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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058977
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】コレットチャック用締付けナット
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/20 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
B23B31/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166434
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000127042
【氏名又は名称】株式会社アルプスツール
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】川島 房雄
【テーマコード(参考)】
3C032
【Fターム(参考)】
3C032JJ12
(57)【要約】
【課題】ナット本体による締め付けの際、リテーナをホルダ本体に対して芯ずれなく押圧して、コレットを縮径させることができると共に、ボールの遠心力による飛び出しを確実に防止することができるコレットチャック用締付けナットを提供する。
【解決手段】内周面にボール接触面とボール非接触面からなるナット側ボール溝が形成されたナット本体と、外周面にボール接触面とボール非接触面からなるリテーナ側ボール溝が形成されると共にナット本体の内周面に組付けられるリテーナと、ナット側ボール溝とリテーナ側ボール溝の間に配列される複数のボールとを備え、ナット側ボール溝及びリテーナ側ボール溝は、ボールの直径よりも幅広に形成され、ナット本体には、ナット側ボール溝と連通するボール挿入孔が形成され、ボール挿入孔の中心軸は、ナット側ボール非接触面を通ることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にナット側ボール溝が形成されたナット本体と、
外周面にリテーナ側ボール溝が形成されると共に、前記ナット本体の内周面に組付けられるリテーナと、
前記ナット側ボール溝と前記リテーナ側ボール溝の間に配列される複数のボールとを備え、
前記ナット側ボール溝は、前記ボールの直径よりも幅広に形成されると共に、先端側に曲面からなるナット側ボール接触面と、基端側にナット側ボール非接触面を有し、
前記リテーナ側ボール溝は、前記ボールの直径よりも幅広に形成されると共に、先端側にリテーナ側ボール非接触面と、基端側に曲面からなるリテーナ側ボール接触面を有し、
前記ボールは、前記ナット側ボール接触面と当接すると共に、前記リテーナ側ボール接触面と当接し、
前記ナット本体には、前記ナット側ボール溝と連通するボール挿入孔が形成され、
前記ボール挿入孔の中心軸は、前記ナット側ボール非接触面を通ることを特徴とするコレットチャック用締付けナット。
【請求項2】
請求項1に記載のコレットチャック用締付けナットにおいて、
前記ボール挿入孔の中心軸は、前記ナット本体の径方向に対して傾くことを特徴とするコレットチャック用締付けナット。
【請求項3】
請求項1に記載のコレットチャック用締付けナットにおいて、
前記ナット側ボール非接触面と前記リテーナ側ボール非接触面は曲面からなることを特徴とするコレットチャック用締付けナット。
【請求項4】
請求項1に記載のコレットチャック用締付けナットにおいて、
前記リテーナの基端方向には、リテーナ後退防止手段を備えることを特徴とするコレットチャック用締付けナット。
【請求項5】
請求項4に記載のコレットチャック用締付けナットにおいて、
前記リテーナ後退防止手段は、スナップリングからなることを特徴とするコレットチャック用締付けナット。
【請求項6】
請求項5に記載のコレットチャック用締付けナットにおいて、
前記ナット本体には、前記スナップリングを縮径状態で保持する退避用溝が形成されることを特徴とするコレットチャック用締付けナット。
【請求項7】
請求項1に記載のコレットチャック用締付けナットにおいて、
前記リテーナの基端方向には、与圧手段を備えることを特徴とするコレットチャック用締付けナット。
【請求項8】
請求項7に記載のコレットチャック用締付けナットにおいて、
