(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058919
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】貝類養殖方法及び貝類養殖システム
(51)【国際特許分類】
A01K 61/54 20170101AFI20240422BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
A01K61/54
A01K63/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166332
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】金井 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】大島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】石垣 衛
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA22
2B104CF01
2B104DA03
2B104EA01
2B104ED01
2B104EE13
2B104EF01
2B104EF11
(57)【要約】
【課題】アサリ等の二枚貝を効率的に養殖することができる貝類養殖方法及び貝類養殖システムを提供する。
【解決手段】貝類養殖システムA1は、貝類の飼育水槽10の飼育水W1をろ過して飼育水槽に戻す循環経路C1及び給餌装置30を制御する制御装置20を備える。そして、給餌装置30を用いて、予め定めた給餌期間で定期的に、飼育水槽の貝類に給餌を行なう。この場合、評価期間における、アサリa1の成長量を評価し、成長量が大きい給餌期間を特定し、特定した給餌期間を用いて、アサリa1を飼育する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝類の飼育水槽の飼育水をろ過して前記飼育水槽に戻す循環経路及び給餌装置を備えた貝類養殖システムを用いて、貝類を飼育する方法であって、
前記給餌装置を用いて、予め定めた給餌期間で定期的に、前記飼育水槽の二枚貝に給餌を行ない、
評価期間における、前記二枚貝の成長量を評価し、
前記成長量が大きい給餌期間を特定し、
前記特定した給餌期間を用いて、前記二枚貝を飼育することを特徴とする貝類養殖方法。
【請求項2】
物理ろ過装置を用いて、前記給餌期間を除く期間に飼育水の浄化を行なうことを特徴とする請求項1に記載の貝類養殖方法。
【請求項3】
前記二枚貝はアサリであり、前記給餌期間は干満周期に応じて決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の貝類養殖方法。
【請求項4】
前記給餌期間は12時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の貝類養殖方法。
【請求項5】
給餌装置、飼育水槽を備えた貝類養殖システムであって、
前記給餌装置が、二枚貝の成長量が大きい給餌期間を用いて、定期的に前記二枚貝に給餌を行なうことにより、前記二枚貝を飼育することを特徴とする貝類養殖システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アサリ等の貝類を養殖するための貝類養殖方法及び貝類養殖システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境ではアサリをはじめとした二枚貝の資源が減少している。この場合、干潟等の環境を整備するだけでは生物資源の回復が難しい。貝類の陸上養殖では、引き込んだ海水を連続的に供給して飼育に用いて排水する「かけ流し方式」と、飼育水を浄化しながら循環して長期間使う「閉鎖循環方式」(又は「完全循環方式」)とがある。ここで、飼育水としては、自然海水や、自然海水に近い様々な塩類をブレンドしたものを溶解して作る人工海水を用いる。
【0003】
また、貝類の成長を促進することができる貝類の養殖方法が検討されている(例えば、特許文献1)。この文献に記載された技術では、藻類を培養するための培養用の水の中に藻類を収容することにより、藻類を培養する。そして、培養された藻類を、養殖の対象である貝類及びケイ酸カルシウム含有材料を収容した養殖用の水の中に供給する。藻類が供給された養殖用の水の中で、貝類を養殖する。この場合、貝類の養殖は、養殖用の水をかけ流しながら行われることが好ましい。
【0004】
また、アワビの養殖において、海水を繰り返し利用する循環式陸上養殖の検討も行なわれている(例えば、非特許文献1)。この文献に記載された技術では、飼育水のpHを8.0以上に保つこと、及び水温は17℃以下に保つことで、天然の海域よりも速い成長速度を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大島義徳他,“アワビの循環式陸上養殖の研究”,[online],2020年12月,大林組技術研究所報,84号,p.1-6[令和3年7月17日検索],インターネット<URL:https://www.obayashi.co.jp/technology/shoho/084/2020_084_32.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、かけ流しであるため、常時、給餌を行なっている。一方、閉鎖循環方式では、水質浄化が必要であるため、給餌と浄化のタイミングを考慮しなければ、生育の促進は困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する貝類養殖方法は、貝類の飼育水槽の飼育水をろ過して前記飼育水槽に戻す循環経路及び給餌装置を備えた貝類養殖システムを用いて、貝類を飼育する。そして、前記給餌装置を用いて、予め定めた給餌期間で定期的に、前記飼育水槽の二枚貝に給餌を行ない、評価期間における、前記二枚貝の成長量を評価し、前記成長量が大きい給餌期間を特定し、前記特定した給餌期間を用いて、前記二枚貝を飼育する。
