(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059018
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240422BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166488
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】小沼 健太
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD13
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB51
3E086CA01
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK64A
4F100AK64B
4F100AK66A
4F100AK66B
4F100BA02
4F100CB03A
4F100EH20
4F100EJ38
4F100GB15
4F100JA11
4F100JA20
4F100JK10B
4F100JL12A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】ヒートシール性を有しながらも、十分な耐ゆず肌性及び低温での耐衝撃性を発現し得る熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂組成物からなりヒートシール性を有するヒートシール層11と、ポリプロピレン系樹脂組成物からなり耐衝撃性を有する耐衝撃層12との二層を含む積層体10からなる熱可塑性樹脂フィルムであり、積層体10の積層方向をNDとし、積層体10の製膜方向をMDとし、ND及びMDに垂直となる方向をTDとしたとき、積層体10の配向係数が、MDにおいて0.15以上0.3以下であると共にTDにおいて0.4以上0.7以下である、又は、MDにおいて0.4以上0.7以下であると共にTDにおいて0.15以上0.3以下であり、さらに、積層体10の(040)面の結晶子サイズが、100Å以上150Å以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂組成物からなりヒートシール性を有するヒートシール層と、
ポリプロピレン系樹脂組成物からなり耐衝撃性を有する耐衝撃層と
の少なくとも二層を含む積層体からなり、
前記積層体の積層方向をNDとし、前記積層体の製膜方向をMDとし、前記ND及び前記MDに垂直となる方向をTDとしたとき、
前記積層体の配向係数が、
前記MDにおいて0.15以上0.3以下であると共に前記TDにおいて0.4以上0.7以下である、又は、
前記MDにおいて0.4以上0.7以下であると共に前記TDにおいて0.15以上0.3以下であり、
さらに、前記積層体の(040)面の結晶子サイズが、100Å以上150Å以下である
ことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
前記ヒートシール層は、5μm以上30μm以下の厚さを有している
ことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
前記耐衝撃層は、前記積層体の厚さの70%以上92%以下の厚さを有している
ことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを有している
ことを特徴とする包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種物品を包装する包装材は、包装内の物品の保護等の観点から、耐衝撃性に優れた各種の樹脂からなるフィルムが利用されている。このような包装材に利用される樹脂としては、ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂を主成分とした材料が挙げられる。
【0003】
PP系樹脂においては、剛性や耐熱性等の特性が優れているため、一般的に、プロピレン-エチレンブロック共重合体を主成分とすることにより、低温(約-30℃以上0℃以下)での耐衝撃性を向上させて、レトルト食品用の包装材等に利用できるようにしている。具体的には、例えば、PPマトリックス中に、エチレン-プロピレンラバー(EPR)やPEを分散させてドメインとすることにより、低温での耐衝撃性を発現し得るようにしている。
【0004】
また、樹脂フィルムを袋形状にした包装材とする場合には、さらにヒートシール性が必要となる。ヒートシール性に関しては、一般的に、ヒートシールを阻害することのない樹脂材料のフィルムを適用することより対応している。
【0005】
例えば、下記特許文献1では、プロピレン-エチレンブロック共重合体に高密度PEを分散配合することにより、低温での耐衝撃性を向上させたフィルムが記載されている。また、下記特許文献2では、エチレン-プロピレンランダム共重合体及びエチレン-ブテン-プロピレンランダム共重合体の少なくとも1種にエラストマを分散配合した縦一軸延伸フィルムをシーラント層として、耐衝撃性等を向上させた包装材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-158463号公報
