(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059005
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】空気清浄システム
(51)【国際特許分類】
F24F 7/007 20060101AFI20240422BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20240422BHJP
F24F 11/70 20180101ALI20240422BHJP
F24F 11/64 20180101ALI20240422BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20240422BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240422BHJP
G06N 20/10 20190101ALI20240422BHJP
F24F 110/65 20180101ALN20240422BHJP
F24F 110/64 20180101ALN20240422BHJP
【FI】
F24F7/007 B
F24F7/06 C
F24F11/70
F24F11/64
F24F11/46
G06N20/00 130
G06N20/10
F24F110:65
F24F110:64
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166469
(22)【出願日】2022-10-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年度日本建築学会大会学術講演梗概集 発行日 令和4年7月20日 令和4年度空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集 第7巻 発行日 令和4年8月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 恒佑
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 弥
(72)【発明者】
【氏名】小松原 正幸
(72)【発明者】
【氏名】染谷 孟行
【テーマコード(参考)】
3L056
3L058
3L260
【Fターム(参考)】
3L056BD01
3L056BE01
3L056BF04
3L058BF01
3L058BG04
3L260AA06
3L260AB18
3L260BA09
3L260BA41
3L260BA64
3L260BA75
3L260CA03
3L260CA07
3L260CA17
3L260EA03
3L260EA19
3L260EA22
3L260EA28
3L260HA01
(57)【要約】
【課題】清浄度を適切に保ちながら、さらなる省エネルギーを実現することができる空気清浄システムを提供する。
【解決手段】区画12内をモデル化した物理モデル26の物理条件を入力データ、前記物理モデル26を用いて計算された計算結果を教師データ28とする機械学習を行い、この学習結果から事前学習済みモデル30を作成する事前学習手段24をさらに備え、前記学習手段22は、前記事前学習手段24により作成された事前学習済みモデル30に基づいて前記制御モデルを作成し、前記制御手段16は、前記学習手段22により作成された前記制御モデルを使って、前記発塵負荷取得手段18で取得した発塵負荷と、前記清浄度取得手段20で取得した清浄度と、から、前記空気清浄装置14を制御するようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画内の空気を清浄化する空気清浄装置と、
前記空気清浄装置を制御する制御手段と、
前記区画内の発塵負荷を取得する発塵負荷取得手段と、
前記区画内の清浄度を取得する清浄度取得手段と、
前記発塵負荷取得手段で取得した発塵負荷と、前記清浄度取得手段で取得した清浄度と、前記制御手段による前記空気清浄装置の制御値と、を用いて機械学習を行い、前記区画内を所定の清浄度に制御しながら、省エネルギー運転を行うための制御モデルを作成する学習手段と、
を備えた空気清浄システムであって、
前記区画内をモデル化した物理モデルを用いて、前記物理モデルの物理条件を入力データ、前記物理モデルで計算された計算結果を教師データ、とする機械学習を行い、事前学習済みモデルを作成する事前学習手段をさらに備え、
前記学習手段は、前記事前学習手段により作成された事前学習済みモデルに基づいて前記制御モデルを作成し、
前記制御手段は、前記学習手段により作成された前記制御モデルを使って、前記発塵負荷取得手段で取得した発塵負荷と、前記清浄度取得手段で取得した清浄度と、から、前記空気清浄装置を制御することを特徴とする空気清浄システム。
【請求項2】
前記学習手段は、深層強化学習により機械学習を行うことを特徴とする請求項1に記載の空気清浄システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、区画内の空気を清浄化する空気清浄システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本特許出願人は、特許文献1において、パーティクルセンサと人感センサを用いてクリーン空調を4つの制御モード(
