3に示す制振装置100も、図2に示す制振装置100と同様、主錘113と補助錘123との間に錘間ばね131と錘間ダンパー132、慣性質量ダンパー140、発電素子150(ただし不図示)が配置されている。そして錘間ばね131と錘間ダンパー132、慣性質量ダンパー140は、それぞれの一端(図では左端)が主錘113に固定され、他端(図では右端)が補助錘123に固定されている。
【0036】
以下、本願発明の制振装置100を構成する主な要素ごとにさらに詳しく説明する。
【0037】
(主ばね、補助ばね、錘間ばね)
主ばね111や補助ばね121、錘間ばね131は、従来用いられている種々のばねを利用することができる。例えば、ばね形状に着目すると「コイルばね」や「渦巻ばね」、「板ばね」、「皿ばね」、「トーションバー」といったばねを利用することができ、材料に着目すると「金属ばね」や「ゴムばね」、「流体ばね(空気ばね、液体ばね)」といったばねを利用することができる。
【0038】
(主ダンパー、補助ダンパー、錘間ダンパー)
主ダンパー112や補助ダンパー122、錘間ダンパー132は、従来用いられている種々のダンパーを利用することができる。例えば、「オイルダンパー」や「鋼材ダンパー」、「ゴムダンパー」といったダンパーを利用することができる。
【0039】
(慣性質量ダンパー)
慣性質量ダンパー140は、ボールねじ式のものやラックピニオン式のものなど従来用いられている種々のものを利用することができる。図4は、ボールねじ式を採用した慣性質量ダンパー140を鉛直面で切断した断面図である。この図に示す慣性質量ダンパー140は、ねじ支柱141と支持体143、そして回転錐142とボールナット144からなる「回転体」を備えている。ねじ支柱141は、外周にねじ(雄ねじ)が設けられた棒状や筒状のものである。回転錐142は、中央部に貫通孔(以下、「中心孔」という。)を具備する円盤状のものである。ボールナット144は、回転錐142と同様、中心孔が設けられており、その中心孔の内周にはねじ(雌ねじ)が設けられている。回転体は、双方の中心孔の位置を合わせた状態で回転錐142をボールナット144に固定することによって形成される。そして、この回転体の中心孔内にねじ支柱141を挿通するとともに、ねじ支柱141外周の雄ねじと回転体(この場合、ボールナット144)内周の雌ねじを螺合することによって、回転体はねじ支柱141に取り付けられる。
【0040】
中空の函体である支持体143は、回転体がねじ支柱141の軸周りに回転可能となるように、回転体を支持するものである。また、回転体が支持体143に対して相対的にねじ支柱141の軸方向(図4では上下方向)や軸直角方向(図4では左右方向)に移動しないように、回転体を支持するとよい。支持体143の底面には挿通孔THが設けられており、ボールナット144はこの挿通孔TH内に配置される。
【0041】
ねじ支柱141の軸周りに回転可能となるように回転体を支持するには、図4に示すように、支持体143の挿通孔THに配置されたボールナット144とベアリング145を利用するとよい。より詳しくは、ねじ支柱141を挿通孔THに挿通してボールナット144をこの挿通孔THに配置し、そしてボールナット144と挿通孔THとの間に生じた空隙(クリアランス)に複数のベアリング145を配置する。球状のベアリング145が自在回転することによってボールナット144(つまり、回転体)の回転が自由となり(つまり拘束されず)、またボールナット144と一体となって回転する回転錐142もその回転が自由となり、これによりねじ支柱141の軸周りに回転可能となるように回転体が支持されるわけである。
【0042】
慣性質量ダンパー140は、その一端が主錘113に固定され、他端が補助錘123に固定される。例えば図4では、支持体143の頂部が主錘113に固定され、ねじ支柱141の下端が補助錘123に固定されている。そして主錘113と補助錘123が上下に振動すると、ねじ支柱141が上方や下方への移動を始め、これに伴って回転体がねじ支柱141周りに回転していく。つまりボールねじ式の慣性質量ダンパー140は、振動エネルギーを回転体が回転するエネルギーに変換することによって、梁材GRの振動を収めていくわけである。
【0043】
図5は、ラックピニオン式を採用した慣性質量ダンパー140を鉛直面で切断した断面図である。この図に示す慣性質量ダンパー140は、2つのラックギア146と、ピニオンギア147、そしてギア支持体148を備えたものである。ラックギア146にはギアが設けられ、ピニオンギア147の外周にもギアが設けられており、双方のギアが噛み合うことで「ラックピニオン構造」が形成されている。なおギア支持体148は、ピニオンギア147が上下方向や左右方向に移動しないように、つまりその位置が維持されるように支持するものである。
【0044】
