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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058939
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】医療デバイス、コーティング方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/34 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
A61B17/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166365
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111615
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 良太
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】武部 佑紀
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160FF42
(57)【要約】
【課題】簡略化されたコーティング工程を採用して製造することが可能な、表面の滑りやすさを向上させ、かつ生体組織の噛み込みを防止するためのコーティング層が先端部に形成された医療デバイスを提供する。
【解決手段】医療デバイス(ダイレータ)10は、1又は複数本の金属素線21を巻回して中空形状に形成されたシャフト2と、シャフト2の外周に、シャフト2の軸線方向に沿って螺旋状に設けられた凸部3と、を備え、凸部3が設けられているシャフト2の先端部がコーティング層6によって被覆されており、コーティング層6が、シャフト2及び凸部3の表面に形成された第1コーティング層61と、第1コーティング層61の表面に形成された第2コーティング層62と、第2コーティング層62の表面に形成された第3コーティング層63と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数本の金属素線を巻回して中空形状に形成されたシャフトと、
前記シャフトの外周に、前記シャフトの軸線方向に沿って螺旋状に設けられた凸部と、を備え、
前記凸部が設けられている前記シャフトの先端部がコーティング層によって被覆されており、
前記コーティング層が、
前記シャフト及び前記凸部の表面に形成された第1コーティング層と、
前記第1コーティング層の表面に形成された第2コーティング層と、
前記第2コーティング層の表面に形成された第3コーティング層と、を有する医療デバイス。
【請求項2】
前記第1コーティング層が、前記シャフト及び前記凸部と、前記第2コーティング層との密着性を高めるプライマー層であり、
前記第2コーティング層が、前記シャフトを構成する前記金属素線間の凹凸及び、前記シャフトを構成する前記金属素線と前記凸部との間の凹凸を埋めて表面を平滑化する中間層であり、
前記第3コーティング層が、前記先端部の最表面に親水性を付与するための親水性被覆層である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記凸部が前記軸線方向に沿って隣り合う凸部間に隙間を有し、
前記隙間に形成されている前記コーティング層において、
前記第1コーティング層が前記第2コーティング層よりも薄く形成されており、
前記第2コーティング層が前記第3コーティング層よりも薄く形成されている、請求項1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記凸部が、前記シャフトの外周面に金属素線を螺旋状に巻回して形成されている、請求項1-3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
1又は複数本の金属素線を巻回して中空形状に形成されたシャフトと、
前記シャフトの外周に、前記シャフトの軸線方向に沿って螺旋状に設けられた凸部と、を備えた医療デバイスのコーティング方法であって、
前記凸部が設けられている前記シャフトの先端部を、第1コーティング材料を含む溶液に浸漬し、浸漬した前記先端部を引き上げてから乾燥させて第1コーティング層を形成する第1工程と、
前記第1コーティング層が形成された前記先端部を、第2コーティング材料を含む溶液に浸漬し、浸漬した前記先端部を引き上げてから乾燥させて第2コーティング層を形成する第2工程と、
