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特開2024-59186ブレード損傷評価システム、ブレード損傷評価方法およびブレード損傷評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059186
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ブレード損傷評価システム、ブレード損傷評価方法およびブレード損傷評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   F01D 21/10 20060101AFI20240423BHJP
   F01D 5/00 20060101ALI20240423BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240423BHJP
【FI】
F01D21/10
F01D5/00
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166707
(22)【出願日】2022-10-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「2020年度~2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/石炭火力の負荷変動対応技術開発/タービン発電設備次世代保守技術開発」」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 康貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】中島 将太
(72)【発明者】
【氏名】河合 泰輝
【テーマコード(参考)】
2G024
3G071
3G202
【Fターム(参考)】
2G024AD05
2G024BA12
2G024BA27
2G024CA30
2G024FA01
2G024FA06
2G024FA11
3G071AA01
3G071AB01
3G071BA22
3G071BA25
3G071DA16
3G071GA02
3G202BA02
3G202BB04
(57)【要約】
【課題】ダイナミックに変化する運転条件で運用されるタービンのブレードの損傷を正確に評価する技術を提供する。
【解決手段】コンピュータ5は、設計データと保守データと運転データに基づいて、タービン40への固体粒子の流入および衝突の評価を行い、タービン40を生存時間解析でモデル化した式に対し、設計データと保守データと運転データの少なくともいずれかに含まれている少なくとも1つのデータを因子として当てはめ、将来の任意の時間にブレード34の浸食量が予め定められた閾値に到達しないことを示す生存率である浸食閾値未到達確率を算出するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気またはガスの流れにより回転駆動するタービンが有する複数枚のブレードの損傷の評価を行う1つ以上のコンピュータを備え、
前記コンピュータは、
前記タービンおよび前記タービンに関連する周辺機器の構造および構成に関する設計データを取得し、
前記タービンおよび前記周辺機器の保守に関する保守データを取得し、
前記タービンおよび前記周辺機器に設けられたセンサーから、前記タービンおよび前記周辺機器の運転状態に関する運転データを取得し、
前記設計データと前記保守データと前記運転データに基づいて、前記タービンへの固体粒子の流入および衝突の評価を行い、
前記タービンを生存時間解析でモデル化した式に対し、前記設計データと前記保守データと前記運転データの少なくともいずれかに含まれている少なくとも1つのデータを因子として当てはめ、将来の任意の時間に前記ブレードの浸食量が予め定められた閾値に到達しないことを示す生存率である浸食閾値未到達確率を算出する、
ように構成されている、
ブレード損傷評価システム。
【請求項2】
前記コンピュータは、前記タービンを生存時間解析でモデル化した式に対し、前記設計データと前記保守データと前記運転データの少なくともいずれかに含まれている少なくとも2つのデータを前記因子として当てはめて、前記浸食閾値未到達確率を算出する、
請求項1に記載のブレード損傷評価システム。
【請求項3】
前記設計データは、前記タービンが設けられる発電プラントの設計情報、前記周辺機器としてのボイラーまたは熱交換器の設計情報、前記周辺機器としての主蒸気配管または給水配管の設計情報、前記周辺機器としての蒸気弁の設計情報、前記タービンの設計情報、の少なくとも1つを含み、
前記発電プラントの設計情報は、発電容量、前記発電プラントがコンバインドサイクルまたはコンベンショナルであることを示す情報、の少なくとも1つを含み、
前記ボイラーまたは前記熱交換器の設計情報は、定格運転時の温度、圧力、燃料の種類、型式、容量、前記熱交換器のチューブの材質、の少なくとも1つを含み、
前記主蒸気配管または前記給水配管の設計情報は、前記主蒸気配管または前記給水配管の材質、長さ、曝露温度、バイパス流路の有無を示す情報、の少なくとも1つを含み、
