(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059063
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】水系ウレタン分散体および積層体
(51)【国際特許分類】
C08G 18/00 20060101AFI20240422BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20240422BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20240422BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C08G18/00 C
C08G18/10
C08G18/42 066
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074826
(22)【出願日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2022166345
(32)【優先日】2022-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4J034
【Fターム(参考)】
4F100AK51B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100DD01A
4F100DE01B
4F100JA07B
4F100JK06
4F100YY00B
4J034DA01
4J034DB03
4J034DB07
4J034DF01
4J034DF11
4J034DF12
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA42
4J034QB17
4J034QC05
4J034QC10
4J034RA05
(57)【要約】
【課題】基材への造膜性と投錨性が良好な、耐油性、耐水性、ヒートシール性およびブロッキング性に優れる塗膜を作製可能な、高い生分解性を有する水系ウレタン分散体、および積層体の提供。
【解決手段】本発明の課題は、末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマー(A)と、鎖延長剤(B)との反応生成物であるウレタン樹脂(C)を含む水系ウレタン分散体であって、前記ウレタン樹脂(C)が下記式を満足することを特徴とする水系ウレタン分散体によって解決される。
0<(X+Y)/Z≦5かつX/Y≦1.7
X:ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレタン基濃度(mmol/g)
Y:ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレア基濃度(mmol/g)
Z:ウレタン樹脂(C)の全質量中における環状エステル含有量
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマー(A)と、鎖延長剤(B)との反応生成物であるウレタン樹脂(C)を含む水系ウレタン分散体であって、
下記(1)~(4)を満足することを特徴とする水系ウレタン分散体。
(1)前記ウレタンプレポリマー(A)が、ジヒドロキシカルボン酸を用いた環状エステルの開環重合により得られるポリエステルポリオール(a1)とジイソシアネート(a2)との反応生成物である。
(2)前記ウレタン樹脂(C)が、下記式を満たす。
0<(X+Y)/Z≦5
X:ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレタン基濃度(mmol/g)
Y:ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレア基濃度(mmol/g)
Z:ウレタン樹脂(C)の全質量中における環状エステル含有量
(3)X/Y≦1.7である。
(4)鎖延長剤(B)は、水または分子中に1級または2級のアミノ基を2つ以上有する化合物(b1)である。
【請求項2】
前記水系ウレタン分散体の平均粒子径が300nm以下であることを特徴とする、請求項1記載の水系ウレタン分散体。
【請求項3】
前記ポリエステルポリオール(a1)の数平均分子量が2,500以上であることを特徴とする、請求項1記載の水系ウレタン分散体。
【請求項4】
前記ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレタン基濃度(X)が0.4~1.2mmol/gであることを特徴とする、請求項1記載の水系ウレタン分散体。
【請求項5】
前記ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレア基濃度(Y)が0.4~1.2mmol/gであることを特徴とする、請求項1記載の水系ウレタン分散体。
【請求項6】
前記ウレタンプレポリマー(A)を構成するジイソシアネート(a2)のイソシアナト基とポリエステルポリオール(a1)の水酸基の当量比(イソシアナト基/水酸基)が1.7~2.5であることを特徴とする、請求項1記載の水系ウレタン分散体。
【請求項7】
前記環状エステルがε-カプロラクトン、D-ラクチド、L-ラクチド、DL-ラクチドおよびメソラクチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載の水系ウレタン分散体。
【請求項8】
前記ジヒドロキシカルボン酸がジメチロールプロパン酸またはジメチロールブタン酸を含むことを特徴とする請求項1記載の水系ウレタン分散体
【請求項9】
基材と請求項1~8いずれか1項記載の水系ウレタン分散体から形成される層を有する積層体。
【請求項10】
