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特開2024-58913動力伝達ユニット用モータ及び動力伝達ユニット
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  • 特開-動力伝達ユニット用モータ及び動力伝達ユニット 図1
  • 特開-動力伝達ユニット用モータ及び動力伝達ユニット 図2A
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  • 特開-動力伝達ユニット用モータ及び動力伝達ユニット 図15
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058913
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】動力伝達ユニット用モータ及び動力伝達ユニット
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/116 20060101AFI20240422BHJP
   F16H 57/02 20120101ALI20240422BHJP
   H02K 5/167 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
H02K7/116
F16H57/02
H02K5/167 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166321
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清岡 晃司
(72)【発明者】
【氏名】本岡 亮
(72)【発明者】
【氏名】岩木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】森下 健
(72)【発明者】
【氏名】沢田 仁志
【テーマコード(参考)】
3J063
5H605
5H607
【Fターム(参考)】
3J063AA04
3J063AB02
3J063AC01
3J063BA01
3J063BB48
3J063CA01
3J063CD44
5H605CC01
5H605CC10
5H607AA12
5H607BB01
5H607DD08
5H607EE31
5H607JJ06
(57)【要約】
【課題】動力伝達ユニット用モータにおいて、モータケースとの嵌合形状が異なる複数種類のトランスミッションケースのうちから任意に選択されたトランスミッションケースと、モータケースを組み合わせて動力伝達ユニットを形成する場合に、製造コストの低減を図る。
【解決手段】動力伝達ユニット41は、モータ軸の動力が、トランスミッションケースに回転可能に支持された入力軸に伝達される。モータケースにおいて、トランスミッションケース側の端部には、トランスミッションケースに対する装着面と、大径環状凸部と、大径環状凸部より先端側の小径環状凸部とが、モータ軸の軸方向に並んで配置される。大径環状凸部と小径環状凸部とは、モータ軸の軸線を中心とした二重環状に配置される。モータは、大径環状凸部と小径環状凸部との一方の凸部を択一的にトランスミッションケースに嵌合固定可能に構成される。
【選択図】図2C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータケースに回転可能に支持されたモータ軸を備える動力伝達ユニット用モータであり、
前記動力伝達ユニットは、前記モータ軸の動力が、トランスミッションケースに回転可能に支持された入力軸に伝達され、
前記モータケースは、前記トランスミッションケースに嵌合固定可能に構成され、
前記モータ軸は、前記モータケースが前記トランスミッションケースに嵌合固定された際に前記入力軸に同一軸線状に配置され、
前記モータケースにおいて、前記トランスミッションケース側の端部には、前記トランスミッションケースに対する装着面と、前記装着面と一体形成された大径環状凸部と、前記大径環状凸部より先端側で、前記装着面と一体形成された小径環状凸部とが、前記モータ軸の軸方向に並んで配置され、
前記大径環状凸部と前記小径環状凸部とは、前記モータ軸の軸線を中心とした二重環状に配置され、
前記大径環状凸部と前記小径環状凸部との一方の凸部を択一的に前記トランスミッションケースに嵌合固定可能に構成される、
動力伝達ユニット用モータ。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達ユニット用モータにおいて、
前記大径環状凸部と前記小径環状凸部とのうち、少なくとも前記一方の凸部の外周面に、円筒面となるように機械加工が施されている、
動力伝達ユニット用モータ。
【請求項3】
請求項1に記載の動力伝達ユニット用モータと、
前記トランスミッションケースと、
前記入力軸と、を備え、
前記トランスミッションケースには、前記モータケースに対する装着面と、該装着面の内側に設けた板部または筒面である壁部と、該壁部に設けた、前記入力軸の軸線を中心とする嵌合穴を有し、
該嵌合穴には、前記モータケースの前記大径環状凸部と前記小径環状凸部のいずれかが嵌合固定される、
動力伝達ユニット。
【請求項4】
請求項3に記載の動力伝達ユニットにおいて、
前記嵌合穴の開口周縁部には、面取りが全周にわたって形成され、
前記モータケースにおいて、前記一方の凸部の外周根元部分と、前記面取りとの間で弾性リングが圧縮されることにより、前記モータケースと前記トランスミッションケースとの間がシールされる、
動力伝達ユニット。
【請求項5】
請求項3に記載の動力伝達ユニットにおいて、
前記モータケースにおいて、前記一方の凸部の外周先端部分には、面取りが全周にわたって形成され、
前記嵌合穴の内周面に形成された段差面及び前記内周面の連続部と、前記面取りとの間で弾性リングが圧縮されることにより、前記モータケースと前記トランスミッションケースとの間がシールされる、
動力伝達ユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達ユニット用モータ及び動力伝達ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、芝刈装置を備える芝刈り車両等の車両において、車輪を電動モータで駆動し走行可能とすることが知られている。特許文献1には、1つの電動モータで左右車輪を駆動する電動車両としての芝刈り車両が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-154375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された構成のように、1つの電動モータで左右車輪を駆動する電動車両では、電動モータの動力を車輪に伝達する動力伝達ユニットが用いられる。この動力伝達ユニットでは、動力伝達のための歯車機構がトランスミッションケースに収容され、トランスミッションケースに電動モータのモータケースが固定される。モータケースに回転可能に支持されたモータ軸から、トランスミッションケースに支持された歯車機構の入力軸に動力が伝達可能となっている。
【0005】