【特許文献2】特開2014-141302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述したようなレトルト食品用の包装材としては、さらに、耐ゆず肌性が求められている。ここで、耐ゆず肌性とは、包装した食品中の油分を吸収して微細な凹凸(ゆず肌)を生じてしまうことを抑制できる性能のことである。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載のフィルムや上記特許文献2に記載の包装材料においては、油性食品を内封すると、食品中の油分を不均一に吸収してしまい、ゆず肌を生じてしまうという問題があった。
【0009】
このようなことから、本発明は、ヒートシール性を有しながらも、十分な耐ゆず肌性及び低温での耐衝撃性を発現し得る熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するための、本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムは、ポリプロピレン系樹脂組成物からなりヒートシール性を有するヒートシール層と、ポリプロピレン系樹脂組成物からなり耐衝撃性を有する耐衝撃層との少なくとも二層を含む積層体からなり、前記積層体の積層方向をNDとし、前記積層体の製膜方向をMDとし、前記ND及び前記MDに垂直となる方向をTDとしたとき、前記積層体の配向係数が、前記MDにおいて0.15以上0.3以下であると共に前記TDにおいて0.4以上0.7以下である、又は、前記MDにおいて0.4以上0.7以下であると共に前記TDにおいて0.15以上0.3以下であり、さらに、前記積層体の(040)面の結晶子サイズが、100Å以上150Å以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムは、上述した熱可塑性樹脂フィルムにおいて、前記ヒートシール層が、5μm以上30μm以下の厚さを有していると好ましい。
【0012】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムは、上述した熱可塑性樹脂フィルムにおいて、前記耐衝撃層が、前記積層体の厚さの70%以上92%以下の厚さを有していると好ましい。
【0013】
また、前述した課題を解決するための、本発明に係る包装材は、上述した熱可塑性樹脂フィルムを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材によれば、異方性を大きく抑制することができると共に、フィルムの均一性を高めることができるので、特定方向への引き裂き性を大幅に低減させることができると共に、油分の吸収を均一化することができる。これにより、ヒートシール性を有しながらも、十分な耐ゆず肌性及び低温での耐衝撃性を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの主な実施形態の概略構造を表す断面図である。
【
図3】本発明に係る包装材の主な実施形態の概略構造を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は、図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではなく、以下の実施形態で説明した各技術的事項を必要に応じて適宜選択して組み合わせることや置換することや省略することが可能なものである。
【0017】
[主な実施形態]
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材の主な実施形態を
図1~3に基づいて説明する。
【0018】
〈熱可塑性樹脂フィルム〉
図1,2に示すように、本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムは、ポリプロピレン(PP)系樹脂組成物からなりヒートシール性を有するヒートシール層11と、PP系樹脂組成物からなり耐衝撃性を有する耐衝撃層12との二層を含む積層体10からなっている。
【0019】
熱可塑性樹脂フィルムは、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤等の添加剤を含有することも可能である。
【0020】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物、有機ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。熱安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物等が挙げられる。帯電防止剤としては、ノニオン系化合物、カチオン系化合物、アニオン系化合物等が挙げられる。
【0021】
難燃剤としては、ハロゲン系化合物、リン系化合物、窒素系化合物、無機化合物、ホウ素系化合物、シリコーン系化合物、硫黄系化合物、赤リン系化合物等が挙げられる。難燃助剤としては、アンチモン化合物、亜鉛化合物、ビスマス化合物、水酸化マグネシウム、粘土質珪酸塩等が挙げられる。これらの添加剤は、一種のみ又は二種以上を含有することも可能である。
【0022】
