(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059042
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】処理装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/06 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
G01B7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166550
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA16
2F063BB02
2F063CA02
2F063CA08
2F063DA02
2F063DA05
2F063DC08
2F063DD05
2F063GA08
2F063KA02
(57)【要約】
【課題】パルス渦流探傷による対象物の厚さの測定値の中から異常値を適切に判別する。
【解決手段】処理装置5は、パルス渦流探傷によって測定された対象物9の厚さの測定値を継続的に収集する収集器54と、収集器54によって収集された測定値の集合である測定値群の中から異常値を判別する判別器55とを備えている。判別器55は、測定値群のうちの所定の第1期間中の測定値に基づいて測定値群の中から第1異常値を判別する第1判別と、測定値群のうちの第1期間よりも長い第2期間中の測定値から第1異常値を除去して、第1異常値が除去された第2期間中の測定値の経時変化に基づいて測定値群の中から第2異常値を判別する第2判別とを実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス渦流探傷によって測定された対象物の厚さの測定値を継続的に収集する収集器と、
前記収集器によって収集された前記測定値の集合である測定値群の中から異常値を判別する判別器とを備え、
前記判別器は、
前記測定値群のうちの所定の第1期間中の前記測定値に基づいて前記測定値群の中から第1異常値を判別する第1判別と、
前記測定値群のうちの前記第1期間よりも長い第2期間中の前記測定値から前記第1異常値を除去して、前記第1異常値が除去された前記第2期間中の前記測定値の経時変化に基づいて前記測定値群の中から第2異常値を判別する第2判別とを実行する処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の処理装置において、
前記判別器は、前記第1判別において、前記第1期間中の前記測定値の代表値を求め、前記代表値を基準に定められる第1範囲から外れる前記測定値を前記第1異常値と判別する処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の処理装置において、
前記所定の第1範囲は、前記代表値よりも大きい上限値と前記代表値よりも小さい下限値とによって規定され、
前記代表値と前記下限値との幅は、前記上限値と前記代表値との幅よりも大きい処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の処理装置において、
前記判別器は、前記第2判別において、前記第2期間中の前記測定値の経時変化の近似直線を求め、前記近似直線を基準とする第2範囲から外れる前記測定値を前記第2異常値と判別する処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の処理装置において、
前記判別器は、前記測定値群の中から前記第2判別の対象の測定値を変更しつつ、前記対象の測定値に対して前記第2判別を繰り返し、
前記対象の測定値は、前記第1異常値と既に判別された測定値を含まず、前記第2異常値と既に判別された測定値を含む処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1つに記載の処理装置において、
前記第1異常値及び前記第2異常値が除去された前記測定値群の前記測定値の変化率を算出する算出器をさらに備える処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、測定値に含まれる異常値を判別する技術が知られている。例えば、特許文献1に開示された装置は、測定データの母集団の中から測定データ間の差異に基づいて、測定データ群における測定データのばらつきが母集団における測定データのばらつきよりも小さくなるように、母集団の中から特定の測定データを除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パルス渦流探傷による対象物の厚さの測定においては、測定が長期に亘って実行される。このような長期に亘って収集される測定値に対しては異常値の適切な判別が難しい。
【0005】
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、パルス渦流探傷による対象物の厚さの測定値の中から異常値を適切に判別することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された処理装置は、パルス渦流探傷によって測定された対象物の厚さの測定値を継続的に収集する収集器と、前記収集器によって収集された前記測定値の集合である測定値群の中から異常値を判別する判別器とを備え、前記判別器は、前記測定値群のうちの所定の第1期間中の前記測定値に基づいて前記測定値群の中から第1異常値を判別する第1判別と、前記測定値群のうちの前記第1期間よりも長い第2期間中の前記測定値から前記第1異常値を除去して、前記第1異常値が除去された前記第2期間中の前記測定値の経時変化に基づいて前記測定値群の中から第2異常値を判別する第2判別とを実行する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の処理装置によれば、パルス渦流探傷による対象物の厚さの測定値の中から異常値を適切に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、測定システムの構成を示す説明図である。
【
図2】
図2は、制御装置による渦電流測定のフローチャートである。
【
図3】
図3は、処理装置の制御器の制御系統の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、第1検出器によって検出された電圧信号V(t)の時間変化、即ち、渦電流の時間変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第1判別を行う前の測定値群の一例を表すグラフである。
