(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059192
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
F16J15/10 N
F16J15/10 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166718
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】目黒 直樹
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040BA03
3J040EA02
3J040EA16
3J040FA05
3J040HA03
3J040HA09
3J040HA16
(57)【要約】
【課題】リップ部に対して、プラグチューブやインジェクションパイプなどの筒状体をカウンター方向から進入させる場合であっても、リップ部が裏返らないようにする。
【解決手段】密封装置11は、一方向の挿入方向IDからの筒状体CYの挿入を受け入れるエンジン側の開口部に取付板31を介して取り付けられる基部52と、挿入方向IDと反対の挿入逆方向RDに向けて延びるリップ部54とを備え、基部52とリップ部54とを湾曲部53で連結して一体に成形した弾性体51を備えている。リップ部54は、先端部54aから挿入方向IDに向けて内径を縮小する導入面56を有し、内径が最小になる最小内径部分54b、筒状体CYの外径D1よりも小径のシールリップ55を形成している。導入面56は、進入してくる筒状体CYが接触したとき、挿入方向IDに沿う軸A方向の力よりも、軸A方向と直交する方向の力の方が大きくなるようにしている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火プラグを配置するプラグチューブを一方向の挿入方向から挿入させる開口を設けたエンジン側の開口部に取り付けられる基部と、
前記基部から前記挿入方向に向けて延びてから反転し、前記挿入方向と反対の挿入逆方向に向けて湾曲する湾曲部と、
前記湾曲部から前記挿入逆方向に向けて延び、前記プラグチューブに接触するリップ部と、
を一体に備える環状の弾性体によって成形された密封装置であって、
前記リップ部は、先端部から前記挿入方向に向けて内径を縮小し、最小内径部分を前記プラグチューブの外径よりも小径のシールリップとする導入面を内周面に有し、
前記導入面は、挿入された前記プラグチューブが接触したときに加わる力のうち、前記挿入方向に沿う軸方向の成分の力よりも、前記軸方向と直交する方向の成分の力の方を大きくする、
密封装置。
【請求項2】
インジェクタを配置するインジェクションパイプを一方向の挿入方向から挿入させる開口を設けたエンジン側の開口部に取り付けられる基部と、
前記基部から前記挿入方向に向けて延びてから反転し、前記挿入方向と反対の挿入逆方向に向けて湾曲する湾曲部と、
前記湾曲部から前記挿入逆方向に向けて延び、前記インジェクションパイプに接触するリップ部と、
を一体に備える環状の弾性体によって成形された密封装置であって、
前記リップ部は、先端部から前記挿入方向に向けて内径を縮小し、最小内径部分を前記インジェクションパイプの外径よりも小径のシールリップとする導入面を内周面に有し、
前記導入面は、挿入された前記インジェクションパイプが接触したときに加わる力のうち、前記挿入方向に沿う軸方向の成分の力よりも、前記軸方向と直交する方向の成分の力の方を大きくする、
密封装置。
【請求項3】
前記導入面は、テーパ形状を有している、
請求項1又は2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記導入面は、前記リップ部の軸に対して鋭角に傾斜している、
請求項3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記導入面における前記リップ部の最大内径部分は、前記プラグチューブよりも大径である、
請求項1に記載の密封装置。
【請求項6】
前記導入面における前記リップ部の最大内径部分は、前記インジェクションパイプよりも大径である、
請求項2に記載の密封装置。
【請求項7】
前記最大内径部分は、前記リップ部の先端部に設けられ、