特許文献1に記載された構成において、モータケースの端部に設けた凸部を、トランスミッションケースの凹部に嵌合固定した状態で、モータケースとトランスミッションケースとを固定することが考えられる。一方、トランスミッションケースとして、モータケース側の端部の嵌合形状を複数種類に異ならせて製造したものを使用する場合がある。この場合、モータケースもそれに応じてトランスミッションケース側の端部形状を大きく変えた複数種類の構造を用意することが考えられる。しかしながら、この場合には、モータケースの種類が多くなるので、製造コストの低減を図る面から改良の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、動力伝達ユニット用モータ及び動力伝達ユニットにおいて、モータケースとの嵌合形状が異なる複数種類のトランスミッションケースのうちから任意に選択されたトランスミッションケースと、モータケースを組み合わせて動力伝達ユニットを形成する場合に、製造コストの低減を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る動力伝達ユニット用モータは、モータケースに回転可能に支持されたモータ軸を備える動力伝達ユニット用モータであり、前記動力伝達ユニットは、前記モータ軸の動力が、トランスミッションケースに回転可能に支持された入力軸に伝達され、前記モータケースは、前記トランスミッションケースに嵌合固定可能に構成され、前記モータ軸は、前記モータケースが前記トランスミッションケースに嵌合固定された際に前記入力軸に同一軸線状に配置され、前記モータケースにおいて、前記トランスミッションケース側の端部には、前記トランスミッションケースに対する装着面と、前記装着面と一体形成された大径環状凸部と、前記大径環状凸部より先端側で、前記装着面と一体形成された小径環状凸部とが、前記モータ軸の軸方向に並んで配置され、前記大径環状凸部と前記小径環状凸部とは、前記モータ軸の軸線を中心とした二重環状に配置され、前記大径環状凸部と前記小径環状凸部との一方の凸部を択一的に前記トランスミッションケースに嵌合固定可能に構成される、動力伝達ユニット用モータである。
【0008】
本発明に係る動力伝達ユニットは、本発明に係る動力伝達ユニット用モータと、前記トランスミッションケースと、前記入力軸と、を備え、前記トランスミッションケースには、前記モータケースに対する装着面と、該装着面の内側に設けた板部または筒面である壁部と、該壁部に設けた、前記入力軸の軸線を中心とする嵌合穴を有し、該嵌合穴には、前記モータケースの前記大径環状凸部と前記小径環状凸部のいずれかが嵌合固定される、動力伝達ユニットである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る動力伝達ユニット用モータ及び動力伝達ユニットによれば、モータケースとの嵌合形状が異なる複数種類のトランスミッションケースのうちから任意に選択されたトランスミッションケースと、モータケースを組み合わせて動力伝達ユニットを形成する場合に、共通のモータケースを使用しやすくなる。これにより、モータの量産効果により、モータ及び動力伝達ユニットの製造コストの低減を図れる。
【0010】
上記の動力伝達ユニット用モータにおいて、前記大径環状凸部と前記小径環状凸部とのうち、少なくとも前記一方の凸部の外周面に、円筒面となるように機械加工が施されている構成としてもよい。
【0011】
上記の構成によれば、モータの一方の凸部の外周面の形状精度を高くでき、トランスミッションケースに凸部を容易に嵌合できるので組立性を高くできる。
【0012】
上記の動力伝達ユニットにおいて、前記嵌合穴の開口周縁部には、面取りが全周にわたって形成され、前記モータケースにおいて、前記一方の凸部の外周根元部分と、前記面取りとの間で弾性リングが圧縮されることにより、前記モータケースと前記トランスミッションケースとの間がシールされる構成としてもよい。
【0013】
上記の構成によれば、複雑な加工を行うことなく、モータケースとトランスミッションケースとの嵌合部のシール構造を実現できる。
【0014】
上記の動力伝達ユニットにおいて、前記モータケースにおける、前記一方の凸部の外周先端部分には、面取りが全周にわたって形成され、前記嵌合穴の内周面に形成された段差面及び前記内周面の連続部と、前記面取りとの間で弾性リングが圧縮されることにより、前記モータケースと前記トランスミッションケースとの間がシールされる構成としてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、複雑な加工を行うことなく、モータケースとトランスミッションケースとの嵌合部のシール構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る実施形態の動力伝達ユニットを備える車両を、上方から見て一部を断面にして示す図である。
図2A】実施形態の動力伝達ユニットの斜視図である。
図2B図2Aに示す動力伝達ユニットの分解斜視図である。
図2C図2Aに示す動力伝達ユニットの横断面図である。
図3図2Aの右側から見た図である。
図4図3からモータケースを省略して示す図である。
図5図2Aの左側から見た図である。
図6図2Cから動力伝達ユニット用モータを取り出して示す拡大図である。
図7図2CのA-A断面図である。
図8図2CのB-B断面図である。
図9A図2CのD部拡大図である。
図9B】実施形態の別例の動力伝達ユニットにおいて、図9Aに対応する図である。
図10】実施形態の別例の動力伝達ユニットにおいて、図2Cに対応する図である。
図11図10に示す動力伝達ユニットの分解斜視図である。
図12】実施形態の別例の動力伝達ユニットを備える車両の斜視図である。
図13図12の車両に組み込んだ動力伝達ユニットの横断面図である。
図14】実施形態の別例の動力伝達ユニットにおいて、図13に対応する図である。
図15】実施形態の別例の動力伝達ユニットにおいて、図13に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下では、動力伝達ユニットが、作業車両であり芝刈り車両に搭載される場合を説明するが、動力伝達ユニットが搭載される車両は、これに限定せず、除雪作業、掘削作業、土木作業、農作業のいずれか1つ以上の作業を行う作業機を有する他の作業車両、または荷台を有し、不整地を走行するオフロード型多用途車両(Utility Vehicle)、あるいはバギーと呼ばれるAll Terrain Vehicle(ATV)や、レクリエーショナルビークル(Recreational Vehicle(RV))や、レクリエーショナルオフハイウェイビークル(Recreational Off-highway Vehicle(ROV))であって、電動モータで走行する車両としてもよい。また、以下では、主として、車両が後輪を電動モータで駆動する場合を説明するが、車両は前輪を電動モータで駆動する構成としてもよい。以下ではすべての図面において同様の要素には同一の符号を付して説明する。
【0018】