前記蒸気弁の設計情報は、ファインメッシュの有無を示す情報、副弁の有無を示す情報、の少なくとも1つを含み、
前記タービンの設計情報は、前記タービンに噴射される蒸気の温度、流量、圧力、アドミッション数、動翼としての前記ブレードの枚数、翼長、羽根-ノズル間距離、ピッチ直径、回転周速、静翼としての前記ブレードの枚数、流出角度、強度特性、の少なくとも1つを含む、
請求項1または請求項2に記載のブレード損傷評価システム。
【請求項4】
前記保守データは、前記周辺機器としてのボイラーまたは熱交換器の保守情報、前記周辺機器としての主蒸気配管または給水配管の保守情報、前記タービンの保守情報、の少なくとも1つを含み、
前記ボイラーまたは前記熱交換器の保守情報は、保守の回数、頻度、時期、脱スケールの方法、フラッシングの方法、前記熱交換器のチューブの交換の有無を示す情報、の少なくとも1つを含み、
前記主蒸気配管または前記給水配管の保守情報は、保守の回数、頻度、時期、脱スケールの方法、フラッシングの方法、の少なくとも1つを含み、
前記タービンの保守情報は、保守の回数、頻度、時期、初段の動翼または静翼の交換履歴、手入れ履歴、の少なくとも1つを含む、
請求項1または請求項2に記載のブレード損傷評価システム。
【請求項5】
前記運転データは、前記タービンの初段の動翼または静翼の前後の蒸気の温度、流量、圧力、前記周辺機器としての蒸気弁の開度、前記周辺機器としてのバイパス弁の開度、コールド起動停止回数、の少なくとも1つを含む、
請求項1または請求項2に記載のブレード損傷評価システム。
【請求項6】
前記タービンを生存時間解析でモデル化した式は、前記閾値に到達した前記ブレードのフィールドデータと、前記閾値に到達していない前記ブレードのフィールドデータと、を用いて作成されている、
請求項1または請求項2に記載のブレード損傷評価システム。
【請求項7】
前記タービンを生存時間解析でモデル化した式は、コックス比例ハザードモデルを用いて作成されている、
請求項1または請求項2に記載のブレード損傷評価システム。
【請求項8】
蒸気またはガスの流れにより回転駆動するタービンが有する複数枚のブレードの損傷の評価を行う1つ以上のコンピュータを用いて行う方法であり、
前記タービンおよび前記タービンに関連する周辺機器の構造および構成に関する設計データを取得し、
前記タービンおよび前記周辺機器の保守に関する保守データを取得し、
前記タービンおよび前記周辺機器に設けられたセンサーから、前記タービンおよび前記周辺機器の運転状態に関する運転データを取得し、
前記設計データと前記保守データと前記運転データに基づいて、前記タービンへの固体粒子の流入および衝突の評価を行い、
前記タービンを生存時間解析でモデル化した式に対し、前記設計データと前記保守データと前記運転データの少なくともいずれかに含まれている少なくとも1つのデータを因子として当てはめ、将来の任意の時間に前記ブレードの浸食量が予め定められた閾値に到達しないことを示す生存率である浸食閾値未到達確率を算出する、
処理を前記コンピュータが実行する、
ブレード損傷評価方法。
【請求項9】
蒸気またはガスの流れにより回転駆動するタービンが有する複数枚のブレードの損傷の評価を行う1つ以上のコンピュータで実行されるプログラムであり、
前記タービンおよび前記タービンに関連する周辺機器の構造および構成に関する設計データを取得し、
前記タービンおよび前記周辺機器の保守に関する保守データを取得し、
前記タービンおよび前記周辺機器に設けられたセンサーから、前記タービンおよび前記周辺機器の運転状態に関する運転データを取得し、
前記設計データと前記保守データと前記運転データに基づいて、前記タービンへの固体粒子の流入および衝突の評価を行い、
前記タービンを生存時間解析でモデル化した式に対し、前記設計データと前記保守データと前記運転データの少なくともいずれかに含まれている少なくとも1つのデータを因子として当てはめ、将来の任意の時間に前記ブレードの浸食量が予め定められた閾値に到達しないことを示す生存率である浸食閾値未到達確率を算出する、
処理を前記コンピュータに実行させる、
ブレード損傷評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ブレード損傷評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タービンでは、ボイラーまたは燃焼器などで加熱発生した高温・高圧の蒸気またはガスが噴射されたブレードが、駆動力を得て回転している。ところで、この蒸気またはガスには固体粒子が混在し、蒸気弁などに設けられたストレーナなどですべては補足できず、タービンの内部に流入することが避けられない。この蒸気またはガスに混在する固体粒子がブレードの表面に衝突すると、ブレードが表面から減肉していく。これは、固体粒子の衝突により表面が摩耗する現象であるSPE(Solid Particle Erosion)が発生するためである。
【0003】