前記基材が非平滑基材であることを特徴とする請求項9記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系ウレタン分散体およびそれを用いて作製した積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への関心の高まりから、生分解樹脂に対する関心が高まっている。生分解性の材料に関しては、土壌中や海洋中で微生物が材料を水と二酸化炭素まで分解することから環境負荷が小さい材料として知られている。一方、コーティング剤分野においては二酸化炭素排出量の減少が求められており、溶剤系から水系材料を使用したコーティング剤への移行が急速に進んでいる。水系材料を使用したコーティング剤としては紙等の非平滑基材に対する投錨性、造膜性が必要であり、塗膜物性としては主に耐油性、耐水性、ヒートシール性、ブロッキング性等が求められる。すでに知られているポリビニルアルコールやデンプン等の水溶性生分解材料は耐水性に難があることが知られており、コーティング剤には不適である。水系材料かつ良好な塗膜物性を持つ生分解性材料の開発が求められている。
【0003】
特許文献1では、ジメチロールアルカン酸で開環重合したカプロラクトンポリオールからなる生分解度の高いウレタン樹脂が開示されており、その水性化方法についても記載されている。
【0004】
特許文献2では、ジメチロールアルカン酸で開環重合したカプロラクトンポリオールの末端を過剰のイソシアネートと反応させてウレタン化することで末端イソシアネートプレポリマーを合成し、その後中和して水を加えて乳化し、その乳化物に対してジアミンで鎖延長させて得られるウレタン樹脂の水分散体が開示されている。
【0005】
一方で、特許文献3では、カプロラクトンポリオールとジメチロールアルカン酸を過剰のイソシアネートとウレタン化することで末端イソシアネートプレポリマーを合成し、その後中和して水を加えて乳化し、その乳化物に対してジアミンで鎖延長させることで得られるウレタン樹脂水分散体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-313024号公報
【特許文献2】特開平8-27243号公報
【特許文献3】特開2018-193412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に記載の発明は、ヒートシール性やブロッキング性といった塗膜物性および非平滑基材に対する投錨性や造膜性に課題があった。
【0008】
本発明は、生分解性、ヒートシール性、ブロッキング性に優れ、かつ非平滑基材に塗布した場合でも造膜性と投錨性が良好で高い耐油性と耐水性を発揮する水系ウレタン分散体およびそれを用いて作製した積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ジヒドロキシカルボン酸を用いた環状エステルの開環重合により得られるポリエステルポリオールを主成分とする水性ウレタン樹脂において、樹脂中の環状エステル含有量、ウレタン結合、およびウレア結合濃度を特定範囲に調整することで、問題が有意に解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記[1]~[9]に関する。
【0010】
[1]末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマー(A)と、鎖延長剤(B)との反応生成物であるウレタン樹脂(C)を含む水系ウレタン分散体であって、
下記(1)~(4)を満足することを特徴とする水系ウレタン分散体。
(1)前記ウレタンプレポリマー(A)が、ジヒドロキシカルボン酸を用いた環状エステルの開環重合により得られるポリエステルポリオール(a1)とジイソシアネート(a2)との反応生成物である。
(2)前記ウレタン樹脂(C)が、下記式を満たす。
0<(X+Y)/Z≦5
X:ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレタン基濃度(mmol/g)
Y:ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレア基濃度(mmol/g)
Z:ウレタン樹脂(C)の全質量中における環状エステル含有量
(3)X/Y≦1.7である。
(4)鎖延長剤(B)は、水または分子中に1級または2級のアミノ基を2つ以上有する化合物(b1)である。
【0011】
[2]前記水系ウレタン分散体の平均粒子径が300nm以下であることを特徴とする、[1]記載の水系ウレタン分散体。
【0012】
[3]前記ポリエステルポリオール(a1)の数平均分子量が2,500以上であることを特徴とする、[1]または[2]記載の水系ウレタン分散体。
【0013】
[4]前記ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレタン基濃度(X)が0.4~1.2mmol/gであることを特徴とする、[1]~[3]いずれか記載の水系ウレタン分散体。
【0014】
[5]前記ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレア基濃度(Y)が0.4~1.2mmol/gであることを特徴とする、[1]~[4]いずれか記載の水系ウレタン分散体。
【0015】
[6]前記ウレタンプレポリマー(A)を構成するジイソシアネート(a2)のイソシアナト基とポリエステルポリオール(a1)の水酸基の当量比(イソシアナト基/水酸基)が1.7~2.5であることを特徴とする、[1]~[5]いずれか記載の水系ウレタン分散体。
【0016】
[7]前記環状エステルがε-カプロラクトン、D-ラクチド、L-ラクチド、DL-ラクチドおよびメソラクチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[1]~[6]いずれか記載の水系ウレタン分散体。
【0017】
[8]前記ジヒドロキシカルボン酸がジメチロールプロパン酸またはジメチロールブタン酸を含むことを特徴とする[1]~[7]いずれか記載の水系ウレタン分散体。
【0018】