前記リップ部の先端部は、前記最大内径部分と同一の内径のままストレートに延びる縁部を有している、
請求項5又は6に記載の密封装置。
【請求項8】
前記シールリップは、前記弾性体の復元力のみによって前記プラグチューブに対する接触圧を確保している、
請求項1に記載の密封装置。
【請求項9】
前記シールリップは、前記弾性体の復元力のみによって前記インジェクションパイプに対する接触圧を確保している、
請求項2に記載の密封装置。
【請求項10】
前記基部は、前記開口部に固定される取付板に設けられた環状孔に接着され、前記取付板を介して前記開口部に取り付けられる、
請求項1又は2に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンでは、補器類用の密封装置として、プラグチューブシールやインジェクションパイプシールなどが用いられる。
【0003】
プラグチューブシールは、エンジンの燃焼室に先端部を導くように点火プラグを配置するプラグチューブを相手部材として、シリンダヘッドのヘッドカバーに設けられた開口に挿入されたプラグチューブと開口との間の間隙に取り付けられ、シリンダヘッドの内部空間を外部空間から密封する。
【0004】
インジェクションパイプシールは、インテークポートや燃焼室に混合気を噴射するインジェクタに接続するインジェクションパイプを相手部材として、シリンダヘッドに設けられた開口に挿入されたインジェクションパイプと開口との間の間隙に取り付けられ、シリンダヘッドの内部空間を外部空間から密封する。
【0005】
これらのプラグチューブシール及びインジェクションパイプシールは、ともにチューブ状あるいはパイプ状の部材を相手部材とすることから、構造に共通性がみられる。
【0006】
例えば特許文献1には、エンジンのヘッドカバー(61)に設けたカバー開口(62)にインジェクションパイプ(71)を配置し、カバー開口(62)の内周面に取り付けたゴム状弾性体からなる密封装置(1)のシールリップ(21)をインジェクションパイプ(71)に接触させるようにしたシール構造が開示されている(特許文献1の段落[0023]-[0024]、
図1参照)。
【0007】
特許文献2には、エンジン側のハウジング(100)に設けた開口部(101)を貫通する配管部(102)と開口部(101)との間に、金属材料や樹脂材料などを用いた環状板(2)にゴム材料からなるシール体(3)を取り付けた密封装置(1)を介在させるようにしたシール構造が開示されている(特許文献2の段落[0025]、[0028]-[0034]、
図1~
図5参照)。特許文献2に明記はないが、その明細書全体の記載内容から、配管部(102)は、プラグチューブ又はインジェクションパイプであると理解することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-152042号公報
【特許文献2】特開2022-052395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された密封装置では、ヘッドカバー(61)のカバー開口(62)に取り付けた密封装置(1)のシールリップ(21)をエンジンの内部側に延ばしている。特許文献2に記載された密封装置(1)も同様で、エンジンのハウジング(100)に設けた開口部(101)に取り付けたシール体(3)のリップ部(7)をエンジンの内部側に延ばしている。
【0010】
このためプラグチューブやインジェクションパイプ(文献1の符号71、文献2の符号102)などの筒状体をエンジンの内部側から開口(文献1の符号62、文献2の符号101)に挿通する場合、つまりリップ部(文献1の符号21、文献2の符号7)の延びる方向に対して筒状体の挿入方向がカウンター方向になる場合、リップ部は筒状体に押し込まれ、反転するように裏返ってしまう可能性がある。
【0011】
この点特許文献1では、エンジンの外部側からインジェクションパイプ(71)を開口(符号62)に挿入して装着するため、リップ部(符号21)が裏返るという現象は生じない。しかしながらエンジンの外部側からインジェクションパイプ(71)を挿入して装着するように用いる場合、リップ部の裏返り現象を生じさせてしまう可能性がある。
【0012】