熱可塑性樹脂フィルムは、さらに、耐候剤、光安定剤、可塑剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、気泡防止剤、ウェルド強度改良剤、天然油、合成油、ワックス等の他の添加剤を含有することも可能である。これらの添加剤も、一種のみ又は二種以上を含有することが可能である。
【0023】
〈ヒートシール層11〉
ヒートシール層11は、エチレン-プロピレンランダム共重合体及びエチレン-ブテン-プロピレンランダム共重合体の一種又は二種を主成分として含有するPP系熱可塑性樹脂組成物からなっている。
【0024】
〈耐衝撃層12〉
耐衝撃層12は、PP単体からなる重合体であるホモPPを主成分として含有するPP系熱可塑性樹脂組成物からなっている。
【0025】
〈積層体10〉
積層体10において、積層体10の積層方向(
図1中、上下方向、
図2中、紙面垂直方向)をNDとし、積層体10の製膜方向(
図1,2中、左右方向)をMDとし、ND及びMDに垂直となる方向(
図1中、紙面垂直方向、
図2中、上下方向)をTDとする。
【0026】
このとき、積層体10は、配向係数が、MDにおいて0.15以上0.3以下になっていると共にTDにおいて0.4以上0.7以下になっている、又は、MDにおいて0.4以上0.7以下になっていると共にTDにおいて0.15以上0.3以下になっている。
【0027】
この配向係数は、平行ニコル回転法位相差測定装置を使用して測定した積層体10の屈折率に基づいて算出される値である。具体的には、測定された屈折率から下記式1A~1C,式2A~2C,式3A~3Cに基づいて配向係数を算出することができる。
【0028】
ΔNmd=Nmd-{(Ntd+Nnd)/2} (式1A)
ΔNtd=Ntd-{(Nmd+Nnd)/2} (式1B)
ΔNnd=Nnd-{(Nmd+Ntd)/2} (式1C)
【0029】
fmd=ΔNmd/Δn0 (式2A)
ftd=ΔNtd/Δn0 (式2B)
fnd=ΔNnd/Δn0 (式2C)
【0030】
fmd={3(cos2Φmd)-1}/2 (式3A)
ftd={3(cos2Φtd)-1}/2 (式3B)
fnd={3(cos2Φnd)-1}/2 (式3C)
【0031】
ただし、NmdはMDにおける屈折率、NtdはTDにおける屈折率、NndはNDにおける屈折率、Δn0は積層体10の固有複屈折率、fmdはMDにおける配向関数、ftdはTDにおける配向関数、fndはNDにおける配向関数、cos2ΦmdはMDにおける配向係数、cos2ΦtdはTDにおける配向係数、cos2ΦndはNDにおける配向係数である。
【0032】
さらに、積層体10は、(040)面の結晶子サイズが、100Å以上150Å以下になっている。(040)面の結晶子サイズは、積層体10をX線回折(XRD)法で測定したときの、2θ=17°付近のピークの半値幅から算出することができる。具体的には、例えば、X線源をCuKαとし、X線電圧を40kVとし、X線電流を30mAとし、測定X線の波長を1.54Åとして、積層体10のXRDパターンを得た後、下記式4に基づいて上記面の結晶子サイズを求めることができる。
【0033】
D=(Kλ)/(βcosθ) (式4)
【0034】
ただし、Dは結晶子サイズ(Å)、KはScherrer定数、λは測定X線の波長(Å)、βは2θ=17°付近((040)面)のピークの半値幅(rad)、θはブラッグ角(回折角(2θ)の半分)(rad)である。
【0035】
〈熱可塑性樹脂フィルムの製造方法〉
本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の各種方法を利用することができる。例えば、射出成形機や、押出成形機、並びにフィードブロック又はマルチマニホールドを介しTダイで成形する方法や、インフレーション法を用いた成形方法等を利用することができる。一例として、押出成形機を利用した熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を説明する。
【0036】
まず、ヒートシール層11を構成するPP系熱可塑性樹脂組成物の原料を混練すると共に、耐衝撃層12を構成するPP系熱可塑性樹脂組成物の原料を混練する。混練した各樹脂組成物を共押出して、フィードブロック方式で貼合することにより、ヒートシール層11と耐衝撃層12とを一体にした積層体10を製造することができる。なお、押出成形機には、樹脂組成物がスクリュを通過した後に、樹脂組成物に負荷をかける昇圧を促すブレーカプレート等の圧縮機構が設けられている。
【0037】
積層体10の冷却方法に関しては、上述した成形機に準じて使用することが可能である。例えば、Tダイ法では、エアチャンバ、バキュームチャンバ、エアナイフ等の空冷方式や、冷水パンへ冷却ロールをディッピングする等の水冷方式等、各種方式を特に限定されることなく適用することができる。
【0038】
賦形による表面凹凸形状を付与する場合には、下記の方式が特に好ましい。すなわち、シリコーンゴム、NBRゴム、又はフッ素樹脂等を表面に設けたニップロールと、金属の表面を切削加工して凹凸形状を形成した冷却ロールとを接触させる。この接触部に0.1MPa以上の圧力を印加しながら、溶融した樹脂組成物を供給することにより、表面凹凸形状を付与しながら冷却して成形する。
【0039】
