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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058958
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】造形物の製造方法及び積層計画方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20240422BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20240422BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240422BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20240422BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K31/00 H
B33Y10/00
B33Y50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166397
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 萌
(57)【要約】
【課題】十分な接合強度で母材にパイプが接合された造形物を製造することが可能な造形物の製造方法及び積層計画方法を提供する。
【解決手段】断面円弧状の周面53を有する母材51の周面53に筒状のパイプ55を造形する造形物の製造方法であって、母材51の周面53の表面形状に沿う閉曲線状の第1パスP1に沿って溶接ビードB1を積層する第1パス造形工程と、パイプ55の垂直断面に平行な閉曲線状の第2パスP2に沿って溶接ビードB2を積層する第2パス造形工程と、第1パスP1と第2パスP2とで囲まれた領域に対して、第1パスP1または第2パスP2に平行な開曲線状の差分パスP3に沿って溶接ビードB3を積層する差分パス造形工程と、を含み、差分パス造形工程において、差分パスP3に沿った溶接ビードB3の始終端B3eを、母材51の周面53から離間した位置に配置させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面円弧状の周面を有する母材の前記周面に、溶接ビードを積層して筒状のパイプを造形する造形物の製造方法であって、
前記母材の周面の表面形状に沿う閉曲線状の第1パスに沿って溶接ビードを積層する第1パス造形工程と、
前記パイプの垂直断面に平行な閉曲線状の第2パスに沿って溶接ビードを積層する第2パス造形工程と、
前記第1パスと前記第2パスとで囲まれた領域に対して、前記第1パスまたは前記第2パスに平行な開曲線状の差分パスに沿って溶接ビードを積層する差分パス造形工程と、
を含み、
前記差分パス造形工程において、前記差分パスに沿った前記溶接ビードの始終端を、前記母材の周面から離間した位置に配置させる、
造形物の製造方法。
【請求項2】
前記差分パス造形工程において、前記差分パスに沿った溶接ビードを、前記第1パスに平行に形成し、前記始終端を前記第2パスと平行な面に配置させる、
請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記第2パス造形工程において、前記第2パスに沿って形成する溶接ビードのうち前記差分パスに沿った溶接ビードの始終端に接する溶接ビードを、前記第2パスに沿う他の溶接ビードよりも高い入熱量となる溶接条件で形成する、
請求項2に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記第1パスに沿う溶接ビードを、前記第2パスに沿う溶接ビードよりも低い入熱量となる溶接条件で形成する、
請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
前記差分パス造形工程において、前記差分パスに沿った前記溶接ビードの始終端を、前記母材と前記パイプとの接合箇所から離間した位置に配置させる、
請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項6】
断面円弧状の周面を有する母材の前記周面に、溶接ビードを積層して筒状のパイプを造形するための積層計画方法であって、
前記母材の周面の表面形状に沿う閉曲線状の第1パスおよび前記パイプの垂直断面に平行な閉曲線状の第2パスを生成するパス生成ステップと、
前記第1パスおよび前記第2パスが配置される領域の境界位置を設定する境界位置設定ステップと、
前記境界位置に合わせて前記第1パスまたは前記第2パスのパス長を調整した開曲線状の差分パスを生成する差分パス生成ステップと、