図1から図9Aを用いて、実施形態の動力伝達ユニット41と、それを構成する動力伝達ユニット用モータとを説明する。以下で説明する図面では、車両前後方向をXで示し、車両左右方向をYで示し、車両上下方向をZで示している。以下では、車両前後方向、車両左右方向、車両上下方向を単に、前後方向、左右方向、上下方向と記載する。また、前側をFrで示し、左側をLhで示し、上側をUpで示している。X,Y,Zは互いに直交する。左右方向は車両幅方向と一致する。
【0019】
図1は、実施形態の動力伝達ユニットを備える車両である芝刈り車両10を、上方から見て一部を断面にして示す図である。まず、芝刈り車両10の全体構成を説明し、その後、芝刈り車両10に搭載した動力伝達ユニット41及び動力伝達ユニット用モータであるモータ70を詳しく説明する。エンジン非搭載型の乗用型の芝刈り車両10は、車体を構成するメインフレーム16と、メインフレーム16の後側に支持された2つの主駆動輪である左車輪12及び右車輪13と、前側に支持された2つの従動輪である左車輪14及び右車輪15とを備える。後側の2つの車輪12,13には、モータ70を含む動力伝達ユニット41が接続される。後述のように、動力伝達ユニット41は、トランスミッションケース42と、トランスミッションケース42に固定されたモータケース71を有するモータ70と、モータ70の動力を左右の車輪12,13に伝達する動力伝達機構77(図2C)とを含む。動力伝達機構77は、減速歯車機構78と差動歯車機構118(図2C)とを含み、差動歯車機構118の左右方向両側に第1車軸18または第2車軸19を介して左右の車輪12,13が接続される。
【0020】
メインフレーム16において、前後方向の中間部の上側には運転席(図示せず)が配置され、運転席の前側に旋回指示部であるステアリングホイール20と、アクセルペダル(図示せず)とが配置される。ステアリングホイール20の操作によって、芝刈り車両10の前側の操舵機構21を介して前側の左右の車輪14,15が操舵される。操舵機構21には、アッカーマン方式等の従来から既知の構造が用いられる。また、メインフレーム16の前後方向の後下部には、動力伝達ユニット41において後述する上ケース43の左右両端部に形成した取付ボス部がネジ止めされ懸架される。
【0021】
アクセルペダルは、モータ70の加速を指示する加速指示部に相当する。アクセルペダルは左右方向の軸を中心として揺動可能に、メインフレーム16に支持される。運転者がアクセルペダルの前側端部を踏むことでモータ70が前進方向に加速する。運転者がアクセルペダルの後側端部を踏むことでモータ70が後進方向に加速する。アクセルペダルの揺動位置はペダルセンサにより検出され、その検出信号が制御装置(図示せず)に送信される。制御装置は、ペダルセンサの検出信号に応じて、モータ70の回転速度を制御する。
【0022】
さらに、芝刈り車両10は、作業機である芝刈装置25と、バッテリを含む電源ユニット(図示せず)とを備える。芝刈装置(Mower)25は、メインフレーム16の前後方向中間部の下側に支持される。芝刈装置25は、モアデッキ26と、モアデッキ26の内側にそれぞれ鉛直方向の軸を中心として回転可能な芝刈り用回転工具である3つの芝刈りブレード27とを含む。芝刈りブレード27が回転されることで芝等を破断して刈り取り可能とする。各芝刈りブレード27は、モア用の電動モータ(図示せず)により駆動される。
【0023】
芝刈りブレード27の回転により芝の刈り取りが可能であり、刈り取られた芝は、モアデッキ26の内側からダクト28を介して、芝刈り車両10の後端に装備した集草容器(図示せず)に排出される。刈り取られた芝が、モアデッキから車両の幅方向片側に排出される構成としてもよい。
【0024】
芝刈装置は、芝刈り用回転工具として、地表に平行に回転軸を有するシリンダに例えばらせん状の刃を配置し、芝等を挟み取って刈り取る機能を有し、モア用の電動モータにより駆動される芝刈りリールを備える構成としてもよい。
【0025】
以上が芝刈り車両10の全体構成であり、次にこの芝刈り車両10に搭載される動力伝達ユニット41及びモータ70を説明する。図2Aは、動力伝達ユニット41の斜視図である。図2Bは、動力伝達ユニット41の分解斜視図である。図2Cは、動力伝達ユニット41の横断面図である。図3は、図2Aの右側から見た図である。図4は、図3からモータケース71を省略して示す図である。図5は、図2Aの左側から見た図である。また、図2Cは、図3のA-O-A断面に相当する。
【0026】
動力伝達ユニット41は、トランスミッションケース42と、トランスミッションケース42に固定されたモータケース71を有する走行用のモータ70と、トランスミッションケース42に収容された動力伝達機構77(図2C)と、左右の車軸である第1車軸18及び第2車軸19とが、一体に組み合わされて形成される。第2車軸19は、第1車軸18より長く、第1車軸18及び第2車軸19間の中央に関して、左右方向について第2車軸19と同じ側にモータケース71が配置される。これにより、動力伝達ユニット41の重心を芝刈り車両10の左右方向中央に近づけることができる。
【0027】
図2Cに示すように、トランスミッションケース42の内側には、動力伝達機構77を構成する入力軸60、減速歯車機構78、及び差動歯車機構118と、第1車軸18及び第2車軸19のそれぞれの一部とが収容される。減速歯車機構78は、入力軸60及び差動歯車機構118の外周側に設けられたリングギヤ119間で動力を伝達する機構であり、かつ入力軸60からリングギヤ119に動力を減速して伝達する。入力軸60は、モータ70のモータ軸72と同一軸線上に配置され、モータ軸72に対し相対回転不能である、すなわちモータ軸72と一体的に回転するように連結される。
【0028】
トランスミッションケース42は、いわゆる水平割りまたは上下割りと呼ばれる構造であり、それぞれ水平方向の合わせ面を有する上ケース43及び下ケース45が結合されてなる。下ケース45は、上ケース43の下側に配置される。上ケース43には、第1、第2各車軸18,19の一部と、減速歯車機構78及び差動歯車機構118の上側部分とが収容される。下ケース45には、減速歯車機構78及び差動歯車機構118の下側部分が収容される。上ケース43と下ケース45とは、複数のボルト58(図2C)で結合されることにより一体化される。第1車軸18及び第2車軸19は、左右に分かれて、それぞれ左右方向に延びている。第1車軸18及び第2車軸19の内端部は、差動歯車機構118を形成する円筒状のスリーブ120の内側に回転可能に嵌合されており、そのスリーブ120の内側で、第1車軸18及び第2車軸19の内端が対向している。
【0029】
上ケース43は、左右方向中間部に設けられて減速歯車機構78及び差動歯車機構118の上側部分を収容するギヤ収容部43aと、ギヤ収容部43aの後側部分の左右方向両端から突出した筒状部である左筒部43b及び右筒部43cとを有する。左筒部43bの外側の前後両側には、2つの壁部43d、43eがリブを介して結合される。右筒部43cの外側の前後両側には、2つの壁部43f、43gがリブを介して結合される。左筒部43bの内側には第1車軸18が貫通し、内側の軸方向2個所位置に設けられた滑り軸受であるブッシュ145,146により回転可能に支持される。右筒部43cの内側には第2車軸19が貫通し、内側の軸方向2個所位置に設けられた滑り軸受であるブッシュ147,148により回転可能に支持される。ギヤ収容部43aは、減速歯車機構78及び差動歯車機構118の上側部分の側方及び上方を覆って、下端が開口する。
