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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059165
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】内燃機関および鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/08 20060101AFI20240423BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
F01M1/08 D
F02F7/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166674
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(72)【発明者】
【氏名】青柳 謙二
(72)【発明者】
【氏名】山本 健介
【テーマコード(参考)】
3G024
3G313
【Fターム(参考)】
3G024AA72
3G024BA23
3G024DA06
3G024DA09
3G024DA21
3G024EA04
3G024FA07
3G024GA01
3G313AA01
3G313AA05
3G313AB04
3G313BA02
3G313BC18
3G313BD21
3G313CA06
3G313FA08
(57)【要約】
【課題】オイルの粘度が比較的高い状態でもシリンダヘッド内の動弁機構の所望の箇所にオイル供給を好適に行うことができる内燃機関を提供する。
【解決手段】内燃機関(1)は、シリンダボディ(3)と、シリンダボディに結合されたシリンダヘッド(4)と、シリンダヘッドに結合されたシリンダヘッドカバー(5)と、シリンダヘッドおよびシリンダヘッドカバー内に設けられた動弁機構とを備える。内燃機関は、シリンダヘッドカバーに設けられ、動弁機構にオイルを供給し得るように配置されたノズル(10)をさらに備える。ノズルは、ノズルの基端(10be)からノズルの先端(10te)側に延びる第1ノズル部(11)と、第1ノズル部の先端からノズルの先端まで延びる第2ノズル部(12)であって、周方向における一部が切り欠かれて動弁機構に面する切り欠き部(12c)が形成された第2ノズル部とを含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボディと、
前記シリンダボディに結合されたシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドに結合されたシリンダヘッドカバーと、
前記シリンダヘッドおよび前記シリンダヘッドカバー内に設けられた動弁機構と、
を備えた内燃機関であって、
前記シリンダヘッドカバーに設けられ、前記動弁機構にオイルを供給し得るように配置されたノズルをさらに備え、
前記ノズルは、前記ノズルの基端から前記ノズルの先端側に延びる第1ノズル部と、前記第1ノズル部の先端から前記ノズルの先端まで延びる第2ノズル部であって、周方向における一部が切り欠かれて前記動弁機構に面する切り欠き部が形成された第2ノズル部とを含む、内燃機関。
【請求項2】
前記切り欠き部は、前記ノズルの先端において周方向に70°以上の範囲で形成されている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記切り欠き部は、前記ノズルの先端において周方向に180°未満の範囲で形成されている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記切り欠き部は、前記第2ノズル部の基端から先端に向かうにつれて周方向における範囲が大きくなるように形成されている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記第2ノズル部の内周面は、前記第2ノズル部の基端から先端に向かうにつれて前記第2ノズル部の内径が拡大するようなテーパ形状を有している、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の内燃機関を備えた鞍乗型車両。
【請求項7】