図5では、一方(図では上方)のラックギア146の上端が主錘113に固定され、他方(図では下方)のラックギア146の下端が補助錘123に固定されている。そして主錘113と補助錘123が上下に振動すると、2つのラックギア146が互いに逆方向となるように上下移動を始め、これに伴ってピニオンギア147が回転していく。つまりラックピニオン式の慣性質量ダンパー140は、振動エネルギーを回転体が回転するエネルギーに変換することによって、梁材GRの振動を収めていくわけである。
【0045】
(発電素子)
発電素子150は、発電することができるものであり、発電可能であれば従来用いられている種々のものを利用することができる。特に、発電素子150が主錘113と補助錘123の間に配置されることから、主錘113と補助錘123の振動を利用して発電する形式のものを利用することができる。例えば発電素子150を、コイルと磁石(永久磁石など)からなるものとすることができる。すなわち、主錘113に磁石を固定するとともに、補助錘123にコイルを固定し、主錘113と補助錘123の振動によって生じる電磁誘導を利用して発電するわけである。
【0046】
あるいは発電素子150を、コイル内で磁石が回転する構成とすることもできる。例えば、図5に示すピニオンギア147が回転すると、この回転に伴って磁石も回転する構成とし、コイル内で磁石が回転することで発電するわけである。また図6に示すように、慣性質量ダンパー140を利用して発電することもできる。回転錐142の回転を利用して、発電用モータなどの発電素子150に発電させるわけである。具体的には、歯車(ギア)とした回転錐142と、発電素子150が具備するギアSCとを噛み合わせ、これにより回転錐142の回転に伴って発電素子150のギアSCが回転することとなる。そして、ギアSCの回転に伴ってコイル内の磁石が回転し、これにより発電するわけである。
【0047】
発電素子150が発電した電気は、蓄電池で蓄電することができる。なお、発電素子150が交流の電気を発電する場合、整流器(コンバータ)を設けるとよい。整流器が交流を直流に変換したうえで、蓄電池に蓄電させることができる。あるいは、発電素子150が発電した電気を、蓄電することなく(あるいは蓄電したうえで)その場で使用することもできる。電気を動力として作動する装置(以下、「電動装置」という。)を設置し、その電動装置の作動に必要な電力を提供するわけである。例えば、負荷の小さなダイオード照明(電動装置)を設置すると、車両通過後しばらく点灯し続けることができ、断続的な車両通過があれば継続的な照明を得ることも可能となる。また、電動装置としてのデリネーター用清掃装置を設置することもできる。この場合、電動でウォッシャー液を射出したり、電動でワイパーを動作させたりすることによって、従来技術よりも効果的にデリネーターを清掃することができる。
【0048】
ところで、発電素子150が発電する際には、空気抵抗や磁気による抵抗、摩擦による抵抗などが生じ、その結果、主錘113と補助錘123の振動を減衰する作用が働く。つまり発電素子150は、ある程度の減衰性能を有している。そのため発電素子150が相当程度の減衰性能を有するケースでは、極めて小さい減性能の錘間ダンパー132を用いるか、あるいは錘間ダンパー132を省略することもできる。
【0049】
(制振モードと発電モード)
本願発明の制振装置100は、「制振モード」と「発電モード」の2つの機能を備えたことを特徴のひとつとしている。すなわち制振装置100は、対象物が振動している間は「制振モード」として機能し、対象物の振動が収まると「発電モード」として機能する。
【0050】
図7(a)は制振モードを説明するモデルであり、図7(b)は発電モードを説明するモデルである。制振モードでは、図7(a)に示すように、対象物が振動しているとともに、主錘113と補助錘123も振動している。この制振モードでは、主錘113と補助錘123がいわば対象物の制振に専念しており、これによって早くその振動を収めることができる。一方、発電モードでは、図7(b)に示すように、対象物の振動が収まっており、また主錘113の振動が収まっているが、補助錘123は継続して振動している。この発電モードでは、制振という役割を終えた主錘113は振動していないが、発電のため補助錘123は引き続き振動しており、これによって長く発電することができる。
【0051】
制振装置100が制振モードと発電モードを備えるということは、換言すれば制振装置100は、制振モードと発電モードを備えるように、つまり、対象物の振動中は主錘113と補助錘123が振動し、対象物の停止後は補助錘123のみが振動するように設計されたものである。制振装置100を設計するにあたっては、図8に示す運動方程式を利用するとよい。なお、図8中の式(1)は制振装置100のみの運動方程式、図8中の式(2)は対象物と外乱項を含む制振装置100の運動方程式であり、図8中の式(3)は式(2)の相対変位yを与える式である。また図2図3に示すように、xは地盤の変位、xは補助錘123の変位、xは主錘113の変位である。
【0052】
