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特開2024-59121車両用タンク、および、車両用タンクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059121
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】車両用タンク、および、車両用タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60K 1/04 20190101AFI20240423BHJP
   F01P 3/20 20060101ALI20240423BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B60K1/04 Z
F01P3/20 E
B60K11/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166578
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 和俊
(72)【発明者】
【氏名】金子 健一郎
【テーマコード(参考)】
3D038
3D235
【Fターム(参考)】
3D038AA10
3D038AB01
3D038AC22
3D235AA01
3D235BB36
3D235CC15
3D235FF38
3D235HH02
3D235HH42
3D235HH44
(57)【要約】
【課題】車両の温調システムにおいて、部材が点在することによる設置スペースの増大を抑制する。
【解決手段】車両に搭載された温調対象物の温度を温調液によって調節する温調システムに備えられる、車両用タンクが提供される。車両用タンクは、上方に向かって開口する開口端部を有する有底筒状を有し、温調液を貯留する容器部と、開口端部に固定されて開口端部の開口を覆い、温調液を外部から容器部内に補充するための補充口が形成された蓋部と、蓄熱材によって形成され、容器部の周囲を囲う蓄熱層と、断熱材によって形成され、蓄熱層の外側で容器部の周囲を囲う断熱層と、を備える。蓋部には、容器部内の温調液を流路に送出するためのポンプと、流路を流れる温調液の温度を調節する温度調節部と、が固定されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された温調対象物の温度を温調液によって調節する温調システムに備えられる、車両用タンクであって、
上方に向かって開口する開口端部を有する有底筒状を有し、前記温調液を貯留する容器部と、
前記開口端部に固定されて前記開口端部の開口を覆い、前記温調液を外部から前記容器部内に補充するための補充口が形成された蓋部と、
蓄熱材によって形成され、前記容器部の周囲を囲う蓄熱層と、
断熱材によって形成され、前記蓄熱層の外側で前記容器部の周囲を囲う断熱層と、を備え、
前記蓋部には、前記容器部内の前記温調液を流路に送出するためのポンプと、前記流路を流れる前記温調液の温度を調節する温度調節部と、が固定されている、車両用タンク。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用タンクであって、
前記蓋部には、前記流路を開閉するバルブが固定されている、車両用タンク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用タンクであって、
遮熱材によって形成され、前記断熱層の外側で前記容器部の周囲を囲う遮熱層を備える、車両用タンク。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用タンクであって、
前記蓄熱層は、パラフィンワックスによって形成され、
前記断熱層は、発泡ポリエチレンによって形成され、
前記遮熱層は、アルミニウムによって形成されている、車両用タンク。
【請求項5】
車両に搭載された温調対象物の温度を温調液によって調節する温調システムに備えられる、車両用タンクの製造方法であって、
第1開口端部を有する有底筒状を有し、前記温調液を貯留する第1槽と、第2開口端部を有する有底筒状を有し、断熱材を有する断熱層によって周囲が囲われた第2槽と、前記温調液を前記第1槽内に補充するための補充口が形成された蓋部材と、を準備する第1工程と、
前記第1槽が、前記第1槽と前記第2槽との間に隙間が形成される状態で前記第2槽に収容されるように、かつ、前記第1開口端部の開口と前記第2開口端部の開口とが前記蓋部材によって覆われるように、前記第1開口端部と前記第2開口端部とを前記蓋部材に固定する第2工程と、
融点以上の温度に加熱にされることによって液状化した、潜熱によって蓄熱する蓄熱材を、前記蓋部材に形成された注入口から前記隙間に注入することで、前記蓄熱材によって前記第1槽の周囲を囲う第3工程と、