前記ノズルは、鉛直方向において前記動弁機構の上方に位置している、請求項6に記載の鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関および鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗型車両において、シリンダが大きく前傾するように内燃機関(エンジン)が搭載されることがある。例えば特許文献1には、シリンダが大きく前傾するようにスイングユニットに搭載されたエンジンを備えるスクータ型自動二輪車が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されている自動二輪車では、シリンダヘッド内の動弁室には、シリンダボディの下方において前方に延びてシリンダヘッドの頂部中央に接続されたオイル配管からオイルが供給される。しかしながら、このようにして動弁室にオイルの供給を行うと、動弁機構の下側にはオイルが十分に供給されるものの、動弁機構の上側へのオイル供給が不足がちになる。
【0004】
そこで、動弁機構の上方にノズルを配置し、そのノズルから動弁機構にオイルを供給することが考えられる。特許文献2には、シリンダヘッドカバーの内側に設けられたノズルから動弁機構にオイルを供給する構成が図示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-81525号公報
【特許文献2】特開2020-105969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者の検討によれば、シリンダヘッドカバーに設けられたノズルから動弁機構にオイルを供給する構成では、エンジンが低温(つまりオイルも低温)で、かつ、エンジン回転数が低くオイルの吐出量が少ない状態(例えば冷間始動後のアイドリング状態)では、オイルの粘度が高いので、ノズルの先端からオイルを勢いよく吐出させることができず、動弁機構の所望の箇所にオイルを供給できないおそれがあることがわかった。
【0007】
本発明の実施形態は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、オイルの粘度が比較的高い状態でもシリンダヘッド内の動弁機構の所望の箇所にオイル供給を好適に行うことができる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書は、以下の項目に記載の内燃機関および鞍乗型車両を開示している。
【0009】
[項目1]
シリンダボディと、
前記シリンダボディに結合されたシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドに結合されたシリンダヘッドカバーと、
前記シリンダヘッドおよび前記シリンダヘッドカバー内に設けられた動弁機構と、
を備えた内燃機関であって、
前記シリンダヘッドカバーに設けられ、前記動弁機構にオイルを供給し得るように配置されたノズルをさらに備え、
前記ノズルは、前記ノズルの基端から前記ノズルの先端側に延びる第1ノズル部と、前記第1ノズル部の先端から前記ノズルの先端まで延びる第2ノズル部であって、周方向における一部が切り欠かれて前記動弁機構に面する切り欠き部が形成された第2ノズル部とを含む、内燃機関。
【0010】
本発明の実施形態による内燃機関は、シリンダヘッドカバーに設けられ、動弁機構にオイルを供給し得るように配置されたノズルを備えている。このノズルは、ノズルの基端からノズルの先端側に延びる第1ノズル部と、第1ノズル部の先端からノズルの先端まで延びる第2ノズル部であって、周方向における一部が切り欠かれて動弁機構に面する切り欠き部が形成された第2ノズル部とを含んでいる。本発明の実施形態による内燃機関では、オイルの粘度が比較的高く、かつ、回転数が比較的低いときには、オイルは、第2ノズル部の切り欠かれていない部分を伝ってノズルの先端から流れ落ち得る。第2ノズルには、動弁機構に面する切り欠き部が形成されているので、ノズルが動弁機構の可動部品に干渉することなく、粘度が高い状態のオイルを動弁機構の所望の部分に導くことが可能となる。
【0011】
[項目2]
前記切り欠き部は、前記ノズルの先端において周方向に70°以上の範囲で形成されている、項目1に記載の内燃機関。
【0012】
動弁機構の可動部品とノズルとの干渉を避ける観点からは、第2ノズル部の切り欠き部は、ノズルの先端において周方向に70°以上の範囲で形成されていることが好ましい。
【0013】
[項目3]
前記切り欠き部は、前記ノズルの先端において周方向に180°未満の範囲で形成されている、項目1または2に記載の内燃機関。
【0014】