【0030】
下ケース45は、減速歯車機構78及び差動歯車機構118の下側部分の側方及び下方を覆って、上端が開口する。上ケース43の下端と下ケース45の上端とを突き合わせ、下ケース45の開口端周縁部を貫通したボルト58が上ケース43のネジ穴に結合されることで、トランスミッションケース42が形成される。この状態で、トランスミッションケース42の内側に、減速歯車機構78及び差動歯車機構118の各歯車が配置されるギヤ室S1が形成される。
【0031】
図4に示すように、上ケース43の前側部分の右端には、トランスミッションケース42の内部空間を覆う略直角三角形の板部である壁部46と、壁部46の周縁部から略直角三角形に突出し、先端に装着面48を有するモータ連結部47とが形成される。モータ連結部47の内面には壁面47aが形成される。壁部46の内側には、後述のモータケース71の小径環状凸部134を嵌合させるための嵌合穴49が形成される。嵌合穴49は、トランスミッションケース42の内部空間と通じている。
【0032】
上ケース43の嵌合穴49に後述の小径環状凸部134が嵌合固定された状態で、小径環状凸部134の外径側に設けられた大径環状凸部130の天板部132と上ケース43の壁部46とが微小隙間を介して対向する。これにより、トランスミッションケース42の内部空間がモータケース71で塞がれる。嵌合穴49は、同心円上の3つの円弧部と、それらの円弧部同士の間で外径側に向け略三角形に窪んだ窪み部とを有する形状である。上ケース43及び下ケース45は、アルミニウム合金等の金属材料により形成され、鋳造の一種であるダイカストで成形される。上ケース43は、ダイカストによる成形後に、例えば装着面48に平面度を高くするための機械加工が施されてもよい。
【0033】
図6を用いて、モータケース71を含むモータ70を説明する。図6は、図2Cからモータ70を取り出して示す拡大図である。モータ70は、モータケース71と、モータケース71に回転可能に支持されたモータ軸72とを含んで構成される。
【0034】
モータケース71は、トランスミッションケース42の上ケース43にボルト59によって結合固定されて、右側に延伸する。この状態で、モータケース71の一部、具体的には、右側端部の後方に突出した部分は、図2Cに示す上ケース43のモータ70側の壁部43fに形成された凹部43hに入り込んでいる。これにより、モータ70と第2車軸19とをより接近させることができるので、動力伝達ユニット41のさらなる小型化を図れる。
【0035】
モータケース71は、有底筒状のケース本体125の右側開口がカバー137により塞がれている。ケース本体125のトランスミッションケース42側の端部には、トランスミッションケース42に対する装着面126と、装着面126の径方向内側に形成された大径環状凸部130と、大径環状凸部130より先端側に形成された小径環状凸部134とが、モータ軸72の軸方向に並んで配置される。大径環状凸部130及び小径環状凸部134は、それぞれ断面が略L字形で外周面が略円筒面であり、装着面126と一体形成される。ケース本体50aは、鋳造等により中間素材を形成した後、必要部分に、モータ軸72に対して芯を一致させるように機械加工を施すことにより形成される。
【0036】
図2B図3を参照して、ケース本体125のトランスミッションケース42側端部には、略矩形のフランジ127が設けられ、そのフランジ127の4つの角部に、ボルト59が貫通可能な貫通孔128が形成される。本例では、4つの貫通孔128のうち、3つの貫通孔128のみが用いられて、トランスミッションケース42結合用のボルト59がその3つの貫通孔128に貫通する。上記の装着面126(図6)は、フランジ127のトランスミッションケース42側の面であり、モータ軸72の軸線に対し直交する方向に広がっている。
【0037】
図6に示すように、大径環状凸部130と小径環状凸部134とは、それぞれ外周面が円筒面であり、モータ軸72の軸線を中心とした二重環状に配置される。大径環状凸部130は、小径環状凸部134より直径が大きい。さらに、モータケース71は、大径環状凸部130と小径環状凸部134との一方の凸部を択一的にトランスミッションケース42に嵌合固定可能に構成される。なお、本発明において、「モータは、大径環状凸部と小径環状凸部との一方の凸部を択一的にトランスミッションケースに嵌合固定可能に構成される」とは、凸部の外周面に、モータ軸72に対して芯を合わせた状態の円筒面となるように機械加工を施すことによってトランスミッションケースに嵌合固定可能となる場合も含む意味である。
【0038】
さらに、大径環状凸部130と小径環状凸部134とのうち、一方の凸部の外周面である小径環状凸部134の外周面には、円筒面となるように機械加工が施されている。これにより、小径環状凸部134の外周面の形状精度を高くでき、トランスミッションケース42に小径環状凸部134を容易に嵌合できるので組立性を高くできる。大径環状凸部130と小径環状凸部134との両方の凸部の外周面に、円筒面となるように機械加工が施されてもよい。大径環状凸部130と小径環状凸部134との少なくとも一方である小径環状凸部134の外周面には、機械加工が施される。大径環状凸部130と小径環状凸部134との外周面は、機械加工を施す前の状態、または未加工の状態で、金型からの取り出し性を確保するために、先端であるトランスミッションケース42側(図6の左側)の端に向かって直径が小さくなるように、中心軸に対しわずかに傾斜したテーパ面となっている。機械加工ではこのテーパ面を削って中心軸、すなわちモータ軸72に対して平行となるような円筒面に成形する。
【0039】
小径環状凸部134の径方向内側には、円筒状の小径筒部136が、小径環状凸部134と同軸で先端側に突出している。小径筒部136の径方向内側には、モータ軸72が貫通する。本例の場合には、小径環状凸部134が、トランスミッションケース42の嵌合穴49に嵌合される。小径環状凸部134の内周面には軸受51が固定され、小径筒部136の内周面にはトランスミッションケース42内の潤滑油をモータケース71内に入れないように封止するためのシール54が固定される。モータ軸72のトランスミッションケース42側端部は、軸受51により回転可能に支持され、モータ軸72のトランスミッションケース42と反対側端部は、カバー137内に設けた図示しない軸受により回転可能に支持される。これにより、モータ軸72は、第1車軸18及び第2車軸19の延伸方向と平行な左右方向に延びる。また、図3を参照して、モータ軸72の軸線O1は、第1車軸18及び第2車軸19の中心軸O2の前側で、かつ、中心軸O2より上側に配置される。
【0040】
モータ70は、例えば永久磁石式の3相モータである。モータ70は、モータ軸72の外周面に固定されたモータロータ140と、モータロータ140の外周面に対向するステータコア142と、ステータコア142に巻回して配置された3相のステータコイル144とを有する。モータロータ140は、例えばロータコアの周方向複数位置に配置された永久磁石を有する。ステータコア142は、モータケース71の内側に固定される。バッテリ(図示せず)からの直流電力がインバータ(図示せず)で3相の交流電力に変換されて、ステータコイル144に供給されることにより、ステータコア142に回転磁界が発生する。その回転磁界とモータロータ140が生成する磁界との相互作用によりモータ軸72が回転する。