前記与圧手段は、弾性体からなることを特徴とするコレットチャック用締付けナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤等の切削加工に用いる工作機械に用いられ、主にドリル及びエンドミル等の切削工具のシャンクを把持するコレットチャック用締付けナットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コレットチャックは、旋盤等の旋削加工に用いる工作機械において、マシニングセンタ等の工具主軸に切削工具を取り付ける際に使用される。
【0003】
従来、この種のコレットチャックに使用される締付けナットとして、特許文献1に記載されるように、チャック本体(本発明の「ホルダ本体」に相当。)の先端部にコレットを挿入し、チャック本体の先端部外周に形成されたねじ部には、内部にノーズリング(本発明の「リテーナ」に相当。)を組み込んだ締付けナット(本発明の「ナット本体」に相当。)を係合する構造が知られている。ノーズリングは、締付けナットの先端部内側に回転自在に組み込まれており、締付けナットを締め付けることでノーズリングを軸方向に移動させ、チャック本体のテーパ孔に嵌合されたコレットをノーズリングにより軸方向に押圧して、コレットを縮径させる。
【0004】
また、上記のようなコレットチャックは、ノーズリングと締付けナットの嵌合面のそれぞれに環状のボール溝を形成し、ボール溝内に複数のボールを組込んで、締付けナットとノーズリングとを相対的に回転自在に支持している。また、ボールは、締付けナットの外周面からボール溝に貫通するボール挿入孔を介して挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-309613公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5に示すように、従来のコレットチャックに使用される締付けナット101は、ナット本体102の内径面に環状のボール溝122が形成され、リテーナ103の外径面には環状のボール溝132が形成され、ボール溝122、132の間には複数のボール104が組み込まれている。また、ボール溝122、132内でボール104を転がりやすくするために、ボール溝122、132の円弧面の半径寸法は、ボール104の半径寸法に対してプラス公差に指定し、ボール104とボール溝122、132との間に隙間ができるように設定される。
【0007】
この場合、図示しないコレットを軸方向に押圧する使用状態では、リテーナ103はコレットからの反力によって先端側に移動した状態となる。このとき、ボール104とボール溝122との接触角θ1は、ボール104とボール溝132の接触角θ2よりも小さくなり、接触角θ1と接触角θ2の角度は一致した状態となっていない。また、ボール104は、ボール溝122、132の間に複数挿入されており、それぞれのボール104の接触角について角度のばらつきも生じる恐れがある。
【0008】
このような状態で、ナット本体102を締め付けると、締付け荷重は、図5に示す矢印のように一直線に伝達されず、また、それぞれのボール104によって締付け荷重の伝達角度にもばらつきがあるため、リテーナ103に芯ずれを生じさせる恐れがあった。このような場合、コレットを中心軸に対してまっすぐに押し込むことができず、把持する切削工具の芯ずれを生じさせ、加工精度に影響を及ぼす恐れがあった。
【0009】
また、従来のコレットチャックは、図5に示すように、ナット本体102のボール挿入孔124に栓体105を取り付け、栓体105によって遠心力やコレットの押込み反力によるボール104の飛び出しを防止している。栓体105は、ボール挿入孔124に対してねじ螺合や圧入により取付けられるが、ボール挿入孔124の深さが比較的浅いため、栓体105の安定した取付け状態の維持が困難であり、栓体105が脱落するといった恐れがあった。
【0010】
このような従来の栓体105の取付け構造の課題を解決する手段として、特許文献1に記載されるように種々の方法が知られているが、構成部品の増加や、ボール挿入孔124を深くするためにナット本体102の外径寸法が大きくなる等の課題があった。
【0011】
そこで、本発明は上記の事項に鑑みてなされたものであり、ナット本体による締め付けの際、リテーナをホルダ本体に対して芯ずれなく押圧して、コレットを軸方向にまっすぐに押込み縮径させることができると共に、ボールの遠心力やコレットの押込み反力による飛び出しを確実に防止することができるコレットチャック用締付けナットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0013】