[9]基材と[1]~[8]いずれか記載の水系ウレタン分散体から形成される層を有する積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明より、生分解性、ヒートシール性、ブロッキング性に優れ、かつ非平滑基材に塗布した場合でも造膜性と投錨性が良好で高い耐油性と耐水性を発揮する水系ウレタン分散体およびそれを用いて作製した積層体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、数平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値をいう。
【0021】
<ウレタンプレポリマー(A)>
本発明におけるウレタンプレポリマー(A)とは、ジヒドロキシカルボン酸を用いた環状エステルの開環重合により得られるポリエステルポリオール(a1)とジイソシアネート(a2)との反応生成物である。
【0022】
本発明におけるポリエステルポリオール(a1)は、ジヒドロキシカルボン酸を開始剤として環状エステルを開環重合することで得られる。このような方法で環状エステルを重合することで、得られるポリオールの中心部分にカルボキシル基を導入することができる。
このような構造であると、カルボキシル基とウレタン結合およびウレア結合との距離が離れるため、カルボキシル基によるウレタン結合およびウレア結合同士の凝集が阻害されず凝集力が高まり、ブロッキング性やヒートシール性に優れる塗膜を得ることができる。
【0023】
ジヒドロキシカルボン酸としては、分子内に2つ以上の水酸基と1つ以上のカルボン酸を有するものであれば特に限定されず、例えば、ジメチロールプロパン酸(DMPA)、ジメチロールブタン酸(DMBA)、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールノナン酸、酒石酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、2,3,4-トリヒドロキシ安息香酸、2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸、メバロン酸、パントイン酸、グリセリン酸等が挙げられる。好ましくはジメチロールプロパン酸(DMPA)、ジメチロールブタン酸(DMBA)、酒石酸であり、さらに好ましくはジメチロールプロパン酸(DMPA)、ジメチロールブタン酸(DMBA)である。酒石酸、ジメチロールプロパン酸(DMPA)、ジメチロールブタン酸(DMBA)を使用することで樹脂の水性化が容易になり、造膜性が良好となるため好ましい。
【0024】
環状エステルとしては、分子内に少なくとも1つのエステル基を有する環状化合物であれば特に限定されず、例えば、ラクトン類、環状ジエステル類等を用いることができる。ラクトン類としては、例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-オクタノラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-ヘキサラノラクトン、δ-オクタノラクトン、ε-カプロラクトン、δ-ドデカノラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、グリコリッド等が挙げられる。環状ジエステル類としては、D-ラクチド、L-ラクチド、DL-ラクチド、メソラクチド等が挙げられる。好ましくはε-カプロラクトン、D-ラクチド、L-ラクチド、DL-ラクチドおよびメソラクチドであり、これらを使用することで、造膜性が良好になる。特に好ましくはε-カプロラクトンである。
【0025】
ジヒドロキシカルボン酸を用いた環状エステルの開環重合反応は、ジヒドロキシカルボン酸と環状エステルの混合物を、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で140~200℃で加熱重合させて行う。反応の際には必要に応じて触媒を併用しても良い。
【0026】
触媒としては特に限定されないが、例えば、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等の有機チタン系化合物類;
ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジラウレート、オクチル酸第一スズ、モノ-n-ブチルスズ脂肪酸塩、塩化第一スズ、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズ等の有機スズ系化合物類;
トリエチルアミン、イソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、sec-ブチルアミン等のアルキルアミン類;
3-エトキシプロピルアミン、プロピルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、3-メトキシプロピルアミン等のアルコキシアミン類;
N,N-ジエチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;
モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等のモルホリン類等が挙げられる。
【0027】
ポリエステルポリオール(a1)の数平均分子量は、好ましくは2,500以上でありより好ましくは3,000以上である。数平均分子量が2,500以上であると、ウレタン樹脂(C)中の生分解度が向上するため、生分解性が良好な塗膜を得ることができ、疎水部分が連続して存在することにより耐水性が向上する。数平均分子量の上限については、20000以下であることにより、ウレタンプレポリマーの水中への分散性が良好になる。
【0028】
ウレタンプレポリマー(A)の合成に使用できるジイソシアネート(a2)としては、特に限定されないが、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート類;
テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート類;
イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環族系ポリイソシアネート類等が挙げられる。好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートである。
