(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058904
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】操舵制御装置および操舵制御方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240422BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166309
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA05
3D232DA15
3D232DA19
3D232EB08
3D232EB12
3D232EC37
3D333CB02
3D333CB31
3D333CE07
(57)【要約】
【課題】整備などを行う際、外力によるステアリングシャフトの回転に対して適切に対応することができる操舵制御装置および操舵制御方法を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、ステアリングホイールが着脱可能に連結されるステアリングシャフトと、ステアリングシャフトに付与されるトルクを発生するように構成されるモータと、を備える操舵装置を制御対象とする。操舵制御装置は、モータの駆動を制御するための処理を実行するように構成される処理装置を有する。処理装置は、ステアリングホイールがステアリングシャフトから取り外された状態であるとき、ステアリングシャフトの回転位置Psを特定の位置に固定するようにモータを駆動させるロック処理を実行するように構成される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルが着脱可能に連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに付与されるトルクを発生するように構成されるモータと、を備える操舵装置を制御対象とする操舵制御装置であって、
前記モータの駆動を制御するための処理を実行するように構成される処理装置を有し、
前記処理装置は、前記ハンドルが前記ステアリングシャフトから取り外された状態であるとき、前記ステアリングシャフトの回転位置を特定の位置に固定するように前記モータを駆動させるロック処理を実行するように構成される操舵制御装置。
【請求項2】
前記処理装置は、外部ツールからの指令が受信されることを契機として、前記ロック処理の実行を開始するように構成される請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記特定の位置は、車両の直進状態に対応する前記ステアリングシャフトの中点位置である請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記処理装置は、前記ロック処理として、前記車両の直進状態に対応する前記モータの回転位置であるモータ中点を前記モータの目標回転角として設定し、前記目標回転角と、前記モータの実際の回転角との差を無くすように、前記モータを駆動させるように構成される請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記操舵装置は、前記ハンドルの操舵角を検出するように構成される舵角センサを有し、
前記処理装置は、前記ロック処理として、前記車両の直進状態に対応する前記操舵角の中点を前記操舵角の目標回転角として設定し、前記目標回転角と、前記舵角センサを通じて検出される前記操舵角との差を無くすように、前記モータを駆動させるように構成される請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記特定の位置は、前記ハンドルを取り外したときの前記ステアリングシャフトの回転位置である請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記操舵装置は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトを有し、
前記特定の位置は、前記転舵シャフトの物理的な可動範囲の限界位置であるエンド位置に対応する前記ステアリングシャフトの回転位置である請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項8】
前記操舵装置は、前記ハンドルと車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置であって、
前記モータは、前記ステアリングシャフトに付与される操舵反力を発生する反力モータである請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項9】
前記操舵装置は、前記ハンドルと車両の転舵輪との間が動力伝達可能に連結された電動パワーステアリング装置であって、
前記モータは、前記ハンドルの操舵を補助するためのアシスト力を発生するアシストモータである請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項10】
ハンドルが着脱可能に連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに付与されるトルクを発生するように構成されるモータと、を備える操舵装置を制御する操舵制御方法であって、
前記ハンドルが前記ステアリングシャフトから取り外された状態であるとき、前記ステアリングシャフトの回転位置を特定の位置に固定するように前記モータを駆動させる操舵制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置および操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が存在する。操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータを有する反力機構と、転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有する転舵機構とを備えている。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータに対する給電制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータに対する給電制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、ステアリングホイールが転舵機構からの制約を受けない。このため、車両の電源がオフされている状態でステアリングホイールに何らかの外力が加わった際、ステアリングホイールが回転するおそれがある。このとき、転舵輪は動作しないため、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係と異なる状況が生じる。舵角比とは、ステアリングホイールの操舵角と転舵輪の転舵角との比である。
