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特開2024-59056画像データによる対象物の状態判別方法、及び装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059056
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】画像データによる対象物の状態判別方法、及び装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240422BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G06T7/00 610C
G01N21/88 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022177686
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】500262511
【氏名又は名称】山本 隆義
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆義
【テーマコード(参考)】
2G051
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AA51
2G051AA90
2G051AB02
2G051ED11
5L096AA02
5L096BA02
5L096BA03
5L096CA24
5L096DA01
5L096FA28
5L096FA32
5L096FA33
5L096FA34
5L096FA69
5L096GA51
5L096HA02
5L096JA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】対象物の欠陥、変形や色むらなどの不良状態若しくは対象設備の異常状態から生じる機器表面の温度変化の兆候等を画像データにより検出する状態判別方法及び装置を提供する。
【解決手段】撮像装置、演算処理・判定を行う処理・判定部、設定値入力装置及び処理、判定の結果を表示する表示装置を有する状態判別装置30において、処理・判定部は、画像データを読込む画像取得部、読込んだ画像内に解析対象の領域(ROI)設定部、基準ROIと対象ROI内の特徴量を抽出する特徴抽出部、基準ROIの特徴量と対象ROIの特徴量の乖離度を状態変化度として算出する状態変化度算出部、判定閾値を設定する閾値設定部、状態変化度と判定閾値との比較によって対象物の良否・異常の有無を判定する良否・異常判定部、不良・異常と判定された場合に、当該対象ROIの位置を特定する不良・異常領域特定部及び一連の演算・判定結果等を出力する結果出力部を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子・機械部品や製品等の対象物を加工・組立する製造工程で発生する不良を検出するための良否検査、もしくは、製造プラントを構成している機器設備の状態変化や異常から間接的に、もしくは、直接的に生じる現象、例えば表面温度や排煙・排水などの異常を監視するための状態判別装置であって、検査・監視対象物の画像を撮影する撮像装置と、前記画像データの演算処理及び良否・異常判定を行う処理・判定部と、検査・監視の実行に必要な各種設定値を入力する設定値入力装置と、前記した処理・判定部で得られた結果を表示する表示装置と、前記した撮像装置、処理・判定部、設定値入力装置及び表示装置と、を連携させるインターフェースと、を有し、
前記の処理・判定部は、基準画像データもしくは検査・監視用画像データを読み込む画像取得部と、前記にて読み込んだ画像内に目的とする検査・監視を実行するための基準領域、及び、対象領域を設定する領域(ROI:Region of Interest)設定部と、前記で設定した基準領域(基準ROI)及び、対象領域(対象ROI)内での画像データに潜在する、それぞれの特徴量分布を抽出する特徴抽出部と、前記特徴抽出部にて得た基準領域(基準ROI)の特徴量分布と、対象領域(対象ROI)の特徴量分布と、の乖離度を状態変化度として算出する状態変化度算出部と、前記の状態変化度の大きさに対して良否・異常判定を行うための判定閾値を設定する閾値設定部と、前記の状態変化度と判定閾値との比較によって対象物の良否・異常の有無を判定する良否・異常判定部と、前記の良否・異常判定部にて不良・異常と判定された場合に、当該不良・異常領域(対象ROI)の位置を特定する不良・異常領域特定部と、前記した一連の演算処理によって得た状態変化度、良否・異常判定結果、及び、不良・異常領域特定結果等を出力する結果出力部とから構成されることを特徴とした画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置。
【請求項2】
前記請求項1の画像取得部において、検査・監視用画像のみを読込み、当該単一画像内において各種演算処理、及び、良否・異常判定を実施する場合と、基準画像と検査・監視用画像との異なる画像を読込み、当該複数の画像間に着目する場合と、の2種類の演算処理・判定を行うことを特徴とする画像データによる対象物の状態判別方法、及び装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載の特徴抽出部において、前記領域設定部にて設定した基準領域(基準ROI)、及び、対象領域(対象ROI)の縦方向の各画素を変数群とし、横方向の各画素の輝度強度をデータ群として前記縦方向変数群の相関関係を求める場合と、逆に、横方向の各画素を変数群とし、縦方向の各画素の輝度強度をデータ群として前記横方向変数群の相関関係を求める場合と、の2方向での各相関関係に基づき特徴抽出を行うことを特徴とする画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置。
【請求項4】
前記請求項3に記載の特徴抽出部において、基準領域(基準ROI)の縦方向、及び、横方向の各画素変数群に対して得た、それぞれの相関係数に基づき主成分分析を実行し、その結果得られる縦方向、及び、横方向の固有ベクトルを、当該基準領域(基準ROI)、及び対象領域(対象ROI)の縦方向、及び、横方向の特徴量算出のための、共通値の特性係数とすることを特徴とした画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置。
【請求項5】
前記請求項1に記載の状態変化度算出部において、前記請求項4に記載の特徴抽出部にて算出した基準領域(基準ROI)、及び、対象領域(対象ROI)での、縦方向、及び、横方向の特徴量分布のそれぞれの平均値と分散に基づき、基準領域(基準ROI)と、対象領域(対象ROI)と、の前記特徴量分布間の乖離度の大きさを当該領域間の状態変化度とすることを特徴とした画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置。
【請求項6】