図4を参照)で制御する空気清浄システムを既に提案している。この空気清浄システムは、作業者のエリアへの侵入検知をトリガーにしてファンフィルターユニット(以下、FFUということがある。)を制御するものである。具体的には、作業者から生じる発塵に対して送風量を増加させるようにFFUを制御して清浄度を適切に維持し、逆に発塵源となる作業者が少ない場合にはFFUの送風量を絞り、省エネルギーを推進する。
【0003】
一方、作業者とその作業行動による発塵の関連は以前より多くの報告例があり、作業者の人数や行動量とクリーンルーム内の清浄度には相関関係があることが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「クリーンルーム用衣服着衣者からの発塵量および発塵機構」、鈴木良延ほか、日本建築学会計画系論文報告集、Vol. 386, pp.43-53, 1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、クリーンルームには様々な形状、寸法、生産ラインや生産工程があり、また作業者に関しても、生産工程や製造品の種類、それに基づく運用ルールなどにより、その作業行動や無塵衣の性能、着用の仕方など、施設ごとに異なる要因が多いのも事実である。したがって、上記の相関関係の成立は多くのクリーンルームで推認されるが、あるクリーンルームに関して当てはまる相関関係とまったく同じものが、別のあるクリーンルームの空調制御にそのまま活かせるとは限らない。
【0007】
上記の特許文献1に記載の空気清浄システムは、制御方法を暫定的に決めて建物に導入する必要があり、省エネルギーを狙った制御を組み込んだとしても、このような理由からより安全側の制御値を設定する必要があった。例えば、上記の特許文献1には、FFUのファン回転数を基本モードでは600~800rpmで制御し、人感モードでは1000rpmで制御し、最大モードでは1200rpmで制御する、というように暫定的な設定値で制御する例が示されている。また、x人の侵入で人感モードに移行、移行後はy秒間だけファン回転数を維持といった、制御に関わる様々なパラメータを暫定的に設定して導入する必要があり、どうしても必要以上に安全側で設定せねばならないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、清浄度を適切に保ちながら、さらなる省エネルギーを実現することができる空気清浄システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る空気清浄システムは、区画内の空気を清浄化する空気清浄装置と、前記空気清浄装置を制御する制御手段と、前記区画内の発塵負荷を取得する発塵負荷取得手段と、前記区画内の清浄度を取得する清浄度取得手段と、前記発塵負荷取得手段で取得した発塵負荷と、前記清浄度取得手段で取得した清浄度と、前記制御手段による前記空気清浄装置の制御値と、を用いて機械学習を行い、前記区画内を所定の清浄度に制御しながら、省エネルギー運転を行うための制御モデルを作成する学習手段と、を備えた空気清浄システムであって、前記区画内をモデル化した物理モデルを用いて、前記物理モデルの物理条件を入力データ、前記物理モデルで計算された計算結果を教師データ、とする機械学習を行い、事前学習済みモデルを作成する事前学習手段をさらに備え、前記学習手段は、前記事前学習手段により作成された事前学習済みモデルに基づいて前記制御モデルを作成し、前記制御手段は、前記学習手段により作成された前記制御モデルを使って、前記発塵負荷取得手段で取得した発塵負荷と、前記清浄度取得手段で取得した清浄度と、から、前記空気清浄装置を制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の空気清浄システムは、上述した発明において、前記学習手段は、深層強化学習により機械学習を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る空気清浄システムは、区画内の空気を清浄化する空気清浄装置と、前記空気清浄装置を制御する制御手段と、前記区画内の発塵負荷を取得する発塵負荷取得手段と、前記区画内の清浄度を取得する清浄度取得手段と、前記発塵負荷取得手段で取得した発塵負荷と、前記清浄度取得手段で取得した清浄度と、前記制御手段による前記空気清浄装置の制御値と、を用いて機械学習を行い、前記区画内を所定の清浄度に制御しながら、省エネルギー運転を行うための制御モデルを作成する学習手段と、を備えた空気清浄システムであって、前記区画内をモデル化した物理モデルを用いて、前記物理モデルの物理条件を入力データ、前記物理モデルで計算された計算結果を教師データ、とする機械学習を行い、事前学習済みモデルを作成する事前学習手段をさらに備え、前記学習手段は、前記事前学習手段により作成された事前学習済みモデルに基づいて前記制御モデルを作成し、前記制御手段は、前記学習手段により作成された前記制御モデルを使って、前記発塵負荷取得手段で取得した発塵負荷と、前記清浄度取得手段で取得した清浄度と、から、前記空気清浄装置を制御するので、清浄度を適切に保ちながら、さらなる省エネルギーを実現することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他の空気清浄システムは、上述した発明において、前記学習手段は、深層強化学習により機械学習を行うので、区画内の環境に応じた最適な制御モデルを作成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る空気清浄システムの実施の形態を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、行動と発塵量の関係の一例(出典:非特許文献1)を示す図である。