押出成形された後に冷却されて固化した積層体10は、予熱ロールで加熱された後、縦延伸方式にて、MD方向へ延伸されて縦方向に配向された後、テンタクリップ方式にて、TD方向へ延伸される。このようにして熱可塑性樹脂フィルムを製造することができる。
【0040】
〈包装材〉
また、本実施形態に係る包装材は、上述した本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムが利用されて構成される。具体的には、
図3に示すように、包装材100は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等からなる第一の樹脂層101(厚さ:好ましくは12μm以上25μm以下)上に、ウレタン系接着剤等からなる接着層102(厚さ:好ましくは3μm以上5μm以下)が設けられている。接着層102上には、延伸ナイロン(ONy)等からなる第二の樹脂層103(厚さ:好ましくは15μm以上25μm以下)が設けられている。
【0041】
第二の樹脂層103上には、ウレタン系接着剤等からなる接着層104(厚さ:好ましくは3μm以上5μm以下)が設けられている。接着層104上には、アルミニウム箔等からなる金属箔層105(厚さ:好ましくは5μm以上10μm以下)が設けられている。金属箔層105上には、ウレタン系接着剤等からなる接着層106(厚さ:好ましくは5μm以上10μm以下)が設けられている。接着層106上には、積層体10(厚さ:好ましくは40μm以上310μm以下、より好ましくは50μm以上300μm以下)からなる本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムが設けられている。
【0042】
〈包装材の製造方法〉
本実施形態に係る包装材100の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の各種方法を利用することができる。例えば、ドライラミネート法等にて、接着層102,104を介して第一,二の樹脂層101,103及び金属箔層105を接着させると共に、接着層106を介して積層体(熱可塑性樹脂フィルム)10を接着させることにより、包装材100を得ることができる。
【0043】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム及び包装材100は、後工程の適性を向上させるために、必要に応じて表面改質処理を適宜施すことが可能である。例えば、印刷適性やラミネート適性等を向上させるため、他の層と接触する面に対して、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理等を施すことにより、表面を酸化させて官能基を生じさせたり、易接着性のコーティング処理等のウェットプロセスで改質したりすると、好適である。
【0044】
そして、本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム及び包装材100は、スタンディングパウチの他に、三方袋、合掌袋、ガゼット袋、スパウト付きパウチ、ビーク付きパウチ等として適用することが可能である。また、製袋の形状等の様式は、特に限定されるものではない。
【0045】
〈作用・効果〉
このような本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムにおいては、積層体10の配向係数が、MDにおいて0.15以上0.3以下になっていると共にTDにおいて0.4以上0.7以下になっている、又は、MDにおいて0.4以上0.7以下になっていると共にTDにおいて0.15以上0.3以下になっている。さらに、積層体10の(040)面の結晶子サイズが、100Å以上150Å以下になっている。
【0046】
これにより、本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムでは、異方性を大きく抑制することができると共に、フィルムの均一性を高めることができるので、特定方向への引き裂き性を大幅に低減させることができると共に、油分の吸収を均一化することができる。
【0047】
したがって、本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム及び包装材100によれば、ヒートシール性を有しながらも、十分な耐ゆず肌性及び低温(約-30℃以上0℃以下)での耐衝撃性を発現することができる。
【0048】
また、積層体10のヒートシール層11は、厚さが、5μm以上30μm以下であると好ましく、10μm以上20μm以下であるとさらに好ましい。厚さが、5μm未満であると、十分なヒートシール性を発現することが難しくなってしまい、あまり好ましくない。他方、厚さが、30μmを超えると、十分な耐ゆず肌性を発現することが難しくなってしまい、あまり好ましくない。
【0049】
また、積層体10の耐衝撃層12は、厚さが、積層体10の厚さの70%以上92%以下の割合であると好ましく、積層体10の厚さの75%以上85%以下の割合であるとさらに好ましい。70%未満であると、耐ゆず肌性及び低温での耐衝撃性を十分に発現することが難しくなってしまい、あまり好ましくない。92%を超えると、十分なヒートシール性を発現することが難しくなってしまい、あまり好ましくない。
【0050】
[他の実施形態]
