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特開2024-59170ゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059170
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20240423BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G02B6/02 451
G02B6/036
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166681
(22)【出願日】2022-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載年月日:2022年8月31日 掲載アドレス:https://www.sciencedirect.com/journal/optical-fiber-technology
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】392017004
【氏名又は名称】湖北工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 実
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡人
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AD17
2H250AE35
2H250AE36
2H250AE37
2H250AE46
2H250AE56
2H250AF03
2H250AF13
2H250AF16
2H250AF23
2H250AF30
2H250AH18
2H250AH19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】波長1.1μmから1.9μm付近の広帯域に渡って波長分散の値がゼロ付近かつゼロ分散スロープを実現する光ファイバ。
【解決手段】第1クラッド層22には、直径dの6個の空孔を有し、第2クラッド層24には、直径dの12個の空孔を有し、第1クラッド層と第2クラッド層の各クラッド層内で隣接する空孔間の距離と、第1クラッド層中の空孔に隣接する第2クラッド層中の空孔間との距離は共にΛであり、下記式の条件を満たす。

【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバ本体の軸に垂直な断面において、
中心に配置された中実部と、
前記中実部の中心から半径方向外側に向かって順次形成された第1クラッド層、第2クラッド層、漏洩防止クラッド層の3つのクラッド層を有し、
前記各クラッド層は、前記ファイバ本体の軸に沿った空孔を有し、
前記第1クラッド層には、直径dの6個の前記空孔を有し、
前記第2クラッド層には、直径dの12個の前記空孔を有し、
前記第1クラッド層と前記第2クラッド層の前記各クラッド層内で隣接する前記空孔間の距離と、前記第1クラッド層中の前記空孔に隣接する前記第2クラッド層中の前記空孔間との距離は共にΛであり、(1)式から(3)式の条件を満たすことを特徴とするゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバ。
【数100】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバ軸に沿って伸びる複数の空孔を備えるフォトニック結晶ファイバに関するものである。本発明に係るゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバは、広帯域に渡って波長分散の値がゼロ付近かつゼロ分散スロープという特性を達成できる。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶ファイバは、クラッドに配置した空孔の間隔や大きさを変えることにより、従来の光ファイバでは不可能な光学特性を実現できることが知られている。
【0003】
例えば、フォトニック結晶ファイバは、クラッドに配置した空孔によるその大きな導波路分散により従来の光ファイバよりも短波長側にゼロ分散波長をシフトできることが知られている。
【0004】
また例えば、非特許文献1では空孔径d、隣接間空孔距離Λのホーリーファイバー(フォトニック結晶ファイバ)において、Λを2.3μm、d/Λを0.3付近とすることで、分散フラットの領域が存在することが示唆されている。
【0005】