前記第3工程の後、前記注入口を塞ぐ第4工程と、
前記蓋部材に、前記容器部内の前記温調液を外部に送出するためのポンプと、前記ポンプに連通する流路を流れる前記温調液の温度を調節する温度調節部と、を固定する第5工程と、を備える、車両用タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用タンク、および、車両用タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の温調システムに備えられる車両用タンクに関して、特許文献1には、自動車のエンジン冷却水の流路に配置される保温構造体が開示されている。この保温構造体は、保温構造体の容器に貯溜された液体を、容器の外周に配置された蓄熱材層と、蓄熱材層の外側に配置された対流防止層とによって保温する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-229841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車両の温調システムの更なる省スペース化が望まれている。温調システムには、温調用の液体を温度調節して温調対象物に供給するための各種部材が配置される。例えば、これらの部材が温調システムにおいて点在すると温調システムの設置スペースが増大する可能性があるが、特許文献1では、これらの部材の配置について具体的に検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、車両に搭載された温調対象物の温度を温調液によって調節する温調システムに備えられる、車両用タンクが提供される。この車両用タンクは、上方に向かって開口する開口端部を有する有底筒状を有し、前記温調液を貯留する容器部と、前記開口端部に固定されて前記開口端部の開口を覆い、前記温調液を外部から前記容器部内に補充するための補充口が形成された蓋部と、蓄熱材によって形成され、前記容器部の周囲を囲う蓄熱層と、断熱材によって形成され、前記蓄熱層の外側で前記容器部の周囲を囲う断熱層と、を備える。前記蓋部には、前記容器部内の前記温調液を流路に送出するためのポンプと、前記流路を流れる前記温調液の温度を調節する温度調節部と、が固定されている。
このような形態であれば、蓄熱層および断熱層によって囲われた容器部ではなく、蓋部にポンプと温度調節部とが固定されるので、車両用タンクの保温性能を確保しつつ、車両用タンクにポンプと温度調節部とを集約できる。そのため、温調システムの設置スペースを抑制できる。
(2)上記形態において、前記蓋部には、更に、前記流路を開閉するバルブが固定されていてもよい。このような形態であれば、車両用タンクに、更に、バルブを集約できる。
(3)上記形態において、遮熱材によって形成され、前記断熱層の外側で前記容器部の周囲を囲う遮熱層を備えていてもよい。このような形態であれば、蓄熱層と断熱層と遮熱層とによって、容器部内の温調液を高効率に保温できる。
(4)上記形態において、前記蓄熱材は、パラフィンワックスによって形成され、前記断熱材は、発泡ポリエチレンによって形成され、前記遮熱材は、アルミニウムによって形成されていてもよい。このような形態であれば、容器部内の温調液をより高効率に保温できる。
(5)本開示の第2の形態によれば、車両に搭載された温調対象物の温度を温調液によって調節する温調システムに備えられる、車両用タンクの製造方法が提供される。この車両用タンクの製造方法は、第1開口端部を有する有底筒状を有し、前記温調液を貯留する第1槽と、第2開口端部を有する有底筒状を有し、断熱材を有する断熱層によって周囲が囲われた第2槽と、前記温調液を前記第1槽内に補充するための補充口が形成された蓋部材と、を準備する第1工程と、前記第1槽が前記第2槽との間に隙間が形成される状態で前記第2槽に収容されるように、かつ、前記第1開口端部の開口と前記第2開口端部の開口とが前記蓋部材によって覆われるように、前記第1開口端部と前記第2開口端部とを前記蓋部材に固定する第2工程と、融点以上の温度に加熱にされることによって液状化した、潜熱によって蓄熱する蓄熱材を、前記蓋部材に形成された注入口から前記隙間に注入することで、前記蓄熱材によって前記第1槽の周囲を囲う第3工程と、前記第3工程の後、前記注入口を塞ぐ第4工程と、前記蓋部材に、前記容器部内の前記温調液を外部に送出するためのポンプと、前記ポンプに連通する流路を流れる前記温調液の温度を調節する温度調節部と、を固定する第5工程と、を備える。
【0007】
本開示は、上述した車両用タンクとしての形態以外にも、例えば、車両用タンクを備える温調システムや車両などの種々の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態における温調システムの概略構成を示す説明図である。
