(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059207
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】金属-セラミックス接合基板、金属-セラミックス接合基板の製造方法、および、パワーモジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 23/13 20060101AFI20240423BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20240423BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240423BHJP
H01L 25/04 20230101ALI20240423BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01L23/12 C
H01L23/12 J
H01L23/36 C
H01L25/04 Z
H05K1/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166744
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 歩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栄太郎
【テーマコード(参考)】
5E338
5F136
【Fターム(参考)】
5E338AA01
5E338AA18
5E338CC08
5E338EE02
5E338EE28
5F136BB04
5F136DA27
5F136FA03
5F136FA16
5F136FA82
5F136GA02
(57)【要約】
【課題】割れがなく、反りの小さい大型の金属-セラミックス接合基板、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】1枚の放熱側Cu板と、放熱側Cu板の一方の主面上に、ろう材を介して一方の主面が接合された複数のAlN基板と、複数のAlN基板のそれぞれの他方の主面上に、ろう材を介して接合された複数の回路パターンCu板と、を有する金属-セラミックス接合基板。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の放熱側Cu板と、
前記放熱側Cu板の一方の主面上に、
ろう材を介して一方の主面が接合された複数のAlN基板と、
前記複数のAlN基板のそれぞれの他方の主面上に、
ろう材を介して接合された複数の回路パターンCu板と、
を有する金属-セラミックス接合基板。
【請求項2】
前記放熱側Cu板の他方の主面の面積が、25cm2以上である、
請求項1に記載の金属-セラミックス接合基板。
【請求項3】
前記放熱側Cu板および前記回路パターンCu板の厚さが、0.3mm以上1.2mm以下である、
請求項1または請求項2に記載の金属-セラミックス接合基板。
【請求項4】
前記複数のAlN基板の熱伝導率が、100W/(m・K)以上である、
請求項1または請求項2に記載の金属-セラミックス接合基板。
【請求項5】
前記放熱側Cu板と前記回路パターンCu板との間の絶縁耐力が2.5kV以上であり、
前記放熱側Cu板の他方の主面における下記式(1)で表される反り換算値が0mm以上2.5×10-3mm以下である、
請求項1または請求項2に記載の金属-セラミックス接合基板。
反り換算値(mm)=放熱側Cu板の反り量(mm)×AlN基板の厚さ(mm)/放熱側Cu板の対角線長さ(mm)・・・(1)
【請求項6】
1枚の放熱側Cu板形成用Cu板の一方の主面上に、
複数のAlN基板の一方の主面をろう材を介して配置するとともに、
前記複数のAlN基板のそれぞれの他方の主面上に、
複数の回路パターンCu板形成用Cu板の一方の主面をろう材を介して配置して、
前記放熱側Cu板形成用Cu板、前記複数のAlN基板、前記複数の回路パターンCu板形成用Cu板がそれぞれろう材を介して順に積層された積層体を形成する工程と、
前記積層体の厚さ方向に0.001kgf/cm2以上0.1kgf/cm2以下の応力を加えた状態で加熱した後、
前記積層体を冷却し、前記放熱側Cu板形成用Cu板、前記複数のAlN基板、前記複数の回路パターンCu板形成用Cu板をそれぞれろう材を介して接合する工程と、を有する金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項7】
前記複数のAlN基板に接合された前記複数の回路パターンCu板形成用Cu板の他方の主面上に、所定の回路パターンに対応するエッチングレジストを形成した後、エッチングにより前記複数の回路パターンCu板形成用Cu板の一部を除去し、複数の回路パターンCu板を形成する工程をさらに有する、
請求項6に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項8】
