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特開2024-59049合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートを形成する方法
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  • 特開-合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートを形成する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059049
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/00 20060101AFI20240422BHJP
   B29C 65/06 20060101ALI20240422BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B32B37/00
B29C65/06
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166561
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
4F100AD11B
4F100AK01A
4F100AK04A
4F100AK04C
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AK16A
4F100AK16C
4F100AK18A
4F100AK18C
4F100AK19A
4F100AK19C
4F100AK41A
4F100AK41C
4F100AK46A
4F100AK46C
4F100AK49A
4F100AK49C
4F100AK50A
4F100AK50C
4F100AK54A
4F100AK54C
4F100AK55A
4F100AK55C
4F100AK56A
4F100AK56C
4F100AL01A
4F100AL01C
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA13A
4F100CA13C
4F100EH90
4F100JL10A
4F100JL10C
4F211AA14
4F211AA16
4F211AA17
4F211AA21
4F211AA24
4F211AA25
4F211AA29
4F211AA32A
4F211AA34
4F211AA40
4F211AD02A
4F211AG01
4F211AG03
4F211AH33
4F211TA01
4F211TA13
4F211TC02
4F211TD11
4F211TH23
4F211TN20
4F211TQ05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】絶縁性の熱伝導性物質であり、かつ、熱伝導性と異なる作用効果を同時にもたらすシートの形成方法を提供する。
【解決手段】最初に、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液を作成する。次に、枠体を加振台の上に載せ、1枚のシートを枠体の内側に押し込んで加振台の上に重ね、懸濁液を枠体の内側に注入する。加振機を稼働させ、懸濁液に3方向の振動加速度を加え、懸濁液中で面を上にしてグラフェンの集まりを並ばせる。別のシートを、枠体の内側に押し込んで懸濁液の上に被せる。この後、2枚のシートをメタノールの沸点に昇温する。さらに枠体を2枚のシートから剥がし、2枚のシートを第一の平板と第二の平板ではさみ、第二の平板の表面を均等に圧縮する。これによって、グラフェン接合体の双方の表面に、合成樹脂のシートが摩擦圧接で接合し、厚みが薄いシートが形成される。この後、厚みが薄いシートを第二の平板と第一の平板から剥がす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートを形成する方法は、
2枚の平行平板電極板を構成する一方の電極板の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該一方の電極板を、第一の容器に充填したメタノール中に浸漬させ、他方の電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の電極板の上に重ね合わせ、前記一方の電極板と前記他方の電極板とからなる平行平板電極板対を、前記メタノール中に浸漬させる、この後、該電極板対の間隙に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記電極板対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記電極板対の間隙を拡大し、該電極板対を前記メタノール中で傾斜させ、さらに、前記第一の容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記電極板対の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記第一の容器から前記電極板対を取り出す、前記第一の容器内に、前記メタノールに分散したグラフェンの集まりを作成する第一の工程と、
前記第一の容器内で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記第一の容器から前記ホモジナイザー装置を取り出し、前記メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を、前記第一の容器内に作成する第二の工程と、
同一の大きさで厚みが1mmより薄い合成樹脂からなる2枚のシートと、該2枚のシートを内側で支持する枠体と、加振機とを用意し、前記枠体を前記加振機の加振台の上に載せ、さらに、前記2枚のシートのうちの1枚のシートを、前記枠体の内側に押し込んで前記加振台の上に重ねる、この後、前記枠体の厚みの1/5の高さまで前記懸濁液が占めるように、該懸濁液を前記枠体の内側に注入する、さらに、前記加振機を稼働させ、前記注入した懸濁液に、左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加え、前記懸濁液におけるグラフェンの集まりを、該懸濁液中で面を上にしてランダムに並ばせる、この後、前記2枚のシートのうちのもう一枚のシートを、前記枠体の内側に押し込んで前記懸濁液の上に被せ、前記懸濁液中で面を上にして並んだグラフェンの集まりを、前記2枚のシートの間隙に形成する第三の工程と、
前記枠体の内側に支持された前記2枚のシートを、該枠体とともに、前記加振台の上から移動させ、該2枚のシートと該枠体とを前記メタノールの沸点に昇温し、前記2枚のシートの間隙に形成した懸濁液からメタノールを気化させ、該2枚のシートの間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを形成する、この後、前記2枚のシートが支持された枠体を裏返し、該枠体の表面の複数個所に衝撃加速度を同時に加え、該枠体を前記2枚のシートから剥がし、該2枚のシートを取り出す、さらに、該2枚のシートを、該2枚のシートの大きさからなり、前記枠体の厚みより厚い第一の平板の上に重ね合わせる、さらに、前記第一の平板と同一の大きさと同一の厚みとからなる第二の平板を、前記2枚のシートのうちの上方のシートの上に重ね合わせ、該第二の平板の表面全体を均等に圧縮する、これによって、前記2枚のシートの間隙に形成された面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりの全体が均等に圧縮され、該重なり合ったグラフェンの集まりが摩擦圧接で接合し、該接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が形成されるとともに、該グラフェン接合体の双方の表面に、前記シートが摩擦圧接で接合し、該グラフェン接合体の双方の表面に前記シートが摩擦圧接で接合したシートが形成される、この後、前記第二の平板の4つの側面のうちの1つの側面の複数個所に、衝撃加速度を同時に加え、さらに、前記第一の平板の4つの側面のうちの1つの側面の複数個所に、前記衝撃加速度と同等の衝撃加速度を同時に加え、前記シートを、前記第二の平板と第一の平板から剥がし、該シートを取り出す第四の工程とからなり、
これら4つの工程を連続して実施することによって、合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートを形成する方法。
【請求項2】
請求項1に記載したシートを形成する方法は、