前記第2コーティング層が形成された前記先端部を、第3コーティング材料を含む溶液に浸漬し、浸漬した前記先端部を引き上げてから乾燥させて第3コーティング層を形成する第3工程と、のうちの少なくともいずれか1つの工程を有するコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイス及びそのコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内視鏡治療において、消化管壁に形成された穿孔や、疾患により狭窄した部位を拡張するためにダイレータが用いられている。例えば特許文献1には、先端部の外周面に螺旋状に凸部が形成されたダイレータが開示されている。当該ダイレータは、金属素線を巻回して中空状に形成された第1コイルと、第1コイルの外周面に、第1コイルとは反対向きに巻回された金属素線からなる第2コイルとを備えており、第2コイルが第1コイルの長軸(軸線)方向に沿って螺旋状に延びる凸部を構成している。このようなダイレータの(螺旋状の凸部が形成されている)先端部を、例えば消化管壁に形成された穿孔に挿入し、ダイレータを回転させながら押し込んでいくことで、穿孔を拡張することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/059121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されているようなダイレータにおいては、表面の滑りやすさを向上させるとともに、第1コイルの金属素線間に生体組織が噛み込むことを防止するために、樹脂によるコーティング層が第1コイルの外表面に形成されることが一般的である。また、それに加えて、第1コイルと螺旋状の凸部(第2コイル)との間への生体組織の噛み込みを防止する必要もあるため、従来、非常に複雑なコーティング工程によって、ダイレータのコーティングを行っている。
【0005】
具体的なコーティング工程の一例を説明すると、まず、第1コイルの外周に第2コイルを巻回して螺旋状に凸部を形成し、その形づけた第2コイルをいったん取り外して、第1コイルの外表面に第1プライマー層を形成する。続いて、第1プライマー層上に、例えばポリウレタンチューブのような熱収縮性樹脂チューブを取り付けて加熱し、熱溶着により第1被覆層を形成する。この状態で、取り外していた螺旋状の第2コイルを再度装着し、今度は第2コイルの上から第2プライマー層を形成する。そして、第2プライマー層上に再び熱収縮性樹脂チューブを取り付け、加熱して熱溶着により第2被覆層を形成し、最後に第2被覆層上に親水性コーティング材料を用いた親水性被覆層を形成している。
【0006】
しかしながら、上記のようなコーティング工程を採用することにより、第1コイルの金属素線間への生体組織の噛み込みや、第1コイルと螺旋状の凸部(第2コイル)との間への生体組織の噛み込みは抑制されるものの、工数が多いためにコーティング工程に時間がかかり、また、コーティングの品質管理が難しいものになるという問題があった。特に熱収縮性樹脂チューブの熱溶着によるコーティング工程は不良発生頻度も高く、ダイレータのコーティングをより簡略化された工程で行うことが求められている。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、簡略化されたコーティング工程を採用して製造することが可能な、表面の滑りやすさを向上させ、かつ生体組織の噛み込みを防止するためのコーティング層が先端部に形成されたダイレータ等の医療デバイスを提供することを目的とする。また、本発明は、表面の滑りやすさを向上させ、かつ生体組織の噛み込みを防止するためのコーティング層が先端部に形成された医療デバイスを、簡略化されたコーティング工程によって製造することが可能なコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第一に本発明は、1又は複数本の金属素線を巻回して中空形状に形成されたシャフトと、前記シャフトの外周に、前記シャフトの軸線方向に沿って螺旋状に設けられた凸部と、を備え、前記凸部が設けられている前記シャフトの先端部がコーティング層によって被覆されており、前記コーティング層が、前記シャフト及び前記凸部の表面に形成された第1コーティング層と、前記第1コーティング層の表面に形成された第2コーティング層と、前記第2コーティング層の表面に形成された第3コーティング層と、を有する医療デバイスを提供する(発明1)。
【0009】
かかる発明(発明1)の医療デバイスであれば、シャフトの外周に螺旋状の凸部を設けた後に、例えばプライマー層として機能する第1コーティング層を形成し、その上に例えば中間層として機能する第2コーティング層を形成し、その上に例えば親水性被覆層として機能する第3コーティング層を形成するという簡略化されたコーティング工程を採用して、表面の滑りやすさを向上させ、かつ生体組織の噛み込みを防止するためのコーティング層が先端部に形成可能である。