【0004】
たとえば特許文献1の操舵装置は、車両の電源がオンされたとき、ステアリングホイールの回転位置を自動調節する機能を有している。操舵装置の制御装置は、車両の電源がオフされたときのステアリングホイールの回転位置と、車両の電源がオンされたときのステアリングホイールの回転位置との比較を通じてステアリングホイールの回転位置のずれ量を演算し、このずれ量が0(零)になるように反力モータを駆動させる。
【0005】
また、特許文献1の操舵装置は、ステアリングホイールの舵角中点情報を学習する機能を有している。舵角中点情報は、ステアリングホイールの操舵中立位置に対応する反力モータの回転角である。操舵装置の制御装置は、たとえばバッテリの交換作業時、新たにバッテリが取り付けられた後、初めて車両の電源がオンされたとき、ステアリングホイールの操舵中立位置を学習するための処理を実行する。これは、つぎの理由による。
【0006】
すなわち、バッテリの交換作業を行う場合、車両からバッテリが取り外されたとき、制御装置に電力が供給されなくなる。このため、制御装置に記憶されていた舵角中点情報が消失する。これにより、ステアリングホイールと転舵輪との位置関係を所定の舵角比に応じた位置関係に維持することが困難となるおそれがある。このため、バッテリの交換作業時、新たにバッテリが取り付けられた後、初めて車両の電源がオンされたとき、ステアリングホイールの操舵中立位置を学習する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1を含む従来の操舵装置においては、つぎのようなことが懸念される。すなわち、車両の工場、あるいは車両の販売会社などにおいて、車両の整備などを行う際、ステアリングシャフトに何らかの外力が作用することがある。このとき、外力によってステアリングシャフトが回転するおそれがある。このステアリングシャフトの回転に起因して、整備などに関する作業が阻害されることが懸念される。このため、整備などを行う際、外力によるステアリングシャフトの回転に対して適切に対応することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し得る操舵制御装置は、ハンドルが着脱可能に連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに付与されるトルクを発生するように構成されるモータと、を備える操舵装置を制御対象とする操舵制御装置である。操舵制御装置は、前記モータの駆動を制御するための処理を実行するように構成される処理装置を有する。前記処理装置は、前記ハンドルが前記ステアリングシャフトから取り外された状態であるとき、前記ステアリングシャフトの回転位置を特定の位置に固定するように前記モータを駆動させるロック処理を実行するように構成される。
【0010】
たとえば、整備などを行う際、ハンドルがステアリングシャフトから取り外されることがある。このとき、ステアリングシャフトに何らかの外力が作用することによって、ステアリングシャフトが回転するおそれがある。このステアリングシャフトの回転に起因して、整備などに関する作業が阻害されることが懸念される。
【0011】
この点、上記の構成によれば、たとえば整備などを行うために、ハンドルがステアリングシャフトから取り外された状態であるとき、モータの制御を通じて、ステアリングシャフトの回転位置が特定の位置に固定される。このため、外力によるステアリングシャフトの回転に対して適切に対応することができる。また、ステアリングシャフトに外力が作用する場合であれ、整備などに関する作業を行いやすくなる。
【0012】
上記の操舵制御装置において、前記処理装置は、外部ツールからの指令が受信されることを契機として、前記ロック処理の実行を開始するように構成されるようにしてもよい。
この構成によれば、外部ツールから指令を送信するだけで、ステアリングシャフトの回転位置を中点位置に固定することができる。このため、ハンドルの着脱作業、特に取り付け作業を簡単に行うことができる。
【0013】
上記の操舵制御装置において、前記特定の位置は、車両の直進状態に対応する前記ステアリングシャフトの中点位置であってもよい。
この構成によれば、ステアリングシャフトに外力が作用する場合であれ、ハンドルを正しい向きで取り付けることができる。すなわち、ハンドルの中点位置と、ステアリングシャフトの中点位置とが互いに一致するように、ハンドルをステアリングシャフトに取り付けることができる。
【0014】
上記の操舵制御装置において、前記処理装置は、前記ロック処理として、前記車両の直進状態に対応する前記モータの回転位置であるモータ中点を前記モータの目標回転角として設定し、前記目標回転角と、前記モータの実際の回転角との差を無くすように、前記モータを駆動させるように構成されるようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、モータの回転位置がモータ中点に固定されることにより、ステアリングシャフトの回転位置が中点位置に固定される。
上記の操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記ハンドルの操舵角を検出するように構成される舵角センサを有していてもよい。この場合、前記処理装置は、前記ロック処理として、前記車両の直進状態に対応する前記操舵角の中点を前記操舵角の目標回転角として設定し、前記目標回転角と、前記舵角センサを通じて検出される前記操舵角との差を無くすように、前記モータを駆動させるように構成されるようにしてもよい。
