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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059151
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】屋根及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/32 20060101AFI20240423BHJP
   E04B 1/342 20060101ALI20240423BHJP
   E04B 1/343 20060101ALI20240423BHJP
   E04B 7/16 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
E04B1/32 102J
E04B1/32 102B
E04B1/342 C
E04B1/343 U
E04B7/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166648
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋成
(72)【発明者】
【氏名】長屋 圭一
(72)【発明者】
【氏名】木村 寛之
(57)【要約】
【課題】大空間を要する建物及び屋根の最適化を図ることである。
【解決手段】下部構造物に架設された屋根架構を備える屋根であって、前記屋根架構は、頂部に設けた頂部ヒンジ部材と、前記頂部を挟んだ両側に対をなして設けた脚部ヒンジ部材とを備えた3ヒンジ架構である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造物に架設された屋根架構を備える屋根であって、
前記屋根架構は、頂部に設けた頂部ヒンジ部材と、
前記頂部を挟んだ両側に対をなして設けた脚部ヒンジ部材とを備えた3ヒンジ架構であることを特徴とする屋根。
【請求項2】
請求項1に記載の屋根において、
前記脚部ヒンジ部材と前記下部構造物との間に、前記屋根架構を移動させる移動機構が設けられていることを特徴とする屋根。
【請求項3】
請求項2に記載の屋根において、
前記移動機構が、前記脚部ヒンジ部材に設置される移動台車を備え、
該移動台車は、前記下部構造物に形成された前記屋根架構の重量とスラストとの合力の向きに直交する走行面上に配置されることを特徴とする屋根。
【請求項4】
請求項1に記載の屋根において、
前記屋根架構に、前記頂部ヒンジ部材の回転を制御する制御装置が設けられていることを特徴とする屋根。
【請求項5】
請求項4に記載の屋根において、
前記屋根架構が、前記頂部ヒンジ部材を挟んで隣り合うトラス架構を備え、
該トラス架構の上弦材に近接する高さに、前記頂部ヒンジ部材が配置され、
前記トラス架構の下弦材に近接する高さに、前記制御装置が配置されることを特徴とする屋根。
【請求項6】
請求項1に記載の屋根において、
前記頂部ヒンジ部材が、一方向に回転自在なせん断型のピン支承により構成され、
該ピン支承に、連結ピンが損傷した場合に圧縮方向の応力伝達を維持する安全機構が備えられていることを特徴とする屋根。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の屋根と、
該屋根が架設された下部構造物と、
を備えることを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大空間を要する建物及び建物の屋根に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、多目的競技場などの大空間建物の屋根には、可動式の屋根を設ける場合がある。特許文献1には、内部空間を挟んだ両側に一対のレールを設置する一方で、一対のレールを跨ぐ形状の屋根の脚部に走行台車を設置し、レール上で走行台車をスライド移動させることにより、屋根を開閉式とする構造が開示されている。
【0003】
この場合、図9(a)及び(b)で示すように、屋根架構10の脚部11を外側に広げようとする力(以降、スラストという)が発生する。このため、図9(a)では、屋根架構10の脚部11どうしをタイバーなどの引張材12で連結し、スラストの発生を抑えている。
【0004】