【0029】
ウレタンプレポリマー(A)の合成の際には、必要に応じてポリエステルポリオール(a1)の他に、ポリオール(a3)を併用しても良い。ポリオール(a3)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等のポリマーポリオールの他、低分子ポリオールが挙げられる。
【0030】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン/プロピレン)グリコール、ポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0031】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2-メチル-1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2’,2’-ジメチル-3’-ヒドロキシプロパネート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-エチル-1,5-ペンタンジオール、3-プロピル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、3-オクチル-1,5-ペンタンジオール、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)-トリシクロ[5.2.1.0]デカンジメタノール、ビスフェノールA等の低分子ジオール、および/または、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子トリオールと、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸、無水フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等の二塩基酸との縮合物の他、植物由来の油を原料としたひまし油ポリオールや、カルボキシル基を持たないポリオールを開始剤としてε-カプロラクトン、D-ラクチド、L-ラクチド、DL-ラクチドまたはメソラクチドを縮合した環状エステル縮合ポリオールが挙げられる。
【0032】
ポリカーボネートポリオールとしては、前述の低分子ジオールと、ジアルキルカーボネート、アルキレンカーボネート、またはジアリールカーボネートとの縮合物が挙げられる。
【0033】
ポリオレフィンポリオールとしては、水酸基含有ポリブタジエン、酸基含有水添ポリブタジエン、水酸基含有ポリイソプレン、水酸基含有水添ポリイソプレン、水酸基含有塩素化ポリプロピレン、水酸基含有塩素化ポリエチレン等が挙げられる。
【0034】
低分子ポリオールとしては、例えば、前述の低分子ジオール、低分子トリオールの他に、カルボン酸を含有するジメチロール酢酸、ジメチロールプロパン酸、ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロールペンタン酸等のジメチロールアルカン酸や、ジヒドロキシコハク酸、ジヒドロキシプロパン酸、ジヒドロキシ安息香酸が挙げられる。
【0035】
ウレタンプレポリマー(A)の合成法としては、公知のウレタン化の手法を用いることができ、ウレタンプレポリマー(A)の分子末端がイソシアナト基になるよう、ポリエステルポリオール(a1)とポリオール(a3)に対し過剰量のジイソシアネート(a2)を反応させる。過剰量のジイソシアネートとは、ポリエステルポリオール(a1)とポリオール(a3)中の水酸基に対するジイソシアネート(a2)中のイソシアナト基の当量比(イソシアナト基/水酸基)が1.1~10の割合になることであり、好ましくは1.7~2.5、より好ましくは2.0~2.4である。水酸基に対するイソシアナト基の当量比が1.7以上であればウレタンプレポリマー(A)の粘度を低く抑えることができ、その後の乳化工程が容易になる。2.5以下であれば非平滑基材に対して造膜性が良好になり、基材を均一に覆う塗膜が作成できるため耐水性や耐油性が向上する。ポリエステルポリオール(a1)とジイソシアネート(a2)との反応は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、20℃~150℃の温度で行われる。反応速度や粘度を調整する目的でウレタン化触媒や有機溶剤を併用しても良い。
【0036】
ウレタン化触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート(DTD)、アルキルチタン酸塩、有機珪素チタン酸塩、スタナスオクトエート、オクチル酸鉛、オクチル酸亜鉛、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス、ジブチル錫ジオルソフェニルフェノキサイド、錫オキサイドとエステル化合物(ジオクチルフタレート等)の反応生成物等の金属系触媒や、モノアミン類(トリエチルアミン等)、ジアミン類(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等)、トリアミン類(N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン等)、環状アミン類(トリエチレンジアミン等)等のアミン系触媒が挙げられる。
【0037】
有機溶剤としては、例えば、オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;
エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル類;
ジオキサン等のエーテル類;
ヨウ化メチレン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;
N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホニルアミド等のアミド系溶剤類の他、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
好ましくはアセトン、メチルエチルケトンである。
【0038】