前記請求項4に記載の良否・異常判定部において、前記請求項5にて得た状態変化度は、前記請求項4の主成分分析によって得た固有ベクトルの次数に対応した当該基準領域(基準ROI)と、対象領域(対象ROI)と、の乖離度の大きさであるとし、前記請求項1の閾値設定部にて設定した判定閾値との比較を行い、当該判定閾値以上であれば、不良・異常状態と判定し、当該判定閾値未満であれば、良好・正常状態と判定することを特徴とする画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置。
【請求項7】
前記請求項1に記載の、不良・異常領域特定部について、前記請求項6に記載の判定結果が不良・異常となった場合の当該対象ROIの位置を不良・異常領域であると、特定することを特徴とする画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像データによる対象物の状態判別方法、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・機械部品や製品等の対象物を加工・組立する製造工程で、発生する不良を検出するための外観検査において、カメラ等の撮像機器により対象物の画像データを得て良否判定を行うために、検出したい欠陥、ムラ、変形、異物の有無等の不良事象に応じたアルゴリズム、及び、判定基準を個別に開発、実用化を行っている。正常時の画像データには様々なノイズの重なり、検査対象部位位置ズレや回転などの外乱により、良否判定の結果の精度が低下する場合には、各種フィルタ処理、輝度変換、各種の特徴抽出法などが適用されている。一方、不良発生時にも不良の種類、及び、その度合いは、さまざまで多岐にわたっているために、特に多品種・少量生産の製造工程では、対象物の潜在的な微小不良を効率的、かつ高い精度で汎用的に検出することが困難であった。
また、製造プラント設備の運転異常時には、直接的に、もしくは間接的に、例えば当該機器の表面温度の異常発生を伴う場合や、当該製造プラントの排出物、例えば濃淡や色の変化などという直接的な異常発生を伴う場合など、画像データの分析による製造プラントの監視機能の開発が試みられている。しかしながら、前記した異常発生時の画像には、様々な明るさの変化や汚れの付着による外乱や位置ズレなどが含まれており、特に、屋外仕様では太陽光の変化や様々な陰影の存在があるために実用的な精度を有した異常監視が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】:特開2022-124079
テルモ株式会社は、名称「コート層検査装置およびコート層検査方法」においてコート層を撮像して画像データを作成する撮像部と、演算処理を行う処理部と、を有し、処理部は、複数の異なる欠陥の型に分けられる複数の欠陥画像データおよび判定対象画像データを読み込み可能な画像取得部と、複数の欠陥画像データから複合的に特徴量を抽出して判定器を作成する判定器作成部と、判定器から数値化した異常度を検出する異常度検出部と、判定対象画像データから判定器および異常度検出部を用いて検出される異常度を閾値と比較して、コート層に欠陥があるか否かを判定する欠陥判定部と、を有するとしている。
そして、ニューラルネットワークを使用して前記複数の欠陥画像データから特徴量を抽出して判定器を作成するステップと、作成した前記判定器からサポートベクターマシンにより異常度を数値化して検出するステップと、前記複数の欠陥の特徴を複合的に検出できる前記異常度の閾値を設定するステップと、判定対象画像データを読み込むステップと、前記判定対象画像データから特徴量を抽出し、作成した前記判定器およびサポートベクターマシンにより、前記判定対象画像データの異常度を検出するステップと、前記判定対象画像データの異常度を前記閾値と比較して、前記異常度が前記閾値以上か否かにより、判定対象画像データのコート層に欠陥があるか否かを判定する。
【0004】
しかしながら、判定器での、複数の欠陥画像データから特徴量を抽出するためのニューラルネットワーク学習機能として、様々な判定対象画像データに対する汎化性能に関する配慮がなされていないので、妥当な特徴抽出が実行されているのか、という不確実性が存在する。
また、異常度を検出する異常度検出部では、判定器にて抽出した特徴量に対してサポートベクターマシンを適用して異常度を数値化するとしているが、サポートベクターマシンは本来的に二者択一、つまり正常か異常かの予測を行う手法であること、判定器からの特徴量のスケールの影響を強く受けるので、判定対象画像ごとにスケーリングを細かく行う必要があること、複雑な画像の場合には判定器での特徴量の員数が増加するので計算量が指数関数的に増加すること、に対する配慮に欠けていることから、様々な判定対象画像データに対して信頼性の高い検査機能を発揮することは困難であるという課題があった。
【0005】
【非特許文献】
【非特許文献】:「Deep Learningを用いた基板外観検査」(株)レクザム p.75-80 画像ラボ 2019.01
株式会社レクザムは、プリント基板の外観検査装置「Sherlock-3D-1000S」において簡単な設定で多様な検査項目に対応するために、基板の反り補正を行って部品の高さを補正した後、部品の種類を分類する際に、従来の部品対象間の類似性マッチング法によっているために、部品の色や形の差異が外乱となり、輝度変換などの前処理が必要となることから、Deep Learningにより部品種類の分類を行うように改善したという。そして、分類した部品に対して例えば、IC部品のリード本数や間隔を抽出してリードの浮きやハンダ量の良否判定を、閾値との比較により行っている。しかしながら、ハンダボールのような形状が一様でない異物の検出や、様々なハンダ形状の検査が困難であり、基準とする検査データはユーザ毎に千差万別で異なり、検査画像の様々な異常状態に対応できるように判定閾値を設定し直さなければならず、汎用的な検査機能を発揮できないという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
対象物の欠陥、変形や色むらなどの不良状態、もしくは対象設備の劣化・異常発生から生じる機器表面の温度変化の兆候、もしくは排出物の性状などを、画像データにより検出するには、様々な種類の不良・異常状態があり、また、その異常度の程度も千差万別であるので、予め、全ての異常画像を学習することはできず、解析パラメータや判定閾値を汎用化することは困難である。しかも、予め検査・異常判定の基準を設定するための適切な異常画像が存在しない場合も多く、正常画像においても太陽光はじめ照明条件の変動による外乱下にあるために、対象物が良品・正常時の範疇であっても画像データにバラツキが存在する場合には、誤判定が生じてしまうなど実用的な検査・監視機能が発揮できない。
【0007】
これらの課題は、得られた画像データにおける各画素の輝度強度の値、もしくは、ある着目画素の輝度強度を、その周辺の輝度強度群の平均値等で置き換えるなどのフィルタ処理後の輝度強度の値に基づき、学習過程や良否・異常判定を行っていることに起因していることが多いからである。つまり、対象物が良好・正常状態にあっても太陽光、照明の変動、対象部品部位の位置ズレ、部品・部位の微妙な偏り、生産ラインでの、例えば半導体ウェハー表面の位置や傾きなどの微妙な違いによる輝度強度の微小変化などが存在している場合があり、当該対象物に不良・異常兆候が発生した場合の輝度強度には、上記した良好・正常状態の輝度強度の変化・変動が重なった、複雑な画像データとなっているからである。