また、図9(b)では、屋根架構10の支持部13を走行台車20に接合して屋根架構10にアーチ効果を奏する剛接架構を採用し、スラストは、支持架構30に負担させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-131382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図9(a)で示す屋根架構10では、引張材12を設けることで屋根下空間が分断され、利用できる内部空間の有効高さが低くなる。このため、必要内部空間は、支持架構30の高さを調整することにより確保することとなり、施工性及び経済性に劣る。また、大空間建物自体の高さが大きくなるため、圧迫感を生じるおそれがあり意匠性に劣る。
【0007】
また、図9(b)で示す屋根架構10では、例えば地震が発生するなどして屋根架構10を挟んだ両側(紙面上の左右)に位置する支持架構30に異なる変位が生じると、これに起因して屋根架構10にも強制変位が生じて、部材応力が大きく変化するおそれがある。このような変化を考慮して安全性を確保しようとすると、屋根架構10や支持架構30は過大な構造となりやすい。
【0008】
また、図9(a)及び(b)いずれの事例であっても、大空間建物を構成する屋根架構10は、鉄骨造である場合が多い。鉄骨造の架構は、外気温などの影響を受けて温度伸縮が生じる。特に、大空間建物に設ける屋根架構10は、伸縮量が大きいことから部材応力の変化が大きいだけでなく、屋根架構10を支持する支持架構30への反力負担も大きく変化する。そうすると、これらの変化を考慮して部材設計をせざるを得ず、やはり屋根架構10や支持架構30は過大な構造となりやすい。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、大空間を要する建物及び屋根の最適化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明の屋根は、下部構造物に架設された屋根架構を備える屋根であって、前記屋根架構は、頂部に設けた頂部ヒンジ部材と、前記頂部を挟んだ両側に対をなして設けた脚部ヒンジ部材とを備えた3ヒンジ架構であることを特徴とする。
【0011】
本発明の屋根は、前記脚部ヒンジ部材と前記下部構造物との間に、前記屋根架構を移動させる移動機構が設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明の屋根は、前記移動機構が、前記脚部ヒンジ部材に設置される移動台車を備え、該移動台車は、前記下部構造物に形成された前記屋根架構の重量とスラストとの合力の向きに直交する走行面上に配置されることを特徴とする。
【0013】
本発明の屋根は、前記屋根架構に、前記頂部ヒンジ部材の回転を制御する制御装置が設けられていることを特徴とする
【0014】
本発明の屋根は、前記屋根架構が、前記頂部ヒンジ部材を挟んで隣り合うトラス架構を備え、該トラス架構の上弦材に近接する高さに、前記頂部ヒンジ部材が配置され、前記トラス架構の下弦材に近接する高さに、前記制御装置が配置されることを特徴とする。
【0015】
本発明の屋根は、前記頂部ヒンジ部材が、一方向に回転自在なせん断型のピン支承よりなり、該ピン支承に、連結ピンが損傷した場合に圧縮方向の応力伝達を維持する安全機構が備えられていることを特徴とする。
【0016】
本発明の建物は、本発明の屋根と、該屋根が架設された下部構造物と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の屋根及び建物によれば、温度変化や地震、暴風雨など様々な外力に晒されると、屋根架構が、頂部ヒンジ部材及び脚部ヒンジ部材の回転により、その形状を適宜変形する。このため、部材応力の変化を最小限に抑えることができるとともに、屋根架構を支持する下部構造体への反力負担も抑制できる。これにより、屋根架構及び下部構造物の合理的な部材設計を実現できるため、建物ボリュームの軽減や屋根架構の軽量化などを可能にして、大空間を要する建物及び屋根の最適化を図ることができる。
【0018】