プラグチューブやインジェクションパイプの挿入に際して、リップ部が反転し、裏返ってしまうという現象を抑制したい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
点火プラグを配置するプラグチューブを一方向の挿入方向から挿入させる開口を設けたエンジン側の開口部に取り付けられる基部と、前記基部から前記挿入方向に向けて延びてから反転し、前記挿入方向と反対の挿入逆方向に向けて湾曲する湾曲部と、前記湾曲部から前記挿入逆方向に向けて延び、前記プラグチューブに接触するリップ部と、を一体に備える環状の弾性体によって成形された密封装置の一態様であって、前記リップ部は、先端部から前記挿入方向に向けて内径を縮小し、最小内径部分を前記プラグチューブの外径よりも小径のシールリップとする導入面を内周面に有し、前記導入面は、挿入された前記プラグチューブが接触したときに加わる力のうち、前記挿入方向に沿う軸方向の成分の力よりも、前記軸方向と直交する方向の成分の力の方を大きくする。
【0014】
インジェクタを配置するインジェクションパイプを一方向の挿入方向から挿入させる開口を設けたエンジン側の開口部に取り付けられる基部と、前記基部から前記挿入方向に向けて延びてから反転し、前記挿入方向と反対の挿入逆方向に向けて湾曲する湾曲部と、前記湾曲部から前記挿入逆方向に向けて延び、前記インジェクションパイプに接触するリップ部と、を一体に備える環状の弾性体によって成形された密封装置の一態様であって、前記リップ部は、先端部から前記挿入方向に向けて内径を縮小し、最小内径部分を前記インジェクションパイプの外径よりも小径のシールリップとする導入面を内周面に有し、前記導入面は、挿入された前記インジェクションパイプが接触したときに加わる力のうち、前記挿入方向に沿う軸方向の成分の力よりも、前記軸方向と直交する方向の成分の力の方を大きくする。
【発明の効果】
【0015】
プラグチューブやインジェクションパイプの挿入に際して、リップ部が反転し、裏返ってしまうという現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】実施の形態として、筒状体(プラグチューブ、インジェクションパイプ)が装着直前の状態にある密封装置の一例を示す垂直側面図。
【
図3】導入面に加わる力とシールリップの角度との関係を説明するための模式図。
【
図4】導入面に加わる力の各成分とシールリップの角度との関係を説明するための模式図。
【
図5】筒状体が装着直前の状態にある比較例の密封装置の一例を示す垂直側面図。
【
図6】筒状体が装着された状態にある比較例の密封装置を示す垂直断面図。
【
図7】筒状体が装着されている状態の密封装置を示す垂直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、後述するプラグチューブ139(
図1参照)用の密封装置11(11A)、及びインジェクションパイプ302(
図1参照)用の密封装置11(11B)である。つぎの項目に沿って説明する。
【0018】
1.構成
(1)エンジンの概要
(2)密封装置
(2-1)共通する構造
(2-2)取付板
(2-3)弾性体
(a)基部
(b)湾曲部
(c)リップ部
2.作用効果
3.変形例
【0019】
1.構成
(1)エンジンの概要
図1は、エンジンの概略構造を示す模式図である。このエンジン101は、DOHC型のレシプロエンジンであり、ピストン102を往復動自在に保持するシリンダブロック111の上部に、シリンダヘッド131を固定している。
【0020】
シリンダヘッド131は、ピストン102との間に燃焼室103を形成し、燃焼室103に連絡するように、インテークポート132とエキゾーストポート133とを設けている。シリンダヘッド131には、燃焼室103に連絡するインテークポート132及びエキゾーストポート133の開口部分を開閉するように、複数のバルブ134が往復動自在に取り付けられている。これらのバルブ134は、バルブスプリング135、カムシャフト136などの動弁機構137によって駆動され、インテークポート132及びエキゾーストポート133を開閉する。
【0021】