ノズルの先端からオイルを好適に流れ落ちさせる観点からは、第2ノズル部の切り欠き部は、ノズルの先端において周方向に180°未満の範囲で形成されていることが好ましい。
【0015】
[項目4]
前記切り欠き部は、前記第2ノズル部の基端から先端に向かうにつれて周方向における範囲が大きくなるように形成されている、項目1から3のいずれかに記載の内燃機関。
【0016】
第2ノズル部の切り欠き部は、第2ノズル部の基端から先端に向かうにつれて周方向における範囲が大きくなるように形成されていてもよい。
【0017】
[項目5]
前記第2ノズル部の内周面は、前記第2ノズル部の基端から先端に向かうにつれて前記第2ノズル部の内径が拡大するようなテーパ形状を有している、項目1から4のいずれかに記載の内燃機関。
【0018】
第2ノズル部の内周面が、第2ノズル部の基端から先端に向かうにつれて第2ノズル部の内径が拡大するようなテーパ形状を有していると、オイル吐出量が多い時(例えば最大時)におけるオイルの供給をいっそう好適に行うことができる。
【0019】
[項目6]
項目1から5のいずれかに記載の内燃機関を備えた鞍乗型車両。
【0020】
[項目7]
前記ノズルは、鉛直方向において前記動弁機構の上方に位置している、項目6に記載の鞍乗型車両。
【発明の効果】
【0021】
本発明の実施形態によれば、オイルの粘度が比較的高い状態でもシリンダヘッド内の動弁機構の所望の箇所にオイル供給を好適に行うことができる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態による自動二輪車100を模式的に示す左側面図である。
図2】自動二輪車100が備えるエンジン1を側方から見た図である。
図3】エンジン1を上方から見た図である。
図4】エンジン1を示す断面図であり、図3中の4A-4A’線に沿った断面を示している。
図5】エンジン1を示す断面図であり、図4中の5A-5A’線に沿った断面を示している。
図6】エンジン1を示す断面図であり、図4中の6A-6A’線に沿った断面を示している。
図7】エンジン1を示す断面図であり、図4中の7A-7A’線に沿った断面を示している。
図8】エンジン1が備えるノズル10(左ノズル10A)を模式的に示す断面図であり、図4のノズル10近傍を拡大した図である。
図9】エンジン1が備えるノズル10(左ノズル10A)を模式的に示す断面図であり、図6のノズル10近傍を拡大した図である。
図10】ノズル10(左ノズル10A)を後方から見た図である。
図11】シリンダヘッドカバー5に比較例のノズル910が設けられた構成を示す図である。
図12】ノズル10から吸気弁21の軸端にオイルが供給される様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態による鞍乗型車両を説明する。鞍乗型車両は、乗員が跨って乗車する車両である。以下の説明では、本発明の実施形態による鞍乗型車両として、自動二輪車を例示する。自動二輪車の型式は何ら限定されず、いわゆるスクータ型、モペット型、オフロード型およびオンロード型等のいずれの型式であってもよい。また、本発明の実施形態による鞍乗型車両は、自動二輪車に限定されず、ATV(All Terrain Vehicle)、四輪バギー等であってもよい。
【0024】
図1を参照しながら、本実施形態における自動二輪車100の全体構成を説明する。図1は、自動二輪車100を模式的に示す左側面図である。以下の説明において、前、後、左、右、上、下は、それぞれ自動二輪車100のシートに着座した乗員から見た前、後、左、右、上、下を意味する。上、下は、それぞれ自動二輪車100が水平面上に停止しているときの鉛直方向における上、下を意味する。また、エンジンの各部を説明する際にも、上記各方向を用いる。従って、エンジンにおける前、後、左、右、上、下は、エンジンが自動二輪車100に搭載された状態における前、後、左、右、上、下を意味する。
【0025】
自動二輪車100は、図1に示すように、ヘッドパイプ101を含む車体フレーム102と、車体フレーム102に支持されたシート103と、車体フレーム102に支持されたエンジン(内燃機関)1と、ヘッドパイプ101に回動可能に支持されたハンドル104と、前輪105と、エンジン1により駆動される後輪106とを備えている。
【0026】
図2から図7を参照しながら、エンジン1の構成を説明する。図2および図3は、それぞれエンジン1を側方および上方から見た図である。図4は、図3中の4A-4A’線に沿った断面図である。図5図6および図7は、それぞれ図4中の5A-5A’線、6A-6A’線および7A-7A’線に沿った断面図である。なお、図2から図7中に示している前、後、左、右、上、下は、エンジン1が自動二輪車100に搭載された状態における前、後、左、右、上、下である。
