(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005905
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電解コンデンサ、その製造方法、及び保持材
(51)【国際特許分類】
H01G 9/10 20060101AFI20240110BHJP
H01G 9/02 20060101ALI20240110BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20240110BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01G9/10 F
H01G9/10 C
H01G9/02
H01G9/028 E
H01G9/00 290L
H01G9/00 290J
H01G9/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106364
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000103220
【氏名又は名称】エルナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】米谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】染井 秀徳
(57)【要約】 (修正有)
【課題】信頼性を向上する電解コンデンサ、電解コンデンサの製造方法及び保持材を提供する。
【解決手段】アルミ電解コンデンサは、セパレータを介して陽極箔及び陰極箔が巻回されたコンデンサ素子10と、コンデンサ素子を収納するケース11と、ケースの開口を封止する封口体12と、コンデンサ素子及び封口体の間に配置され、封口体より酸化されやすい抗酸化剤を保持する保持材14と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して陽極箔及び陰極箔が巻回されたコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子を収納するケースと、
前記ケースの開口を封止する封口体と、
前記コンデンサ素子及び前記封口体の間に配置され、前記封口体より酸化されやすい抗酸化剤を保持する保持材とを有することを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記保持材は、前記封口体の表面の少なくとも一部を覆うシート状部材であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記コンデンサ素子の下部には、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子が設けられ、
前記封口体は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ挿通させる一対の挿通孔を有し、
前記保持材は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ挿入させる一対の挿入孔を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記保持材は、前記一対の挿入孔の少なくとも一方から前記保持材の端縁まで延びる切込みを有することを特徴とする請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記一対の挿入孔の径は、前記一対の引き出しリード端子の径の0.5~2倍であることを特徴とする請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記コンデンサ素子の下部には、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子が設けられ、
前記封口体は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ挿通させる一対の挿通孔を有し、
前記保持材は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ通す一対の切込みを有することを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記一対の切込みの少なくとも一方は、前記保持材の端縁まで延びることを特徴とする請求項6に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記コンデンサ素子の下部には、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子が設けられ、
前記封口体は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ挿通させる一対の挿通孔を有し、
前記保持材は、前記一対の引き出しリード端子にそれぞれ嵌合する一対の切り欠きを有することを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
前記セパレータは、前記陽極箔及び前記陰極箔より前記保持材側に延びて前記保持材に押し当たっていることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記抗酸化剤は、光酸化防止剤、ビタミン類酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及び糖類酸化防止剤のうち、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項11】
前記保持材は、有機繊維類、無機繊維類、または樹脂繊維類を基材とすること、あるいはゲル状の媒質であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項12】
前記保持材は、前記セパレータに含浸した電解液により膨潤する接着剤により前記封口体に接着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項13】
前記保持材は、前記抗酸化剤として2.5(wt%)~20(wt%)のα-トコフェロールを含む溶液を保持することを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項14】
前記コンデンサ素子には、導電性高分子層が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項15】
セパレータを介して陽極箔及び陰極箔が巻回されたコンデンサ素子に、封口体を、前記封口体より酸化されやすい抗酸化剤を保持する保持材を介して取り付ける工程と、
前記コンデンサ素子をケースに収容して前記ケースの開口を前記封口体により封口する工程とを含むことを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
前記コンデンサ素子は、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子を有し、
前記ケースの開口を前記封口体により封口する工程において、
前記一対の引き出しリード端子を前記保持材の一対の挿入孔にそれぞれ挿入し、