【0016】
この構成によれば、操舵角がその中点に固定されることにより、ステアリングシャフトの回転位置が中点位置に固定される。
上記の操舵制御装置において、前記特定の位置は、前記ハンドルを取り外したときの前記ステアリングシャフトの回転位置であってもよい。
【0017】
整備の作業内容によっては、ステアリングシャフトの回転位置を、ハンドルを取り外したときの回転位置に固定することが要求される。上記の構成によれば、整備の作業内容に応じた要求に応えることができる。
【0018】
上記の操舵制御装置において、前記操舵装置は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトを有していてもよい。この場合、前記特定の位置は、前記転舵シャフトの物理的な可動範囲の限界位置であるエンド位置に対応する前記ステアリングシャフトの回転位置であってもよい。
【0019】
整備の作業内容によっては、ステアリングシャフトの回転位置を、転舵シャフトのエンド位置に対応する位置に固定することが要求される。上記の構成によれば、整備の作業内容に応じた要求に応えることができる。
【0020】
上記の操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記ハンドルと車両の転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置であって、前記モータは、前記ステアリングシャフトに付与される操舵反力を発生する反力モータであってもよい。
【0021】
上記のロック処理は、ステアバイワイヤ式の操舵装置の整備などに好適である。
上記の操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記ハンドルと車両の転舵輪との間が動力伝達可能に連結された電動パワーステアリング装置であって、前記モータは、前記ハンドルの操舵を補助するためのアシスト力を発生するアシストモータであってもよい。
【0022】
上記のロック処理は、電動パワーステアリング装置の整備などに好適である。
上記課題を解決し得る操舵制御方法は、ハンドルが着脱可能に連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに付与されるトルクを発生するように構成されるモータと、を備える操舵装置を制御する方法である。前記ハンドルが前記ステアリングシャフトから取り外された状態であるとき、前記ステアリングシャフトの回転位置を特定の位置に固定するように前記モータを駆動させる。
【0023】
上記の方法によれば、たとえば整備などを行うために、ハンドルがステアリングシャフトから取り外された状態であるとき、モータの制御を通じて、ステアリングシャフトの回転位置が特定の位置に固定される。このため、ステアリングシャフトに外力が作用する場合であれ、整備などに関する作業を円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の操舵制御装置および操舵制御方法によれば、整備などを行う際、外力によるステアリングシャフトの回転に対して適切に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】操舵制御装置の一実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ式の操舵装置の構成図である。
【
図2】一実施の形態の反力制御装置の起動シーケンスを示すタイムチャートである。
【
図3】(a)は、ステアリングホイールが取り外される前のステアリングホイールの回転位置とステアリングシャフトの回転位置との関係の一例を示す模式図、(b)は、ステアリングホイールが取り外される前のステアリングホイールの回転角とステアリングシャフトの回転角との関係の一例を示す単位円である。
【
図4】(a)は、ステアリングホイールが取り外された状態におけるステアリングシャフトの回転位置の一例を示す模式図、(b)は、ステアリングホイールが取り外された状態におけるステアリングシャフトの回転角の一例を示す単位円である。
【
図5】(a)は、ステアリングホイールが取り外された状態において、外力によって変化したステアリングシャフトの回転位置の比較例を示す模式図、(b)は、ステアリングホイールが取り外された状態において、外力によって変化したステアリングシャフトの回転角の比較例を示す単位円である。
【
図6】(a)は、ステアリングホイールが再び取り付けられた後のステアリングホイールの回転位置とステアリングシャフトの回転位置との関係の比較例を示す模式図、(b)は、ステアリングホイールが再び取り付けられた後のステアリングホイールの回転角とステアリングシャフトの回転角との関係の比較例を示す単位円である。
【
図7】(a)は、ステアリングホイールが取り外された状態でステアリングシャフトに外力が付与されたときの一実施の形態にかかるステアリングシャフトの回転位置を示す模式図、(b)は、ステアリングホイールが取り外された状態でステアリングシャフトに外力が付与されたときの一実施の形態にかかるステアリングシャフトの回転角の比較例を示す単位円である。
【
図8】(a)は、ステアリングホイールが再び取り付けられた後の一実施の形態にかかるステアリングホイールの回転位置とステアリングシャフトの回転位置との関係を示す模式図、(b)は、ステアリングホイールが再び取り付けられた後の一実施の形態にかかるステアリングホイールの回転角とステアリングシャフトの回転角との関係を示す単位円である。
【
図9】他の実施の形態にかかる車両用制御装置の搭載される電動パワーステアリング装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、操舵制御装置および操舵制御方法の一実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアバイワイヤ式の操舵装置である。操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。ステアリングホイール11は、車両を運転する際に操作されるハンドルである。ステアリングホイール11は、ステアリングシャフト12に対して着脱可能である。また、操舵装置10は、車幅方向(