<鎖延長剤(B)>
鎖延長剤(B)は、水または分子中に1級または2級のアミノ基を2つ以上有する化合物(b1)である。
分子中に1級または2級のアミノ基を2つ以上有する化合物(b1)としては例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、m-キシリレンジアミン、フェニレンジアミン等のジアミン類;
ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリエチレンポリアミン類;
ヒドラジン、ピペラジンおよびヒドラジンとアジピン酸やフタル酸とのジヒドラジド化合物類等が挙げられる。
鎖延長剤としての水は、ウレタンプレポリマー(A)の分散媒として系中に存在する水を使用することができる。
鎖延長剤は、分子中に1級または2級のアミノ基を2つ以上有する化合物(b1)を用いることが好ましい。水と比較して、分子中に1級または2級のアミノ基を2つ以上有する化合物(b1)はイソシアナト基との反応性が高く鎖延長が進行しやすいため、化合物(b1)を用いることで高分子量化が進み、強固な塗膜を形成することでヒートシール性とブロッキング性が向上する。また、造膜性の点から、化合物(b1)はジアミン類またはポリエチレンポリアミン類が好ましい。上記化合物は、1種を単独で用いることができ、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
<ウレタン樹脂(C)>
ウレタン樹脂(C)は、下記式を満たす。
0<(X+Y)/Z≦5
X:ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレタン基濃度(mmol/g)
Y:ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレア基濃度(mmol/g)
Z:ウレタン樹脂(C)の全質量中における環状エステル含有量
X/Y≦1.7
(X+Y)/Zの値が5以下かつ、ウレタン基濃度とウレア基濃度の比率(X/Y)が1.7以下であることで非平滑基材に塗布した場合に優れた造膜性と投錨性を発揮し、基材を均一に覆う塗膜が作成できるため耐油性と耐水性が良好な積層体を得ることができる。
(X+Y)/Zの値は、好ましくは4.2以下である。
【0040】
ウレタン基濃度、ウレア基濃度および環状エステル含有量が上記の範囲にある場合において、さらに、ウレタン基濃度(X)は0.4~1.2mmol/gが好ましく、より好ましくは0.5~1.0mmol/gである。
ウレタン基濃度(X)が0.4mmol/g以上であると、塗膜強度が良好になりブロッキング性が向上する。ウレタン基濃度(X)が1.2mmol/g以下であると、非平滑基材への投錨性が良好になり、ヒートシール性が向上する。
ウレタン基濃度の算出方法としては、ウレタン基濃度(mmol/g)=(使用ポリエステルポリオール(a1)中の水酸基mmol+使用ポリオール(a3)中の水酸基mmol)/(ウレタン樹脂(C)の総量(g))で算出することができる。
【0041】
ウレタン基濃度、ウレア基濃度および環状エステル含有量が上記の範囲にある場合において、さらに、ウレタン樹脂(C)の全質量中におけるウレア基濃度(Y)は0.4~1.2mmol/gが好ましく、より好ましくは0.5~1.0mmol/gである。
ウレア基濃度(Y)が0.4mmol/g以上であると、塗膜強度が良好になりブロッキング性が向上する。ウレア基濃度(Y)が1.2mmol/g以下であると、非平滑基材への造膜性が良好になり、耐油性と耐水性が向上する。ウレア基濃度の算出方法としては、(ジイソシアネート(a2)中のイソシアナト基mmol-使用ポリエステルポリオール(a1)中の水酸基mmol+使用ポリオール(a3)中の水酸基mmol)/(ウレタン樹脂(C)の総量(g))で算出することができる。
【0042】
ウレタン樹脂(C)は、末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマー(A)と、鎖延長剤(B)とを反応させることで得られる。前述の通り、鎖延長剤(B)は水または分子中に1級または2級のアミノ基を2つ以上有する化合物(b1)であり、化合物(b1)を用いることが好ましい。その反応としては、ウレタンプレポリマー(A)が水中に分散している状態で化合物(b1)を少しずつ滴下する方法が好ましい。ここでウレタンプレポリマー(A)の水分散体は、ウレタンプレポリマー(A)中のカルボキシル基をまず中和し、その後剪断を加えながら水を加えることで得ることができる。
【0043】
中和剤としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア、有機アミン化合物、無機塩基性化合物等が上げられる。有機アミン化合物としては、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、sec-ブチルアミン等のアルキルアミン類、3-エトキシプロピルアミン、プロピルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、3-メトキシプロピルアミン等のアルコキシアミン類;
N,N-ジエチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;
モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等のモルホリン類等が挙げられる。好ましくは乾燥性の観点からトリエチルアミンがよい。
【0044】
中和の方法としては、ウレタンプレポリマー(A)の合成後に中和剤を加えて中和しても良いし、水を加えて分散させる際に水に溶解させて中和しても良い。中和したウレタンプレポリマー(A)に対して水を加えることによって、ウレタンプレポリマー(A)が水に分散した形態をとることができる。水に分散している状態において、化合物(b1)を少しずつ滴下することで、ウレタンプレポリマー(A)の末端イソシアナト基と化合物(b1)中のアミノ基が反応してウレア基を形成し、ウレタン樹脂(C)を得ることができる。
【0045】