前記一対の挿入孔に挿入された前記一対の引き出しリード端子を、前記封口体の一対の挿通孔にそれぞれ挿通することを特徴とする請求項15に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項17】
前記コンデンサ素子は、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子を有し、
前記ケースの開口を前記封口体により封口する工程において、
前記一対の引き出しリード端子を前記保持材の一対の切込みにそれぞれ通し、
前記一対の切込みに通された前記一対の引き出しリード端子を、前記封口体の一対の挿通孔にそれぞれ挿通することを特徴とする請求項15に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項18】
前記コンデンサ素子は、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子を有し、
前記ケースの開口を前記封口体により封口する工程において、
前記一対の引き出しリード端子を前記保持材の一対の切り欠きにそれぞれ嵌合させ、
前記一対の切り欠きに嵌合した前記一対の引き出しリード端子を、前記封口体の一対の挿通孔にそれぞれ挿通することを特徴とする請求項15に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項19】
セパレータを介して陽極箔及び陰極箔が巻回されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納するケースと、前記ケースの開口を封口する封口体とを有する電解コンデンサに備えられ、
前記コンデンサ素子及び前記封口体の間に配置され、前記封口体より酸化されやすい抗酸化剤を保持することを特徴とする保持材。
【請求項20】
前記抗酸化剤は、光酸化防止剤、ビタミン類酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及び糖類酸化防止剤のうち、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項19に記載の保持材。
【請求項21】
有機繊維類、無機繊維類、または樹脂繊維類を基材とすること、あるいはゲル状の媒質であることを特徴とする請求項19または20に記載の保持材。
【請求項22】
前記保持材は、前記抗酸化剤として2.5(wt%)~20(wt%)のα-トコフェロールを含む溶液を保持することを特徴とする請求項19または20に記載の保持材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ、その製造方法、及び保持材に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、セパレータを介して陽極箔及び陰極箔が巻回したコンデンサ素子を収容した有底筒状の外装ケースの開口を、ブチルゴムなどの封口体により嵌合して封止した構造を備える(例えば特許文献1及び2参照)。コンデンサ素子には電解液が含まれており、電解液のドライアップや液漏れに従って電解コンデンサの特性は劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/090241号
【特許文献2】国際公開第2020/059091号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
封口体は、上記の外装ケース内の酸素や電解液などの作用により徐々に酸化される。封口体の酸化は、とりわけエンジン近傍やコンピュータ近傍などの高温環境下で電解コンデンサを長時間使用した場合に顕著となる。
【0005】
封口体が酸化劣化すると、封口体において、例えばケースとの接触部分や電極端子の挿通孔などに亀裂が生じるため、電解液のドライアップが促進されて電解コンデンサの特性が劣化するおそれがある。
【0006】
例えば特許文献2には、脂溶性酸化防止剤をセパレータから封口体に供給する点が記載されている。しかし、封口体の表面のうち、セパレータに接触していない領域の酸化を効果的に抑制することができないおそれがある。このため、電解コンデンサの長期的な信頼性が十分に確保できないおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、信頼性を向上することができる電解コンデンサ、その製造方法、及び保持材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電解コンデンサは、セパレータを介して陽極箔及び陰極箔が巻回されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納するケースと、前記ケースの開口を封止する封口体と、前記コンデンサ素子及び前記封口体の間に配置され、前記封口体より酸化されやすい抗酸化剤を保持する保持材とを有することを特徴とする。
【0009】
上記の電解コンデンサにおいて、前記保持材は、前記封口体の表面の少なくとも一部を覆うシート状部材であってもよい。
【0010】
上記の電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子の下部には、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子が設けられ、前記封口体は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ挿通させる一対の挿通孔を有し、前記保持材は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ挿入させる一対の挿入孔を有してもよい。
【0011】
上記の電解コンデンサにおいて、前記保持材は、前記一対の挿入孔の少なくとも一方から前記保持材の端縁まで延びる切込みを有してもよい。
【0012】
上記の電解コンデンサにおいて、前記一対の挿入孔の径は、前記一対の引き出しリード端子の径の0.5~2倍であってもよい。
【0013】
上記の電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子の下部には、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子が設けられ、前記封口体は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ挿通させる一対の挿通孔を有し、前記保持材は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ通す一対の切込みを有してもよい。
【0014】
上記の電解コンデンサにおいて、前記一対の切込みの少なくとも一方は、前記保持材の端縁まで延びていてもよい。
【0015】
上記の電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子の下部には、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子が設けられ、前記封口体は、前記一対の引き出しリード端子をそれぞれ挿通させる一対の挿通孔を有し、前記保持材は、前記一対の引き出しリード端子にそれぞれ嵌合する一対の切り欠きを有してもよい。
【0016】
上記の電解コンデンサにおいて、前記セパレータは、前記陽極箔及び前記陰極箔より前記保持材側に延びて前記保持材に押し当たっていてもよい。
【0017】