また、屋根架構が、移動機構を介して下部構造物上を移動する構造である場合、移動方向に延在する下部構造物に、部分的な変形が生じていたり、剛性が一様でない部位が存在すると、屋根架構の支持スパンに変化を生じさせることがある。しかし、屋根架構は走行しながら適宜、支持スパンの変化に対応して頂部ヒンジ部材及び脚部ヒンジ部材の回転し、その形状を変形する。したがって、部材応力及び下部構造体への反力負担をほぼ一定に保持でき、大空間を要する建物に開閉式の屋根を設ける場合であっても、屋根架構及び下部構造物の合理的な部材設計を実現できる。
【0019】
さらに、屋根架構に頂部ヒンジ部材の回転を制御する制御装置を設けることで、地震発生時などに短時間で生じる回転や揺動などの挙動を抑制することができる。これにより、頂部ヒンジ部材の損傷や、屋根架構に設けた屋根仕上げ材の損傷を低減させることが可能となる。
【0020】
また、頂部ヒンジ部材に一方向に回転自在なせん断型のピン支承を採用するとともに、このピン支承に、連結ピンが損傷した場合に圧縮方向の応力伝達を維持する安全機構を備えると、長期使用による経年劣化や腐食、もしくは不慮の事態によりピン支承に不具合が生じた場合にも、屋根架構の崩壊を抑止することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、大空間を要する建物の屋根架構を3ヒンジ架構とすることにより、屋根架構及び下部構造物の合理的な部材設計を実現できるため、建物ボリュームの軽減や屋根架構の軽量化などを可能にして、大空間を要する建物及び屋根の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態における大空間建物を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における大空間建物が開閉する様子を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における屋根架構の頂部を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における屋根架構の脚部及びガーダー架構を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における地震発生時の屋根架構を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における温度伸縮時の屋根架構を示す図である。
図7】本発明の実施の形態におけるピン支承を示す図である。
図8】本発明の実施の形態におけるピン支承の安全機構を示す図である。
図9】従来の大空間建物に採用されている屋根架構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、大空間を要する建物及び屋根に関するものであり、特に、開閉式の屋根を設ける場合に好適である。以下に、図1図8を参照しつつ、屋根及び建物の詳細を説明する。
【0024】
≪≪大空間建物≫≫
図1で示すように、大空間建物1は、下部構造物であるガーダー架構2に切妻造の屋根4を架設した建物である。また、ガーダー架構2と屋根4の間には移動機構3が介装されており、移動機構3を介して屋根4は、図2で示すように、ガーダー架構2上をスライド移動する開閉式構造となっている。
【0025】
さらに、屋根4を構成する屋根架構5は、ガーダー架構2にスラストを負担させた、直線のアーチリブを採用した3ヒンジアーチのごとく機能し、室内に屋根下空間を利用した大空間を確保している。また、ヒンジを利用して様々な外力に対応してその形状を変形させ、部材応力に大きな変化が生じることを抑制している。
【0026】
≪≪屋根≫≫
開閉式の屋根4は、図1及び図2で示すように、屋根架構5と屋根仕上げ材6とを備えている。また、移動機構3による移動方向は、図2で示すように、ガーダー架構2の延在方向に沿うよう設定されている。
【0027】
屋根仕上げ材6は、屋根架構5に設けるものであって雨水や雪等に対応可能な部材であれば、いずれのものであってもよい。また、本実施の形態では、屋根架構5の上弦材5a側に設ける屋根仕上げ材6を事例に挙げたが、例えば、屋根架構5の下弦材5b側に、軒天パネル等を設けるものであってもよい。
【0028】
≪≪屋根架構≫≫
屋根架構5は、図1で示すように、切妻型の頂部を挟んで隣り合うブロック架構51と、頂部ヒンジ部材52と、対をなす脚部ヒンジ部材53とを備える3ヒンジ架構を採用している。これらの組み合わせは、屋根4の移動方向に1組もしくは複数組設けられている。複数組を設ける場合にはこれらが連続するよう接続されている。