ウレタンプレポリマー(A)と、鎖延長剤(B)を反応させた後は、有機溶剤を使用している場合はそれらを除去する工程が必要である。有機溶剤の除去方法としては、特に制限されないが、例えば、水の沸点以下の温度で、空気または窒素ガス等の不活性ガスを反応生成液の表面ないしは液中に送り込みながら有機溶剤を除去する方法や、反応容器内を減圧にして加熱しながら有機溶剤を除去する方法等が挙げられる。
【0046】
ウレタン樹脂(C)の数平均分子量としては50万を超えることが好ましく、より好ましくは70万以上である。50万以上であることで強靭な塗膜を形成することによりブロッキング性が向上する。また、ヒートシール時には、樹脂同士が強固に融着して絡み合うことでヒートシール性が向上する。
【0047】
≪水系ウレタン分散体≫
本発明の水系ウレタン分散体は、上記工程によってウレタン樹脂(C)が水に分散した状態である。水系ウレタン分散体は水にウレタン樹脂(C)が粒子状に分散した形態をとり、粒子の平均粒子径としては好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。また、平均粒子径の下限は製造可能な範囲であれば特に制限されないが、10nm以上が好ましく、より好ましくは50nm以上である。粒子径が300nm以下であることにより水系ウレタン分散体の安定性が良好になり、長期保管した場合でも沈殿が生じにくくなると同時に、非平滑基材への投錨性が良好になる。また、10nm以上であれば安定に製造することができる。
【0048】
水系ウレタン分散体の固形分としては通常10~70質量%であり、好ましくは20~50質量%である。固形分が20質量以上であると、塗布した後の乾燥塗膜の膜厚を大きくすることができ、それによって強靭な塗膜を得ることができる。固形分が50質量%以下であると、分散体中の粒子間距離を十分に確保できることから分散体の安定性が良好になる。
【0049】
水系ウレタン分散体は、任意成分として、フィラー、ワックス、着色剤、消泡剤、界面活性剤、有機溶剤、防腐剤、架橋剤等の添加剤を含むことができる。
【0050】
フィラーとしては、公知のものであれば特に限定されず、例えば、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、珪藻土(ホワイトカーボン)、セルロース粉末等が挙げられる。
【0051】
ワックスとしては、公知のものであれば特に限定されず、例えば、カルナバワックス、みつろう、パラフィンワックス、変性パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、変性ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、変性ポリプロピレンワックス、エチレン酢酸ビニル共重合ワックス、変性エチレン酢酸ビニル共重合ワックス、脂肪酸アマイド、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックス、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0052】
着色剤としては、水系ウレタン分散体を着色する目的で用いられ、公知の有機顔料、無機顔料、染料等を用いることができる。
【0053】
消泡剤としては、ポリシロキサン系消泡剤、鉱物油系消泡剤、非イオン界面活性剤等が
挙げられ、なかでも消泡力の強さの観点からポリシロキサン系消泡剤を用いることが好ま
しい。ポリシロキサン系消泡剤としては、ポリジメチルシロキサン構造を有するもの等を使用することができる。必要に応じて疎水性シリカや鉱物油等を混合したポリシロキサン系消泡剤を使用してもよい。
【0054】
界面活性剤としては、水系ウレタン分散体の基材への濡れ性や投錨性を向上させるために使用することができる。例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられるが、安全性や良好な塗膜物性発現の観点からアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0055】
有機溶剤としては、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の一価のアルコール類;
エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のグリコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;
N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、ε-カプロラクタム等のラクタム類;
ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、出光製エクアミドM-100、エクアミドB-100等のアミド類等が挙げられる。
【0056】
防腐剤としては、特に限定されず、例えばデヒドロ酢酸ナトリウム、ジクロロフェン、ソルビン酸、安息香酸ナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸エステル、1,2-Benzisothiazoline-3-one(製品名:プロキセルGXL(アビシア社製))等が挙げられる。
【0057】
架橋剤としては、カルボキシル基に対して反応性を有する多官能性化合物が好適であり、例えば、多官能カルボジイミド、多官能イソシアネート、多官能エポキシ、多官能オキサゾリン等が挙げられる。
【0058】
≪積層体≫
本発明の積層体は、基材と前記水系ウレタン分散体からなる層を有する。
【0059】
水系ウレタン分散体を塗工する基材としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン系樹脂等やそれらの成型品(フィルム、シート、カップ等)、金属、ガラス、紙、不織布、繊維、土壌等が挙げられる。特に、JIS K 7126-1:2006に準拠して、酸素透過度測定装置(MOCON OX-TRAN 2/22)を用いて測定した酸素透過度が10,000(cc/m2/day/atm、25μm、25℃、50%RH)以上である通気性の高い非平滑性基材、具体的には紙、不織布、繊維、有孔フィルム、土壌等に好適に用いることができる。非平滑性基材に対して、優れた投錨性と造膜性を発現し均一に表面を被覆することで、基材内部への油や水等の染み込み等を防止することができる。