【
図6】
図6は、第2判別を行う前の測定値群の一例を表すグラフである。
【
図7】
図7は、測定値の変化率を求める際の測定値群の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、測定システム100の構成を示す説明図である。
【0010】
-測定システムの概略-
測定システム100は、プローブ1と、プローブ1を制御する制御装置3と、プローブ1の検出結果から測定値を求め、測定値を処理する処理装置5とを備えている。測定システム100は、パルス渦電流探傷(PEC:Pulsed Eddy Current)によって対象物の厚さを測定する。プローブ1は、対象物9に渦電流を発生させ且つ発生した渦電流を検出する。この例では、対象物9は、配管である。配管は、流体が流通する金属製の配管である。
【0011】
-プローブ-
プローブ1は、非接触型のプローブであり、対象物9に近接して配置される。尚、「非接触型」とは、非接触でも使用可能であることを意味し、接触状態での使用を除外するものではない。プローブ1は、変動磁場を形成することによって対象物に渦電流を発生させる。また、プローブ1は、対象物に発生した渦電流の変化を誘導電圧として検出する。
【0012】
プローブ1は、励磁電流による磁束で対象物9に渦電流を発生させる励磁コイル11と、対象物9の渦電流を検出する検出コイル12とを備える。プローブ1は、励磁コイル11及び検出コイル12を収容するケーシング13をさらに備えていてもよい。プローブ1は、励磁コイル11によって対象物9に渦電流を発生させ、発生した渦電流を検出コイル12で検出する。この例では、プローブ1は、励磁コイル11と検出コイル12とを1組として、2組の励磁コイル11及び検出コイル12を有している。各組の励磁コイル11の軸心と検出コイル12の軸心とが一直線状になるように、励磁コイル11と検出コイル12とが配列されている。このとき、検出コイル12の方が対象物9の近くに配置されている。
【0013】
励磁コイル11は、電流が印加されることによって、その軸心の方向に磁場を形成する。一方の励磁コイル11と他方の励磁コイル11とは、軸心の方向において互いに反対向きの磁場を形成するように電流が印加される。例えば、一方の励磁コイル11から対象物9へ向かって磁束が発生し、対象物9から他方の励磁コイル11へ向かって磁束が発生する。その結果、一方の励磁コイル11から発せられる大部分の磁束は、一方の励磁コイル11の軸心の方向に出て対象物9内へ入り、対象物9内を略円弧状に通過し、他方の励磁コイル11の軸心の方向へ向かい他方の励磁コイル11に入っていく。励磁コイル11に印加する電流を変動させることによって、対象物9に発生する磁場が変動し、対象物9に渦電流が発生する。
【0014】
一方、対象物9のうち検出コイル12の近傍の部分に発生した渦電流によって、検出コイル12を貫通する磁束が形成される。検出コイル12を貫通する磁束が変化すると、検出コイル12に誘導起電力が発生する。検出コイル12は、この誘導起電力を検出することによって、対象物9の渦電流を検出する。
【0015】
プローブ1は、対象物9の温度を検出する温度センサ21をさらに備えていてもよい。温度センサ21は、ケーシング13内に配置されていてもよい。温度センサ21は、例えば、熱電対である。
【0016】
-制御装置-
制御装置3は、励磁コイル11に励磁電流を印加する励磁器31と、対象物9の渦電流の過渡変化を検出する第1検出器32と、温度センサ21の出力が入力される第2検出器33と、外部機器と通信を行う通信器34と、各種情報を記憶する記憶器35と、少なくとも励磁器31、第1検出器32、第2検出器33、通信器34及び記憶器35を制御する制御器36とを有している。
【0017】
励磁器31は、パルス状の励磁電流を励磁コイル11に供給する。励磁器31は、パルス信号を発生するパルス発生器31aと、パルス発生器31aからのパルス信号を増幅して、励磁電流として出力する送信アンプ31bとを有している。
【0018】
第1検出器32は、対象物9の渦電流に応じて検出コイル12に発生する誘導起電力を検出する。検出コイル12に発生する誘導起電力の過渡変化は、対象物9に発生する渦電流の過渡変化と関連している。第1検出器32は、検出コイル12に発生する電圧を増幅する受信アンプ32aを少なくとも有している。第1検出器32は、電圧信号にフィルタ処理を施すフィルタをさらに有していてもよい。
【0019】
第2検出器33は、温度センサ21からの出力が入力されている。第2検出器33は、温度センサ21からの出力を増幅するアンプを有していてもよい。
【0020】
通信器34は、外部機器と無線通信を行う。例えば、通信器34は、第1検出器32によって検出された電圧信号(即ち、検出信号)及び第2検出器33によって検出された検出信号を処理装置5に送信する。
【0021】
記憶器35は、制御器36で実行されるプログラム及び各種データを格納している。例えば、記憶器35は、制御プログラムが格納されている。記憶器35は、第1検出器32の検出信号及び第2検出器33の検出信号を記憶している。記憶器35は、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)等で形成される。
【0022】
制御器36は、制御装置3の全体を制御する。制御器36は、各種の演算処理を行う。例えば、制御器36は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで形成されている。制御器36は、MCU(Micro Controller Unit)、MPU(Micro Processor Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、PLC(Programmable Logic Controller)、システムLSI等で形成されていてもよい。
【0023】
例えば、制御器36は、励磁器31に所定期間だけ励磁電流を出力させる一方、励磁電流の出力停止後に第1検出器32による検出信号を取得する。制御器36は、第2検出器33による検出信号も取得する。制御器36は、第1検出器32及び第2検出器33からの検出信号を記憶器35に記憶させ、記憶器35に記憶された検出信号を所定のタイミングで通信器34を介して処理装置5に送信する。
【0024】
制御装置3による渦電流の測定について
図2を用いて詳しく説明する。
図2は、制御装置3による渦電流測定のフローチャートである。
【0025】
制御器36は、ステップS101において、対象物9の温度を測定する。つまり、制御器36は、温度センサ21の出力を第2検出部33に取得させ、取得された検出信号を記憶器35に記憶させる。後述するが、対象物9の温度測定は繰り返される場合があり、記憶器35は、測定温度を蓄積していく。