【0029】
≪≪ブロック架構≫≫
ブロック架構51は、鉄骨トラス架構により構成され、図1及び図2で示すように、ガーダー架構2の上方に位置する端部側に、屋根4の移動方向に間隔を設けて、複数の脚部511が設けられている。図1では、隣り合うブロック架構51を同じ大きさに形成し頂部を中央に配置しているが、これに限定されるものではなく、大きさを変えて頂部を中央からずらすような構成としてもよい。
【0030】
≪≪頂部ヒンジ部材≫≫
頂部ヒンジ部材52は、図1及び図3で示すように、隣り合うブロック架構51の間であって上弦材5a近傍の高さ位置に配置され、これらを接続している。その構造は、スパン方向に平行な鉛直面内で、隣り合うブロック架構51を相対回転自在に接続できる部材であれば、いずれをも採用できる。したがって、市場で一般に流通されているせん断型のピン支承など、一方向のみに回転自在な支承装置を、頂部ヒンジ部材52として採用できる。
【0031】
≪≪脚部ヒンジ部材≫≫
脚部ヒンジ部材53は、図1及び図4(a)で示すように、ブロック架構51の脚部511と移動機構3との間に設けられており、屋根架構5の支持点を形成している。その構造は、頂部ヒンジ部材52の回転に連動して脚部511を鉛直方向に回転できる部材であれば、いずれを採用することもできる。したがって、頂部ヒンジ部材52と同様に、ピン支承などの支承装置を、脚部ヒンジ部材53として採用できる。
【0032】
上記の屋根架構5は、移動機構3を介してガーダー架構2に支持されて、3ヒンジのアーチ架構として機能するが、図1で示すように、スラストが支持点である脚部ヒンジ部材53から移動機構3の移動台車32に作用する。スラストは、脚部511をスパン方向の外側に広げようとする力であるが、この力を、ガーダー架構2で負担している。
【0033】
≪≪ガーダー架構≫≫
ガーダー架構2は、図2で示すように、屋根4の移動方向に延在するコンクリート造の構造物である。長尺な桁部材21と、これを支持する複数の柱部材22とにより構成しているが、屋根4の重量を支持することができ、また上記のスラストに抵抗できれば、その構造形式や材料は、なんら限定されるものではない。このようなガーダー架構2の上部には、トレンチ23が形成されている。
【0034】
≪≪トレンチ≫≫
トレンチ23は、図2及び図4(b)で示すように、桁部材21の上面側に屋根4の移動方向に延在するように形成されている。また、その底面231は、大空間建物1の室内側を向くように、鉛直軸に対して所定の角度だけ傾斜して形成されている。傾斜角度は、図4(a)示すように、トレンチ23の底面231が、屋根4の重力と前述のスラストの合力に直交する角度に設定されている。このトレンチ23内に、移動機構3が装備されている。
【0035】
≪≪移動機構≫≫
移動機構3は、ガーダー架構2上で屋根4をスライド移動させることの可能な機能を有していれば、いずれを採用してもよい。図4(a)では、複数のレール31と、レール31上を移動する移動台車32とにより構成する場合を例示している。
【0036】
複数のレール31は、図4(b)で示すように、一対の底面レール311と、一対の側面レール312とを備えている。一対の側面レール312は、トレンチ23の対向する両側面232にそれぞれ平行に設けられている。一対の底面レール311は、トレンチ23の底面231に並列配置されている。つまり、この底面231が、移動台車32の走行面となり、両側面232で、移動台車32の走行方向を制御する。
【0037】
移動台車32は、図2で示すように、屋根架構5の脚部511各々に対応するよう複数設けられており、図4(a)で示すように、台車本体33と、台車本体33の外側面及び底部に設置される複数の車輪34とにより構成されている。台車本体33には、脚部511に設けた脚部ヒンジ部材53が接続されており、屋根架構5の支持点は、台車本体33上に形成されている。
【0038】
また、複数の車輪34は、一対の底面レール311上を移動する一対の底部車輪341と、トレンチ23の一対の側面レール312上を移動する一対の外側車輪342とを備える。移動台車32は、トレンチ23の底面231上で、この底面231と平行な姿勢に配置される。
【0039】
なお、移動台車32は、自走式もしくは牽引式などその走行方式はいずれでもよい。また、トレンチ23内に設けたレール31は、必ずしも設けなくてもよい。