を含み、
前記差分パス生成ステップにおいて、前記差分パスの始終端を前記母材の周面から離間した位置に配置させる、
積層計画方法。
【請求項7】
前記差分パス生成ステップにおいて、前記差分パスの始終端を、前記母材と前記パイプとの接合箇所から離間した位置に配置させる、
請求項6に記載の積層計画方法。
【請求項8】
前記母材の周面の形状および前記パイプの径に基づいて、前記母材の周面と前記パイプとの接合箇所における前記パイプの長手方向に沿う最大寸法を算出する最大寸法算出ステップをさらに含み、
算出した前記最大寸法に基づいて、前記パス生成ステップにおける前記第1パスの生成の要否を判定する、
請求項6または請求項7に記載の積層計画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造方法及び積層計画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザーやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
特許文献1には、第一パイプの周面に対して溶加材を溶融及び凝固させたビードを積層させた継手を造形し、この継手の端面に第二パイプの端面を突き合わせて溶接によって接合する造形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-130574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように継手を積層造形してパイプ同士を接合する接合構造において、ビードの始終端が継手に含まれると、パイプ同士の接合強度が低下するおそれがある。この接合強度の低下は、継手におけるビードの始終端が多いほど懸念が高まる。
【0006】
そこで本発明は、十分な接合強度で母材にパイプが接合された造形物を製造することが可能な造形物の製造方法及び積層計画方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 断面円弧状の周面を有する母材の前記周面に、溶接ビードを積層して筒状のパイプを造形する造形物の製造方法であって、
前記母材の周面の表面形状に沿う閉曲線状の第1パスに沿って溶接ビードを積層する第1パス造形工程と、
前記パイプの垂直断面に平行な閉曲線状の第2パスに沿って溶接ビードを積層する第2パス造形工程と、
前記第1パスと前記第2パスとで囲まれた領域に対して、前記第1パスまたは前記第2パスに平行な開曲線状の差分パスに沿って溶接ビードを積層する差分パス造形工程と、
を含み、
前記差分パス造形工程において、前記差分パスに沿った前記溶接ビードの始終端を、前記母材の周面から離間した位置に配置させる、
造形物の製造方法。
(2) 断面円弧状の周面を有する母材の前記周面に、溶接ビードを積層して筒状のパイプを造形するための積層計画方法であって、
前記母材の周面の表面形状に沿う閉曲線状の第1パスおよび前記パイプの垂直断面に平行な閉曲線状の第2パスを生成するパス生成ステップと、
前記第1パスおよび前記第2パスが配置される領域の境界位置を設定する境界位置設定ステップと、
前記境界位置に合わせて前記第1パスまたは前記第2パスのパス長を調整した開曲線状の差分パスを生成する差分パス生成ステップと、
を含み、
前記差分パス生成ステップにおいて、前記差分パスの始終端を前記母材の周面から離間した位置に配置させる、
積層計画方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、十分な接合強度で母材にパイプが接合された造形物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
図2図2は、造形物の一例を示す造形物の斜視図である。
図3図3は、積層計画の作成手順を示すフローチャートである。
図4図4は、第1パスおよび第2パスの生成について説明する造形物のモデルを示す模式図である。
図5図5は、異なる境界位置で第1パスおよび第2パスを生成した場合の造形物の他のモデルを示す模式図である。
図6図6は、差分パスの生成について説明する造形物のモデルを示す模式図である。
図7図7は、他の差分パスの生成について説明する造形物のモデルを示す模式図である。
図8図8は、第1パスに沿う溶接ビードの積層状態を示す造形物の概略正面図である。
図9図9は、差分パスに沿う溶接ビードの積層状態を示す造形物の概略正面図である。
図10図10は、第2パスに沿う溶接ビードの積層状態を示す造形物の概略正面図である。
図11A図11Aは、第1パスに沿う溶接ビードを形成せずに母材に溶接ビードを積層してパイプを造形する参考例を説明する造形物の概略正面図である。