【0041】
図7は、図2CのA-A断面図である。モータ軸72は、減速歯車機構78の入力軸60に対して同一軸線上に配置され、各々の先端面は離間した状態で連結部材74によって接続される。連結部材74は、筒部75の一端部外周面に円板状のブレーキロータ76が一体成形される。モータ軸72の一端部外周面とその一端部と対向する入力軸60の一端部外周面とにはそれぞれ雄スプラインが形成される。連結部材74の筒部75内の軸方向両側には、モータ軸72の一端部と入力軸60の一端部とがそれぞれ嵌合されている。筒部75の内周には軸長方向にわたって雌スプラインが形成され、モータ軸72の一端部外周面及び入力軸60の一端部外周面の雄スプラインにそれぞれ噛み合う。これにより、モータ軸72と入力軸60とは相対回転不能、すなわち一体的に回転し、かつ、モータ軸72に対して連結部材74および入力軸60は軸方向に相対移動可能に構成される。なお、筒部75に対するモータ軸72と入力軸60の連結を上記スプラインに代えてキーを用いても同様に機能させることができる。
【0042】
一方、図2C図7に示すように、トランスミッションケース42に収容された減速歯車機構78は、入力軸60に設けられた入力歯車である第1はすば歯車79と、第1はすば歯車79と噛み合う中間歯車である第2はすば歯車81が設けられた中間歯車軸82とを含む。さらに、中間歯車軸82に設けられた中間歯車部83が、差動歯車機構118の外周側に設けられたリングギヤ119と噛み合っている。
【0043】
さらに、本例では、トランスミッションケース42のモータケース71が装着される装着面48の3つの角部にネジ穴50が形成される。モータケース71のフランジ127に形成された4つの貫通孔128のうち、3つの貫通孔128を貫通したボルト59が、ネジ穴50にネジ結合される。これにより、モータケース71とトランスミッションケース42とは3つのボルト59で結合される。これにより、トランスミッションケース42には、第2車軸19に近い部分にモータケースを結合するためのネジ穴を形成する必要がなくなる。このため、トランスミッションケース42においてモータケース71を嵌合させる嵌合穴49を車軸18,19に前後方向に近づけることができる。このため、モータ軸72と車軸18,19とを近づけられるので、動力伝達ユニット41の小型化を図れる。
【0044】
上ケース43は下ケース45に対して分離自在に固定される。右筒部43c及び左筒部43bの外端部は、車両のメインフレーム16の左右両端に配置された固定部材に固定される。右筒部43c及び左筒部43bの外端部がメインフレーム16に直接に固定されてもよい。第1車軸18の車幅方向外端部は、左筒部43bの先端から突出し、その突出した部分に左車輪固定用のハブが固定される。一方、第2車軸19の車幅方向外端部は、右筒部43cの先端から突出し、その突出した部分に右車輪固定用のハブが固定される。
【0045】
差動歯車機構118は、トランスミッションケース42に支持された差動ケース121と、差動ケース121外周面に固設され減速歯車機構78の中間歯車部83に噛合されるリングギヤ119とを含んでいる。また、差動歯車機構118は、差動ケース121内において各車軸18,19に対し直交配置され差動ケース121と一体的に回転するピニオン軸と、ピニオン軸に対し回転可能に支持されたベベルギヤであるピニオンと、各車軸18,19の内端部に固定されピニオンに噛合するサイドベベルギヤとを含んで構成される。これにより、第1車軸18及び第2車軸19が差動的に連結される。モータ70の動力は、モータ軸72から入力軸60に伝達され、減速歯車機構78で減速された後、差動歯車機構118により、第1車軸18及び第2車軸19に差動的に伝達される。このため、第1車軸18及び第2車軸19は差動的に駆動される。
【0046】
図2B図2C図7を参照して、トランスミッションケース42の内側には、入力軸60の両端部が軸受52,53により回転可能に支持される。このとき、上ケース43の内面には、2つの軸受52,53に対向して下側に開口する略半円筒状の支持面を有する上支持部61が形成される。下ケース45の内面には、軸受52,53のそれぞれに対向して上側に開口する略半円筒面状の支持面63a、64aを有する第1下突部63,64が上側に突出形成される。上支持部61の両端部と各第1下突部63、64とは、先端同士が突き合うように組み合わされる。これにより上支持部61の支持面と第1下突部63,64の支持面63a、64aの組み合わせによって円形の嵌合穴が形成され、その嵌合穴に軸受52,53が嵌合する。これにより、上支持部61と第1下突部63,64とで軸受52,53が挟まれて固定される。
【0047】
また、図2B図2Cを参照して、トランスミッションケース42の内側には、第1、第2車軸18,19の内端部を支持するブッシュ146,148が固定される。このとき、上ケース43には、ブッシュ146,148のそれぞれに対向して下側に開口する略半円状の支持面を有する上突部(図示せず)が形成される。下ケース45には、ブッシュ146,148のそれぞれに対向して上側に開口する略半円状の支持面を有する第2下突部150,151が形成される。上突部と第2下突部150,151とは、先端同士が突き合うように組み合わされる。これにより、第2上突部の支持面と第2下突部150,151の支持面との組み合わせによって円形の嵌合穴が形成され、その嵌合穴にブッシュ146,148が嵌合する。これにより、第2上突部と第2下突部150,151とでブッシュ146,148が挟まれて固定される。
【0048】
一方、図2C図7に示すように、上ケース43の前側部分の内側には、ブレーキロータ76と、入力軸60の一端及びこの一端に対向するモータ軸72の一端を含み、両軸60,72が対向した位置を含むブレーキ室S2が形成される。入力軸60の一端部には、モータ70のモータ軸72が、継手としての連結部材74により接続される。これにより、モータ70の動力がモータ軸72から入力軸60に伝達される。
【0049】
さらに、ブレーキロータ76の軸方向両側には、ブレーキ装置90を構成する押圧部であり、摩擦材としてのブレーキシュー92とブレーキパッド93とが対向配置される。ブレーキロータ76は、軸方向両側からブレーキシュー92とブレーキパッド93とが押し付けられることにより、制動トルクが加わって入力軸60やモータ軸72を回転停止させる。
【0050】
図8は、図2CのB-B断面図である。図2C図8を参照して、ブレーキ装置90は、制動力発生部91と、ブレーキロータ76とを含む。ブレーキロータ76には、制動力発生部91から制動力が加えられる。制動力発生部91は、ブレーキ軸94と、ブレーキシュー92と、ブレーキパッド93と、ブレーキアーム95(図8)とを備える。ブレーキパッド93は、上ケース43の壁部と下ケース45の壁部とで形成された窪みに保持される。
【0051】