【0026】
続いて、制御器36は、ステップS102において、対象物9の渦電流の測定(詳しくは、渦電流の過渡変化の測定)を行う。制御器36は、所定の繰り返し回数nの渦電流の測定を1セット行う。具体的には、制御器36は、励磁器31に励磁電流を励磁コイル11へ出力させる。励磁コイル11は、励磁電流の印加によって軸心の方向へ磁場を形成する。一方の励磁コイル11と他方の励磁コイル11とは、軸心の方向において互いに反対向きの磁場を形成する。例えば、一方の励磁コイル11から対象物9へ向かって磁束が発生し、対象物9から他方の励磁コイル11へ向かって磁束が発生する。制御器36は、励磁電流の出力を停止させ、対象物9に発生する渦電流を第1検出器32に検出させる。制御器36は、第1検出器32による電圧信号の検出を所定期間継続し、検出された電気信号を記憶器35に記憶していく。これにより、制御器36は、検出コイル12の誘導起電力の過渡変化(経時変化)、即ち、対象物9に発生する渦電流の過渡変化を測定する。制御器36は、このような渦電流の測定を繰り返し回数nだけ繰り返す。
【0027】
その後、制御器36は、ステップS103において、対象物9の温度を測定する。ステップS103の処理は、ステップS101の処理と同様である。
【0028】
制御器36は、ステップS104において、対象物9の温度変化が所定の基準よりも大きいか否かを判定する。例えば、制御器36は、ステップS103で測定された温度と前回測定された温度との温度差が所定値αよりも大きいか否かを判定する。制御器36は、記憶器35に記憶されている直近の2回の測定温度から温度差を求めて判定する。
【0029】
対象物9の温度変化が所定の基準よりも大きくない場合、即ち、温度差が所定値α以下である場合には、制御器36は、ステップS105において、繰り返し回数nの渦電流の測定のセット数が所定のセット回数mに達したか否かを判定する。測定のセット数がセット回数mに達していない場合には、制御器36は、ステップS102に戻って、ステップS102以降の処理を繰り返す。
【0030】
ステップS102~S105が繰り返されて、測定のセット数がセット回数mに達した場合には、制御器36は、ステップS106において、記憶器35に蓄積された渦電流(検出信号)及び温度(即ち、検出信号)を処理装置5へ送信する。つまり、制御器36は、繰り返し回数n×セット回数mの渦電流とセット回数mの温度とを処理装置5へ送信する。
【0031】
制御器36は、渦電流及び温度の送信を完了すると、今回の渦電流の測定を終了する。
【0032】
一方、ステップS104において、対象物9の温度変化が所定の基準よりも大きい場合、即ち、温度差が所定値αよりも大きい場合には、制御器36は、渦電流の測定を中止し、ステップS106へ進む。制御器36は、ステップS106において、測定を中止するまでに記憶器35に蓄積された渦電流と温度とを処理装置5へ送信する。このとき、制御器36は、対象物9の温度変化が大きいために渦電流の測定を中止した旨も処理装置5へ通知する。
【0033】
制御器36は、このような渦電流の測定を所定の測定周期で繰り返す。これにより、複数個の渦電流の測定結果が周期的に取得される。そして、複数個の渦電流の測定の途中に対象物9の温度が監視される。具体的には、n回の渦電流の測定ごとに1回の温度測定が行われる。渦電流の過渡変化は、対象物9の温度に依存する。対象物9の温度測定の1つの目的は、渦電流の過渡変化から求められる対象物9の厚さを対象物9の温度によって補正することである。対象物9の温度測定の別の目的は、対象物9の温度変化が大き過ぎる場合の渦電流を対象物9の厚さ測定から除去することである。対象物9の温度変化が大き過ぎる場合には、温度センサ21による検出の遅れ等が原因で、対象物9の厚さを測定温度によって精度よく補正できない虞がある。そこで、対象物9の温度変化が大き過ぎる場合には、制御器36は、そのときに測定された渦電流を対象物9の厚さ測定から除去するために、渦電流の測定を中止する。尚、制御器36は、それまでに測定された渦電流及び温度を形式的に処理装置5へ送信する。処理装置5は、受信した渦電流及び温度を対象物9の厚さ測定に用いない。
【0034】
尚、測定システム100が複数のプローブ1を備える場合には、制御器36は、各プローブ1に関する渦電流の測定を順番に又は並行して行う。対象物9の表面においてプローブ1を移動させる移動器を測定システム100が備えている場合には、制御器36は、一の測定位置で渦電流の測定を終えると、プローブ1を別の測定位置へ移動させて渦電流の測定を実行する。制御器36は、プローブ1に対象物9の表面において走査させて渦電流の測定を継続する。
【0035】
-処理装置-
処理装置5は、コンピュータ又はコンピュータネットワーク(所謂、クラウド)で形成されている。処理装置5は、
図1に示すように、外部機器と通信を行う通信器51と、各種情報を記憶する記憶器52と、検出された渦電流の過渡変化に基づいて対象物9の厚さを求める制御器53とを有している。
【0036】
通信器51は、外部機器と無線通信を行う。例えば、通信器51は、制御装置3からの検出信号(即ち、プローブ1及び温度センサ21の検出信号)を受信する。
【0037】
制御器53は、処理装置5の全体を制御する。制御器53は、各種の演算処理を行う。例えば、制御器53は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで形成されている。制御器53は、MCU(Micro Controller Unit)、MPU(Micro Processor Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、PLC(Programmable Logic Controller)、システムLSI等で形成されていてもよい。
【0038】
記憶器52は、制御器53で実行されるプログラム及び各種データを格納している。例えば、記憶器52は、制御プログラムが格納されている。記憶器52は、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)等で形成される。記憶器52は、プローブ1によって測定された渦電流、温度センサ21によって測定された温度、及び、対象物9の厚さを演算するために必要な情報等を記憶している。
【0039】
図3は、処理装置5の制御器53の制御系統の構成を示すブロック図である。制御器53は、記憶器52から制御プログラムをメモリに読み出して展開することによって、各種機能を実現する。具体的には、制御器53は、渦電流から対象物9の厚さを測定して、測定値を収集する収集器54と、測定値群の中から異常値を判別する判別器55と、対象物9の厚さの変化率を測定値群に基づいて求める算出器56として機能する。