図11B図11Bは、第1パスに沿う溶接ビードを形成せずに母材に溶接ビードを積層してパイプを造形する参考例を説明する造形物の概略正面図である。
図12図12は、母材とパイプとの接合箇所の領域及び第1パスの生成の要否判定を説明する造形物のモデルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す積層造形システムは、マニピュレータに保持された溶加材(溶接ワイヤ)を熱源装置によって溶融させて溶接ビードを形成し、形成された溶接ビードを所望の形状に繰り返し積層して、溶接ビードが積層されてなる造形物を造形するものである。
【0011】
<積層造形システムの構成>
上記の軌道計画支援装置が決定する軌道計画に基づいて動作する、積層造形システムの一構成例を説明する。
図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
積層造形システム100は、造形制御装置15と、マニピュレータ17と、溶加材供給装置19と、マニピュレータ制御装置21と、熱源制御装置23とを含んで構成される。
【0012】
マニピュレータ制御装置21は、マニピュレータ17と、熱源制御装置23とを制御する。マニピュレータ制御装置21には不図示のコントローラが接続されて、マニピュレータ制御装置21の任意の操作がコントローラを介して操作者から指示可能となっている。
【0013】
マニピュレータ17は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ11には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ11は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。トーチ11の位置及び姿勢は、マニピュレータ17を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ17は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。マニピュレータ17は、図1に示す4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボット等、種々の形態であってもよい。
【0014】
トーチ11は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本構成で用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形対象に応じて適宜選定される。ここでは、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ11は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0015】
溶加材供給装置19は、トーチ11に向けて溶加材Mを供給する。溶加材供給装置19は、溶加材Mが巻回されたリール19aと、リール19aから溶加材Mを繰り出す繰り出し機構19bとを備える。溶加材Mは、繰り出し機構19bによって必要に応じて正方向又は逆方向に送られながらトーチ11へ送給される。繰り出し機構19bは、溶加材供給装置19側に配置されて溶加材Mを押し出すプッシュ式に限らず、ロボットアーム等に配置されるプル式、又はプッシュ-プル式であってもよい。
【0016】
熱源制御装置23は、マニピュレータ17による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御装置23は、溶加材Mを溶融、凝固させるビード形成時に供給する溶接電流及び溶接電圧を調整する。また、熱源制御装置23が設定する溶接電流及び溶接電圧等の溶接条件に連動して、溶加材供給装置19の溶加材供給速度が調整される。
【0017】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザーとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザーを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザーにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、形成するビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。また、溶加材Mの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金など、造形物Wの特性に応じて、用いる溶加材Mの種類が異なっていてよい。
【0018】
