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特開2024-59027フィルムコンデンサ用樹脂組成物、コンデンサ用フィルム及びフィルムコンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059027
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】フィルムコンデンサ用樹脂組成物、コンデンサ用フィルム及びフィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20240422BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240422BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240422BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240422BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240422BHJP
   C08L 35/00 20060101ALI20240422BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240422BHJP
【FI】
H01G4/32 511L
C08J5/18
C08G73/10
C08L79/08
C08L63/00 A
C08L35/00
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166502
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】七里 徳重
(72)【発明者】
【氏名】岡本 允子
(72)【発明者】
【氏名】出口 英寛
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J043
5E082
【Fターム(参考)】
4F071AA39
4F071AA42
4F071AA60
4F071AA86
4F071AB20
4F071AC19
4F071AE03
4F071AF14Y
4F071AF21Y
4F071AF39Y
4F071AF40Y
4F071AH12
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4J002BH022
4J002CD002
4J002CM041
4J002DE186
4J002DJ006
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002FD016
4J002FD142
4J002GQ01
4J043PA01
4J043PB08
4J043PB11
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA34
4J043SA06
4J043TA22
4J043UA151
4J043UA152
4J043UB021
4J043UB022
4J043UB131
4J043UB132
4J043VA041
4J043VA042
4J043XA16
4J043XB02
4J043YB02
4J043YB19
4J043YB29
4J043ZA06
4J043ZA12
4J043ZA31
4J043ZA42
4J043ZA46
4J043ZB11
4J043ZB47
5E082BC31
5E082EE07
5E082EE23
5E082EE24
5E082EE37
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG38
(57)【要約】
【課題】高誘電率でありながら低誘電性正接であるコンデンサ用フィルムを形成することができるフィルムコンデンサ用樹脂組成物、及び、該組成物から形成されるコンデンサ用フィルム並びにフィルムコンデンサを提供する。
【解決手段】イミド構造を有する樹脂Aを含有するフィルムコンデンサ用樹脂組成物において、前記樹脂Aの少なくとも一方の末端が酸無水物部位又はアミノ基であり、前記樹脂Aの酸無水物当量又はアミンの活性水素当量が20000以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミド構造を有する樹脂Aを含有するフィルムコンデンサ用樹脂組成物において、
前記樹脂Aの少なくとも一方の末端が酸無水物部位又はアミノ基であり、
前記樹脂Aの酸無水物当量又はアミンの活性水素当量が20000以下である、フィルムコンデンサ用樹脂組成物。
【請求項2】
酸無水物又はアミノ基と反応する樹脂Bをさらに含有する、請求項1に記載のフィルムコンデンサ用樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂Bは、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂及びアリル基を有する樹脂からなる群より選ばれる1種以上である、請求項2に記載のフィルムコンデンサ用樹脂組成物。
【請求項4】