請求項1に記載した合成樹脂からなる2枚のシートの材質が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ないしは、ポリフェニレンエーテル樹脂からなるいずれか1種類の合成樹脂の材質であり、ないしは、いずれか2種類の合成樹脂の材質であり、該合成樹脂の材質からなるシートを、請求項1に記載した合成樹脂からなる2枚のシートとして用い、請求項1に記載したシートを形成する方法に従って、該シートを形成する方法。
【請求項3】
請求項1に記載したシートを形成する方法は、
請求項1に記載した合成樹脂からなる2枚のシートの材質が、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリフッ化ビニルデン樹脂、ないしは、ポリ塩化ビニルデン樹脂からなるいずれか1種類の合成樹脂の材質であり、ないしは、いずれか2種類の合成樹脂の材質であり、該合成樹脂の材質からなるシートを、請求項1に記載した合成樹脂からなる2枚のシートとして用い、請求項1に記載したシートを形成する方法に従って、該シートを形成する方法。
【請求項4】
請求項1に記載したシートを形成する方法は、
請求項1に記載した合成樹脂からなる2枚のシートが、合成樹脂からなる着色されたシートであり、該着色されたシートを、請求項1に記載した合成樹脂からなる2枚のシートとして用い、請求項1に記載したシートを形成する方法に従って、該シートを形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね合わせたグラフェンの集まりを摩擦圧接で接合したグラフェン接合体の双方の表面に、合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを摩擦圧接で接合したシートを形成する方法に関わる。なお、JISの包装用語では、厚みが250μm以下の板状体をフィルムと称し、厚みが250μmより厚い板状体をシートと称するため、本発明で形成する板状体をシートと記した。
グラフェン接合体の双方の表面に、合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを摩擦圧接で接合したシートは、合成樹脂のシートの厚みが薄いため、グラフェン接合体の性質がシートに反映される。すなわち、グラフェンは、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄く、グラフェンのアスペクト比が極めて大きいため、グラフェンの厚み方向の導電率は極めて小さく、面方向に電子が優先して移動するため、面方向の導電率が高い。従って、グラフェン接合体は、グラフェンの導電率に近い導電率を持つ。なお、グラフェンの体積固有抵抗率は1.3μΩcmで、金属の中で最も体積固有抵抗率が小さい銀の体積固有抵抗率である1.6μΩcmよりさらに小さい。また、グラフェンの厚みが極めて薄いため、グラフェンの厚み方向の熱伝導率は極めて小さく、面方向に熱が優先して伝わるため、面方向の熱伝導率は高い。なお、グラフェンの熱伝導率は1880W/(m・K)で、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導率を持つ。このため、重ね合わせたグラフェンの集まりを摩擦圧接で接合したグラフェン接合体は、面方向に熱が優先して伝わるため、グラフェンの熱伝導率に近い熱伝導率を持つ。このように、グラフェンの性質の異方性によって、グラフェン接合体は、グラフェンの性質を持つ。これによって、本発明のシートは、グラフェン接合体に近い導電性と熱伝導性とを持つ。さらに、グラフェンは、破断強度が42N/mで、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。従って、グラフェンの集まりを摩擦圧接で接合したグラフェン接合体は、グラフェンの面が有する機械的強度を持つ。さらに、グラフェン接合体の厚みを0.1μmとし、合成樹脂からなるシートの厚みを0.3mmとすれば、2枚のシートをグラフェン接合体の表面に摩擦圧接で接合したシートは、極めて厚みが0.61mmと薄く、従来の合成樹脂のシートより1桁重量が少ない。従来は、シートの厚みと機械的強度とは、相反する性質であるが、本発明のシートは、極めて厚みが薄く、極めて軽量であるが、金属を超える機械的強度を持つ。さらに、グラフェンは、3000℃を超える耐熱性と、酸とアルカリにも反応しない単結晶材である。従って、酸やアルカリや有機溶剤と反応しない合成樹脂からなるシートを用いれば、本発明のシートは、腐食性の液体に長期間浸漬して使用できる。また、2枚のシートの材質が同一でも、異なっても、また、合成樹脂からなる2枚のシートの厚みが同一でも、異なっても、2枚のシートをグラフェン接合体に摩擦圧接で接合きる。このように、本発明のシートは、従来のシートと材料構成と製法とが全く異なるため、従来考えられない画期的な様々な性質を持つ。
なお、本発明者は、絶縁性で熱伝導性の粉体の集まりで、グラフェン接合体の表面を絶縁化する発明を、特願2022-159220として先行出願している。本発明は、合成樹脂からなる厚みが薄いシートで、グラフェン接合体の表面を絶縁化するため、先行出願に比べ、表面の絶縁性は劣るが、表面を絶縁化させる方法が先願より簡単である。
【背景技術】
【0002】
本発明のシートは、合成樹脂からなる厚みが薄いシートを、さらに厚みが薄いグラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートであるため、全く新たな材料構成からなる。このため、本発明に近いシートを形成する技術は、これまでのところ存在しない。いっぽう、本発明のシートの用途の一つに、表面が絶縁化された熱伝導性シートがある。このため、本発明に近い従来技術として、表面が絶縁化された熱伝導性シートを取り挙げる。
【0003】
近年、エレクトロニクス技術の発展に伴い、電子機器の小型化、軽量化、高密度化、高出力化が進み、これによって、電子回路の高密度化に伴う絶縁性に係わる信頼性の向上や、電子デバイスの発熱と高密度実装とによる電子機器の熱劣化防止に役立つ放熱性の向上などが強く求められている。
いっぽう、エレクトロニクス分野では、絶縁材の多くは熱伝導性に劣る高分子材料が用いられている。このため、高分子材料の熱伝導性を高めるために、固体の熱伝導性粒子を熱伝導の担い手として高分子材料に充填する方法が用いられている。この方法では、熱伝導性粒子の集まりが、高分子材料の内部に熱伝導経路を形成することで、優れた熱伝導性が実現する。いっぽう、熱伝導性粒子が高分子材料の内部に熱伝導経路を形成するには、熱伝導性粒子の充填率を高めることが必要になるが、融解した高分子材料に熱伝導性粒子を充填させる割合は粘度の上昇によって限度がある。この結果、固体の熱伝導性粒子を高分子材料に充填させる従来の方法では、高分子材料の熱伝導性の向上には限界がある。
【0004】
熱伝導性を付与する技術には様々な方法がある。
例えば、特許文献1には、酸化アルミニウムや窒化アルミニウムなどの絶縁性で熱伝導性の球状粒子を有機結着剤で凝集させた凝集体の製造技術が記載されている。つまり、熱伝導性粒子同士を有機結着剤を介して凝集させた凝集体を熱伝導の担い手とする。
また、特許文献2には、熱伝導性、制振性、緩衝性を兼備したエラストマー材料の製造技術が記載されている。つまり、熱可塑性エラストマーの重量に対し、3-10倍の軟化剤を加えることで、制振性と緩衝性とを確保し、また、熱伝導性の担い手としてピッチ系炭素繊維を用い、成形体の体積の10-40%の体積割合でピッチ系炭素繊維を充填することで、制振性と緩衝性とを犠牲にすることなく熱伝導性を確保する、としている。
さらに、特許文献3には、ポリフェニレンサルファイド系樹脂とポリアミド系樹脂とからなる2種類の樹脂のうちの一方の樹脂を島状構造とし、他方の樹脂を海状構造とする三次元網目構造を形成し、熱伝導性付与剤を海状構造の樹脂中に偏在させることで、機械的強度及び成形性を低下させることなく、熱伝導率が向上する樹脂組成物の製造技術が記載されている。つまり、熱伝導性付与剤を海状構造樹脂中に充填させることで、海状構造樹脂の熱伝導性を高め、海状構造の部分に沿って熱を伝導させ、これによって、樹脂組成物の熱伝導性を高める、としている。