特に、タービン回転軸に多段に渡り設けられたブレードのうち、初段の動翼においては、SPEによる減肉が顕著に確認される。この初段の動翼の減肉量は、ブレードの強度評価に基づき設定される閾値を、超過しないように管理されている。従来における一般的な管理方法は、タービンの開放点検時に動翼の減肉量を計測し、前回点検時に計測した減肉量から減肉速度などを計算する。そして、この減肉速度と閾値との関係性から、次回の開放点検時期または動翼の交換推奨時期が見積られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭56-12682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の管理方法では、定期的にタービンのケーシングを開放し動翼の減肉量を計測する必要があり、相当な工数と工期を要してしまう課題がある。また、近年、火力発電は、これまでのベースロード運転とは相違して、低負荷運転または負荷変動運転といった調整火力として運用されることが想定される。従って、従来のSPE減肉量の予測は、ベースロード運転を前提条件としているため、調整火力として運転条件をダイナミックに変化して運用する場合のSPE減肉量の予測に適用することが困難である。
【0006】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、ダイナミックに変化する運転条件で運用されるタービンのブレードの損傷を正確に評価する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るブレード損傷評価システムは、蒸気またはガスの流れにより回転駆動するタービンが有する複数枚のブレードの損傷の評価を行う1つ以上のコンピュータを備え、前記コンピュータは、前記タービンおよび前記タービンに関連する周辺機器の構造および構成に関する設計データを取得し、前記タービンおよび前記周辺機器の保守に関する保守データを取得し、前記タービンおよび前記周辺機器に設けられたセンサーから、前記タービンおよび前記周辺機器の運転状態に関する運転データを取得し、前記設計データと前記保守データと前記運転データに基づいて、前記タービンへの固体粒子の流入および衝突の評価を行い、前記タービンを生存時間解析でモデル化した式に対し、前記設計データと前記保守データと前記運転データの少なくともいずれかに含まれている少なくとも1つのデータを因子として当てはめ、将来の任意の時間に前記ブレードの浸食量が予め定められた閾値に到達しないことを示す生存率である浸食閾値未到達確率を算出する、ように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、ダイナミックに変化する運転条件で運用されるタービンのブレードの損傷を正確に評価する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ブレード損傷評価システムを示すブロック図。
図2】火力発電プラントを示す概略図。
図3】ブレード損傷評価方法の処理を示すフローチャート。
図4】1つの因子を考慮した場合の浸食閾値未到達確率と時間との関係を示すグラフ。
図5】複数の因子を考慮した場合の浸食閾値未到達確率と時間との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、ブレード損傷評価システム、ブレード損傷評価方法およびブレード損傷評価プログラムの実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1の符号1は、本実施形態のブレード損傷評価システムである。このブレード損傷評価システム1は、評価の対象となる対象施設から取得した各種データに基づいて、対象施設に設けられた各機器の故障またはその予兆の評価を行うものである。特に、ブレード損傷評価システム1は、所定の発電装置の運転に伴う損耗量を評価する。対象施設は、例えば、火力発電プラント2である。なお、対象施設は、原子力発電プラント、発電装置が設けられた工場または商業施設などでもよい。
【0012】
図2に示すように、故障またはその予兆の評価を行う対象となる機器は、例えば、火力発電プラント2に設けられたタービン40である。ブレード損傷評価システム1は、このタービン40が有する複数枚のブレード34の損傷の評価を行う。なお、タービン40は、蒸気48の流れにより回転駆動するものを例示するが、高温高圧のガスの流れにより回転駆動するものでもよい。
【0013】
火力発電プラント2は、ボイラー35の内部に燃料43を供給して燃焼させ、熱交換器55で熱交換することで、液媒47を蒸気48にする。このボイラー35で発生させた蒸気48は、主蒸気配管44に導かれてタービン40の内部に導入される。そして蒸気48は、ブレード34に噴射され、ケーシング36に支持されているロータ33を軸回転させる。このロータ33は、同軸接続された発電機37を回転駆動させて、回転運動エネルギーを電気エネルギーに変換させる。
【0014】
このタービン40で仕事をして排出された蒸気48は、冷却水39が循環する復水器38で冷却され、凝縮して復水としての液媒47に戻る。この液媒47は、給水配管56を経てボイラー35の熱交換器55に再供給される。なお、本実施形態においてブレード34は、ロータ33の半径方向に沿って放射状に設けられ、このロータ33とともに回転する動翼と、動翼の配列の隙間に配置されケーシング36に固定される静翼と、の両方を含む。なお、タービン40の周辺機器という用語は、機械的または蒸気48を介してタービン40に接続される任意の装置または構成要素を指す。