本願発明に係るコレットチャック用締付けナットは、内周面にナット側ボール溝が形成されたナット本体と、外周面にリテーナ側ボール溝が形成されると共に、前記ナット本体の内周面に組付けられるリテーナと、前記ナット側ボール溝と前記リテーナ側ボール溝の間に配列される複数のボールとを備え、前記ナット側ボール溝は、前記ボールの直径よりも幅広に形成されると共に、先端側に曲面からなるナット側ボール接触面と、基端側にナット側ボール非接触面を有し、前記リテーナ側ボール溝は、前記ボールの直径よりも幅広に形成されると共に、先端側にリテーナ側ボール非接触面と、基端側に曲面からなるリテーナ側ボール接触面を有し、前記ボールは、前記ナット側ボール接触面と当接すると共に、前記リテーナ側ボール接触面と当接し、前記ナット本体には、前記ナット側ボール溝と連通するボール挿入孔が形成され、前記ボール挿入孔の中心軸は、前記ナット側ボール非接触面を通ることを特徴とする。
【0014】
本願発明に係るコレットチャック用締付けナットにおいて、前記ボール挿入孔の中心軸は、前記ナット本体の径方向に対して傾くと好適である。
【0015】
本願発明に係るコレットチャック用締付けナットにおいて、前記ナット側ボール非接触面と前記リテーナ側ボール非接触面は曲面からなると好適である。
【0016】
本願発明に係るコレットチャック用締付けナットにおいて、前記リテーナの基端方向には、リテーナ後退防止手段を備えると好適である。
【0017】
本願発明に係るコレットチャック用締付けナットにおいて、前記リテーナ後退防止手段は、スナップリングからなると好適である。
【0018】
本願発明に係るコレットチャック用締付けナットにおいて、前記ナット本体には、前記スナップリングを縮径状態で保持する退避用溝が形成されると好適である。
【0019】
本願発明に係るコレットチャック用締付けナットにおいて、前記リテーナの基端方向には、与圧手段を備えると好適である。
【0020】
本願発明に係るコレットチャック用締付けナットにおいて、前記与圧手段は、弾性体からなると好適である。
【0021】
上記発明の概要は、本発明に必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るコレットチャック用締付けナットによれば、ナット本体による締め付けの際、リテーナをホルダ本体に対して芯ずれなく押圧して、コレットを軸方向にまっすぐに押込み縮径させることができる。また、ナット本体とリテーナとの間に位置するボールの遠心力やコレットの押込み反力による飛び出しを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るコレットチャック用締付けナットが取り付けられるコレットチャックの一例を示す断面図。
図2図1におけるコレットチャック用締付けナットのA部拡大断面図。
図3】本発明の実施形態に係るコレットチャック用締付けナットの組立て過程を示す断面図。
図4】本発明の実施形態に係るコレットチャック用締付けナットであり、与圧手段としてウェーブワッシャを使用した実施例であって、(a)は完成状態を示す断面図、(b)は組立て過程を示す断面図。
図5】従来のコレットチャック用締付けナットの一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るコレットチャック用締付けナットが取り付けられるコレットチャックの一例を示す断面図、図2は、図1におけるコレットチャック用締付けナットのA部拡大断面図、図3は、本発明の実施形態に係るコレットチャック用締付けナットの組立て過程を示す断面図、図4は、本発明の実施形態に係るコレットチャック用締付けナットであり、与圧手段としてウェーブワッシャを使用した実施例であって、(a)は完成状態を示す断面図、(b)は組立て過程を示す断面図である。なお、本明細書において「先端方向」及び「基端方向」とは、図1における矢印に示す方向及び向きと定義する。
【0026】
本発明に係るコレットチャック用締付けナット1は、図1に示すように、工作機械の工具主軸に着脱自在に取り付けられるホルダ本体11の先端部に取り付けられる。
【0027】
ホルダ本体11は、略円筒形の部品であって、内径側には、図示しない切削工具のシャンクが挿入される。ホルダ本体11の先端部の円筒内面には、コレット12と当接する押圧面11aが形成される。押圧面11aは、ホルダ本体11の先端面に向かって拡径するテーパ面に形成される。
【0028】