造形制御装置15は、上記した各部を統括して制御する。この造形制御装置15は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。造形制御装置15の各機能は、不図示の制御部が不図示の記憶装置に記憶された特定の機能を有するプログラムを読み出し、これを実行することで実現される。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。また、制御部としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)などのプロセッサ、又は専用回路等を例示できる。造形制御装置15は、上記した形態のほか、ネットワーク等を介して積層造形システム100から遠隔から接続される他のコンピュータであってもよい。
【0019】
上記した構成の積層造形システム100は、造形物Wの積層計画に基づいて作成された造形プログラムに従って動作する。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物の形状、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。この造形プログラムに従って、トーチ11を移動させつつ、送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶接ビードBがベース13上に形成される。つまり、マニピュレータ制御装置21は、造形制御装置15から提供される所定のプログラムに基づいてマニピュレータ17、熱源制御装置23を駆動させる。マニピュレータ17は、マニピュレータ制御装置21からの指令により、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ11を移動させて溶接ビードBを形成する。このようにして溶接ビードBを順次に形成、積層することで、目的とする形状の造形物Wが得られる。
【0020】
<造形物の造形手順>
次に、造形制御装置15による造形物Wの造形手順について説明する。
図2は、造形物の一例を示す造形物Wの斜視図である。図3は、積層計画の作成手順を示すフローチャートである。
【0021】
図2に示すように、本構成例では、母材51の周面53にパイプ55が造形されて接合された造形物Wを造形する。母材51は、パイプ状に形成されており、これにより、その周面53は、断面視で円弧状に形成されている。パイプ55は、母材51の周面53の一部から母材51に対して直交する方向へ延在されている。周面53が断面視で円弧状に形成された母材51としては、円筒状のパイプに限らず断面視半円状の部材でもよい。なお、母材51としては、溶接ビードBを積層させた構造物であってもよい。また、パイプ55は、円筒状に限らず角筒状でもよく、母材51の周面53から斜めに延在されていてもよい。
【0022】
この造形物Wを造形する際に、造形制御装置15は、まず、積層計画を作成する(ステップS1~S4)。そして、この作成した積層計画に基づいて、溶接ビードBを積層し、造形物Wを造形する(ステップS5)。
【0023】
(積層計画の設定)
まず、積層計画の作成について説明する。
図4図7は、各パスの生成について説明する造形物WのモデルWMを示す模式図である。
図4に示すように、積層対象の造形部分であるパイプ55の三次元形状情報を取得し、この三次元形状情報から作成したパイプ55のモデルWMを、溶接ビードBの積層方向と交差する方向へスライスし、溶接ビードBを形成するための第1パスP1および第2パスP2を生成する(ステップS1)。ここで、第1パスP1は、母材51の周面53の表面形状に沿う閉曲線状のパスであり、第2パスP2は、パイプ55の延伸方向に対する垂直断面に平行な閉曲線状のパスである。なお、第1パスP1の閉曲線は、第2パスP2に平行な閉曲線(円形の曲線)を母材51の周面53の上から鉛直方向に射影することで母材51上の周面53上に形成される閉曲線となる(図2の周面53上の細線が第1パスP1の閉曲線の一部に相当する)。
【0024】
次に、第1パスP1および第2パスP2が配置される領域の境界位置BLを設定する(ステップS2)。この境界位置BLは、任意に設定できる。なお、母材51に対して鉛直方向上方へ向かってパイプ55を造形する場合、第1パスP1に沿って形成する溶接ビードBは、重力の影響による垂れが生じやすい。このため、図5に示すように、境界位置BLは、母材51側に寄せてもよい。このように、境界位置BLを母材51側に寄せることで、溶接ビードBにおける重力の影響を受けやすい第1パスP1を少なくし、第2パスP2の割合を多くできる。
【0025】