また、特許文献4には、電気絶縁性を低下させることなく、機械的強度、耐熱性、寸法精度、薄肉成形性に優れ、且つ熱伝導性の熱硬化性樹脂の成形材料の製造技術が記載されている。つまり、第一のフィラーとして針状形状で、モース硬度が4.5-5.0の値を持つウォラストナイトを充填することで、引張強度と曲げ強度とを確保し、また、ウォラストナイトの熱膨張係数が6.5×10-6/℃と小さいため、寸法安定性と薄肉成形性が確保される。さらに、ウォラストナイトの融点が1540℃と高いため耐熱性が得られる。また、第二のフィラーとして絶縁性で熱伝導性であるアルミナの球状粒子を用いることで、熱硬化性樹脂の電気絶縁性を低下させることなく、熱導電性を向上させる構成としている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、熱伝導性を向上させるうえで次の2つの問題点を持つ。第一に、溶剤によって有機結着剤を溶解させ、溶解した有機結着剤に熱伝導性粒子の集まりを分散させたスラリー液を作成した後に、溶剤を気化させて易変形性凝集体と呼ぶ物質を作成する。この易変形性凝集体における熱伝導性の大きさは、熱伝導性粒子が互いに接近した構造を取ることに大きく依存する。なぜならば、熱伝導性粒子のみが熱伝導の担い手になるからである。熱伝導性粒子同士を互いに接近させるには、有機結着剤に対する熱伝導粒子の混合割合を著しく高めることが必要になるが、熱伝導粒子の混合割合を高めるほど、易変形性凝集体における有機結着剤の割合が減少し、有機結着剤を介して球状の熱伝導粒子を結合させることが困難になるという問題点を持つ。第二に、易変形性凝集体を熱伝導性に劣るバインダー樹脂と混合し、この混合物を圧縮することで、熱硬化性のシートを製作する。なぜならば、易変形性凝集体のみでは熱伝導性シートの製造できないため、バインダー樹脂と混合することで、易変形性凝集体の集まりを結合させ、バインダー樹脂で結合した易変形性凝集体の集まりを圧縮することで、熱伝導性シートが製作できる。しかしながら、バインダー樹脂は非熱伝導性であるため、バインダー樹脂の混合割合を低下させなければ、易変形性凝集体の熱伝導性が熱伝導シートに反映されない。いっぽう、バインダー樹脂の混合割合を低下させるほど、易変形性凝集体同士の結合が困難になり、熱伝導シートの製作ができないという問題点を持つ。
さらに、特許文献1に記載された技術は、分断された複数の製作工程によって、熱伝導シートを製造するため製造費用が高価になる。また、原料として用いる熱伝導性粒子が、高価な球状微粒子でかつ使用量が少量でないため、高い付加価値、例えば、金属並みの熱伝導性を持ち、かつ、絶縁性であればよいが、本技術で得られた熱伝導性は、金属の熱伝導性より1桁以上低いため、本技術が適応できる製品分野は制限される。
【0006】
また、特許文献2に記載された技術は、ピッチ系炭素繊維の体積割合に応じて、エラストマー材料における熱伝導性が増大するが、非常に高価なピッチ系炭素繊維を50%体積割合まで増大させても、熱伝導率は8.21W/(m・K)であり、製造費用が極めて高い割には熱伝導率が低い。これは、ピッチ系炭素繊維の熱伝導率が異方性を持っており、繊維軸方向の熱伝導率が500W/(m・K)という大きな熱伝導率を持つが、ピッチ系炭素繊維を繊維軸方向に配向させてエラストマー材料に充填することが困難であることに依る。さらに、ピッチ系炭素繊維は、体積抵抗率が2×10-5cmからなる導電性を持ち、ピッチ系炭素繊維の充填率を高めるほどエラストマー材料は導電性を示す。このため、エラストマー材料が電気絶縁性を保って他の部品と組み合わせる場合は、電気絶縁性で非熱伝導性の接着剤を用いることになり、エラストマー材料の熱伝導性が非熱伝導性の接着層によって損なわれる。また、ピッチ系炭素繊維の体積割合が増えるほど、エラストマー材料の硬度が増大し、制振性と緩衝性が低下する。従って、本技術についても、適応できる製品分野は限定される。
【0007】
さらに、特許文献3に記載された技術は、ポリフェニレンサルファイド系樹脂に特殊な相溶化剤を混合した第1のマスターバッチを調製する工程と、ポリアミド系樹脂に表面が改質された熱伝導性付与剤を混合した第2のマスターバッチを調製する工程と、第1のマスターバッチと第2のマスターバッチを溶融混練する工程との3つの製造工程から樹脂成形体が製造される。従って、本技術は3つの分断された工程から樹脂成形体が製造され、また、特殊な相溶化剤を事前に調整する複雑な処理工程と、さらに、熱伝導性付与剤の表面を事前に改質する処理工程とが必要となるため、樹脂成形体の製造費用は高価なものになる。いっぽう、熱伝導性を担う粒子を60%重量割合で充填させても、樹脂成形体の熱伝導率は1-2W/(m・K)と低い。これは、熱伝導性付与剤である熱伝導性粒子をフィラーとして海状構造の樹脂中に充填する割合が、樹脂溶解時の粘度の増大によって制限され、フィラーを互いに接近させることが困難であることに依る。また、熱伝導性粒子が導電性を持つ場合は、海状構造の樹脂中に熱伝導性粒子の充填率を高めるほど、海状構造の樹脂の導電性が増大し、樹脂が海状構造であるため、樹脂成形体の導電率が増大する。このため、樹脂成形体が電気絶縁性を保って他の部品と組み合わせる場合は、電気絶縁性で非熱伝導性の接着剤を用いることになり、樹脂成形体の熱伝導性が非熱伝導性の接着層によって損なわれる。従って、本技術についても、適応できる製品分野は限定される。
【0008】
また、特許文献4に記載された技術は、第一のフィラーとしてウォラストナイトの針状粒子を用いることに大きな特徴があるが、第二のフィラーとしてアルミナの粒子を用いることは、従来の導電性フィラーとしてアルミナ粒子を樹脂に充填させる技術と変わりない。このため、アルミナ粒子を充填させる割合は、熱硬化性樹脂の溶解時の粘度の上昇から80%重量割合に制限され、80%重量割合でアルミナ粒子を充填しても、アルミナ粒子同士を互いに熱硬化性樹脂に接近させることは困難であるため、得られた熱硬化性樹脂の成形体の熱伝導度は1W/(m・K)程度に過ぎない。従って、本技術についても、適応できる製品分野は限定される。
【0009】
ここで、熱伝導性を付与する従来技術に係わる課題を整理する。
熱伝導性を担う物質が、連続した構造ないしは近接した構造が取れれば、熱伝導経路が熱伝導性物質に形成され、熱伝導性が著しく増大する。いっぽう、従来技術においては、熱伝導性を担う物質の間に必ず非熱伝導性の物質が介在し、これによって、熱伝導を妨げる抵抗が形成され、熱伝導性の向上が抑制された。
第一の課題は、熱伝導性を担う絶縁性の物質が、連続した構造ないしは近接した構造を、熱伝導性物質中に取ることである。従って、熱伝導性を担う絶縁性の物質を、非熱伝導性の物質に複合化する、ないしは、混合する従来技術では、この課題を解決することはできない。
第二の課題は、熱伝導性を担う物質の分散性である。つまり、熱伝導性を担う物質の体積占有率が増大するほど、熱伝導性物質の内部で、熱伝導性を担う物質同士が互いに接触ないしは近接する確率が高まり、これによって、熱伝導性を担う物質が連続した構造ないしは近接した構造を、熱伝導性物質の内部で取りやすくなる。この結果、熱伝導性物質の熱伝導性が増大する。しかしながら、熱伝導性を担う物質が固体である場合は、熱伝導性物質の内部に分散できる割合には限度がある。すなわち、従来技術で説明したように、熱伝導性粒子の充填率を高めるほど、融解した高分子材料の粘度が高まり、融解した高分子材料が押出や射出といった成形加工ができなくなる。また、特許文献2の問題点で説明したように、融解した高分子材料にピッチ系炭素繊維を繊維軸方向に配向させて分散することは困難である。また、特許文献4における針状粒子を針状方向に配向させて分散することも困難である。このため、固体からなる熱伝導性を担う物質を、非熱伝導性の物質に複合化するないしは混合する従来技術では、熱伝導性を担う物質の分散性の課題を解決することはできない。
第三の課題は、熱伝導性を担う物質の凝集である。つまり、特許文献1、特許文献3および特許文献4には、熱伝導性粒子を融解した高分子材料に充填する技術が記載されているが、粒子が微細になるほど、また、粒子が対称形状であるほど、粒子が凝集しやすくなる。粒子の凝集が起こると、熱伝導性物質の内部で粒子が偏在し、結果として前記した分散性と同様の問題が起こる。従って、微細な粒子や球状粒子を、融解した高分子材料に充填する従来技術では、熱伝導性を担う物質の凝集の課題を解決することはできない。
第四の課題は、熱伝導性物質の性質が、熱伝導性が金属に近く、かつ、優れた絶縁性であることである。特に、エレクトロニクス分野に用いる製品は、こうした性質が必要となる。つまり、熱伝導性物質に金属に近い熱伝導性が付与されたとしても、導電性である場合は、電気絶縁性を確保することが必要になり、多くの場合は電気絶縁性で非熱伝導性である安価な接着剤を用いるが、非熱伝導性の接着層によって、熱伝導性物質同士の熱伝導性を伴った接合ができない。なお、絶縁性で熱伝導性が高いほど、熱伝導性物質が持つ付加価値は高い。前記した従来技術の熱伝導性は、金属の熱伝導性に比べ1桁以上熱伝導性が低いため、付加価値は低い。
第五の課題は、安価な製造方法で絶縁性の熱伝導性物質が作成できることである。特に、エレクトロニクス分野に用いる製品は、安価な部品ないしは安価な基材が採用される。従って、前記した従来技術のように、分断された複数の工程からなる製法や、非常に高価な原料を用いる製法や、原料に事前処理が必要になる製法を伴う場合は、製造費用が高騰し、安価な工業用製品を製造する製法として適切でない。
