(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059077
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】積層シートおよび熱成形品
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20240422BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240422BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240422BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20240422BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20240422BHJP
C08L 25/06 20060101ALI20240422BHJP
C08L 53/02 20060101ALN20240422BHJP
【FI】
B32B5/18
B32B27/32
B32B27/30 B
C08L23/06 ZAB
C08L23/12
C08L25/06
C08L53/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150234
(22)【出願日】2023-09-15
(62)【分割の表示】P 2022166418の分割
【原出願日】2022-10-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】390041058
【氏名又は名称】シーピー化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129919
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 信二
(74)【代理人】
【識別番号】100158399
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 輝
(72)【発明者】
【氏名】野村 晋史
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】山野 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】岡本 修治
(72)【発明者】
【氏名】村田 隆司
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK03
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK07
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4J002BB03X
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4J002FD31Y
4J002FD320
4J002GF00
4J002GG00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】ドローダウン量が小さく良好な成形性を有する積層シートを提供する。
【解決手段】積層シート(1)であって、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との混合樹脂により形成される発泡層(10)と、ポリスチレン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂により形成される少なくとも1つの非発泡層(20)と、が積層されており、発泡層(10)は、バイオマスポリエチレンまたはバイオマスポリプロピレンの少なくとも何れかをポリオレフィン系樹脂として含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との混合樹脂により形成される発泡層と、
ポリスチレン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂により形成される少なくとも1つの非発泡層と、が積層されており、
前記発泡層は、バイオマスポリエチレンまたはバイオマスポリプロピレンの少なくとも何れかを前記ポリオレフィン系樹脂として含む、積層シート。
【請求項2】
前記発泡層は、バイオマスポリエチレンを前記ポリオレフィン系樹脂として含む、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記発泡層の第1面には、ポリスチレン系樹脂により形成される前記非発泡層である第1非発泡層が積層され、
前記発泡層の、前記第1面とは異なる第2面には、ポリオレフィン系樹脂により形成される前記非発泡層である第2非発泡層が積層されている、請求項1に記載の積層シート。