上記の電解コンデンサにおいて、前記抗酸化剤は、光酸化防止剤、ビタミン類酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及び糖類酸化防止剤のうち、少なくとも1つを含んでもよい。
【0018】
上記の電解コンデンサにおいて、前記保持材は、有機繊維類、無機繊維類、または樹脂繊維類を基材とし、あるいはゲル状の媒質としてもよい。
【0019】
上記の電解コンデンサにおいて、前記保持材は、前記セパレータに含浸した電解液により膨潤する接着剤により前記封口体に接着されてもよい。
【0020】
上記の電解コンデンサにおいて、前記保持材は、前記抗酸化剤として2.5(wt%)~20(wt%)のα-トコフェロールを含む溶液を保持してもよい。
【0021】
上記の電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子には、導電性高分子層が形成されていてもよい。
【0022】
本発明の電解コンデンサの製造方法は、セパレータを介して陽極箔及び陰極箔が巻回されたコンデンサ素子に、封口体を、前記封口体より酸化されやすい抗酸化剤を保持する保持材を介して取り付ける工程と、前記コンデンサ素子をケースに収容して前記ケースの開口を前記封口体により封口する工程とを含むことを特徴とする。
【0023】
上記の製造方法において、前記コンデンサ素子は、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子を有し、前記ケースの開口を前記封口体により封口する工程において、前記一対の引き出しリード端子を前記保持材の一対の挿入孔にそれぞれ挿入し、前記一対の挿入孔に挿入された前記一対の引き出しリード端子を、前記封口体の一対の挿通孔にそれぞれ挿通してもよい。
【0024】
上記の製造方法において、前記コンデンサ素子は、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子を有し、前記ケースの開口を前記封口体により封口する工程において、前記一対の引き出しリード端子を前記保持材の一対の切込みにそれぞれ通し、前記一対の切込みに通された前記一対の引き出しリード端子を、前記封口体の一対の挿通孔にそれぞれ挿通してもよい。
【0025】
上記の製造方法において、前記コンデンサ素子は、前記陽極箔及び前記陰極箔からそれぞれ延びる一対の引き出しリード端子を有し、前記ケースの開口を前記封口体により封口する工程において、前記一対の引き出しリード端子を前記保持材の一対の切り欠きにそれぞれ嵌合させ、前記一対の切り欠きに嵌合した前記一対の引き出しリード端子を、前記封口体の一対の挿通孔にそれぞれ挿通してもよい。
【0026】
本発明の保持材は、セパレータを介して陽極箔及び陰極箔が巻回されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納するケースと、前記ケースの開口を封口する封口体とを有する電解コンデンサに備えられ、前記コンデンサ素子及び前記封口体の間に配置され、前記封口体より酸化されやすい抗酸化剤を保持することを特徴とする。
【0027】
上記の保持材において、前記抗酸化剤は、光酸化防止剤、ビタミン類酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及び糖類酸化防止剤のうち、少なくとも1つを含んでもよい。
【0028】
上記の保持材において、前記保持材は、前記抗酸化剤として2.5(wt%)~20(wt%)のα-トコフェロールを含む溶液を保持してもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、電解コンデンサの信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】アルミ電解コンデンサの一例を示す図である。
【
図2】
図1のA-A線に沿ったアルミ電解コンデンサ1の断面である。
【
図4】
図3の符号Pで示される部分の拡大図である。
【
図5】(A)は、一対の挿入孔が設けられた保持材の平面図であり、(B)は、一対の切込みが設けられた保持材の平面図であり、(C)は、一対の切り欠きが設けられた保持材の平面図であり、(D)は、保持材の端縁まで延びた切込みが設けられた保持材の平面図であり、(E)は、一対の挿入孔と、各挿入孔から保持材の端縁まで延びた切込みが設けられた保持材の平面図である。
【
図6】アルミ電解コンデンサの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図7】コンデンサ素子に封口体を、保持材を介して取り付ける工程の一例を示す斜視図である。
【
図8】コンデンサ素子に封口体を、保持材を介して取り付ける工程の他の例を示す斜視図である。
【
図9】実施例と比較例の静電容量の減少率の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[実施形態]
(アルミ電解コンデンサの構成)
図1は、アルミ電解コンデンサ1の一例を示す図である。
図1には、アルミ電解コンデンサ1の上面及び粗面が示されている。
図2は、
図1のA-A線に沿ったアルミ電解コンデンサ1の断面である。
【0032】
アルミ電解コンデンサ1は、コンデンサ素子10、ケース11、封口体12、及び保持材14を有する。なお、アルミ電解コンデンサ1として、本例では特に導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサを挙げるが、これに限定されない。アルミ電解コンデンサ1は、電子回路基板に実装され、例えばカップリング、デカップリング、及び平滑化などに用いられる。
【0033】
図3は、コンデンサ素子10の一例を示す斜視図である。コンデンサ素子10は、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ(電解紙)103を巻回したものである。一対の引き出しリード端子112,113はコンデンサ素子10の下部から延びる。引き出しリード端子112,113の丸棒部からは一対のリード線110,111がそれぞれ延びる。引き出しリード端子112,113は、陽極箔及び陰極箔に対し、かしめなどの接合手段によりそれぞれ接合されており、アルミ電解コンデンサ1の陽極端子及び陰極端子として機能する。なお、本実施形態では、リードタイプのアルミ電解コンデンサ1を挙げるが、これに限定されず、表面実装タイプなどであってもよい。
【0034】
陽極箔101及び陰極箔102は、例えばアルミニウム、タンタル、チタン、及びニオブ等の弁金属、またはその合金箔もしくは蒸着箔や活性炭を表面に形成した箔等により形成されている。陽極箔101の表面には、電極面積が増加するようにエッチング処理が施されている。さらに陽極箔101の表面には陽極酸化被膜が形成されている。このため、陽極箔101は、他の部材から絶縁されている。陽極酸化被膜が誘電体として機能することでコンデンサの機能が発揮される。
【0035】
一方、陰極箔102の表面には、必要に応じて陽極酸化被膜が形成されている。なお、陰極箔102の表面には無機層またはカーボン層が形成されていてもよく、この場合、後述する導電性高分子がその表面に形成される。
【0036】
セパレータ103は、陽極箔101及び陰極箔102の間に挟まれた状態で巻回される。セパレータ103はセルロース類、レーヨン、及びガラス繊維などから選択される少なくとも1種類以上を材料とする。セパレータ103は電解液及び導電性高分子により含浸されている。なお、アルミ電解コンデンサ1が導電性高分子ハイブリッドコンデンサではない場合、導電性高分子は用いられない。