【0040】
上記の構成を有する大空間建物1は、移動機構3を介してスラストをガーダー架構2に効率よく負担させつつ、屋根4を安定してスライド移動させ、開状態もしくは閉状態とすることができる。また、屋根架構5は、アーチ効果を奏する構造となるため、ブロック架構51のトラスせいを短小化でき、屋根架構5の軽量化を図ることが可能となる。
【0041】
さらに、屋根架構5は、温度変化や地震、暴風雨など様々な外力が作用されると、頂部ヒンジ部材52及び脚部ヒンジ部材53の回転により適宜、その形状を変形させる。これにより、部材応力の変化を最小限に抑えることができるとともに、ガーダー架構2への反力負担も抑制できる。
【0042】
例えば、地震発生時に想定される屋根架構5の挙動を、図5に示す。実線で表した屋根架構5及びガーダー架構2は、地震発生時の状態を示しており、破線は通常時の状態を示している。
【0043】
破線で示した通常時の屋根架構5及びガーダー架構2に対して地震力が入力すると、実線で示すように、対をなすガーダー架構2には、鉛直方向及び水平方向に異なる変位が生じて、屋根架構5の支持スパンLに変化を生じる可能性がある。このような事象が生じると、頂部ヒンジ部材52及び脚部ヒンジ部材53が回転し、屋根架構5は支持スパンLの変化に対応した形状に変形する。
【0044】
支持スパンLが変化する事象は、地震時だけでなく、図2(a)で示すような、屋根4の走行時にも生じる可能性がある。屋根架構5の移動方向に延在するガーダー架構2に、部分的な変形が生じていたり、剛性が一様でない部位が存在すると、屋根架構5の支持スパンLに変化を生じることがある。この場合も、屋根架構5は走行しながら随時、地震時と同様に支持スパンLの変化に対応した形状に変形する。
【0045】
このように、地震発生時または通常時の走行中などに、支持スパンLの変化が生じるような事象が起きても、支持スパンLの変化に対して屋根架構5を幾何学的に追従させることで、強制変位の発生を抑制できる。したがって、通常時及び地震発生時のいずれにおいても、屋根架構5の部材応力及びガーダー架構2への反力負担を、ほぼ一定に維持できる。
【0046】
次に、温度伸縮を生じた際に想定される屋根架構5の挙動を、図6に示す。実線で表した屋根架構5及びガーダー架構2は、気温上昇時の状態を示しており、破線は通常時の状態を示している。
【0047】
破線で示した通常時の屋根架構5に対して、夏季の日中などに外気温が上昇すると、屋根架構5のブロック架構51が膨張し、部材長が伸長する。このような事象が生じると、頂部ヒンジ部材52及び脚部ヒンジ部材53が回転し、屋根架構5は頂部を上方に移動させた形状に変形し、ブロック架構51の伸長量を逃す。
【0048】
このように、ブロック架構51は、外気の温度変化に起因して膨張及び収縮を繰り返すが、その都度に頂部ヒンジ部材52及び脚部ヒンジ部材53が回転し、屋根架構5の頂部を上下に移動させた形状に変形し、ブロック架構51の伸縮量を逃がすことができる。これにより、温度伸縮に対しても、屋根架構5の部材応力の変化、及びガーダー架構2への反力負担の変化を抑制できる。
【0049】
さらに、悪天候時に屋根4が暴風雨に晒された場合にも、屋根架構5は頂部ヒンジ部材52及び脚部ヒンジ部材53に回転により適宜変形し、部材応力の変化を最小限に抑えることができる。したがって、大空間建物1を構築するにあたり、屋根架構5及びガーダー架構2の両者で、合理的な部材設計を実現することが可能となる。したがって、建物ボリュームの軽減や屋根架構5の軽量化などを可能にして、大空間建物1及び屋根4の最適化を図ることができる。
【0050】
本発明の屋根及び建物は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0051】
例えば、本実施の形態では、切妻造の屋根4を事例に挙げたが、屋根4はこれに限定されるものではなく、アーチ型やコ型などを採用してもよい。また、ブロック架構51に、鉄骨トラス架構を採用する場合を事例に挙げたが、木造や単材架構など、その他の架構を採用することも可能である。
【0052】
さらに、図4(a)を参照して説明したように、底面231を鉛直軸に対して傾斜させたトレンチ23内に移動機構3を設けたが、底面231は傾斜させなくてもよい。この場合には、底面231に敷設される水平な底面レール311のみを利用し、ガーダー架構2にスラストを負担させる構造とすることも可能である。