【請求項4】
前記発泡層は、ポリスチレン系樹脂の含有量が30重量%以上75重量%以下である、請求項3に記載の積層シート。
【請求項5】
前記発泡層は、ポリオレフィン系樹脂の含有量が15重量%以上60重量%未満である、請求項3または4に記載の積層シート。
【請求項6】
180°剥離試験方法により、前記発泡層から、前記第1非発泡層および前記第2非発泡層の少なくとも一方が剥離可能である、請求項3または4に記載の積層シート。
【請求項7】
請求項1に記載の積層シートの熱成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シートおよび熱成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
包装用容器等の樹脂製容器は一般的に、樹脂製のシートを熱成形することで製造される。シートを加熱すると、熱変形によってシートが重力方向に垂れ下がる現象(ドローダウンと称する)が発生する。ドローダウン量(熱変形によってシートが重力方向に垂れ下がった量)が大きいと、成形時にシートの波打ちが生じやすくなるため、成形品においてシワ等の外観不良が生じやすくなることが知られている。
【0003】
ドローダウン量を低減する方法について、種々の検討がなされている。例えば特許文献1には、ポリスチレン系樹脂発泡シート層と、ハイインパクトポリスチレン樹脂シート層とを有する積層発泡シートについて、これらのシートの加熱収縮加重の最大値を調整することが開示されている。また、当該ポリスチレン系樹脂発泡シートが、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含むことが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリプロピレン系樹脂発泡シートに、二軸延伸されたポリプロピレン系樹脂フィルムを積層してなる積層発泡シートについて、ポリプロピレン系樹脂フィルムの加熱収縮率を調整することが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、熱可塑性樹脂シートと、当該熱可塑性樹脂シート上に成形時に隣り合う基材との境界に、赤外線反射材、または赤外線反射インキで描いた線を有する熱可塑性樹脂シートを設置する、真空成形体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-035496号公報
【特許文献2】特開2002-086646号公報
【特許文献3】特開2011-189620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2に記載の技術では、所定の加熱収縮加重または加熱収縮率を有するシートを用いる必要があるため、シート材料の選択自由度に課題がある。特許文献3に記載の方法では、赤外線を反射するための部材を設置する必要があり、熱成形の工程が複雑となる。
【0008】
本発明の一態様は、材料選択の幅が広く簡易に熱成形可能でありながら、ドローダウン量が小さく良好な成形性を有する積層シート等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様1に係る積層シートは、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との混合樹脂により形成される発泡層と、ポリスチレン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂により形成される少なくとも1つの非発泡層と、が積層されており、前記発泡層は、バイオマスポリエチレンまたはバイオマスポリプロピレンの少なくとも何れかを前記ポリオレフィン系樹脂として含む。
【0010】
本発明者らは、積層シートでは発泡層と非発泡層との結合強度を適正範囲内とすることがドローダウン量の低減に重要であることを見出し、当該観点から積層シートの構成を検討して、前記の構成を有する積層シートの発明に至った。
【0011】
すなわち、前記の構成を有する積層シートは、発泡層と非発泡層とが積層されており、非発泡層は、発泡層に含まれるポリスチレン系樹脂およびポリオレフィン系樹脂の少なくともいずれかと同系の樹脂により形成される。また、発泡層を形成する樹脂の一部は、非発泡層とは異なる樹脂である。このような構成によれば、発泡層と非発泡層との結合強度が、ドローダウン量が大きくならない適正範囲となる。そのため、当該積層シートによれば、ドローダウンに起因する成形不良を低減できる。
【0012】
また、このような小さいドローダウン量を実現した積層シートについて、一般的なポリスチレン系樹脂およびポリオレフィン系樹脂を用いて形成できる。従って、積層シートの材料選択の自由度を大きく確保できる。
【0013】