すなわち、簡略化されたコーティング工程を採用して製造することが可能な医療デバイスを提供することができる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記第1コーティング層が、前記シャフト及び前記凸部と、前記第2コーティング層との密着性を高めるプライマー層であり、前記第2コーティング層が、前記シャフトを構成する前記金属素線間の凹凸及び、前記シャフトを構成する前記金属素線と前記凸部との間の凹凸を埋めて表面を平滑化する中間層であり、前記第3コーティング層が、前記先端部の最表面に親水性を付与するための親水性被覆層であることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)においては、前記凸部が前記軸線方向に沿って隣り合う凸部間に隙間を有し、前記隙間に形成されている前記コーティング層において、前記第1コーティング層が前記第2コーティング層よりも薄く形成されており、前記第2コーティング層が前記第3コーティング層よりも薄く形成されていることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1-3)においては、前記凸部が、前記シャフトの外周面に金属素線を螺旋状に巻回して形成されていてもよい(発明4)。
【0013】
第二に本発明は、1又は複数本の金属素線を巻回して中空形状に形成されたシャフトと、前記シャフトの外周に、前記シャフトの軸線方向に沿って螺旋状に設けられた凸部と、を備えた医療デバイスのコーティング方法であって、前記凸部が設けられている前記シャフトの先端部を、第1コーティング材料を含む溶液に浸漬し、浸漬した前記先端部を引き上げてから乾燥させて第1コーティング層を形成する第1工程と、前記第1コーティング層が形成された前記先端部を、第2コーティング材料を含む溶液に浸漬し、浸漬した前記先端部を引き上げてから乾燥させて第2コーティング層を形成する第2工程と、前記第2コーティング層が形成された前記先端部を、第3コーティング材料を含む溶液に浸漬し、浸漬した前記先端部を引き上げてから乾燥させて第3コーティング層を形成する第3工程と、のうちの少なくともいずれか1つの工程を有するコーティング方法を提供する(発明5)。
【0014】
かかる発明(発明5)のコーティング方法によれば、表面の滑りやすさを向上させ、かつ生体組織の噛み込みを防止するためのコーティング層が先端部に形成された医療デバイスを、簡略化されたコーティング工程によって製造することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡略化されたコーティング工程を採用して製造することが可能な、表面の滑りやすさを向上させ、かつ生体組織の噛み込みを防止するためのコーティング層が先端部に形成された医療デバイスを提供することができる。また、表面の滑りやすさを向上させ、かつ生体組織の噛み込みを防止するためのコーティング層が先端部に形成された医療デバイスを、簡略化されたコーティング工程によって製造することが可能なコーティング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るダイレータの全体構造を示す説明図である。
図2】同実施形態に係るダイレータの先端部のコーティング状態を示す説明図である。
図3】コーティング工程のフロー図である。
図4】ダイレータの先端部がコーティングされる流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るダイレータ10を図面に基づいて説明する。ダイレータ10は、医療デバイスである。ダイレータ10は、内視鏡治療において、消化管壁に形成された穿孔や、疾患により狭窄した部位を拡張するために用いられる。ダイレータ10の先端側が体内に挿入される側、ダイレータ10の基端側が医師等の手技者によって操作される側である。本発明は、以下に説明する実施形態にのみ限定されるものではなく、記載された実施形態はあくまでも本発明の技術的特徴を説明するための例示にすぎない。また、各図面に示す形状や寸法はあくまでも本発明の内容の理解を容易にするために示したものであり、実際の形状や寸法を正しく反映したものではない。
【0018】
本明細書において、「先端側」とは、ダイレータの軸線方向に沿う方向であって、ダイレータが標的部位(拡張対象となる穿孔や部位)に向かって進行する方向を意味する。「基端側」とは、ダイレータの軸線方向に沿う方向であって、上記先端側と反対の方向を意味する。また、「先端」とは、任意の部材または部位における先端側の端部、「基端」とは、任意の部材または部位における基端側の端部をそれぞれ示す。さらに、「先端部」とは、任意の部材または部位において、その先端を含み上記先端から基端側に向かって上記部材等の中途まで延びる部位を指し、「基端部」とは、任意の部材または部位において、その基端を含みこの基端から先端側に向かって上記部材等の中途まで延びる部位を指す。なお、図1においては、図示左側が体内へと挿入される「先端側」であり、図示右側が手技者によって操作される「基端側」である。
【0019】
図1は、本実施形態に係るダイレータ10の全体構造を示す説明図である。ダイレータ10は、長尺状のシャフト本体1と、シャフト本体1の先端に接続された拡張シャフト2と、拡張シャフトの外周に螺旋状に設けられた凸部3とを備える。拡張シャフト2の先端には先端チップ4が設けられており、シャフト本体1の基端には、グリップ5が設けられている。
【0020】
ダイレータ10の長さ(先端チップ4の先端からグリップ5の基端までの長さ)は、例えば10~3000mmである。