無機フィラーを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ用樹脂組成物の硬化物を含有する、コンデンサ用フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のコンデンサ用フィルムを有するフィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサ用樹脂組成物、コンデンサ用フィルム及びフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサ用フィルムは、自動車分野、家電分野等、幅広い分野で利用されており、近年では、コンデンサの更なる小型化、高容量化、高信頼性の要望が益々高まっていることから、コンデンサ用フィルムに対してもより高度な性能が求められる。コンデンサ用フィルムとしては、例えば、ポリエーテルイミド、芳香族液晶ポリエステル等の樹脂で形成できることが知られている。コンデンサ用フィルムの性能を高めるべく、これらの樹脂を改質させて、コンデンサフィルムにより適したフィルムを形成するための検討が盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定量の無機充填剤含有量を含有するポリエーテルイミドフィルムをコンデンサ用フィルムに適用する技術が提案されている。斯かるポリエーテルイミドフィルムでは、フィルム厚みが薄いにもかかわらずフィルム厚みが均一であり、より高い引張強度を有することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-60161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、特に電気自動車やハイブリッドカー向けのコンデンサ用フィルムでは、高誘電率、かつ、低誘電性正接であることが求められており、加えて、高絶縁破壊電圧、高強度、高耐熱性等の特性が強く求められている。とりわけ、コンデンサ用フィルムにおいて、誘電率と、誘電性正接とは互いにトレードオフの関係にあるため、高誘電率でありながら低誘電性正接であるコンデンサ用フィルムを形成することが難しいものとされていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、高誘電率でありながら低誘電性正接であり、強度も高いコンデンサ用フィルムを形成することができるフィルムコンデンサ用樹脂組成物、及び、該組成物から形成されるコンデンサ用フィルム並びにフィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のポリイミド樹脂を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
イミド構造を有する樹脂Aを含有するフィルムコンデンサ用樹脂組成物において、
前記樹脂Aの少なくとも一方の末端が酸無水物部位又はアミノ基であり、
前記樹脂Aの酸無水物当量又はアミンの活性水素当量が20000以下である、フィルムコンデンサ用樹脂組成物。
項2
酸無水物又はアミノ基と反応する樹脂Bをさらに含有する、項1に記載のフィルムコンデンサ用樹脂組成物。
項3
前記樹脂Bは、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂及びアリル基を有する樹脂からなる群より選ばれる1種以上である、項2に記載のフィルムコンデンサ用樹脂組成物。
項4
無機フィラーを含有する、項1~3のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ用樹脂組成物。
項5
項1~4のいずれか1項に記載のフィルムコンデンサ用樹脂組成物の硬化物を含有する、コンデンサ用フィルム。
項6
請求項5に記載のコンデンサ用フィルムを有するフィルムコンデンサ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、高誘電率でありながら低誘電性正接であり、強度も高いコンデンサ用フィルムを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
1.フィルムコンデンサ用樹脂組成物
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、イミド構造を有する樹脂Aを含有し、前記樹脂Aの少なくとも一方の末端が酸無水物部位又はアミノ基であり、前記樹脂Aの酸無水物当量又はアミンの活性水素当量が20000以下である。
【0012】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物によれば、高い強度を有するコンデンサ用フィルム、特には破断強度及び破断伸びの両方が高いコンデンサ用フィルムを形成することができる。従って、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、コンデンサ用フィルムを形成するための原料として好適である。
【0013】
(樹脂A)
樹脂Aは、前述のように、イミド構造を有し、少なくとも一方の末端が酸無水物部位又はアミノ基であり、前記樹脂Aの酸無水物当量又はアミンの活性水素当量が20000以下である限り、その種類は特に限定されない。樹脂Aは、例えば、ポリイミド樹脂を挙げることができる。
【0014】
具体的に樹脂Aとしては、少なくとも一方の末端に酸無水物部位又はアミノ基を有するポリイミド樹脂を挙げることができる。ここで、酸無水物部位とは、
-C(=O)-O-C(=O)-
で表される構造を挙げることができる。酸無水物部位の具体例としては、下記式(10)で表される構造を挙げることができる。
【0015】
【化1】
【0016】
アミノ基は、例えば、-NHで表され、第1級アミンに由来する官能基を挙げることができる。
【0017】
酸無水物部位又はアミノ基はいずれも樹脂A(例えば、ポリイミド樹脂)の末端に直接結合(共有結合)することができる。また、例えば、後記する式(4)で表される樹脂Aのように、酸無水物部位又はアミノ基と、樹脂A末端との間に他の2価の有機基を介在させて結合していてもよい。
【0018】
酸無水物部位又はアミノ基は、樹脂Aの片末端のみに結合していてもよいし、両末端に結合していてもよく、両末端に結合していることが好ましい。この場合、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、高誘電率でありながら低誘電性正接であるコンデンサ用フィルムを形成することができる。酸無水物部位又はアミノ基が樹脂Aの両末端に結合している場合、一方の末端に結合すると酸無水物部位又はアミノ基と、他方の末端に結合する酸無水物部位又はアミノ基とは同一であってもよい、異なっていてもよい。また、一方の末端が酸無水物部位であり、他方の末端がアミノ基の組み合わせであってもよい。好ましくは、両末端の構造が同一であることである。