【0027】
エンジン1は、4ストロークの水冷式エンジンである。エンジン1は、クランクシャフト(不図示)が収容されたクランクケース2(図2以外では省略)と、クランクケース2に結合されたシリンダボディ3と、シリンダボディ3に結合されたシリンダヘッド4と、シリンダヘッド4に結合されたシリンダヘッドカバー5と、シリンダヘッド4およびシリンダヘッドカバー5内に設けられた動弁機構(後述する吸気弁21、排気弁22などを含む)を備えている。
【0028】
クランクケース2の左側には、変速機(例えばCVT(Continuously Variable Transmission))を収容するトランスミッションケース7が配置されている。
【0029】
シリンダボディ3の内部には、シリンダ6が形成されている。シリンダ6は、シリンダ軸線CAに沿って延びている。シリンダ軸線CAは、鉛直方向(上下方向)に対して大きく前傾している。つまり、シリンダ6は、クランクケース2から前方に延びている。なお、ここでいう「前方」とは、広義の意味であり、水平前向きに延びている場合と、水平方向から傾いている場合の両方を含む。なお、ここでは、エンジン1は、1つのシリンダ6を有する単気筒エンジンであるが、複数のシリンダを有する多気筒エンジンであってもよい。
【0030】
シリンダ6には、ピストン(不図示)が収容されている。シリンダ6は、燃焼室8の一部を区画している。ピストンは、コンロッド(不図示)を介してクランクシャフトに連結されている。シリンダボディ3とクランクケース2とは、別体に形成されていてもよいし、一体に形成されていてもよい。
【0031】
シリンダヘッド4は、シリンダボディ3の前方に配置されており、シリンダボディ3の前部に結合されている。シリンダヘッド4には、2つの吸気ポート31と、2つの排気ポート32とが形成されている。2つの吸気ポート31は、燃焼室8に向けて開口する吸気口31Aをそれぞれ有している。吸気ポート31には、燃焼室8に吸入される吸気が流れる。2つの排気ポート32は、燃焼室8に向けて開口する排気口32Aをそれぞれ有している。排気ポート32には、燃焼室8から排出される排気が流れる。
【0032】
シリンダヘッド4およびシリンダボディ3には、冷却水が流れるウォータジャケット9が形成されている。ウォータジャケット9は、シリンダヘッド4に形成された部分9Aと、シリンダボディ3に形成された部分9Bとを含んでいる。
【0033】
シリンダヘッドカバー5は、シリンダヘッド4の前方に配置されており、シリンダヘッド4の前部に結合されている。シリンダヘッド4とシリンダヘッドカバー5は、例示しているように別体に形成されていてもよいし、一体に形成されていてもよい。
【0034】
エンジン1の動弁機構は、2つの吸気弁21と、2つの排気弁22と、カムシャフト23と、2つのロッカーアーム24とを含む。
【0035】
2つの吸気弁21は、それぞれ対応する吸気口31Aを開閉する。2つの排気弁22は、それぞれ対応する排気口32Aを開閉する。
【0036】
カムシャフト23は、シリンダヘッド4に回転可能に支持されている。カムシャフト23は、シリンダ軸線CAと交差している。カムシャフト23は、カム室34およびカムチェーン室35内に配置されている。カム室34は、シリンダヘッド4およびシリンダヘッドカバー5により規定される空間である。カムチェーン室35は、クランクケース2、シリンダボディ3、シリンダヘッド4およびシリンダヘッドカバー5により規定される空間である。図示している例では、カムチェーン室35は、シリンダ6の左方に配置されている。カムチェーン室35は、シリンダ6の右方に配置されていてもよい。カムチェーン室35とカム室34とは、連通している。
【0037】
吸気弁21および排気弁22は、対応するロッカーアーム24を介してカムシャフト23と係合している。吸気弁21および排気弁22は、カムシャフト23の回転に伴って開閉される。なお、吸気弁21および排気弁22のそれぞれの個数は、ここで例示したものに限定されない。例えば、吸気ポート31および排気ポート32の個数がそれぞれ1である場合、吸気弁21および排気弁22のそれぞれの個数も1であり得る。
【0038】