シリンダヘッド131には、点火プラグ201が着脱自在に取り付けられている。点火プラグ201は、ギャップ部202が燃焼室103内に露出するように、シリンダヘッド131にねじ止めされている。シリンダヘッド131は、インテーク側のバルブ134とエキゾースト側のバルブ134との間に、点火プラグ201とねじ結合するプラグ孔138を備えている。プラグ孔138にねじ込まれた点火プラグ201は、燃焼室103にギャップ部202が露出するように固定される。
【0022】
シリンダベッド131は、点火プラグ201を配置するためのプラグチューブ139を内蔵している。プラグチューブ139は、点火プラグ201を収納する筒状体CY(
図2~
図5参照)であり、プラグ孔138から上方に向けて延びるように配置されてシリンダベッド131の内部に固定されている。
【0023】
シリンダベッド131の上部には、動弁機構137を被うヘッドカバー151が取り付けられている。ヘッドカバー151は、シリンダヘッド131に設けられたインテーク側とエキゾースト側との二本のカムシャフト136を収納するための二つのバルジ152を平行に備え、これらのバルジ152の間に、点火プラグ201を差し込むための開口AP(AP1)を備えた開口部OP(OP1)を設けている。点火プラグ201を配置するプラグチューブ139は、開口APを貫通して外部空間Oに露出している。これによって外部空間Oから、点火プラグ201の交換が可能になる。
【0024】
ヘッドカバー151の開口部OP(OP1)には、プラグチューブ139用の密封装置11(11A)が設けられている。密封装置11Aは、プラグチューブ139を相手部材として、その外周面にシール機能を有するリップ部54(
図2~
図5参照)を接触させ、シリンダベッド131の内部空間を外部空間Oから密封する。密封装置11Aの詳細については後述する。
【0025】
シリンダヘッド131のインテークポート132には、インジェクタ301が設けられている。インジェクタ301は、インテークポート132に混合気を噴射し得るように、混合気の噴射口をインテークポート132に向けた状態でシリンダヘッド131に保持されている。
【0026】
インジェクタ301には、インジェクションパイプ302が接続されている。インジェクションパイプ302は、燃料をインジェクタ301に供給したり、インジェクタ301の電気的配線を外部空間Oに引き出したりするパイプ状のものであり、このような役割り上、外部空間Oに引き出されなければならない。そこでエンジン101は、ヘッドカバー151に開口AP(AP2)を有する開口部OP(OP2)を設け、開口AP(AP2)からインジェクションパイプ302を外部空間Oに引き出している。
【0027】
シリンダヘッド131の開口部OP(OP2)には、インジェクションパイプ302用の密封装置11(11B)が設けられている。密封装置11Bは、インジェクションパイプ302を相手部材として、その外周面にリップ部54(
図2~
図5参照)を接触させ、シリンダベッド131の内部を外部空間Oから密封する。密封装置11Bの詳細は後述する。
【0028】
(2)密封装置
本実施の形態の密封装置11(11A、11B)について説明する。
【0029】
(2-1)共通する構造
プラグチューブ139用の密封装置11Aは、円筒状の筒状体CY(
図2~
図5参照)である。インジェクションパイプ302も同様に円筒状の筒状体CY(
図2~
図5参照)であり、両者は共通する形状を有している。開口部OP(OP1、OP2)に設けられた開口AP(AP1、AP2)に挿入された筒状体CYにリップ部54を接触させ、開口AP(AP1、AP2)と筒状体CYとの間の間隙G(
図1参照)を封止するという密封構造についても、二種類の密封装置11A、11Bは共通している(
図2~
図5参照)。これらの二種類の密封装置11A、11Bは、プラグチューブ139とインジェクションパイプ302との径の違い、外周面の摺動抵抗の違いといった個々の属性を除けば、基本的には同じ構造を有している。そこで本実施の形態では、二種類の密封装置11A、11Bから共通の基本構造を抽出し、単一の密封装置11として紹介する。
【0030】
図2に示すように、密封装置11は、取付板31に、リップ部54を有する弾性体51を固定した構造を備えている。
【0031】
(2-2)取付板