一方、従来の光ファイバでも、リングコア構造とすることにより波長1.55μm付近においてゼロ分散かつ分散フラットな光ファイバが実現できることが知られている。このような光ファイバは波長1.55μmの光源を種光源とするスーパーコンティニウム光の発生に有効であることが知られている。
【0006】
一方、特許文献1では、スーパーコンティニウム光源用のファイバとして、「クラッド特徴部/孔の中心から中心までの間隔はピッチ(Λ)と称され、微細構造ファイバは、コアの寸法と、クラッド特徴部の間隔もしくはピッチ(Λ)に対するクラッド特徴部の寸法の割合とによって特徴づけられる。クラッド特徴部の寸法およびピッチを調節することによって、ファイバのゼロ分散波長(ZDW)を調節できる。」との記載がある。このような、フォトニック結晶ファイバはゼロ分散波長が従来の光ファイバよりも短波長側にあり、なおかつコア径が小さく非線形性が高いため、波長1.06μmを種光源とするスーパーコンティニウム光の発生に有効であることが知られている。
【0007】
このようにスーパーコンティニウム光用の発生ファイバは、短波長側でゼロ分散あるいは、波長1.55μm付近でゼロ分散かつ分散フラットなもののどちらかであり、波長1.1μmから波長1.9μmの広帯域に渡って、波長分散の値がゼロ付近かつゼロ分散スロープという光ファイバはこれまでに実現されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-74045号公報(特許第6974518号)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tanya M.Monro et al,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,VOL.17,NO.6,JUNE 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、フォトニック結晶ファイバは、ゼロ分散波長を短波長側にシフトできる点や狭い帯域で分散フラットが実現できる点は認められていたものの、実際に波長1.1μmから1.9μm付近の広帯域に渡って、波長分散の値がゼロ付近かつゼロ分散スロープを実現する光ファイバは存在せず、またそのための光ファイバを実現するためのフォトニック結晶ファイバの構造に関する指針はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記のような課題に鑑み、フォトニック結晶ファイバの第1層の空孔により短波長側にゼロ分散波長を1.1μmまでシフトし、第2層の空孔の周囲の石英部をリングコアとして機能させることで、波長1.55μm付近の広帯域に渡り分散フラットが実現でき、波長1.1μmから1.9μmにおいて波長分散の値がゼロ付近かつゼロ分散スロープな光ファイバを実現できることを見出した。また、発明者らは、波長1.55μmでゼロ分散かつ波長1.1μmから1.9μmで分散フラットなフォトニック結晶ファイバを実現するための、空孔間隔および第1層と第2層の空孔径の適切な関係を見出した。さらに発明者らは、上記関係において、このようなゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバの製造ばらつきについて、第1層目のクラッド領域の空孔径が一定の範囲に入ることが重要であることを見出した。
【0012】
より具体的に本発明に係るゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバは、
ファイバ本体の軸に垂直な断面において、
中心に配置された中実部と、
前記中実部の中心から半径方向外側に向かって順次形成された第1クラッド層、第2クラッド層、漏洩防止クラッド層の3つのクラッド層を有し、
前記各クラッド層は、前記ファイバ本体の軸に沿った空孔を有し、
前記第1クラッド層には、直径dの6個の前記空孔を有し、
前記第2クラッド層には、直径dの12個の前記空孔を有し、
前記第1クラッド層と前記第2クラッド層の前記各クラッド層内で隣接する前記空孔間の距離と、前記第1クラッド層中の前記空孔に隣接する前記第2クラッド層中の前記空孔間との距離は共にΛであり、(1)式から(3)式の条件を満たすことを特徴とする。
【0013】
【数1】