【0037】
電解液は、多価アルコール、スルホン化合物、ラクトン化合物、カーボネート化合物、多価アルコールのジエーテル化合物、1価のアルコールなどを含むことができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。ラクトン化合物としては、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンなどを用いることができる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートなどを溶媒として含むことができる。特にエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、γ-ブチロラクトン、及びスルホランを用いると望ましい。
【0038】
電解液は、溶質を含んでいてもよい。溶質として、酸成分、塩基成分、酸成分及び塩基成分からなる塩、ニトロ化合物、及びフェノール化合物等を用いることができる。また、有機酸、無機酸、有機酸と無機酸との複合化合物を用いることもできる。有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、及びアゼライン酸などのカルボン酸などを用いることができる。無機酸としては、硼酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、及びリン酸ジエステルなどを用いることができる。有機酸と無機酸との複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジシュウ酸、ボロジグリコール酸等を用いることができる。
【0039】
塩基成分は、1級~3級アミン、4級アンモニウム、及び4級化アミジニウム等を用いることができる。1級~3級アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、アニリン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、及びヘキサメチレンジアミンなどを用いることができる。4級アンモニウムとしては、例えばテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、及びテトラエチルアンモニウムなどを用いることができる。4級化アミジニウムとしては、例えば、エチルジメチルイミダゾリニウム及びテトラメチルイミダゾリニウムなどを用いることができる。
【0040】
ケース11は、アルミニウムにより形成され、上部の開口が塞がった有底円筒形状を有する。ケース11は、コンデンサ素子10及び封口体12を覆い、アルミ電解コンデンサ1の外装として機能する。なお、ケース11の形状は円筒形状に限定されず、角筒形状であってもよい。また、ケース11の外側にはスリーブまたは樹脂層が形成されてもよい。
【0041】
また、電解液は、ケース11内部で発生する水素ガスを吸収する吸収剤を含んでもよい。吸収剤としてはp-ニトロベンジルアルコールが好適であり、その添加量は電解液中に0.5~1.5wt%とするのが好ましい。これは、0.5wt%未満では水素ガス吸収効果が小さく、他方において1.5wt%を超えるとアルミ電解コンデンサ1の耐圧特性が低下するおそれがあるからである。
【0042】
封口体12は、例えばブチルゴムや加硫ゴムなどの弾性部材、あるいはフェノール樹脂部材により形成された略円柱形状の部材である。封口体12は、酸化防止剤を保持した保持材14を介してコンデンサ素子10に隣接し、ケース11下部の開口を封止する。本実施形態における保持材14は例えばシート状部材であるが、これに限定されない。引き出しリード端子112,113は、封口体12に形成された一対の挿通孔120に挿通されている。
【0043】
ケース11の開口近傍の外周面には、他部分より凹んだ絞り溝11aが形成されている。絞り溝11aはケース11の縊れ部分に該当する。封口体12は、絞り溝11aで十分に圧縮されることにより高い気密性を維持した状態でケース11の開口を封止する。
【0044】
封口体12は、コンデンサ素子10のセパレータ103に含まれる電解液の溶媒に対して膨潤率の小さいブチルゴムなどの素材により形成されると好ましい。例えば電解液がエチレングリコールを含む場合、エチレングリコールにより抽出される不純物が封口体12を膨潤させるおそれがあるが、ブチルゴムの封口体12を採用することによりアルミ電解コンデンサ1の特性に与える影響を低減することができる。ブチルゴムの特性は、一例として、125(℃)のエチレングリコールの溶媒中に2000時間以上浸漬しても膨潤率が2(wt%)であることが望ましい。
【0045】
しかし、封口体12は、ケース11内の酸素やセパレータ内の電解液などの作用により徐々に酸化する。封口体12が酸化により劣化すると、封口体12において、例えばケース11との接触部分や挿通孔120などに亀裂が生じるため、電解液のドライアップが促進されてアルミ電解コンデンサ1の特性が劣化して信頼性が低下するおそれがある。
【0046】
そこで、封口体12及びコンデンサ素子10の間に保持材14が配置されている。保持材14は、封口体12より酸化されやすい抗酸化剤を保持する。このため、保持材14は、抗酸化剤を封口体12の表面に供給することによりその酸化を抑制する。保持材14が供給する抗酸化剤は、封口体より酸化されやすいため、抗酸化剤が酸化されている間、封口体12の酸化が抑制される。これにより、アルミ電解コンデンサ1の信頼性が向上する。なお、保持材14はゲル状単体などであってもよい。
【0047】
抗酸化剤としては、好ましくは、例えば光酸化防止剤、ビタミン類酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及び糖類酸化防止剤などの還元作用を有するものが挙げられる。また、抗酸化剤は、上記の酸化防止剤のうち、複数の種類を組み合わせたものでもよい。好ましくはα―トコフェロールなどのビタミン類、尿酸などのアミン系酸化防止剤、ヒドロキノンなどのフェノール系酸化防止剤が、長期にわたって酸化防止機能が維持されるので望ましい。
【0048】
光酸化防止剤としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチルー1-(オクチロキシ)-4-ピペリジニル)エステル、1,1-ジメチルエチルヒドロペロキシドオクタン反応物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-〔(3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル)メチル〕ブチルマロネート、2,4-ビス〔N-ブチル-N-(1-シクロヘキシロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-ニル)アミノ〕-6 -(2-ヒドロキシエチルアミン)-1,3,5-トリアジン、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニイ)セバケイト、メチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケイトなどが挙げられる。
【0049】
ビタミン類酸化防止剤としては、トコフェロール、トコトリエノール、及びアスコルビン酸が挙げられる。
【0050】