図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト13を有している。転舵シャフト13の両端には、それぞれタイロッド14を介して転舵輪15が連結される。転舵シャフト13が直線運動することにより、転舵輪15の転舵角θwが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト13は車両の操舵機構を構成する。なお、
図1では片側の転舵輪15のみを図示する。
【0027】
操舵装置10は、反力モータ21および減速機構22を有している。反力モータ21は、たとえば三相のブラシレスモータである。反力モータ21は、操舵反力の発生源である。操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力は、車両の進行方向を変更する際に反力モータ21が発生する操舵用の操舵力である。
【0028】
反力モータ21の回転軸は、減速機構22を介してステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ21のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0029】
操舵装置10は、転舵モータ31および減速機構32を有している。転舵モータ31は、たとえば三相のブラシレスモータである。転舵モータ31は転舵力の発生源である。転舵力とは、転舵輪15を転舵させるための動力をいう。転舵力は、車両の進行方向を変更する際に転舵モータ31が発生する操舵用の操舵力である。
【0030】
転舵モータ31の回転軸は、減速機構32を介してピニオンシャフト33に連結されている。ピニオンシャフト33のピニオン歯33aは、転舵シャフト13のラック歯13aに噛み合わされている。転舵モータ31のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト33を介して転舵シャフト13に付与される。転舵モータ31の回転に応じて、転舵シャフト13は車幅方向に沿って移動する。
【0031】
操舵装置10は、操舵制御装置40を有している。操舵制御装置40は、操舵装置10を制御対象とする。操舵制御装置40は、つぎの3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
【0032】
A1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)およびメモリを含む。
A2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0033】
A3.構成A1,A2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータで読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。本実施の形態では、コンピュータは、CPUである。メモリは、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。
【0034】
操舵制御装置40は、反力制御装置40Aおよび転舵制御装置40Bを含んでいる。
反力制御装置40Aは、反力モータ21の駆動を制御するための処理を実行する処理装置である。反力制御装置40Aは、操舵トルクThに応じた操舵反力を反力モータ21に発生させるための反力制御を実行する。反力制御装置40Aは、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに基づき目標操舵反力を演算する。トルクセンサ23は、ステアリングシャフト12に設けられている。反力制御装置40Aは、ステアリングシャフト12に付与される実際の操舵反力を目標操舵反力に一致させるべく反力モータ21への給電を制御する。
【0035】
なお、反力制御装置40Aと反力モータ21とを一体的に設けることにより、いわゆる機電一体型の反力アクチュエータを構成してもよい。
転舵制御装置40Bは、転舵モータ31の駆動を制御するための処理を実行する処理装置である。転舵制御装置40Bは、操舵状態に応じて転舵輪15を転舵させるための転舵力を転舵モータ31に発生させるための転舵制御を実行する。転舵制御装置40Bは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θs、およびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwを取り込む。ストロークXwは、転舵シャフト13の中立位置を基準とする変位量であって、転舵角θwが反映される状態変数である。舵角センサ24は、ステアリングシャフト12のトルクセンサ23と減速機構22との間に設けられている。操舵角θsは、ステアリングシャフト12の回転角でもある。ストロークセンサ34は、転舵シャフト13の近傍に設けられている。
【0036】
転舵制御装置40Bは、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsに基づき、転舵輪15の目標転舵角を演算する。転舵制御装置40Bは、ストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき転舵角θwを演算する。転舵制御装置40Bは、ストロークXwに基づき演算される転舵角θwを目標転舵角に一致させるべく転舵モータ31への給電を制御する。
【0037】
なお、転舵制御装置40Bと転舵モータ31とを一体的に設けることにより、いわゆる機電一体型の転舵アクチュエータを構成してもよい。また、転舵制御装置40Bと反力制御装置40Aとは、通信を行うことが可能である。転舵制御装置40Bと反力制御装置40Aとは、通信により、互いに情報を授受することが可能である。
【0038】
操舵制御装置40、すなわち反力制御装置40Aおよび転舵制御装置40Bは、車載ネットワーク51に接続されている。車載ネットワーク51は、たとえばCAN(Controller Area Network)である。車載ネットワーク51には、外部ツール50を接続することが可能である。外部ツール50と反力制御装置40Aとは、車載ネットワーク51を介して、互いに情報を授受する。