カムシャフト23は、左右方向に延びている。カムシャフト23の左端部には、従動スプロケット(カムチェーンスプロケット)23Sが取り付けられている。従動スプロケット23Sは、カムチェーン室35内に配置されており、カムシャフト23と一体に回転する。従動スプロケット23Sと、クランクシャフトに取り付けられた駆動スプロケット(不図示)とに、カムチェーン(不図示)が巻き渡されている。駆動スプロケットは、カムチェーン室35内に配置されており、クランクシャフトと一体に回転する。カムチェーンは、クランクシャフトおよびカムシャフトと連動する。
【0039】
エンジン1は、シリンダヘッドカバー5に設けられた複数の(ここでは2つの)ノズル10をさらに備えている。ノズル10は、動弁機構にオイルを供給し得るように配置されている。図4に示すように、ノズル10は、鉛直方向において動弁機構の上方に位置している。説明の便宜上、以下では、2つのノズル10のうち、相対的に左側に位置するノズル10Aを「左ノズル」と呼び、相対的に右側に位置するノズル10Bを「右ノズル」と呼ぶことがある。
【0040】
左ノズル10Aは、左側の吸気弁21の前方かつ上方に配置されている。左ノズル10Aの左右方向における位置は、左側の吸気弁21の左右方向における位置とほぼ同じである。右ノズル10Bは、右側の吸気弁21の前方かつ上方に配置されている。右ノズル10Bの左右方向における位置は、右側の吸気弁21の左右方向における位置とほぼ同じである。
【0041】
図8図9および図10を参照しながら、ノズル10の構造を説明する。図8および図9は、ノズル10(左ノズル10A)を模式的に示す断面図であり、図4および図6のノズル10近傍を拡大した図である。図10は、ノズル10(左ノズル10A)を後方から見た図である。
【0042】
ノズル10は、第1ノズル部11と、第2ノズル部12とを含む。ノズル10の全体にわたって、つまり、第1ノズル部11および第2ノズル部12の両方にわたって、オイルが通るノズル孔(中空部)10aが形成されている。ノズル孔10aは、ノズル10の基端10beにおいて、オイル供給路15と連通している。ノズル10の軸線NAは、ノズル10の基端10be側から後方かつやや下方に延びている。
【0043】
第1ノズル部11は、ノズル10の基端10beからノズル10の先端10te側に延びている。第2ノズル部12は、第1ノズル部11の先端からノズル10の先端10teまで延びている。第2ノズル部12は、周方向における一部が切り欠かれている。つまり、第2ノズル部12には切り欠き部12cが形成されている。切り欠き部12cは、動弁機構に面している。言い換えると、切り欠き部12cは、第2ノズル部12の少なくとも下部に形成されている。
【0044】
本願明細書では、第2ノズル部12において切り欠き部12cが形成されている範囲を、周方向における角度θ(図10参照)で表すこととする。図示している例では、切り欠き部12cは、ノズル10の先端10teにおいて周方向に180°未満の範囲で形成されている。また、図9および図10に示すように、切り欠き部12cは、第2ノズル部12の基端から先端に向かうにつれて周方向における範囲が大きくなるように形成されている。
【0045】
図8に示すように、第1ノズル部11の内径は、第1ノズル部11の全体にわたって実質的に同じである。これに対し、第2ノズル部12の内周面は、第2ノズル部12の基端から先端に向かうにつれて第2ノズル部12の内径が拡大するようなテーパ形状を有している。
【0046】
既に説明したように、シリンダヘッドカバーに設けられたノズルから動弁機構にオイルを供給する構成では、エンジンが低温(つまりオイルも低温)で、かつ、エンジン回転数が低くオイルの吐出量が少ない状態(例えば冷間始動後のアイドリング状態)では、オイルの粘度が高いので、ノズルの先端からオイルを勢いよく吐出させることができず、動弁機構の所望の箇所にオイルを供給できないおそれがある。これに対し、ノズルを延長することにより、所望の箇所にオイルを導くことも考えられるが、エンジン内部におけるレイアウト上の制約がある。例えば、延長されたノズルと動弁機構の可動部品とが干渉するおそれがある。そのため、ノズルを延長する構成を採用し得ないこともある。
【0047】
これに対し、本実施形態のエンジン1が備えるノズル10は、ノズル10の基端10beからノズル10の先端10te側に延びる第1ノズル部11と、第1ノズル部11の先端からノズル10の先端10teまで延びる第2ノズル部12であって、周方向における一部が切り欠かれて動弁機構に面する切り欠き部12cが形成された第2ノズル部12とを含んでいる。そのため、本実施形態のエンジン1では、オイルの粘度が比較的高く、かつ、エンジン回転数が比較的低いときには、オイルは、図10中に矢印で示しているように、第2ノズル部12の切り欠かれていない部分を伝ってノズル10の先端10teから流れ落ち得る。第2ノズル12には、動弁機構に面する切り欠き部12cが形成されているので、ノズル10が動弁機構の可動部品に干渉することなく、粘度が高い状態のオイルを動弁機構の所望の部分に導くことが可能となる。