図8の式(1)~(3)に基づく計算を行うことによって、各部材の仕様(以下、「部材仕様」という。)を決定する。具体的には、主錘113の質量mと補助錘123の質量m、主ばね111のばね定数kと補助ばね121のばね定数kと錘間ばね131のばね定数k、主ダンパー112の減衰係数c(減衰性能)と補助ダンパー122の減衰係数cと錘間ダンパー132(あるいは発電素子150)の減衰係数c、そして慣性質量ダンパー140の慣性質量ψを含む部材仕様を決定する。そして、その部材仕様に係る各部材を調達して製作すると、制振モードと発電モードを備える制振装置100が得られる。
【0053】
図9は、制振装置100に対して振動解析を行った結果を示すグラフであり、(a)は対象物の時刻歴波形を示し、(b)は補助錘123の相対運動の時刻歴波形を示している。なお、図9(a)の黒線は制振装置100が設置された対象物の応答曲線であり、グレー線は制振装置100が設置されない対象物の応答曲線である。また図9(b)の黒線は、補助錘123の相対運動を示す曲線である。この図から分かるように本願発明の制振装置100は、従来技術と同等の期間で対象物の振動を収めることができ(図9(a)の比較)、対象物の振動収束後も補助錘123が継続して振動するため発電素子150がより長く発電することができる。また図9(b)に示すように、補助錘123は対象物の振動収束後もほぼ一定の振幅で振動しており、これにより発電素子150はより安定して発電することができる。
【0054】
3.制振方法
次に本願発明の制振方法について図を参照しながら説明する。なお本願発明の制振方法は、ここまで説明した制振装置100を用いて対象物の振動を制振する方法である。したがって制振装置100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の制振方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.制振装置」で説明したものと同様である。
【0055】
図10は、本願発明の制振方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように本願発明の制振方法を実施するにあたっては、まず制振装置100を構成する各部材の部材仕様を決定する(図10のStep201)。具体的には、図8の式(1)~(3)に基づく設計計算を行うことによって、主錘113の質量mと補助錘123の質量m、主ばね111のばね定数kと補助ばね121のばね定数kと錘間ばね131のばね定数k、主ダンパー112の減衰係数cと補助ダンパー122の減衰係数cと錘間ダンパー132(あるいは発電素子150)の減衰係数c、そして慣性質量ダンパー140の慣性質量ψを含む部材仕様を決定する。
【0056】
部材仕様が定まると、その部材仕様に係る各部材(主錘113と補助錘123、主ばね111、補助ばね121、錘間ばね131、主ダンパー112、補助ダンパー122、錘間ダンパー132、慣性質量ダンパー140、発電素子150など)を調達する(図10のStep202)。必要な各部材を調達すると、事前に制振装置100を製作して現地(例えば道路橋)に搬入し、その制振装置100を梁材GRに設置する(図10のStep203)。あるいは、必要な各部材を現地に搬入し、制振装置100を組立てながら梁材GRに設置することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本願発明の制振装置、及び制振方法は、道路橋、鉄道橋、歩道橋など種々の用途の橋梁に利用でき、さらに橋梁のほかオフィスビルやマンションなどの床面にも利用することができる。本願発明によれば、供用中の建造物の振動を抑制することができるうえに、再生可能エネルギーとしての電気を生み出すことを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0058】
100 本願発明の制振装置
111 (制振装置の)主ばね
112 (制振装置の)主ダンパー
113 (制振装置の)主錘
121 (制振装置の)補助ばね
122 (制振装置の)補助ダンパー
123 (制振装置の)補助錘
131 (制振装置の)錘間ばね
132 (制振装置の)錘間ダンパー
140 (制振装置の)慣性質量ダンパー
141 (ボールねじ式慣性質量ダンパーの)ねじ支柱
143 (ボールねじ式慣性質量ダンパーの)支持体
142 (ボールねじ式慣性質量ダンパーの)回転錐
144 (ボールねじ式慣性質量ダンパーの)ボールナット
145 (ボールねじ式慣性質量ダンパーの)ベアリング
146 (ラックピニオン式慣性質量ダンパーの)ラックギア
147 (ラックピニオン式慣性質量ダンパーの)ピニオンギア
148 (ラックピニオン式慣性質量ダンパーの)ギア支持体
150 (制振装置の)発電素子
BD 等価減衰係数
BS 等価ばね係数
GR 梁材
SC ギア
TH 挿通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10