【0015】
ボイラー35からタービン40に送られる蒸気48には、主に熱交換器55の内表面で生成された酸化被膜(スケール)が遊離された固体粒子が多く混入している。タービン40のブレード34は、このような固体粒子が衝突することによって、固体粒子エロージョン(SPE:Solid Particle Erosion)と呼ばれる浸食を受ける。
【0016】
蒸気48に含まれる固体粒子との衝突によりブレード34が摩耗して損傷を受けると、静翼から動翼に噴射される蒸気48の噴射条件、例えば、角度、速度などが変化してタービン40の内部効率、つまり、タービン40の性能が低下してしまう。さらに、摩耗が進行すると、ブレード34の欠損、折れ曲がりなどといった損傷が進展していく。さらに、クラックが発生し、このクラックが成長し、ブレード34が吹き飛ばされ、他の健全なブレード34に衝突して損傷させてしまうことも考えられる。
【0017】
このため、火力発電プラント2では、運転中のボイラー35からタービン40にスケールの固体粒子が持ち込まれないよう、設計・保守・運転において配慮がなされている。しかし、そのような固体粒子の蒸気48への混入を完全に防止することはできない。このため、固体粒子エロージョンによるブレード34の損傷の進展を、正確に監視・予測していく必要がある。
【0018】
次に、ブレード損傷評価システム1の構成を図1に示すブロック図を参照して説明する。
【0019】
まず、火力発電プラント2には、多数のセンサー3が設けられている。これらのセンサー3は、例えば、タービン40およびその周辺機器に取り付けられている所定の計測器である。また、センサー3は、これらの機器の状態を示す情報を含む測定値(実測値)を取得する。
【0020】
本実施形態のブレード損傷評価システム1は、データ取得用コンピュータ4と評価用コンピュータ5とを備える。これらは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータである。さらに、本実施形態のブレード損傷評価方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0021】
データ取得用コンピュータ4は、火力発電プラント2に設けられ、センサー3で取得した運転データを収集する。このデータ取得用コンピュータ4は、例えば、運転データを保存するためのサーバなどである。ここで、収集された運転データは、評価用コンピュータ5に送られる。
【0022】
評価用コンピュータ5は、タービン40のブレード34の損傷の評価を行う。この評価用コンピュータ5は、例えば、タービン40の初段、中段、後段のそれぞれの動翼および静翼のブレード34の評価を行う。
【0023】
評価用コンピュータ5は、処理回路6と入力部7と出力部8と通信部9と記憶部10とを備える。
【0024】
本実施形態の処理回路6は、例えば、CPU、専用または汎用のプロセッサを備える回路である。このプロセッサは、記憶部10に記憶した各種のプログラムを実行することにより各種の機能を実現する。また、処理回路6は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても各種の機能を実現することができる。また、処理回路6は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0025】
入力部7には、評価用コンピュータ5を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部7には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部7に入力される。
【0026】
出力部8は、所定の情報の出力を行う。例えば、評価用コンピュータ5には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部8は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体でもよいし、一体でもよい。
【0027】
通信部9は、所定の通信回線を介してデータ取得用コンピュータ4と通信を行う。本実施形態では、データ取得用コンピュータ4と評価用コンピュータ5が、LAN(Local Area Network)を介して互いに接続されている。なお、データ取得用コンピュータ4と評価用コンピュータ5が、インターネット、WAN(Wide Area Network)または携帯通信網を介して互いに接続されてもよい。
【0028】
記憶部10は、ブレード34(図2)の評価を行うときに必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部10は、データ取得用コンピュータ4から送られた運転データを記憶する。さらに、記憶部10は、予め取得された設計データおよび保守データを記憶する。
【0029】