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバは、少なくともn層以上のクラッド領域を備え(n≧3)、第1クラッド層の空孔によりゼロ分散波長を短波長側にシフトし、第2クラッド層の空孔の周囲の石英部のリングコアにより波長1.55μm付近の広帯域に渡り分散フラットにすることが可能となる。また、第1クラッド層および第2クラッド層の空孔間距離Λを一定の範囲で決めれば、波長1.1μmから1.9μmにおいて波長分散の値がゼロ付近かつゼロ分散スロープの特性を有するファイバの第1クラッド層および第2クラッド層の空孔径をほぼ一意に決めることができる。また、第3クラッド層以降の空孔により長い波長の光が第2クラッド層の空孔より外側のクラッド領域に広がって漏れるのを防ぐことが可能となる。
【0015】
このようなゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバは、波長1.1μmから1.9μmにおいて、分散値の値がゼロ付近かつ分散フラットであり、波長1.06μmや波長1.55μmなどのいずれの波長を種光源としても良く、また広帯域に分散フラットであるため、光ファイバ伝搬中のスーパーコンティニウム光の広がり具合に優れる。
【0016】
さらに、このようなゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバの製造ばらつきについて、第1層目のクラッド領域の空孔径が一定の範囲に入ればよく、実際のファイバの製造時の冗長性を高めることができる。このため、より製造しやすいゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバの断面を示す模式図である。
図2】クラッド領域の拡大図である。
図3】各クラッド層の空孔間距離および空孔径を説明する図である。
図4】Λ=2.0μmで、d/Λ=0.2の時にd/Λの値を変えながら波長分散特性をシミュレーションした結果を表す図である。
図5】Λ=2.0μmで、d/Λ=0.3の時にd/Λの値を変えながら波長分散特性をシミュレーションした結果を表す図である。
図6】Λ=2.0μmで、d/Λ=0.4の時にd/Λの値を変えながら波長分散特性をシミュレーションした結果を表す図である。
図7】Λ=2.0μmで、d/Λ=0.5の時にd/Λの値を変えながら波長分散特性をシミュレーションした結果を表す図である。
図8】各Λの時のゼロ分散(D=0)と分散フラット(S=0)の線を表示した図である。
図9】Λとd/Λの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明に係るゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバについて図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。また、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0019】
<ファイバ構成>
図1に本発明に係るゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバ1(以下単に「フォトニック結晶ファイバ1」とも呼ぶ。)の断面図を示す。このフォトニック結晶ファイバ1の軸は紙面表側から裏側に垂直に向かう。従って図1はフォトニック結晶ファイバ1の軸に垂直な断面である。
【0020】
フォトニック結晶ファイバ1は硝材12の中心に中実部20が配置され、その周囲にクラッド領域10が設けられている。クラッド領域10の外側の硝材12の幅12wは任意の大きさで良い。
【0021】
図2にクラッド領域10の拡大図を示す。フォトニック結晶ファイバ1(図1参照)は硝材12の中心に中実部20が設けられている。中実部20は断面が円形で軸方向に延びるファイバである。中実部20の周囲には、第1クラッド層22、第2クラッド層24,漏洩防止クラッド層40が形成される。図2では、漏洩防止クラッド層40は、第3クラッド層26、第4クラッド層28、第5クラッド層30の3層で構成されている状態を示している。
【0022】
ここでクラッド層とは、中実部20の中心から半径方向外側に向かって内側のクラッド層を包み込むように順次設けられた領域で、各クラッド層は、フォトニック結晶ファイバ1(ファイバ本体)の軸に沿って設けられた空孔を有する。つまり、クラッド層は、中実部20の中心から半径方向外側に向かって順次形成されていると言える。
【0023】
以降の説明において、各クラッド層の符号は、各クラッド層の空孔を示しているが、空孔自体を示す際は、さらにアルファベットの添え字をつける。例えば、第1クラッド層22の空孔は空孔22a、22b等と表す。
【0024】