【0040】
=収集器=
収集器54は、プローブ1によって測定された渦電流に基づいて、測定値として対象物9の厚さを求める。尚、収集器54は、対象物9の温度変化が大きいために渦電流の測定を中止した場合の渦電流は、対象物9の厚さの算出を行わない。渦電流に基づいた厚さの測定は、公知の技術が用いられる。例えば、渦電流は、対象物9に浸透していくのに従って減衰していく。渦電流は、対象物9の表面(プローブ1が対向している面)から裏面に到達するまでの間は徐々に減衰し、裏面に到達すると急激に減衰する。検出コイル12によって検出される電圧も渦電流と同様に変化する。対象物9の厚さと検出電圧が急激に減衰するまでの時間とには相関がある。制御器53は、検出電圧が急激に減衰するまでの時間に基づいて、対象物9の厚さを演算する。
【0041】
厚さ測定についてさらに詳しく説明する。
図4は、第1検出器32によって検出された電圧信号V(t)の時間変化、即ち、渦電流の時間変化を示すグラフである。
図4のグラフは、両対数グラフである。
図4において、電圧信号V0(t)は、厚さd0を有する対象物9の電圧信号であり、電圧信号V1(t)は、厚さd0よりも薄い厚さd1を有する対象物9の電圧信号である。制御装置3から処理装置5へ送信される、プローブ1によって測定された渦電流は、
図4に示すような電圧信号V(t)である。
【0042】
渦電流は、対象物9に浸透していくのに従って減衰していく。渦電流は、対象物9の表面(プローブ1が対向している面)から裏面に到達するまでの間は徐々に減衰し、裏面に到達すると急激に減衰する。電圧信号V(t)も渦電流と同様の変化を示す。つまり、電圧信号V(t)の過渡変化は、渦電流の過渡変化に相当する。渦電流が対象物9の裏面に達するまでの間の電圧信号V(t)の変化は、両対数グラフ上では直線的(線形的)に表される。その後、電圧信号V(t)は、急激に減衰していく。このように変化する電圧信号V(t)は、以下の式(1)のように表される。
【0043】
【数1】
ここで、Aは、電圧信号V(t)の振幅の程度に関連する定数である。nは、電圧信号V(t)の減衰の程度に関連する定数であり、-nは、両対数グラフにおける電圧信号V(t)の傾きを表す。
【0044】
式(1)からもわかるように、電圧信号V(t)の変化態様は、時間τにおいて切り替わる。以下、説明の便宜上、τを「減衰時間」と称する。減衰時間τは、以下の式(2)で表わされる。
【0045】
τ=σμd2 ・・・(2)
ここで、σは、対象物9の導電率であり、μは、対象物9の透磁率であり、dは、対象物9の厚さである。
【0046】
つまり、減衰時間τは、対象物9の厚さdに依存して変化する。対象物9の導電率σ及び透磁率μが一定であると仮定すると、減衰時間τは、対象物9の厚さdに依存して変化する。また、減衰時間τ及び厚さdが変化しても、τ/d2は、一定である。そのため、既知の厚さd0に対する減衰時間τ0と、未知の厚さdxに対する減衰時間τxとがわかれば、以下の式(3)に基づいて、未知の厚さdxを求めることができる。
【0047】
【数2】
例えば、
図4において電圧信号V0(t),V1(t)を比較すると、厚さd0の対象物9の電圧信号V0(t)の変化態様は、減衰時間τ0で切り替わる。対象物9の厚さdがd0からd1に減少すると、減衰時間τは、τ0からτ1に減少する。尚、電圧信号V(t)のうち両対数グラフで直線状の部分の変化態様は、式(1)からわかるように厚さdに依存しないので、電圧信号V0(t),V1(t)で実質的に同じである。厚さd0及び減衰時間τ0,τ1を式(3)に代入することによって、厚さd1を求めることができる。
【0048】
処理装置5は、対象物9の既知の厚さを基準厚さd0とし、基準厚さd0における電圧信号V0(t)の過渡変化及びそのときの対象物9の温度T0を予め取得し、記憶器52に記憶している。以下、電圧信号V0(t)を基準電圧信号V0(t)と称する。記憶器52には、制御装置3から送信された複数の電圧信号Vx(t)が温度Txと共に記憶されている。収集器54は、各電圧信号Vx(t)の過渡変化を基準電圧信号V0(t)の過渡変化と比較することによって、対象物9の厚さdxを求める。具体的には、収集器54は、式(3)を用いて、基準厚さd0、基準減衰時間τ0及び減衰時間τxから変化後の厚さdxを求める。
【0049】
さらに、収集器54は、求めた厚さdxを対象物9の温度Txに基づいて補正する。詳しくは、前述の演算においては、対象物9の導電率σ及び透磁率μが一定であると仮定している。しかし、対象物9の導電率σ及び透磁率μは温度依存性を有する。そこで、収集器54は、基準厚さd0における電圧信号V0(t)を取得したときの対象物9の温度T0と厚さdxにおける電圧信号Vx(t)を取得したときの対象物9の温度Txを用いて、補正後の厚さdx’を求める。具体的には、収集器54は、以下の式(4)に基づいて補正後の厚さdx’を求める。
【0050】
dx’=dx-α×ΔT×dx ・・・(4)
ここで、αは、温度補正係数であり、ΔT=T0-Txである。尚、温度補正係数αは、対象物9の温度を変化させた場合の電圧信号V(t)の変化又は対象物9の温度を変化させた場合の、式(3)から求められる厚さdの変化に基づいて予め求められ、記憶器52に記憶されている。
【0051】
尚、前述のように、対象物9の温度は、渦電流の1セットの測定ごと、即ち、渦電流のn回の測定ごとに1回測定されている。この例では、一のセットに含まれる温度Txが、同じセット中の全ての電圧信号Vx(t)の温度Txとして用いられる。
【0052】
こうして、収集器54は、対象物9の温度を考慮した、対象物9の厚さdx’を求める。収集器54は、記憶器52に記憶された複数の電圧信号Vxについて対象物9の厚さdx’を求める。ただし、収集器54は、渦電流の測定を中止した旨が通知された電圧信号Vxについては、対象物9の厚さdx’を求めない。収集器54は、求めた対象物9の厚さdx’を記憶器52に記憶させる。記憶器52には、測定値が蓄積されていく。求められた対象物9の厚さdx’が対象物9の厚さの測定値である。こうして、収集器54は、対象物9の厚さの測定値を収集する。渦電流はプローブ1によって周期的に測定されているので、収集器54は、対象物9の厚さの測定値を周期的、即ち、継続的に収集する。
【0053】
=判別器=
次に、判別器55について詳しく説明する。
【0054】
