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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059036
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】放射性廃棄物処理用固化材
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/16 20060101AFI20240422BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240422BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240422BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G21F9/16 511A
G21F9/16 521F
C04B18/14 A
C04B22/14 Z
C04B28/02
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166533
(22)【出願日】2022-10-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】599072459
【氏名又は名称】王水興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157428
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 聞平
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 勝治
(72)【発明者】
【氏名】藤原 政昭
(72)【発明者】
【氏名】西川 樹人
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 ツル子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 昂平
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB11
4G112PA29
4G112PB03
4G112PB10
(57)【要約】
【課題】硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の液体を短期間で固化可能な放射性廃棄物処理用固化材を提供する。
【解決手段】硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の固化に使用される、放射性廃棄物処理用固化材は、セメントを少なくとも含有するセメント系混合物と、セメント系混合物による放射性廃棄物の固化を促進させる固化促進材と、放射性廃棄物が固化した固化体の収縮を抑制する膨張材を含み、固化促進材として、ピロ亜硫酸カリウムを15重量%以上45重量%以下含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の固化に使用される、放射性廃棄物処理用固化材であって、
セメントを少なくとも含有するセメント系混合物と、前記セメント系混合物による前記放射性廃棄物の固化を促進させる固化促進材と、前記放射性廃棄物が固化した固化体の収縮を抑制する膨張材を含み、
前記固化促進材として、ピロ亜硫酸カリウムを15重量%以上45重量%以下含有する、放射性廃棄物処理用固化材。
【請求項2】
前記セメント系混合物は、高炉スラグを含有する、請求項1に記載の放射性廃棄物処理用固化材。
【請求項3】
前記セメント系混合物は、高炉セメントB種と高炉スラグを含有し、
前記放射性廃棄物処理用固化材における高炉セメントB種の含有量は、20重量%以上60重量%以下であり、前記放射性廃棄物処理用固化材における高炉スラグの含有量は、10重量%以上40重量%以下である、請求項2に記載の放射性廃棄物処理用固化材。
【請求項4】
前記放射性廃棄物処理用固化材は、さらに酸化マグネシウムを含有する、請求項1乃至3の何れか1つに記載の放射性廃棄物処理用固化材。
【請求項5】
硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の固化を行う、放射性廃棄物の固化方法であって、