【0008】
また、最近では上述した良好状態での外乱などを反映した正常画像群と、可能な限り収集した異常画像とを用いて、Deep LearningなどのAI技術を適用した外観検査機能の高度化も行われている。そして、1個のニューロンに2次元空間の情報を学習させるために、畳み込み演算(これも2次元フィルタ)を行い、入力画像の小さな歪みやズレ、変形による影響を受けにくくするなどの工夫を施している。
【0009】
しかしながら、AI技術の学習機能を有する良否・異常判定用アルゴリズムが、未知の検査・監視用画像を誤判定しないという保証ははく、誤判定であると判明した場合に、その原因が何であるかは不明な場合が多い。さらにAI技術には「過学習」という本質的な問題を抱えており、好適な追加学習を実行するための明確なガイドラインは、まだ存在しないために、未知の微小異常を安定的に検出するうえで信頼性に欠けるといった課題があった。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、画像データを用いて対象物の品質や状態の良否・異常判定を行う検査工程・監視モニタリングにおいて、予めの良好・正常状態や不良・異常状態での画像データの有無によらず、また様々な画像データの輝度強度が外乱等により変動しても、未知の検査・監視用画像に対して、高い検出感度、及び、高い信頼度を発揮する、汎用的な良否判定・異常判定機能を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
主たる本発明は、電子・機械部品や製品等の対象物を加工・組立する製造工程で発生する不良を検出するための良否検査、もしくは、製造プラントを構成している機器設備の状態変化や異常状態から間接的に、もしくは直接的に生じる現象、例えば表面温度や排煙・排水などの異常を監視するための状態判別装置であって、検査・監視対象物の画像を撮影する撮像装置と、画像データの演算処理及び良否・異常判定を行う処理・判定部と、検査・監視の実行に必要な各種設定値を入力する設定値入力装置と、前記した処理・判定部で得られた結果を表示する表示装置と、前記した撮像装置、処理・判定部、設定値入力装置及び表示装置と、を連携させるインターフェースと、を有し、
前記の処理・判定部は、基準画像データもしくは検査・監視用画像データを読み込む画像取得部と、前記にて読み込んだ画像内に目的とする検査・監視を実行するための基準領域、及び、対象領域を設定する領域(ROI:Region of Interest)設定部と、前記で設定した基準領域(基準ROI)及び、対象領域(対象ROI)内での画像データに潜在する、それぞれの特徴量分布を抽出する特徴抽出部と、前記特徴抽出部にて得た基準領域(基準ROI)の特徴量分布と、対象領域(対象ROI)の特徴量分布と、の乖離度を状態変化度として算出する状態変化度算出部と、前記の状態変化度の大きさに対して良否・異常判定を行うための判定閾値を設定する閾値設定部と、前記の状態変化度と判定閾値との比較によって対象物の良否・異常の有無を判定する良否・異常判定部と、前記の良否・異常判定部にて不良・異常と判定された場合に、当該不良・異常領域(対象ROI)の位置を特定する不良・異常領域特定部と、前記した一連の演算処理によって得た状態変化度、良否・異常判定結果、及び、不良・異常領域特定結果等を出力する結果出力部とから構成されることを特徴とした画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置である。
【発明の効果】
【0012】
上述したように本発明による画像データによる対象物の状態判別方法によれば、対象物の欠陥、変形や色むらなどの不良状態、もしくは、対象設備の状態劣化・異常状態から間接的に、もしくは直接的に生じる現象、例えば機器表面の温度変化の兆候、もしくは、当該対象設備からの排出物の性状の異常兆候などを、予め良好・正常状態や不良・異常状態での画像データが存在していなくても、また様々な画像データの輝度強度が外乱等により変動しても、未知の検査・監視用画像に対して、高い検出感度で、かつ、高い信頼度を有する、汎用的な良否判定・異常判定機能を提供できる。
【図面の簡単な説明】
図1】本発明による画像データによる状態判別方法、及び、装置の全体構成
図2】本発明による単一画像における状態判別方法のフローシート
図3】本発明による単一画像における演算処理、及び、判定のブロック図
図4】本発明による基準・対象画像における状態判別方法のフローシート
図5】本発明による基準・対象画像における演算処理、及び、判定のブロック図
図6】本発明による画像全体と、基準ROI、及び、対象ROIと、の関連図
図7】本発明による対象ROIの変数群、及び、データ群の関連図
図8】実施例の半導体ウェハー単一画像における基準・対象ROIの設定(座標1)
図9】実施例の半導体ウェハー単一画像における基準・対象ROIの設定(座標2)
図10】実施例の半導体ウェハー単一画像の基準・対象ROIの輝度パターン(座標1)
図11】実施例の半導体ウェハー単一画像の基準・対象ROIの輝度パターン(座標2)
図12】実施例の半導体ウェハー単一画像における良否判定(座標1、2)
図13】実施例の半導体ウェハー基準・対象画像における基準・対象ROI_1の設定(ケース1)
図14】実施例の半導体ウェハー基準・対象画像における基準・対象ROI_2の設定(ケース2)
図15】実施例の半導体ウェハー基準・対象画像における基準・対象ROI_3の設定(ケース3)
図16】実施例の半導体ウェハー基準・対象画像における基準・対象ROI_1、基準・対象ROI_2、及び、基準・対象ROI_3の輝度パターン
図17】実施例の半導体ウェハー基準・対象画像における良否判定結果(ケース1)
図18】実施例の半導体ウェハー基準・対象画像における良否判定結果(ケース2)
図19】実施例の半導体ウェハー基準・対象画像における良否判定結果(ケース3)
図20】実施例の機器設備の赤外画像、及び判別対象領域(基準/正常/異常)
図21】実施例の機器設備の赤外画像における判別対象領域内のROI(基準ROI/正常ROI/異常ROI)
図22】実施例の機器設備の赤外画像の輝度パターン(基準ROI)
図23】実施例の機器設備の赤外画像の輝度パターン(対象ROI_1;正常)
図24】実施例の機器設備の赤外画像の輝度パターン(対象ROI_2;異常)
図25】実施例の機器設備の赤外画像の良否判定結果(対象ROI_1;正常)
図26】実施例の機器設備の赤外画像の良否判定結果(対象ROI_2;異常)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0014】