【
図3】
図3は、衣服による発塵量の違いの一例(出典:非特許文献1)を示す図であり、(1)は着衣者D
1、(2)は着衣者D
2である。
【
図4】
図4は、従来の空気清浄システムにおける4つの制御モードとその移行関係を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る空気清浄システムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る空気清浄システム10は、区画12の空気を清浄化するシステムであり、空気清浄装置14と、制御手段16と、画像センサ18と、パーティクルセンサ20と、深層強化学習部22と、教師あり学習部24とを備える。
【0016】
区画12は、クリーンルームCRの全体またはその一部である。区画12は他の区画とパーテーションやカーテンで仕切られていてもよいし、条件によっては特に仕切がなくてもよい。区画12には、図示しない半導体や精密機器の生産装置が設けられており、空気が清浄化された環境が必要となっている。
【0017】
空気清浄装置14は、区画12内の天面のやや下方に配置されており、上部に設けられたファンと、下部に設けられたHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタとを有する出力可変型のFFUである。空気清浄装置14は、回転数可変駆動式のファンにより上方から吸い込んだ空気をHEPAフィルタで清浄化して下方に向けて吹き出す。空気清浄装置14は制御手段16の作用下に状況に応じてファンの回転数を制御し出力調整ができる。
【0018】
制御手段16は、空気清浄装置14を制御するものである。具体的には、制御手段16は図示しないインバータに制御値を送信することによって、空気清浄装置14内に備わるファンの回転数制御および風量制御を行う。制御手段16が空気清浄装置14に対して行う制御とは広義であって定速運転、変速運転および停止を含む。停止とは電源オンのままファンの風量を0にする場合と、電源オフの場合とを含む。また、この制御手段16は深層強化学習部22に接続されており、深層強化学習部22を介して画像センサ18、パーティクルセンサ20などからの各種信号の供給を受ける。また、この制御手段16は、深層強化学習部22が作成した制御モデルを使って、取得した発塵負荷、清浄度から制御値を設定し、設定した制御値で空気清浄装置14の運転を制御する。制御手段16は、例えばFEMS(Factory Energy Management System)などの中央処理装置で構成することができる。
【0019】
画像センサ18は、区画12内の所定の監視領域の発塵負荷を取得する発塵負荷取得手段である。この画像センサ18は、例えば、対応する監視領域に人間が存在するか否かを動画像や静止画像などを用いて検出するカメラなどで構成することができる。画像センサ18は領域に存在する人間の人数を検出することも可能である。また、画像センサ18は人間の人数だけでなく動作(作業行動など)を容易に検出することができるとともに、その動作の種類や頻度に基づいて作業種別を判断することができる。検知可能な動作には歩行も含まれる。画像センサ18は深層強化学習部22に接続されており、深層強化学習部22に検出信号(発塵負荷)を供給する。
【0020】
上述したように、作業者とその作業行動による発塵の関連は以前より多くの報告例があり、例えば非特許文献1では、
図2、3に示すような関係が報告されている。これらの図に示すように、ある程度のばらつきはみられるが、行動により発塵量が大きく異なり、また無塵衣の種類によっても異なることがわかる。これに鑑みれば、区画12内の画像センサ18から人間の人数や作業種別などを検出すれば、上記のような関係から、発塵量および発塵負荷を取得することができる。
【0021】
パーティクルセンサ20は、区画12内の清浄度を取得する清浄度取得手段であり、空気清浄装置14の近傍に配置される。このパーティクルセンサ20は清浄度として粒子濃度を検出する。粒子濃度が低い場合は空気の清浄度が高い。パーティクルセンサ20は深層強化学習部22に接続されており、深層強化学習部22に検出信号(清浄度)を供給する。検出信号は学習のフィードバック値としても供給される。
【0022】
深層強化学習部22は、区画12内を対象として深層強化学習を行う学習手段である。ここで、深層強化学習とは、いわゆるディープラーニング等の深層学習と、強化学習とを組み合わせた学習手法である。強化学習とは、行動主体であるエージェントが環境に対して試行錯誤をしながら行動し、その行動に対して環境から報酬を与えられることによって、より良い方策を獲得する機械学習の一種である。