前記放射性廃棄物に対し、セメントを少なくとも含有するセメント系混合物と、前記セメント系混合物による前記放射性廃棄物の固化を促進させる固化促進材と、前記放射性廃棄物が固化した固化体の収縮を抑制する膨張材とを含む放射性廃棄物処理用固化材を混ぜ、前記放射性廃棄物と前記放射性廃棄物処理用固化材の混合物を混練するステップを行うものであり、
前記固化促進材として、ピロ亜硫酸カリウムを用い、
前記放射性廃棄物処理用固化材おけるピロ亜硫酸カリウムの含有量は、15重量%以上45重量%以下である、放射性廃棄物の固化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所などから排出される放射能廃棄物を固化するための放射性廃棄物処理用固化材に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所などの原子力関連施設では、放射能に汚染された硫酸ナトリウム(芒硝)が濃縮された放射性廃液が、放射性廃棄物として発生する。この放射性廃棄物は、放射性廃棄物処理用固化材を用いて、ドラム缶などの保管用容器内で固化される。そして、保管用容器は、放射性廃棄物処分場に埋設される。放射性廃棄物は、廃液の状態で固化されるのではなく、粉末化又はペレット化された後に、放射性廃棄物処理用固化材を用いて保管用容器内で固化される場合もある。特許文献1には、硫酸ナトリウムを含む放射性廃液の処理方法としてセメント固化体を形成する処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-283414公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、放射性廃棄物処理用固化材を用いて固化させる放射性廃棄物は、所定の一軸圧縮強度に達するまで養生を行った後に、放射性廃棄物処分場に持ち込まれる。この養生の期間が長くなる場合、広い養生スペースが必要となる。そのため、所定の一軸圧縮強度に達するまでの養生の期間が短くなることが望ましい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の液体を短期間で固化可能な放射性廃棄物処理用固化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、セメント系の放射性廃棄物処理用固化材においてピロ亜硫酸カリウムを配合することにより、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の液体を短期間で固化できることを見出した。この知見に基づく第1の発明は、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の固化に使用される、放射性廃棄物処理用固化材であって、セメントを少なくとも含有するセメント系混合物と、セメント系混合物による放射性廃棄物の固化を促進させる固化促進材と、放射性廃棄物が固化した固化体の収縮を抑制する膨張材を含み、固化促進材として、ピロ亜硫酸カリウムを15重量%以上45重量%以下含有する。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、セメント系混合物は、高炉スラグを含有する。
【0008】
第3の発明は、第2の発明において、セメント系混合物は、高炉セメントB種と高炉スラグを含有し、放射性廃棄物処理用固化材における高炉セメントB種の含有量は、20重量%以上60重量%以下であり、放射性廃棄物処理用固化材における高炉スラグの含有量は、10重量%以上40重量%以下である。
【0009】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、放射性廃棄物処理用固化材は、さらに酸化マグネシウムを含有する。
【0010】
第5の発明は、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の固化を行う、放射性廃棄物の固化方法であって、放射性廃棄物に対し、セメントを少なくとも含有するセメント系混合物と、セメント系混合物による放射性廃棄物の固化を促進させる固化促進材と、放射性廃棄物が固化した固化体の収縮を抑制する膨張材とを含む放射性廃棄物処理用固化材を混ぜ、放射性廃棄物と放射性廃棄物処理用固化材の混合物を混練するステップを行うものであり、固化促進材として、ピロ亜硫酸カリウムを用い、放射性廃棄物処理用固化材おけるピロ亜硫酸カリウムの含有量は、15重量%以上45重量%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射性廃棄物処理用固化材が、固化促進材としてピロ亜硫酸カリウムを15重量%以上45重量%以下含有することで、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の液体を短期間で固化可能な放射性廃棄物処理用固化材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る放射性廃棄物の固化方法のうち、放射性廃棄物が放射性廃液の場合の配合手順を説明するための図である。