【0019】
樹脂Aの末端に酸無水物部位又はアミノ基を導入する方法は特に限定されず、例えば、後記するように樹脂Aを合成する際に使用する原料(単量体)のモル比を調節することで、樹脂Aの末端に酸無水物部位又はアミノ基を導入することができる。
【0020】
前記樹脂Aの酸無水物当量又はアミンの活性水素当量が20000以下である。すなわち、前記樹脂Aは、酸無水物当量が20000以下、あるいは、アミンの活性水素当量が20000以下を満たすことが必要である。この場合、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、高誘電率でありながら低誘電性正接であるコンデンサ用フィルムを形成することができる。酸無水物当量又はアミンの活性水素当量の単位は、g/eqと表記することもできるが、本明細書では酸無水物当量又はアミンの活性水素当量の単位は無単位とする。樹脂Aの酸無水物当量又はアミンの活性水素当量は、樹脂A中の酸無水物部位の含有量又はアミノ基の含有量から計算することができ、また、樹脂Aを製造する際の各モノマーの配合量から酸無水物当量又はアミンの活性水素当量を計算することもできる。
【0021】
前記樹脂Aの酸無水物当量は、15000以下であることが好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。また、前記樹脂Aの酸無水物当量は、1000以上であることが好ましく、2000以上であることがさらに好ましい。
【0022】
前記樹脂Aのアミンの活性水素当量は、15000以下であることが好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。また、前記樹脂Aのアミンの活性水素当量は、1000以上であることが好ましく、2000以上であることがさらに好ましい。
【0023】
前記樹脂A(ポリイミド樹脂)の構造としては、前述の特許文献1に開示のポリエーテルイミド樹脂と同様の構造を挙げることができる。
【0024】
樹脂Aの一例として、下記式(1)、(2)、(3)及び(4)で表されるポリイミド樹脂を挙げることができる。
【0025】
【化2】
【0026】
樹脂Aの重量平均分子量は特に限定されない。例えば、ポリスチレン標準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフで測定した樹脂Aの重量平均分子量は、10000以上、200000以下とすることができる。これにより、高誘電率でありながら低誘電性正接であるコンデンサ用フィルムを形成しやすく、しかも、高い機械強度及び高い絶縁破壊電圧を有するコンデンサ用フィルムを形成しやすい。
【0027】
樹脂Aの前記重量平均分子量は、2000以上であることが好ましく、3000以上であることがさらに好ましく、また、40000以下であることが好ましく、20000以下であることがさらに好ましい。
【0028】
樹脂Aの前記重量平均分子量を調節する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法と同様の方法で重量平均分子量を調節することができる。重量平均分子量を調節する具体的な方法としては、樹脂の製造時に使用する酸無水物とジアミンとのモル比を1:1の当量からずらす方法、樹脂の製造時に一価の酸無水物やモノアミンを微量加えて生長する高分子鎖の鎖長延長を防ぐ方法が挙げられる。
【0029】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物に含まれる樹脂Aは1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることができる。
【0030】
樹脂Aの製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。例えば、公知のポリイミド樹脂の製造方法と同様の方法で樹脂Aを製造することができる。例えば、2個又は2個以上のアミノ基を有する化合物と、2個又は2個以上の酸無水物を有する化合物との反応により、樹脂Aを製造することができ、具体的には、2個又は2個以上の酸無水物を有する芳香族化合物と有機ジアミンとの反応が挙げられる。
【0031】
有機ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミン化合物を挙げることができ、具体的には、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)メタン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,4-ビス(2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシフェニルメタン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシフェニルエーテル、ビスアミノフェニルフルオレン、ビストルイジンフルオレン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシフェニルエーテル、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジヒドロキシビフェニル等が挙げられる。なかでも、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(本明細書においてBAPPと表記する)が好ましい。
【0032】