図2】第1実施形態におけるタンクの概略構成を示す斜視図である。
図3図2のIII-III断面を示す図である。
図4】タンクの製造方法の工程図である。
図5】タンクが製造される様子を示す斜視図である。
図6】タンクが製造される様子を示す断面図である。
図7】比較試験の結果を示す第1の説明図である。
図8】比較試験の結果を示す第2の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における温調システム100の概略構成を示す説明図である。温調システム100は、車両Vcに設けられ、温調液Lqによって、車両Vcに搭載された温調対象物の温度を調節する。温調液Lqとは、温調対象物の温度を調整するための液体のことを指す。温調液Lqは、クーラントとも呼ばれる。
【0010】
本実施形態では、車両Vcは、駆動用バッテリによって駆動されるBEV(Battery Electric Vehicle)として構成されている。本実施形態における温調対象物は、リチウムイオンバッテリとして構成された駆動用バッテリを有する電池パックBP、および、車両VcのHVAC(Heating, Ventilation, and Air Conditioning)システムに備えられた暖房用のヒータコアHCである。他の実施形態では、車両Vcは、例えば、ガソリン車やディーゼル車であってもよいし、HEV(Hybrid Electric Vehicle)や、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、FCV(Fuel Cell Vehicle)であってもよい。また、他の実施形態では、温調対象物は、例えば、鉛バッテリとして構成されたバッテリや、車両Vcに搭載されたエンジン、モータ、インバータ、制御用コンピュータ等、任意であってよい。
【0011】
本実施形態における温調システム100は、タンク101と、循環回路150とを有する。循環回路150は、温調液Lqが流れる流路151を有し、タンク101と温調対象物との間で、温調液Lqを循環可能に構成されている。流路151は、例えば、ゴムホース等の配管部材によって形成される。図1では、循環回路150における温調液Lqの流れが、白抜き矢印によって模式的に示されている。以下では、タンク101のことを、車両用タンクやリザーブタンクとも呼ぶ。
【0012】
循環回路150は、ポンプ120、加熱部130、冷却部140、第1バルブ180および第2バルブ181を有している。これらの各部には、流路151を形成する配管部材が接続されている。これらの各部の駆動は、例えば、車両Vcに備えられた制御用コンピュータによって制御される。また、本実施形態では、後述するように、ポンプ120と加熱部130と第1バルブ180とは、タンク101に配置されている。
【0013】
本実施形態では、流路151のうち、ポンプ120の下流側に接続された第1流路152は、第1分岐点170において、第1分岐流路161と第2分岐流路162とに分岐する。第2分岐流路162は、第2分岐点171において、更に、第3分岐流路163と第4分岐流路164とに分岐する。第1分岐流路161と第3分岐流路163とは、合流地点172において合流する。合流地点172よりも下流側の流路151のことを、第2流路153とも呼ぶ。
【0014】
第1分岐流路161には、第1分岐流路161を流れる温調液Lqを冷却する冷却部140が配置されている。冷却部140は、例えば、ラジエータやチラーによって構成される。第2分岐流路162には、第2分岐流路162を流れる温調液Lqを加熱する加熱部130が配置されている。加熱部130は、例えば、ヒータや熱交換器によって構成される。加熱部130と冷却部140とは、それぞれ、流路151を流れる温調液Lqの温度を調節する温度調節部として機能する。
【0015】
第1分岐点170には、第1バルブ180が配置されている。第1バルブ180は、例えば、電動式の切り替えバルブとして構成され、第1分岐流路161のみが開いた状態と、第2分岐流路162のみが開いた状態と、第1分岐流路161および第2分岐流路162の両方が開いた状態との3つの状態を切り替える。第2バルブ181は、例えば、第1バルブ180と同様に電動式の切り替えバルブとして構成され、第3分岐流路163のみが開いた状態と、第4分岐流路164のみが開いた状態と、第3分岐流路163および第4分岐流路164の両方が開いた状態とを切り替える。以下では、第1バルブ180や第2バルブ181のように、流路151を開閉するバルブを、単に「バルブ」とも呼ぶ。
【0016】