図6に示すように、境界位置BLを設定したら、この境界位置BLに合わせて、差分パスP3を生成する(ステップS3)。この差分パスP3は、パイプ55を造形する溶接ビードBを形成するためのパスのうちの第1パスP1及び第2パスP2以外の残りのパスであり、第1パスP1と第2パスP2との間の領域を埋めるパスである。この差分パスP3は、第1パスP1のパス長を調整したパスであり、第1パスP1と第2パスP2との間の領域において、第1パスP1に平行なパスとして生成する。なお、図7に示すように、差分パスP3は、第2パスP2のパス長を調整し、第1パスP1と第2パスP2との間の領域において、第2パスP2に平行なパスとして生成してもよい。
【0026】
また、第1パスP1と第2パスP2との間の領域の差分パスP3を生成する際に、この差分パスP3の始終端P3eを、母材51の周面53から離間した位置に配置させる。
【0027】
第1パスP1、第2パスP2及び差分パスP3を生成したら、これらの第1パスP1、第2パスP2及び差分パスP3に基づいて溶接ビードBを積層してパイプ55を造形するための積層条件を設定する(ステップS4)。
【0028】
この積層条件を設定する際には、第1パスP1、第2パスP2及び差分パスP3のそれぞれについて溶接条件を調整してもよい。
【0029】
例えば、母材51の周面53に沿って溶接ビードBを形成する第1パスP1は、上下方向にトーチ11を移動させる運棒動作を伴う。このため、この第1パスP1で溶接ビードBを形成する際の垂れを抑制する観点から、第2パスP2に沿う溶接ビードBを形成する際の入熱量よりも低い入熱量となる溶接条件とするのが好ましい。
【0030】
また、差分パスP3を第1パスP1に平行なパスとして生成した場合(図6参照)においても、第1パスP1と同様に、差分パスP3は、上下方向にトーチ11を移動させる運棒動作を伴う。このため、この場合も、差分パスP3で溶接ビードBを形成する際の垂れを抑制する観点から、第2パスP2に沿う溶接ビードBを形成する際の入熱量よりも低い入熱量となる溶接条件とするのが好ましい。なお、差分パスP3を第2パスP2に平行なパスとして生成した場合(図7参照)では、第2パスP2の入熱量に揃えた溶接条件としてもよい。
【0031】
なお、差分パスP3を第1パスP1に平行なパスとして生成した場合(図6参照)では、差分パスP3の始終端P3eが境界位置BLに集中して配置される。このため、始終端P3eを溶融させて始終端P3eでの凹凸を低減させて平坦化させる観点から、第2パスP2における境界位置BLに接する第2パスP2Aで形成する溶接ビードBの入熱量を他の第2パスP2で形成する溶接ビードBの入熱量よりも高くなる溶接条件とするのが好ましい。
【0032】
このように、積層計画を作成したら、この積層計画に基づいて、第1パスP1、第2パスP2及び差分パスP3に沿って溶接ビードBを形成し、母材51の周面53にパイプ55を造形する(ステップS5)。
【0033】
(造形工程)
次に、作成した積層計画に基づいてパイプ55を造形する場合について説明する。
図8図10は、各パスに沿う溶接ビードBの積層状態を示す造形物の概略正面図である。
【0034】
まず、図8に示すように、母材51の周面53に、この周面53の表面形状に沿う閉曲線状の第1パスP1に沿って溶接ビードB1を積層する(第1パス造形工程)。このとき、第1パスP1に沿う溶接ビードB1を、後工程で積層させる第2パスP2に沿う溶接ビードB2よりも低い入熱量となる溶接条件で形成すれば、溶接ビードB1の垂れを抑制できる。
【0035】
次に、図9に示すように、第1パスP1と第2パスP2とで囲まれる領域に対して、第1パスP1に平行な開曲線状の差分パスP3に沿って溶接ビードB3を積層する(差分パス造形工程)。すると、差分パスP3に沿った溶接ビードB3は、その始終端B3eが、母材51の周面53から離間した位置に配置される。このように、差分パスP3に沿って溶接ビードB3を積層させると、溶接ビードB3は、その始終端B3eが境界位置BLに集中して配置される。なお、差分パスP3を、第2パスP2に平行な開曲線状とした場合は、この第2パスP2に平行な開曲線状の差分パスP3に沿って溶接ビードB3を積層する。
【0036】
その後、図10に示すように、差分パスP3に沿って積層させた溶接ビードB3の上部に、パイプ55の垂直断面に平行な閉曲線状の第2パスP2に沿って溶接ビードB2を積層する(第2パス造形工程)。
【0037】
このとき、差分パスP3を第1パスP1に平行な開曲線状とした場合、差分パスP3に沿った溶接ビードB3の始終端B3eに接する第2パスP2Aに沿う溶接ビードB2Aを、第2パスP2に沿う他の溶接ビードB2よりも高い入熱量となる溶接条件で形成する。このようにすると、差分パスP3に沿う溶接ビードB3の始終端B3eを溶融させ、始終端B3eでの凹凸を低減させてフラットにできる。これにより、差分パスP3に沿う溶接ビードB3の始終端B3eの凹凸を低減させるための切削工程を省略できる。
【0038】