【0060】
積層体を作製する際の塗工方法としては、紙・フィルム・不織布等の印刷機を用いて塗工することができる基材については、オフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーターのような公知の塗工方法を使用できる。印刷機を用いて塗工できない基材に関しては、塗工方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、スプレー、シャワー、ディッピング等の方法を用いて塗布することが可能である。
【0061】
本発明の積層体は、基材上に水系ウレタン分散体からなる層が積層されていても良く、基材と水系ウレタン分散体からなる層の間に1層以上別の層が存在しても良い。
【実施例0062】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表し、空欄は使用していないことを表す。また、水系ウレタン分散体の固形分、平均粒子径、数平均分子量の測定方法は以下の通りである。
【0063】
<固形分>
JISK5601-1-2に準拠し、加熱温度150℃、加熱時間20分で測定した時の加熱残分を固形分(%)とした。
【0064】
<平均粒子径>
水系ウレタン分散体の平均粒子径は、水系ウレタン分散体を500倍に水で希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はナノトラックUPA、マイクロトラックベル社製)により測定を行い、得られた体積粒子径分布データから平均粒子径を算出した。
【0065】
<数平均分子量>
数平均分子量は、乾燥させた樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、0.2%溶液を調製し、更にメンブレンフィルター(ADVANTEC社製13HP045AN孔径0.45μm)で濾過処理をして、以下の装置ならびに測定条件により測定した。なお、THFに完全に溶解しない場合、または、溶解はするがフィルターを通過しない樹脂については、超高分子量化しているとみなし、数平均分子量を50万以上とした。
装置:HLC-8320-GPCシステム(東ソー社製)
カラム:TSKgel-SuperMultiporeHZ-M00214884.6mmI.D.×15cm×3本(分子量測定範囲2000~約2000000)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
流速:0.6mL/分
試料溶液使用量:10μL
カラム温度:40℃
【0066】
<ポリエステルポリオール(a1)の製造>
[製造例1]
まず、撹拌器、温度計、還流器を備えた反応容器に、環状エステル成分としてε-カプロラクトン94.6部、ジヒドロキシカルボン酸成分としてジメチロールプロパン酸5.4部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら180℃まで昇温させ5時間反応させた。その後、ポンプで減圧しながら未反応の環状エステル成分を留去し、ポリエステルポリオール(a1)-1を得た。得られたポリエステルポリオールの数平均分子量は2,500であった。
【0067】
[製造例2~11]
環状エステル成分とジヒドロキシカルボン酸成分を、表1に示す材料および配合量に変更した以外は、製造例1と同様の方法でポリエステルポリオール(a1)-2~(a1)-11の合成を行った。得られたポリエステルポリオールの数平均分子量を表1に記載する。
【0068】
(実施例1)
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、ポリエステルポリオール(a1)-3を73.3部、ジメチロールプロパン酸4.3部、アセトン40部を仕込んだ。反応容器の内温を50℃に昇温して窒素置換を十分行った後、ジイソシアネート(a2)としてイソホロンジイソシアネート20部を添加して5時間反応を行い、末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマー(A-1)を得た。次いで、トリエチルアミンを加えて中和し1時間撹拌した。その後、撹拌しながらイオン交換水を220部加え、ウレタンプレポリマー(A-1)を水中に分散させた。その後、反応容器内の温度を30℃になるよう設定し、鎖延長剤(B)としてエチレンジアミン2.3部とイオン交換水20部の混合物を少しずつ添加した後に5時間撹拌を行った。その後、反応容器の内温を50℃まで昇温し、減圧しながらアセトンを留去した。この際、一部のイオン交換水はアセトンと同時に留去された。最後に、固形分が30%になるようにイオン交換水を加えることで目的の水系ウレタン分散体を得た。平均粒子径は98nmであった。また樹脂がフィルターを通過しなかったため、数平均分子量を50万以上とした。
【0069】
(実施例2~29、比較例1~3)
ポリエステルポリオール、ポリオール、ジイソシアネート、鎖延長剤(B)の種類と配合量を表2~5の通り変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い表2~5に示す水系ウレタン分散体を得た。得られた水系ウレタン分散体の固形分と平均粒子径は表2~5に記載のとおりである。また、いずれの実施例および比較例においても樹脂がフィルターを通過しなかったため、数平均分子量を50万以上とした。
【0070】
(実施例30)