アミン系酸化防止剤としては、尿酸、フェニル-1-ナフチルアミン、ジフェニル-p-フェニレンジアミン、ジピリジルアミン、フェノチアジン、N,N’-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、及びジアルキルジフェニルアミン(DDPA)などが挙げられる。
【0051】
フェノール系酸化防止剤としては、6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ステアリル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジステアリル(3,5-ジ-te rt-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、トリデシル・3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルチオアセテート、ビス〔3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸〕〔エチレンビス(オキシエチレン)〕、チオジエチレンビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、及び2-オクチルチオ-4,6-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノキシ)-s-トリアジンなどが挙げられる。
【0052】
リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルアシッドホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、ジフェニルオクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、及びトリラウリルホスファイトなどが挙げられる。
【0053】
糖類酸化防止剤としては、グルコース、アラビノース、フルクトース、マルトース、ラクトース、及びソルビトールなどが挙げられる。
【0054】
また、保持材14は、例えば、セルロース類、レーヨン、及び寒天などの多糖類、及びゼラチン類などの有機媒体、またはポリプロピレン及びポリスチレンなどの樹脂繊維類、ケイ酸ガラスを含むガラス繊維などの無機繊維類を単独または混合したものを基材として、抗酸化剤を保持するのが好ましい。また、保持材14はゲル状単体などであってもよく、保持材14にゲル状物質を形成してもよい。
【0055】
保持材14は、封口体12の表面の少なくとも一部を覆うシート状部材であるため、アルミ電解コンデンサ1の高さを変えることなく、抗酸化剤を封口体12の表面に容易に拡散させることができる。保持材14は、例えば接着剤により封口体12の表面に少なくとも部分的に接着されていてもよい。このとき、接着剤として電解液により膨潤するポリエーテル類などを用いると、抗酸化剤の浸透性が良いため、接着剤中を抗酸化剤が拡散することができる。なお、保持材14の厚みは、例えば5~3000(μm)である。より具体的には、保持材14は、抗酸化剤が十分に供給できる30~500(μm)の厚みがあればよい。
【0056】
また、保持材14は、一対の引き出しリード端子112,113をそれぞれ挿入させる一対の挿入孔140を有する。アルミ電解コンデンサ1の製造工程において、保持材14は直接的に封口体12上に積層された状態でコンデンサ素子10に取り付けられる。このとき、引き出しリード端子112,113は挿入孔140にそれぞれ挿入されるため、挿入孔140の縁の少なくとも一部が封口体12の挿通孔120に引き込まれる。このため、保持材14から挿通孔120内に抗酸化剤を供給され、挿通孔120内の酸化が効果的に抑制される。
【0057】
図4は、
図3の符号Pで示される部分の拡大図である。コンデンサ素子10において、陽極箔101及び陰極箔102はセパレータ103を介して積層されている。セパレータ103は、陽極箔101及び陰極箔102より保持材14側に延びて保持材14に押し当たっている。
【0058】
より具体的には、セパレータ103は陽極箔101及び陰極箔102の端からはみ出しており、アルミ電解コンデンサ1の製造工程においてコンデンサ素子10に封口体12及び保持材14を取り付けて、これらをケース11に収容するとき、セパレータ13が保持材14の表面に押し当たって曲がった状態となる。
【0059】
このため、セパレータ103は、アルミ電解コンデンサ1の高さ方向に弾性力を発揮することで保持材14を封口体12の表面に接触させる。したがって、保持材14及び封口体12の表面の接触面積を十分に確保して抗酸化剤を好適に封口体12の表面に拡散させることができる。なお、セパレータ103はコンデンサ素子10の下面全体において保持材14に押し当たっている必要はなく、少なくともコンデンサ素子10の下面の一部(例えば封口体12の表面積の50(%)以上)において保持材14に押し当たっていればよい。また、陽極箔101及び陰極箔102からのセパレータ103のはみだし部分の長さは、陽極箔101及び陰極箔102と保持材の間の距離Mより長く、例えば0.1~4.0(mm)に設定するのが好ましい。より具体的には、保持材14が破損しにくい0.25~4.0(mm)に設定するのが望ましい。
【0060】
また、セパレータ103にも抗酸化剤を含ませてもよい。この場合、セパレータ103から保持材14に抗酸化剤が供給される。
【0061】
図5(A)~(D)は保持材14の複数の例を示す。
図5(A)は、一対の挿入孔140が設けられた保持材14の平面図である。各挿入孔140は丸形状を有する。封口体12の挿入孔140に引き込まれて封口体12の壁面に酸化防止剤が供給されるため、各挿入孔140の径は引き出しリード端子112,113の径より小さいことが望ましい。例えば挿入孔140の径は引き出しリード端子112,113の径の0.5~2倍に設定するのが好ましい。また、保持材14の径の大きさは封口体12と同じか、または、保持材14がたわむことを考慮して封口体12の径よりも大きいことが望ましい。なお、保持材14の径が封口体12の径よりも小さくてもアルミ電解コンデンサ1の長期的な信頼性を向上させることができる。
【0062】
引き出しリード端子112,113は挿入孔140にそれぞれ挿入されるため、上述したように、挿入孔140の縁の少なくとも一部が封口体12の挿通孔120に引き込まれる。このため、保持材14から挿通孔120内に抗酸化剤を供給され、挿通孔120内の酸化が効果的に抑制される。なお、挿入孔140の形状は丸に限定されず、例えば三角形状や矩形状であってもよい。
【0063】
図5(B)は、一対の切込み141が設けられた保持材14の平面図である。各切込み141は、一例として十字形状を有するが、これに限定されない。切込み141は、保持材14の厚み全体にわたる切れ目である。本例の保持材14は、挿入孔140を設けた場合と比べると、保持材14がくり抜かれていないため、より多くの抗酸化剤を保持することができる。
【0064】
引き出しリード端子112,113は切込み141にそれぞれ通されるため、挿入孔140の場合と同様に、切込み141の縁の少なくとも一部が封口体12の挿通孔120に引き込まれる。このため、保持材14から挿通孔120内に抗酸化剤が供給され、挿通孔120内の酸化が効果的に抑制される。
【0065】