このように、生成した第1パスP1、第2パスP2及び差分パスP3に沿って溶接ビードB1,B2,B3を形成して積層させることにより、母材51の断面円弧状の周面53に円筒状のパイプ55が接合された造形物Wを造形できる。
【0039】
図11A及び図11Bは、それぞれ第1パスP1に沿う溶接ビードB1を形成せずに母材51に溶接ビードB3,B2を積層してパイプ55を造形する参考例を説明する造形物Wの概略正面図である。
図11A及び図11Bに示すように、第1パスP1を生成せずにパイプ55を造形した参考例の場合、差分パスP3に沿う溶接ビードB3の始終端B3eが母材51とパイプ55との接合箇所に集中して配置される。ここで、図12に示すように、母材51とパイプ55との接合箇所Ajは、母材51の周面53の頂上53aと接するパイプ55の垂直断面と前記周面53に囲まれた領域である。図11Aに示す参考例では、母材51の周面53に沿って形成した溶接ビードB3の始終端B3eが接合箇所Ajにおける溶接ビードB2側に集中して配置され、図11Bに示す参考例では、第2パスP2に沿って形成した溶接ビードB3の始終端B3eが接合箇所Ajにおける母材51の周面53側に集中して配置される。
【0040】
つまり、これらの参考例のように、局所的に応力が生じやすい母材51とパイプ55との接合箇所Ajに溶接ビードB3の始終端B3eが配置されると、母材51とパイプ55との接合強度が低下するおそれがある。
【0041】
これに対して、本構成例によれば、差分パスP3に沿って形成した溶接ビードB3の始終端B3eが、母材51の周面53に直接接しないように母材51の周面53から離間されて形成されるので、強度的に脆弱になりやすい始終端B3eと応力が集中しやすい接合箇所Ajとの重複を回避して疲労強度を確保できる。これにより、母材51の周面53にパイプ55が高強度で接合された造形物Wを製造できる。さらに差分パスP3の始終端P3eを接合箇所Ajから離間させ、この差分パスP3に沿って溶接ビードBを形成することで、応力が集中しやすい部位との距離を十分に確保でき、疲労強度をさらに改善することができる。
【0042】
なお、上記構成例において積層計画を作成する際に、母材51の周面53の形状およびパイプ55の径に基づいて、図12に示すように、母材51の周面53とパイプ55との接合箇所Ajにおけるパイプ55の長手方向に沿う最大寸法Hを算出する処理(最大寸法算出ステップ)を実行してもよい。
【0043】
ここで、母材51の周面53の曲率が小さい場合、母材51の周面53とパイプ55との接合箇所Ajにおけるパイプ55の長手方向に沿う最大寸法Hは小さくなる。このような場合、第1パスP1と第2パスP2との実質的な違いが殆ど現れなくなり、パイプ55の造形は、第2パスP2に沿う溶接ビードB2の積層だけで十分に可能となる。
【0044】
このため、母材51の周面53とパイプ55との接合箇所Ajにおけるパイプ55の長手方向に沿う最大寸法Hを算出し、この算出した最大寸法Hに基づいて、第1パスP1の生成の要否を判定してもよい。例えば、この最大寸法Hが予め設定した閾値以上である場合に、第1パスP1、第2パスP2及び差分パスP3を生成し、最大寸法Hが閾値未満である場合に、第2パスP2のみを生成する。このようにすれば、不必要に複雑なパスの生成を抑制でき、積層計画の作成時における処理を簡素にできる。
【0045】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0046】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 断面円弧状の周面を有する母材の前記周面に、溶接ビードを積層して筒状のパイプを造形する造形物の製造方法であって、
前記母材の周面の表面形状に沿う閉曲線状の第1パスに沿って溶接ビードを積層する第1パス造形工程と、
前記パイプの垂直断面に平行な閉曲線状の第2パスに沿って溶接ビードを積層する第2パス造形工程と、
前記第1パスと前記第2パスとで囲まれた領域に対して、前記第1パスまたは前記第2パスに平行な開曲線状の差分パスに沿って溶接ビードを積層する差分パス造形工程と、
を含み、
前記差分パス造形工程において、前記差分パスに沿った前記溶接ビードの始終端を、前記母材の周面から離間した位置に配置させる、造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、差分パスに沿って形成した溶接ビードの始終端を、母材の周面に直接接しないように母材の周面から離間させるので、強度的に脆弱になりやすい始終端と応力が集中しやすい接合箇所との重複を回避して疲労強度を確保できる。これにより、母材の周面にパイプが高強度で接合された造形物を製造できる。
【0047】