判別器55は、複数の測定値の集合である測定値群において他の測定値に比べて異常な値、即ち、異常値を測定値群の中から判別する。判別器55は、測定値群の中から第1異常値を判別する第1判別と、測定値群の中から第2異常値を判別する第2判別とを実行する。第1判別と第2判別とでは、どの期間の測定値を参照するか、判別方法、及び、異常値の取扱いが異なる。
【0055】
まず、第1判別に関し、判別器55は、測定値群のうちの所定の第1期間中の測定値に基づいて測定値群の中から第1異常値を判別する。判別器55は、第1期間中の測定値の代表値を求め、代表値を基準に定められる第1範囲から外れる測定値を第1異常値と判別する。第1範囲は、代表値よりも大きい上限値と代表値よりも小さい下限値とによって規定される。すなわち、第1範囲は、代表値を含み、代表値から上下に拡がりを有する範囲である。
【0056】
第1異常値は、測定値群から永久に除去される。つまり、第1判別が繰り返し行われる場合には、第1異常値と判別された測定値は、別の第1判別において活用されない。例えば、第1異常値が別の第1判別における第1期間に含まれる場合、第1異常値は代表値の導出から除去される。また、第2判別及び測定値の変化率の算出においても、第1異常値が除去された測定値群が用いられる。
【0057】
例えば、判別器55は、測定値群のうち対象測定値ごとに第1判別を実行する。第1判別の対象測定値は、1又は時系列に連続する複数の測定値である。第1期間は、対象測定値に対して過去の所定期間、詳しくは、直前の所定期間である。つまり、判別器55は、対象測定値に対する直前の第1期間中に含まれる測定値に基づいて対象測定値から第1異常値を判別する。対象測定値が変わると、第1期間も変わる。代表値は、第1期間に含まれる測定値を代表する値である。代表値は、例えば、平均値又は中央値である。第1範囲は、例えば、代表値を基準に規定される範囲である。第1範囲は、代表値を含む範囲である。第1範囲の上限値は、代表値に所定の上幅を加算した値であり、第1範囲の下限値は、代表値から所定の下幅を減算した値である。下幅(代表値と下限値との幅)は、上幅(即ち、上限値と代表値との幅)よりも大きくてもよい。
【0058】
図5は、第1判別を行う前の測定値群の一例を表すグラフである。
図5において、横軸は、時間であり、縦軸は、対象物9の厚さである。グラフ中の縦線(破線)は、一日ごとの区切りを表す。
図5では、説明の便宜上、各測定値を時間方向において等間隔で表している。これらは、後述の
図6,7においても同様である。
【0059】
図5の例では、対象測定値は、対象の一日に含まれる測定値である。第1期間は、対象測定値の直前の一日、即ち、前日である。代表値は、平均値である。第1範囲の上幅及び下幅のそれぞれは、平均値に対する分散よりも大きい値である。
【0060】
判別器55は、測定値群に含まれる測定値を一日ごとに分けて、各日に含まれる測定値を第1判別の対象測定値とする。判別器55は、対象測定値の第1期間、即ち、前日の測定値の平均値を求め、平均値を基準に対象測定値の第1範囲を設定する。
図5において、一点鎖線は、対象測定値の前日の測定値の平均値であり、二点鎖線は、対象測定値の第1範囲の上限値及び下限値である。判別器55は、対象測定値のうち第1範囲から外れる測定値を第1異常値として判別する。
図5では、正常な測定値が丸で表現され、第1異常値が三角形で表現されている。判別器55は、第1異常値を記憶器52に保存する。
【0061】
判別器55は、対象測定値を変更して第1判別を繰り返す。このとき、判別器55は、第1期間に既に第1異常値と判別された測定値が含まれる場合には、第1異常値を除去して平均値を求める。つまり、繰り返される第1判別において、第1異常値は用いられない。
【0062】
このように、判別器55は、第1判別において、比較的近い過去の測定値に比べて大きく外れる測定値を第1異常値として判別する。
図5からわかるように、第1範囲において、平均値から下限値までの拡がりは、平均値から上限値までの拡がりよりも大きい。測定値は対象物9の厚さであり、対象物9の厚さは経時的に減少し得る。つまり、過去の平均値を下回る測定値は、厚さの減少の影響を受けている可能性がある。平均値から下限値までの拡がりを平均値から上限値までの拡がりよりも大きくすることによって、厚さの減少によって小さくなった測定値を第1異常値と誤判定することを防止できる。
【0063】
次に、第2判別に関し、判別器55は、第2期間中の測定値に基づいて測定値群の中から第2異常値を判別する。第2異常値の判別に参照される測定値は、測定値群のうちの第1期間よりも長い第2期間中の測定値から第1異常値が除去された測定値である。第2期間は、第2判別の対象期間と重複する又は同じ期間である。判別器55は、第2期間中の測定値(第1異常値を除く)の経時変化の近似直線を求め、近似直線を基準とする第2範囲から外れる測定値を第2異常値と判別する。第2範囲は、近似直線から上下に拡がりを有する範囲である。
【0064】
第2異常値は、後述する算出器56による変化率の算出時には測定値群から除去される。ただし、判別器55が第2判別を繰り返し行う際には、過去に第2異常値と判別された測定値は測定値群に戻され、第2異常値を含む測定値群に対して第2判別が実行される。
【0065】
例えば、判別器55は、測定値群のうち対象測定値ごとに第2判別を実行する。第2判別の対象測定値は、時系列に連続する複数の測定値である。第2期間は、第2判別の対象測定値を含む期間である。言い換えると、第2期間に含まれる測定値が第2判別の対象測定値である。近似直線は、時間に対する測定値の関係を表す直線である。例えば、近似直線は、最小二乗法によって求められる。第2範囲は、近似直線から所定の閾値だけ上下に拡がりを有する範囲である。
【0066】
図6は、第2判別を行う前の測定値群の一例を表すグラフである。
図6の測定値群からは、第1異常値が除去されている。
図6において、太実線は、近似直線であり、二点鎖線は、第2範囲の上限値及び下限値である。
図6の例では、第2期間は、十日である。
【0067】
判別器55は、測定値群のうち連続する十日間に含まれる測定値を第2判別の対象測定値に設定する。つまり、第2期間も十日間である。判別器55は、対象測定値の経時変化の近似直線を求め、近似直線を基準に第2範囲を設定する。判別器55は、近似直線を所定の閾値だけ上下へ平行移動して第2範囲の上限値及び下限値を設定する。例えば、閾値は、近似直線に対する分散に基づいて設定される。例えば、閾値は、分散に所定の倍率を乗じた値である。判別器55は、第2範囲から外れる対象測定値を第2異常値として判別する。具体的には、判別器55は、近似直線との差(絶対値)が閾値よりも大きい対象測定値を第2異常値と判別する。
図6では、正常な測定値が丸で表現され、第2異常値が四角形で表現されている。判別器55は、第2異常値を記憶器52に保存する。
【0068】