2個又は2個以上の酸無水物を有する芳香族化合物としては、4,4’-ビフタル酸無水物、無水ピロメリット酸、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸無水物、1,2,4,5-ナフタレンテトラカルボン酸無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、2,3,5,6-ピリジンテトラカルボン酸無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸無水物、4,4’-スルホニルジ無水フタル酸、1-トリフルオロメチル-2,3,5,6-ベンゼンテトラカルボン酸無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル無水物、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸無水物、2,3,2’,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、フェナンスレン-1,8,9,10-テトラカルボン酸無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸無水物、チオフエン-2,3,4,5-テトラカルボン酸無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、2,3,2’,3’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド無水物、ビスフェノールA型酸二無水物(SHPPジャパン合同会社製「BISDA-1000」)等を挙げることができる。
【0033】
二個の酸無水物を有する芳香族化合物と有機ジアミンとの反応においては、二個の酸無水物を有する芳香族化合物と有機ジアミンとのモル比が1:1のときは、得られる樹脂Aの末端に酸無水物部位又はアミノ基が結合しない。従って、二個の酸無水物を有する芳香族化合物と有機ジアミンとの反応においては、二個の酸無水物を有する芳香族化合物と有機ジアミンとのモル比(二個の酸無水物を有する芳香族化合物:有機ジアミン)は1:1以外であって、例えば、1:0.5~1:1.5とすることができる。
【0034】
二個の酸無水物を有する芳香族化合物と有機ジアミンとの反応において、温度は特に限定されず、例えば、100~170℃とすることができる。
【0035】
樹脂Aの製造方法では、溶媒を使用することができる。斯かる溶媒の種類は特に限定されず、例えば、トルエン、アニソール、N,N-ジメチルアセトアミド等を挙げることができ、混合溶媒であってもよい。樹脂Aの製造方法では、樹脂Aが製造された後、溶媒を除去することも好ましい。この場合、樹脂Aに対して溶媒の含有割合が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下となるように溶媒を除去する。
【0036】
(樹脂B)
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、酸無水物又はアミノ基と反応する樹脂Bを含むことができる。斯かる樹脂Bが本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物に含まれる場合、樹脂Bは、例えば、前記樹脂Aの末端の酸無水物部位又はアミノ基と反応することができる。この結果、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、高誘電率でありながら低誘電性正接であるコンデンサ用フィルムを形成しやすく、しかも、高い機械強度及び高い絶縁破壊電圧を有するコンデンサ用フィルムを形成しやすい。
【0037】
樹脂Bは、酸無水物又はアミノ基と反応する樹脂である限り、その種類は特に限定されない。樹脂Bとしては、例えば、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂及びアリル基を有する樹脂を挙げることができる。
【0038】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、2,2’-ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリアジン型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンフェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アルキルポリオール型エポキシ樹脂、ゴム変性型エポキシ樹脂、グリシジルエステル化合物等が挙げられる。
【0039】
マレイミド樹脂としては、例えば、N,N’-(4,4’-ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、m-フェニレンビスマレイミド(N,N’-1,3-フェニレンビスマレイミド)、1,6-ビスマレイミドヘキサン、1,2-ビスマレイミドエタン(N,N’-エチレンジマェイミド)、N,N’-(1,2-フェニレン)ビスマレイミド、N,N'-1,4-フェニレンジマレイミド、N,N'-(スルホニルジ-p-フェニレン)ジマレイミド、N,N’-[3,3’-(1,3-フェニレンジオキシ)ジフェニル]ビスマレイミド等を挙げることができる。
【0040】
アリル基を有する樹脂としては、例えば、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、ジフェン酸ジアリル、2,3-ナフタレンカルボン酸ジアリル、ジフェニルジアリルシラン、2,2’-ジアリルビスフェノールA、N,N-ジアリルアクリルアミド、ジアリルアミン、ジアリルメタクリルアミド、トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルフォスフェート、ピロメリット酸テトラアリル、アリルグリシジルエーテル(ネオアリルG:ダイソー株式会社製)、トリメチロールプロパンジアリルエーテル(ネオアリルT-20:ダイソー株式会社製)、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル(ネオアリルP-30:ダイソー株式会社製)、グリセリンモノアリルエーテル(ネオアリルE-10:ダイソー株式会社製)、5-アリル-1,3-ジグリシジルイソシアヌル酸(MA-DGIC:四国化成株式会社製)、1,3-ジアリル-5-グリシジルイソシアヌル酸(DA-MGIC:四国化成株式会社)、1,3-ジアリル-5-メチルイソシアヌル酸(MeDAIC:四国化成株式会社)、ジアリルビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(RE-810NM:日本化薬株式会社製)、ジアリルビスフェノールS型ジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0041】