さらに、評価用コンピュータ5には、図1に示す構成以外のものが含まれてもよいし、図1に示す一部の構成が省略されてもよい。
【0030】
また、評価用コンピュータ5の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、評価用コンピュータ5の構成が、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータで実現されてもよい。例えば、設計データと保守データと運転データを記憶する記憶部10が、それぞれ個別のコンピュータとしてのデータベースに搭載されていてもよい。
【0031】
図2に示すように、設計データは、タービン40およびその周辺機器に関する構造および構成の設計情報を含む。周辺機器は、例えば、ボイラー35、発電機37、復水器38、主蒸気配管44、熱交換器55、給水配管56、蒸気弁(図示略)、バイパス弁(図示略)などを含む。
【0032】
設計データは、主に、プラント設計条件、ボイラー設計条件、配管設計条件、蒸気弁設計条件、タービン設計条件のうち、1つまたは複数で構成される。
【0033】
この設計データは、タービン40が設けられる火力発電プラント2の設計情報、ボイラー35または熱交換器55の設計情報、主蒸気配管44または給水配管56の設計情報、蒸気弁(図示略)の設計情報、タービン40の設計情報、の少なくとも1つを含む。
【0034】
火力発電プラント2の設計情報は、発電容量、火力発電プラント2がコンバインドサイクルまたはコンベンショナルであることを示す情報、の少なくとも1つを含む。
【0035】
ボイラー35または熱交換器55の設計情報は、定格運転時の温度、圧力、燃料43の種類、型式、容量、熱交換器55のチューブ(図示略)の材質、の少なくとも1つを含む。
【0036】
主蒸気配管44または給水配管56の設計情報は、主蒸気配管44または給水配管56の材質、長さ、曝露温度、バイパス流路(図示略)の有無を示す情報、の少なくとも1つを含む。
【0037】
蒸気弁(図示略)の設計情報は、ファインメッシュ(図示略)の有無を示す情報、副弁(図示略)の有無を示す情報、の少なくとも1つを含む。
【0038】
タービン40の設計情報は、タービン40に噴射される蒸気48の温度、流量、圧力、アドミッション数、動翼としてのブレード34の枚数、翼長、羽根-ノズル間距離、ピッチ直径(PCD:Pitch Circle Diameter)、回転周速、静翼としてのブレード34の枚数、流出角度、強度特性、の少なくとも1つを含む。
【0039】
保守データは、主に、ボイラー保守データ、配管保守データ、タービン保守データのうち、1つまたは複数で構成される。
【0040】
この保守データは、ボイラー35または熱交換器55の保守情報、主蒸気配管44または給水配管56の保守情報、タービン40の保守情報、の少なくとも1つを含む。つまり、保守データは、蒸気48に混入する固体粒子の削減に寄与する作業履歴に関する情報を含む。
【0041】
ボイラー35または熱交換器55の保守情報は、保守の回数、頻度、時期、脱スケールの方法、フラッシングの方法、熱交換器55のチューブ(図示略)の交換の有無を示す情報、の少なくとも1つを含む。
【0042】
主蒸気配管44または給水配管56の保守情報は、保守の回数、頻度、時期、脱スケールの方法、フラッシングの方法、の少なくとも1つを含む。
【0043】
タービン40の保守情報は、保守の回数、頻度、時期、初段の動翼または静翼の交換履歴、手入れ履歴、の少なくとも1つを含む。
【0044】
運転データは、火力発電プラント2の各機器に取り付けられたセンサー3から取得したデータである。この運転データは、主に、固体粒子の流入および衝突に影響すると考えられる運転状態を示す経時データである。例えば、運転データは、初段の動翼または静翼の前後の蒸気条件、蒸気弁(図示略)の開度、バイパス弁(図示略)の開度などである。なお、運転データは、ボイラー35の運転条件などの蒸気48の流れにおける下流側の機器に影響する上流側の他の機器の経時データであってもよい。
【0045】
なお、運転データに基づくタービン40への固体粒子の流入および衝突に関する運転状態の評価は、構造および構成の評価と同様の評価である。しかし、設計時点に対して変化した運転状態に対する固体粒子の流入および衝突の変化についても評価が行われる点で異なる。例えば、蒸気弁(図示略)の開度変化によりタービン40へ流入される蒸気量が変動することで、静翼の蒸気流出速度が変わる。このため、蒸気流出速度に基づいて固体粒子を含む蒸気48の衝突条件が逐次評価される。
【0046】
この運転データは、タービン40の初段の動翼または静翼の前後の蒸気48の温度、流量、圧力、蒸気弁(図示略)の開度、バイパス弁(図示略)の開度、コールド起動停止回数、の少なくとも1つを含む。
【0047】
次に、評価用コンピュータ5が実行する処理について図3のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。以下のステップは、評価用コンピュータ5が実行する処理に含まれる少なくとも一部であり、他のステップが、評価用コンピュータ5が実行するに含まれていてもよい。
【0048】