【0023】
この深層強化学習部22は、画像センサ18からの検出信号(発塵負荷)と、パーティクルセンサ20からの検出信号(清浄度)と、制御手段16による空気清浄装置14の制御値とを用いて深層強化学習を行い、この学習結果から区画12内を所定の清浄度に制御しながら、省エネルギー運転を行うための空気清浄装置14の制御モデルを作成する。後述するように、この制御モデルは、教師あり学習部24による事前学習済みモデルに基づいて作成される。作成した制御モデルによって、区画12内を所定の清浄度に制御するとともに、省エネルギー運転を行うために最適な空気清浄装置14の制御値を予測することができる。深層強化学習部22で作成した制御モデルは、制御手段16による制御値の設定に利用される。
【0024】
このように、深層強化学習部22では区画12内で実際に得られた情報を基に深層強化学習を行う。一方、クリーンルームCRに限らず空調機の制御に関する機械学習を行う際の問題点として、1度目のAIの行動からその行動の結果が環境に反映されるまでの時間が長くかかることがある。ファンの送風量を上げて清浄空気を多く送っても、すぐにはクリーンルームCR内は清浄化されず、したがってAIの行動の結果得られる環境を学習するまでに待機の時間が生じ、これにより1回の学習時間が長くなる(例えば、数分~10分程度)。さらに、クリーンルームCR特有の課題として、建物竣工後から実稼働までに数か月~半年程度を必要とし、その間で大きく環境が変わってしまうこと、また竣工後~実稼働までの情報は学習する意義が薄いことがある。これらをまとめると、クリーンルームCRでの深層強化学習を行う上での課題は、竣工後、すぐに学習ができないこと、学習を開始しても1回の学習に長時間を要し、結果、収束までに長期間が必要となることである。このような問題を解決するため、
図1の破線部内に示すように、深層強化学習部22の前段に教師あり学習部24を設ける。
【0025】
教師あり学習部24は、区画12内での深層強化学習部22による深層強化学習をサポートするために、実稼働までの期間に実際の区画12内をモデル化した数値流体解析(CFD)モデル26(物理モデル)を用いて、教師あり学習を行う事前学習手段である。より具体的には、教師あり学習部24は、CFDモデル26の物理条件を入力データ、CFDモデル26を用いて計算された計算結果を教師データ28とする機械学習を行い、この学習結果から事前学習済みモデル30を作成する。
【0026】
CFDモデル26は、実際の区画12内で想定される発塵量、空気清浄装置14設置台数や空間構成、建物形状・寸法などの物理条件を反映させる。またパーティクルセンサ20についても再現し、実際に設置する位置と同じCFDモデル上の濃度を取得する。モデル作成に必要なこれらの物理条件は設計者であれば建物設計時に知ることができる。発塵量についても、通常は既存建物の実測よりオーダーを推定できる。以上のCFD解析を、実際の区画12内における深層強化学習で想定されるファンの制御パターン、人数の取り得るパターンの組み合わせの数だけ行い、その結果を教師データ化する。ただし、CFD解析はあくまで教師データを作成するために最も有力と考えられる方法の1つであり、例えば粒子の空間(区画12内)への一様拡散を仮定すれば、清浄空気の送風量(ファン回転数)と発塵量の情報のみから容易に空間の粒子濃度を推定することができ、これを教師データとしてもよい。
【0027】
この一連の仮想空間での教師あり学習を、建物施工中~竣工~クリーンルームCR実稼働まで行い、区画12内の粒子濃度のオーダー感やパラメータ同士の基本的な関係(ファンの回転数が上昇することで粒子濃度が下がる、ある位置の空気清浄装置14のファン回転数とある位置の粒子濃度に強い関連がある、など)を事前に把握させておく。この学習結果をデータ化して事前学習済みモデル30を作成し、後段の深層強化学習部22に引き継ぐことで、実稼働までの期間を有効活用するだけでなく、その後の深層強化学習の学習期間を短くすることが可能となる。例えば、学習1回当たりの時間は同じだが、収束するまでに必要な学習時間を短縮可能である。
【0028】
上記構成の動作および作用について説明する。
まず、クリーンルームCRの稼働前にCFDモデル26を作成してCFD解析を行い、教師あり学習部24によって事前学習済みモデル30を作成しておく。その後、クリーンルームCRの稼働後に、制御手段16で空気清浄装置14を運転する。この際、深層強化学習部22による深層強化学習を行い、制御モデルを作成する。この制御モデルは、事前学習済みモデル30に基づいて作成する。
【0029】
制御手段16は、区画12内から取得した発塵負荷、清浄度から、作成した制御モデルを使って、空気清浄装置14を制御するための制御値を設定する。そして、設定した制御値を空気清浄装置14に送信することでその運転状況を制御する。学習を繰り返すことで、区画12内の清浄度を所定の状況に制御しながら、空気清浄装置14に関して省エネルギー運転を行うことが可能となる。
【0030】