樹脂Bは1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることができる。
【0042】
樹脂Bの製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。また、樹脂Bは、市販品等から入手することも可能である。
【0043】
(硬化剤)
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物が前記樹脂Bを含む場合、前記樹脂Bは前記樹脂Aを硬化するための硬化剤として機能し得るが、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、樹脂Bとは別に他の硬化剤を含むことができる。とりわけ、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物が前記樹脂Aに対して当量以上の樹脂Bを含む場合は樹脂Bとは別に他の硬化剤を含むことが好ましい。
【0044】
硬化剤(樹脂Bを除く)は各種熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させる作用を有する限りは特に限定されず、例えば、公知の硬化剤を広く挙げることができる。硬化剤としては、例えば、公知のエポキシ樹脂硬化剤を挙げることができ、具体的には、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、グアニジン系硬化剤、チオール系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤、酸無水物系硬化剤、有機過酸化物系硬化剤等が挙げられる。
【0045】
アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカン、ジエチレント
リアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリエチレンポリアミン類;1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、ノルボルナンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、又は2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の含環アミン類等が挙げられる。
【0046】
イミダゾール系硬化剤としては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、又は1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。
【0047】
グアニジン系硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、ビグアニド、又はn-ブチルグアニジン、グアニルチオウレア等が挙げられる。
【0048】
チオール系硬化剤としては、例えば、トリス(3-メルカプトプロピオネート)、ブタンジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールエタン(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリスブタンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、又はペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート等が挙げられる。
【0049】
フェノール樹脂系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等が挙げられる。特に誘電率が高くなることから、フェノール樹脂系硬化剤の中でもアミノトリアジンノボラック樹脂が好適に使用できる。アミノトリアジンノボラック樹脂の例としてはフェノライトLA1356、LA3018-50P、LA7053,LA7054、LA7757等が挙げられる。
【0050】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、3,4,5,6-テトラヒドロ無水フタル酸、4-メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、オクテニルコハク酸無水物等が挙げられる。
【0051】
有機過酸化物系硬化剤としては、例えば、ラウロイルパーオキシド、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート等が挙げられる。
【0052】
マレイミドの硬化剤としては、ラジカル重合開始剤や下記式(10)で表されるアリルフェノール基を有する化合物が挙げられる。
【0053】
【化3】
【0054】
硬化剤は1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることができる。
【0055】
(フィルムコンデンサ用樹脂組成物)