なお、図3中の矢印は、処理の流れを示す一例であり、矢印以外の処理の流れがあってもよい。また、必ずしも、それぞれの処理の前後関係が固定されるものではなく、一部の処理の前後関係が入れ替わってもよい。また、一部の処理が他の処理と並列に実行されてもよい。
【0049】
ステップS1において、評価用コンピュータ5は、タービン40およびその周辺機器の構造および構成に関する設計データを取得する。この設計データは、入力部7から入力されてもよいし、通信部9を介して他のコンピュータ(図示略)から取得してもよい。取得した設計データは、記憶部10に記憶される。そして、ステップS4に進む。
【0050】
ステップS2において、評価用コンピュータ5は、タービン40およびその周辺機器の保守に関する保守データを取得する。この保守データは、入力部7から入力されてもよいし、通信部9を介して他のコンピュータ(図示略)から取得してもよい。取得した保守データは、記憶部10に記憶される。そして、ステップS4に進む。
【0051】
ステップS3において、評価用コンピュータ5は、タービン40および周辺機器に設けられたセンサー3から、タービン40および周辺機器の運転状態に関する運転データを取得する。取得した運転データは、記憶部10に記憶される。そして、ステップS5に進む。
【0052】
ステップS4において、評価用コンピュータ5は、設計データと保守データに基づいて、タービン40への固体粒子の流入および衝突に関する構成および構造の評価を行う。そして、ステップS6に進む。
【0053】
ここで、タービン40への固体粒子の流入条件に関する構造および構成の評価は、実運転している火力発電プラント2の既得のSPE浸食データと、各機器の構成または設計データとの相関に基づいて、推察される固体粒子の流入量のレベルが利用される。例えば、バイパス流路(図示略)の有無による起動時の固体粒子の流入量の大小関係などが利用され、評価対象の火力発電プラント2のタービン40の固体粒子の流入条件が評価される。
【0054】
また、タービン40への固体粒子の衝突条件に関する構造および構成の評価は、実運転している火力発電プラント2の既得のSPE浸食データと、各機器の保守データとの相関に基づいて推察される固体粒子の衝突条件が利用される。例えば、静翼の蒸気流出角度および速度と、動翼の周速と、固体粒子が混在する蒸気48とブレード34の衝突角度計算値などを利用し、評価対象の火力発電プラント2のタービン40の固体粒子の衝突条件が評価される。
【0055】
ステップS5において、評価用コンピュータ5は、運転データに基づいて、タービン40への固体粒子の流入および衝突に関する運転状態の評価を行う。そして、ステップS6に進む。
【0056】
ステップS6において、評価用コンピュータ5は、前述の構成および構造の評価と、前述の運転状態の評価とに基づいて、統計手法によるブレード34の破損リスクの評価を行う。そして、ステップS7に進む。
【0057】
ステップS7において、評価用コンピュータ5は、将来の任意の時間にブレード34の浸食量が予め定められた閾値に到達しないことを示す生存率である浸食閾値未到達確率を算出する。このようにすれば、ブレード34の損傷の評価を行うことができる。
【0058】
評価用コンピュータ5は、タービン40を生存時間解析(survival time analysis)でモデル化した式に対し、設計データと保守データと運転データの少なくともいずれかに含まれている少なくとも1つのデータを因子として当てはめ、浸食閾値未到達確率を算出する。
【0059】
生存時間解析は、基準となる或る時点から、目的となるイベントの発生までの時間を解析するものである。ここで、イベントとは、ブレード34の浸食量が閾値に到達することである。例えば、現在運転中のブレード34の浸食量が閾値である3mmに到達するまでの時間が解析の対象となる。なお、この閾値は、例えば、イベントの発生を考慮してタービン設計事業者により任意の値に設定することができる
【0060】
ブレード34の浸食量の評価は、SPEによるブレード34の浸食閾値未到達確率Rと、これに影響する因子Xとを用いて行うものとし、浸食閾値未到達確率Rと因子Xとの関係を以下の式で表すこととする。ここで、因子Xは、運転データ、設計データ、保守データに含まれるデータである。関数fは、生存時間解析でモデル化した生存関数である。
【0061】
R=f(X1,X2,X3,…Xn)
【0062】
これは、運転データ、設計データ、保守データが浸食閾値未到達確率に影響することを考慮可能な式であることを意味する。さらに、これら3種のデータに含まれる或るデータが及ぼす影響の大きさについて考慮可能な定数項を入れてもよい。
【0063】
この式で、考慮可能な因子およびその影響度としての定数項については、ユーザが予め設定した浸食の閾値、取得した運転データ、設計データ、保守データなどにより、ユーザ自身が判断するものである。また、ユーザが自身の判断に基づき自由に前述の式の形を適宜構成してもよい。
【0064】
なお、ユーザが判断のために使用するフィールドデータは、浸食が閾値に到達したデータだけではなく、浸食が閾値に到達していないデータも含めた方がよい。さらに、前述の式は、データにより統計手法を用いて作成する。