なお、前述した実施形態においては、ヒートシール層11と耐衝撃層12との二層を含む積層体10からなる熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材100の場合について説明したが、本発明はこれに限らない。他の実施形態として、例えば、ヒートシール層及び耐衝撃層の二層に加えてさらに他の層を含む三層以上の積層体からなる熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材とすることも可能である。すなわち、少なくとも上記二層を含む積層体からなる熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材とすることが可能である。
【実施例0051】
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルム及びこれを利用する包装材の実施例を以下に説明するが、本発明は以下に具体的な数値等を挙げて説明する実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
[試験体及び比較体の作製]
〈試験例1〉
《熱可塑性樹脂フィルム》
ヒートシール層の材料に、サンアロマー株式会社製PP系熱可塑性樹脂(ランダム共重合体)「サンアロマー(登録商標)PC540R(品番)」を適用した。また、耐衝撃層の材料に、サンアロマー株式会社製PP系熱可塑性樹脂(ホモポリマ)「サンアロマー(登録商標)PC412A(品番)」を適用した。
【0053】
そして、上記材料を使用して、Tダイキャスト法にて成形温度250℃で積層体を形成し、150℃の恒温槽内でMD方向及びTD方向に延伸を加えて、ヒートシール層を厚さ5μm、耐衝撃層を厚さ55μm、MD方向の配向係数を0.15、TD方向の配向係数を0.7、結晶子サイズを100Åとなるように調整して熱可塑性樹脂フィルム(積層体)の試験体1Aを作製した。なお、配向係数及び結晶子サイズは、以下のようにして求めた。
【0054】
{配向係数}
王子計測機器株式会社製位相差測定装置「KOBRA-WR(品番)」を使用して、平行ニコル回転法にて、測定波長590nm、傾斜中心角を遅相軸に設定し、入射角依存測定により、MD,TD,NDの各方向の屈折率を測定した。測定した各方向の屈折率から、前記式1A~1C、2A~2C、3A~3Cに基づいて、各方向の配向係数を算出した。
【0055】
{結晶子サイズ}
株式会社リガク製ナノスケールX線構造評価装置(小角・広角X線散乱/回折装置)「Nano-Viewer(商品名)」を使用して、透過法にて、下記条件によりXRDを測定し、前記式4に基づいて、(040)面の結晶子サイズを算出した。
【0056】
X線源:CuKα
X線電圧:40kV
X線電流:30mA
検出器:PILATUS 100K
【0057】
《包装材》
第一の樹脂層として、ユニチカ株式会社製PET樹脂「エンブレット(登録商標)PET―12(品番)」(厚さ12μm)を使用した。第二の樹脂層として、ユニチカ株式会社製ONy樹脂「エンブレム(登録商標)ONBC-15(品番)」(厚さ15μm)を使用した。金属箔層として、東洋アルミニウム株式会社製アルミニウム箔(厚さ9μm)を使用した。接着層として、三菱化学株式会社製ウレタン系接着剤の主剤「タケラック(登録商標)A-626(品番)」及び硬化剤「タケネート(登録商標)A-50(品番)」を使用した。
【0058】
そして、ドライラミネート法にて、
図3に示したように、接着層を介して第一,二の樹脂層及び金属箔層を接着させると共に、接着層を介して熱可塑性樹脂フィルム(積層体)の試験体1Aを接着させることにより、接着層の厚さがそれぞれ3μmとなる包装材の試験体1Bを作製した。
【0059】
〈試験例2〉
積層体の結晶子サイズを150Åとした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体2A及び包装材の試験体2Bをそれぞれ作製した。
【0060】
〈試験例3〉
積層体のMD方向の配向係数を0.3とし、積層体のTD方向の配向係数を0.4とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体3A及び包装材の試験体3Bをそれぞれ作製した。
【0061】
〈試験例4〉
積層体の結晶子サイズを150Åとし、積層体のMD方向の配向係数を0.3とし、積層体のTD方向の配向係数を0.4とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体4A及び包装材の試験体4Bをそれぞれ作製した。
【0062】
〈試験例5〉
積層体のMD方向の配向係数を0.7とし、積層体のTD方向の配向係数を0.15とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体5A及び包装材の試験体5Bをそれぞれ作製した。
【0063】
〈試験例6〉
積層体の結晶子サイズを150Åとし、積層体のMD方向の配向係数を0.7とし、積層体のTD方向の配向係数を0.15とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体6A及び包装材の試験体6Bをそれぞれ作製した。
【0064】
〈試験例7〉