第六の課題は、絶縁性の熱伝導性物質が、軽量で厚みが薄いことである。特に、エレクトロニクス分野における製品は、小型化、軽量化および薄肉化が進んでいるため、重量がかさみ、厚みを占有する絶縁性の熱伝導性物質は適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014-03261号公報
【特許文献2】特開2011-63716号公報
【特許文献3】特開2009-263476号公報
【特許文献4】特開2009-221308号公報
【特許文献5】特許第6166860号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記した熱伝導性物質の課題の多くは、固体の熱伝導性を担う物質を非熱伝導性物質、例えば、融解した高分子材料に複合化ないしは混合することで起こる。従って、固体の熱伝導性を担う物質を、非熱伝導性物質に複合化ないしは混合する製法を用いる限り、これらの課題は解決できない。このため、従来の熱伝導性物質の製法に係わる概念を払拭する全く新たな考えに基づき、新たな材料を用い、新たな製法で絶縁性の熱伝導性物質を作成しない限り、これらの課題は解決できない。
本発明が解決しようとする課題は、9段落で説明した6つの課題が同時に解決される全く新たな考えに基づき、新たな材料を用い、新たな製法で絶縁性の熱伝導性物質を作成する技術を実現することにある。さらに、絶縁性の熱伝導性物質を作成する技術が、絶縁性の熱伝導性物質とは異なる作用効果をもたらす物質を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートを形成する方法は、
2枚の平行平板電極板を構成する一方の電極板の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該一方の電極板を、第一の容器に充填したメタノール中に浸漬させ、他方の電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の電極板の上に重ね合わせ、前記一方の電極板と前記他方の電極板とからなる平行平板電極板対を、前記メタノール中に浸漬させる、この後、該電極板対の間隙に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記電極板対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記電極板対の間隙を拡大し、該電極板対を前記メタノール中で傾斜させ、さらに、前記第一の容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記電極板対の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記第一の容器から前記電極板対を取り出す、前記第一の容器内に、前記メタノールに分散したグラフェンの集まりを作成する第一の工程と、
前記第一の容器内で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記第一の容器から前記ホモジナイザー装置を取り出し、前記メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を、前記第一の容器内に作成する第二の工程と、
同一の大きさで厚みが1mmより薄い合成樹脂からなる2枚のシートと、該2枚のシートを内側で支持する枠体と、加振機とを用意し、前記枠体を前記加振機の加振台の上に載せ、さらに、前記2枚のシートのうちの1枚のシートを、前記枠体の内側に押し込んで前記加振台の上に重ねる、この後、前記枠体の厚みの1/5の高さまで前記懸濁液が占めるように、該懸濁液を前記枠体の内側に注入する、さらに、前記加振機を稼働させ、前記注入した懸濁液に、左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加え、前記懸濁液におけるグラフェンの集まりを、該懸濁液中で面を上にしてランダムに並ばせる、この後、前記2枚のシートのうちのもう一枚のシートを、前記枠体の内側に押し込んで前記懸濁液の上に被せ、前記懸濁液中で面を上にして並んだグラフェンの集まりを、前記2枚のシートの間隙に形成する第三の工程と、
前記枠体の内側に支持された前記2枚のシートを、該枠体とともに、前記加振台の上から移動させ、該2枚のシートと該枠体とを前記メタノールの沸点に昇温し、前記2枚のシートの間隙に形成した懸濁液からメタノールを気化させ、該2枚のシートの間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを形成する、この後、前記2枚のシートが支持された枠体を裏返し、該枠体の表面の複数個所に衝撃加速度を同時に加え、該枠体を前記2枚のシートから剥がし、該2枚のシートを取り出す、さらに、該2枚のシートを、該2枚のシートの大きさからなり、前記枠体の厚みより厚い第一の平板の上に重ね合わせる、さらに、前記第一の平板と同一の大きさと同一の厚みとからなる第二の平板を、前記2枚のシートのうちの上方のシートの上に重ね合わせ、該第二の平板の表面全体を均等に圧縮する、これによって、前記2枚のシートの間隙に形成された面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりの全体が均等に圧縮され、該重なり合ったグラフェンの集まりが摩擦圧接で接合し、該接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が形成されるとともに、該グラフェン接合体の双方の表面に、前記シートが摩擦圧接で接合し、該グラフェン接合体の双方の表面に前記シートが摩擦圧接で接合したシートが形成される、この後、前記第二の平板の4つの側面のうちの1つの側面の複数個所に、衝撃加速度を同時に加え、さらに、前記第一の平板の4つの側面のうちの1つの側面の複数個所に、前記衝撃加速度と同等の衝撃加速度を同時に加え、前記シートを、前記第二の平板と第一の平板から剥がし、該シートを取り出す第四の工程とからなり、
これら4つの工程を連続して実施することによって、合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートを形成する方法である。
【0013】
本発明は、極めて簡単な次の4つの工程からなる。
第一の工程は、容器内にグラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液を作成する工程である。このため、最初に、2枚の平行平板電極対の間隙に敷き詰められた鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを、絶縁体であるメタノール中に浸漬させ、2枚の平行平板電極間に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加させる。これによって、電位差を2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生する。この電界は、前記した黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与える。これによって、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。つまり、π電子に作用するクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に与えられると、π電子はπ軌道の拘束から解放されて自由電子になる。この結果、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子が、π軌道上に存在しなくなり、黒鉛粒子の全てについて、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。これによって、2枚の平行平板電極対の間隙に、基底面の集まり、すなわちグラフェンの集まりが瞬時に作成される。作成されたグラフェンは、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。いっぽう、グラフェンは、質量を殆ど持たない極めて軽量な物質であるが、2枚の平行平板電極対がメタノール中に浸漬しているため、平行平板電極対の間隙に析出したグラフェンの集まりは飛散しない。なお、電界の印加で、鱗片状黒鉛粒子または塊状黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊してグラフェンの集まりを製造する技術は、本発明者による特許文献5に記載されている。