コレット12は、略円筒形の部品であって、基端方向の外周面には基端面に向かって縮径するテーパ面12aと、先端方向の外周面には先端面に向かって縮径する先端部当接面12bと、テーパ面12aと先端部当接面12bの間には環状溝12cとが形成される。テーパ面12aは、ホルダ本体11の押圧面11aと当接し、押圧面11aに対応する角度のテーパ面に形成される。先端部当接面12bは、後述するリテーナ3の押さえ面33と当接し、押さえ面33に対応する角度のテーパ面に形成される。コレット12の内側には、図示しない切削工具のシャンクを挿入するための工具挿入孔12dが形成される。工具挿入孔12dは、通常時においては拡径された状態にあって、切削工具のシャンクを容易に挿入することができる。また、コレット12には、軸方向に延びる図示しないスリットが複数形成される。コレット12は、先端側をコレットチャック用締付けナット1のリテーナ3によって支持され、後端側をホルダ本体11によって支持される。
【0029】
コレットチャック用締付けナット1は、図2に示すように、ホルダ本体11と螺合する雌ねじ部を有するナット本体2と、ナット本体2の先端部内径に組み込まれるリテーナ3と、ナット本体2とリテーナ3の嵌合面に形成される環状のボール溝に挿入される複数のボール4と、を備える。また、ボール溝からのボール4の飛び出しを防止するため、ナット本体2には栓体5が取り付けられる。また、リテーナ3の基端面と後述するナット本体2の段差21aとの間には、リテーナ3の基端方向への移動を防ぐリテーナ後退防止手段としてのスナップリング6aが取り付けられる。
【0030】
ナット本体2は、略円筒形の部品である。ナット本体2の基端方向内径には、ホルダ本体11の先端部の雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成され、先端方向内径には、当該雌ねじ部の径よりも大きな内径寸法となる内周面21が形成される。内周面21には、ボール4が転動する環状のボール溝22(特許請求の範囲における「ナット側ボール溝」。)が形成される。また、ボール溝22にボール4を挿入するため、ボール溝22とナット本体2の外周面とを連通するようにボール挿入孔23が形成される。ナット本体2の外周面には、作業工具を引っ掛けるための図示しない溝や、スパナ等の作業工具によって把持することのできる図示しない六角面等が形成される。
【0031】
内周面21は、リテーナ3を回転自在に嵌合させる。コレットチャック用締付けナット1の使用時において、内周面21とリテーナ3の外周面31との間には所定の隙間が形成されるように内径寸法が設定される。
【0032】
ボール溝22は、ボール4の直径よりもナット本体2の軸方向に幅広であって、内周面21に沿って環状に形成される。ボール溝22には、先端側にボール接触面22a(特許請求の範囲における「ナット側ボール接触面」。)、基端側にボール非接触面22b(特許請求の範囲における「ナット側ボール非接触面」。)が形成される。ボール接触面22a及びボール非接触面22bは、それぞれ曲面からなり、具体的には軸方向断面(図2視)における中心点が異なる円弧面に形成され、両者は最も内周面21から離れる外径側の位置で連続している。
【0033】
ボール接触面22aは、ボール4よりも僅かに大きい半径の円弧面となるように形成される。具体的には、ボール接触面22aの円弧面の半径は、ボール4の直径の50.3~53%程度の値となるように設定されると好適である。また、ボール接触面22aの円弧面の軸方向断面における中心点は、コレットチャック用締付けナット1の使用時において、ボール接触面22aとボール4の接触点、及び、後述するリテーナ3のボール接触面32aとボール4の接触点を結ぶ直線上に位置するように形成されると好適である。また、ボール接触面22aは、ボール4との接触点を有するため、滑らかな表面に仕上げられていると好適である。
【0034】
ボール非接触面22bは、ボール4よりも大きい半径の円弧面となるように形成されると好適である。なお、ボール接触面22a及びボール非接触面22bは、それぞれ軸方向断面における中心点が異なる円弧面に形成される場合について説明を行ったが、ボール非接触面22bに関してはこれに限らず、後述する組立て状態においてボール4との干渉が生じなければよく、円弧面でなくても構わない。また、ボール非接触面22bは、コレットチャック用締付けナット1の使用時において、ボール4との接触点を有さないため、表面精度は粗くても構わない。
【0035】
また、内周面21の基端側には、段差21aが形成される。コレットチャック用締付けナット1の完成時及び使用時において、段差21aとリテーナ3の基端面との間には、スナップリング6aが取り付られる。このとき、ナット本体2とリテーナ3の先端面を一致させたとき、リテーナ3の基端面とスナップリング6aとの間には所定の隙間が形成されるように内周面21の軸方向長さが設定される。段差21aの内径側には、退避用溝24が形成される。