積層体のMD方向の配向係数を0.4とし、積層体のTD方向の配向係数を0.15とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体7A及び包装材の試験体7Bをそれぞれ作製した。
【0065】
〈試験例8〉
積層体の結晶子サイズ150Åとし、積層体のMD方向の配向係数を0.4とし、積層体のTD方向の配向係数を0.15とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体8A及び包装材の試験体8Bをそれぞれ作製した。
【0066】
〈試験例9〉
積層体のヒートシール層を厚さ18μmとし、積層体の耐衝撃層を厚さ42μmとした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体9A及び包装材の試験体9Bをそれぞれ作製した。
【0067】
〈試験例10〉
積層体のヒートシール層を厚さ30μmとし、積層体の耐衝撃層を厚さ270μmとした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体10A及び包装材の試験体10Bをそれぞれ作製した。
【0068】
〈試験例11〉
積層体のヒートシール層を厚さ30μmとし、積層体の耐衝撃層を厚さ70μmとした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体11A及び包装材の試験体11Bをそれぞれ作製した。
【0069】
〈試験例12〉
積層体のヒートシール層を厚さ4μmとし、積層体の耐衝撃層を厚さ36μmとした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体12A及び包装材の試験体12Bをそれぞれ作製した。
【0070】
〈試験例13〉
積層体のヒートシール層を厚さ31μmとし、積層体の耐衝撃層を厚さ71μmとした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体13A及び包装材の試験体13Bをそれぞれ作製した。
【0071】
〈試験例14〉
積層体のヒートシール層の材料に、サンアロマー株式会社製PP系熱可塑性樹脂(ブロック共重合体)「サンアロマー(登録商標)PC480A(品番)」を適用した以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの試験体14A及び包装材の試験体14Bをそれぞれ作製した。
【0072】
〈比較例1〉
積層体のMD方向の配向係数を0.13とし、積層体のTD方向の配向係数を0.72とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体1A及び包装材の比較体1Bをそれぞれ作製した。
【0073】
〈比較例2〉
積層体のMD方向の配向係数を0.32とし、積層体のTD方向の配向係数を0.38とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体2A及び包装材の比較体2Bをそれぞれ作製した。
【0074】
〈比較例3〉
積層体のMD方向の配向係数を0.72とし、積層体のTD方向の配向係数を0.13とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体3A及び包装材の比較体3Bをそれぞれ作製した。
【0075】
〈比較例4〉
積層体のMD方向の配向係数を0.38とし、積層体のTD方向の配向係数を0.32とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体4A及び包装材の比較体4Bをそれぞれ作製した。
【0076】
〈比較例5〉
積層体の結晶子サイズを95Åとした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体5A及び包装材の比較体5Bをそれぞれ作製した。
【0077】
〈比較例6〉
積層体の結晶子サイズを155Åとした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体6A及び包装材の比較体6Bをそれぞれ作製した。
【0078】
〈比較例7〉
積層体の結晶子サイズを95Åとし、積層体のMD方向の配向係数を0.3とし、積層体のTD方向の配向係数を0.4とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体7A及び包装材の比較体7Bをそれぞれ作製した。
【0079】
〈比較例8〉
積層体の結晶子サイズを155Åとし、積層体のMD方向の配向係数を0.3とし、積層体のTD方向の配向係数を0.4とした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体8A及び包装材の比較体8Bをそれぞれ作製した。
【0080】
〈比較例9〉
積層体のヒートシール層を省略して(厚さ0μm)、積層体の耐衝撃層を厚さ60μmとした以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体9A及び包装材の比較体9Bをそれぞれ作製した。
【0081】
〈比較例10〉
積層体のヒートシール層を厚さ60μmとし、積層体の耐衝撃層を省略した(厚さ0μm)以外は、試験例1と同様にすることにより、熱可塑性樹脂フィルムの比較体10A及び包装材の比較体10Bをそれぞれ作製した。