すなわち、絶縁体であるメタノール中に浸漬した2枚の平行平板電極間に、電位差を印加させると、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する。なお、メタノールは比抵抗が3MΩ・cm以上で、誘電率が33の絶縁体である。また、エタノールも誘電率が24からなる絶縁体である。なお、エタノールの電気導電率は7.5×10-6S/mで、鱗片状黒鉛粒子の電気伝導度が43.9S/mである。従って、エタノールは、導電体である鱗片状黒鉛粒子に比べ、電気導電度が1.7×10倍低い絶縁体である。
なお、黒鉛粒子は、鉱物としての天然の黒鉛結晶を用い、精製した黒鉛粒子に、鱗片状黒鉛粒子、塊状黒鉛粒子(鱗状黒鉛粒子とも言う)、土状黒鉛粒子の3種類が存在する。土状黒鉛粒子は、他の2種類の黒鉛粒子に比べ、黒鉛結晶の結晶性が劣るため、土状黒鉛粒子の層間結合を破壊して得られるグラフェンの量が、他の2種類の黒鉛粒子に比べ少ない。また、鱗片状黒鉛粒子は、塊状黒鉛粒子に比べ、アスペクト比が大きい扁平状の粒子である。このため、鱗片状黒鉛粒子の層間結合を破壊すると、塊状黒鉛粒子よりアスペクト比が大きいグラフェンが得られる。いっぽう、塊状黒鉛粒子は、鱗片状黒鉛粒子に比べ、粒子が大きい。このため、塊状黒鉛粒子の層間結合を破壊することで、鱗片状黒鉛粒子より多くのグラフェンが得られる。この理由から、黒鉛粒子として、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子を用いた。
次に、グラフェンの集まりを、2枚の平行平板電極対の間隙からメタノール中に移動させる。このため、2枚の平行平板電極対の間隙を、メタノール中で拡大させ、さらに、メタノール中で傾斜させ、この後、メタノールが充填された容器に、容器の大きさに応じて、0.2-0.3Gからなる3方向の振動加速度を順番に繰り返し加える。これによって、グラフェンの集まりが、2枚の平行平板電極対の間隙からメタノール中に移動する。この後、2枚の平行平板電極対を容器から取り出す。この結果、容器内に、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液が作成される。
第二の工程は、容器内にメタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を作成する工程である。このため、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液中で、ホモジナイザー装置を稼働させる。つまり、メタノールを介してグラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加える。これによって、グラフェンが、質量を殆ど持たない極めて軽量な物質であるため、グラフェンの集まりが、メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離され、分離されたグラフェンの集まりがメタノールに分散する。つまり、超音波方式のホモジナイザー装置を懸濁液中で稼働させると、グラフェンの扁平面よりさらに1桁以上小さい極微細で莫大な数からなる気泡の発生と消滅とが、超音波の振動周波数の周期に応じてメタノール中で連続して繰り返され(この現象をキャビテーションという)、気泡がはじける際の衝撃波が、殆ど質量を持たないグラフェンの集まりに繰り返し加わり、グラフェンの集まりが、短時間で1枚1枚のグラフェンにメタノール中で分離する。この結果、1枚1枚のグラフェンンに分離されたグラフェンの集まりが、メタノール中に分散する。すなわち、ホモジナイザー装置によって、低粘度で低密度のメタノールに加えた衝撃波は、メタノールの分子振動に消費される割合は少なく、多くの衝撃波が殆ど質量を持たないグラフェンの集まりに加わる。重なり合ったグラフェン同士の接合力が極めて小さいため、重なり合ったグラフェンに衝撃波が加わると、メタノール中で短時間に、かつ、確実に、グラフェン同士の重なり合いが解除され、1枚1枚のグラフェンに分離される。この結果、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンがメタノールで覆われた該グラフェンの集まりが、メタノール中に分散した懸濁液となる。
第三の工程は、第二の工程で作成した懸濁液中で、面を上にして並んだグラフェンの集まりを、合成樹脂からなる厚みが1mmより薄い2枚のシートの間隙に形成する工程である。このため、最初に、合成樹脂からなる厚みが1mmより薄い2枚のシートと、2枚のシートを内側で支持する枠体と、加振機とを用意する。次に、枠体を加振機の加振台の上に載せる。さらに、2枚のシートのうちの1枚のシートを、枠体の内側に押し込んで加振台の上に重ねる。この後、枠体の厚みの1/5の高さまで、第二の工程で作成した懸濁液が占めるように、懸濁液を枠体の内側に注入する。なお、合成樹脂のシートを枠体の底部まで押し込んだため、懸濁液は、懸濁液が持つ表面張力によって、枠体の底部から滲み出ない。さらに、加振機を稼働させ、注入した懸濁液に、懸濁液の量に応じて、0.2-0.3Gからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、最後に0.2-0.3Gからなる上下方向の振動加速度を加える。つまり、メタノールで覆われ、メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンに振動加速度を加えると、質量を殆ど持たないグラフェンが振動方向に移動する。いっぽう、グラフェンは、厚みが0.332nmと極めて薄く、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が極めて大きい。このため、グラフェンがメタノール中で振動加速度を受けると、面を上にしてメタノール中を移動するのが、グラフェンに最も負荷が加わらない。従って、グラフェンの集まりが3方向の振動加速度を繰り返し受けると、1枚1枚のグラフェンが、懸濁液中で面を上にしてランダムに並ぶ。最後に、上下方向の振動加速度を加え、1枚1枚のグラフェンが、懸濁液中で面を上にしてランダムに並んだグラフェンの集まりが、確実に形成される。この後、2枚のシートのうちのもう一枚のシートを、枠体の内側に押し込んで懸濁液の上に被せる。この結果、懸濁液中で、面を上にして並んだグラフェンの集まりが、2枚のシートの間隙に形成される。
第四の工程は、合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートを形成する工程である。このため、最初に、枠体の内側に支持された2枚のシートを、枠体とともに、加振台の上から移動させる。この後、2枚のシートと枠体とをメタノールの沸点に昇温し、2枚のシートの間隙に形成した懸濁液からメタノールを気化させ、2枚のシートの間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを形成する。さらに、2枚のシートが支持された枠体を裏返し、枠体の表面の複数個所に、枠体の大きさに応じて、0.1-0.2Gの衝撃加速度を同時に加え、枠体を2枚のシートから剥がし、2枚のシートを取り出す。この後、2枚のシートの大きさからなり、枠体の厚みより厚い第一の平板と第二の平板とを用意する。次に、第一の平板の上に、2枚のシートを重ね合わせる。さらに、第二の平板を、2枚のシートのうちの上方のシートの上に重ね合わせる。この後、第二の平板の表面全体を均等に圧縮する。これによって、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりの全体が均等に圧縮され、重なり合ったグラフェンの集まりが摩擦圧接で接合し、接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が形成されるとともに、グラフェン接合体の双方の表面に、シートが摩擦圧接で接合し、グラフェン接合体の双方の表面にシートが摩擦圧接で接合したシートが形成される。この後、第二の平板の4つの側面のうちの1つの側面の複数個所に、平板の大きさに応じて、0.4-0.5Gからなる衝撃加速度を同時に加え、さらに、第一の平板の4つの側面のうちの1つの側面の複数個所に、前記衝撃加速度と同等の衝撃加速度を同時に加え、シートを、第二の平板と第一の平板から剥がし、シートを取り出す。
【0014】
以上に説明した方法で作成したシートの作用効果を説明する。
シートは、摩擦圧接でグラフェンの集まりを接合したグラフェン接合体の双方の表面に、合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、摩擦圧接で接合させた形成物である。なお、合成樹脂からなるシートは、真空成形法でシートを形成すれば、厚みが0.3mmで、横幅が1mを超えるシートが容易に成形できる。いっぽう、合成樹脂のシートの厚みが薄いほど、シートにグラフェン接合体の性質が反映される。さらに、厚みが薄い合成樹脂のシートの接合面の全体が、グラフェン接合体の表面に摩擦圧接で接合するため、合成樹脂のシートはグラフェン接合体によって補強される。このため、合成樹脂のシートの厚みが薄くても、合成樹脂の衝撃強度より衝撃に強く、また、合成樹脂の曲げ強度より曲げに強い。さらに、厚みが薄いシートの面積が大きくても、シートの表面全体が均等に圧縮されるとともに、2枚のシートの間隙に形成された重なり合ったグラフェンの集まりの全体が均等に圧縮される。これによって、重なり合ったグラフェンの集まりが摩擦圧接で接合し、グラフェン接合体が形成される。また、合成樹脂のシートの表面に、グラフェンの集まりが摩擦圧接で接合する。従って、合成樹脂のシートの面積が大きくても、シートが形成できる。