【0036】
退避用溝24は、コレットチャック用締付けナット1の組立時において、スナップリング6aを縮径して預けることができる。ナット本体2の雌ねじ部の径寸法が大きな設計の場合には、ナット本体2にリテーナ3を取り付けた後であっても、スナップリング6aをナット本体2の基端から雌ねじ部の内径を通して装着することが可能であるが、退避用溝24を設けることによって、ナット本体2の雌ねじ部の径寸法が小さな設計の場合であっても、スナップリング6aを容易に装着することが可能となる。コレットチャック用締付けナット1の組立方法及び退避用溝24の使用方法については後述する。
【0037】
ボール挿入孔23は、ボール4の直径より大きな径に形成される貫通孔であって、ボール溝22とナット本体2の外周面とを連通するように形成される。ボール挿入孔23の側面には、栓体5を螺合する雌ねじ部が形成されると好適である。
【0038】
ボール挿入孔23の中心軸は、ボール非接触面22bを通るように形成される。このようにボール挿入孔23の中心軸をボール非接触面22bを通るように形成することで、ボール4とボール溝22の接触点がボール挿入孔23と重なることを防ぐことができ、ボール4をボール溝22内でスムーズに転動させることができる。
【0039】
また、ボール挿入孔23の中心軸は、図2に示すように、ナット本体2の径方向に対して傾斜して形成される。より具体的には、ボール挿入孔23の中心軸は、基端方向に傾斜して形成されると好適である。このようにボール挿入孔23の中心軸をナット本体2の径方向に対して傾斜して形成することで、ナット本体2の外径を大きくせずとも、ボール挿入孔23側面と栓体5との接触部の長さを長くとることができる。なお、本実施形態において、ボール挿入孔23の側面には、栓体5を螺合する雌ねじ部が形成される場合について説明を行ったが、栓体5の固定方法はねじ結合によるものに限らず、圧入等の周知の固定方法を用いても構わない。
【0040】
リテーナ3は、略円筒形の部品であって、リテーナ3の外周面31とナット本体2の内周面21との間に所定の隙間を形成し、回転自在に嵌合する。外周面31には、ボール4が転動する環状のボール溝32(特許請求の範囲における「リテーナ側ボール溝」。)が形成される。リテーナ3の先端方向内径には、先端面に向かって縮径する押さえ面33が形成され、基端方向内径には、コレット12の環状溝12cに係合する係合用リブ34が少なくとも一つ形成される。
【0041】
ボール溝32は、ボール4の直径よりもリテーナ3の軸方向に幅広であって、外周面31に沿って環状に形成される。ボール溝32には、基端側にボール接触面32a(特許請求の範囲における「リテーナ側ボール接触面」。)、先端側にボール非接触面32b(特許請求の範囲における「リテーナ側ボール非接触面」。)が形成される。ボール接触面32a及びボール非接触面32bは、それぞれ曲面からなり、具体的には軸方向断面(図2視)における中心点が異なる円弧面に形成され、両者は最も外周面31から離れる内径側の位置で連続している。
【0042】
ボール接触面32aは、ボール4よりも僅かに大きい半径の円弧面となるように形成される。具体的には、ボール接触面32aの円弧面の半径は、ボール4の直径の50.3~53%程度の値となるように設定されると好適である。また、ボール接触面32aの円弧面の軸方向断面における中心点は、コレットチャック用締付けナット1の使用時において、ナット本体2のボール接触面22aとボール4の接触点、及び、ボール接触面32aとボール4の接触点を結ぶ直線上に位置するように形成されると好適である。また、ボール接触面32aは、ボール4との接触点を有するため、滑らかな表面に仕上げられていると好適である。
【0043】
ボール非接触面32bは、ボール4よりも大きい半径の円弧面となるように形成されると好適である。なお、ボール接触面32a及びボール非接触面32bは、それぞれ軸方向断面における中心点が異なる円弧面に形成される場合について説明を行ったが、ボール非接触面32bに関してはこれに限らず、後述する組立て状態においてボール4との干渉が生じなければよく、円弧面でなくても構わない。また、ボール非接触面32bは、コレットチャック用締付けナット1の使用時において、ボール4との接触点を有さないため、表面精度は粗くても構わない。
【0044】
押さえ面33は、コレット12の先端部当接面12bと当接し、先端部当接面12bの形状と対応するように、先端面に向かって縮径するテーパ面に形成される。
【0045】