電子・機械部品や製品等の対象物を加工・組立する製造工程で発生する不良を検出するための良否検査、もしくは、製造プラントを構成している機器設備の劣化状態・異常兆候から間接的に、直接的に生じる現象、例えば機器の表面温度や、当該製造プラントからの排出物である排煙・排水などの異常を監視するための状態判別装置であって、検査・監視対象物の画像を撮影する撮像装置と、演算処理及び良否・異常判定を行う処理・判定部と、検査・監視の実行に必要な各種設定値を入力する設定値入力装置と、前記した処理・判定部で得られた結果を表示する表示装置と、前記した撮像装置、処理・判定部、設定値入力装置及び表示装置と、を連携させるインターフェースと、を有し、
前記の処理・判定部は、基準画像データもしくは検査・監視用画像データを読み込む画像取得部と、前記にて読み込んだ画像内に目的とする検査・監視を実行するための基準領域、及び、対象領域を設定する領域(ROI:Region of Interest)設定部と、前記で設定した基準領域(基準ROI)及び、対象領域(対象ROI)内での画像データに潜在する、それぞれの特徴量分布を抽出する特徴抽出部と、前記特徴抽出部にて得た基準領域(基準ROI)の特徴量分布と、対象領域(対象ROI)の特徴量分布と、の乖離度を状態変化度として算出する状態変化度算出部と、前記の状態変化度の大きさに対して良否・異常判定を行うための判定閾値を設定する閾値設定部と、前記の状態変化度と判定閾値との比較によって対象物の良否・異常の有無を判定する良否・異常判定部と、前記の良否・異常判定部にて不良・異常と判定された場合に、当該不良・異常領域(対象ROI)の位置を特定する不良・異常領域特定部と、前記した一連の演算処理によって得た状態変化度、良否・異常判定結結果、及び、不良・異常領域特定結果等を出力する結果出力部とから構成されることを特徴とした画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置である。
【0015】
かかる画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置では、加工・組立する製造工程で発生する対象物の不良を検出するための良否検査、もしくは、製造プラントを構成している機器設備の劣化状態・異常兆候から間接的に、直接的に生じる現象、例えば表面温度や当該機器設備からの排出物である排煙・排水などの異常兆候の予兆監視において、予め良好・正常状態や不良・異常状態での画像データの有無によらず、また、様々な画像データの輝度強度が外乱等により変動しても、潜在的な不良・異常事象を感度高く、検出でき、しかも信頼性の高い良否検査、及び異常発生の予兆監視機能を提供できる。
【0016】
また、前記の画像取得部において、検査・監視用画像のみを読込み、当該単一画像内において各種演算処理、及び、良否・異常判定を実施する場合と、基準画像と検査・監視用画像との異なる画像を読込み、当該複数の画像間に着目する場合と、の2種類の演算処理・判定を行うことを特徴とする画像データによる対象物の状態判別方法、及び装置である。
【0017】
かかる場合には、当該単一の検査・監視用画像を用いて対象物の良否・異常の初見判定が可能であるので、予め、基準となる画像が存在しない場合においても良否検査、及び、異常監視機能を提供できる。
【0018】
また、前記の特徴抽出部において、前記領域設定部にて設定した基準領域(基準ROI)、及び対象領域(対象ROI)の縦方向の各画素を変数群とし、横方向の各画素の輝度強度をデータ群として前記縦方向変数群の相関関係を求める場合と、逆に、横方向の各画素を変数群とし、縦方向の各画素の輝度強度をデータ群として前記横方向変数群の相関関係を求める場合と、の2方向での各相関関係に基づき特徴抽出を行うことを特徴とする画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置である。
【0019】
かかる場合には、前記の画像取得部において読み込んだ検査・監視用画像の有する特徴として、縦方向に現れている場合か、横方向に現れている場合か、にも対応した特徴量を抽出するので、潜在的な不良・異常兆候を見逃しなく、検出する良否検査、及び、異常監視機能を提供できる。
【0020】
また、前記した特徴抽出部において、基準領域(基準ROI)の縦方向、及び、横方向の各画素変数群に対して得た、それぞれの相関係数に基づき主成分分析を実行し、その結果得られる縦方向、及び、横方向の固有ベクトルを、当該基準領域(基準ROI)、及び、対象領域(対象ROI)の縦方向、及び、横方向の特徴量算出のための共通の特性係数とすることを特徴とする画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置である。
【0021】
かかる場合には、基準領域(基準ROI)の縦方向、及び、横方向における画像データに潜在している特性係数を算出し、当該特性係数を対象領域(対象ROI)の縦方向、及び、横方向における特徴量分布を算出する際にも、共通項として適用することにより、微小な不良事象・異常発生の兆候を感度高く検出することが可能となる。
【0022】
また、前記の状態変化度算出部において、前記に記載の特徴抽出部にて算出した基準領域(基準ROI)、及び、対象領域(対象ROI)での、縦方向、及び、横方向の特徴量分布のそれぞれの平均値と分散に基づき、基準領域(基準ROI)と、対象領域(対象ROI)と、の前記特徴量分布間の乖離度の大きさを、当該領域間の状態変化度とすることを特徴とした画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置である。
【0023】
かかる場合には、基準領域(基準ROI)、及び、対象領域(対象ROI)の特徴量分布間の乖離度として、当該特徴量の平均値とバラツキとを考慮するので統計的に、信頼性の高い状態変化の度合いを推定することが可能となる。
【0024】
また、前記の良否・異常判定部において、主成分分析によって得た固有ベクトルの次数に対応した、基準領域(基準ROI)と対象領域(対象ROI)との特徴量分布間の乖離度の大きさを状態変化度とし、前記の閾値設定部にて設定された判定閾値との比較を行い、当該判定閾値以上の乖離度の大きさであれば不良・異常状態であると判定し、当該判定閾値未満であれば良好・正常状態であると判定することを特徴とする画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置である。
【0025】
かかる場合には、前記した基準領域(基準ROI)での画像データに潜在する特性係数の次数全部に対応した乖離度の大きさ、つまり乖離度の次数分布全体について、前記の閾値設定部にて設定された判定閾値と比較するので、特異的な特徴を有する不良兆候、もしくは、異常兆候を見逃さないので、感度の高い良否判定、もしくは、異常監視が可能になる。
【0026】
また、前記に記載の不良・異常領域特定部において、前記記載の判定結果が不良・異常となった場合の当該対象領域(対象ROI)の位置を不良・異常領域であると、特定することを特徴とする画像データによる対象物の状態判別方法、及び、装置である。
【0027】
かかる場合には、検査、もしくは監視用画像の中で、不良もしくは異常判定となった対象領域(対象ROIの位置)を特定できるので、不良発生、もしくは異常兆候の発生位置を確実に推定することが可能となる。