第一に、熱伝導性に優れるグラフェンの性質が、表面が絶縁体であるシートに反映される。すなわち、グラフェンの熱伝導率は1880W/(m・K)で、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導率を持つ。また、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄いため、グラフェンの厚み方向の熱伝導率は極めて小さく、面方向に熱が優先して伝わるため、面方向の熱伝導率は高い。従って、全てのグラフェンが面同士で接合したグラフェン接合体は、グラフェンに近い熱伝導率を持つ。このため、シートは、表面が合成樹脂からなる厚みが薄いシートによって絶縁性を示すが、合成樹脂のシートの厚みが薄いため、金属に近い熱伝導率を持つ。
第二に、極めて強靭なグラフェンの性質が、シートに反映される。すなわち、グラフェンは、破断強度が42N/mであり、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。従って、グラフェンの集まりが重なり合って摩擦圧接で接合したグラフェン接合体は、グラフェンに近い強度を持つ。また、重なり合ったグラフェン同士を摩擦圧接で接合する際に、グラフェンは破壊しない。いっぽう、厚みが1mmより薄い合成樹脂のシートの接合面の全体が、グラフェン接合体に摩擦圧接で接合するため、厚みが薄いシートがグラフェン接合体で補強され、外観は合成樹脂に見えるシートが、金属より大きな衝撃強度を持ち、また、金属より大きな曲げ強度を持つ。このため、シートは、外観は合成樹脂であるが、高強度の構造体として用いることができる。
第三に、合成樹脂のシートとグラフェン接合体との接合強度が大きいため、外観が合成樹脂とみなされるシートは、シートを構成する合成樹脂より著しく機械的強度が大きい。すなわち、重なり合ったグラフェン同士が、強固に摩擦圧接で接合するとともに、シートの接合面が、グラフェン接合体に強固に摩擦圧接で接合する。つまり、重なり合ったグラフェンの面は、グラフェンの厚みに相当する0.332nmの段差しかない。このため、鏡面仕上げより平坦度が高い平面同士が摩擦圧接で接合する際に、重なり合ったグラフェンの面に短時間であるが、高温の摩擦熱が発生する。この際、重なり合ったグラフェンの面に存在する不純物が瞬間的に気化し、重なり合ったグラフェンの面が清浄化される。清浄化したグラフェンの面同士が摩擦圧接で接合するため、グラフェン同士の接合力は大きい。また、合成樹脂からなる厚みが薄いシートが成形される際に、表面にミクロンサイズの凹凸が、数多く形成される。従って、合成樹脂のシートの表面全体が均等に圧縮されると、シートの表面に形成された数多くの凸部が、平坦度に優れたグラフェンと接触する。さらに、圧縮応力が加わると、数多くの凸部に、短時間であるが、高温の摩擦熱が発生する。この際、凸部に存在する不純物が瞬間的に気化し、凸部が清浄化される。清浄化した数多くの凸部が、摩擦圧接でグラフェンの集まりに接合するため、合成樹脂のシートの表面とグラフェンとの接合力は大きい。このため、厚みが薄いシートは、グラフェン接合体によって補強される。従って、厚みが薄いシートは合成樹脂の衝撃強度より衝撃に強く、また、合成樹脂の曲げ強度より曲げに強い。このため、外観が合成樹脂に見えるシートが、合成樹脂としては従来使用できなかった様々な用途に使用できる。
第四に、厚みが薄い合成樹脂のシートを、さらに厚みが薄いグラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合するため、シートの重量は、従来の合成樹脂からなるシートの重量より1桁重量が軽い。つまり、合成樹脂のシートの厚みが薄くても、合成樹脂のシートをグラフェン接合体に摩擦圧接で接合したため、外観が合成樹脂に見えるシートが、合成樹脂より著しく機械的強度が大きく、しかし、極めて軽量である。このため、合成樹脂としては従来使用できなかった様々な用途に使用できる。
第五に、厚みが薄い合成樹脂のシートをグラフェン接合体に摩擦圧接で接合するため、合成樹脂のシートは衝撃によって破壊されず、また、曲げ応力で破壊されない。つまり、合成樹脂のシートの厚みが薄いほど、厚みに対する表面積のアスペクト比が大きくなり、アスペクト比が大きい程、合成樹脂のシートとグラフェン接合体との接合力が増大する。また、合成樹脂のシートの厚みが薄いほど、形成されたシートの性質は、グラフェン接合体の性質が優勢になる。このため、形成されたシートに衝撃が加わった際に、多くの衝撃がグラフェン接合体に伝わり、シートは破壊されない。また、形成されたシートに曲げ応力が加わった際に、曲げ応力がグラフェン接合体に伝わり、シートは破壊されない。従来のシートは、合成樹脂に限らず、金属においても、軽量化と機械的強度とは相反する性質であったが、本発明のシートは、これまでの常識を覆す2つの性質を同時に兼備する。従って、合成樹脂としては従来使用できなかった様々な用途に使用できる。
第六に、厚みが薄い合成樹脂のシートをグラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合するため、合成樹脂のシートの材質に関わらず、また、2枚のシートの材質が同一でも、異なっても、あるいは、2枚のシートの厚みが同一でも、異なっても、2枚のシートを、グラフェン接合体に摩擦圧接で接合きる。これによって、形成されたシートの表面は、様々な材質からなる合成樹脂の性質を持つ。
第七に、シートを形成する4つの工程は、いずれも極めて簡単な処理からなる。また、用いる原料はいずれも汎用的な原料である。すなわち、黒鉛粒子は汎用的な工業用素材で、また、メタノールは最も汎用的なアルコールである。さらに、合成樹脂からなるシートは、汎用的な工業用基材である。従って、本発明のシートは、画期的な様々な作用効果をもたらすが、安価に製造できる。
以上に説明したように、本発明のシートは、材料の構成と製法とが従来のシートと全く異なる。このため、従来の合成樹脂のシートや金属のシートとは全く異なる画期的な作用効果をもたらす。これによって、11段落に記載した全ての課題が解決される。
【0015】
12段落に記載したシートを形成する方法は、
12段落に記載した合成樹脂からなる厚みが1mmより薄い2枚のシートの材質が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ないしは、ポリフェニレンエーテル樹脂からなるいずれか1種類の合成樹脂の材質であり、ないしは、いずれか2種類の合成樹脂の材質であり、該合成樹脂の材質からなるシートを、12段落に記載した厚みが1mmより薄い合成樹脂からなる2枚のシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従って、該シートを形成する方法。
【0016】
つまり、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)ないしは、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)は、吸水率が低く、加水分解もせず、酸性液、アルカリ性液に対し、化学反応しない合成樹脂である。ただし、一部の合成樹脂は、有機溶剤と反応する。従って、これらの合成樹脂の材質のいずれか1種類の材質からなるシートを、12段落に記載した2枚のシートとして用い、あるいは、これらの合成樹脂の材質のいずれか2種類の材質からなるシートを、12段落に記載した2枚のシートの各々のシートとして用い、12段落に記載した方法に従ってシートを形成し、形成したシートを、水中に、熱水中に、あるいは、多くの薬品に長期間浸漬しても、シートを構成するシートは、化学変化しない。なお、グラフェン接合体は、吸水性、加水分解性が全くなく、全ての薬品と反応しない。従って、シートは、14段落に記載したように、機械的強度が優れているが、化学的にも優れている。このため、本発明のシートが使用できる環境条件が広がる。
すなわち、PTFE樹脂は、吸水率が低く、熱水中でも加水分解せず、全ての薬品と化学反応しない。従って、PTFE樹脂からなるシートを、12段落に記載した合成樹脂からなるシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従って、シートを形成し、形成したシートを、水中に、熱水中に、あるいは、あらゆる薬品に長期間浸漬しても、シートを構成するシートは、化学変化しない。