【0048】
図11は、シリンダヘッドカバー5に比較例のノズル910が設けられた構成を示している。比較例のノズル910には、その全体にわたってノズル孔910aが形成されている。比較例のノズル910には、動弁機構に面する切り欠き部は形成されていない。つまり、比較例のノズル910は、本実施形態におけるエンジン1のノズル10の第2ノズル部12に対応する部分を有していない。
【0049】
比較例のノズル910が設けられている場合、十分な暖機運転後や、エンジン回転数が比較的高いときには、点線の矢印で示しているように、ノズル910の先端からオイルを勢いよく吐出させることができるので、吸気弁21の軸端にオイルを十分に供給することができる。しかしながら、オイルの粘度が高く、かつ、エンジン回転数が低いときには、実線の矢印で示しているように、ノズル910の先端からオイルを勢いよく吐出させることができないので、吸気弁21の軸端にオイルを十分に供給することができない。
【0050】
これに対し、本実施形態のエンジン1では、オイルの粘度が比較的高く、かつ、エンジン回転数が比較的低いときには、図12に示すように、オイルは、第2ノズル部12の切り欠かれていない部分を伝ってノズル10の先端10teから流れ落ちるので、吸気弁21の軸端にオイルを十分に供給することができる。なお、本実施形態のエンジン1では、ノズル10の先端10teからオイルが勢いよく吐出しているとき(十分な暖機運転後や、エンジン回転数が比較的高いとき)には、オイルは、吸気弁21の軸端より後方にも供給され得る。吸気弁21の軸端より後方に供給されたオイルは、例えばカムシャフト23に流れ着き、カムシャフト23の回転によって飛沫としてシリンダヘッド4内に飛散してシリンダヘッド4内を潤滑する。
【0051】
第2ノズル部12において切り欠き部12cが形成されている範囲(図10に示す角度θ)は、特に限定されないが、動弁機構の可動部品とノズル10との干渉を避ける観点からは、切り欠き部12cが形成されている範囲がある程度以上に大きいことが好ましい。上述した観点からは、切り欠き部12cは、具体的には、ノズル10の先端10teにおいて周方向に70°以上の範囲で形成されていることが好ましい。
【0052】
ただし、ノズル10の先端10teからオイルを好適に流れ落ちさせる観点からは、第2ノズル部12の切り欠き部12cは、ノズル10の先端10teにおいて周方向に180°未満の範囲で形成されていることが好ましい。言い換えると、第2ノズル部12の切り欠き部12c以外の部分が、ノズル孔10aの下半分の一部に回り込むように形成されていることが好ましい。
【0053】
第2ノズル部12の切り欠き部12cは、例示したように、第2ノズル部12の基端から先端に向かうにつれて周方向における範囲が大きくなるように形成されていてもよい。
【0054】
第2ノズル部12の内周面が、第2ノズル部12の基端から先端に向かうにつれて第2ノズル部12の内径が拡大するようなテーパ形状を有していると、オイル吐出量が多い時(例えば最大時)におけるオイルの供給をいっそう好適に行うことができる。
【0055】
第2ノズル部12の長さLs(図9参照)は特に限定されないが、例えば、ノズル10全体の長さL(図9参照)の20%以上である。
【0056】
なお、本実施形態では、エンジン1が2つのノズル10を備える構成を例示したが、ノズル20の個数は2に限定されない。シリンダヘッドカバー5に、動弁機構の仕様(弁の個数等)に応じて1つまたは3つ以上のノズル10が設けられてもよい。
【0057】
ノズル10を含むシリンダヘッドカバー5の製造方法は、特に限定されないが、シリンダヘッドカバー5は、例えば鋳造法により製造され得る。つまり、シリンダヘッドカバー5は、鋳造品であり得る。
【0058】
上述したように、本発明の実施形態による内燃機関1は、シリンダボディ3と、前記シリンダボディ3に結合されたシリンダヘッド4と、前記シリンダヘッド4に結合されたシリンダヘッドカバー5と、前記シリンダヘッド4および前記シリンダヘッドカバー5内に設けられた動弁機構とを備える。内燃機関1は、前記シリンダヘッドカバー5に設けられ、前記動弁機構にオイルを供給し得るように配置されたノズル10をさらに備える。前記ノズル10は、前記ノズル10の基端10beから前記ノズル10の先端10te側に延びる第1ノズル部11と、前記第1ノズル部11の先端から前記ノズル10の先端10teまで延びる第2ノズル部12であって、周方向における一部が切り欠かれて前記動弁機構に面する切り欠き部12cが形成された第2ノズル部12とを含む。