取付板31は、ステンレス、鉄鋼、アルミニウムなどの金属材料、各種の樹脂材料などを用いて製造された平板状部材である。取付板31の役割りは、弾性体51を保持し、開口部OP(OP1、OP2)に装着されることによって、保持した弾性体51を開口部OPに取り付けることにある。そこで取付板31は、個々の開口部OP(OP1、OP2)に設けられた開口AP(AP1、AP2)の形状に合わせた外形形状を有している。例えば開口APが円環形状であれば、取付板31の外形形状も円環形状に、開口APが矩形形状であれば、取付板31の外形形状も矩形形状に定められる。
【0032】
取付板31は、密封装置11を取り付けるための環状孔32を有している。環状孔32は、円筒状の筒状体CYにリップ部54を接触させるという構造上、円環形状に定められた弾性体51の全体形状に合わせて、円環形状に形成されている。
【0033】
(2-3)弾性体
密封装置11の主体をなす弾性体51について説明するに先立ち、用語の定義づけをする。
図2中、矢印IDは、開口APに対する筒状体CYの挿入方向を示し、矢印RDは、開口APに対する筒状体CYの挿入方向と反対の挿入逆方向を示している。
図2及び
図3中の符号Aは、開口AP及び密封装置11の中心軸を示している。挿入方向ID及び挿入逆方向RDは、開口AP及び密封装置11の軸Aの方向に沿うことになる。
【0034】
弾性体51は、合成ゴムなどの弾性材料を用い、基部52と湾曲部53とリップ部54とを一体に成形した環状部材であり、真円の環状形状を有している。基部52、湾曲部53、及びリップ部54の中心軸は、密封装置11の軸Aに一致している。
(a)基部
【0035】
基部52は、取付板31に設けられた環状孔32の縁部と嵌め合いをなす取付溝52aを外周面に備えている。取付溝52aに縁部を嵌め込ませた状態で、基部52は取付板31に接着されて固定されている。接着手法としては、基部52が金属製である場合には、架橋接着又は接着剤による接着が可能であり、基部52が樹脂製である場合には、接着剤による接着が可能である。
【0036】
(b)湾曲部
湾曲部53は、基部52から挿入方向IDに向けて内外径を縮小するように延びてから反転し、挿入逆方向RDに向けて湾曲した形状を有している。
【0037】
(c)リップ部
リップ部54は、湾曲部53から挿入逆方向RDに向けてそのまま延び、内外径を縮小している。ただしリップ部54の先端領域は、外径については、最先端の先端部54aに至るまで径を縮小するのに対して、内径については、最小内径になった最小内径部分54bまでは径を縮小するものの、最小内径部分54bから先端部54aに向けて再び径を拡大する。
【0038】
図3に示すように、リップ部54は、最小内径部分54bにシールリップ55を設けており、先端部54aから最小内径部分54bに至る間の領域の内周面を導入面56としている。
【0039】
シールリップ55は、筒状体CYの外周面に予め決められた接触圧をもって接触し、シリンダヘッド131の内部を外部空間O(
図1参照)から密封する。そこで
図2に示すように、筒状体CYの外径をD1、シールリップ55の内径をD2としたとき、
D1>D2 ・・・(1)
の関係、つまりシールリップ55の内径D2は、筒状体CYの外径D1より小径に定められている。
【0040】
導入面56は、密封装置11に挿入されてくる筒状体CYを導入するためのテーパ形状を有する面である。
【0041】
図3に示すように、リップ部54は、導入面56中、先端部54aの部分を内径が最も大きい最大内径部分54cとしている。リップ部54の先端部54aには、最大内径部分54cと同一の内径のままストレートに延びる縁部57が設けられている。縁部57は、リング状の形態をなす。
【0042】
図2に示すように、筒状体CYの外径は前述したとおりD1であり、最大内径部分54cの内径をD3としたとき、
D1<D3 ・・・(2)
の関係、つまり最大内径部分54cの内径D3は、筒状体CYの外径D1よりも大径に定められている。その結果上記(1)(2)式より、最筒状体CYの外径D1と、最小内径部分54bに位置するシールリップ55の内径D2と、最大内径部分54cの内径D3とは、
D2<D1<D3 ・・・(3)
の関係になる。
【0043】
導入面56について詳しく説明する。
【0044】
図3、
図4に示すように、導入面56には、挿入された筒状体CY(プラグチューブ139、インジェクションパイプ302)が接触した際、力F(Fy、Fx)が加わる。それぞれ、