図2図2は、実施形態に係る放射性廃棄物の固化方法のうち、放射性廃棄物が粉体の場合の配合手順を説明するための図である。
図3図3は、実施例の評価試験1における一軸圧縮強度の経時的変化を示すグラフである。
図4図4は、実施例の評価試験1における6ヶ月の養生期間経過時点の固化体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0014】
本実施形態は、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の液体の固化に使用される放射性廃棄物処理用固化材(以下、「処理用固化材」と言う。)である。放射性廃棄物の液体は、原子力発電所などの原子力関連施設から排出される放射性廃液、放射性廃液を粉末化した粉体に水を加えた液体、又は、放射性廃液をペレット化したペレットに水を加えた液体などである。放射性廃棄物の液体の固化は、ドラム缶(例えば200Lのドラム缶)などの保管用容器内にて行われる。当該処理用固化材は、放射能に汚染された放射性廃棄物を強力に還元して、不溶性の化合物に変化させると同時に固化体内部に閉じ込める画期的な固化材である。詳細は後述する。
【0015】
[処理用固化材の組成について]
処理用固化材は、セメントを少なくとも含有するセメント系混合物と、セメント系混合物による放射性廃棄物の固化を促進させる固化促進材と、放射性廃棄物が固化した固化体の収縮を抑制する膨張材を少なくとも含む。固化促進材としては、ピロ亜硫酸カリウム(化学式:K)を用いる。
【0016】
処理用固化材の配合について、処理用固化材は、セメント系混合物(例えば、セメントと高炉スラグの混合物)を30重量%~70重量%、ピロ亜硫酸カリウム(固化促進材)を15重量%~45重量%(好ましくは20重量%~40重量%)、膨張材を3重量%~5重量%を少なくとも含有する。なお、処理用固化材は、これらの材料以外に、その他成分として酸化マグネシウム(化学式:MgO)を0重量%~30重量%含有させてもよい。酸化マグネシウムを含有させることにより、ブリーディングを抑制することができる。この場合、酸化マグネシウムの含有量は、処理対象の放射性廃棄物の液体における硫酸ナトリウムの濃度が高いほど多くする。
【0017】
セメント系混合物は、セメントを少なくとも含む。セメントには、高炉セメント(A~C種)などの混合セメントや、ポルトランドセメント等を用いることができる。
【0018】
セメント系混合物は、例えば、セメントに加えて高炉スラグを含有する。この場合、高炉スラグは、セメントにより放射性廃棄物を固化させた固化体が固化後4ヶ月~半年ほど経過すると膨張することを抑制する膨張抑制材としての役割を果たす。処理用固化材におけるセメント系混合物が30重量%~70重量%である場合、処理用固化材におけるセメント(高炉セメントB種)の含有率は20重量%~60重量%、処理用固化材における高炉スラグの含有率は10重量%~40重量%とすることができる。
【0019】
ピロ亜硫酸カリウムは、上述したように、セメント系混合物による放射性廃棄物の固化を促進させる固化促進材である。具体的に、ピロ亜硫酸カリウムは、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物(廃液、粉体又はペレット)を還元することにより、不溶性の化合物(硫化物、硫酸塩)として安定して固形化させる。固化のメカニズムは、還元作用の結果生成される(SO)がセメント中の遊離石灰と反応して、水に溶けた状態の石膏(CaSO)となり、元々セメントに含まれている石膏により活発にセメント鉱物であるアルミネート相と反応して、アルミン酸カルシウムの形成を活発化させ、水和反応物質により凝結を促進するというものである。ピロ亜硫酸カリウムは、固化の促進に加えて、硫酸ナトリウムを強力に還元して不溶性の化合物に変化させると同時に固化体内部に閉じ込めて、高炉スラグと共に、エトリンガイトの生成を抑制する。
【0020】
膨張材は、放射性廃棄物が固化した固化体が乾燥により収縮することを抑制するものである。すなわち、膨張材を配合しない場合は、放射性廃棄物の固化から1~2ヵ月ほどが経過すると、放射性廃棄物の固化体が収縮し、保管用容器との間に隙間ができてしまう。膨張材は、このような隙間が生じることを抑制するために用いられる。膨張材を配合することで、放射性廃棄物の固化体の長期硬度を増大せしめると共に水密性が向上する。