前記複数のAlN基板が接合された前記放熱側Cu板形成用Cu板の他方の主面上に、所定の形状のエッチングレジストを形成した後、エッチングにより前記放熱側Cu板形成用Cu板の一部を除去し、放熱側Cu板を形成する工程をさらに有する、
請求項6または請求項7に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項9】
前記放熱側Cu板の他方の主面の面積が、25cm2以上である、
請求項8に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項10】
前記複数の回路パターンCu板の厚さが、0.3mm以上1.2mm以下である、
請求項7に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項11】
前記放熱側Cu板の厚さが、0.3mm以上1.2mm以下である、
請求項8に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項12】
前記複数のAlN基板の熱伝導率が、100W/(m・K)以上である、
請求項6に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項13】
請求項1または請求項2に記載の金属-セラミックス接合基板が組み込まれたパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属-セラミックス接合基板、金属-セラミックス接合基板の製造方法、および、パワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュール等、パワー半導体装置(パワーモジュール)の絶縁回路部には、セラミックス基板の一方の主面に所定の回路パターンCu板が接合され、他方の主面に放熱側Cu板が接合された、金属-セラミックス接合基板が多く用いられる。
【0003】
図6は、従来のパワーモジュール(IGBTモジュール)の一例を説明する断面図である。IGBTが作り込まれた半導体チップ100の下側の面は、セラミックス基板300の一方の主面にろう材600を介して接合された回路パターンCu板400上に、高温はんだ700によって接合されている。そして、セラミックス基板300の他方の主面には、ろう材600を介して放熱側Cu板500が接合されている。セラミックス基板300は、この放熱側Cu板500を介して共晶はんだ等の低温はんだ800によってCuヒートシンク板(Cuベース板)200に接合されている。半導体チップ100の上側の面に形成されている電極と回路パターンCu板400、さらに機種によってはパワーモジュールのケース(筐体)に備えられた電極(図示しない)と回路パターンCu板400とは、Al等からなるボンディングワイヤ(図示しない)によって電気的に接続されている。
【0004】
近年、パワーモジュールのアセンブリ工程の簡略化のため、金属-セラミックス基板の大型化(例えば、放熱側Cu板の主面の表面積が25cm2以上)が要求されることがある。
【0005】
従来、大電力向けの大型のパワーモジュールを作製する際は、例えば、半導体チップが高温はんだを介して接合された複数の金属-セラミックス接合基板の放熱側Cu板を、1つの大型のCuヒートシンク板(Cuベース板)上にそれぞれ低温はんだではんだ付けした後、半導体チップの電極と回路パターンCu板、回路パターンCu板とパワーモジュールのケースに形成された電極等を、Al等のボンディングワイヤによって接続していた。
【0006】
その場合、半導体チップ等の電子部品を搭載する際に、複数の金属-セラミックス基板のそれぞれに対して位置決めやハンドリングが必要である。また、複数の金属-セラミックス接合基板をCuヒートシンク板に位置精度よくはんだ付けする必要があるが、その際に位置決め用の治具や位置決め工程がそれぞれの金属-セラミックス接合基板に必要となる。したがって、金属-セラミックス接合基板を大型化し、アセンブリ工程における位置決めやハンドリングなどの工程を低減し、生産を効率化することが求められている。
【0007】
例えば、特許文献1には、3点曲げ強度が500MPa以上である窒化珪素基板の両面に金属板を接合した窒化珪素回路基板において、表面側の金属板の厚さをt1、裏面側の金属板の厚さをt2としたとき、厚さt1またはt2の少なくとも一方は0.6mm以上、0.10≦|t1-t2|≦0.30mmを満たし、窒化珪素基板は長辺方向および短辺方向共に反り量が0.1~0.5mmの範囲内であることを特徴とする窒化珪素回路基板が開示されている。この文献にはセラミックス基板のサイズが25cm2以上、さらには100cm2を超える大型の基板が実施例に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のように、窒化珪素基板を使用する場合、熱伝導率が窒化アルミニウム(AlN)基板と比べて低く、放熱性の改善が求められる。また、熱伝導率の高いAlN基板を使用した場合、接合後に基板が割れたり、大きな反りが発生したりして、絶縁基板として使用できなかったり、電子部品の搭載やCuヒートシンク板へのはんだ付け等のアセンブリに支障が発生するといった課題があった。また、3点曲げ強度が500MPa以上(例えば、590MPa程度)の強度の高いAlN基板であっても、AlN基板は窒化珪素基板と比べて靭性に劣るためか、大型の金属-セラミックス接合基板を作製する場合、上記問題が発生することも判明した。