ブレーキ軸94は、上ケース43の上部において、上下方向に延びて、上ケース4342に回転可能に支持される。ブレーキ軸94の上側部分は、上ケース43に形成した上下方向の貫通孔を通じて、上ケース43の上側面から外に突出している。ブレーキ軸94の上ケース43から突出した部分にはブレーキアーム95が設けられる。
【0052】
ブレーキ軸94において、ブレーキ室S2内に位置する部分には、カム面97を有する断面視半円状の部分が形成される。カム面97は、上ケース43の左右方向に移動可能なブレーキシュー92と対向する。ブレーキシュー92は、ブレーキ軸94とブレーキロータ76との間に配置され、ブレーキロータ76と対向する面を制動面とする。ブレーキシュー92は、プレート状の本体部の前後方向両端からブレーキロータ76とは反対側に、2つのプレート状の脚部が突出する形状である。
【0053】
ブレーキシュー92は、上ケース43の内側に設けられた壁部に左右方向の移動可能に支持される。カム面97がブレーキシュー92と平行に配置される場合にはブレーキシュー92がブレーキロータ76から離れて非制動状態となる。一方、ブレーキ軸94が回転してカム面97がブレーキシュー92に対し傾斜した場合には、カム面97がブレーキシュー92に押し付けられ、ブレーキシュー92の制動面がブレーキロータ76に移動する。これにより、ブレーキロータ76がブレーキパッド93に向かって押し付けられブレーキシュー92とブレーキパッド93とで両側から挟まれるので、ブレーキロータ76と、入力軸60から動力が伝達される左右の車輪12,13に至る伝動系が制動する。
【0054】
ブレーキアーム95の先端部には、運転席の周辺部に配置されたブレーキ操作具(図示せず)がリンク機構を介して接続される。上ケース43の外側面におけるブレーキ軸94の周囲と、ブレーキアーム95との間にはバネ99が配置される。バネ99の両端部が、ブレーキアーム95に固定され下側に突出する第1係合ピン100と、上ケース43に固定され上側に突出する第2係合ピン101とに係合する。これにより、ブレーキ軸94は、カム面97とブレーキシュー92とが平行になって非制動となるように、バネ99からブレーキアーム95を介して第1回転方向に付勢される。
【0055】
車両のブレーキ操作具が駐車ブレーキ位置に操作された場合には、ブレーキアーム95の先端部が、バネ99の付勢力に抗して移動して、ブレーキ軸94が、カム面97がブレーキシュー92に対し傾斜してブレーキシュー92をブレーキロータ76に押し付ける第2回転方向に回転する。第2回転方向は第1回転方向と逆方向である。これにより、ブレーキ装置90が制動状態となって、ブレーキロータ76及び車輪の回転が停止し、その状態が維持される。
【0056】
図9Aは、図2CのD部拡大図である。図9Aに示すように、モータケース71の小径環状凸部134の外周面と、大径環状凸部130の天板部132との間である、小径環状凸部134の外周根元部分には弾性リングであるOリング55が配置される。一方、上ケース43の嵌合穴49の開口周縁部には、断面形状が嵌合穴49の中心軸と平行な方向に対し傾斜した直線である面取り49aが全周にわたって形成される。モータケース71において、小径環状凸部134の外周根元部分と、面取り49aとの間でOリング55が圧縮されることにより、モータケース71とトランスミッションケース42との間がシールされる。これにより、トランスミッションケース42のギヤ室S1またはブレーキ室S2内の潤滑油がトランスミッションケース42とモータケース71との間を通じて外部に漏れ出ることを防止できる。さらに、複雑な加工を行うことなく、モータケース71とトランスミッションケース42との嵌合部のシール構造を実現できる。
【0057】
上記のモータ70及び動力伝達ユニット41によれば、モータケース71に装着面126と、大径環状凸部130と、小径環状凸部134とが、モータ軸72の軸方向に並んで配置される。また、大径環状凸部130と小径環状凸部134とは、モータ軸72の軸線を中心とした二重環状に配置される。また、モータケース71は、大径環状凸部130と小径環状凸部134との一方の凸部を択一的にトランスミッションケース42に嵌合固定可能に構成される。これにより、モータケース71との嵌合形状が異なる複数種類のトランスミッションケース42のうちから任意に選択されたトランスミッションケース42と、モータケース71を組み合わせて動力伝達ユニット41を形成する場合に、共通のモータケースを使用しやすくなる。このため、モータの量産効果により、モータ及び動力伝達ユニットの製造コストの低減を図れる。
【0058】
さらに、本例のように、モータケース71の小径環状凸部134をトランスミッションケース42の嵌合穴49に嵌合させる場合には、モータケース71とトランスミッションケース42との間にOリング55を設けてシールを図る場合に、Oリング55を小径にできる。これにより、動力伝達ユニット41のコストを低減できる。また、モータケース71とトランスミッションケース42との嵌合面の直径が小さくなるので、この嵌合面の機械加工費が安価になる。これによっても動力伝達ユニット41のコストを低減できる。
【0059】
図9Bは、実施形態の別例の動力伝達ユニットにおいて、図9Aに対応する図である。本例の構成では、小径環状凸部134の外周先端部分に、断面形状が小径環状凸部134の中心軸と平行な方向に対し傾斜した直線である面取り135が全周にわたって形成される。嵌合穴49の内周面、及びその内周面に形成された段差面49bの連続部と、面取り135との間にOリング55が配置される。これにより、Oリング55は、上ケース43の嵌合穴49及び段差面49bの連続部と小径環状凸部134との間で圧縮されることにより、モータケース71とトランスミッションケース42との間がシールされる。これによっても、トランスミッションケース42のギヤ室またはブレーキ室の油がトランスミッションケース42とモータケース71との間を通じて外部に漏れ出ることを防止できる。さらに、複雑な加工を行うことなく、モータケース71とトランスミッションケース42との嵌合部のシール構造を実現できる。本例において、その他の構成及び作用は、図1図9Aの構成と同様である。
【0060】
図10は、実施形態の別例の動力伝達ユニット41aにおいて、図2Cに対応する図である。図11は、動力伝達ユニット41aの分解斜視図である。本例の構成では、トランスミッションケース102は、いわゆる左右割りと呼ばれる構造であり、それぞれ上下方向の合わせ面を有する第1車軸ケース103と第2車軸ケース115とが複数のボルト122で結合されることにより一体化されている。
【0061】
第1車軸ケース103には、入力軸60、減速歯車機構78、及び差動歯車機構118と第1車軸18の一部とが収容される。第2車軸ケース115には、第2車軸19の一部が収容される。第1車軸ケース103は、モータ70側の内側ケース104と、モータ70と反対側の外側ケース109とがネジ止めによって固定されることにより構成される。外側ケース109は、内側ケース104の左側開口を覆うカバー部110と、カバー部110の後側部分から左側に突出し、第1車軸18の一部を収容する筒部111と、その筒部111の前後両側に結合される壁部112a,112bとを含んでいる。
【0062】