【0021】
なお、放射性廃棄物の固化体は、六ヶ所村にある放射性廃棄物の処分場に貯蔵することが行われている。この処分場では、放射性廃棄物を収容するドラム缶を受け入れるに際して、超音波伝搬速度を測定することによって、放射性廃棄物が完全に固化しているか、有害な空隙が残存していないかの確認がなされ、ドラム缶と固化体との間に隙間が存在すると、放射性廃棄物の受け入れが拒否されてしまう。膨張材により、そのような事態を回避することができる。
【0022】
例えば、膨張材には、石灰、石膏、ボーキサイトを主成分とする焼成化合物を粉砕したものを用いる。この膨張材には、JIS A6202に規定するコンクリート用膨張材が含まれる。この膨張材は、主成分として、CaOを50.0~53.6重量%、Alを12.0~15.0重量%、SOを27.0~31.0重量%含有する(表1参照)。また、膨張材には、放射性物質(セシウムなど)を吸着するゼオライトを含むものを用いることができる。
【0023】
【表1】
【0024】
[処理用固化材を用いた放射性廃棄物の固化方法]
続いて、処理用固化材を用いた放射性廃棄物の固化方法について説明を行う。
【0025】
放射性廃棄物の固化方法は、放射性廃棄物に対し、セメントを少なくとも含有するセメント系混合物と、セメント系混合物による放射性廃棄物の固化を促進させる固化促進材と、放射性廃棄物が固化した固化体の収縮を抑制する膨張材を含む処理用固化材を混ぜ、放射性廃棄物と処理用固化材の混合物を攪拌して混練することにより混練物を作成する混合・混練ステップを行うものである。放射性廃棄物の固化方法では、混合・混練ステップ後に、混練物を養生する養生ステップが行われる。
【0026】
混合・混練ステップでは、放射性廃棄物が放射性廃液の場合、ドラム缶などの保管用容器に、放射能に汚染された放射性廃液(放射性廃棄物の液体)を投入する。そして、処理用固化材を混ぜて、処理用固化材が均一に分散されるように、一定時間(例えば15~30分)の攪拌混合を行い、放射性廃棄物の混練物を作成する(図1参照)。
【0027】
また混合・混練ステップでは、放射性廃棄物が粉体又はペレットの場合、保管用容器内に練混水(コンクリートの練り混ぜ水)を投入した後に、放射能に汚染された放射性廃棄物の粉体又はペレットを規定量投入し、撹拌しながら融和させて、放射性廃棄物の液体とする。そして、処理用固化材を混ぜて、一定時間(例えば15~30分)の攪拌混合を行い、放射性廃棄物の混練物を作成する(図2参照)。
【実施例0028】
以下、処理用固化材の実施例について説明を行う。なお、本発明は、その主旨を超えない限り、本実施例に限定されるものではない。また、特に記載しない限り、本実施例に記載の単位や測定方法はJIS規格による。
【0029】
[評価試験1]
放射性廃棄物を模した模擬廃棄物として、濃度10%、30%、50%の硫酸ナトリウム(芒硝)の溶液、及び、硫酸ナトリウムの粉体を準備した。そして、これらを固化処理の対象物として、表2の実施例1-4の処理用固化材を用いて固化処理を行った。実施例1-4の何れの処理用固化材でも、ピロ亜硫酸カリウムの含有量は30重量%とした。なお、表2において、「BC」は高炉セメントB種、「SM」は高炉スラグ、「PD」はピロ亜硫酸カリウム、「MGO」は酸化マグネシウム、「CSA」は膨張材を表す。高炉セメントB種は「新日鐵高炉セメント」を使用し、高炉スラグは日鉄高炉セメント株式会社の「エスメント」の4000ブレーンのものを使用し、膨張材は、デンカ株式会社の「デンカパワーCSAタイプS」を使用した。この点は、表4でも同様である。
【0030】
【表2】
【0031】
表2に示す実施例1-3では、まず模擬廃液を準備した。模擬廃液の作成手順について、まず水1リットルに硫酸ナトリウム(試薬)750gを混合撹拌した溶液を作成し、その溶液を煮沸して硫酸ナトリウムを結晶させ、さらに粉砕機で結晶物を粉砕して硫酸ナトリウムの微細粉末を作成した。そして、円筒状の試験用容器(ドラム缶を模した直径120mmの容器)に、所定の芒硝濃度となるように、水とともに硫酸ナトリウムの微細粉末を投入して溶解させ、模擬廃液とした。また、実施例4では、試験用容器に所定量の水を投入した後、硫酸ナトリウムの粉体を投入し、撹拌しながら融和させて、模擬廃液とした。なお、評価試験1では、200Lのドラム缶の容積に対し、混合物が100分の1の2リットル相当得られる重量としている。また、表2において水の重量は模擬廃液中の重量である。
【0032】