また、発泡層がバイオマスポリエチレンまたはバイオマスポリプロピレンの少なくとも何れかをポリオレフィン系樹脂として含む構成によれば、積層シートの製品サイクル全体としての炭素排出量の低減に資する。
【0014】
本発明の態様2に係る積層シートは、前記態様1において、前記発泡層は、バイオマスポリエチレンを前記ポリオレフィン系樹脂として含んでいてもよい。
【0015】
本発明の態様3に係る積層シートは、前記態様1または2において、前記発泡層の第1面には、ポリスチレン系樹脂により形成される前記非発泡層である第1非発泡層が積層され、前記発泡層の、前記第1面とは異なる第2面には、ポリオレフィン系樹脂により形成される前記非発泡層である第2非発泡層が積層されていてもよい。
【0016】
このような、発泡層の両面にそれぞれ非発泡層が積層している構成によれば、発泡層のポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との含有量を問わず、第1非発泡層および第2非発泡層の少なくともいずれかは、発泡層との結合強度が強くなり過ぎない。そのため、積層シートのドローダウン量を低減するための、発泡層の材料設定の自由度を大きく確保できる。
【0017】
本発明の態様4に係る積層シートは、前記態様3において、前記発泡層は、ポリスチレン系樹脂の含有量が30重量%以上75重量%以下であってもよい。
【0018】
前記構成によれば、発泡層と第1非発泡層との結合強度を、ドローダウン量の低減に適正な範囲内とすることができる。そのため、積層シートのドローダウン量が低減し、良好な成形性が得られる。
【0019】
本発明の態様5に係る積層シートは、前記態様3または4において、前記発泡層は、ポリオレフィン系樹脂の含有量が15重量%以上60重量%未満であってもよい。
【0020】
前記構成によれば、発泡層と第2非発泡層との結合強度を、ドローダウン量の低減に適正な範囲内とすることができる。そのため、積層シートのドローダウン量が低減し、良好な成形性が得られる。
【0021】
本発明の態様6に係る積層シートは、前記態様2から5のいずれかにおいて、180°剥離試験方法により、前記発泡層から、前記第1非発泡層および前記第2非発泡層の少なくとも一方が剥離可能であってもよい。
【0022】
このような構成によれば、発泡層と、第1非発泡層または第2非発泡層の少なくともいずれかとの結合強度は、ドローダウン量の低減に適正な範囲内となる。そのため、積層シートのドローダウン量が低減し、良好な成形性が得られる。
【0023】
本発明の態様7に係る熱成形品は、前記態様1から6のいずれかの積層シートの熱成形品である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様によれば、材料選択の幅が広く簡易な構成でありながら、ドローダウン量が小さく良好な成形性を有する積層シート等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層シートの層構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態に係る積層シートは、樹脂材料により形成されており、ドローダウン量が小さいことから熱成形における成形性に優れている。熱成形とは、積層シートを加熱し、熱により樹脂材料が軟化した状態の積層シートを型成形する方法である。熱成形法としては、例えば、プレス成形法および差圧成形法が挙げられる。差圧成形法としては、例えば、真空成形法および圧空成形法が挙げられる。
【0027】
本実施形態に係る積層シートは、ドローダウン量が小さく良好な成形性を有するものである。
図1は、本実施形態に係る積層シート1の層構成を模式的に示す断面図である。
図1に示す断面は、積層シート1の延伸方向と直交する方向の断面である。積層シート1の延伸方向とは、MD(Machine direction)方向を意図するが、これに限られず、例えばTD(Transverse Direction)方向であってもよく、MD方向およびTD方向を含む仮想的な面と同一平面上におけるいずれかの方向であってもよい。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係る積層シート1は、発泡層10と、少なくとも1つの非発泡層20とが積層されている。積層シート1は、非発泡層20として第1非発泡層21および第2非発泡層22を有している。本明細書において以下、単に「非発泡層20」と称する場合には、積層シート1が有する全ての非発泡層の総称を意図する。
【0029】
(発泡層)
発泡層10は、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との混合樹脂により形成されるシート部材である。
【0030】