循環回路150において、第1分岐流路161を開くことで、電池パックBPに、冷却部140によって冷却された温調液Lqを供給できる。これにより、電池パックBPの温度を低下させることができる。また、第2分岐流路162および第3分岐流路163を開くことで、電池パックBPに、加熱部130によって加熱された温調液Lqを供給できる。これにより、電池パックBPの温度を上昇させることができる。また、第2分岐流路162および第4分岐流路164を開くことで、ヒータコアHCに、加熱部130によって加熱された温調液Lqを供給できる。これにより、ヒータコアHCの温度を上昇させることができる。このように、循環回路150において、温調液Lqを用いて、温調対象物である電池パックBPやヒータコアHCの温度を調節できる。
【0017】
図2は、第1実施形態におけるタンク101の概略構成を示す斜視図である。図2には、互いに直交するX,Y,Z方向に沿った矢印が表されている。X,Y,Z方向は、互いに直交する3つの空間軸であるX軸、Y軸、Z軸に沿った方向であり、それぞれ、X軸、Y軸、Z軸に沿う一方側の方向と、その反対方向とを、両方含む。X軸及びY軸は、水平面に沿った軸であり、Z軸は、鉛直線に沿った軸である。他の図においても、X,Y,Z方向に沿った矢印が、適宜、表されている。図2におけるX,Y,Z方向と、他の図におけるX,Y,Z方向とは、同じ方向を表している。以下では、+Z方向のことを「上」、-Z方向のことを「下」ともいう。
【0018】
図2に示すように、タンク101は、ロア部102と、蓋部103とを備える。蓋部103のことを、アッパ部とも呼ぶ。
【0019】
図3は、図2のIII-III断面を示す図である。図3に示すように、ロア部102は、第1槽20と、蓄熱層41と、断熱層61とを備える。更に、本実施形態では、ロア部102は、遮熱層80を備える。
【0020】
第1槽20は、その内部に温調液Lqを貯留する容器として構成されている。第1槽20は、上方に向かって開口する第1開口端部22を有する有底筒状を有している。本実施形態では、第1槽20は、略直方体状の外形を有している。第1開口端部22は、鍔状を有している。第1槽20は、例えば、ポリプロピレン(PP)やガラス繊維強化ポリプロピレン(GFPP)によって形成される。以下では、第1槽20のことを容器部とも呼ぶ。第1開口端部22の開口部のことを第1開口部23とも呼ぶ。また、第1開口端部22のことを単に開口端部とも呼ぶ。
【0021】
蓄熱層41は、蓄熱材によって形成され、第1槽20の周囲を囲っている。本明細書において、「第1槽20の周囲を囲う」とは、第1槽20の底面と側面の周囲とを外側から囲うことを指す。本実施形態では、蓄熱層41は、潜熱蓄熱材によって形成され、潜熱蓄熱材がその融点で相変化する際の潜熱を利用して、第1槽20内の温調液Lqを保温する。より詳細には、本実施形態における蓄熱層41は、パラフィンワックスによって形成され、第1槽20と第2槽40との間に形成されている。パラフィンワックスは、例えば、その融点が50℃~60℃となるように調製される。パラフィンワックスは、融点未満の温度では蝋状の固体であり、融点を超える温度では液体であり、融点では固体と液体との混合状態である。
【0022】
断熱層61は、断熱材によって形成され、蓄熱層41の外側で第1槽20の周囲を囲っている。断熱層61は、断熱材によって、第1槽20内に貯留された温調液Lqを外部から断熱する。本実施形態では、断熱層61は、発泡ポリエチレンによって形成され、第2槽40と第3槽60との間に形成されている。
【0023】
第2槽40は、上方に向かって開口する第2開口端部42を有する有底筒状を有している。本実施形態では、第2槽40は、略直方体状の外形を有している。第2開口端部42は、鍔状を有している。第2開口端部42の開口部のことを第2開口部43とも呼ぶ。第2開口部43のX方向およびY方向における開口面積は、第1開口部23のX方向およびY方向における開口面積よりも大きい。第2槽40は、例えば、第1槽20と同様にPPやGFPPによって形成される。
【0024】
上述した第1槽20は、第1槽20の底と第2槽40の底との間、および、第1槽20の側壁と第2槽40の側壁との間に隙間が生じるように、第2槽40内に収容されている。これによって、第1槽20と第2槽40との間に空間sp1が形成されている。本実施形態では、この空間sp1内に蓄熱材としてのパラフィンワックスが充填されることによって、蓄熱層41が形成されている。
【0025】
第3槽60は、上方に向かって開口する第3開口端部62を有する有底筒状を有している。本実施形態では、第3槽60は、略直方体状の外形を有している。第3開口端部62は、鍔状を有している。第3開口端部62と、上述した第2開口端部42とは、第3開口端部62の上面側と第2開口端部42の下面側とが爪嵌合するように形成されている。第3開口端部62の開口部のことを第3開口部63とも呼ぶ。第3開口部63のX方向およびY方向における開口面積は、第1開口部23のX方向およびY方向における開口面積よりも大きい。第3槽60は、例えば、第1槽20と同様にPPやGFPPによって形成される。