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物が樹脂Bを含む場合、樹脂Bの含有割合は特に限定されない。例えば、100質量部の樹脂Aに対して、樹脂Bは、1~50質量部含まれることが好ましい。この場合、より高い誘電率を有するコンデンサ用フィルムを形成しやすい。100質量部の樹脂Aに対して、樹脂Bは、3質量部以上含むことが好ましく、5質量部以上含むことがより好ましく、10質量部以上含むことがさらに好ましく、30質量部以上含むことが特に好ましく、80質量部以下含むことがより好ましく、50質量部以下含むことがさらに好ましい。
【0056】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物が前記硬化剤を含む場合、その含有割合は特に限定されず、例えば、100質量部の樹脂Bに対し、10~1000質量部とすることができ、好ましくは50~500質量部、より好ましくは80~200質量部である。
【0057】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、前記樹脂A及び前記樹脂B以外に他の成分を含有することができる。他の成分としては、例えば、無機フィラーを挙げることができる。本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物が無機フィラーを含む場合、より高い誘電率を有するフィルムコンデンサを形成することができる。
【0058】
無機フィラーの種類は特に限定されず、例えば、マイカ、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム及びチタン酸マグネシウム等を挙げることができ、中でもチタン酸バリウムであることが好ましい。
【0059】
無機フィラーの大きさは特に限定されず、例えば、平均粒子径を0.05μm~1μmとすることができ、好ましくは、0.05μm~0.5μmである。無機フィラーの平均粒子径は、動的光散乱法で計測される値を意味する。無機フィラーは、例えば、親水化又は疎水化等の表面処理がなされていてもよい。
【0060】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物が無機フィラーを含む場合、その含有割合は特に限定されない。例えば、前記樹脂A及び前記樹脂Bの総質量100質量部あたり、無機フィラーは1~50質量部含まれることが好ましい。これにより、より高い誘電率を有するコンデンサ用フィルムを形成しやすく、また、低い低誘電性正接であるコンデンサ用フィルムも形成しやすい。前記樹脂A及び前記樹脂Bの総質量100質量部あたり、無機フィラーは2~20質量部含まれるがことより好ましい。
【0061】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、無機フィラーの他、公知のフィルムコンデンサ用樹脂組成物に含まれる成分を含むことでき、硬化促進剤、硬化触媒、分散剤、光安定剤、酸化防止剤、防腐剤、難燃剤、顔料、着色剤、防カビ剤、滑剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種又は2種以上が組成物1に含まれていてもよい。
【0062】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、溶媒を含むことができる。斯かる溶媒の種類は特に限定されず、例えば、公知のフィルムコンデンサ用樹脂組成物に含まれる溶媒を広く挙げることができる。溶媒は、トルエン、キシレン、アニソール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が好ましい。本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物に含まれる溶媒は1種単独又は2種以上の混合物とすることができる。
【0063】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物が溶媒を含む場合、溶媒の含有割合は特に限定されず、例えば、固形分濃度が10~50質量%となるように溶媒を含むことができる。本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物の固形分濃度は、20~40質量%であることがより好ましい。
【0064】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、全固形分に対して樹脂A及び樹脂Bを50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましく、80質量%以上含むことが特に好ましい。
【0065】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物によれば、高誘電率でありながら低誘電性正接であるコンデンサ用フィルムを形成することができる。しかも、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物から形成されるコンデンサ用フィルムは、機械強度が高く、また、絶縁破壊電圧も高いものである。従って、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物は、フィルムコンデンサを形成するための原料として好適に使用することができる。
【0066】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物の調製方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。例えば、所定の樹脂Aと、樹脂Bと、無機フィラーと、溶媒とを所定量で混合することで、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物を調製することができる。
【0067】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物の携帯は特に限定されず、例えば、固体状であっても良いし、液体状であってもよい。固体状である場合、例えば、ペレット状、粉末状等の形状であり、液体状である場合、例えば、溶液、分散液、ペースト状である。