【0028】
(画像データによる対象物の状態判別装置の構成について)
図1に、本発明による画像データによる対象物の状態判別装置の構成を示す。
被検査物100の画像を撮像装置20によって撮影し、もしくは製造プラントの監視対象設備の画像を撮像装置21によって撮影して得た画像は、状態判別装置30内の、インターフェース40を介して画像データとして前記状態判別装置30へ取込み、処理・判定部50において、様々な演算処理・判定など実行する。そして、前記の演算処理や判定に必要な設定値を、外部より設定するための設定値入力装置60と、処理・判定結果等を表示するための表示装置70とから成る。
【0029】
前記の処理・判定部50は、インターフェース40を介して画像データを取得する画像取得部51と、当該画像データに対して演算処理・判定を実行するための領域(ROI)を設定する領域(ROI)設定部52と、基準領域(基準ROI)、及び、対象領域(対象ROI)における特徴量を抽出・演算する特徴抽出部53と、前記特徴抽出部53にて算出した基準領域(基準ROI)と対象領域(対象ROI)での特徴量分布から、状態変化度を算出する状態変化度算出部54と、前記した設定入力装置60によって外部より入力される、良否・異常判定の際の判定閾値を設定する閾値設定部55と、前記した状態変化度の大きさと、当該判定閾値と、を比較して良否、もしくは正常/異常を判定する良否・異常判定部56と、もし不良もしくは異常と判定された場合には、当該対象領域(対象ROI)の位置を特定する不良・異常領域特定部57と、前記の演算処理、及び、判定経過と判定結果などを外部へ表示するための結果出力部58とから成る。
【0030】
(基準・対象ROIにおける画像データを用いた演算内容の説明(縦軸方向))
前記した一連の演算処理の詳細な内容、つまり特徴抽出、状態変化度の算出方法について、まず、縦方向を変数群とした場合を説明する。
【0031】
表1に示すような画像輝度データの2次元分布に対して、i行目変数Xij(xi1,・・・,xip)、k行目変数Xkj(xk1,・・・,xkp)の関係に着目して、縦軸を変数とする場合を説明する。
【表1】
【0032】
輝度データ群XiとXkとの相関係数Rik(i,k=1,・・・,q)から、画像データ(j=1,・・・,p)を代表する特徴量を算出する。
(1)まず、i行、k行の各輝度データXij、Xkjの平均値μi、μk、及び、標準偏差σi、σkを求める。
(2)次に、XijとXkjとの相関係数Rikを算出する。
Xij,Xkjの各分散、及び、共分散は、以下の▲1▼、▲2▼、▲3▼から求める。
そして、▲1▼、▲2▼、▲3▼から、相関係数は、(1)式によって計算される。
(3)この相関行列(V)ikに関する固有値問題(2)式を解くことによって、固有値(V)λ(m)、及び、固有ベクトル(V)Wi(m)を求める。
mは固有値の次数を示し、左上添え(V)は、縦軸変数であることを示す。
(4)特徴量(V)(m)j(m=1,・・・,q、j=1,・・・,p)を算出するために、輝度データxijを(3)式で標準化する。
なお、固有ベクトル(V)Wi(m)と、標準化した輝度データXijとの積和を、特徴量(V)(m)jと定義する。
【0033】
(5)上記した(1)式で求めた相関行列(V)Rikを下記に示す。
【表2】
(6)特徴量(V)(m)iの算出
(V)(m)iと輝度データ(標準化後)Xijとのベクトル積によって、次数m毎の、横軸画素jに対する特徴量(V)(m)jが求まる。
【表3】
【0034】
以上のベクトル積の結果から、各特徴量の成分は以下の表4となる。
【表4】
【0035】
次に、検査用・監視用画像の不良・異常を検出するための、縦方向での判定指標について説明する。つまり、図2の基準ROIと対象ROIとの状態変化度DI(m)_nの算出(S16)の詳細を説明する。「固有ベクトル」(特性係数)こそが対象ROIから感度の高い特徴抽出する際の拠り所であり、基準(正常)ROIで得た固有ベクトルを共用して、基準(正常)時と検査・監視時と、での画像データに対する各特徴量分布を求め、それらの特徴量分布間の乖離度を対象物の良否、もしくは、正常/異常状態を判定する指標とするものである。
【0036】
基準時と検査・監視時での、各特徴量(V0)(m)j と(Vt)(m)j(次数m)と、を算出する。
▲1▼基準ROI_0で得た固有ベクトル(V0)(m)iと、標準化輝度データ(0)ijとの積和を、基準特徴量(0)(m)
▲2▼検査・監視ROI_nの標準化輝度データ(n)ijと基準時固有ベクトル(V0)(m) との積和を、検査・監視時の特徴量(Vn)(m)
なお、検査・監視画像ROI_nでの輝度標準化では、基準ROI_0での平均値μiと標準偏差σiを用いて(n)ijを算出する。
【0037】
次に、基準ROI_0と検査・監視時ROI_nにおける各特徴量の、次数m毎の縦軸乖離度((V)DI(m)値)を以下の(7)式と定義する。
【0038】
次に、縦軸乖離度((V)DI(m)値)の具体的な計算を説明する。
表5に示す、基準ROI_0と検査・監視ROI_nにおいて得られた特徴量行列から、以下の手順によって(7)式で示す2つの特徴量分布の縦軸乖離度
(V)DI(m)値を計算する。
▲1▼基準ROI_0での特徴量(V0)(m)j の平均値(V0)(m) ave、 分散(V0)(m) σは、以下の(8)、(9)式で算出する。
▲2▼検査・監視時ROI_nでの特徴量も同様に、平均値は(10)式、分散は(11)式で算出する。
なお、加算Σはj=1,・・・,pについて行う。
【0039】
次数mにおける基準ROI_0の特徴量(V0)(m)jと、検査・監視ROI_nの特徴量(Vn)(m)jと、の乖離度(V)DI(m)値は、上記した(7)式の定義に基づき、上記(8)式~(11)式を用いて、以下の(12)式によって計算する。
ここで、ABS:絶対値を、SQRT:平方根を示す。
【表5】
【0040】
最後に、検査・監視時ROI_nの良否・異常判定について説明する。
(12)式で得た、各次数mでの縦軸乖離度(V)DI(m)値の中で、最大値となる(V)DImax(次数m(V))が、設定した判定閾値未満であるか、判定閾値以上であるか、により当該検査・監視時ROI_nが縦軸方向において、良好であるか、不良であるか、もしくは、正常であるか、異常であるかを判定する。
なお、当該説明は、後述する図2のS19,S20,S21に対応している。
【0041】
(基準・対象ROIにおける画像データ取得からの演算内容の説明(横軸))
一方、表6に示す、横軸を変数Y1,・・・,Yp(p個)とみなし、縦軸をデータ(q個)とした場合を説明する。演算内容は前記した縦軸方向を変数群とした場合と同様である。
【表6】
輝度データ群YjとYlとの相関係数(H)Rjl (j,l=1,・・・,p)から、画像データ(i=1,・・,q)を代表する特徴量を算出する。
(1)i=1,・・・,qについて各輝度データYj、Ylの平均値μj、μl、及び、標準偏差σj、σlを求める。
(2)次に、YjとYlとの相関係数(H)Rjlを算出する。
Yj,Ylの各分散、及び、共分散は、以下の▲1▼、▲2▼、▲3▼から求められる。