【0059】
本発明の実施形態による内燃機関1は、シリンダヘッドカバー5に設けられ、動弁機構にオイルを供給し得るように配置されたノズル10を備えている。このノズル10は、ノズル10の基端10beからノズル10の先端10te側に延びる第1ノズル部11と、第1ノズル部11の先端からノズル10の先端10teまで延びる第2ノズル部12であって、周方向における一部が切り欠かれて動弁機構に面する切り欠き部12cが形成された第2ノズル部12cとを含んでいる。本発明の実施形態による内燃機関1では、オイルの粘度が比較的高く、かつ、回転数が比較的低いときには、オイルは、第2ノズル部12の切り欠かれていない部分を伝ってノズル10の先端10teから流れ落ち得る。第2ノズル12には、動弁機構に面する切り欠き部12cが形成されているので、ノズル10が動弁機構の可動部品に干渉することなく、粘度が高い状態のオイルを動弁機構の所望の部分に導くことが可能となる。
【0060】
ある実施形態において、前記切り欠き部12cは、前記ノズル10の先端10teにおいて周方向に70°以上の範囲で形成されている。
【0061】
動弁機構の可動部品とノズルとの干渉を避ける観点からは、第2ノズル部の切り欠き部は、ノズルの先端において周方向に70°以上の範囲で形成されていることが好ましい。
【0062】
ある実施形態において、前記切り欠き部12cは、前記ノズル10の先端10teにおいて周方向に180°未満の範囲で形成されている。
【0063】
ノズル10の先端10teからオイルを好適に流れ落ちさせる観点からは、第2ノズル部12の切り欠き部12cは、ノズル10の先端10teにおいて周方向に180°未満の範囲で形成されていることが好ましい。
【0064】
ある実施形態において、前記切り欠き部12cは、前記第2ノズル部12の基端から先端に向かうにつれて周方向における範囲が大きくなるように形成されている。
【0065】
第2ノズル部の切り欠き部は、第2ノズル部の基端から先端に向かうにつれて周方向における範囲が大きくなるように形成されていてもよい。
【0066】
ある実施形態において、前記第2ノズル部12の内周面は、前記第2ノズル部12の基端から先端に向かうにつれて前記第2ノズル部12の内径が拡大するようなテーパ形状を有している。
【0067】
第2ノズル部の内周面が、第2ノズル部の基端から先端に向かうにつれて第2ノズル部の内径が拡大するようなテーパ形状を有していると、オイル吐出量が多い時(例えば最大時)におけるオイルの供給をいっそう好適に行うことができる。
【0068】
本発明の実施形態による鞍乗型車両は、上述したいずれかの構成を有する内燃機関1を備える。
【0069】
ある実施形態において、前記ノズル10は、鉛直方向において前記動弁機構の上方に位置している。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の実施形態によれば、オイルの粘度が比較的高い状態でもシリンダヘッド内の動弁機構の所望の箇所にオイル供給を好適に行うことができる内燃機関を提供することができる。本発明の実施形態による内燃機関は、種々の鞍乗型車両に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0071】
1:エンジン(内燃機関)、2:クランクケース、3:シリンダボディ、4:シリンダヘッド、5:シリンダヘッドカバー、6:シリンダ、7:トランスミッションケース、8:燃焼室、9:ウォータジャケット、10:ノズル、10a:ノズル孔、10be:ノズルの基端、10te:ノズルの先端、11:第1ノズル部、12:第2ノズル部、12c:切り欠き部、21:吸気弁、22:排気弁、23:カムシャフト、23S:従動スプロケット、24:ロッカーアーム、31:吸気ポート、31A:吸気口、32:排気ポート、32A:排気口、34:カム室、35:カムチェーン室、100:自動二輪車、101:ヘッドパイプ、102:車体フレーム、103:シート、104:ハンドル、105:前輪、106:後輪
図1
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