【0009】
上記課題を解決する貝類養殖システムは、給餌装置、飼育水槽を備える。そして、前記給餌装置が、二枚貝の成長量が大きい給餌期間を用いて、定期的に二枚貝に給餌を行なうことにより、前記二枚貝を飼育する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アサリ等の二枚貝を効率的に養殖することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態における貝類養殖システムの説明図である。
【
図2】実施形態におけるハードウェア構成の説明図である。
【
図4】実施形態におけるアサリの成長について、給餌時間を変更した場合の平均成長殻長の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1~
図4を用いて、貝類養殖方法及び貝類養殖システムを具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、完全閉鎖循環環境下において、微細藻(植物プランクトン)を給餌しながら、微細藻を食べる二枚貝(アサリ)の陸上養殖を行なう。
【0013】
図1に示すように、循環式の貝類養殖システムA1は、飼育水槽10、制御装置20、給餌装置30、殺菌装置40、プロテインスキマー50、硝化装置60、循環経路C1,C2,C3を備える。
循環経路C1は、飼育水を循環させるために、飼育水槽10から殺菌装置40へと飼育水を供給する経路である。循環経路C2は、飼育水を循環させるために、飼育水槽10からプロテインスキマー50へと飼育水を供給する経路である。循環経路C3は、飼育水を循環させるために、飼育水槽10から硝化装置60へと飼育水を供給する経路である。
殺菌装置40、プロテインスキマー50、硝化装置60は、飼育水槽10内の水質の浄化装置として機能する。
飼育水槽10は、アサリa1を飼育(閉鎖循環方式陸上養殖)するための水槽(50L)であり、曝気・水流撹拌装置等を備える。
飼育水槽10には、飼育水W1を貯水する。本実施形態では、飼育水槽10内の海水を飼育水W1と呼ぶ。ここでは、人工海水粉末を添加した海水を用いており、海水の水温は15℃、塩分濃度30psu(実用塩分単位)に調整する。更に、海水のカルシウムイオン濃度として、450~650mg/L、pHは、7.8~8.2に制御する。
【0014】
アサリa1は、飼育水槽10の飼育水W1に浸漬された飼育かご11内で飼育される。アサリa1は、天然由来の稚貝(採集時平均殻長5~6mm)を用いる。各飼育水槽10で、100個体(密度:2,000個体/m2)ずつ飼育した。飼育期間はそれぞれの飼育水槽10で1~2ヶ月である。
【0015】
曝気・水流撹拌装置は、飼育水槽10内で、曝気と水流による撹拌により、飼育水W1の水質を安定化させている。
制御装置20は、給餌装置30、ポンプP1,P2,P3を制御する。
【0016】
(ハードウェア構成例)
図2は、制御装置20として機能する情報処理装置H10のハードウェア構成例である。
【0017】
情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を有する。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアを有していてもよい。
【0018】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースや無線インタフェース等である。入力装置H12は、管理者等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイやタッチパネル等である。記憶装置H14は、制御装置20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0019】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、制御装置20における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各種処理に対応する各種プロセスを実行する。
【0020】
(貝類養殖システムの機能)
給餌装置30は、制御装置20からの指示に応じて、定期的に給餌を行なう。本実施形態では、餌として、植物プランクトン(キートセラス・グラシリス)を、飼育水槽10に供給する。ここでは、植物プランクトンを、容器でエアレーションをしながら人工海水に懸濁させ、サイフォンの原理でシリコンチューブとクレンメを使用して、時間調整をして給餌した。このクレンメにより、供給量(流量)を調整する。なお、サイフォン、クレンメに代えて、チュービングポンプを用いて、容器に蓄積された餌を飼育水槽10に供給するようにしてもよい。
【0021】
ポンプP1は、殺菌装置40を経由する循環経路C1に設けられる。このポンプP1は、殺菌装置40に対する、飼育水W1の循環を制御する。