ボール4は、例えば、SUJ2等の軸受鋼からなる鋼球が用いられると好適であるが、ボール4の材料はこれに限らず、周知な材料を用いても構わない。
【0046】
栓体5は、例えば、図2に示すように、全長の短い止めねじが用いられると好適である。また、栓体5に止めねじが使用される場合には、緩み止めを目的として接着剤等が使用される。なお、栓体5は、止めねじに限らず、圧入によって固定される埋め栓等の周知な部品を用いても構わない。
【0047】
スナップリング6aは、例えば、ばね用鋼からなり、弾力を利用して縮径可能なリング状の止め輪からなる。スナップリング6aは、コレットチャック用締付けナット1の組立過程においては、縮径してナット本体2の退避用溝24に嵌め込むことができ、コレットチャック用締付けナット1の完成時においては、リテーナ3の基端面とナット本体2の段差21aの間に、リテーナ3の基端面と所定の隙間を空けて取り付けられる。
【0048】
このように、スナップリング6aは、リテーナ3の基端面と段差21aの間に取り付けられることで、使用時におけるリテーナ3の基端方向への移動を防ぐことができる。本明細書において、このようなリテーナ3の基端方向への移動を防ぐことができる部品をリテーナ後退防止手段と定義する。
【0049】
本実施形態において、リテーナ後退防止手段は、ばね用鋼からなるスナップリング6aに限らず、ばね用鋼の表面にゴム等の弾性体をコーティングしたスナップリング、弾性材料からなるOリング等、または、図4(a)に示すようなウェーブワッシャ6bのような弾性体であっても構わない。このような弾性の性質をもつ部品をリテーナ後退防止手段として用いる場合には、リテーナ3とリテーナ後退防止手段との間には隙間が空かないように、各部品の寸法が設定される。
【0050】
このように、弾性の性質をもつ部品をリテーナ後退防止手段として用い、リテーナ3と段差21aの間に隙間なく取り付けることで、完成時及び使用時において、リテーナ3には、弾性力による先端方向への荷重が掛かる。リテーナ3に先端方向への荷重が掛けられると、リテーナ3は、ボール4を介してより安定的にナット本体2に対する位置が定まり、コレット12を介して切削工具を把持する際、把持精度を安定させることができる。本明細書において、このような弾性の性質をもつ部品を与圧手段と定義する。
【0051】
なお、与圧手段としてウェーブワッシャ6b又はOリング等を用いる際には、図4(a)に示すように、ナット本体2には退避用溝24が形成されていなくても構わない。
【0052】
次に、このような構成部品を有するコレットチャック用締付けナット1の組立方法、及びホルダ本体11への取付方法について説明を行う。
【0053】
まず、図3に示すように、スナップリング6aを縮径させ、ナット本体2の退避用溝24に装着する。
【0054】
次に、リテーナ3をナット本体2の内周面21に挿入する。スナップリング6aが退避用溝24に位置しているため、リテーナ3は、完成時の位置よりも基端方向へずれた位置まで挿入することができる。このとき、ナット本体2のボール溝22と、リテーナ3のボール溝32は、軸方向にほぼ一致した位置となる。
【0055】
次に、上記のようにボール溝22、32を軸方向にほぼ一致させた状態で、複数のボール4をボール挿入孔23から挿入する。所定の数量のボール4を挿入したのち、ボール挿入孔23に栓体5を取り付ける。
【0056】
栓体5を取り付けけた後、図2に示すように、スナップリング6aを先端方向に押し出して、内周面21内において拡径させる。このとき、リテーナ3は先端方向に移動する。リテーナ3の先端面とナット本体2との先端面とが一致するようにリテーナ3を移動させると、前述したように、リテーナ3の基端面とスナップリング6aとの間には所定の隙間が形成される。
【0057】
このような手順を経てコレットチャック用締付けナット1は完成する。なお、リテーナ後退防止手段であるスナップリング6aに代えて、与圧手段であるウェーブワッシャ6bを用いる場合には、図4(b)に示すように、リテーナ3を基端方向に押し込み、ウェーブワッシャ6bを縮めた状態で、ボール4をボール挿入孔23から挿入する。所定数のボール4を挿入後、栓体5を取り付け、リテーナ3を押し付けていた荷重を解放することで、ウェーブワッシャ6bの弾性力によりリテーナ3は所定の位置に移動する。このとき、リテーナ3には、ウェーブワッシャ6bの弾性力によって先端方向に向かう荷重が常に掛かった状態となる。
【0058】
完成したコレットチャック用締付けナット1は、図1に示すように、リテーナ3の係合用リブ34をコレット12の環状溝12cに係合させた状態でホルダ本体11に取り付けられる。
【0059】