【0010】
本発明は、セラミックス基板に金属板を接合した金属-セラミックス接合基板を搭載するパワーモジュール等の半導体装置において、放熱性および絶縁耐力に優れ、接合後に割れがなく、反りの小さい大型の金属-セラミックス接合基板(銅(Cu)-窒化アルミニウム(AlN)接合基板)、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、
1枚の放熱側Cu板と、
前記放熱側Cu板の一方の主面上に、
ろう材を介して一方の主面が接合された複数のAlN基板と、
前記複数のAlN基板のそれぞれの他方の主面上に、
ろう材を介して接合された複数の回路パターンCu板と、
を有する金属-セラミックス接合基板である。
【0012】
本発明の第2の態様は、
前記放熱側Cu板の他方の主面の面積が、25cm2以上である、
上記第1の態様に記載の金属-セラミックス接合基板である。
【0013】
本発明の第3の態様は、
前記放熱側Cu板および前記回路パターンCu板の厚さが、0.3mm以上1.2mm以下である、
上記第1または第2の態様に記載の金属-セラミックス接合基板である。
【0014】
本発明の第4の態様は、
前記複数のAlN基板の熱伝導率が、100W/(m・K)以上である、
上記第1または第2の態様に記載の金属-セラミックス接合基板である。
【0015】
本発明の第5の態様は、
前記放熱側Cu板と前記回路パターンCu板との間の絶縁耐力が2.5kV以上であり、
前記放熱側Cu板の他方の主面における下記式(1)で表される反り換算値が0mm以上2.5×10-3mm以下である、
上記第1または第2の態様に記載の金属-セラミックス接合基板である。
反り換算値(mm)=放熱側Cu板の反り量(mm)×AlN基板の厚さ(mm)/放熱側Cu板の対角線長さ(mm)・・・(1)
【0016】
本発明の第6の態様は、
1枚の放熱側Cu板形成用Cu板の一方の主面上に、
複数のAlN基板の一方の主面をろう材を介して配置するとともに、
前記複数のAlN基板のそれぞれの他方の主面上に、
複数の回路パターンCu板形成用Cu板の一方の主面をろう材を介して配置して、
前記放熱側Cu板形成用Cu板、前記複数のAlN基板、前記複数の回路パターンCu板形成用Cu板がそれぞれろう材を介して順に積層された積層体を形成する工程と、
前記積層体の厚さ方向に0.001kgf/cm2以上0.1kgf/cm2以下の応力を加えた状態で加熱した後、
前記積層体を冷却し、前記放熱側Cu板形成用Cu板、前記複数のAlN基板、前記複数の回路パターンCu板形成用Cu板をそれぞれろう材を介して接合する工程と、を有する金属-セラミックス接合基板の製造方法である。
【0017】
本発明の第7の態様は、
前記複数のAlN基板に接合された前記複数の回路パターンCu板形成用Cu板の他方の主面上に、所定の回路パターンに対応するエッチングレジストを形成した後、エッチングにより前記複数の回路パターンCu板形成用Cu板の一部を除去し、複数の回路パターンCu板を形成する工程をさらに有する、
上記第6の態様に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法である。
【0018】
本発明の第8の態様は、
前記複数のAlN基板が接合された前記放熱側Cu板形成用Cu板の他方の主面上に、所定の形状のエッチングレジストを形成した後、エッチングにより前記放熱側Cu板形成用Cu板の一部を除去し、放熱側Cu板を形成する工程をさらに有する、
上記第6または第7の態様に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法である。
【0019】
本発明の第9の態様は、
前記放熱側Cu板の他方の主面の面積が、25cm2以上である、
上記第8の態様に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法である。
【0020】
本発明の第10の態様は、
前記複数の回路パターンCu板の厚さが、0.3mm以上1.2mm以下である、
上記第7の態様に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法である。
【0021】
本発明の第11の態様は、
前記放熱側Cu板の厚さが、0.3mm以上1.2mm以下である、
上記第8の態様に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法である。
【0022】
本発明の第12の態様は、
前記複数のAlN基板の熱伝導率が、100W/(m・K)以上である、