【0082】
[評価方法]
〈低温での耐衝撃性〉
試験例1~14の試験体1A~14A及び比較例1~10の比較体1A~10Aに対して、株式会社東洋精機製作所製恒温槽付フィルムインパクトテスタ(型式R)を用いて、秤量1.5J、弾頭サイズ1/2インチ、恒温槽-5℃の条件下における低温での耐衝撃値を算出した。なお、上記耐衝撃値は、測定値を厚さで除した値(単位J/mm)とした。算出された上記耐衝撃値に基づいて、低温での耐衝撃性を評価した。その結果を下記の表1,2に示す。
【0083】
ただし、表1,2中、「◎」は、低温での耐衝撃値が10J/mm以上となった場合を示し、「〇」は、低温での耐衝撃値が5J/mm以上10J/mm未満となった場合を示し、「×」は、低温での耐衝撃値が5J/mm未満となった場合を示している。
【0084】
〈耐ゆず肌性〉
試験例1~14の試験体1B~14B及び比較例1~10の比較体1B~10Bに対して、テスター産業株式会社製ヒートシーラを用いて、シール圧0.2MPa、シール温度200℃、シール時間1秒の条件下、ヒートシール層同士をシール幅5mmでヒートシールして150mm×210mmの大きさの三方袋をそれぞれ作製した。作製した各袋に大塚食品株式会社製レトルトカレー「ボンカレー(登録商標)辛口」を充填した後、121℃で30分間のレトルト処理を施した直後の袋の表面の凹凸状況を目視確認した。その結果を下記の表1,2に示す。
【0085】
ただし、表1,2中、「◎」は、凹凸のゆず肌がまったく発生しなかった場合を示し、「〇」は、ごく僅かな凹凸のゆず肌が発生した場合を示し、「△」は、問題とならない程度の凹凸のゆず肌が発生した場合を示し、「×」は、重度な凹凸のゆず肌が発生した場合を示している。
【0086】
〈ヒートシール性〉
日本工業規格「JIS Z0238」の規定に準拠してテストピースを作製した。具体的には、試験例1~14の試験体1A~14A及び比較例1~10の比較体1A~10Aをそれぞれ2枚ずつ用意する。そして、お互いのヒートシール層同士を合わせた後、厚さ12μmのPET樹脂フィルムで覆うようにPET樹脂フィル間に挟み込む。続いて、幅5mmのシールバーにて圧力0.2MPaで挟んで、一方面側のみ160°で1秒間加熱することによりシールしてテストピースを作製した。
【0087】
そして、日本工業規格「JIS Z0238」の規定に準拠して、各テストピースを幅15mm×長さ100mmに調製した後、チャック間距離50mm、引張速度300mm/分にてヒートシール強度を測定した。測定されたヒートシール強度に基づいて、ヒートシール性を評価した。その結果を下記の表1,2に示す。
【0088】
ただし、表1,2において、「◎」は、ヒートシール強度が20N/15mm以上となった場合を示し、「〇」は、ヒートシール強度が15N/15mm以上20N/15mm未満となった場合を示し、「△」は、ヒートシール強度が10N/15mm以上15N/15mm未満となった場合を示し、「×」は、ヒートシール強度が10N/15mm未満となった場合を示している。
【0089】
[評価結果]
試験例1~14及び比較例1~10における低温での耐衝撃性、耐ゆず肌性、ヒートシール性の評価結果を下記の表1,2にそれぞれ示す。
【0090】
【0091】
【0092】
表1,2からわかるように、比較例1,3は、配向係数が大きく、MD方向やTD方向の異方性が高いことから、低温での耐衝撃性が低下してしまった。比較例2,4は、ランダムな配向性が高いことから、低温での耐衝撃性が低下してしまった。比較例5,7は、配向により結晶子サイズが小さくなっていることから、結晶層が破断されてしまい、低温での耐衝撃性が低下してしまった。比較例6,8は、結晶子サイズが大きくなっていることから、面内における油分吸収の均一性が低下してしまい、耐ゆず肌性が低下してしまった。
【0093】
比較例9は、ヒートシール層がないことから、ヒートシール強度を得ることができず、ヒートシール性が低下してしまった。比較例10は、耐衝撃層がないことから、低温での耐衝撃性が低下してしまうばかりか、ランダム共重合体だけで構成されてしまうことから、面内における油分吸収の均一性が低下してしまい、耐ゆず肌性も低下してしまった。
【0094】
これに対し、試験例12は、ヒートシール層が比較的薄く、ヒートシール強度が小さくなり、ヒートシール性の低下がみられたものの、実用的には問題がない程度であった。試験例13は、ランダム共重合体によるヒートシール層が比較的厚く、面内における油分吸収の均一性が低下して、耐ゆず肌性の低下がみられたものの、実用的には問題がない程度であった。試験例14は、ヒートシール層がブロック共重合体で構成されているため、成分のブロック化により、面内における油分吸収の均一性が低下して、耐ゆず肌性の低下がみられたものの、実用的には問題がない程度であった。
【0095】
そして、試験例1~11においては、低温での耐衝撃性、耐ゆず肌性、ヒートシール性のすべてにおいて、優良な結果が得られることを確認できた。
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルム及び包装材は、ヒートシール性を有しながらも、十分な耐ゆず肌性及び低温での耐衝撃性を発現することができるので、レトルト食品用の包装材等を始めとして各種産業において、極めて有益に利用することができる。