そして、▲1▼、▲2▼、▲3▼から、相関係数は(15)式によって計算される。
(3)この相関行列Rjlに関する固有値問題を解き、固有値(H)λ(m)、固有ベクトル(H)Wj(m)を求める。
mは、固有値の次数を示す。 左上添え(H)は、横軸変数を示す。
(4)特徴量(H)(m)i (m=1,・・・,q、i=1,・・・,q)を算出するために、輝度データyijを(17)式にて標準化する。
ここで、固有ベクトル(H)Wj(m)と、標準化した輝度データYijとの積和を、特徴量(H)(m)iと定義する。
(5)具体的な各特徴量の算出に関する書下し
上記した(15)式で求めた相関行列(H)Rjlを下記表7に示す。
【表7】
(6)特徴量(H)(m)iの算出
上記の(18)式の右辺を書き下し、具体的に(m)iと輝度データ(標準化後)Yijとのベクトル積を計算することによって、次数m毎の、縦軸画素iに対する特徴量(H)(m)iが求まる。
【表8】
以上のベクトル積の結果から、各特徴量の成分は表9と表示される。
【表9】
【0042】
検査・監視画像内の対象ROIでの不良・異常検出用の判定指標(横軸)
(1)基準ROI_0と検査・監視時ROI_nでの各特徴量(H0)(m)iと(Hn)(m)iと、を以下の(19)、(20)式にて算出する。
▲1▼基準画像0で得た固有ベクトル(H0)(m)jと標準化輝度データ(0)ijとの積和を基準ROI_0の特徴量(H0)(m)
▲3▼検査・監視時ROI_nの標準化輝度データ(n)ijと、基準固有ベクトル(H0)(m) との積和を検査特徴量(Hn)(m)
なお、検査画像での輝度標準化では、基準画像での平均値μjと分散σjを用いて(n)ijを算出する。
(2)2つの画像ROI_0,ROI_nにおける各特徴量の、次数m毎の横軸乖離度((H)DI(m)値)は、以下の(21)式で定義する。
(3)横軸乖離度((H)DI(m)値)の具体的な計算
表10に示す、基準ROI_0と検査・監視時ROI_nにおいて得られた特徴量行列から、以下の手順によって2つの特徴量分布の横軸乖離度(H)DI(m)値を計算する。
▲1▼基準画像での特徴量(H0)(m)i の平均値(H0)(m) ave、分散(H0)(m) σは、以下の(22)、(23)式で算出する。
▲2▼検査・監視時ROI_nでの特徴量(Hn)(m)iについても同様に、平均値(24)式、分散(25)式で算出する。
なお、加算Σはi=1,・・・,qについて行う。
▲3▼横軸乖離度(H)DI(m)値の計算
次数mにおける基準ROI_0の特徴量(H0)(m)iと、検査時ROI_nの特徴量(Hn)(m)iとの乖離度(H)DI(m)値は、上記(22)式~(25)式を用いて以下の(26)式によって計算する。
ここで、ABS:絶対値を、SQRT:平方根を示す。
【表10】
(4)検査・監視時ROI_nの良否・異常判定(横軸上)
(26)式で得た、各次数mでの縦軸乖離度(H)DI(m)値の中で、最大値となる(H)DImax(次数m(H))が、設定した判定閾値未満であるか、判定閾値以上であるか、により当該検査・監視時ROI_nが縦軸方向で良好か、不良か、もしくは正常か、異常かを判定する。なお、当該説明は、後述する図2のS19,S20,S21に対応している。
【0043】
(単一の画像内において良否・異常判定を行う場合の全体フローシート)
図2に、単一画像内で、設定した対象領域(対象ROI)の良否、もしくは、正常/異常を判定し、不良・異常の領域(位置)を特定するための演算処理、及び、判定についてのフローシートを示す。
【0044】
検査用、もしくは監視用の画像データを読み込み(S10)、そして、画像には判定に無関係な領域が含まれている場合があるので、予め、判定対象領域の設定S11を行い、基準ROI(ここでは、ある位置で固定)の座標(x0,y0)を設定する(S12)。
【0045】
次に、基準ROI、及び、対象ROIの寸法(x=p個、y=q個)を設定する(S13)。そして、対象ROIをn=1から一連の演算を繰り返して移動させてゆき、対象ROIの総数N個に至ると当該演算を終了する(S14,S15,S16,S17,S18)。
【0046】
図6には、単一画像1において、ROIの座標設定のための原点4を左上に置き、基準ROI~2を固定し、対象ROIを対象ROI_1~3から順次移動させて対象ROI_N~5まで、基準ROIと、対象ROI_n~6(座標(xn,yn))と、の前記した演算処理を実行する際の位置関係を示し、図7には、対象ROI_nの変数q個~1と、データp個~2と、の関連を示している。
【0047】
(単一画像データに対する縦方向、及び、横方向での演算処理フローチャート)
上記にて説明した基準・対象ROIにおける画像データ取得からの状態変化度までの演算内容のブロック図を、縦方向及び横方向について図3に示す。
【0048】
検査・監視用画像の基準ROI(縦軸画素数q個、横軸画素数p個)を取り込み1、縦軸方向での輝度値の平均値と分散を算出2し、同様に、横軸方向での輝度値の平均値と分散を算出3する。
【0049】
縦軸方向を変数群とし、横軸方向の画素の輝度値をデータ群として相関係数群を算出4し、次に、横軸方向を変数群とし、縦軸方向の画素の輝度値をデータ群として相関係数群を算出5する。
【0050】
前記にて算出した縦軸方向、及び、横軸方向での相関係数群を用いて固有値問題を解くことによって、縦軸方向での次数毎の固有ベクトル6、横軸方向での次数毎の固有ベクトル7を得る。当該固有ベクトルが、基準ROIに潜在する縦方向、横方向での特性係数に相当するものである。
【0051】
当該基準ROIの縦軸方向変数については、横軸の輝度データを、当該平均値と標準偏差によって、標準化8する。同様に、横軸方向変数については、縦軸の輝度データを、当該平均値と標準偏差によって標準化9する。
【0052】
縦軸方向での次数毎の固有ベクトルと、前記の標準化した横軸輝度データと、の積和演算することによって、縦軸方向での基準特徴量を算出10する。同様に、横軸方向での次数毎の固有ベクトルと、前記の標準化した縦軸輝度データと、の積和演算によって、横軸方向での基準特徴量を算出11する。
【0053】
以上に記載した内容は基準ROIにおける基準特徴量の算出についてであり、同様の手順にて、同一画像内に設定した対象ROIについて輝度データの平均値、標準偏差13,14を求め、標準化15,16する。
【0054】
前記した基準ROIで求めた固有ベクトルと、当該対象ROIでの標準化した輝度データと、の積和演算により縦軸方向、及び、横軸方向での対象特徴量を算出17、18する。
【0055】
前記の基準ROIでの基準特徴量10、11と、当該対象特徴量との、縦軸方向での乖離度(DI値)19、及び、横軸方向での乖離度(DI値)20を算出する。以上にて、図3に示す特徴量算出、及び、乖離度の演算手順の説明を完了する。以上にて、同一画像内での良否判定・異常監視についての説明を終了する。
【0056】
(基準・対象の2種画像間における良否・異常判定を行う全体フローシート)
図4に、基準画像と、検査・監視用画像と、の2種類の画像において、設定した対象領域(対象ROI)の良否・正常/異常を判定し、不良・異常の領域を特定するための演算処理、及び、判定についてのフローシートを示す。