(2) 前記差分パス造形工程において、前記差分パスに沿った溶接ビードを、前記第1パスに平行に形成し、前記始終端を前記第2パスと平行な面に配置させる、(1)に記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、差分パスに沿って形成する溶接ビードの始終端を第2パスと平行な面に配置させる。これにより、差分パスに沿った溶接ビードの始終端がパイプの根元に配置されることによる母材とパイプとの接合箇所での未溶着欠陥の発生を回避できる。
【0048】
(3) 前記第2パス造形工程において、前記第2パスに沿って形成する溶接ビードのうち前記差分パスに沿った溶接ビードの始終端に接する溶接ビードを、前記第2パスに沿う他の溶接ビードよりも高い入熱量となる溶接条件で形成する、(2)に記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、差分パスに沿った溶接ビードの始終端に接する第2パスに沿う溶接ビードの入熱量を高くすることで、差分パスに沿う溶接ビードの始終端を溶融させ、始終端での凹凸を低減させてフラットにできる。これにより、差分パスに沿う溶接ビードの始終端の凹凸を低減させるための切削工程を省略できる。
【0049】
(4) 前記第1パスに沿う溶接ビードを、前記第2パスに沿う溶接ビードよりも低い入熱量となる溶接条件で形成する、(1)~(3)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、母材側に形成する第1パスに沿う溶接ビードを低い入熱量で形成することで、断面円弧状の母材の周面での溶接ビードの垂れを抑制できる。
【0050】
(5) 前記差分パス造形工程において、前記差分パスに沿った前記溶接ビードの始終端を、前記母材と前記パイプとの接合箇所から離間した位置に配置させる、(1)~(4)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、差分パスに沿った溶接ビードの始終端を接合箇所から離間させることで応力が集中しやすい部位との距離を十分に確保でき、疲労強度をさらに改善することができる。
【0051】
(6) 断面円弧状の周面を有する母材の前記周面に、溶接ビードを積層して筒状のパイプを造形するための積層計画方法であって、
前記母材の周面の表面形状に沿う閉曲線状の第1パスおよび前記パイプの垂直断面に平行な閉曲線状の第2パスを生成するパス生成ステップと、
前記第1パスおよび前記第2パスが配置される領域の境界位置を設定する境界位置設定ステップと、
前記境界位置に合わせて前記第1パスまたは前記第2パスのパス長を調整した開曲線状の差分パスを生成する差分パス生成ステップと、
を含み、
前記差分パス生成ステップにおいて、前記差分パスの始終端を前記母材の周面から離間した位置に配置させる、積層計画方法。
この積層計画方法によれば、第1パス、第2パスおよび差分パスに沿って溶接ビードを形成することにより、母材の周面に溶接ビードが積層されて筒状のパイプが造形された造形物を造形できる。しかも、差分パスに沿って形成した溶接ビードの始終端が、母材の周面に直接接しないように母材の周面から離間されて形成されるので、強度的に脆弱になりやすい始終端と応力が集中しやすい接合箇所との重複を回避して疲労強度を確保できる。これにより、母材の周面にパイプが高強度で接合された造形物を製造できる。
【0052】
(7) 前記差分パス生成ステップにおいて、前記差分パスの始終端を、前記母材と前記パイプとの接合箇所から離間した位置に配置させる、(6)に記載の積層計画方法。
この積層計画方法によれば、差分パスに沿って溶接ビードを形成した際に、この溶接ビードの始終端を接合箇所から離間させて応力が集中しやすい部位との距離を十分に確保でき、疲労強度をさらに改善することができる。
(8) 前記母材の周面の形状および前記パイプの径に基づいて、前記母材の周面と前記パイプとの接合箇所における前記パイプの長手方向に沿う最大寸法を算出する最大寸法算出ステップをさらに含み、
算出した前記最大寸法に基づいて、前記パス生成ステップにおける前記第1パスの生成の要否を判定する、(6)または(7)に記載の積層計画方法。
この積層計画方法によれば、母材の周面とパイプとの接合箇所におけるパイプの長手方向に沿う最大寸法に基づいて、パス生成ステップにおける第1パスの生成の要否を判定する。これにより、不必要に複雑なパスが生成されることを抑制できる。
【符号の説明】
【0053】
51 母材
53 周面
55 パイプ
Aj 接合箇所
B,B1,B2,B2A,B3 溶接ビード
B3e 始終端
H 最大寸法
P1 第1パス
P2,P2A 第2パス
P3 差分パス
P3e 始終端
W 造形物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12