F :導入面56に加わる力
Fy:力FのY方向成分
Fx:力FのX方向成分
である。
【0045】
Y方向は、挿入方向IDに沿う軸Aの方向、つまり軸方向である。したがって力FのY方向成分は、力Fの軸方向の成分と同義になる。
【0046】
X方向は、軸方向と直交する方向である。したがって力FのX方向成分は、力Fの軸方向と直交する方向の成分と同義になる。
【0047】
本実施の形態において、導入面56は、
Fy<Fx ・・・(4)
の関係、つまり筒状体CYが接触したとき、力FのY方向成分FyよりもX方向成分Fxの方が大きくなるように形成されている。
【0048】
上記(4)式を成立させるための手法として、本実施の形態では、導入面56をテーパ形状にし、密封装置11(リップ部54)の軸Aに対する導入面56の角度θを鋭角に設定するという方策を採用している。その理由は、つぎの通りである。
【0049】
図3に示すように、筒状体CY(プラグチューブ139、インジェクションパイプ302)がシールリップ55の導入面56に接触した際、導入面56に加わる力Fは、導入面56に対して90度をなす方向に作用する。そこで力FのY方向成分である力Fyと、X方向成分である力Fxとの大きさは、それぞれ
図4に示すような関係に定められる。
【0050】
このとき力Fと力Fxとがなす角度は、密封装置11の軸Aに対する導入面56の角度θに一致する。そこで上記(4)式を満足するように、力FのY方向成分FyよりもX方向成分Fxの方を大きくするには、角度θを鋭角にすればよいことがわかる。
【0051】
ただし現実には、導入面56と筒状体CYとの間の摩擦係数の大小の影響で、軸Aに対する導入面56の角度θに変動が生ずる可能性がある。そこで角度θの決定に際しては、導入面56と筒状体CYとの間の摩擦係数の大小を考慮し、実運用時にも角度θが鋭角に維持されるように導入面56のテーパ角度を設定する必要がある。総じて言えば、軸Aに対する導入面56の角度θは、極力鋭角であることが望ましい。
【0052】
本実施の形態では、導入面56と筒状体CYとの間の摩擦係数をより小さくするための工夫として、筒状体CY、つまりプラグチューブ139やインジェクションパイプ302の先端縁部を曲面形状に形成し、この部分に曲率をもたせている。これによって導入面56と筒状体CYとの間の摩擦係数が相対的に低下し、筒状体CYの突き当てによる角度θの増大を抑制することができる。
【0053】
本実施の形態のリップ部54は、筒状体CYの外周面に対するシールリップ55の緊迫力を増大させるガータスプリングを設けていない。つまりシールリップ55は、弾性体51の復元力のみによって筒状体CYに対する接触圧を確保している。
【0054】
2.作用効果
【0055】
本実施の形態のように、リップ部54の延びる方向が筒状体CY(プラグチューブ139、インジェクションパイプ302)の挿入方向IDとカウンター方向になる場合、リップ部54は筒状体CYに押し込まれ、反転するように裏返ってしまう可能性がある。本実施の形態の密封装置11(11A、11B)は、上記(4)式を満足することによって、筒状体CYの挿入に際し、リップ部54が反転して裏返るという現象を抑制する。
【0056】
リップ部54が反転して裏返る現象が生ずる原因の一つとして考えられるのは、リップ部54の座屈である。筒状体CYに押し込まれることでリップ部54は座屈し、この状態でさらに押し込まれることで反転するものと推測される。もう一つの原因として考えられるのは、リップ部54の根元の湾曲部53を中心に弾性体51が回転し、これによってリップ部54が反転してしまう可能性である。
【0057】
いずれの原因の場合であっても、リップ部54が反転して裏返る現象に影響を及ぼしているのは、リップ部54を押し込む力、つまり導入面56に加わる力Fのうち、Y方向成分の力Fyである。Y方向成分の力Fyが小さく、その分X方向成分の力Fxが大きいときには、筒状体CYの挿入によってリップ部54を押し込む力が相対的に弱くなり、リップ部54の座屈や湾曲部53の回転による変形は生じにくい。このため上記(4)式が満たされれば、リップ部54が反転して裏返るという現象が抑制されるものと推測される。
【0058】
図5及び
図6は、比較例の密封装置11Cを示している。
【0059】