コレットチャック用締付けナット1をホルダ本体11に取り付け、コレット12のテーパ面12aとホルダ本体11の押圧面11aを離間させた状態においては、コレット12には外部から荷重が付加されておらず、工具挿入孔12dは拡径した状態となる。このように工具挿入孔12dを拡径させた状態であれば、切削工具を容易に所定の軸方向の位置まで挿入させることができる。
【0060】
コレットチャック用締付けナット1をスパナ等の作業工具で締めていくと、コレット12は基端方向に移動し、テーパ面12aはホルダ本体11の押圧面11aに当接する。このとき、リテーナ3の押さえ面33と、コレット12の先端部当接面12bも当接した状態となる。
【0061】
更にコレットチャック用締付けナット1にトルクをかけて締め付けると、ボール4はボール溝22、23内を転動し、コレット12とリテーナ3は位相を変えず、ナット本体2のみがリテーナ3に対して相対的に回転する。本実施形態においては、ボール挿入孔23の中心軸は、ボール非接触面22bを通るため、ボール4とボール接触面22aとの接触点がボール挿入孔23と交差することがない。したがって、ボール4は、ボール挿入孔23の縁部に引っ掛かることなくスムーズにボール溝22、23内を転動することができる。
【0062】
ナット本体2による締付け荷重は、ボール4及びリテーナ3を介して、押さえ面33からコレット12に伝達される。押さえ面33からコレット12の先端部当接面12bに基端方向の荷重が掛けられると、テーパ面12aと当接しているホルダ本体11の押圧面11aより反力を受け、コレット12には軸方向に圧縮荷重がかかり工具挿入孔12dは縮径する。このようにして、切削工具はコレット12の工具挿入孔12dに強く把持され固定される。
【0063】
本発明に係るコレットチャック用締付けナット1においては、図2に示すように、ナット本体2のボール接触面22aとボール4の接触点、ボール接触面22aの中心点、ボール4の中心点、リテーナ3のボール接触面32aの中心点、及び、ボール接触面32aとボール4の接触点が一直線に並び、ナット本体2とボール4の接触角θaとリテーナ3とボール4の接触角θbとが等しくなる。このような状態で、コレットチャック用締付けナット1を締め付けると、ナット本体2による締付け荷重は、図2に示す矢印のように一直線に伝達され、コレット12に対して周方向に均一に荷重をかけることができる。このため、コレット12に芯ずれを生じさせることなく切削工具を把持することができ、加工精度に影響を与えることがない。
【0064】
また、本発明に係るコレットチャック用締付けナット1によれば、ボール挿入孔23の中心軸は、ボール非接触面22bを通り、尚且つ、ナット本体2の径方向に対して傾斜して形成される。このため、完成時及び使用時においては、リテーナ3が先端方向へ移動にすることによって、ボール挿入孔23の一部が塞がれ、ボール4がボール挿入孔23を通過することが不可能となる。したがって、ホルダ本体11を取り付ける工具主軸を回転させる工作機械の使用時において、栓体5を強固に固定せずともボール4の遠心力による飛び出しを確実に防止することができる
【0065】
なお、上記では、コレットチャック用締付けナット1は、工作機械の工具主軸に取り付けられるホルダ本体11に取付けられる場合について説明を行ったが、本発明に係るコレットチャック用締付けナット1が取り付けられるホルダ本体11は、これに限らず、ワークを主軸に取り付けて回転させる工作機械の刃物台に取り付けて使用しても構わない。また、コレット12の先端部当接面12bは、先端面に向かって縮径するテーパ面であるとして説明をしたが、先端部当接面12bの形状はこれに限らず、例えば、コレット12の軸方向と直交する平面に形成されても構わない。また、このような場合には、リテーナ3の押さえ面33は、先端部当接面12bに対応するように、リテーナ3の軸方向と直交する平面に形成されても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0066】
1 コレットチャック用締付けナット、 2 ナット本体、 3 リテーナ、 4 ボール、 5 栓体、 6a スナップリング、 6b ウェーブワッシャ、 11 ホルダ本体、 11a 押圧面、 12 コレット、 12a テーパ面、 12b 先端部当接面、 12c 環状溝、 12d 工具挿入孔、 21 内周面、 21a 段差、 22 ボール溝、 22a ボール接触面 22b ボール非接触面、 23 ボール挿入孔、 24 退避用溝、 31 外周面、 32 ボール溝、 32a ボール接触面 32b ボール非接触面、 33 押さえ面、 34 係合用リブ。
図1
図2
図3
図4
図5