第2車軸ケース115は、第2車軸19の一部を収容する筒部116と、その筒部116の前後両側に結合される壁部117a,117bとを含んでいる。
【0063】
さらに、内側ケース104のモータケース71側端部には、モータケース71に装着されるリング状の装着面105が設けられ、装着面105の周方向の4つの位置には、モータケース結合用のボルト59を結合するためのネジ穴106が形成される。装着面105の内側に設けた円筒面である壁部には、入力軸の軸線を中心とする前側嵌合穴107が設けられる。この前側嵌合穴107には、モータケース71の大径環状凸部130が嵌合固定される。
【0064】
前側嵌合穴107の奥部には、ブレーキロータ76、ブレーキパッド93、ブレーキシュー92、ブレーキ軸94、及びブレーキホルダ152が配置される。具体的には、内側ケース104において、ブレーキ室S2を形成する壁部の一側壁面には、円形状の窪みが形成され、その中にブレーキロータ76が配置される。ブレーキパッド93は、円形状の窪み内に位置する一側壁面のポケットに保持される。ブレーキ軸94に対しブレーキシュー92と反対側には、内側ケース104に固定されたブレーキホルダ152が配置される。
【0065】
ブレーキホルダ152は、鉄、鋼、アルミニウム合金等の金属材料により形成され、ブレーキシュー92及びブレーキパッド93をブレーキロータ76に、より安定して押し付け可能とするために設けられる。本例では、ブレーキホルダ152は、内側ケース104へのモータケース71の装着側と同じ側である右側から、内側ケース104に装着される。ブレーキホルダ152は、略板状で、略中央部分に、モータ軸72及び連結部材74の筒部を貫通させる貫通孔である中央開口が設けられる。ブレーキホルダ152のブレーキ軸94対向側の面には、ブレーキ軸94のカム面と反対側の半円弧面に当接するガイド面と、ブレーキシュー92の各脚部を係止して保持可能な溝部とが形成される。ブレーキホルダ152は、ブレーキをかけたときにガイド面で、ブレーキシュー92に対するブレーキ軸94の反力を受ける。
【0066】
内側ケース104において、第2車軸ケース115と対向する後側部分の右側面には貫通孔である後側嵌合穴108が設けられる。後側嵌合穴108には、第2車軸ケース115の筒部116の内端部に設けられた小径筒部116aが嵌合し、その状態で、内側ケース104と第2車軸ケース115とが、複数のボルト122でネジ結合される。
【0067】
本例の構成では、図1図9Aの構成と共通のモータケース71を有するモータ70を使用して、トランスミッションケース102に組み合わせて、動力伝達ユニット41aを構成することができる。このとき、トランスミッションケース102に組み合わせるモータケース71において、大径環状凸部130の外周面にのみ円筒面となるように機械加工を施してもよい。このとき、小径環状凸部134と大径環状凸部130とのうち、小径環状凸部134の外周面には機械加工を施さず、未加工としてもよい。
【0068】
このように、モータケース71との嵌合形状が異なる複数種類のトランスミッションケースのうちから任意に選択されたトランスミッションケースと、モータケース71を組み合わせて動力伝達ユニットを形成する場合に、共通のモータケースを使用しやすくなる。
【0069】
さらに、前側嵌合穴107の開口周縁部には、面取りが全周にわたって形成されると共に、モータケース71において、大径環状凸部130の外周根元部分と、前側嵌合穴107の面取りとの間で弾性リングであるOリングが圧縮されてもよい。これにより、モータケースとトランスミッションケースとの間がシールされる。本例の構成において、その他の構成及び作用は、図1図9Aの構成と同様である。
【0070】
図12は、実施形態の別例の動力伝達ユニットを備える芝刈り車両10aの斜視図である。図13は、図12の車両に組み込んだ動力伝達ユニット41bの横断面図である。本例の動力伝達ユニット41bを組み込む芝刈り車両10aは、図1の芝刈り車両10と異なり、左右両側の2つの動力伝達ユニットのそれぞれで後側の左車輪12(図1参照)と右車輪13とを独立して駆動する。また車両の前側には、左車輪及び右車輪として、それぞれ鉛直方向の軸を中心に360度以上の回転が可能なキャスタ輪22,23が設けられる。このような車両では、例えば加速指示部及び旋回指示部として、運転席の左右両側に設けた左右2つの操作レバー30,31を用いる。左右の操作レバー30,31は、左右方向に沿った軸を中心として前後に揺動可能に構成される。各操作レバー30,31は、前側に倒すことで、左右の対応する側のモータ70(図13)を前進方向に回転させることが可能であり、後側に倒すことで対応する側のモータ70を後進方向に回転させることが可能である。左右の操作レバー30,31の前側への揺動位置を異ならせることで、車両を旋回走行させることができる。
【0071】
このような車両には、図13に示す左車輪用の動力伝達ユニット41bと、右車輪用の動力伝達ユニットとが用いられる。右車輪用の動力伝達ユニットは、左車輪用の動力伝達ユニット41bと、それぞれの構成要素の左右の位置関係が逆になる以外、同様である。このため、以下では、図13を用いて左車輪用の動力伝達ユニット41bを説明する。
【0072】
図13に示すように、動力伝達ユニット41bは、モータ70側の内側ケース161と、内側ケース161にモータ70と反対側に固定された外側ケース162とを含むトランスミッションケース160を備える。内側ケース161は、図10に示した動力伝達ユニット41aの内側ケース104において、後側嵌合穴108を塞いだ構成と同様の形状を有する。外側ケース162の構成は、図10に示した動力伝達ユニット41aの外側ケース109と同様である。
【0073】
左車軸163は、外側ケース162の筒部162aを貫通し、筒部162aから突出した部分に車輪固定用のハブ164が固定される。左車軸163は、筒部162aの外端部内側に設けたブッシュ145と、内側ケース161の有底の孔部内周面に支持したブッシュ146とにより、トランスミッションケース160に回転可能に支持される。左車軸163において、ギヤ室に配置される部分には出力歯車165が相対回転不能に固定される。出力歯車165は、中間歯車軸82の中間歯車部83に噛み合っている。入力軸60に設けられた第1はすば歯車79、中間歯車軸82に設けられた第2はすば歯車81、及び中間歯車部83に噛み合った出力歯車165により減速歯車機構78aが形成される。モータ70の動力は、減速歯車機構78aを介して左車軸163に伝達され、ハブ164に固定された車輪を回転させる。
【0074】
本例の構成では、内側ケース161における前側嵌合穴107の形状が図10図11の構成と同様である。これにより、図10図11の構成と同様に、図1図9Aの構成と共通のモータケース71を有するモータ70を使用して、トランスミッションケース160に組み合わせて、動力伝達ユニットを構成することができる。本例において、その他の構成及び作用は、図1図9Aの構成、または図10図11の構成と同様である。
【0075】