第1クラッド層22と第2クラッド層24に設けられる空孔は数が決まっており、それぞれ6個と12個である。第1クラッド層22の空孔は正六角形の頂点に配置され、第2クラッド層24の空孔は、正六角形の頂点と辺の中央に配置される。したがって、第1クラッド層22中の隣接する空孔同士、および第2クラッド層24中の隣接する空孔同士の空孔間距離は等しい。ここで空孔間距離とは、空孔の中心同士の距離をいう。また「隣接する」とは、空孔間距離が最も短くなる関係にある空孔同士をいう。
【0025】
そして本発明のフォトニック結晶ファイバ1では、第1クラッド層22中の隣接する空孔同士の空孔間距離と、第2クラッド層24中の隣接する空孔同士の空孔間距離も等しい。この空孔間距離をΛとする。
【0026】
さらに、本発明のフォトニック結晶ファイバ1では、第1クラッド層22中の空孔と、第2クラッド層24中の空孔で、隣接するもの同士の空孔間距離もΛと等しい。すなわち、第1クラッド層22と第2クラッド層24中の隣接する3つの空孔は、いずれの組み合わせでも、正三角形の頂点に位置する関係にある。
【0027】
上記のようにクラッド領域10には、少なくとも3層以上のクラッド層が存在し、n番目のクラッド層に属する空孔の直径をdとする(nは自然数)。したがって、第1クラッド層22と第2クラッド層24中の空孔の直径はそれぞれd、dとなる。本発明のフォトニック結晶ファイバ1では、第1クラッド層22と第2クラッド層24中の空孔同士の直径はそれぞれ等しい。つまり、第1クラッド層22中の空孔径(空孔の直径)は6個ともdであり、第2クラッド層24中の空孔径は12個ともdである。
【0028】
漏洩防止クラッド層40中の空孔間距離および空孔径については、特に限定されるものではない。漏洩防止クラッド層40は、ファイバ中を通過する光がクラッド領域10より外側に漏れないように、若しくは漏れをできるだけ少なくするために設けられる。したがって、この目的を達成されるのであれば、空孔間距離および空孔径について、限定されない。
【0029】
なお、図2に示す様に、漏洩防止クラッド層40を3つのクラッド層で形成するのは、漏洩防止クラッド層40の構成として好ましい形態の1つであると言える。以下図2の構成について詳説する。
【0030】
図2で示した構成では、k番目(1≦k≦n:kは自然数)のクラッド層には、6k個の空孔が配置される。ここでnは漏洩防止クラッド層40中のクラッド層を含め、クラッド層の総数である。図2では第3クラッド層26以降のクラッド層においても、各空孔は六角形の頂点およびその辺上に配置される。また、第3クラッド層26以降のクラッド層においても、各層の空孔径は上記に記載したようにd~dとなる(図2ではdおよびdの指示は省略している。)。
【0031】
また、第3クラッド層26以降のクラッド層では、空孔径は全て同じである。つまり、図2では、d~dは全て同じ空孔径である。また、d~dは、長波長になるにつれて第2クラッド層24より外側に広がって漏れる光を閉じ込める目的で形成され、フォトニック結晶ファイバ1の分散特性にはほとんど関与しない。光の漏れを防ぐための十分な穴の大きさを有しておれば良い。例えば(4)式の関係を満たせばよい。
【0032】
【数2】
【0033】
本発明に係るフォトニック結晶ファイバ1では、第1クラッド層22の空孔径dにより、ゼロ分散波長を短波長側にシフトし、第2クラッド層24の空孔径dを調節することでその周囲の石英部(硝材12)によるリングコアにより、波長1.55μm付近の広帯域に渡って波長分散の値がゼロ付近かつゼロ分散スロープを実現する。また、第3クラッド層26以降のクラッド層は、長波長になるにつれて第2クラッド層24より外側に広がって漏れる光を閉じ込める。例えば、(4)式の関係を満たせば光の漏れを防止することができる。
【0034】
図3には、図2の一部拡大図を示す。中実部20を中心に第1クラッド層22から第5クラッド層30の空孔が示されている。ここで同一クラッド層に属する隣接空孔同士の距離ΛをLmm(1≦m≦n-1:mは自然数)で示す。ここでnはクラッド層の総数である。また1つ外側のクラッド層に属する空孔との隣接空孔距離ΛをLmm+1で表す。図3では、L11、L22、L33、L44、L55は同一クラッド層に属する隣接空孔距離であり、L12、L23、L34、L45は隣り合うクラッド層に属する隣接空孔距離である。本発明に係るフォトニック結晶ファイバ1の一例では、これらの隣接空孔間距離が全て同じΛである。
【0035】
<数値シミュレーター>
次に本発明に係るフォトニック結晶ファイバ1の特性を決めるには数値シミュレーションを用いている。数値シミュレーターは市販のソフトであり、旧Rsoft社のBeamPROPである。また、横方向と縦方向は縮退しているとしてスカラー波動方程式を虚軸ビーム伝搬法により解いた。
【0036】