【0068】
2.コンデンサ用フィルム及びフィルムコンデンサ
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物を用いて、コンデンサ用フィルムを形成することができる。
【0069】
コンデンサ用フィルムを形成する方法は特に限定されず、例えば、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物を硬化させる方法により、コンデンサ用フィルムを形成することができる。従って、コンデンサ用フィルムは、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物の硬化物を含有することができる。
【0070】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物からコンデンサ用フィルムを製造する方法として、溶液キャスティング法、押出法等の各種方法を採用することができる。
【0071】
溶液キャスティング法では、溶媒を含有するフィルムコンデンサ用樹脂組成物を、基板上にキャスティング液層を形成し、斯かるキャスティング液層から溶媒を適宜の方法で除去することで、コンデンサ用フィルムが形成され得る。溶媒を除去するための条件も特に限定的ではなく、溶媒の種類等に応じて適宜の条件を採用することができる。
【0072】
押出法では、例えば、固体状のフィルムコンデンサ用樹脂組成物を単軸又は二軸押出機を用いて押出すことによって、コンデンサ用フィルムを製造することができる。
【0073】
本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物を用いて得られるコンデンサ用フィルムの厚みは特に限定されず、例えば、公知のコンデンサ用フィルムと同様の厚みに調節することができる。例えば、コンデンサ用フィルムの厚みは1~20μmとすることができる。
【0074】
コンデンサ用フィルムを用いてフィルムコンデンサを製造することができる。斯かるフィルムコンデンサは、本発明のフィルムコンデンサ用樹脂組成物を用いて得られるコンデンサ用フィルムを含むので、高誘電率でありながら低誘電性正接であるコンデンサ用フィルムを形成することができる。
【0075】
フィルムコンデンサは、表面に金属膜が設けられていてもよい。金属膜に使用する金属としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、金、銀、銅等を挙げることができる。金属膜を形成する方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法等、公知の方法で形成することができる。フィルムコンデンサを用いて、コンデンサ素子を製造することができる。
【0076】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0077】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0078】
(製造例1)
テフロン(登録商標)スターラーを入れた500mLの丸底フラスコに160gのN、N-ジメチルホルムアミド及び80gのトルエンからなる混合溶媒を投入した。次いで、BAPP(セイカ株式会社製、ジアミン)41g(0.1モル)、BISDA-1000(サビック社製、酸無水物)62g(0.12モル)をこの順に前記混合溶媒に加え、混合物を調製した。混合物における二個の酸無水物を有する芳香族化合物と有機ジアミンとのモル比(二個の酸無水物を有する芳香族化合物:有機ジアミン)は0.12:0.10であった。ディーンスターク管とコンデンサをフラスコに取り付け、前記混合物を5時間にわたって還流し、前記式(1)で表される末端に酸無水物を有するポリイミド樹脂1を得た。得られたポリイミド樹脂の酸無水物当量は計算値で2500であった。
【0079】
(製造例2)
テフロン(登録商標)スターラーを入れた500mLの丸底フラスコに160gのN、N-ジメチルホルムアミド及び70gのトルエンからなる混合溶媒を投入した。次いで、BAPP(セイカ株式会社製、ジアミン)45.1g(0.11モル)、BISDA-1000(サビック社製、酸無水物)52g(0.1モル)をこの順に前記アニソールに加え、混合物を調製した。混合物における二個の酸無水物を有する芳香族化合物と有機ジアミンとのモル比(二個の酸無水物を有する芳香族化合物:有機ジアミン)は0.10:0.11であった。ディーンスターク管とコンデンサをフラスコに取り付け、前記混合物を5時間にわたって還流し、前記式(2)で表される末端にアミノ基を有するポリイミド樹脂2を得た。得られたポリイミド樹脂のアミンの活性水素当量は計算値で2400であった。
【0080】
(製造例3)
テフロン(登録商標)スターラーを入れた500mLの丸底フラスコに160gのN、N-ジメチルホルムアミド及び60gのトルエンからなる混合溶媒を投入した。次いで、BAPP(セイカ株式会社製、ジアミン)45.1g(0.11モル)、BISDA-1000(サビック社製、酸無水物)16.1g(0.05モル)、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物14.7g(0.05モル)をこの順に前記アニソールに加え、混合物を調製した。混合物における二個の酸無水物を有する芳香族化合物と有機ジアミンとのモル比(二個の酸無水物を有する芳香族化合物:有機ジアミン)は0.1:0.11であった。ディーンスターク管とコンデンサをフラスコに取り付け、前記混合物を5時間にわたって還流し、前記式(4)で表される末端にアミノ基を有するポリイミド樹脂3を得た。得られたポリイミド樹脂のアミンの活性水素当量は計算値で2100であった。
【0081】
(実施例1)
製造例1で得たポリイミド樹脂1の溶液を固形分換算量で90質量部と、日本化薬社のエポキシ樹脂「NC-3000」を10質量部と、東京化成社の硬化促進剤「ジメチルアミノピリジン」を1質量部とを混合した。これにより、フィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0082】