従来は、制御方法を暫定的に決めて建物に導入する必要があり、省エネルギーを狙った制御を組み込んだとしても、より安全側の制御値を設定する必要があった。これに対し、本実施の形態によれば、クリーンルームCRごとに、または同じクリーンルームCRでもエリアごとに適切な制御モデルを作成することで、空気清浄装置14の最適な制御と、清浄度の維持が可能となる。これにより、清浄度を適切に保持しながら、空気清浄装置14の運転に関してさらなる省エネルギーを実現することができる。
【0031】
さらに、本実施の形態によれば、深層強化学習をクリーンルームCRに適用するうえで大きな課題であった学習期間を短縮するための方策として、実稼働までの期間に対象クリーンルームCRを再現したCFDモデルを活用して、仮想空間上で教師あり学習を進め、この教師あり学習結果をデータ化し、後の深層強化学習に引き継ぐことで、実稼働までの期間を有効活用するだけでなく、その後の深層強化学習の学習期間を短くすることが可能となる。
【0032】
なお、上記の実施の形態においては、発塵負荷に関連するパラメータを、区画12で発塵源となることの多い作業者とその作業行動とし、それを取得した画像から作業者人数や行動を推定できる画像センサ18で構成する場合を例にとり説明したが、本発明の発塵負荷取得手段はこれに限るものではない。すなわち、発塵負荷との間に明確な関係を有するであろうと推認されるパラメータを取得できるものであれば特に制限はない。例えば、生産装置類の運転状況を取得する方法や区画12間の室圧やドアの開閉状況などを取得するものを発塵負荷取得手段として用いてもよい。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0033】
また、上記の実施の形態においては、パーティクルセンサ20によって局所的な清浄度を取得する場合を例にとり説明したが、本発明の清浄度取得手段はこれに限るものではない。例えば、パーティクルセンサに加えてCFDによる結果などと組み合わせることによって面的な清浄度の分布を取得するものでもよい。また、それらを組み合わせることや、パーティクルセンサによる取得値をCFDの境界条件として使用してより確からしい広範囲の値を取得してもよい。そして、対象の区画12、またはその特定エリアに対し、画像センサ18から作業者の人数や活動量の程度を取得し、その状態と空気清浄装置14の運転状況、パーティクルセンサ20やCFDから得られた清浄度を入力データとして学習手段22により学習を進めてもよい。このようにすれば、対象領域の清浄度を制御するために最適な運転方法を取得することができ、清浄度を適切に保ちながら、さらなる省エネルギーを実現することができる。
【0034】
また、上記の実施の形態においては、学習手段が深層強化学習を行う場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、学習手段は、画像センサ18からの検出信号(発塵負荷)と、パーティクルセンサ20からの検出信号(清浄度)と、空気清浄装置14の運転状況とを入力データ、制御手段16による空気清浄装置14の制御値を教師データとする機械学習を行ってもよい。
【0035】
以上説明したように、本発明に係る空気清浄システムは、区画内の空気を清浄化する空気清浄装置と、前記空気清浄装置を制御する制御手段と、前記区画内の発塵負荷を取得する発塵負荷取得手段と、前記区画内の清浄度を取得する清浄度取得手段と、前記発塵負荷取得手段で取得した発塵負荷と、前記清浄度取得手段で取得した清浄度と、前記制御手段による前記空気清浄装置の制御値と、を用いて機械学習を行い、前記区画内を所定の清浄度に制御しながら、省エネルギー運転を行うための制御モデルを作成する学習手段と、を備えた空気清浄システムであって、前記区画内をモデル化した物理モデルを用いて、前記物理モデルの物理条件を入力データ、前記物理モデルで計算された計算結果を教師データ、とする機械学習を行い、事前学習済みモデルを作成する事前学習手段をさらに備え、前記学習手段は、前記事前学習手段により作成された事前学習済みモデルに基づいて前記制御モデルを作成し、前記制御手段は、前記学習手段により作成された前記制御モデルを使って、前記発塵負荷取得手段で取得した発塵負荷と、前記清浄度取得手段で取得した清浄度と、から、前記空気清浄装置を制御するので、清浄度を適切に保ちながら、さらなる省エネルギーを実現することができる。
【0036】
また、本発明に係る他の空気清浄システムは、上述した発明において、前記学習手段は、深層強化学習により機械学習を行うので、区画内の環境に応じた最適な制御モデルを作成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明に係る空気清浄システムは、クリーンルームCRなどの区画内の空気を清浄化する空気清浄システムに有用であり、特に、清浄度を適切に保ちながら、さらなる省エネルギーを実現するのに適している。
【符号の説明】
【0038】
10 空気清浄システム
12 区画
14 空気清浄装置
16 制御手段
18 画像センサ(発塵負荷取得手段)
20 パーティクルセンサ(清浄度取得手段)
22 深層強化学習部(学習手段)
24 教師あり学習部(事前学習手段)
26 CFDモデル(物理モデル)
28 教師データ
30 事前学習済みモデル