混合樹脂に含まれるポリスチレン系樹脂は、スチレン系単量体の重合体、スチレン系単量体を主成分とし、スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体等であってよい。スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン類、α-アルキル置換スチレン類およびハロゲン化スチレン類が挙げられる。これらのスチレン系単量体は、一種でも二種以上の混合物でもよい。また、ポリスチレン系樹脂としてHIPS(耐衝撃性ポリスチレン)を使用してもよい。
【0031】
スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、無水マレイン酸およびマレイン酸、またはこれらの誘導体が挙げられる。これらの他の単量体は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。
【0032】
また、ポリスチレン系樹脂に含まれる他の樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテルと、ポリスチレンとの混合物が挙げられる。
【0033】
ポリスチレン系樹脂がHIPSである場合、当該HIPSはスチレン成分およびゴム成分を含み、スチレン成分が65重量%以上98重量%以下であり、ゴム成分が2重量%以上35重量%以下であってもよい。このようなHIPSは、例えば、スチレン成分とゴム成分とからなるランダム共重合体樹脂、ブロック共重合体樹脂もしくはグラフト共重合体樹脂、またはこれらの共重合体樹脂を2種以上含む混合物であってもよい。
【0034】
ポリスチレン系樹脂は、上述した各例のいずれか1種からなる樹脂あってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0035】
混合樹脂に含まれるポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、バイオマスポリエチレンまたはバイオマスポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とする樹脂であってよい。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、オレフィン単独重合体、ポリオレフィンを主成分とするオレフィン系ランダム共重合体、オレフィン系ブロック共重合体およびオレフィン系グラフト共重合体が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂がポリエチレンまたはバイオマスポリエチレンである場合、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)または高密度ポリエチレン(HDPE)であってもよい。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂は、上述した各例のいずれか1種からなる樹脂であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0037】
発泡層10は、ポリオレフィン系樹脂としてバイオマスポリエチレンまたはバイオマスポリプロピレン等の、バイオマス由来の樹脂を含むことが好ましい。このような構成によれば、積層シート1の製品サイクル全体としての炭素排出量の低減に資する。これは、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動に具体的な対策を」等の達成にも貢献するものである。
【0038】
発泡層10は、ポリスチレン系樹脂およびポリオレフィン系樹脂以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、相溶化剤、発泡剤、発泡核剤および着色成分が挙げられる。相溶化剤は、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との相溶性を高める物質であれば特に限定されない。
【0039】
本発明の一実施形態において相溶化剤とは、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との相互溶解性を改良するものである。具体的には、次のようなものが例として挙げられる。すなわち、相溶化剤としては、例えば、スチレン-ブダジエン共重合体又はその水素添加物、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、ポリプロピレン-グラフト-ポリスチレン共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体および酢酸ビニル・エチレン共重合体が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、スチレン-ブダジエン共重合体又はその水素添加物、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体又はその水素添加物である。