判別器55は、測定値群の中から第2判別の対象測定値、即ち、対象となる期間を変更しつつ、対象測定値に対して第2判別を繰り返す。例えば、判別器55は、対象となる期間を一日ずつシフトして第2判別を繰り返す。対象となる期間をシフトする間隔は、一日に限定されず、二日ずつであってもよいし、十日ずつ(即ち、対象となる期間と同じ間隔)であってもよい。第2判別の対象測定値は、第1異常値と既に判別された測定値を含まず、第2異常値と既に判別された測定値を含む。つまり、既に第1異常値と判別された測定値が第2期間に含まれる場合には、判別器55は、第1異常値を除去して近似直線を求める。一方、既に第2異常値と判別された測定値が第2期間に含まれる場合には、判別器55は、第2異常値を含めて近似直線を求める。つまり、繰り返される第2判別において、第1異常値は用いられず、第2異常値は用いられる。
【0069】
このように、判別器55は、第2判別において、比較的長い期間の測定値の変化に対して大きく外れる測定値を第2異常値として判別する。第2判別においては、測定値の変化態様に対して変化が異なる測定値が第2異常値として判別される。
【0070】
=算出器=
次に、算出器56について詳しく説明する。算出器56は、第1異常値及び第2異常値が除去された測定値群の測定値の変化率を算出する。算出器56は、対象の算出期間中の測定値の変化率を算出する。算出器56は、算出期間中の測定値の経時変化の近似直線を求め、近似直線の傾きを測定値の変化率として算出する。近似直線は、時間に対する測定値の関係を表す直線である。例えば、近似直線は、最小二乗法によって求められる。
【0071】
図7は、測定値の変化率を求める際の測定値群の一例を表すグラフである。
図7の設定値群からは第1異常値及び第2異常値が除去されている。
図7において、太実線は、第1異常値及び第2異常値が除去された測定値群の近似直線であり、一点鎖線は、第1異常値及び第2異常値を含む測定値群の近似直線であり、二点鎖線は、第1異常値のみが除去された測定値群の近似直線である。
図7の例では、算出期間は、十日である。
【0072】
算出器56は、測定値群のうち算出期間に含まれる測定値を変化率の算出の対象測定値に設定する。この例では、算出期間は、第2判別の第2期間と同じである。算出器56は、対象測定値の経時変化の近似直線を求め、近似直線の傾きを求める。近似直線の傾きは、測定値の変化率であり、即ち、対象物9の厚さの変化率である。算出器56は、近似直線の傾きを測定値の変化率として記憶器52に保存する。
【0073】
算出器56は、測定値群の中から変化率の算出の対象測定値、即ち、算出期間を変更しつつ、対象測定値の変化率の算出を繰り返す。例えば、算出器56は、算出期間を一日ずつシフトして変化率の算出を繰り返す。算出期間をシフトする間隔は、一日に限定されず、二日ずつであってもよいし、十日ずつ(即ち、算出期間と同じ間隔)であってもよい。
【0074】
このように、算出器56は、第1異常値及び第2異常値が除去された測定値群の測定値の変化率を求めることによって、他の測定値に比べて大きく外れた測定値を除いて測定値の変化率が求められる。その結果、算出器56は、測定値の変化率を精度よく求めることができる。尚、
図7からわかるように、測定値群から第1異常値のみを除去すること(二点鎖線参照)によっても、第1異常値及び第2異常値の両方を除去しない場合(一点鎖線参照)に比べて、測定値の変化率の算出精度が向上する。
【0075】
以上のように、処理装置5は、第1判別及び第2判別を実行して、測定値群の中から異常値を2段階で判別する。具体的には、判別器55は、測定値群のうちの第1期間中の測定値に基づいて測定値群の中から第1異常値を判別する第1判別と、測定値群のうちの第1期間よりも長い第2期間中の測定値から第1異常値を除去して、第1異常値が除去された第2期間中の測定値の経時変化に基づいて測定値群の中から第2異常値を判別する第2判別とを実行する。第1判別では、基準となる測定値に対して値の変化の大きい測定値が第1異常値と判別される。第2判別では、基準となる測定値の変化態様に対して異なる変化をする測定値が第2異常値と判別される。第1判別と第2判別とは異常を判別する観点が異なるため、判別の基準となる測定値が互いに異なる。第1判別では、比較的短い第1期間の測定値が基準となる。第2判別では、測定値の変化態様に基づいて異常が判別されるため、第1期間よりも長い第2期間の測定値が基準となる。このように、異なる2つの観点で異常値が判別されるため、測定値群に含まれる異常値の判別の精度が向上する。その結果、測定値の精度が向上する。
【0076】
詳しくは、第1判別においては、第1期間中の測定値の代表値を基準に第1異常値が判別される。つまり、第1期間中に複数の測定値が含まれる場合には、複数の測定値を代表する値、例えば、平均値又は中央値等を基準に第1異常値が判別される。これにより、第1期間中に含まれる複数の測定値に対して、対象測定値の変化が大きいか否かを簡便に判別することができる。
【0077】
具体的には、第1判別においては、第1期間中の測定値の代表値を基準に第1範囲が定められ、第1範囲から外れる測定値が第1異常値と判別される。第1範囲の下限値と代表値との幅は、第1範囲の上限値と代表値との幅よりも大きい。つまり、第1異常値の判別において、代表値よりも下側への判別基準は、代表値よりも上側への判別基準よりも緩和されている。これにより、測定値が経時的に減少する場合には、代表値よりも下側への判別基準を緩くすることによって異常値を適切に判別することができる。
【0078】
また、第2判別においては、第2期間中の測定値の経時変化の近似直線が求められ、近似直線を基準に第2異常値が判別される。具体的には、近似直線を基準に第2範囲が設定され、第2範囲から外れる測定値が第2異常値と判別される。近似直線は、第2期間中の測定値の経時的な変化態様を表している。そのため、第2範囲から外れる測定値を第2異常値と判別することによって、第2期間中の測定値の経時的な変化態様に比べて変化が大きく異なる測定値を容易に判別することができる。
【0079】
さらに、第2判別は、測定値群の中の対象測定値を変更して繰り返し実行される。ここで、第2判別の対象測定値は、第1異常値と既に判別された測定値を含まず、第2異常値と既に判別された測定値を含む。つまり、第1異常値と判別された測定値は、その後の第2判別においても除去される。一方、第2異常値と判別された測定値は、その後の第2判別においては測定値として用いられる。例えば、第2異常値と判別された測定値は、その後の第2判別において近似直線の算出に用いられる。これにより、第2期間中の測定値の経時変化の近似直線の精度が向上する。つまり、近似直線の算出において測定値の個数が少ないと、近似直線の精度が低下する。第2異常値の異常の程度は、第1異常値に比べて小さい。そのため、近似直線を算出する際には、第2異常値と既に判別された測定値も用いることによって算出に用いる測定値の個数を増やして、近似直線の精度を向上させることができる。