ポンプP2は、プロテインスキマー50を経由する循環経路C2に設けられる。このポンプP2は、プロテインスキマー50に対する、飼育水W1の循環を制御する。
ポンプP3は、硝化装置60を経由する循環経路C3に設けられる。このポンプP3は、硝化装置60に対する、飼育水W1の循環を制御する。
【0022】
殺菌装置40は、UV光を用いて、飼育水W1を殺菌する。
プロテインスキマー50は、水中に微小な泡(例えば、直径0.3~0.5mm)を発生させ、その界面に大小様々の有機物や細菌などを吸着させ除去する泡沫分離処理による物理濾過装置である。このプロテインスキマー50は、タンパク質などの有機物が腐敗する前に除去する。
【0023】
硝化装置60には、セラミック製の担体を充填する。硝化装置60に飼育水W1を一定流速でポンプアップし、一定水面以上に達するとサイフォンで急速に排水されて、担体が乾湿を繰り返すことで好気性のアンモニア硝化細菌と亜硝酸酸化細菌を活性化する。これにより、貝類のフンや残餌から溶出するアンモニアと亜硝酸を毒性の低い硝酸に酸化させる。
【0024】
(飼育処理)
次に、
図3を用いて、飼育処理を説明する。まず、評価期間において、給餌を行なう第1期間、給餌を停止して、水質浄化を行なう第2期間を変更する。第1期間は、6時間/日、12時間/日、20時間/日とする。第2期間は、24時間から第1期間を差し引いた期間(18時間/日、12時間/日、4時間/日)である。
【0025】
まず、制御装置20は、タイマー管理処理を実行する(ステップS1)。具体的には、制御装置20は、システムタイマーを用いて、現在時刻を取得する。そして、現在時刻が第1期間又は第2期間の何れかを判定する。
【0026】
次に、現在時刻が第1期間の場合には、制御装置20は、給餌処理を実行する(ステップS2)。具体的には、制御装置20は、給餌装置30に給餌を指示する。そして、給餌装置30は、クレンメを開状態にして給餌を行なう。この場合、制御装置20は、ポンプP1,P2,P3を停止して、浄化を停止する。
【0027】
一方、現在時刻が第2期間の場合には、制御装置20は、浄化処理を実行する(ステップS3)。具体的には、制御装置20は、ポンプP1,P2,P3の起動を指示する。この場合、給餌装置30は、クレンメを閉状態にして給餌を停止する。
【0028】
(評価結果)
図4は、給餌時間を、6時間、12時間、20時間と変化させて、それぞれ1ヶ月間に成長した平均成長殻長を計測したものである。給餌量は、1日にアサリの湿重量1g当たりに植物プランクトンを「2.2×10
8個/g/日」、「4.4×10
8個/g/日」とする。給餌時間(第1期間)の長さが異なる場合にも、6時間、20時間に比べて、12時間において、アサリの平均成長殻長(成長量)が大きく、成長が促進している。
そこで、アサリについては、第1期間、第2期間を、それぞれ12時間/日と決定して、閉鎖循環方式陸上養殖を行なう。
【0029】
(作用)
二枚貝の成長に適したタイミングで給餌することにより、良好な養殖環境を維持しながら、貝の成長を促すことができる。
【0030】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、12時間毎に、給餌を行なう第1期間、水質浄化を行なう第2期間を繰り返す。これにより、二枚貝の成長に適したタイミングで給餌することにより、成長を促すことができる。この給餌期間である第1期間は、干満周期に対応しており、自然環境に応じた給餌を実現できる。
【0031】
(2)本実施形態では、1日のうち、浄化期間である12時間は飼育水W1を浄化して、水質を良好に維持することが可能である。従来のかけ流し方式による養殖方法では、24時間給餌が有効であるが、完全閉鎖循環環境においては、水質が低下する。この水質の低下を抑制できる。
【0032】
(3)本実施形態では、貝類養殖システムA1は、飼育水槽10、循環経路C1,C2を備える。これにより、場所を選ばず、貝類の養殖を行なうことができる。循環方式の貝類養殖方法は、海洋で養殖を行なう海面養殖と比べて、気候の変動による影響を抑制して安定した養殖を、海洋環境に影響を与えない形で実現できる。
【0033】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、貝類養殖システムA1を、二枚貝としてアサリの養殖に適用した。給餌により成長する貝類であればアサリに限定されるものではない。
【0034】
・上記実施形態においては、1日を第1期間、第2期間に分ける。第1期間と第2期間との間に、給餌及び浄化の両方を停止する第3期間を設けてもよい。この第3期間は、貝が餌を消費する期間である。
また、第2期間において、飼育水の浄化状況に応じて、浄化装置を停止させてもよい。この場合には、飼育水槽10内に水質センサを設ける。そして、制御装置20は、水質センサから取得した水質情報を用いて、浄化装置を制御する。
【0035】
・上記実施形態においては、浄化のために、殺菌装置40、プロテインスキマー50、硝化装置60を備える。水質浄化のための構成は、これらに限定されるものではない。電解装置、固形物除去装置、脱窒装置、生物ろ過槽等を用いてもよい。
【0036】
・上記実施形態においては、給餌量は、「2.2×108個/g/日」、「4.4×108個/g/日」である。給餌量は、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0037】
A1…貝類養殖システム、C1,C2,C3…循環経路、P1,P2,P3…ポンプ、W1…飼育水、10…飼育水槽、11…飼育かご、20…制御装置、30…給餌装置、40…殺菌装置、50…プロテインスキマー、60…硝化装置。