まず、数値シミュレーターの妥当性を検討するため、通常のシングルモードファイバの波長分散特性の計算を行った。計算で得られた分散値は波長1.55μmで17ps/(nm・km)であり、実測値と一致しており、数値シミュレーターの計算結果は妥当であると言える。
【0037】
<計算結果>
上記の数値シミュレーターを用いて図1図3で示した条件で数値シミュレーションを行った。
【0038】
Λは2.0μm、d/Λ=0.8とし、d/Λ、d/Λをそれぞれ変化させながら、フォトニック結晶ファイバ1の断面における光の波長(μm)に対する分散値(ps/(nm・km))を求めてプロットした。結果の一部を図4図7に示す。
【0039】
図4は、d/Λ=0.2、図5は、d/Λ=0.3、図6はd/Λ=0.4、図7はd/Λ=0.5の場合であり、それぞれd/Λ=0.2~0.8までについて算出したものである。
【0040】
図6を参照して、d/Λ=0.3の時(符号Aで示した。)に波長1.1μmから1.9μmまでの広い範囲にわたって、分散は-1.4~4.8(ps/(nm・km))であり、この波長帯域で波長分散の値がゼロ付近が実現できていた。また、波長1.1μmから1.9μmの間の0.05μm刻みの各波長における平均の分散スロープは0.0066(ps/(nm・km))でありゼロ分散スロープが実現できていた。
【0041】
なお、本発明のフォトニック結晶ファイバ1において、波長分散の値がゼロ付近とは、分散値の値が-5(ps/(nm・km))~5(ps/(nm・km))であり、ゼロ分散スロープとは対象となる波長範囲で分散スロープの平均値が0.01(ps/(nm・km))以下であることを差す。
【0042】
図8を参照する。図8図4図7で示した計算結果に対して隣接空孔間距離Λを1.75μm、1.5μm、1.25μmと変化させた場合の計算結果である(Λ=2.0μmも掲載した。)。また、実線は波長1.55μmにおける分散値がゼロ(「D=0」と記載した。)のラインであり、破線は、波長1.1μm~1.9μmの平均の分散スロープがゼロ(「S=0」と記載した。)のラインである。なお、平均の分散スロープの算出に当たっては、波長1.1μmから1.9μmの間の0.05μm刻みの各波長における分散スロープを求めて、その平均値とした。実線と破線の交点が、ゼロ分散かつゼロ分散スロープが形成できる点である。これをゼロ点と呼ぶ。ゼロ点は、波長1.55μmにおいて分散値がゼロかつ波長が1.1μmから1.9μmの平均の分散スロープがゼロとなる点である。
【0043】
このグラフを見ると、d/Λが0.4から0.42の範囲でゼロ点が並んでいるのがわかる。つまり(2)式のように表される。
【0044】
【数3】
【0045】
図9は、このゼロ点を横軸Λ(隣接間空孔距離)、縦軸をd/Λとしてプロットしたグラフである。この点は(3)式の関係でまとめることができた。
【0046】
【数4】
【0047】
なお、Λの範囲を検討すると、(1)式の範囲でゼロ点を確認することができた。
【0048】
【数5】
【0049】
また、d=0.4Λの場合は、Λが1.79以上でd>dとなる。同様にd=0.42Λの場合は、Λが1.83以上でd>dとなる。したがって、少なくともΛが1.79以上であれば、d>dの関係を満たし、ゼロ分散および分散スロープフラットの特性を得ることができる。d>dの関係を満たすようなΛBは、ΛBが十分大きく、結果としてコア径が大きくなるため、従来光ファイバとの接続性に優れる。
【0050】
以上のことから、図1図3の構成を有するフォトニック結晶ファイバ1において、(1)式から(3)式の関係を有する設計で波長1.55μmで分散ゼロ、波長1.1μmから1.9μmに渡りゼロ分散スロープの特性を実現することができる。
【0051】
【数6】
【0052】
なお、漏洩防止クラッド層40内に属するクラッド層の一例としては(4)式を満たすことで実現できる。
【0053】
【数7】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るフォトニック結晶ファイバは、スーパーコンティニウム光源用のファイバとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ゼロ分散・分散フラットフォトニック結晶ファイバ
1 フォトニック結晶ファイバ
10 クラッド領域
12 硝材
12w (硝材の)幅
20 中実部
22 第1クラッド層
24 第2クラッド層
26 第3クラッド層
28 第4クラッド層
30 第5クラッド層
40 漏洩防止クラッド層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9