PEEK樹脂は、吸水率が低く、熱水中でも加水分解せず、濃硫酸を除く薬品と化学反応しない。従って、PEEK樹脂からなるシートを、12段落に記載した合成樹脂からなるシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従って、シートを形成し、形成したシートを、水中に、熱水中に、あるいは、濃硫酸を除く薬品に長期間浸漬しても、シートを構成するシートは、化学変化しない。
PPS樹脂は、吸水率が低く、熱水中でも加水分解せず、全ての薬品と化学反応しない。従って、PPS樹脂からなるシートを、12段落に記載した合成樹脂からなるシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従って、シートを形成し、形成したシートを、水中に、熱水中に、あるいは、全ての薬品に長期間浸漬しても、シートを構成するシートは、化学変化しない。
PE樹脂は、吸水率が低く、有機溶剤を除く薬品と化学反応しない。従って、PE樹脂からなるシートを、12段落に記載した合成樹脂からなるシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従って、シートを形成し、形成したシートを、水中に、あるいは、有機溶剤を除く薬品に長期間浸漬しても、シートを構成するシートは、化学変化しない。
PP樹脂は、吸水率が低く、有機溶剤を除く薬品と化学反応しない。従って、PP樹脂からなるシートを、12段落に記載した合成樹脂からなるシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従って、シートを形成し、形成したシートを、水中に、あるいは、有機溶剤を除く薬品に長期間浸漬しても、シートを構成するシートは、化学変化しない。
PPE樹脂は、吸水率が低く、熱水中でも加水分解せず、有機溶剤を除く薬品と化学反応しない。従って、PPE樹脂からなるシートを、12段落に記載した合成樹脂からなるシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従って、シートを形成し、形成したシートを、水中に、熱水中に、あるいは、有機溶剤の薬品に長期間浸漬しても、シートを構成するシートは、化学変化しない。
【0017】
12段落に記載したシートを形成する方法は、
12段落に記載した合成樹脂からなる厚みが1mmより薄い2枚のシートの材質が、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリフッ化ビニルデン樹脂、ないしは、ポリ塩化ビニルデン樹脂からなるいずれか1種類の合成樹脂の材質であり、ないしは、いずれか2種類の合成樹脂の材質であり、該合成樹脂の材質からなるシートを、12段落に記載した厚みが1mmより薄い合成樹脂からなる2枚のシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従って、該シートを形成する方法。
【0018】
つまり、ポリイミド樹脂(PI樹脂)、ポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)、アクリル樹脂(PMMA樹脂)、ポリアミド66樹脂(PA66樹脂)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE樹脂)、ポリエーテルテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリアミド6樹脂(PA6樹脂)、ポリフッ化ビニルデン樹脂(PVDF樹脂)、ないしは、ポリ塩化ビニルデン樹脂(PVDC樹脂)は、大気中での耐熱温度が200℃を超える耐熱性に優れた合成樹脂である。従って、これらの合成樹脂の材質のいずれか1種類の材質からなるシートを、12段落に記載した2枚のシートとして用い、あるいは、これらの合成樹脂の材質のいずれか2種類の材質からなる各々のシートを、12段落に記載した2枚のシートの各々のシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従ってシートを形成し、形成したシートを、大気中の耐熱温度を超える温度で長期間使用しても、シートを構成するシートは経時変化しない。なお、グラフェン接合体は、3000℃を超える耐熱性を持つ。従って、シートは、14段落に記載したように機械的強度に優れ、16段落に記載したように化学的にも優れ、さらに、耐熱性も優れる。これによって、シートが使用できる温度条件が広がる。
すなわち、PI樹脂の大気中での耐熱温度は500℃以上である。PAI樹脂の大気中での耐熱温度は275℃である。PMMA樹脂の大気中での耐熱温度は270℃である。PA66樹脂の大気中での耐熱温度は265℃である。PTFE樹脂の大気中での耐熱温度は260℃以上である。PET樹脂の大気中での耐熱温度は255℃である。PBT樹脂の大気中での耐熱温度は、232-267℃である。PPS樹脂の大気中での耐熱温度は、220-240℃である。PA6樹脂の大気中での耐熱温度は225℃である。PVDF樹脂の大気中での耐熱温度は210℃である。PVDC樹脂の大気中での耐熱温度は210℃である。
これらの合成樹脂は、数多くの種類の合成樹脂の中で耐熱性が高く、本発明のシートを大気中の200℃を超える温度で長期にわたって使用できる。なお、合成樹脂の耐熱温度は、ガラス転移温度と荷重たわみ温度、ビカット軟化温度、ボールプレッシャー温度、クラッシュベルグ柔軟温度における軟化ないしは脆化が開始する時の最も低い温度である。
【0019】
12段落に記載したシートを形成する方法は、
12段落に記載した合成樹脂からなる厚みが1mmより薄い2枚のシートが、合成樹脂からなる着色されたシートであり、該着色されたシートを、12段落に記載した厚みが1mmより薄い合成樹脂からなる2枚のシートとして用い、12段落に記載したシートを形成する方法に従って、該シートを形成する方法。
【0020】
つまり、12段落に記載した合成樹脂からなるシートとして、合成樹脂からなる着色されたシートを用いることで、本発明のシートの表面を、用途に応じて様々な色に着色させることができる。これによって、本発明のシートの付加価値が増え、様々な用途に用いることができる。従って、シートは、14段落に記載したように機械的強度に優れ、16段落に記載したように化学的にも優れ、18段落に記載したように耐熱性にも優れ、さらに、様々な色に着色させることでる。いっぽう、着色されたシートを用いることで、12段落に記載したシートを形成する方法は変わらない。
合成樹脂からなる着色したシートを成形する第一の方法に、ペレットに顔料ないしは塗料を練りこんだ着色したペレットを用いてシートを成形する方法がある。第二に、マスターバッチ法と呼ばれる方法があり、ペレットに顔料ないしは塗料を10-20倍に濃縮して練りこんだ着色したペレットと、ナチュラルペレットとを混合し、シートを成形する方法がある。第三に、ドライカラー法と呼ばれる方法があり、粉末の着色剤をペレットに混合し、シートを成形する方法がある。第四に、ペーストカラー法と呼ばれる方法があり、ペースト状の着色剤をペレットに混合し、シートを成形する方法がある。
本発明のシートを構成する合成樹脂のシートには、着色したシートを成形する4種類の方法のいずれも用いることができる。シートの用途に応じて、着色方法と色彩を使い分ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】アクリル樹脂の厚みが薄いシートを、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したシートの側面を模式的に説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施例1
本実施例は、12段落に記載した方法に従って、メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を容器内に作成する。
最初に、5リットルのメタノールを、2.2m×2.2mの底面をもち、底が浅い容器に充填した。
次に、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する電極の有効面積が、2m×2mである平行平板電極を用意し、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で重ね合わせ、この間隙に黒鉛粒子を満遍なく引き詰め、メタノール中に浸漬する。なお、黒鉛粒子を粒径が25μmの球と仮定し、2枚の平行平板電極で作られる100μmの間隙に、黒鉛粒子を満遍なく引き詰めた場合、2.6×10個の黒鉛粒子が存在する。この黒鉛粒子の集まりに、10.6キロボルト以上の直流電圧を印加すると、全ての黒鉛粒子の基底面の層間結合が同時に破壊される。この際、7.6×1013個のグラフェンの集まりが得られ、用いる黒鉛粒子の集まりは、僅かに4.72gである。