(実施例2)
ポリイミド樹脂1の代わりに製造例2で得たポリイミド樹脂2を使用したこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0083】
(実施例3)
ポリイミド樹脂1の代わりに製造例3で得たポリイミド樹脂3を使用したこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0084】
(実施例4)
製造例1で得たポリイミド樹脂3の溶液を固形分換算量で90質量部と、DIC社のエポキシ樹脂「HP-6000」を10質量部と、東京化成社の硬化促進剤「ジメチルアミノピリジン」を1質量部とを混合した。これにより、フィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0085】
(実施例5)
製造例2で得たポリイミド樹脂3の溶液を固形分換算量で90質量部と、ケイアイ化成社の「マレイミド樹脂BMI-70」を10質量部とを混合した。これにより、フィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0086】
(実施例6)
製造例2で得たポリイミド樹脂3の溶液を固形分換算量で90質量部と、新菱社の「TAIC(トリアリルイソシアヌレート)」を5質量部とを混合した。これにより、フィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0087】
(実施例7)
製造例1で得たポリイミド樹脂2の溶液を固形分換算量で90質量部と、日本化薬社のエポキシ樹脂「NC-3000」を10質量部と、無機フィラーとしてチタン酸バリウムを5質量部と、東京化成社の硬化促進剤「ジメチルアミノピリジン」を1質量部とを混合した。これにより、フィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0088】
(実施例8)
製造例1で得たポリイミド樹脂2の溶液を固形分換算量で90質量部と、日本化薬社のエポキシ樹脂「NC-3000」を10質量部と、無機フィラーとしてチタン酸バリウムを10質量部と、東京化成社の硬化促進剤「ジメチルアミノピリジン」を1質量部とを混合した。これにより、フィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0089】
(比較例1)
末端に酸無水物部位及びアミノ基を有さないポリイミド樹脂PIAD300(荒川化学社)の溶液を固形分換算量で90質量部と、日本化薬社のエポキシ樹脂「NC-3000」を10質量部と、東京化成社の硬化促進剤「ジメチルアミノピリジン」を1質量部とを混合した。これにより、フィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0090】
(比較例2)
メチルエチルケトン100gに日本化薬社のエポキシ樹脂「NC-3000」を50質量部と、UBE(旧明和化成)社のエポキシ樹脂硬化剤「MEHC7851H(フェノール樹脂)」を50質量部と、東京化成社の硬化促進剤「ジメチルアミノピリジン」を1質量部とを加え攪拌して溶解した。これにより、フィルムコンデンサ用樹脂組成物を得た。
【0091】
(評価方法)
(コンデンサ用フィルムの作製)
各実施例及び比較例で得られた溶液(フィルムコンデンサ用樹脂組成物)を、片面に離型処理を施した厚さ50μmのPETフィルム(中本バックス社製)上に、乾燥皮膜の厚さが30μmとなるようにドクターナイフで塗工して塗膜を形成した。この塗膜を100℃で10分間加熱した後、170℃、30分間加熱養生を行い、樹脂フィルムを形成させた。この樹脂フィルムをコンデンサ用フィルムとした。なお、比較例1で得た溶液を用いた場合は、乾燥後、膜が脆く、剥離できなかったため、フィルムの評価に至らなかった。
【0092】
<フィルムの破断強度、破断伸び>
上記のよう作製したコンデンサ用フィルムを幅20mm、長さ100mmの大きさに切り出してサンプルを作製した。このサンプルを、テンシロン引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGS-X 500N)を使用して、25℃、引張速度510mm/秒の条件にて引っ張り試験を行い、切断時の応力および伸びを測定した。
【0093】
<フィルムの誘電率、誘電正接>
上記のよう作製したコンデンサ用フィルムを40mm角の大きさに切り出し、両面に直径20mm、厚さ0.1ミクロンのプラチナ電極をスパッタリングにより形成してサンプルを作製した。このサンプルをLCRメーター(キーサイト社製E4980AL)を使用して25℃、1kHzにおける誘電率及び誘電正接を測定した。
【0094】
<フィルムの絶縁破壊電圧>
上記のよう作製したコンデンサ用フィルムを100mm角の大きさに切り出してサンプルを作製した。このサンプルをシリコーンオイル中で25℃にて絶縁破壊電圧を測定した。測定装置は、絶縁破壊電圧測定装置(多摩電測株式会社製、油中試験電極装置TOJ-200)を使用し、電極は、直径6.425mmの円柱状の上部電極、直径75mmの円柱状の上下部電極を使用し、昇圧速度50V/秒にて絶縁破壊電圧を測定した。
【0095】
表1には、各実施例及び比較例で得たフィルムコンデンサ用樹脂組成物の配合条件並びに得られたコンデンサフィルムの評価結果を示している。なお、表1中の空欄は、その原料を使用していないことを意味する。また、表1中、「官能基当量」については、ポリイミド樹脂の欄においては酸無水物当量又はアミンの活性水素当量を、その他の欄においては官能基当量を意味する。
【0096】
【表1】
【0097】
表1から、実施例で得られたフィルムコンデンサ用樹脂組成物から形成されるコンデンサフィルムは、高誘電率でありながら低誘電性正接であることがわかり、また、機械強度が高く、絶縁破壊電圧も高いものであった。