【0080】
そして、処理装置5の算出器56は、第1異常値及び第2異常値が除去された測定値群の測定値の変化率を算出する。要するに、処理装置5は、測定値群の中の第1異常値及び第2異常値を判別することによって、測定値の変化率の算出精度を向上させることができる。
【0081】
また、測定システム100の制御措置3は、渦電流の測定時に対象物9の温度を測定し、温度変化が大きい場合には測定された渦電流を対象物9の厚さの導出から除去する。つまり、測定システム100は、第1判別及び第2判別の前に、対象物9の温度変化に基づいて異常な測定値を判別している。結果として、測定システム100は、測定値を3段階で判別している。
【0082】
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0083】
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0084】
例えば、パルス渦流探傷による厚さ測定の対象物9は、配管に限定されない。対象物9は、渦電流が発生する限り任意の物体が採用され得る。
【0085】
さらに、プローブ1は、前述の構成に限られない。例えば、プローブ1は、2組の励磁コイル11及び検出コイル12を備えているが、励磁コイル11及び検出コイル12は、1組でもよく、3組以上であってもよい。励磁コイル11と検出コイル12とはそれぞれの軸心が一直線状になるように配置されていなくてもよい。励磁コイル11又は検出コイル12の内部にコアが設けられてもよい。検出コイル12よりも励磁コイル11の方が対象物9の近くに配置されてもよい。さらに、プローブ1の検出部は、検出コイル12に限定されない。検出部は、対象物9の渦電流を直接的又は間接的に検出できるものであればよく、例えば、ホール素子であってもよい。
【0086】
温度センサ21は、熱電対に限定されない。温度センサ21は、対象物の温度を検出できればよく、例えば、サーミスタであってもよい。温度センサ21の個数は、1個に限定されない。温度センサ21は、2個以上であってもよい。
【0087】
また、測定システム100の構成も一例に過ぎない。例えば、処理装置5は、制御装置3の一部又は全部の機能を組み込んでいてもよい。また、測定システム100が複数のプローブ1及びプローブ1に対応する複数の制御装置3を備えている場合には、処理装置5は、複数の制御装置3からの検出信号を処理してもよい。
【0088】
制御装置3による渦電流の測定は、前述の方法に限定されない。例えば、渦電流の繰り返し測定は、複数のセットに分けなくてもよく、さらには、セットごとに対象物9の温度を測定しなくてもよい。渦電流の繰り返し測定において、対象物9の温度測定は1度だけであってもよい。また、温度の測定頻度は、渦電流の測定頻度と同じか、又は、渦電流の測定頻度よりも多くてもよい。
【0089】
ステップS104における、対象物9の温度変化が所定の基準よりも大きいか否かの判定は、今回の測定温度と前回の測定温度との温度差が所定値よりも大きいか否かに限定されない。例えば、測定温度の移動平均と今回の測定温度との温度差が所定値よりも大きいか否かが基準であってもよい。
【0090】
また、渦電流の測定において、対象物9の温度測定は必須ではない。また、対象物9の温度が測定されるとしても、渦電流の測定を中止するか否かを判定する基準に対象物9の温度を用いなくてもよい。つまり、対象物9の温度変化にかかわらず、渦電流の測定が継続されてもよい。対象物9の温度は、算出される厚さの補正にのみ用いられてもよい。
【0091】
また、プローブ1による渦電流の測定は、断続的に実行されればよく、周期的に行われる必要はない。つまり、対象物9の厚さの測定値も断続的に収集されればよく、周期的に収集されなくてもよい。
【0092】
さらに、制御装置から処理装置5へのデータの送信は、前述の例に限定されない。例えば、制御装置3は、複数の渦電流(例えば、n回繰り返し測定された渦電流)の平均を求め、渦電流の平均をmセット分送信してもよい。また、制御装置3は、対象物9の温度変化が大きいことに起因して測定を中止した場合には、中止するまでの渦電流等を処理装置5へ送信しなくてもよい。
【0093】
さらに、処理装置5における厚さの導出方法は、任意の手法を採用することができる。また、対象物9の温度による厚さの補正は必須ではない。
【0094】
第1判別における第1期間は、第1判別の対象の期間(即ち、対象測定値が含まれる期間)の前日でなくてもよい。第1期間は、対象の期間の前々日であってもよい。第1期間は、第1判別の対象の期間よりも過去の期間でなくてもよい。第1判別は、測定値の変化の大きさに基づいて異常か否かを判別するため、対象測定値に対して時間的に近い期間の測定値を基準に対象測定値が異常か否かを判定すればよい。そのため、第1期間は、第1判別の対象の期間よりも後の期間であってもよい。また、第1期間の長さは、第1判別の対象の期間と同じでなくてもよい。つまり、前述の例では、第1判別の対象の期間は一日であり、第1期間は、対象の期間の前日である。例えば、第1判別の対象の期間は、一時間であり、第1期間は、対象の期間よりも前(例えば、直前)の十時間であってもよい。このように、第1判別の対象の期間の長さと第1期間の長さとは同じでなくてもよい。
【0095】
第1判別における代表値は、平均値又は中央値でなくてもよい。代表値は、例えば、第1期間中の測定値の最小値であってもよい。
【0096】
第1判別における第1範囲に関し、第1範囲の下限値と代表値との幅は、第1範囲の上限値と代表値との幅と同じであってもよい。あるいは、第1範囲の下限値と代表値との幅は、第1範囲の上限値と代表値との幅よりも小さくてもよい。例えば、対象物9の厚さが増大する傾向にある場合には有効である。第1範囲の下限値と代表値との幅、又は、第1範囲の上限値と代表値との幅は、平均値に対する分散以下であってもよい。
【0097】
第2判別における第2期間は、十日に限定されない。第2期間は、第1期間よりも長ければ、任意に設定され得る。第2判別において、第2期間中の測定値の経時変化は、近似直線で表されなくてもよい。例えば、経時変化は、回帰直線で表されてもよい。また、第2範囲に関し、近似直線からの上下への拡がりは、任意に設定され得る。
【0098】
フローチャートは、一例に過ぎない。フローチャートにおけるステップを適宜、変更、置き換え、付加、省略等を行ってもよい。また、フローチャートにおけるステップの順番を変更したり、直列的な処理を並列的に処理したりしてもよい。例えば、ステップS104は省略され、対象物9の温度変化にかかわらず、セット回数mの渦電流の測定が必ず実行されてもよい。