【0040】
発泡層10は、上述の混合樹脂を発泡して形成されている。発泡層10は、混合樹脂を発泡させるための発泡剤および発泡核剤を含んでいてもよい。発泡核剤の種類は特に限定されず、従来一般的な発泡核剤であってよく、例えば、混合樹脂に発泡剤として二酸化炭素等のガスを添加した場合に、当該発泡剤による混合樹脂の発泡を促進する機能を有するものであってもよい。なお、発泡層10は、このような発泡剤および発泡核剤の添加以外の方法により発泡させてもよい。
【0041】
発泡層10の厚さは特に限定されないが、非発泡層20の厚さよりも大きいことが好ましい。このような構成によれば、強度および成形性に優れた積層シート1が得られる。発泡層10の厚さは、例えば、0.30mm以上1.50mm以下であってもよく、0.50mm以上1.50mm以下であってもよい。
【0042】
(非発泡層)
非発泡層20は、ポリスチレン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂により形成されるシート部材である。
【0043】
積層シート1のように、第1非発泡層21および第2非発泡層22の2つの非発泡層20を有する場合、第1非発泡層21と第2非発泡層22とは、互いに異なる樹脂材料により形成されていてもよい。例えば、第1非発泡層21がポリスチレン系樹脂により形成されており、第2非発泡層22がポリオレフィン系樹脂により形成されていてもよい。また、第1非発泡層21および第2非発泡層22はその両方が、ポリスチレン系樹脂により形成されていてもよく、ポリオレフィン系樹脂により形成されていてもよい。
【0044】
また、積層シート1は、非発泡層20を1つのみ有していてもよい。積層シート1が単一の非発泡層20を有する場合、当該単一の非発泡層20は、ポリスチレン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂のいずれか一方により形成されていればよい。
【0045】
第1非発泡層21を形成するポリスチレン系樹脂は、発泡層10を形成する混合樹脂に含まれるポリスチレン系樹脂として例示したポリスチレン系樹脂であってよい。この場合、発泡層10を形成するポリスチレン系樹脂と、第1非発泡層21を形成するポリスチレン系樹脂とは、同じ樹脂であってもよく、同系の異なる樹脂であってもよい。同系の異なる樹脂の例としては、発泡層10の混合樹脂に含まれるポリスチレン系樹脂がスチレン単量体の重合体であり、第1非発泡層21を形成するポリスチレン系樹脂がHIPSであってもよい。
【0046】
第2非発泡層22を形成するポリオレフィン系樹脂は、発泡層10を形成する混合樹脂に含まれるポリオレフィン系樹脂として例示したポリオレフィン系樹脂であってよい。この場合、発泡層10を形成するポリオレフィン系樹脂と、第2非発泡層22を形成するポリオレフィン系樹脂とは、同じ樹脂であってもよく、同系の異なる樹脂であってもよい。同系の異なる樹脂の例としては、発泡層10の混合樹脂に含まれるポリオレフィン系樹脂がポリエチレンであり、第2非発泡層22を形成するポリオレフィン系樹脂がポリプロピレンであってもよい。
【0047】
非発泡層20は、ポリスチレン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂以外の成分を含んでいてもよい。このような成分として、例えば、着色成分が挙げられる。
【0048】
非発泡層20の厚さは特に限定されないが、発泡層10の厚さよりも小さいことが好ましい。また、第1非発泡層21の厚さは、第2非発泡層22の厚さよりも大きいことが好ましい。第2非発泡層22を形成するポリオレフィン系樹脂は、ポリスチレン系樹脂とは異なり結晶性樹脂であるため、溶融張力の温度依存性が比較的大きい。このような第2非発泡層22が加熱された場合、引っ張り強度が小さくなることで、第1非発泡層21に比べ、ドローダウン量を小さくする効果は低い傾向がある。そのため、第2非発泡層22の厚さが第1非発泡層21の厚さよりも小さければ、積層シート1のドローダウン量を小さくしやすい。
【0049】
非発泡層20の厚さは、例えば、5μm以上35μm以下であってもよい。また、積層シート1が2つの非発泡層20を有する場合、第1非発泡層21の厚さが15μm以上35μm以下であり、第2非発泡層22の厚さが10μm以上25μm以下であってもよい。
【0050】
(その他の層)
積層シート1は、発泡層10および非発泡層20以外の層がさらに積層されていてもよい。このような層は、例えば、積層シート1の、非発泡層20を有する少なくとも一方の面に、非発泡層20と隣接して積層されていてもよい。このような層としては、例えば、隣接する非発泡層20と同じ樹脂または同系の異なる樹脂により形成されたラミネートフィルムが挙げられる。このようなラミネートフィルムには、印刷が施されていてもよい。
【0051】
(積層構造)