【0021】
シャフト本体1は、1又は複数本の金属素線11を巻回して中空形状に形成されたコイル体であり、基端から先端へと貫通する内腔(不図示)がその内部に形成されている。シャフト本体1の外径は、その全長に亘って略一定に形成されている。
【0022】
シャフト本体1を構成する金属素線11は、例えば、ステンレス合金(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金等の放射線透過性合金、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金(例えば、白金-ニッケル合金)等の放射線不透過性合金で形成することができるが、これに限られるものではなく、シャフト本体1の柔軟性及び回転伝達性が確保できるのであれば、上記以外の公知の材料によって形成されていてもよい。
【0023】
シャフト本体1の長さは、例えば0~3000mmであり、シャフト本体1の外径は、例えば0.1~50mmである。また、シャフト本体1を構成する金属素線11の外径は、例えば0.1~5mmである。
【0024】
シャフト本体1の先端には、1又は複数本の金属素線21を巻回して中空形状に形成された拡張シャフト2が接続されている。拡張シャフト2も、基端から先端へと貫通する内腔(不図示)がその内部に形成されており、拡張シャフト2の内腔はシャフト本体1の内腔に連通している。拡張シャフト2は、その外径が略一定に形成された定径部22と、その外径が先端方向に向かって漸減していくテーパ部23とを有している。
【0025】
拡張シャフト2を構成する金属素線21は、例えば、ステンレス合金(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金等の放射線透過性合金、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金(例えば、白金-ニッケル合金)等の放射線不透過性合金で形成することができるが、これに限られるものではなく、拡張シャフト2の柔軟性及び回転伝達性が確保できるのであれば、上記以外の公知の材料によって形成されていてもよい。
【0026】
拡張シャフト2の長さは、例えば30~2500mmであり、そのうち、拡張シャフト2の定径部22の長さは、例えば0~2000mm、テーパ部23の長さは、例えば3~1500mmである。定径部22の外径は、例えば0.4~30mmであり、テーパ部23の外径は、例えば最も基端側で0.4~30mm、最も先端側で0.4~6mmである。また、拡張シャフト2を構成する金属素線21の外径は、例えば0.1~5mmである。
【0027】
本実施形態においては、シャフト本体1の先端に、シャフト本体1とは別の拡張シャフト2を取り付けているが、これに限られるものではなく、例えば、拡張シャフト2の定型部22を基端方向に延伸することにより、シャフト本体1と拡張シャフト2とを一つのシャフト部材として形成してもよいし、シャフト本体1を複数のシャフト部材を組み合わせて形成してもよい。
【0028】
拡張シャフト2の外周には、拡張シャフト2の軸線方向に沿って螺旋状に設けられた凸部3が設けられている。本実施形態においては、凸部3は、拡張シャフト2の外周面に1本の金属素線31を、拡張シャフト2の金属素線21とは反対向きに螺旋状に巻回すことによって形成されている。このように凸部3を拡張シャフト2の表面に螺旋状に形成することにより、例えば消化管壁に形成された穿孔にダイレータ10の先端部(先端チップ4及び拡張シャフト2の先端部)を挿入し、ダイレータ10を回転させると、ネジ作用によって拡張シャフト2が穿孔に容易に押し込まれて推進していくので、穿孔をスムーズに拡張することができるようになっている。
【0029】
凸部3を構成する金属素線31は 軸線方向に沿って隣り合う凸部3間に隙間32が形成されるように、金属素線31同士が互いに離間した状態で巻回される。隣り合う金属素線31の間の距離は、特に限定されるものではないが、例えば2~30mmである。また、凸部3を構成する金属素線31の外径は、例えば2~10mmである。
【0030】
凸部3を構成する金属素線31は、例えば、ステンレス合金(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金等の放射線透過性合金、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金(例えば、白金-ニッケル合金)等の放射線不透過性合金で形成することができるが、これに限られるものではなく、上記以外の公知の材料によって形成されていてもよい。
【0031】
本実施形態においては、凸部3の先端及び基端を拡張シャフト2の外周面に溶接することによって、凸部3を拡張シャフト2に固定しているが、これに限られるものではなく、接着等その他の公知の固着手段を用いて凸部3を拡張シャフト2に固定していてもよい。
【0032】