【0099】
本明細書中に記載されている構成要素により実現される機能は、当該記載された機能を実現するようにプログラムされた、汎用プロセッサ、特定用途プロセッサ、集積回路、ASICs(Application Specific Integrated Circuits)、CPU(a Central Processing Unit)、従来型の回路、及び/又はそれらの組合せを含む、回路(circuitry)又は演算回路(processing circuitry)において実装されてもよい。プロセッサは、トランジスタ及びその他の回路を含み、回路又は演算回路とみなされる。プロセッサは、メモリに格納されたプログラムを実行する、プログラマブルプロセッサ(programmed processor)であってもよい。
【0100】
本明細書において、回路(circuitry)、ユニット、手段は、記載された機能を実現するようにプログラムされたハードウェア、又は実行するハードウェアである。当該ハードウェアは、本明細書に開示されているあらゆるハードウェア、又は、当該記載された機能を実現するようにプログラムされた、又は、実行するものとして知られているあらゆるハードウェアであってもよい。
【0101】
当該ハードウェアが回路(circuitry)のタイプであるとみなされるプロセッサである場合、当該回路、手段、又はユニットは、ハードウェアと、当該ハードウェア及び又はプロセッサを構成する為に用いられるソフトウェアの組合せである。
【0102】
本開示の技術をまとめると、以下のようになる。
【0103】
[1]処理装置5は、パルス渦流探傷によって測定された対象物9の厚さの測定値を継続的に収集する収集器54と、前記収集器54によって収集された前記測定値の集合である測定値群の中から異常値を判別する判別器55とを備え、前記判別器55は、前記測定値群のうちの所定の第1期間中の前記測定値に基づいて前記測定値群の中から第1異常値を判別する第1判別と、前記測定値群のうちの前記第1期間よりも長い第2期間中の前記測定値から前記第1異常値を除去して、前記第1異常値が除去された前記第2期間中の前記測定値の経時変化に基づいて前記測定値群の中から第2異常値を判別する第2判別とを実行する。
【0104】
この構成によれば、まず、第1期間中の測定値に基づいて測定値群の中から第1異常値が判別され、次に、第1期間よりも長い第2期間中のうち第1異常値が除去された測定値の経時変化に基づいて第2異常値が判別される。比較的短い第1期間の測定値を基準に第1異常値を判別する第1判別と、第1期間よりも長い第2期間の測定値を基準に第2異常値を判別する第2判別との2段階で異常値が判別されるので、異常値の判別精度が向上する。第2判別では、第2期間中の測定値の経時変化に基づいて第2異常値を判別することによって、比較的長い期間の測定値に対して異常な測定値を適切に判別できる。さらに、第2判別では第2期間中の測定値の中から第1異常値が除去されているため、第2判別の判別精度が向上する。その結果、対象物9の厚さの測定値の中から異常値を精度よく判別することができる。
【0105】
[2] [1]に記載の処理装置5において、前記判別器55は、前記第1判別において、前記第1期間中の前記測定値の代表値を求め、前記代表値を基準に定められる第1範囲から外れる前記測定値を前記第1異常値と判別する。
【0106】
この構成によれば、第1期間中に複数の測定値が含まれる場合に、第1異常値の判別に代表値を用いることによって、第1期間中の複数の測定値に対して対象の測定値が異常か否かを簡便に判別することができる。
【0107】
[3] [1]又は[2]に記載の処理装置5において、前記所定の第1範囲は、前記代表値よりも大きい上限値と前記代表値よりも小さい下限値とによって規定され、前記代表値と前記下限値との幅は、前記上限値と前記代表値との幅よりも大きい。
【0108】
この構成によれば、対象物9の厚さが経時的に薄くなる場合に、第1異常値を適切に判別できる。つまり、対象物9の厚さが経時的に薄くなる場合には、測定値は経時的に減少する傾向にある。代表値に対して下側に変化する測定値は、対象物9の厚さの減少の影響を含み得る。第1範囲の下限値と代表値との幅を第1範囲の上限値と代表値との幅よりも大きくるすことによって、代表値よりも下側への判別基準の方が代表値よりも上側への判別基準よりも緩くなる。これにより、対象物9の厚さの変化に起因して減少した測定値を第1異常値と誤判定することを防止することができる。
【0109】
[4] [1]乃至[3]の何れか1つに記載の処理装置5において、前記判別器55は、前記第2判別において、前記第2期間中の前記測定値の経時変化の近似直線を求め、前記近似直線を基準とする第2範囲から外れる前記測定値を前記第2異常値と判別する。
【0110】
この構成によれば、近似直線は、第2期間中の測定値の経時変化を表す。近似直線を基準とする第2範囲に基づいて第2異常値を判別することによって、第2期間中の測定値の経時変化に基づいた第2異常値の判別を簡便に行うことができる。
【0111】
[5] [1]乃至[4]の何れか1つに記載の処理装置5において、前記判別器55は、前記測定値群の中から前記第2判別の対象の測定値を変更しつつ、前記対象の測定値に対して前記第2判別を繰り返し、前記対象の測定値は、前記第1異常値と既に判別された測定値を含まず、前記第2異常値と既に判別された測定値を含む。
【0112】
この構成によれば、繰り返し行われる第2判別において、第2判別の基準となる、測定値の経時変化を適切に求めることができる。つまり、第1異常値は、比較的短い第1期間中の測定値を基準に判別されたものである。それに対し、第2異常値は、比較的長い第2期間中の測定値であり且つ第1異常値を除く測定値を基準に判別されたものである。そのため、第2異常値の異常の程度は、第1異常値に比べて小さい。第2判別において、過去の第2判別において第2異常値と既に判別された測定値を経時変化の導出に用いることによって、経時変化の導出に用いる測定値の個数を増やして、経時変化の精度を向上させることができる。
【0113】
[6] [1]乃至[5]の何れか1つに記載の処理装置5において、前記第1異常値及び前記第2異常値が除去された前記測定値群の前記測定値の変化率を算出する算出器56をさらに備える。
【0114】
この構成によれば、前述のように判別された第1異常値及び第2異常値を測定値群の中から除去することによって、測定値の変化率を精度よく求めることができる。
【符号の説明】
【0115】
5 処理装置
54 収集器
55 判別器
56 算出器