【0039】
外部ツール50は、外部機器であって、たとえば、車両の組み立て、あるいは車両の整備を行う作業者が所持する携帯端末である。車両の整備には、操舵装置10の整備も含まれる。また、整備には、各種の評価なども含まれる。外部ツール50は、ノート型のパーソナルコンピュータであってもよい。パーソナルコンピュータは、先の3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。また、外部ツール50は、入力装置、出力装置、記憶装置、および通信装置を有している。
【0040】
入力装置は、キーボードおよびマウスを含み、作業者からの要求あるいは指示の入力に使用される。出力装置は、表示装置およびスピーカを含み、各種の情報を出力する。記憶装置は、ハードディスクなどの補助記憶装置であって、車両の整備に必要とされる各種のプログラムおよびデータが記憶されている。通信装置は、車載ネットワーク51を介して通信を行う。CPUは、入力装置を介して入力される要求あるいは指示に応答して、各種のプログラムおよびデータをメモリへ転送し、各種のプログラムの実行を通じて、車両の整備に必要とされる処理を実行する。
【0041】
<起動シーケンス>
つぎに、反力制御装置40Aの起動シーケンスについて説明する。起動シーケンスは、車両電源がオンされることを契機として実行される一連の処理である。車両電源がオフされている期間、反力制御装置40Aは、動作を停止した状態に維持される。車両電源がオンまたはオフすることは、たとえば運転席に設けられる起動スイッチがオンまたはオフすることでもある。起動スイッチは、車両の走行用駆動源を始動または停止させる際に操作されるものであって、たとえばイグニッションスイッチあるいはパワースイッチである。
【0042】
図2のタイムチャートに示すように、車両電源がオンされたとき、反力制御装置40Aは起動して、イニシャルチェック、中点学習処理および舵角同期処理を順次実行し、やがてアシスト開始待ち状態に遷移する。イニシャルチェック、中点学習処理および舵角同期処理は、反力モータ21に操舵反力を発生させる反力制御を実行開始するために必要とされる一連の準備処理である。
【0043】
イニシャルチェックは、車両電源がオンされたことを契機として実行される初期点検であって、たとえばハードウェアのチェック、CPUの初期化、および変数あるいはフラグなどの初期化を含む。
【0044】
中点学習処理は、ステアリングホイール11の操舵中立位置を学習するための処理である。操舵装置10は、ステアリングホイール11の操舵角θsに限界を設けるためにステアリングホイール11の回転を規制するストッパ機構を有している。ストッパ機構は、たとえばステアリングホイール11の操舵範囲を360°未満に規制する。反力制御装置40Aは、反力モータ21の制御を通じてステアリングホイール11を第1の動作端まで動作させた後に第2の動作端まで反転動作させる。この後、反力制御装置40Aは、ステアリングホイール11の反転動作の開始時点および終了時点における反力モータ21の回転角に基づき、操舵角の中点を演算する。操舵角の中点は、ステアリングホイール11が操舵中立位置に位置するときの反力モータ21の回転位置であるモータ中点に対応する。反力制御装置40Aは、操舵角の中点およびモータ中点をステアリングホイール11の操舵中立位置としてメモリに記憶する。操舵角の中点およびモータ中点は、操舵中立位置に関する情報である。
【0045】
ただし、反力制御装置40Aは、メモリに記憶された操舵中立位置に関する情報が消失している場合においてのみ、ステアリングホイール11の操舵中立位置を学習する。操舵中立位置に関する情報が消失する状況としては、たとえば車両に新たにバッテリが取り付けられた後、初めて車両電源がオンされたときが該当する。これは、バッテリの交換作業に伴い車両からバッテリが取り外されたとき、反力制御装置40Aに電力が供給されなくなることに起因して、反力制御装置40Aのメモリに記憶されていた操舵中立位置に関する情報が消失するからである。
【0046】
なお、製品仕様などによっては、反力制御装置40Aは、車両電源がオンされる度に中点学習処理を実行するようにしてもよいし、メモリに記憶された操舵中立位置に関する情報の信頼性が低下している場合に中点学習処理を実行するようにしてもよい。
【0047】
舵角同期処理は、ステアリングホイール11の回転位置を補正するための処理である。反力制御装置40Aは、ステアリングホイール11の回転位置が転舵輪15の転舵位置に対応する回転位置と異なる位置であるとき、ステアリングホイール11の回転位置が転舵輪15の転舵位置に対応する回転位置となるように反力モータ21を駆動させる。
【0048】
たとえば、反力制御装置40Aは、車両電源がオフされる際、その直前に検出される操舵角θsを基準操舵角として記憶する。基準操舵角は、車両電源がオフされている期間におけるステアリングホイール11の回転の有無を判定する際の基準である。反力制御装置40Aは、車両電源がオンされた直後の操舵角θsが基準操舵角と一致しないとき、車両電源がオンされた直後の操舵角θsと基準操舵角との差を求め、当該差を無くすように反力モータ21に対する給電を制御する。
【0049】
なお、反力制御装置40Aは、車両電源がオンされた直後の操舵角θsの値と、車両電源がオンされた直後の転舵角θwに対して舵角比の逆数を乗算した値との差を求め、当該差を無くすように反力モータ21に対する給電を制御するようにしてもよい。
【0050】
アシスト開始待ち状態は、準備処理の実行完了後、車載されるパワートレイン制御装置によるパワートレインの始動処理の実行完了が確認されるのを待っている状態である。反力制御装置40Aは、車両のパワートレインの始動状態に応じて、アシスト開始待ち状態から通常制御状態への遷移の可否を判定する。
【0051】
反力制御装置40Aは、パワートレイン制御装置により準備完了フラグがオンされていないとき、車両のパワートレインの始動処理が実行完了していない旨判定し、アシスト開始待ち状態を維持する。反力制御装置40Aは、パワートレイン制御装置により準備完了フラグがオンされているとき、車両のパワートレインの始動処理が実行完了している旨判定し、アシスト開始待ち状態から通常制御状態へ遷移する。通常制御状態は、反力モータ21に操舵反力を発生させる反力制御を実行する状態である。反力制御装置40Aは、通常制御状態であるとき、ステアリングホイール11の操舵状態に応じて反力モータ21の駆動を制御する。