【0057】
基準画像データの読込みS10、検査・監視用画像データの読込み(S11)、そして、当該2種の画像群には、判定に無関係な領域が含まれている場合があるので、予め、判定対象領域の設定S12を行い、基準ROIの座標、及び、対象ROIの座標を設定S13、S14する。
【0058】
次に、基準ROI、及び、対象ROIの寸法(x=p個、y=q個)を設定する(S15)。そして、基準ROI、及び、対象ROIをn=1から一連の演算を繰り返して移動させてゆき、基準ROIと対象ROIと、の対の総数がN個に至ると当該演算を終了する(S16,S17,S18,S19,S20)。
【0059】
(基準・対象の2種画像における縦方向、及び、横方向での演算処理フローチャート)
上記にて説明した基準・対象ROIにおける画像データ取得からの状態変化度までの演算内容のブロック図を、縦方向及び横方向について図5に示す。
【0060】
検査・監視用画像の基準ROI(縦画素数q個、横画素数p個)を取り込み1、縦方向での輝度値の平均値と分散を算出2し、同様に、横方向での輝度値の平均値と分散を算出3する。
【0061】
縦方向を変数群とし、横方向の画素の輝度値をデータ群として相関係数群を算出4し、次に、横方向を変数群とし、縦方向の画素の輝度値をデータ群として相関係数群を算出5する。
【0062】
前記にて算出した縦方向、及び、横方向での相関係数群を用いて固有値問題を解くことによって、縦方向での次数毎の固有ベクトル6、横方向での次数毎の固有ベクトル7を得る。当該固有ベクトルが、基準ROIに潜在する縦方向、横方向での特性係数に相当するものである。
【0063】
当該基準ROIの縦軸方向変数については、横軸の輝度データを、当該平均値と標準偏差によって、標準化8する。同様に、横方向変数については、縦軸の輝度データを、当該平均値と標準偏差によって標準化9する。
【0064】
縦方向での次数毎の固有ベクトルと、前記の標準化した横軸輝度データと、の積和演算することによって、縦方向での基準特徴量を算出10する。
同様に、横方向での次数毎の固有ベクトルと、前記の標準化した縦軸輝度データと、の積和演算によって、横方向での基準特徴量を算出11する。
【0065】
以上に記載した内容は基準ROIにおける基準特徴量の算出についてであり、同様の手順にて、検査・監視用画像内に設定した対象ROIについて輝度データの平均値、標準偏差13,14を求め、標準化15,16する。
【0066】
前記した基準ROIで求めた固有ベクトルと、当該対象ROIでの標準化した輝度データと、の積和演算により縦方向、及び、横方向での対象特徴量を算出17、18する。
【0067】
前記の基準ROIでの基準特徴量10、11と、当該対象特徴量との、縦方向での乖離度(DI値)19、及び、横方向での乖離度(DI値)20を算出する。以上にて、図5に示す基準画像・対象画像の2種の画像間において、縦方向、及び、横方向に対する特徴量算出、及び、特徴量乖離度(DI値)の演算手順の説明を完了する。
【実施例0068】
(半導体ウェハー表面の微小欠陥を検出した実施例 その1:単一画像の例)
まず、単一画像内での不良・異常の検出についての実施例を説明する。
図8も、左側と右側の画像1は、同一のもので、いずれも半導体ウェハーの表面が不良状態である画像である。ROIの設定が分かりやすいように左と右に分けて表示している。なお、当該ROIの寸法は、(x=250画素、y=250画素)とした。
【0069】
基準ROI_1の左上端の座標は(x0,y0)とし、これを座標1とする。対象ROIは対象ROI_2,_3,_4,_5,_6,_7、及び、対象ROI_8の7個を設定した場合の、各ROIの各画素の強度データである、2次元輝度パターンを図10に示す。横軸はY方向の変数群を、斜め奥の方向はX方向のデータ群を、縦軸に輝度強度を取って3次元表示したものである。その1が基準ROIでの輝度パターンで、順次、その2が対象ROI_2を示し、以降、その8が対象ROI_8での輝度パターンを示している。
【0070】
不良状態である対象物の、画像1における基準ROI_1から対象ROI_8までの輝度パターンには、対象ROI_6(図10の、その6)には少しの変化が観察されるものの、ほとんどのROIでは差異が見られない。
【0071】
そこで、基準ROI_1を基準データとして、対象ROI_2、~対象ROI_8を対象データとして、本発明の図3に示す、同一画像に対する検査・監視用フローシートに沿って解析を実行して得た基準ROI_1との乖離度の中の最大DI値を縦軸にとり、各対象ROIの番号を横軸にとって図12の座標1に相当する実線で示す。
【0072】
その結果、全ての対象ROIにおいて、最大DI値は、判定閾値の1.0を超えており、不良と判定される。つまり、対象物の半導体ウェハー表面が不良状態であっても、図10のように輝度パターンとして、各画素の輝度強度の差異としては観察されない場合でも、本発明の状態判別方法によれば不良検知が可能であることが分かる。なお、判定閾値を1.0に設定した根拠については後述する。
【0073】
次に、基準ROI_1の座標を変更して、500画素分Y方向(画像の下方向)に下げた、座標2(x0,y500)における不良検知の解析・判定試験を実施した。図9には、同じく画像1に対して基準ROI_1と、対象ROI_2,_3,_4,_5,_6,_7及び、対象ROI_8の7個の対象ROIを示す。
座標2に対する基準ROI_1(その1)と対象ROI_2(その2)~以降、対象ROI_8(その8)までの輝度パターンを図11に示す。この場合には、座標1での輝度パターンとは異なり、基準ROI、対象ROIとも多くのピーク群が観察された。
【0074】
座標2では、一見すると多くのピーク群が発生しているから、座標1の輝度パターンが全てのROIで正常状態の輝度強度であれば、当該ピーク群の発生を検出することが可能となる。しかしながら、座標1においても、座標2においても、対象物の表面状態は不良であることから、基準ROIと、全ての対象ROIの輝度パターンのピーク群の有無、そのものは、状態判別を行ううえで有用な情報とはならないことが分かる。
【0075】
そこで、本発明の状態判別方法を適用して得た、対象ROI_2~対象ROI_8の最大DI値を図12の、座標2に対応した点線で示している。その結果、座標1の場合と同様、全ての対象ROIで判定閾値1.0を超えており、不良と判定できた。
【0076】
以上の記述した、不良状態での単一画像において、ある基準ROIを設定し、対象ROIの特徴量の乖離度を判定指標とすることによって、当該基準ROIが不良状態に対応する場合においても、不良検知が可能となる。この背景としては、対象物の表面に、何かしらの不良状態が生じている場合には、複数の領域間の特徴量分布が大いに変動していることが推測される。
【0077】
(半導体ウェハー表面の微小欠陥を検出した実施例 その2:2種の画像の例)
次に、ある対象物が軽微な不良状態にある場合の画像を基準画像とし、中程度の不良状態にある画像を検査・監視用画像を対象画像とした場合の状態判別についての実施例その2を取り上げて説明する。
【0078】