【0026】
上述した第2槽40は、第2開口端部42の下面側を第3開口端部62の上面側に爪嵌合させた状態で、第2槽40の底と第3槽60の底との間、および、第2槽40の側壁と第3槽60の側壁との間に隙間が生じるように、第3槽60内に収容されている。これによって、第2槽40と第3槽60との間に空間sp2が形成されている。本実施形態では、この空間sp2内に断熱材としての発泡ポリエチレンが配置されることによって、断熱層61が形成されている。
【0027】
遮熱層80は、遮熱材によって形成され、断熱層61の外側に配置されている。本実施形態では、遮熱層80は、アルミニウムによって形成されている。より詳細には、遮熱層80は、第3槽60の底と側壁との外側に蒸着されたアルミニウム膜によって形成されている。他の実施形態では、遮熱層80は、例えば、第3槽60の底と側壁との外側に貼り付けられたアルミニウム箔によって形成されてもよい。遮熱層80は、第1槽20内の温調液Lqからの輻射熱をタンク101内へ反射することによって、タンク101内からタンク101外への熱輻射を抑制する。遮熱材は、反射材や熱反射材とも呼ばれる。
【0028】
蓋部103は、第1開口端部22に固定されて第1開口部23を覆う。本実施形態では、蓋部103は、更に、第2開口端部42に固定されて第2開口部43を覆う。蓋部103は、例えば、第1槽20と同様にPPやGFPPによって形成される。本実施形態における蓋部103は、略平板状を有している。蓋部103の、X方向およびY方向において第1開口端部22および第2開口端部42に対応する位置には、それぞれ、下方向に突出する第1突出部104および第2突出部105が設けられている。第1突出部104の下部と第1開口端部22の上部と、および、第2突出部105の下部と第2開口端部42の上部とは、例えば、熱板溶着や振動溶着、レーザー溶着等によって溶着されている。これによって、蓋部103は、第1開口部23および第2開口部43を覆うように、第1槽20および第2槽40の上側に固定されている。第1槽20および第2槽40と蓋部103との間は、液密にシールされていると好ましい。
【0029】
図2に示すように、蓋部103には、補充口111と、ポート113とが形成されている。補充口111は、第1槽20内に外部から温調液Lqを補充するための開口である。本実施形態では、補充口111は、補充口111を塞ぐキャップ112を脱着可能に構成されている。ポート113は、温調対象物に供給された温調液Lqを、流路151を介してタンク101内に回収するための開口を有する。本実施形態では、蓋部103には、2つのポート113が設けられている。一方のポート113には、図1に示した第2流路153を形成する配管部材が接続され、他方のポート113には、第4分岐流路164を形成する配管部材が接続される。補充口111およびポート113は、蓋部103のうち、鉛直方向に沿って見たときに第1開口部23と重なる位置に形成されている。
【0030】
図2に示すように、蓋部103には、上述したポンプ120と、加熱部130とが固定されている。更に、本実施形態では、蓋部103には、上述した第1バルブ180が固定されている。
【0031】
ポンプ120は、第1槽20内の温調液Lqを、図1に示した第1流路152に送出する。本実施形態では、ポンプ120は、遠心式のウォータポンプとして構成され、蓋部103を貫通するように蓋部103に固定されている。本実施形態では、ポンプ120のうち、吐出口122と、ポンプ120に電力を供給するための配線部材が接続されるコネクタ121とが、蓋部103の上側に位置している。ポンプ120の吐出口122と、第1バルブ180の入口ポートとの間は、第1流路152を形成する配管部材によって接続される。ポンプ120は、液室内に配置されたインペラを回転させることで、第1槽20内に配置されたポンプ120内の吸引口から温調液Lqを液室内に吸引し、吸引した温調液Lqを吐出口122から第1流路152へと吐出する。
【0032】
第1バルブ180の2つの出口ポートのうち一方と、加熱部130の入口ポートとの間は、第2分岐流路162を形成する配管部材によって接続される。温調液Lqは、加熱部130の入口ポートを介して加熱部130内へと導かれる。加熱部130内へと導かれた温調液Lqは、加熱部130内を通る間に加熱された後、加熱部130の出口ポートから吐出される。加熱部130の出口ポートには、第3分岐流路163を形成する配管部材が接続される。第1バルブ180の他方の出口ポートには、第4分岐流路164を形成する配管部材が接続される。