続いて、試験用容器内の模擬廃液に対し、処理用固化材を混ぜた後に攪拌混合(混練)を行い、混練物を作成した。そして、作成した混練物を6ヶ月養生させた。
【0033】
表3に、養生期間1週、4週、6ヶ月における固化体の一軸圧縮試験の測定値(圧縮強度(N/mm)を示す。また、図3に、一軸圧縮強度の経時変化を示し、図4に、6ヶ月の養生期間経過時点の固化体の上面の写真を示す。
【0034】
【表3】
【0035】
評価試験1によれば、実施例1-4の何れの場合も、図3及び表3に示すように、養生期間1日での一軸圧縮試験による圧縮強度の推測値(圧縮強度が線形変化するものとして1週目の測定値から推定した値)が、六ヶ所埋設基準強度(1.47N/mm)を超えた。これにより、ピロ亜硫酸カリウムの含有量を30重量%含有させることにより、硫酸ナトリウムを含有する放射性廃棄物の液体を短期間で固化できることが確認できた。
【0036】
また、放射性廃棄物の固化体は、長期間保存すると膨張する傾向にあるが、実施例1-4の何れの場合も、そのような膨張は見られず、高炉スラグによる膨張抑制の効果を確認できた。
【0037】
また、放射性廃棄物の固化体は、長期間保存すると乾燥収縮して容器と固化体の間に隙間ができる場合があるが、実施例1-4の何れの場合も、6ヶ月の養生後に、図4に示すように、容器と固化体の間に隙間は見られず、膨張材(鉱物性膨張材)による収縮抑制の効果を確認できた。
【0038】
また、放射性廃棄物の固化体は、ブリーディングが生じる場合があるが、実施例1-4の何れの場合も、ブリーディングは見られず、酸化マグネシウムによるブリーディング抑制の効果を確認できた。
【0039】
[評価試験2]
放射性廃棄物の廃液を模した模擬廃液として、濃度30%の硫酸ナトリウムの溶液を準備した。そして、これを固化処理の対象物として、表4の実施例5-7及び比較例1-4の処理用固化材を用いて固化処理を行った。これらの処理用固化材では、ピロ亜硫酸カリウムの含有量を10重量%ピッチで変化させた。
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示す実施例5-7及び比較例1-4では、まず濃度30%の模擬廃液を準備した。模擬廃液の作成手順について、評価試験1と同様の方法で、硫酸ナトリウムの微細粉末を作成した。そして、円筒状の試験用容器(ドラム缶を模した直径120mmの容器)に、芒硝濃度30%となるように、水とともに硫酸ナトリウムの微細粉末を投入して溶解させ、模擬廃液とした。
【0042】
続いて、試験用容器内の模擬廃液に対し、処理用固化材を混ぜた後に攪拌混合(混練)を行い、混練物を作成した。そして、作成した混練物を7日間養生させた。
【0043】
なお、配合No.5~11(実施例5-7及び比較例1-4)について、配合No.5でピロ亜硫酸カリウムを0重量%とし、10重量%刻みでピロ亜硫酸カリウムの含有量を増加させた。そして、その増加に伴って、高炉スラグの含有量を増加させる一方で、高炉セメントB種の含有量及び酸化マグネシウムの含有量を減少させた。なお、膨張材の含有量は一定とした。表5に評価結果を示す。
【0044】
【表5】
【0045】
表5において、「ブリーディング」の評価は、経時観察過程で固化体の上面にブリーディング水が生じたか否かの評価であり、ブリーディング水が生じなかった場合を「○」、ブリーディング水が生じた場合を「×」とした。「流動性」の評価は、放射性廃棄物と放射性廃棄物処理用固化材の混合物が、適切に混練できるだけの流動性を有するか否かの評価であり、十分な流動性を有する場合を「○」、十分な流動性を有さない場合を「×」とした。「安定性」の評価は、形態の安定性の評価(早期に固化するか否かの評価)であり、養生期間1日の混練物(混練終了から24時間後に混練物)の上面に指を押し付けて、爪痕が付かない場合を「〇」とした。
【0046】
評価試験2によれば、ピロ亜硫酸カリウム20重量%-40重量%の実施例5-7において、模擬廃液を早期に固化させることができたが、比較例1-2では、模擬廃液を早期に固化させることができず、比較例3-4では、混合物の混練が困難又は不可能であった。
【0047】
実施例1-7の処理用固化材では、硫酸ナトリウム濃縮廃液及び粉体を強力に還元し、無膨張・無収縮・流動性を確保でき、エトリンガイトが生成することなく、所定の圧縮強度(六ヶ所埋設基準)を上回るセメント系固化材が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、原子力発電所などから排出される放射能廃棄物を固化するための放射性廃棄物処理用固化材等に適用可能である。
図1
図2
図3
図4