積層シート1は、発泡層10の少なくとも一方の面に非発泡層20が積層されていればよい。積層シート1の強度および耐油性等の観点からは、発泡層10の両方の面に、それぞれ非発泡層20が積層されていることが好ましい。
【0052】
説明の便宜上、発泡層10の一方の面を第1面11とし、第1面11に積層される非発泡層20を第1非発泡層21とする。また、発泡層10の第1面11とは異なる側の面を第2面12とし、第2面12に積層される非発泡層20を第2非発泡層22とする。発泡層10の第1面11および第2面12は、それぞれ発泡層10の表裏の面を構成する。このとき、第1面11および第2面12のいずれが表面であってもよい。
【0053】
発泡層10と、発泡層10に積層される非発泡層20との結合強度は、発泡層10を形成する樹脂材料が、非発泡層20を形成する樹脂材料と化学構造が類似しているほど大きくなる傾向がある。2つの樹脂材料の間の化学構造が類似しているほど相溶性が大きくなり、各層の積層時にこれらの樹脂材料同士の接触部分が相溶して結合しやすくなるためであると考えられる。例えば、発泡層10および非発泡層20がいずれもポリスチレン系樹脂により形成される場合、またはいずれもポリオレフィン系樹脂により形成される場合には、2つの層の結合強度は強くなりやすい。
【0054】
本発明者らは、積層シート1のドローダウン量が、発泡層10と非発泡層20との間の結合強度に影響されることを見出した。具体的には、本発明者らは、発泡層10と、少なくとも1つの非発泡層20との間の結合強度が適正範囲内であれば、これらの層が積層された積層シート1のドローダウン量を低減できるという新規な知見を見出し、本発明を完成するに至った。結合強度が適正範囲内とは、例えば、ドローダウンに起因した積層シート1の成形不良が、問題となる頻度で生じない範囲のドローダウン量となるような結合強度であってよい。
【0055】
発泡層10は、ポリスチレン系樹脂の含有量が30重量%以上75重量%以下であってよく、35重量%以上70重量%以下であることが好ましく、40重量%以上65重量%以下であることがより好ましく、50重量%以上65重量%以下であることがより好ましい。ここで、発泡層10におけるポリスチレン系樹脂の含有量は、発泡層10に含まれる樹脂材料の総量を100重量%とした場合の含有量であってよい。ここでいう樹脂材料とは、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂および相溶化剤を含むが、発泡剤または発泡核剤等の、添加量を外数として計算する場合がある助剤については含まない。
【0056】
発泡層10のポリスチレン系樹脂の含有量がこのような範囲であれば、非発泡層20がポリスチレン系樹脂により形成されている場合に、発泡層10と非発泡層20との間の結合強度が適正範囲内となる。また、非発泡層20がポリオレフィン系樹脂により形成されている場合でも、発泡層10と非発泡層20との間の結合強度が適正範囲内となりやすい。発泡層10はポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂を含有する。そのため、発泡層10におけるポリスチレン系樹脂の含有量が上述の範囲内であれば、ポリオレフィン系樹脂の含有量についても、ポリオレフィン系樹脂により形成される非発泡層20との結合強度が適正範囲内となる範囲となりやすい。
【0057】
また、発泡層10は、ポリオレフィン系樹脂の含有量が15重量%以上60重量%未満であってよく、20重量%以上55重量%以下であることが好ましく、25重量%以上50重量%以下であることがより好ましく、30重量%以上45重量%以下であることがより好ましい。
【0058】
発泡層10のポリオレフィン系樹脂の含有量がこのような範囲であれば、非発泡層20がポリオレフィン系樹脂により形成されている場合に、発泡層10と非発泡層20との間の結合強度が適正範囲内となる。また、非発泡層20がポリスチレン系樹脂により形成されている場合でも、発泡層10と非発泡層20との間の結合強度が適正範囲内となりやすい。
【0059】
また、積層シート1がポリスチレン系樹脂により形成される第1非発泡層21とポリオレフィン系樹脂により形成される第2非発泡層22とを有している場合には、少なくとも一方の非発泡層20と発泡層10との結合強度が適正範囲内となる。そのため、このような構成によれば、発泡層10を形成する混合樹脂の材料選択の自由度を大きく確保できる。そのため、剛性、耐油性、耐熱性または耐寒性等の特性を高い選択性により備えた、種々の積層シート1の製造が可能となる。
【0060】
発泡層10と非発泡層20との結合強度については、180°剥離試験方法により評価できる。180°剥離試験方法は、積層シート1から試験片(25mm×190mm)を、MD方向と平行になるように切り出して行われる。試験機としては、例えば、テンシロン(登録商標)万能試験機RTF-1210(株式会社オリエンテック社製)を用いることができる。試験速度は200mm/minとし、剥離距離は80mmまでとし、剥離距離が20mmから60mmの区間の積分平均加重を算出する。これを同サンプルについて複数回実施し、その平均値を剥離強度としてよい。