電界が発生する電極の有効面積が2m×2mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子(例えば、伊藤黒鉛工業株式会社のXD100)の50gを重ねて引き詰めた。この平行平板電極を、メタノールが充填された容器に浸漬し、さらに、もう一方の平行平板電極を前記の平行平板電極の上に重ね合わせ、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で離間させ、12キロボルトの直流電圧を電極間に加えた。次に、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、さらに、2枚の平行平板電極をメタノール中で傾斜させ、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。さらに、容器内のメタノールに、超音波ホモジナイザー装置(ヤマト科学株式会社の製品LUH300)によって20kHzの超音波振動を2分間加えた。この後、超音波ホモジナイザー装置を、容器から取り出した。この後、容器内にあるメタノール中に分散したグラフェンの集まりを撹拌し、メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を作成した。
次に、作成した試料の一部を取り出し、電子顕微鏡を用いて、試料の観察と分析を行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。
試料の表面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。メタノール中に分散した物質は、厚みが極めて薄い扁平な物質であることが確認できた。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理した結果、炭素原子のみ存在した。このため、物質は、グラフェンであることが確認できた。
これによって、2枚の平行平板電極の間隙に、鱗片状黒鉛粒子の集まりを引き詰め、電極間に直流の電位差を与え、この電位差を2枚の平行平板電極対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生し、この電界によって、全ての黒鉛粒子に対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与えられ、この結果、黒鉛結晶の層間結合の全てが同時に破壊され、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンの集まりが製造できることが確認された。
【0023】
実施例2
本実施例は、12段落に記載した方法に従って、シートを形成する。
最初に、アクリル樹脂からなる1m×1m×0.3mm(厚み)のシートを2枚用意した(第一プラスチック株式会社による試作品)。次に、加振機を用意した。さらに、内側の形状が1m×1mで、枠体の幅が1cmで、厚みが5cmからなる枠体を用意し、枠体を加振機の加振台の上に載せた。この後、2枚のシートのうちの1枚のシートを、枠体の厚みの底部まで押し込んで加振台の上に重ねた。さらに、枠体の厚みの1/5の高さまで実施例1で作成した懸濁液が占めるように、懸濁液を枠体の内側に注入した。この後、加振機を稼働し、0.3Gからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に3回繰り返し懸濁液に加え、最後に0.3Gからなる上下方向の振動加速度を懸濁液に加えた。この後、懸濁液の上に、もう1枚のシートを被せた。
次に、枠体で支持された2枚のシートを枠体とともに、加振台から移動させ、2枚のシートと枠体とを、メタノールの沸点である65℃に昇温した。この後、2枚のシートが支持された枠体を裏返し、裏返しした枠体の上下、左右の枠体の中央部の4個所に、0.1Gからなる衝撃加速度を同時に加え、枠体を2枚のシートから剥がした。さらに、1m×1m×10cm(厚み)からなる第一の平板の上に、2枚のシートを重ね合わせた。この後、第一の平板の大きさと厚みとからなる第二の平板を、2枚のシートのうちの上方のシートの上に重ね合わせた。さらに、第二の平板の表面の角部を結ぶ対角線上に、等間隔で離間した9箇所と、対角線上の端部の2箇所の間に、等間隔で離間した12個所からなる合計21箇所に、直径が10cmで、厚みが5cmの円柱を配置させ、該21個の円柱に、150kg重に相当する圧縮荷重を同時に加え、試料を作成した。この後、第二の平板の4つの側面のうちの1つの側面の4個所に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加えた。さらに、第一の平板の4つの側面のうちの1つの側面の4個所に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加え、第二の平板と第一の平板から試料を剥がした。この後、試料を取り出した。
作成した試料の側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した結果、2枚のシートの間隙に、グラフェン接合体が0.1μmの厚みで形成されていた。図1に、試料の側面の一部を拡大して、試料の側面を模式的に示す。1はアクリル樹脂のシートで、2はグラフェン接合体である。
最初に、試料の表面の絶縁抵抗を、絶縁抵抗計(日置電機株式会社の製品IR4082)を用いて測定した。10MΩ前後の抵抗値を示したため、表面は絶縁化されている。
次に、試料の熱伝導率を測定した。試料の熱伝導率は、非定常法の一種である周期加熱法に基づく周期加熱法拡散率測定装置(アドバンス理工社製FTC-1)を用いて行った。試料の20℃における熱伝導率は、800±20W/(m・K)であった。銀の熱伝導率の2倍に近い熱伝導率を持った。
さらに、試料の機械的強度を、落下衝撃から測定した。試料を2mの高さから繰り返し3回自然落下させたが、試料の変化は認められなかった。さらに、4mの高さから試料を繰り返し3回自然落下させたが、試料の変化は認められなかった。このため、試料は優れた衝撃強度を持つ。
次に、インストロン万能試験機を用いて、3点曲げ試験によって、試料の屈折強度を測定した。5×10MPaに近い強度を持った。なお、アクリル樹脂の曲げ強度は、86-118MPaである。また、熱間圧延鋼板は、曲げ強度が780MPaと980MPaの鋼板が市販されている。従って、試料は熱間圧延鋼板の50倍に近い曲げ強度を持つ。
【0024】
実施例では、合成樹脂からなるシートとして、アクリル樹脂からなる厚みが0.3mmからなるシートを用いたが、合成樹脂のシートは、厚みが0.3mmからなるアクリル樹脂に限定されない。真空成形法に依る厚みが0.3mmからなる合成樹脂のシートは、アクリル樹脂以外の材質からなるシートが市販されている。また、合成樹脂のシートの厚みは、0.3mmに限定されないが、本発明のシートの性質に、グラフェン接合体の性質を反映させるには、合成樹脂のシートの厚みが薄いほど望ましい。なお、合成樹脂のシートの厚みが、0.3mmより薄くても、合成樹脂のシートの表面全体を、平坦度に優れたグラフェン接合体に均等に圧縮させるため、合成樹脂の圧縮強度を超える過大な圧縮応力を加えない限り、合成樹脂のシートは圧縮時に破断しない。
いっぽう、16段落に記載した材質からなる合成樹脂のシートを用いることで、化学的に安定したシートが形成でき、シートを、腐食性の液体に長期間浸漬させて用いることができる。さらに、18段落に記載した材質からなる合成樹脂のシートを用いることで、耐熱性に優れたシートが形成できる。また、20段落に記載した着色した合成樹脂のシートを用いることで、様々な色彩を放つシートが形成できる。従って、シートの用途に応じて、合成樹脂のシートの材質と、着色された合成樹脂のシートを選択する。
さらに、実施例2で説明したように、従来の合成樹脂のシートに比べ、本発明のシートは、厚みが薄い合成樹脂のシートが、さらに厚みが薄いグラフェン接合体に摩擦圧接で接合しているため、従来の合成樹脂のシートに比べ、熱伝導性に優れる。また、厚みが薄い合成樹脂のシートが、さらに厚みが薄いグラフェン接合体で補強されているため、従来の合成樹脂のシートに比べ、厚みが1桁薄くても、曲げ強度と衝撃強度に優れる。このため、本発明のシートは、従来は考えられない用途に用いることができる。例えば、シートは、厚みが薄い金属板より機械的強度が大きいため、外観は合成樹脂に見えるが、高強度の薄い板として用いることができる。また、酸やアルカリからなる液体中に長期間浸漬させて用いることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 アクリル樹脂のシート 2 グラフェン接合体
図1