図5(C)は、一対の切り欠き142が設けられた保持材14の平面図である。切り欠き142は、一例として保持材14の端部を略U字状に切り取った形状を有する。各引き出しリード端子112,113は切り欠き142にそれぞれ嵌合される。切り欠き142は、引き出しリード端子112,113を通るスペースを挿入孔140及び切込み141より大きく設定することができる。このため、アルミ電解コンデンサ1の製造においてコンデンサ素子に対する保持材14の取り付けが容易である。
【0066】
図5(D)は、保持材14の端縁まで延びた切込み143が設けられた保持材14の平面図である。各切込み143は、一例として十字形状を有するが、これに限定されない。切込み143は部分的に保持材14の端縁に達している。このため、アルミ電解コンデンサ1の製造において、上記の切込み141と比べると、引き出しリード端子112,113を切込み143に通りやすく、コンデンサ素子10に対する保持材14の取り付けが容易である。なお、保持材14は、一対の切込み141の一方のみが保持材14の端縁に達するように形成してもよい。
【0067】
図5(E)は、一対の挿入孔140と、各挿入孔140から保持材14の端縁まで延びた切込み144が設けられた保持材14の平面図である。切込み144は各挿入孔140から保持材14の端縁まで直線状に延びている。このため、アルミ電解コンデンサ1の製造において、切込み144を設けずに挿入孔140だけを設けた場合と比べると、引き出しリード端子112,113が切込み143に通りやすく、コンデンサ素子に対する保持材14の取り付けが容易である。なお、切込み144は、一対の挿入孔140の一方のみに形成してもよい。
【0068】
(アルミ電解コンデンサの製造工程)
図6は、アルミ電解コンデンサ1の製造工程の一例を示すフローチャートである。アルミ電解コンデンサ1の製造工程は電解コンデンサの製造方法の一例である。
【0069】
まず、事前に準備した陽極箔101及び陰極箔102にそれぞれ引き出しリード端子112,113を接続する(ステップSt1)。接続手段としては、かしめが挙げられるが、これに限定されない。
【0070】
次に、セパレータ103、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ103をこの順に積層して巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することでコンデンサ素子10を作製する(ステップSt2)。
【0071】
次にコンデンサ素子10に再化成処理を施す(ステップSt3)。これにより、陽極箔101の表面に形成された酸化被膜の欠損が修復される。再化成処理には、例えばカルボン酸基を有する有機酸塩類、リン酸などの無機酸塩類の溶質を有機溶媒または水に溶解した化成液が用いられる。
【0072】
次に減圧雰囲気中で、水と有機溶媒を含む導電性高分子分散液にコンデンサ素子10を浸漬し、その後、導電性高分子分散液からコンデンサ素子10を引き上げる(ステップSt4)。このようにすることで、巻回体に導電性高分子を含浸させることができる。なお、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサではない、通常のアルミ電解コンデンサ1の製造では、本工程は実行されない。
【0073】
次に減圧雰囲気中で、所定量の電解液をコンデンサ素子10に含浸させる(ステップSt5)。なお、電解液は、導電性高分子分散液内に、溶質を混合させたものであってもよい。すなわち、導電性高分子分散液を電解液として使用することができる。その場合、電解液の含浸は、導電性高分子の含浸と同時に行うこととなる。これによりコンデンサ素子10が完成する。また、電解液には、保持材14と同様の抗酸化剤の溶液を添加してもよい。
【0074】
次にコンデンサ素子10に封口体12を、保持材14を介して取り付ける(ステップSt6)。保持材14は、例えば事前にセルロース類、多糖類、及びゼラチン類などの無機繊維類、またはポリプロピレン及びポリスチレンなどの樹脂繊維類などの基材を抗酸化剤の溶液に浸漬することにより生成される。このとき保持材14を予め乾燥処理することにより抗酸化剤溶液の溶媒を除去してもよい。また、保持材14は、例抗酸化剤の粉体または粒体を液体に分散させた分散液に上記の基材を浸漬することにより生成されてもよい。さらに保持材14にはセパレータ103と同じ電解液が含浸してもよい。
【0075】
図7は、コンデンサ素子10に封口体12を、保持材14を介して取り付ける工程の一例を示す斜視図である。本例では、
図5(A)に示される保持材14を挙げる。コンデンサ素子10の下面には、保持材14を介して封口体12が配置される。このとき、保持材14は、ポリエチレングリコールなどの接着剤により封口体12の表面に接着されてもよい。
【0076】
リード線110,111及び引き出しリード端子112,113はコンデンサ素子10の下面から下方に延びている。このため、配置時、リード線110,111及び引き出しリード端子112,113は、保持材14の一対の挿入孔140にそれぞれ挿入され、さらに封口体12の一対の挿通孔120に挿通される。したがって、上述したように、挿入孔140の縁の少なくとも一部が封口体12の挿通孔120に引き込まれるため、保持材14から挿通孔120内に抗酸化剤を供給され、挿通孔120の壁面の酸化が効果的に抑制される。
【0077】
図8は、コンデンサ素子10に封口体12を、保持材14を介して取り付ける工程の他の例を示す斜視図である。本例では、
図5(B)に示される保持材14を挙げる。コンデンサ素子10の下面には、保持材14を介して封口体12が配置される。このとき、リード線110,111及び引き出しリード端子112,113は、切れ込み141が挿入孔140よりも低い抵抗で封口体12の挿通孔120に引き込まれる。また、保持材14は、ポリエチレングリコールなどの接着剤により封口体12の表面に接着されてもよい。
【0078】
積層時、引き出しリード端子112,113は切込み141にそれぞれ通され、さらに封口体12の一対の挿通孔120に挿通される。このため、上述したように、切込み141の縁の少なくとも一部が封口体12の挿通孔120に引き込まれる。したがって、保持材14から挿通孔120内に抗酸化剤を供給され、挿通孔120の壁面の酸化が効果的に抑制される。なお、
図5(D)及び
図5(E)に示された各保持材14の取り付けも上記と同様に行われる。
【0079】
また、
図5(C)の保持材14を用いる場合、積層時、引き出しリード端子112,113は切り欠き142にそれぞれ嵌合され、さらに封口体12の一対の挿通孔120に挿通される。このため、上述したように、アルミ電解コンデンサ1の製造においてコンデンサ素子に対する保持材14の取り付けが容易である。
【0080】
再び
図6を参照する。封口体12の取り付け後、コンデンサ素子10をケース11に収容して封口体12によって封口する(ステップSt7)。このようにしてアルミ電解コンデンサ1は製造される。
【実施例0081】
次にアルミ電解コンデンサ1の実施例を説明する。上記の実施形態に係る実施例No.1~24のアルミ電解コンデンサ1を作製した。実施例No.1~12のアルミ電解コンデンサ1は、電解液に導電性高分子を含まない通常の電解コンデンサであり、実施例No.13~24のアルミ電解コンデンサ1は、電解液に導電性高分子を含む導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサである。また、比較のため、保持材14を備えていない比較例No.1~3のアルミ電解コンデンサを作製した。
【0082】