【0052】
<ステアリングホイール11の着脱作業について>
このように構成した操舵装置10において、たとえば、車両の工場で初めてステアリングホイール11をステアリングシャフト12に取り付ける場合、あるいは車両の販売会社などで整備のためにステアリングホイール11を着脱する場合、つぎのようなことが懸念される。
【0053】
すなわち、ステアリングホイール11が取り外されてから、再度ステアリングホイール11が取り付けられるまでの期間において、ステアリングシャフト12に何らかの外力が作用するおそれがある。このとき、外力によって、ステアリングシャフト12が回転するおそれがある。これにより、車両の直進状態に対応するステアリングシャフト12の回転位置である中点位置が不明となるおそれがある。したがって、ステアリングホイール11を正しい向きで取り付けられないことが懸念される。具体的な一例は、つぎの通りである。
【0054】
図3(a),(b)に示すように、操舵装置10の整備を行う際の初期状態として、たとえば、ステアリングホイール11が操舵中立位置を基準として左に操舵された状態に維持されている。車両は停車した状態である。ただし、整備を行う際、操舵装置10の電源はオンした状態に維持されることがある。
【0055】
図3(a)に示されるように、初期状態として、ステアリングホイール11の回転位置Phは、ステアリングホイール11の中点位置を基準とする左操舵方向の位置に維持されている。ステアリングシャフト12の回転位置Psも、ステアリングシャフト12の中点位置を基準とする左操舵方向の位置に維持されている。ステアリングホイール11の回転位置Phと、ステアリングシャフト12の回転位置Psとは、互いに一致している。また、
図3(b)に示すように、ステアリングホイール11の回転角θhと、ステアリングシャフト12の回転角θssとは、互いに同じ角度である。
【0056】
なお、ステアリングホイール11の回転位置Phは、ステアリングホイール11の中点位置を基準とする回転位置である。ステアリングホイール11の中点位置は、車両の直進状態に対応するステアリングホイール11の回転位置である。ステアリングシャフト12の回転位置Psは、ステアリングシャフト12の中点位置を基準とする回転位置である。ステアリングシャフト12の中点位置は、車両の直進状態に対応するステアリングシャフト12の回転位置である。基本的には、ステアリングホイール11の中点位置と、ステアリングシャフト12の中点位置とが互いに一致するように、ステアリングホイール11は、ステアリングシャフト12に取り付けられる。
【0057】
ステアリングホイール11の回転角θhは、ステアリングホイール11の中点位置を基準とする回転角である。ステアリングシャフト12の回転角θssは、ステアリングシャフト12の中点位置を基準とする回転角である。
【0058】
さて、整備を行う際には、たとえば、ステアリングホイール11が取り外されることがある。
図4(a)に示すように、ステアリングシャフト12の回転位置Psは、先の
図3(a)に示される初期状態と同じ位置、すなわちステアリングシャフト12の中点位置を基準とする左操舵方向の位置に維持される。
図4(b)に示すように、ステアリングシャフト12の回転角θssも、先の
図3(b)に示される初期状態と同じ角度、すなわちステアリングシャフト12の中点位置を基準とする左操舵方向の角度に維持される。
【0059】
ここで、ステアリングホイール11を取り外した状態でなどが行われる際、ステアリングシャフト12に外力が作用するおそれがある。
図5(a)に示すように、外力によってステアリングシャフト12が回転することによって、たとえば、ステアリングシャフト12の回転位置Psが、中点位置を基準とする左操舵方向の位置から、中点位置を基準とする右操舵方向の位置へ変化する。
図5(b)に示すように、ステアリングシャフト12の回転角θssも、中点位置を基準とする左操舵方向の角度から、中点位置を基準とする右操舵方向の角度へ変化する。
【0060】
このとき、外力によって、ステアリングシャフト12がどの程度回転したのかが不明となるおそれがある。このため、ステアリングホイール11を再びステアリングシャフト12に取り付ける場合、ステアリングホイール11を正しい位置に取り付けることが困難となるおそれがある。
【0061】
図6(a)に示すように、ステアリングホイール11が、たとえば、先の
図3(a)に示される初期状態と同じ位置、すなわちステアリングホイール11の中点位置を基準とする左操舵方向の回転位置Phに、誤って取り付けられるおそれがある。ステアリングシャフト12は、先の
図5(a)に示される外力によって回転した後の回転位置Psに維持される。
【0062】
図6(b)に示すように、ステアリングホイール11の回転角θhは、先の
図3(b)に示される初期状態と同じ角度、すなわちステアリングホイール11の中点位置を基準とする左操舵方向の角度である。ステアリングシャフト12の回転角θssは、先の
図5(b)に示される外力によって回転した後の角度に維持される。
【0063】
このように、ステアリングホイール11が誤った向きでステアリングシャフト12に取り付けられることによって、ステアリングホイール11の中点位置と、ステアリングシャフト12の中点位置とが、互いに一致しない状態が発生する。この状態で、車両を走行させる場合、車両の向きと、ステアリングホイール11の向きとが合わなくなることが懸念される。たとえば、車両を直進させるために、ステアリングホイール11の回転位置を車両の直進状態に対応する中点位置に合わせたとしても、車両が右方または左方へ走行するおそれがある。
【0064】
そこで、本実施の形態では、操舵装置10の整備を行う際、反力制御装置40Aは、ステアリングシャフト12の回転を規制するための処理を実行する。具体的な一例は、つぎの通りである。
【0065】
<ステアリングシャフト12のロック処理>