【0033】
図4は、本実施形態におけるタンク101の製造方法の工程図である。図5は、タンク101が製造される様子を示す斜視図である。図6は、タンク101が製造される様子を示す断面図である。
【0034】
タンク101の製造方法では、まず、ステップS105にて、第3槽60の周囲に遮熱層80を形成する。より詳細には、ステップS105では、第3槽60の底Bt3の下面と第3槽60の側面Sd3の外側とに、遮熱層80としてのアルミニウム蒸着膜を形成する。図4では、アルミニウム蒸着膜が形成される部分に右上がりのハッチングが付されている。次に、ステップS110にて、第3槽60の底Bt3の上面を覆うように、上面TSに断熱材としての発泡ポリエチレンシートFPを、例えば、接着剤によって固定する。次に、ステップS115にて、第2槽40の側面Sd2を外側から覆うように、側面Sd2に、発泡ポリエチレンシートFPを、例えば、接着剤によって固定する。図4では、発泡ポリエチレンシートFPが配置される部分に、網点模様のハッチングが付されている。
【0035】
ステップS120にて、第2槽40を第3槽60に挿入し、第2開口端部42の下面側と第3開口端部62の上面側とを爪嵌合させる。このようにして、図6の上部に示すように、断熱層61によって周囲が囲われた第2槽40が準備される。次に、ステップS125にて、第1槽20と、補充口111が形成された蓋部材103pとを準備する。蓋部材103pは、蓋部103を形成するための部材である。本実施形態では、蓋部材103pは、蓋部103と同様に第1突出部104と第2突出部105とを有する。ステップS105~ステップS125のように、第1槽20と、断熱層61によって周囲が囲われた第2槽40と、補充口111が形成された蓋部材103pとを準備する工程を、第1工程とも呼ぶ。
【0036】
ステップS130にて、第1開口端部22と第2開口端部42とを蓋部材103pに固定する第2工程を実行する。第2工程では、図6の下部に示すように、第1槽20が、第1槽20と第2槽40との間に空間sp1が形成される状態で第2槽40に収容されるように、かつ、第1開口部23と第2開口部43とが蓋部材103pによって覆われるように、第1開口端部22と第2開口端部42とを蓋部材103pに固定する。より詳細には、ステップS130では、上述したように、第1突出部104の下部と第1開口端部22の上部と、および、第2突出部105の下部と第2開口端部42の上部とを、例えば、熱板溶着によって溶着する。
【0037】
ステップS135にて、加熱によって液状化した潜熱蓄熱材を、蓋部材103pに形成された注入口Inから空間sp1に注入する第3工程を実行する。本実施形態における第3工程では、潜熱蓄熱材としての、50℃以上60℃以下の融点を有するパラフィンワックスPWを、その融点以上に加熱することによって液状化させ、液状化したパラフィンワックスPWを注入口Inから空間sp1に注入して充填させる。これによって、注入されたパラフィンワックスPWによって第1槽20の周囲が囲われ、図3で説明したように、蓄熱層41が形成される。注入口Inは、空間sp1と外部とを連通させるように形成される。注入口Inは、例えば、ステップS135で形成されてもよいし、ステップS135より前の工程、例えば、準備工程で形成されてもよいし、予め形成されていてもよい。なお、本明細書において、「液状」とは、全体として流動性を発現させていることを指し、固体と液体とが混合した状態やゲル状をも含む。
【0038】
ステップS140にて、注入口Inを塞ぐ第4工程を実行する。ステップS140では、例えば、注入口Inを塞ぐ栓部材を注入口Inに挿入した後、栓部材と注入口Inの周囲とを接合することによって、注入口Inを液密に塞ぐ。
【0039】
ステップS145にて、蓋部材103pにポンプ120と温度調節部とを固定する第5工程を実行する。本実施形態におけるステップS145では、蓋部材103pに、ポンプ120と加熱部130と第1バルブ180とが固定される。ステップS145では、例えば、蓋部材103pに、各部材を固定するための固定孔や凹凸等を形成した後に、各部材を固定してもよい。また、ステップS145に先立って、蓋部材103pに固定孔や凹凸等が形成されていてもよい。
【0040】
図7は、車両用タンクの保温性能を比較する比較試験の結果を示す第1の説明図である。図8は、比較試験の結果を示す第2の説明図である。
【0041】
比較試験では、各サンプルの作製のために、上方に開口する有底筒状の第1容器Ct1と、上方に開口する第1容器Ct1よりも大きい第2容器Ct2と、発泡ポリエチレンシートFPと、パラフィンワックスPWと、遮熱材としてのアルミニウム箔AFとを準備した。
【0042】