各実施例及び比較例について、アルミ電解コンデンサ1の定格電圧は25(V)であり、アルミ電解コンデンサ1の定格静電容量は470(μF)とした。また、ケース11の直径は10(mm)であり、ケース11の高さは10(mm)とした。
【0083】
(実施例No.1)
準備した陽極箔101に陽極の引き出しリード端子112を接続した。端面に導体層を有し塗れ性改善の下処理を行った陰極箔102に陰極の引き出しリード端子113を接続した。その後、セパレータ103、陰極箔102、セパレータ103、及び陽極箔101をこの順に積層し、引き出しリード端子112,113を巻き込みながら巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することでコンデンサ素子10を作製した。このとき、セパレータの陽極箔101及び陰極箔102からのはみだし部分の長さは上下ともに0.25(mm)とした。また、保持材14として、60(μm)の厚さのセルロース紙を用意した。
【0084】
電解液としてフタル酸1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウムを35wt.%含むγ-ブチロラクトン溶液を準備した。減圧した雰囲気中でコンデンサ素子10を電解液に浸漬した。保持材14の基材を、抗酸化剤である(±)-α-トコフェロールを10(wt%)の濃度で含んだγ-ブチロラクトン溶液に含浸させた。ここで、保持材14は、
図5(A)に示された形状のものを用いた。引き出しリード端子112,113及びリード線110,111を通した保持材14及び封口体12をコンデンサ素子10に取り付けて、コンデンサ素子10をケース11に収容されるように封口体12でケース11を封止した。このようにしてアルミ電解コンデンサ1を得た。
【0085】
(実施例No.2)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14の基材を、(±)-α-トコフェロールを10(wt%)の濃度で含んだ上記の電解液に含浸させた。
【0086】
(実施例No.3)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。(±)-α-トコフェロールを10(wt%)の濃度で含んだ電解液にコンデンサ素子10を電解液に浸漬した。抗酸化剤を含浸させていない保持材14をコンデンサ素子10に取り付けた後、コンデンサ素子10のセパレータ103から保持材14に電解液を含浸させた。
【0087】
(実施例No.4)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14の基材を(±)-α-トコフェロールを10(wt%)のγ-ブチロラクトン溶液に浸漬した後、保持材14から溶媒のγ-ブチロラクトンを乾燥処理で除去した。
【0088】
(実施例No.5)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14の基材を、(±)-α-トコフェロールを2.5(wt%)の濃度で含んだγ-ブチロラクトン溶液に含浸させた。
【0089】
(実施例No.6)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14の基材を、(±)-α-トコフェロールを20(wt%)の濃度で含んだγ-ブチロラクトン溶液に含浸させた。
【0090】
(実施例No.7)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14の基材を、尿酸を10(wt%)の濃度で含んだγ-ブチロラクトン溶液に含浸させた。
【0091】
(実施例No.8)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14の基材を、ヒドロキノンを10(wt%)の濃度で含んだγ-ブチロラクトン溶液に含浸させた。
【0092】
(実施例No.9)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14は、
図5(D)に示された形状のものを用いた。
【0093】
(実施例No.10)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14は、接着剤であるポリエチレングリコールにより封口体12の表面に接着した。
【0094】
(実施例No.11)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14を、(±)-α-トコフェロールを含むゲル質として封口体12の表面に形成した。
【0095】
(実施例No.12)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。保持材14と同じ抗酸化剤をセパレータ103に含浸させた。
【0096】
(実施例No.13)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。コンデンサ素子10に対し、電解液に浸漬する前にリン酸アンモニウム水溶液中で50(V)の電圧を印加した状態で再化成処理を行った。コンデンサ素子10の洗浄及び乾燥の後、大気圧から-0.97(MPa)だけ減圧した雰囲気中でコンデンサ素子10を導電性高分子のPEDOT/PSS(poly(3,4-ethylenedioxythiophene) polystyrene sulfonate)分散液に浸漬した。電解液として、フタル酸1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウムを35(wt%)含むγ-ブチロラクトン溶液を準備した。減圧した雰囲気中でコンデンサ素子10を電解液に浸漬した。これにより導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサを得た。
【0097】
(実施例No.14)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14の基材を、(±)-α-トコフェロールを10(wt%)の濃度で含んだ上記の電解液に含浸させた。
【0098】
(実施例No.15)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。(±)-α-トコフェロールを10(wt%)の濃度で含んだ電解液にコンデンサ素子10を電解液に浸漬した。抗酸化剤を含浸させていない保持材14をコンデンサ素子10に取り付けた後、コンデンサ素子10のセパレータ103から保持材14に電解液を含浸させた。
【0099】
(実施例No.16)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14の基材を(±)-α-トコフェロールを10(wt%)のγ-ブチロラクトン溶液に浸漬した後、保持材14から溶媒のγ-ブチロラクトンを乾燥処理で除去した。
【0100】
(実施例No.17)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14の基材を、(±)-α-トコフェロールを2.5(wt%)の濃度で含んだγ-ブチロラクトン溶液に含浸させた。
【0101】
(実施例No.18)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14の基材を、(±)-α-トコフェロールを20(wt%)の濃度で含んだγ-ブチロラクトン溶液に含浸させた。
【0102】