図13には、軽微な不良状態にある半導体ウェハーの画像を左側に、基準画像として表示し、中程度の不良状態にある画像を、右側に対象画像として示す。そして、基準画像、対象画像とも当該ウェハーの背景部にあたる領域で輝度強度がほぼ均一な部分に、基準ROI_1、対象ROI_1を設定して、ケース(1)とした。なお、各ROIの寸法は、x=200画素、y=200画素とした。
【0079】
図14には、図13と同様に、軽微な不良状態にある半導体ウェハーの画像を左側に、基準画像として表示し、中程度の不良状態にある画像を、右側に対象画像として示す。そして、基準画像、対象画像とも当該ウェハーの不良部分にあたる領域に、基準ROI_2、対象ROI_2を設定して、ケース(2)とした。
【0080】
図15には、図13と同様に、軽微な不良状態にある半導体ウェハーの画像を左側に、基準画像として表示し、中程度の不良状態にある画像を、右側に対象画像として示す。ただし、基準画像、対象画像とも当該ウェハーの図14の場合とは異なり、うっすらとした汚れの程度が微妙に異なる不良画像を取り上げた。そして、不良部分にあたる領域に、基準ROI_3、対象ROI_3を設定して、ケース(3)とした。
【0081】
前記のケース(1)(図13)、ケース(2)(図14)、及び、ケース(3)(図15)に示している基準ROI_1と対象ROI_1、基準ROI_2と対象ROI_2、及び、基準ROI_3と対象ROI_3における2次元輝度パターンを図16に示す。
【0082】
ケース(1)では、基準ROI_1での輝度強度は、対象ROI_1の輝度強度と比較して、ほとんどの領域では輝度強度に顕著な差異は認められない。ただ、X方向の大きい領域、つまり基準・対象ROI_1の右側部分にて若干のピーク群が観察され、しかも軽微な不良状態である基準ROI_1の方が、中程度の不良状態にある対象ROI_1のピーク群の強さよりも大きいことは、不良事象の進展の傾向とは逆行している。
【0083】
ケース(2)では、基準ROI_2、対象ROI_2とも輝度強度に多くのピーク群が観測され、当該輝度強度の大きさでは基準ROI_2と対象ROI_2との識別は困難であり、軽微な不良状態と中程度の不良状態との判別は困難であることが分かる。
【0084】
ケース(3)では、基準ROI_3よりも対象ROI_3の方が、輝度強度が大きい領域が多く現れピーク群も同様であることは、対象ROI_3が中程度の不良状態であることを反映してはいる。
【0085】
そこで、本発明の状態判別法を適用した結果を、ケース(1)については図17に、ケース(2)については図18に、ケース(3)については図19に示す。いずれも、縦軸はDI値の次数分布で、Y方向を変数群とした場合である。
【0086】
図17では、ケース(1);基準画像、対象画像とも当該ウェハーの背景部にあたる領域で輝度強度がほぼ均一な部分に、基準ROI_1、対象ROI_1を設定した場合であり、DI値の次数分布は、次数全てにおいて最大DI値で0.22であった。そこで、判定閾値を1.0と設定すれば安定的に2つの状態間に差異はない、との判定が可能になる。
【0087】
つまり、照明などの外乱が生じた場合に背景部分の輝度強度の変化に対して、DI値の次数分布がどれくらい影響を受けるかどうかによって、不良状態、もしくは異常状態の検出における、判定閾値を設定することなる。
【0088】
図18には、ケース(2);軽微な不良状態の基準ROI_2に対して、中程度の不良状態である対象ROI_2のDI値次数分布を示す。図16のケース(2)に示すように、観察された基準ROI_2と対象ROI_2とのピーク群の差異から、当該半導体ウェハー表面状態の変化程度を、判別することは困難であったが、図18のDI値次数分布によれば明らかな状態変化を判別することが可能となった。なお、最大DI値は1.43となり判定閾値1.0を超えている。
【0089】
図19には、ケース(3);軽微な不良状態の基準ROI_3に対して、中程度の不良状態である対象ROI_3のDI値次数分布を示す。図16のケース(3)に示すように、対象ROI_3の方が、やや輝度強度のピーク群が多く不良程度の進展の傾向は現れており、このことはDI値次数分布でも明確に把握することができ、ケース(2)の場合と比較しても多くの次数で判定閾値1.0を越えており、最大DI値は、1.72であった。
【0090】
(赤外線カメラを用いた機器表面の赤外線画像による異常検知の実施例)
次に、機器設備の監視における実施例として、表面温度を赤外線カメラで撮影し、当該赤外画像に対して本発明の状態判別法を適用した場合を述べる。
【0091】
図20では、図20_1に正常状態における機械設備の赤外画像を、図20_2に周囲環境の温度変動が生じた外乱が重なった場合の赤外画像を、図20_3に機器設備に異常が発生して表面温度に変化が現れた場合の赤外画像を示している。
【0092】
図21には、上記した図20の各赤外画像の中から、機器設備の異常が発生する恐れがある領域を判別対象領域として抽出した画像、及び、白枠で囲んだROIを示す。図21_1は基準ROIを、図21_2は対象ROI_1を、図21_3は対象ROI_2を設定した場合である。
【0093】
図22に、基準ROI(基準/正常状態)内の赤外画像の2次元輝度パターンを、図23に、外乱下での機器設備は正常状態での同2次元輝度パターンを、図24に、機器設備の異常発生による赤外カメラによる表面温度の2次元輝度パターンを示す。
【0094】
これらの図22図24を観察した結果、Y方向の輝度強度が最大の諧調256にある部分が多く、外乱の発生、及び、状態変化に起因する輝度強度は、埋もれていることが分かる。したがって、従来の各種フィルタ処理やAI等による学習では、前記した3種類の状態を識別することは困難である。
【0095】
そこで、本発明の状態判別法を適用した結果として、対象ROI_1(外乱下での正常状態)については図25に、機器異常の発生時での対象ROI_2については図26に示す。外乱時においても、図25に示すように、全ての次数に対してDI値(Y方向)が判定閾値1.0未満であり、最大DI値は0.86であった。
【0096】
一方、機器設備に異常が発生した場合の、対象ROI_2では図26に示すように半数近くの次数においてDI値が判定閾値1.0を越えて、最大DI値は8.29であった。
図1
図2
図3
図4
図5
【図
図8
図9
図10
図11
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図13
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【図
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図24
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図26
【手続補正書】
【提出日】2022-12-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
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