操舵装置10の整備を行う際、外部ツール50が車載ネットワーク51に接続される。外部ツール50は、反力制御装置40Aにロック開始指令S1を送信する。ロック開始指令S1は、反力制御装置40Aが、ステアリングシャフト12の回転を規制するための処理であるロック処理の実行を開始する契機となる電気信号である。ロック開始指令S1の送信タイミングは、たとえば、
図2のタイムチャートに示すように、中点学習処理が完了した後、または舵角同期処理が完了した後である。
【0066】
ここでは、ロック処理の一例として、ステアリングシャフト12を中点位置に固定する場合について説明する。
反力制御装置40Aは、ロック開始指令S1を受信すると、ロック処理の実行を開始する。反力制御装置40Aは、たとえば、メモリに記憶されているモータ中点を、反力モータ21の目標回転角として設定する。モータ中点は、ステアリングホイール11が操舵中立位置に位置するときの反力モータ21の回転位置であって、ステアリングシャフト12の中点位置に対応する。
【0067】
反力制御装置40Aは、目標回転角と、反力モータ21の実際の回転角である実回転角との差を演算し、演算される差が0(零)になるように反力モータ21を駆動させる。すなわち、反力制御装置40Aは、外力によるステアリングシャフト12の回転に伴い反力モータ21の回転位置が変化するとき、反力モータ21の実回転角を目標回転角(ここでは、モータ中点)に戻すように、反力モータ21を制御する。したがって、反力モータ21の回転位置がモータ中点に固定されることにより、ステアリングシャフト12の回転位置Psが中点位置に固定される。反力モータ21の回転角は、反力モータ21に設けられるセンサを通じて検出される。
【0068】
なお、反力制御装置40Aは、メモリに記憶されている操舵角θsの中点を、操舵角θsの目標回転角として設定するようにしてもよい。反力制御装置40Aは、目標回転角と、舵角センサ24を通じて検出される実際の操舵角θsとの差を演算し、演算される差が0(零)になるように反力モータ21を駆動させる。このようにしても、ステアリングシャフト12の回転位置Psが中点位置に固定される。
【0069】
ロック処理の実行中、反力モータ21の回転位置、ひいてはステアリングシャフト12の回転位置Psの変化が抑制される。このため、
図7(a)に示すように、ステアリングシャフト12の回転位置Psが中点位置に固定される。
図7(b)に示すように、ステアリングシャフト12の回転角θssは、中点位置に対応した角度に保持される。外力などの外乱によって、ステアリングシャフト12が回転することがない。
【0070】
したがって、ステアリングホイール11を再びステアリングシャフト12に取り付ける際、ステアリングホイール11を正しい位置あるいは向きに取り付けることが可能となる。すなわち、
図8(a)に示すように、ステアリングホイール11の中点位置と、ステアリングシャフト12の中点位置とが互いに一致するように、ステアリングホイール11をステアリングシャフト12に取り付けることができる。
図8(b)に示すように、ステアリングホイール11の回転角θhおよびステアリングシャフト12の回転角θssは、中点位置に対応した角度に保持される。
【0071】
なお、ロック処理の実行中、ステアリングシャフト12が中点位置に固定されることによって、転舵シャフト13が中立位置に固定される。中立位置は、車両の直進状態に対応する転舵シャフト13の位置である。
【0072】
ステアリングホイール11の取り付け作業が完了した後など、ステアリングシャフト12の回転位置Psを固定する必要がなくなると、外部ツール50は反力制御装置40Aにロック終了指令を送信する。ロック終了指令は、反力制御装置40Aが、ロック処理の実行を終了する契機となる電気信号である。反力制御装置40Aは、ロック終了指令を受信すると、ロック処理の実行を終了する。
【0073】
<実施の形態の効果>
本実施の形態は、つぎの効果を奏する。
(1)ステアリングホイール11を取り付ける際、ロック処理の実行を通じて、ステアリングシャフト12の回転位置Psが中点位置に固定される。このため、整備などを行う際、外力によるステアリングシャフト12の回転に対して適切に対応することができる。たとえば、ステアリングシャフト12に外力が作用する場合であれ、ステアリングホイール11を正しい向きで取り付けることができる。すなわち、ステアリングホイール11の中点位置と、ステアリングシャフト12の中点位置とが互いに一致するように、ステアリングホイール11をステアリングシャフト12に対して簡単に取り付けることができる。また、車両の向きと、ステアリングホイール11の向きとを合わせることができる。
【0074】
(2)中点学習処理が完了した後にロック処理の実行が開始される。このため、正しいモータ中点に基づき、反力モータ21の回転位置、ひいてはステアリングシャフト12の回転位置を中点位置に固定することができる。
【0075】
(3)外部ツール50から反力制御装置40Aへロック開始指令を送信するだけで、ステアリングシャフト12の回転位置を中点位置に固定することができる。このため、ステアリングホイール11の着脱作業、特に取り付け作業を簡単に行うことができる。
【0076】
(4)ロック処理の実行を通じて、ステアリングシャフト12の回転位置が中点位置に固定されるとき、転舵シャフト13も中立位置に固定される。このため、たとえば、トー角を調整しやすくなる。車両の直進性を担保した状態で転舵輪15などの部品を取り付けることが可能となる。
【0077】
(5)車両のハンドルには、円形のステアリングホイール11以外にも様々な形状のハンドルが存在する。たとえば、D字型あるいはH字型などのいわゆる異型ハンドルも存在する。異型ハンドルが採用される場合、ハンドルが正しい向きで取り付けられることにより、運転者がハンドルを正しく把持することができる。