図5に示すように、比較例の密封装置11Cは、軸Aに対する導入面56の角度θを鋭角にしており、一見すると、上記した式(4)の条件を満足しているように見える。しかしながら最大内径部分54cの内径D3は、筒状体CYの外径D1よりも小径になっているので、式(2)の条件を満たさない。このため導入面56に対して筒状体CYが進入すると、導入面56は筒状体CYに押されて変形し、一見鋭角に見えた角度θは、鈍角へと変化してしまう。
【0060】
その結果
図6に示すように、密封装置11Cのリップ部54は、筒状体CYによってそのまま挿入方向IDに押され、いずれ湾曲部53が反転して裏返ってしまう。
【0061】
これに対して本実施の形態の密封装置11は、上記式(2)(4)の条件を満足している。このため
図7に示すように、挿入された筒状体CYがリップ部54の導入面56に接触したとき、リップ部54は、挿入方向IDに進行する筒状体CYに押されて径を拡大する方向に変形し、筒状体CYを受け入れる。このとき弾性体51は、もっぱら径を拡大する方向にのみ変形し、筒状体CYに押されて湾曲部53を反転させてしまうようなことがない。したがって本実施の形態の密封装置11によれば、リップ部54に対してプラグチューブ139やインジェクションパイプ302をカウンター方向から進入させる場合であっても、リップ部54が反転して裏返ってしまうという現象を抑制することができる。
【0062】
本実施の形態によれば、導入面56はテーパ形状を有しており、密封装置11(リップ部54)の軸Aに対して鋭角に傾斜している。この構成によって、式(4)の関係を実現することができる。このときリップ部54の最大内径部分54cは、筒状体CYよりも大径であることから、実運用時にも式(4)の関係を維持することができる。
【0063】
本実施の形態によれば、最大内径部分54cは、リップ部54の先端部54aに設けられ、リップ部54の先端部54aは、最大内径部分54cと同一の内径のままストレートに延びる縁部57を有している。こうして縁部57を設けたことで、筒状体CYを挿入する際のリップ部54の損傷を抑制することができ、耐久性を向上することができる。
【0064】
本実施の形態によれば、シールリップ55は、弾性体51の復元力のみによって筒状体CYに対する接触圧を確保し、ガータスプリングを不要としているので、ガータスプリングによって式(4)の関係が崩れてしまうことを回避することができる。
【0065】
3.変形例
実施に際しては、各種の変形や変更が可能である。
【0066】
例えばリップ部54の先端部54aに設けられた導入面56は、本実施の形態のようなテーパ面ではなく、所定の曲率をもった断面曲面状の面であってもよい。
【0067】
先端部54aに設けた縁部57は、必ずしも必須の構成というわけではなく、縁部57を設けない構成であってもよい。あるいは縁部57はストレート形状でなくてもよく、テーパ形状であってもよい。
【0068】
密封装置11の取付板31は、ヘッドカバー151などに設けた開口部OPの開口APと弾性体51との間に介在する部材の一例にすぎない。実施に際しては、取付板31のような平板状ではない部材を介して、リップ部54を備えた弾性体51を開口部OPに取り付けるようにしてもよい。あるいは弾性体51を開口部OPに直接取り付けるようにしてもよい。
【0069】
その他あらゆる変形や変更が許容される。
【符号の説明】
【0070】
11 密封装置
11A 密封装置(プラグチューブ用)
11B 密封装置(インジェクションパイプ用)
11C 密封装置(比較例)
31 取付板
32 環状孔
51 弾性体
52 基部
52a 取付溝
53 湾曲部
54 リップ部
54a 先端部
54b 最小内径部分
54c 最大内径部分
55 シールリップ
56 導入面
57 縁部
101 エンジン
102 ピストン
103 燃焼室
111 シリンダブロック
131 シリンダヘッド
132 インテークポート
133 エキゾーストポート
134 バルブ
135 バルブスプリング
136 カムシャフト
137 動弁機構
138 プラグ孔
139 プラグチューブ
151 ヘッドカバー
152 バルジ
153 開口
154 開口部
201 点火プラグ
202 ギャップ部
301 インジェクタ
302 インジェクションパイプ
A 軸
AP、AP1、AP2 開口
CY 筒状体
OP、OP1、OP2 開口部