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、ポリエステルポリオール(a1)-3を90.5部、アセトン40部を仕込んだ。反応容器の内温を50℃に昇温して窒素置換を十分行った後、ジイソシアネート(a2)としてヘキサメチレンジイソシアネート7.5部を添加して5時間反応を行い、末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマー(A-30)を得た。次いで、トリエチルアミンを加えて中和し1時間撹拌した。その後、撹拌しながらイオン交換水を220部加え、ウレタンプレポリマー(A-30)を水中に分散させた。その後、反応容器の内温を50℃まで昇温し、減圧しながらアセトンを留去した。この際、一部のイオン交換水はアセトンと同時に留去された。その後、ウレタンプレポリマー(A-30)の末端イソシアネートと系中に存在する水(鎖延長剤)を反応させるために、反応容器の内温を50℃まで昇温し、4時間撹拌しながら反応を行った。最後に、固形分が30%になるようにイオン交換水を加えることで目的の水系ウレタン分散体を得た。平均粒子径は210nmであった。また樹脂がフィルターを通過しなかったため、数平均分子量を50万以上とした。
【0071】
表2~5に記載の材料の略号について以下に記載する。
TONE0249(カプロラクトンポリオール Dow社製)
TONE1270(カプロラクトンポリオール Dow社製)
PTMG(ポリテトラメチレンエーテルグリコール 三菱ケミカル株式会社製)
PPG(ポリプロピレングリコール 富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0072】
得られた水系ウレタン分散体について、下記の方法で貯蔵安定性、生分解性の評価を行なった。また、下記の方法で水系ウレタン分散体からなる層を有する積層体を作製し、ブロッキング性、ヒートシール性、耐油性、耐水性の評価を行なった。
【0073】
<貯蔵安定性>
水系ウレタン分散体を、25℃で1か月間静置して保管を行い、その後水系ウレタン分散体の分散状態について、以下の方法で算出したろ過残渣と目視による評価を行い、以下の評価基準で判定した。
(ろ過残渣)
金網(200メッシュ 株式会社オオモリ製)に水系ウレタン分散体を通した後、金網に付着した異物の量を下記式[1]から算出した。
((y-z)/x)×100[式1]
(x)金網に通した水系ウレタン分散体の質量
(y)金網に付着した異物を金網ごとオーブンで150℃15分乾燥させた後の質量
(z)金網の質量
[評価基準]
S:目視で異物が発生しておらず、金網に付着した異物が0.01質量%未満である(極めて良好)
A:目視で異物が発生していないが、金網に付着した異物が0.01質量%以上0.03質量%未満である(良好)
B:目視で異物が確認でき、金網に付着した異物が0.03質量%以上0.05質量%未満である(使用可)
C:目視で異物が確認でき、金網に付着した異物が0.05質量%以上である(使用不可)
【0074】
<生分解性>
水系ウレタン分散体を乾燥させることで厚さ0.5mm、縦10cm、横10cmのフィルムを作製し、コンポスト中に1か月埋没させる。得られたフィルムの体積を10割として試験後に目視で確認できる残渣割合を算出し、以下の評価基準で判定した。
[評価基準]
S:目視で確認できる残渣が6割未満(極めて良好)
A:目視で確認できる残渣が6割以上7割未満(良好)
B:目視で確認できる残渣が7割以上9割未満(使用可)
C:目視で確認できる残渣が9割以上(極めて不良)
【0075】
<積層体の作製>
市販の衛生紙(秤量21g、片面光沢処理済)の光沢面に、ウインドミラーアンドヘルシャー社製「SOLOFLEX」セントラルインプレッション(CI)型6色フレキソ印刷機を用いて、乾燥後の積層体の塗布量が2g/m2となるよう水系ウレタン分散体を塗工しその後、80℃で乾燥することで積層体を得た。
【0076】
<ブロッキング性>
得られた積層体の塗工面と非塗工面を向き合うように重ね、CO-201永久歪試験機(テスター産業社製、上下板加熱)を用いて荷重2kg/cm2、温度40℃、試験時間24時間の条件で耐ブロッキング性を測定し、以下の評価基準で判定した。
[評価基準]
S:剥離の際に抵抗感がなく、紙も欠損しない(極めて良好)
A:剥離の際にやや抵抗感はあるが、紙は欠損しない(良好)
B:剥離の際に抵抗感はあるが、紙は欠損しない(使用可)
C:剥離の際に抵抗感があり、紙も欠損している(使用不可)
【0077】
<ヒートシール性>
2枚1組の積層体を、塗工面が向き合うように重ね、ヒートシールテスター(テスター産業製、TP-701-B)を用いて、170℃、荷重2kgf/cm2、1秒の条件でヒートシールした。続いて、ヒートシールされた試験片を15mm幅にカットし、引張試験機(テスター産業社製)を用いて、引張速度300mm/min、T字剥離でヒートシール強度を測定し、以下の基準で評価した。
[評価基準]
S:2N以上(極めて良好)
A:1.5N以上、2N未満(良好)
B:1N以上、1.5N未満(使用可)
C:1N未満(使用不可)
【0078】
<耐油性>
23℃の環境下で、得られた積層体の塗工面上にひまし油を1滴垂らし、30秒後にひまし油を垂らした面積に対して、ひまし油染み込んで紙の色が変色した割合を目視で観測し、以下の評価基準で判定した。
[評価基準]
S:染み込みが全く見られない(極めて良好)
A:染み込んだ面積が1割未満(良好)
B:染み込んだ面積が1割以上5割未満(使用可)
C:染み込んだ面積が5割以上(極めて不良)
【0079】
<耐水性>
23℃の環境下で、得られた積層体の塗工面上に水を1滴垂らし、30秒後に水を垂らした面積に対して、水が染み込んで紙の色が変色した割合を目視で観測し、以下の評価基準で判定した。
[評価基準]
S:染み込みが全く見られない(極めて良好)
A:染み込んだ面積が1割未満(良好)
B:染み込んだ面積が1割以上5割未満(使用可)
C:染み込んだ面積が5割以上(極めて不良)
【0080】
表2~5から分かるように、実施例1~30で得られたウレタン樹脂分散体を用いることで、開始剤にジヒドロキシカルボン酸を用いていないカプロラクトンモノマーを使用した比較例1、環状エステル量の含有量が低く(X+Y)/Zの値が6.07と非常に高い比較例2、ウレア結合濃度が低くX/Yの値が2.3と高い比較例3に比べて非常に良好な生分解性を有しつつ耐油性、耐水性、ヒートシール強度、ブロッキング性に優れた積層体を得ることができた。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】