上記第6の態様に記載の金属-セラミックス接合基板の製造方法である。
【0023】
本発明の第13の態様は、
上記第1または第2の態様に記載の金属-セラミックス接合基板が組み込まれたパワーモジュールである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、セラミックス基板に金属板を接合した金属-セラミックス接合基板を搭載するパワーモジュール等の半導体装置において、放熱性および絶縁耐力に優れ、接合後に割れがなく、反りの小さい大型の金属-セラミックス接合基板、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1(a)は、本発明の第1実施形態の金属-セラミックス接合基板1の一例を模式的に示す断面図であり、
図1(b)は、本発明の第1実施形態の金属-セラミックス接合基板1の一例を模式的に示す上面図であり、
図1(c)は、本発明の第1実施形態の金属-セラミックス接合基板1の一例を模式的に示す下面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態の金属-セラミックス接合基板1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態の積層体形成工程S101を示す説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施形態の接合工程S102を示す説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の他の実施形態の金属-セラミックス接合基板2の一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、従来のパワーモジュール(IGBTモジュール)の一例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0027】
<本発明の第1実施形態>
(1)金属-セラミックス接合基板の構成
まず、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1の構成について説明する。
図1(a)は、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1の一例を模式的に示す断面図であり、
図1(b)は、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1の一例を模式的に示す上面図であり、
図1(c)は、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1の一例を模式的に示す下面図である。
【0028】
図1(a)に示すように、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1は、1枚の放熱側Cu(銅)板50と、放熱側Cu(銅)板50の一方の主面上に、ろう材60を介して(それぞれの)一方の主面が接合された複数(例えば、
図1では2枚)のAlN(窒化アルミニウム)基板30と、複数のAlN(窒化アルミニウム)基板30のそれぞれの他方の主面上に、ろう材60を介して接合された複数(例えば、
図1では2枚)の回路パターンCu(銅)板40と、を有している。
なお、板材であるCu板、AlN基板の主面とは板面(側面ではない板材の厚さ方向に垂直な面)を示し、表側の主面と裏側の主面が存在する。
【0029】
放熱側Cu板50は、例えば、純度が99.9質量%以上(好ましくは99.99質量%以上)の熱伝導率の高い圧延Cu板からなり、放熱板として用いられる。また、放熱側Cu板50の外形は、略矩形であることが好ましい。
【0030】
放熱側Cu板50の他方(AlN基板30が接合されている面とは反対側)の主面の面積(表面積)は25cm2以上であることが好ましく、50cm2以上であることがより好ましい。これにより、金属-セラミックス接合基板1を大型化し、アセンブリ工程における位置決めやハンドリングなどの工程を低減し、より効率化することができる。なお、放熱側Cu板50の他方の主面の面積の上限は、特に限定されないが、例えば、200cm2以下であり、150cm2以下としてもよい。
【0031】
放熱側Cu板50の厚さは0.3mm以上1.2mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。これにより、AlN基板30の割れを抑制しつつ、放熱性を向上させることができる。
【0032】
AlN基板30は、熱伝導率が100W/(m・K)以上であることが好ましく、130W/(m・K)以上であることがより好ましく、170W/(m・K)以上であることがさらに好ましい。これにより、セラミックス基板としてアルミナ基板(市販の量産品として20W/(m・K)程度)や窒化珪素基板(市販の量産品として高くても90W/(m・K)程度)を用いたCu-セラミックス接合基板と比べて、本実施形態のCu-AlN接合基板(金属-セラミックス接合基板1)は放熱性を大幅に向上させることができる。