【0061】
積層シート1は、このような180°剥離試験方法により、発泡層10から、第1非発泡層21および第2非発泡層22の少なくとも一方が剥離可能であることが好ましい。このような構成であれば、積層シート1は、発泡層10と非発泡層20との結合強度が適正範囲内となり、ドローダウン量が小さくなる。ここで、180°剥離試験方法を完了して剥離強度を算出可能であれば、「剥離可能」と評価できる。また、180°剥離試験方法により剥離は確認されるが、剥離距離が60mmに達する前に非発泡層20が破断してしまい、剥離距離が20mmから60mmの区間の積分平均加重が算出できない場合も、「剥離可能」と評価してよい。
【0062】
(積層シートの製造方法)
積層シート1は、樹脂製の積層シートを製造するための一般的な製造方法により製造されてよい。積層シート1は、例えば、共押出による多層押出成形により製造することができるが、これに限られない。
【0063】
(熱成形品)
積層シート1の熱成形により得られる、積層シート1の熱成形品についても、本発明の一実施形態に含まれる。積層シート1を熱成形する熱成形法については、既に説明済みであるためここでは説明を省略する。このような熱成形品としては、例えば、食料品等の被収容物を収容するトレー等の包装用容器が挙げられる。
【0064】
このような熱成形品を積層シート1により形成すれば、製造時のシワ発生等の成形不良の発生率を低減できるため、原料ロスの低減に繋がる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任つかう責任」および目標14「海の豊かさを守ろう」等の達成にも貢献するものである。
【0065】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0066】
本発明の一実施例について以下に説明する。ただし本発明は、以下に示す各実施例に限定されるものではない。
【0067】
〔試験方法〕
本発明の一実施形態に係る積層シートを製造し、得られた積層シートの熱成形品として、包装用容器を成形した(試験No.1~15)。各試験における発泡層および非発泡層は、以下の表1に示す原料により形成した。
【0068】
【0069】
表1に示すSHE150(Braskem社製)は、バイオマス原料から製造された高密度ポリエチレン(バイオマスポリエチレン)である。また、表1において、「クレイトン」、「POLYTHLENE」および「ノバテック」は登録商標である。
【0070】
積層シートの製造方法および熱成形方法について以下に示す。
【0071】
(積層シートの製造方法)
各試験条件の積層シートは、次の通り押出成形により製造した。発泡層用の押出機として、40mmφの二軸押出機(プラスチック工学研究所社製、型式:RT-40-S2-36-L、L/D=36)1基を準備した。非発泡層用の押出機として、40mmφの単軸押出機(ジー・エム・エンジニアリング社製、型式:VGM40-25、L/D=25)2基を準備した。当該2基は、ポリスチレン系樹脂により形成される非発泡層(第1非発泡層)およびポリオレフィン系樹脂により形成される非発泡層(第2非発泡層)の押出にそれぞれ対応する。これらの押出機の先端を3種3層フィードブロックに装着し、このフィードブロックにTダイを装着した。
【0072】
発泡層用の二軸押出機のシリンダー温度を160~245℃、非発泡層用の単軸押出機のシリンダー温度を230℃に設定し、各押出機のホッパーに樹脂材料および必要に応じて発泡核剤を供給して溶融させた。発泡層用の二軸押出機のシリンダーには、発泡剤として二酸化炭素(液化炭酸ガス)を注入し、さらに混練した。
【0073】
大気圧下において、共押出法により、2層または3層のシート状物を押出成形した。このシート状物を25℃に調節した水冷ロールを通過させて急冷し、各試験条件の積層シートを得た。
【0074】
(熱成形方法)
得られた積層シートを、50×40cmのクランプで成形機(株式会社脇坂エンジニアリング製、型式FVS-500型)に固定し、設定温度310~460℃のヒーターで上下から約25秒間加熱した後、差圧成形法により、176×147×33mmの大きさの熱成形品を得た。その際、ポリスチレン系樹脂により形成される非発泡層(第1非発泡層)が容器外側となり、ポリオレフィン系樹脂により形成される非発泡層(第2非発泡層)が容器内側となるように、熱成形を行った。
【0075】
〔評価方法〕
(厚さ)
各試験条件の積層シートの厚さについて、積層シートの幅方向に対して略等間隔で3か所をノギスで測定し、その平均値を積層シートの厚さとした。
【0076】