【0065】
例えば、タービン40を生存時間解析でモデル化した式は、閾値に到達したブレード34のフィールドデータと、閾値に到達していないブレード34のフィールドデータと、を用いて作成されている。このようにすれば、タービン40をモデル化した式を統計手法で作成することができる。
【0066】
なお、フィールドデータは、複数のタービン40におけるそれぞれのブレード34のフィールドデータを含む。さらに、フィールドデータは、複数の火力発電プラント2で取得したフィールドデータを含む。
【0067】
図4に示すグラフは、第1因子のみが浸食閾値未到達確率に影響すると仮定した場合における、浸食閾値未到達確率と時間との関係を示す。例えば、線L1のブレード34は、第1因子の影響が小さく、線L2のブレード34は、第1因子の影響が中くらいで、線L3のブレード34は、第1因子の影響が大きい。
【0068】
図5に示すグラフは、第1因子と第2因子のみが浸食閾値未到達確率に影響すると仮定した場合における、浸食閾値未到達確率と時間との関係を示す。例えば、線L4のブレード34は、第1因子と第2因子の影響が小さく、線L5のブレード34は、第1因子と第2因子の影響が中くらいで、線L6のブレード34は、第1因子と第2因子の影響が大きい。いくらかのデータをインプットすることで、或る時間における浸食閾値未到達確率を推定することが可能である。つまり、前述の式に対し、少なくとも2つ(複数)のデータを因子として当てはめて、浸食閾値未到達確率を算出することで、浸食閾値未到達確率の推定精度を向上させることができる。
【0069】
また、タービン40を生存時間解析でモデル化した式は、例えば、コックス比例ハザードモデル(Cox proportional hazard model)を用いて作成されている。このようにすれば、時間の経過で発生するイベントに対して、各種データの影響を統計的に調べることができる。
【0070】
なお、コックス比例ハザードモデルとは、生存時間解析のためのノンパラメトリックな手法の1つであり、イベントに影響を及ぼす複数の因子としての共変量の影響を解析することを前提としたモデルである。
【0071】
なお、前述の評価用コンピュータ5は、算出した浸食閾値未到達確率に基づいて、ブレード34の浸食量を算出してもよい。
【0072】
なお、評価用コンピュータ5は、算出した浸食閾値未到達確率に基づいて、ブレード34の交換推奨時期を評価してもよい。
【0073】
なお、評価用コンピュータ5は、センサー3で取得した運転データのみならず、将来の運転計画に従ってシミュレーションした運転状態に基づいて、運転データを取得してもよい。
【0074】
前述の実施形態のブレード損傷評価システム1は、FPGA、GPU(Graphics Processing Unit)、CPUおよび専用のチップなどのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROMおよびRAMなどの記憶装置と、HDDおよびSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスおよびキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このブレード損傷評価システム1は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0075】
なお、ブレード損傷評価システム1で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。追加的または代替的に、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶されて提供される。
【0076】
また、このブレード損傷評価システム1で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータに格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、このブレード損傷評価システム1は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用回線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0077】
以上説明した実施形態によれば、浸食閾値未到達確率を算出することにより、ダイナミックに変化する運転条件で運用されるタービン40のブレード34の損傷を正確に評価することができる。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0079】
1…ブレード損傷評価システム、2…火力発電プラント、3…センサー、4…データ取得用コンピュータ、5…評価用コンピュータ、6…処理回路、7…入力部、8…出力部、9…通信部、10…記憶部、33…ロータ、34…ブレード、35…ボイラー、36…ケーシング、37…発電機、38…復水器、39…冷却水、40…タービン、43…燃料、44…主蒸気配管、47…液媒、48…蒸気、55…熱交換器、56…給水配管。
図1
図2
図3
図4
図5