(実施例No.19)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14の基材を、尿酸を10(wt%)の濃度で含んだγ-ブチロラクトン溶液に含浸させた。
【0103】
(実施例No.20)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14の基材を、ヒドロキノンを10(wt%)の濃度で含んだγ-ブチロラクトン溶液に含浸させた。
【0104】
(実施例No.21)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14は、
図5(D)に示された形状のものを用いた。
【0105】
(実施例No.22)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14は、接着剤であるポリエチレングリコールにより封口体12の表面に接着した。
【0106】
(実施例No.23)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14を、(±)-α-トコフェロールを含むゲル質として封口体12の表面に形成した。
【0107】
(実施例No.24)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。保持材14と同じ抗酸化剤をセパレータ103に含浸させた。
【0108】
(比較例No.1)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。コンデンサ素子10に保持材14を取り付けない。
【0109】
(比較例No.2)
以下の点が実施例No.13の製造方法と異なる。コンデンサ素子10に保持材14を取り付けない。
【0110】
(比較例No.3)
以下の点が実施例No.1の製造方法と異なる。コンデンサ素子10に保持材14を取り付けない。セパレータ103に抗酸化剤を含浸させた。
【0111】
(評価)
実施例No.1~24のアルミ電解コンデンサ1及び比較例No.1~3のアルミ電解コンデンサの各々に対し、130(℃)の環境下で定格電圧(25(V))を印加した。印加開始から5000時間後及び8000時間後の静電容量C(μF)を測定した。評価試験前の各アルミ電解コンデンサ1の静電容量の初期値をCo(μF)とし、印加開始から5000時間後及び8000時間後の静電容量の変化量をΔC(<0)(μF)とし、静電容量の減少率(%)としてΔC/Coを評価パラメータとして算出した。
【0112】
【0113】
表1は、実施例No.1~No.12の各アルミ電解コンデンサ1の評価結果として5000時間後及び8000時間後の静電容量の減少率(%)を示す。また、実施例No.1~No.12のうち、抗酸化剤として(±)-α-トコフェロールを用いたアルミ電解コンデンサ1について、その溶液の濃度を示す。
【0114】
【0115】
表2は、実施例No.13~No.24の各アルミ電解コンデンサ1の評価結果として5000時間後及び8000時間後の静電容量の減少率(%)を示す。また、実施例No.13~No.24のうち、抗酸化剤として(±)-α-トコフェロールを用いたアルミ電解コンデンサ1について、その溶液の濃度を示す。
【0116】
【0117】
表2は、比較例No.1~No.3の各アルミ電解コンデンサ1の評価結果として5000時間後及び8000時間後の静電容量の減少率(%)を示す。
【0118】
表1~3から理解されるように、実施例No.1~No.24の各アルミ電解コンデンサ1の静電容量の減少率は、比較例No.1~No.3のアルミ電解コンデンサより低い。これは、コンデンサ素子10及び封口体12の間に保持材14を設けたため、保持材14に保持される抗酸化剤が封口体12の表面に供給され、抗酸化剤が酸化することにより封口体12の酸化が抑制されたためである。
【0119】
また、実施例No.1~No.12の各アルミ電解コンデンサ1の静電容量の減少率と、実施例No.13~No.24の各アルミ電解コンデンサ1の静電容量の減少率とを比較すると、実施例No.1~No.12の減少率のほうが大きい。これは、導電性高分子が電解液を保持する機能を有するからである。したがって、導電性高分子をセパレータ103に含浸させた導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサの場合、より効果的に封口体12の酸化が抑制される。
【0120】
また、表1及び表2から理解されるように、抗酸化剤として(±)-α-トコフェロールを用いたアルミ電解コンデンサ1について、その溶液の濃度は2.5~20(wt%)とするのが好ましい。
【0121】
また、実施例No.2及びNo.12のように保持材14の機材を、抗酸化剤を含む電解液を浸漬させた場合でも、比較例No.1~No.3より静電容量の減少率が抑えられた。また、実施例No.3及びNo.15のようにセパレータ103から保持材14に抗酸化剤を含浸させた場合でも、比較例No.1~No.3より静電容量の減少率が抑えられた。また、実施例No.4及びNo.16のようにセパレータ103から保持材14に含浸された抗酸化剤の溶媒を除去した場合でも、比較例No.1~No.3より静電容量の減少率が抑えられた。
【0122】
また、実施例No.7,8,19,20のように、(±)-α-トコフェロール以外の抗酸化剤を用いた場合でも、比較例No.1~No.3より静電容量の減少率が抑えられた。また、実施例No.9及びNo.21のように、保持材14の形状を変更した場合でも、比較例No.1~No.3より静電容量の減少率が抑えられた。また、実施例No.10及びNo.22のように、保持材14を接着剤により封口体12の表面に接着した場合でも、比較例No.1~No.3より静電容量の減少率が抑えられた。
【0123】
また、実施例No.11及びNo.23のように、保持材14をゲル質とした場合でも、比較例No.1~No.3より静電容量の減少率が抑えられた。また、実施例No.12及びNo.24のように、セパレータ103に保持材14と同じ抗酸化剤を含浸させた場合でも、比較例No.1~No.3より静電容量の減少率が抑えられた。
【0124】
図9は、実施例No.1と比較例No.1及びNo.3の静電容量の減少率の時間変化を示す図である。
図9のグラフの横軸及び縦軸は、時間(h)及び減少率(ΔC/Co)(%)をそれぞれ示す。
【0125】
実施例No.1と比較例No.1の減少率の差は、実施例No.1と比較例No.3の減少率の差より大きい。比較例No.3のアルミ電解コンデンサは、セパレータに抗酸化剤を含浸させているため、封口体の酸化が抑制されることで比較例No.1より減少率が低い。
【0126】
しかし、比較例No.3の場合、抗酸化剤が、電解質とともにセパレータに含まれているため、十分な供給量を実現することが難しく、また、セパレータが直接的に封口体に接触しているため、電解液が封口体に流れやすく、実施例No.1と比べると、効果的に封口体の酸化を抑制することができない。
【0127】
このように、本実施形態のアルミ電解コンデンサ1、その製造方法、及び保持材14によると、コンデンサ素子10内のセパレータ103に含まれる電解液と封口体12の直接的な接触を抑制するとともに、抗酸化剤を封口体12の表面に供給することによりその酸化を抑制する。よって、アルミ電解コンデンサ1の特性の劣化を抑制することができる。
【0128】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。