先端チップ4は、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Ag合金、Au-Sn合金等の金属はんだによって形成され、拡張シャフト2の先端に固着されている。先端チップ4は軸方向に沿って貫通して形成された内腔(不図示)を有しており、当該内腔の基端側開口に拡張シャフト2の内腔が連通している。なお、先端チップ4を金属や樹脂等で形成し、拡張シャフト2の先端と先端チップ4の基端とを接着剤により固着するものとしてもよい。
【0033】
グリップ5は、手技者が当該ダイレータ10を把持するための部材であり、シャフト本体1の基端に接続されている。グリップ5は、軸方向に沿って貫通して形成された内腔(不図示)を有しており、当該内腔の先端側開口にシャフト本体1の基端部が挿し込まれた状態で固定されている。グリップ5の内腔とシャフト本体1の内腔とは連通しており、これによって、グリップ5の内腔からシャフト本体1の内腔、拡張シャフト2の内腔、そして先端チップ4の内腔までが全て連通していることとなるので、ダイレータ10にガイドワイヤを挿通させることができるようになっている。
【0034】
ダイレータ10の先端部、すなわち、凸部3が設けられている拡張シャフト3の外周面は、三層構造のコーティング層6によって被覆されている。図2は、ダイレータ10の先端部のコーティング状態を示す説明図である。図2に示すように、コーティング層6は、拡張シャフト2及び凸部3の表面に形成された第1コーティング層61と、第1コーティング層61の表面に形成された第2コーティング層62と、第2コーティング層62の表面に形成された第3コーティング層63と、を有する。なお、本実施形態においては、先端チップ4の外周面もコーティング層6によって被覆されているが、先端チップ4の外周面にコーティング層6を設けなくてもよい。
【0035】
第1コーティング層61は、拡張シャフト2及び凸部3と、第2コーティング層62との密着性を高めるプライマー層である。第1コーティング層61を形成するための第1コーティング材料としては、金属で形成された拡張シャフト2及び凸部3への固定化ができ、後述する第2コーティング層62との親和性が高い樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリル酸系、ポリエーテル系、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル等のポリマー樹脂やそれらの共重合体を挙げることができる。第1コーティング材料はこれらの樹脂のうちの一つであってもよいし、複数の組み合わせであってもよい。第1コーティング層61の厚さは、例えば0.01~10μmである。
【0036】
第2コーティング層62は、拡張シャフト2を構成する金属素線21間の凹凸や、拡張シャフト2を構成する金属素線21と凸部3(を構成する金属素線31)との間の凹凸を埋めて表面を平滑化する中間層である。第2コーティング層62は柔軟性に富むものとすることが好ましく、第2コーティング層62を形成するための第2コーティング材料としては、素線間の凹凸を埋めて表面を平滑化し、素線間の凹凸に生体組織片が噛み込まないような第2コーティング層62が形成できる樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂やポリウレタン等のポリイソシアネート系樹脂等の樹脂やそれらの共重合体を挙げることができる。第2コーティング材料はこれらの樹脂のうちの一つであってもよいし、複数の組み合わせであってもよい。第2コーティング層62の厚さは、例えば1~1000μmである。
【0037】
第3コーティング層63は、ダイレータ10の先端部(凸部3が設けられている拡張シャフト3の外周面)の最表面に親水性を付与するための親水性被覆層である。第3コーティング層63が表面に形成されていることにより、ダイレータ10の先端部の滑りやすさが確保される。第3コーティング層63を形成するための第3コーティング材料としては、ダイレータ10の先端部の表面に親水性を付与できる樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルピロリドン系、ポリメタクリル酸系、ポリアルコール系、ポリエチレングリコール等の樹脂やそれらの共重合体を挙げることができる。第3コーティング材料はこれらの樹脂のうちの一つであってもよいし、複数の組み合わせであってよい。第3コーティング層63の厚さは、例えば10~5000μmである。
【0038】
ダイレータ10は消化管内を標的部位(拡張対象となる穿孔や部位)に向かって進行していくものであるため、シャフト本体1や拡張シャフト2には相応の柔軟性が求められる。ダイレータ10の先端部にコーティング層6を形成することによって拡張シャフト2の柔軟性が失われないよう、コーティング層6を構成する第1コーティング層61、第2コーティング層62及び第3コーティング層63は、外側に位置する層ほど柔軟性が高く、かつ外側に位置する層ほど厚く形成されていることが好ましい。特に、軸線方向に沿って隣り合う凸部3間に形成されている隙間32の表面に形成されているコーティング層6においては、第1コーティング層61が第2コーティング層62よりも薄く形成されており、第2コーティング層62が第3コーティング層63よりも薄く形成されていることが好ましい。このようにコーティング層6が構成されていることにより、ダイレータ10の先端部にコーティング層6が形成されていても、拡張シャフト2に相応の柔軟性を確保することができる。