サンプルAは、第2容器Ct2の周囲に発泡ポリエチレンシートFPを貼り付け、その発泡ポリエチレンシートFPの外側にアルミニウム箔AFを貼り付けた後、第2容器Ct2内に第1容器Ct1を挿入し、第1容器Ct1と第2容器Ct2との間にパラフィンワックスPWを充填させることによって作製された。サンプルBは、第2容器Ct2の周囲に発泡ポリエチレンシートFPを貼り付けた後、第2容器Ct2内に第1容器Ct1を挿入し、第1容器Ct1と第2容器Ct2との間にパラフィンワックスPWを充填させることによって作製された。サンプルCは、第2容器Ct2内に第1容器Ct1を挿入し、第1容器Ct1と第2容器Ct2との間に発泡ポリエチレンシートFPを配置することによって作製された。サンプルDは、第2容器Ct2内に第1容器Ct1を挿入し、第1容器Ct1と第2容器Ct2との間にパラフィンワックスPWを充填することによって作製された。サンプルEは、第1容器Ct1の側壁の内面および外面と、底の内面および外面とにアルミニウム箔AFを貼り付けることによって作製された。サンプルFとしては、第1容器Ct1を用いた。なお、各サンプルの第1容器Ct1には、第1容器Ct1の開口を塞ぐPP製の蓋を装着し、第2容器Ct2には、第2容器Ct2の開口を塞ぐPP製の蓋を装着した。
【0043】
また、サンプルCの発泡ポリエチレンシートFPを他の断熱材に置き換えたサンプルとして、サンプルC2、C3、C4およびC5を作製した。サンプルC2では、断熱材として、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)発泡ビーズ(旭化成株式会社製)を用いた。サンプルC3では、断熱材として、ウレタンフォーム(アキレスボードAG、アキレス株式会社製)を用いた。サンプルC4では、断熱材として、特殊薄型断熱材(KR GENEQ SHILD、関東冷熱工業株式会社製)を用いた。サンプルC5では、断熱材として、発泡スチロールを用いた。なお、サンプルC、C2~C5に用いられた断熱材の熱伝導率は、それぞれ、0.031W/(m・K)、0.034W/(m・K)、0.024W/(m・K)、0.023W/(m・K)、0.04W/(m・K)であった。
【0044】
比較試験では、23℃の室温下で、各サンプルの第1容器Ct1に2.5L、65℃の水Wを貯留させた状態で、時間経過による温度変化を温度計で測定した。図7には、各サンプルにおける、10時間経過後の水温と、保温性能とが示されている。保温性能は、サンプルFの10時間経過後の水温に対する、各サンプルの10時間経過後の水温の高さとして表されている。つまり、保温性能の温度の数値が高いほど、そのサンプルの保温性能が高いことを表す。図8には、縦軸を水温とし、横軸を時間とするグラフが示されている。図8は、サンプルA、C、D、EおよびFの比較試験の結果を示している。
【0045】
図7に示すように、サンプルCの保温性能は、サンプルC2~C5の保温性能と比較して高かった。また、サンプルAおよびBの保温性能は、サンプルC~Fの保温性能と比較して高かった。また、サンプルAの保温性能は、サンプルBの保温性能よりも高かった。また、図8に示すように、サンプルAでは、サンプルC~Fと比較して、どの温度帯においても水温の低下が抑制された。このように、タンク101のロア部102が、パラフィンワックスによって形成された蓄熱層41と、発泡ポリエチレンによって形成された断熱層61と、アルミニウムによって形成された遮熱層80とを有することにより、タンク101が特に優れた保温性能を発揮することがわかった。
【0046】
以上で説明した本実施形態におけるタンク101によれば、温調液Lqを貯留する第1槽20の周囲を囲う蓄熱層41と、蓄熱層41の外側で第1槽20の周囲を囲う断熱層61とを備え、第1開口部23を覆い、補充口111が形成された蓋部103に、ポンプ120と加熱部130とが固定されている。このような形態であれば、蓄熱層41および断熱層61によって囲われた第1槽20ではなく、蓋部103にポンプ120と加熱部130とを固定できる。これによって、例えば、ロア部102にポンプ120や加熱部130を固定する場合と比較して、ロア部102にポンプ120等を固定するための固定孔や凹凸等を形成することを要しないので、蓄熱層41や断熱層61の保温性能が低下することを抑制できる。また、タンク101にポンプ120と加熱部130とを集約できるので、例えば、水平方向において各部材の設置スペースが増加することや、配管長の増大によって設置スペースが増加することを抑制できる。このように、温調システム100において、部材が点在することによる設置スペースの増大を抑制できる。
【0047】
また、本実施形態では、電池パックBPやヒータコアHCを加熱した後の温調液Lqをタンク101に回収し、タンク101内で温調液Lqを保温できるので、温調システム100において廃熱を効率良く利用できる。そのため、加熱部130の出力を抑制でき、電池パックBPの駆動用バッテリの消費電力を抑制できる可能性が高まる。