非発泡層の厚さについて、試験片(10mm×50mm)を、その長辺が積層シートのMD方向と平行となるように切り出した。試験片の短辺側の断面を切り出し、切り出された断面を実体顕微鏡(ZEISS社製、型式:SteREO Discovery.V20、撮影倍率150倍)によって撮影した。撮影画像において、積層シート表面から表層である非発泡層と発泡層との境界までの距離を任意に3か所計測し、その平均値を非発泡層の厚さとした。
【0077】
(比重)
各試験条件の積層シートから試験片(40mm×40mm)を切り出し、電子比重計(ミラージュ貿易社製、型式:ED-120T)を用いて、水中置換法によって積層シートの比重を測定した。
【0078】
(たわみ量)
ドローダウン量の指標として、次の条件により積層シートのたわみ量を測定した。たわみ量は、試験片(30mm×150mm)を、その長辺が積層シートのTD方向と平行となるように切り出した。得られた試験片をU字型の金属枠(外寸150mm×150mm、内寸100mm×100mm、厚み3mm)2枚に、試験片の長手方向側の両端を均等に挟んだ。その後、金属枠に挟んだ試験片を試験温度(120℃)まで昇温した。試験片の昇温前から、昇温開始60秒後までの試験片の中央部分の移動量を、たわみ量として測定した。
【0079】
たわみ量が10mm以下であれば、ドローダウンに起因する成形不良の発生率を低減できる。また、たわみ量が6mm以下である場合に、ドローダウン量が特に小さい積層シートであると評価できる。
【0080】
(剥離強度)
発泡層から非発泡層の剥離の可否および剥離強度は、試験片(25mm×190mm)を、その長辺が積層シートのMD方向と平行となるように切り出し、180°剥離試験方法により行った。テンシロン万能試験機RTF-1210(株式会社オリエンテック社製)を用い、試験速度は200mm/minとし、剥離距離は80mmまでとし、剥離距離が20mmから60mmの区間の積分平均加重を算出した。これを同サンプルについて5回実施し、その平均値を剥離強度とした。
【0081】
剥離強度が算出できた場合には、剥離可能と評価した。なお、ポリスチレン系樹脂により形成される非発泡層は、材料特性上脆性が高くなる。そのため、180°剥離試験方法により剥離は確認されるが、剥離距離が60mmに達する前に当該非発泡層が破断してしまう場合があった。この場合でも、180°剥離試験方法により途中まで剥離が確認できた場合には、△(剥離可能)と評価した。
【0082】
(成形性)
上述の(熱成形方法)に示す方法により、各試験条件の積層シートでそれぞれ3回熱成形を行い、熱成形品にツリが入ったものを×(不適)、ツリが入ったが軽微なものを△(可)、入らなかったものを○(適)と評価した。また、ツリは軽微であり、本発明の課題は解決していたが、熱成形の加熱時間を長時間要した、積層シート表面の粗さに問題があった等の場合には、-(適だが評価対象外)とした。なお、「ツリ」とは、熱成形品の表面に生じるシワまたは偏肉による外観不良を示す。
【0083】
(耐油性)
各試験条件の積層シートから、大きさがMD方向50mm×TD方向10mmの試験片を、積層シートのTD方向でほぼ均等になるよう切断刃で打ち抜き、各積層シートにつき3個作成した。切断した各々の試験片のうち、MD方向の両端部から20mmまでの部分を除いた一方の面に、0.02gの食用油(花王社製、銘柄名:ココナード(登録商標)RK)を均一に塗布した。
【0084】
この試験片について、MD方向の一端部を固定し、他端部に100gfの引張荷重を加えた。この状態で8時間放置した後に、試験片を目視確認し、3個の試験片とも切断または亀裂が認められないものを○(適)、いずれかの試験片に切断または亀裂が認められたものは×(不適)と評価した。
【0085】
(耐熱性)
各試験条件の積層シートを熱成形し得られた熱成形品を、110℃に加熱したサラダ油中に30秒間保持した後、熱成形品の変形度合いを目視確認した。熱成形品の変形が認められないものは○(適)、変形しているが熱成形品として使用に耐え得るものは△(可)、変形が大きく熱成形品としての機能を果たせないものは×(不適)と評価した。
【0086】
〔評価結果〕
各試験条件の積層シートについて、成分組成および評価結果を以下の表2~5にまとめて示す。表2および表3には、2つの非発泡層である第1非発泡層および第2非発泡層を有する積層シート(試験No.1~9)の成分組成および評価結果を示す。表4には、ポリスチレン系樹脂により形成された1つの非発泡層を有する積層シート(試験No.10~13)の成分組成および評価結果を示す。表5には、ポリオレフィン系樹脂により形成された1つの非発泡層を有する積層シート(試験No.14、15)の成分組成および評価結果を示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
いずれの試験条件でも、たわみ量が10mm以下の積層シートが得られた。また、発泡層におけるポリスチレン系樹脂の含有量が30重量%以上75重量%以下である場合に、たわみ量がより小さく成形性が良好な積層シートが得られることが示された。