【0053】
また、頂部ヒンジ部材52は、図7及び図8で示すような支承装置8を採用してもよい。
【0054】
≪支承装置≫
支承装置8は、隣り合う構造部材をピン接合し圧縮方向に応力伝達する、いわゆるせん断型のピン支承装置であり、図7(a)で示すように、一方の沓体81及び他方の沓体82と、連結ピン83、そして収納部84を備える。
【0055】
一方の沓体81は、2枚の雌側リブプレート811を有し、他方の沓体82は1枚の雄側リブプレート821を有する。これら一方の沓体81と他方の沓体82は、2枚の雌側リブプレート811の間に雄側リブプレート821を差し込み、これらに連結ピン83を貫通させることで相対回転可能に連結されている。
【0056】
また、図7(a)で示すように、2枚の雌側リブプレート811の間には、基端側の隙間を塞ぐように塞ぎ部812が設けられている。この塞ぎ部812と2枚の雌側リブプレート811に囲まれた空間に、図7(b)で示すような、収納部84が形成されている。収納部84は、雄側リブプレート821の少なくとも先端側を収納するものであり、連結ピン83が損傷した場合にも圧縮方向の応力伝達を維持するための安全機構として機能する。
【0057】
具体的には、図8(a)で示すように、頂部ヒンジ部材52として支承装置8を採用すると、経年劣化や腐食、もしくは不慮の事態などによって連結ピン83が損傷する場合がある。このような場合に、図8(b)で示すように、雄側リブプレート821の先端部が収納部84に嵌りこみ、収納部84の凹状曲面841と雄側リブプレート821の先端に形成されている凸状曲面とが当接する。
【0058】
これにより、隣り合うブロック架構51間で圧縮方向に応力伝達する機能を維持できるため、屋根架構5の崩壊を抑止することが可能となる。なお、支承装置8は、隣り合うブロック躯体51の一方側に一方の沓体81を溶接し、他方側に他方の沓体82を溶接することで、隣り合うブロック躯体51を接続している。
【0059】
また、屋根架構5には、図3で示すように、頂部ヒンジ部材52の回転を制御する制御装置7を設けてもよい。
【0060】
≪制御装置≫
制御装置7は、例えば、オイルダンパーなどを採用することができる。また、その配置位置は、隣り合うブロック架構51を連結するように設置できる位置であればいずれでもよく、図3では、下弦材5b近傍の高さ位置に設置する場合を事例に挙げている。
【0061】
屋根架構5に制御装置7を設けると、頂部ヒンジ部材52に図7及び図8を参照して説明したようなせん断型の支承装置8を採用する場合、回転角及び連結ピン83に作用するせん断力を制御できる。
【0062】
例えば、図5を参照して説明したような地震発生時や暴風などの外力が屋根架構5に作用した場合、頂部ヒンジ部材52はこれらに追従し、回転、揺動、もしくは隣り合うブロック躯体51が離間するような挙動を、短時間で示す可能性がある。制御装置7は、このような短時間に生じる挙動に抵抗する。これにより、頂部ヒンジ部材52の損傷を回避できる、また、屋根架構5の変形に伴う屋根仕上げ材6への負担を軽減することができる。
【0063】
その一方で、制御装置7は、図6を参照して説明したような、隣り合うブロック架構51が温度変化に起因して膨張もしくは収縮を生じた場合に、頂部ヒンジ部材52が回転するような長時間を要する挙動を阻害することはない。
【符号の説明】
【0064】
1 大空間建物(建物)
2 ガーダー架構(下部構造物)
21 桁部材
22 柱部材
23 トレンチ
231 底面(走行面)
232 側面
3 移動機構
31 レール
311 底面レール
312 側面レール
32 移動台車
33 台車本体
34 車輪
341 底部車輪
342 外側車輪
4 屋根
5 屋根架構
5a 上弦材
5b 下弦材
51 ブロック架構(トラス架構)
52 頂部ヒンジ部材
53 脚部ヒンジ部材
6 屋根仕上げ材
7 制御装置
8 支承装置
81 一方の沓体
811 雌側リブプレート
82 他方の沓体
821 雄側リブプレート
83 連結ピン
84 収納部(安全機構)
841 凹状曲面
10 屋根架構
11 脚部
12 引張材
13 支持部
20 走行台車
30 支持架構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9