図14は、実施形態の別例の動力伝達ユニット41cにおいて、図13に対応する図である。本例の構成では、図13の構成と異なり、トランスミッションケース160aの内側ケース161aへのモータケース71の装着側と反対側から、内側ケース161aにブレーキホルダ153が装着される。ブレーキホルダ153は、内側ケース161aに複数のボルトでねじ止め固定される。ブレーキホルダ153には、入力軸60を貫通させる貫通孔が設けられ、その貫通孔に入力軸60を支持する軸受52が嵌合固定される。ブレーキホルダ153と、内側ケース161aの壁部166との間には、ブレーキパッド93とブレーキロータ76とブレーキシュー92とが設けられる。ブレーキホルダ153においてブレーキパッド93対向側の面には、ポケットが設けられ、そのポケットにブレーキパッド93が保持される。ブレーキホルダ153は、ブレーキをかけたときに、ブレーキ軸94から、ブレーキシュー92、ブレーキロータ76、及びブレーキパッド93を介して力を受ける。このとき、ブレーキシュー92に対するブレーキ軸94の反力は、内側ケース161aの壁部166が受ける。
【0076】
内側ケース161aのモータケース71側端部には、モータケース71に装着されるリング状の装着面167が設けられ、装着面105の周方向の4つの位置には、モータケース結合用のボルト59を結合するためのネジ穴168が形成される。装着面167の内側に設けた円形の孔部169の内周面には、モータケース71は嵌合されない。その代わりに、内側ケース161aの壁部166において、この孔部169の底部に位置する部分から、モータケース71側に突出した略円筒状の筒部170が形成される。筒部170の内側に設けた円筒面である壁部には、入力軸60の軸線を中心とする嵌合穴171が設けられる。この嵌合穴171に、モータケース71の小径環状凸部134が嵌合固定される。その状態で、内側ケース161aの装着面167に設けられた4つのネジ穴168に、モータケース71のフランジの4つの貫通孔を貫通したボルト59がネジ結合される。
【0077】
本例の構成では、図1図9Aの構成と共通のモータケース71を有するモータ70を使用して、トランスミッションケース160aに組み合わせて、動力伝達ユニットを構成することができる。このとき、モータケース71の小径環状凸部134の外周面にのみ円筒面となるように機械加工を施すことができる。本例において、その他の構成及び作用は、図1図9Aの構成、または図10図11の構成、または図12図13の構成と同様である。
【0078】
図15は、実施形態の別例の動力伝達ユニット41dにおいて、図13に対応する図である。本例の動力伝達ユニット41dは、上ケース172と、上ケース172の下側に結合した下ケース174とを含むトランスミッションケース160bを備える。上ケース172は、図1図9Aに示した動力伝達ユニット41の上ケース43において、ギヤ収容部43aの後側部分で右側から突出する筒部を省略し、後側部分の右側開口を塞いだ構成と同様の形状を有する。下ケース174は、上ケース172のギヤ収容部172aの下端に結合される。下ケース174には、入力軸60支持用の2つの軸受52,53を下から支持する第1下突部175,176と、左車軸163の内端部を支持するブッシュ146を下から支持する第2下突部177とが形成される。
【0079】
左車軸163は、上ケース172の左筒部172bを貫通し、左筒部172bから突出した部分に車輪固定用のハブ164が固定される。左車軸163は、左筒部172bの外端部内側に設けたブッシュ145と、上ケース172のギヤ収容部172aと下ケース174とに支持したブッシュ146とにより、トランスミッションケース42に回転可能に支持される。左車軸163において、ギヤ室に配置される部分には出力歯車165が相対回転不能に固定される。入力軸60と左車軸163との間には、図13に示した構成と同様に、減速歯車機構78aが設けられる。これにより、モータ70の動力は、減速歯車機構78aを介して左車軸163に伝達され、ハブ164に固定された車輪を回転させる。
【0080】
本例の構成では、上ケース172のモータケース71側端部には、図1図9Aの構成の上ケース43に設けた装着面48及びその内側の嵌合穴49と同様に、装着孔178及びその内側の嵌合穴179が形成され、その嵌合穴179に、モータケース71の小径環状凸部134が嵌合固定される。これにより、図1図9Aの構成と共通のモータケース71を有するモータ70を使用して、トランスミッションケース160bに組み合わせて、動力伝達ユニットを構成することができる。このとき、モータケース71の小径環状凸部134の外周面にのみ円筒面となるように機械加工を施すことができる。本例において、その他の構成及び作用は、図1図9Aの構成、または図12図13の構成と同様である。
【0081】
10,10a 芝刈り車両、12 左車輪、13 右車輪、14 左車輪、15 右車輪、16 メインフレーム、18 第1車軸、19 第2車軸、20 ステアリングホイール、21 操舵機構、22,23 キャスタ輪、25 芝刈装置、26 モアデッキ、27 芝刈りブレード、28 ダクト、30,31 操作レバー、41,41a,41b,41c,41d 動力伝達ユニット、42 トランスミッションケース、43 上ケース、45 下ケース、46 壁部、47 モータ連結部、48 装着面、49 嵌合穴、49a 面取り、49b 段差面、50 ネジ穴、51,52,53 軸受、54 シール、55 Oリング、58,59 ボルト、60 入力軸、61 上支持部、63,64 第1下突部、70 モータ、71 モータケース、72 モータ軸、74 連結部材、75 筒部、76 ブレーキロータ、77 動力伝達機構、78,78a 減速歯車機構、79 第1はすば歯車、81 第2はすば歯車、82 中間歯車軸、83 中間歯車部、90 ブレーキ装置、91 制動力発生部、92 ブレーキシュー、93 ブレーキパッド、94 ブレーキ軸、95 ブレーキアーム、99 バネ、100 第1係合ピン、101 第2係合ピン、102 トランスミッションケース、103 第1車軸ケース、104 内側ケース、105 装着面、106 ネジ穴、107 前側嵌合穴、108 後側嵌合穴、109 外側ケース、110 カバー部、111 筒部、112a、112b 壁部、115 第2車軸ケース、116 筒部、117a、117b 壁部、118 差動歯車機構、119 リングギヤ、120 スリーブ、121 差動ケース、122 ボルト、125 ケース本体、126 装着面、127 フランジ、128 貫通孔、130 大径環状凸部、132 天板部、134 小径環状凸部、135 面取り、136 小径筒部、137 カバー、140 モータロータ、142 ステータコア、144 ステータコイル、145~148 ブッシュ、150,151 第2下突部、152,153 ブレーキホルダ、160,160a,160b トランスミッションケース、161,161a 内側ケース、162 外側ケース、163 左車軸、164 ハブ、165 ブレーキホルダ、166 壁部、167 装着面、168 ネジ穴、169 孔部、170 筒部、171 嵌合穴、172 上ケース、172a ギヤ収容部、174 下ケース、175,176 第1下突部、177 第2下突部、178 装着面、179 嵌合穴。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15