【0039】
続いて、ダイレータ10のコーティング層6を形成するためのコーティング方法について説明する。図3は、コーティング工程のフロー図であり、図4は、ダイレータ10の先端部がコーティングされていく流れを示す説明図である。
【0040】
図3に示すように、まず、金属素線31を螺旋状に巻回して拡張シャフト2の外周に凸部3を形成し、凸部3の先端及び基端を溶接して凸部3を拡張シャフト2に固定する(ステップ101)。この時点の拡張シャフト2の金属素線21及び凸部3の金属素線31の表面の状態を図4(a)に示す。
【0041】
続いて、凸部3が固定された拡張シャフト2(コーティング対象部分)を、第1コーティング材料を含む溶液に浸漬し、浸漬したコーティング対象部分を溶液から引き上げてから乾燥させて、第1コーティング層61を形成する(ステップ102)。第1コーティング材料を含む溶液に浸漬した後の乾燥は、120℃の環境に30分間放置することによって行う。この時点では、図4(b)に示すように、拡張シャフト2の金属素線21及び凸部3の金属素線31の表面には第1コーティング層61のみが形成されている。
【0042】
続いて、第1コーティング層61が形成されたコーティング対象部分を、第2コーティング材料を含む溶液に浸漬し、浸漬したコーティング対象部分を引き上げてから乾燥させて、第2コーティング層62を形成する(ステップ103)。第2コーティング材料を含む溶液に浸漬した後の乾燥は、120℃の環境に30分間放置することによって行う。この時点では、図4(c)に示すように、拡張シャフト2の金属素線21及び凸部3の金属素線31の表面に形成された第1コーティング層61の上に、さらに第2コーティング層62が形成されている。
【0043】
最後に、第2コーティング層62が形成されたコーティング対象部分を、第3コーティング材料を含む溶液に浸漬し、浸漬したコーティング対象部分を引き上げてから乾燥させて、第3コーティング層63を形成する(ステップ104)。第3コーティング材料を含む溶液に浸漬した後の乾燥は、120℃の環境に60分間放置することによって行う。このようにして、図2に示すような、第1コーティング層61、第2コーティング層62及び第3コーティング層63の三層構造のコーティング層6によって拡張シャフト2が被覆されたダイレータ10を得ることができる。
【0044】
コーティング層6の各層の厚み(膜厚)は、各コーティング材料を含む溶液の粘度や、溶液からコーティング対象部分を引き上げる速度を調整することによって制御することができる。コーティング材料を含む溶液に浸漬した後の乾燥は、コーティング材料によって温度や乾燥時間を適切に調整することで、余分な溶剤を除去し、均一な薄膜のコーティング層6を形成することができる。
【0045】
以上説明したコーティング方法であれば、表面の滑りやすさを向上させ、かつ生体組織の噛み込みを防止するためのコーティング層6が先端部に形成されたダイレータ10を、簡略化されたコーティング工程によって製造することが可能である。そして、以上説明したダイレータ10であれば、拡張シャフト2の外周に螺旋状の凸部3を設けた後に、例えばプライマー層として機能する第1コーティング層61を形成し、その上に例えば中間層として機能する第2コーティング層62を形成し、その上に例えば親水性被覆層として機能する第3コーティング層63を形成するという簡略化されたコーティング工程を採用して、表面の滑りやすさを向上させ、かつ生体組織の噛み込みを防止するためのコーティング層6が先端部に形成可能である。
【0046】
以上、本発明に係るダイレータ及びそのコーティング方法について図面に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、種々の変更実施が可能である。例えば、上記実施形態では、コーティング層がダイレータの先端部(拡張シャフト)にのみ形成されているが、さらに基端側に位置するシャフト本体の表面にまでコーティング層が形成されていてもよい。また、ダイレータが先端チップを有していなくてもよいし、シャフト本体の先端部のみを密巻きとせずに疎巻きにして、拡張シャフトの外周に設けられている凸部として利用してもよい。ダイレータ以外の医療デバイスに本発明を適用してもよい。例えば、ガイドワイヤ、カテーテル、CTO(慢性完全閉塞)等の病変を貫通するためのデバイス等に適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 ダイレータ
1 シャフト本体
11 金属素線
2 拡張シャフト
21 金属素線
22 定径部
23 テーパ部
3 凸部
31 金属素線
4 先端チップ
5 グリップ
6 コーティング層
61 第1コーティング層
62 第2コーティング層
63 第3コーティング層
図1
図2
図3
図4