【0078】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・整備の作業内容によっては、ステアリングシャフト12の回転位置Psを、ステアリングホイール11を取り外したときの回転位置Psに固定することが要求される。このため、整備に関する作業の内容によっては、ロック処理として、ステアリングシャフト12の回転位置Psを、ステアリングホイール11を取り外したときの回転位置Psに固定するようにしてもよい。回転位置Psは、中点位置でなくてもよい。すなわち、回転位置Psは、中点位置を基準とする左操舵方向の位置、または右操舵方向の位置であってもよい。反力制御装置40Aは、ステアリングホイール11を取り外したときの操舵角θsを、操舵角θsの目標回転角として設定する。反力制御装置40Aは、目標回転角と、舵角センサ24を通じて検出される実際の操舵角θsとの差を演算し、演算される差が0(零)になるように反力モータ21を駆動させる。これにより、ステアリングシャフト12の回転位置Psが、ステアリングホイール11を取り外したときの回転位置Psに固定される。したがって、整備などを行う際、外力によるステアリングシャフト12の回転に対して適切に対応することができる。また、整備の作業内容に応じた転舵輪15の転舵位置を得ることもできる。
【0079】
・整備の作業内容によっては、ステアリングシャフト12の回転位置Psを、転舵シャフト13のエンド位置に対応する位置に固定することが要求される。このため、整備に関する作業の内容によっては、ロック処理として、ステアリングホイール11の回転位置Psを、転舵シャフト13のエンド位置に対応する位置に固定するようにしてもよい。エンド位置は、転舵シャフト13の物理的な可動範囲の限界位置である。反力制御装置40Aは、たとえば、転舵シャフト13のエンド位置に対応する操舵角θsを、操舵角θsの目標回転角として設定する。反力制御装置40Aは、目標回転角と、舵角センサ24を通じて検出される実際の操舵角θsとの差を演算し、演算される差が0(零)になるように反力モータ21を駆動させる。これにより、ステアリングシャフト12の回転位置Psが、転舵シャフト13のエンド位置に対応する回転位置Psに固定される。したがって、整備などを行う際、外力によるステアリングシャフト12の回転に対して適切に対応することができる。また、整備の作業内容に応じた転舵輪15の転舵位置を得ることもできる。
【0080】
・反力モータ21は、第1系統の巻線群および第2系統の巻線群を有していてもよい。第1系統の巻線群および第2系統の巻線群は、共通のステータに巻回される。第1系統の巻線群および第2系統の巻線群の電気的な特性は同等である。反力制御装置40Aは、反力モータ21における2系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0081】
この場合、反力制御装置40Aは、第1系統回路および第2系統回路を有していてもよい。第1系統回路は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに応じて、反力モータ21における第1系統の巻線群に対する給電を制御する。第2系統回路は、トルクセンサ23を通じて検出される操舵トルクThに応じて、反力モータ21における第2系統の巻線群に対する給電を制御する。
【0082】
・転舵モータ31は、第1系統の巻線群および第2系統の巻線群を有していてもよい。第1系統の巻線群および第2系統の巻線群は、共通のステータに巻回される。第1系統の巻線群および第2系統の巻線群の電気的な特性は同等である。転舵制御装置40Bは、転舵モータ31における2系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0083】
この場合、転舵制御装置40Bは、第1系統回路および第2系統回路を有していてもよい。第1系統回路は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsおよびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき、転舵モータ31における第1系統の巻線群に対する給電を制御する。第2系統回路は、舵角センサ24を通じて検出される操舵角θsおよびストロークセンサ34を通じて検出される転舵シャフト13のストロークXwに基づき、転舵モータ31における第2系統の巻線群に対する給電を制御する。
【0084】
・
図9に示すように、操舵制御装置40を電動パワーステアリング装置200に具体化してもよい。電動パワーステアリング装置200においては、先の
図1に示されるステアリングホイール11と転舵輪15とは機械的に連結されている。すなわち、ステアリングシャフト12、ピニオンシャフト33および転舵シャフト13は、ステアリングホイール11と転舵輪15との間の動力伝達経路として機能する。ステアリングホイール11の操舵に伴い転舵シャフト13が直線運動することにより、転舵輪15の転舵角θwが変更される。
【0085】
電動パワーステアリング装置200は、アシストモータ201およびアシスト制御装置202を有している。
アシストモータ201は、先の
図1に示される反力モータ21または転舵モータ31と同じ位置に設けられる。
図9では、一例として、アシストモータ201は、
図1に示される反力モータ21と同じ位置に設けられている。
【0086】
アシスト制御装置202は、アシストモータ201の駆動を制御するための処理を実行する処理装置である。アシスト制御装置202は、操舵制御装置に相当する。アシスト制御装置202は、アシストモータ201にアシスト力を発生させるためのアシスト制御を実行する。アシスト力は、ステアリングホイール11の操作を補助するためのトルクであって、ステアリングホイール11の操舵方向と同じ方向のトルクである。また、アシスト力は、車両の進行方向を変更する際にアシストモータ201が発生する操舵用の操舵力である。
【0087】
アシスト制御装置202は、車載ネットワーク51(図示略)に接続されている。車載ネットワーク51に外部ツール50が接続されている場合、アシスト制御装置202と、外部ツール50とは、車載ネットワーク51を介して、互いに情報を授受することが可能である。アシスト制御装置202は、外部ツール50からのロック開始指令S1を受信すると、ロック処理の実行を開始する。アシスト制御装置202は、外部ツール50からのロック終了指令を受信すると、ロック処理の実行を終了する。
【符号の説明】
【0088】
11…ステアリングホイール(ハンドル)
12…ステアリングシャフト
21…反力モータ(モータ)
10…操舵装置
40…操舵制御装置
40A…反力制御装置(処理装置)
50…外部ツール
24…舵角センサ
13…転舵シャフト
200…電動パワーステアリング装置(操舵装置)
201…アシストモータ(モータ)