【0048】
また、本実施形態では、蓋部103には、更に、流路151を開閉するバルブが固定されている。そのため、タンク101に、更に、バルブを集約できる。
【0049】
また、本実施形態では、断熱層61の外側で第1槽20の周囲を囲う遮熱層80を備えている。そのため、蓄熱層41と断熱層61と遮熱層80とによって、第1槽20内の温調液Lqを高効率に保温できる。
【0050】
また、本実施形態では、蓄熱層41は、パラフィンワックスによって形成され、断熱層61は、発泡ポリエチレンによって形成され、遮熱層80は、アルミニウムによって形成されている。このような形態であれば、第1槽20内の温調液Lqをより高効率に保温できる。また、蓄熱層41を、例えば、蓄熱材が封入されたマイクロカプセルによって形成する場合と比較して、タンク101の材料コストを低減できる。また、遮熱層80を、例えば、銀や金によって形成する場合と比較して、タンク101の材料コストを低減できる。
【0051】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態では、温度調節部として、加熱部130が蓋部103に固定されている。上記実施形態において、温度調節部として、加熱部130に代えて、または、加熱部130に加えて、例えば、チラーとして構成された冷却部140が蓋部103に固定されていてもよい。
【0052】
(B2)上記実施形態では、蓋部103に、例えば、2以上のポンプ120や、2以上の加熱部130や、2以上の冷却部140や、2以上のバルブが配置されていてもよい。
【0053】
(B3)上記実施形態では、蓋部103には、切り替えバルブが固定されているが、例えば、単に1つの流路151を開閉するバルブが固定されていてもよい。また、蓋部103にバルブが固定されていなくてもよい。
【0054】
(B4)上記実施形態では、遮熱層80が設けられているが、遮熱層80が設けられていなくてもよい。このように遮熱層80を備えないタンク101を、例えば、図4に示した製造方法のうち、ステップS105を省略することによって製造できる。つまり、タンク101の製造方法は、遮熱層80を形成する工程を備えていなくてもよい。
【0055】
(B5)上記実施形態では、蓄熱層41は、パラフィンワックスによって形成されているが、パラフィンワックスによって形成されていなくてもよい。例えば、蓄熱層41は、アルカリ土類金属塩やアルカリ金属塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属水酸化物、ナフタレンによって形成されてもよいし、蓄熱材が封入されたメラミン製やアクリル製のマイクロカプセルによって形成されてもよい。また、蓄熱層41は、例えば、顕熱蓄熱材によって形成されてもよい。
【0056】
(B6)上記実施形態では、断熱層61は、発泡ポリエチレンによって形成されているが、発泡ポリエチレンによって形成されていなくてもよい。例えば、断熱層61は、PPEや、発泡ウレタン、発泡スチロール、発泡ポリオレフィン、発泡ゴム、発泡金属によって形成されてもよい。
【0057】
(B7)上記実施形態では、遮熱層80は、アルミニウムによって形成されているが、アルミニウムによって形成されていなくてもよい。例えば、遮熱層80は、金や銀、アルミニウム合金によって形成されてもよい。
【0058】
(B8)上記実施形態では、タンク101の製造方法において、第5工程を第4工程の後に実行しているが、第5工程を第4工程の後に実行しなくてもよい。例えば、第5工程を、第1工程の直後に実行してもよい。
【0059】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
20…第1槽、22…第1開口端部、23…第1開口部、40…第2槽、41…蓄熱層、42…第2開口端部、43…第2開口部、60…第3槽、61…断熱層、62…第3開口端部、63…第3開口部、80…遮熱層、100…温調システム、101…タンク、102…ロア部、103…蓋部、103p…蓋部材、104…第1突出部、105…第2突出部、111…補充口、112…キャップ、113…ポート、120…ポンプ、121…コネクタ、122…吐出口、130…加熱部、140…冷却部、150…循環回路、151…流路、152…第1流路、153…第2流路、161…第1分岐流路、162…第2分岐流路、163…第3分岐流路、164…第4分岐流路、170…第1分岐点、171…第2分岐点、172…合流地点、180…第1バルブ、181…第2バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8