【0033】
AlN基板30の形状は特に限定されないが、例えば、略矩形のものが多く用いられる。AlN基板30の厚さは、例えば、0.25mm以上3.0mm以下、好ましくは0.3mm以上2.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。
【0034】
回路パターンCu板40は、例えば、純度が99.9質量%以上(好ましくは99.99質量%以上)の電気伝導率、熱伝導率の高い圧延Cu板からなり、所定の回路パターン(例えば、
図1では略矩形)を有している。回路パターンCu板40は、半導体チップ等が搭載されるように構成されている。また、回路パターンCu板40は、AlN基板30よりも面積が小さいことが好ましく、1枚のAlN基板30の他方の主面上に複数形成されていてもよい。
【0035】
回路パターンCu板40の厚さは0.3mm以上1.2mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。放熱側Cu板50および回路パターンCu板40の厚さが大きいと放熱性に有利である。一方、金属-セラミックス接合基板1(Cu-AlN接合基板)において、接合されるCu板が厚すぎると接合後にセラミックス基板(AlN基板30)に割れが発生する恐れがあるため、放熱側Cu板50と(1枚の)回路パターンCu板40との厚さの和は0.6mm以上2.0mmであることが好ましく、0.8mm以上1.8mm以下であることがより好ましい。
なお、回路パターンCu板40および/または放熱側Cu板50の表面の経時変化を抑制するために、NiやNi合金めっき等の皮膜が形成されていてもよい。
また、放熱側Cu板50と回路パターンCu板40との間の絶縁耐力が2.5kV以上であることが好ましい。
【0036】
ろう材60は、金属とセラミックスとの接合に一般的に用いられている活性金属含有ろう材であることが好ましく、例えば、Ag-Cu-Ti系、Ag-Cu-Sn-Ti系のろう材を用いることができる。特に、Ag-Cuの共晶付近の組成に活性金属あるいは他の金属元素を添加したろう材を用いることが好ましい。また、ろう材60の厚さは5μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0037】
図1に示す本実施形態の金属-セラミックス接合基板1では、1枚の放熱側Cu板50に2枚のAlN基板30がろう材60を介して接合、形成されている。すなわち、回路パターンCu板40を備えた2枚のAlN基板30が、放熱側Cu板50によってつながっており、パワーモジュールの製造工程において、1個の金属-セラミックス接合基板1(Cu-AlN接合基板)として取り扱うことができるので、回路パターンCu板40の他方の面への半導体チップ等の接合、放熱側Cu板50の他方の面にCuヒートシンク板(Cuベース板)等の接合、回路パターンCu板40とケースの端子とのワイヤボンディングによる接続等、パワーモジュールの部品のアセンブリ工程の効率化に寄与し、また位置決めなどの寸法精度を所定の範囲に収めることが容易である。なお、1枚の放熱側Cu板50には3枚以上の回路パターンCu板40を備えたAlN基板30が接合されていてもよい。また、セラミックス基板の割れを抑制し、反りを小さくする観点から、放熱側Cu板50の板面(主面)の(仮想の)中心線に対して、複数のAlN基板30を線対称に配置することが好ましく、複数のAlN基板30のサイズが同じであることが好ましい。
【0038】
なお、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1では、放熱側Cu板50と回路パターンCu板40との間の絶縁耐力が2.5kV以上であり、放熱側Cu板50の他方の主面における下記式(1)で表される反り換算値が0mm以上2.5×10-3mm以下であることが好ましい。
反り換算値(mm)=放熱側Cu板50の反り量(mm)×AlN基板30の厚さ(mm)/放熱側Cu板50の対角線長さ(mm)・・・(1)
【0039】
図6に示したような従来のパワーモジュール(IGBTモジュール)では、金属-セラミックス接合基板を大型化した場合、セラミックス基板の割れや反りが問題となっていた。これに対し、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1では、1枚の放熱側Cu板50に複数(例えば、
図1では2枚)のAlN基板30がろう材60を介して接合、形成されていることにより、大面積でありながら、セラミックス基板の割れを抑制し、反りの小さい金属-セラミックス接合基板1を実現することができる。
【0040】
(2)金属-セラミックス接合基板の製造方法
次に、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1の製造方法は、例えば、積層体形成工程S101と、接合工程S102と、パターン形成工程S103と、を有している。
【0041】
(積層体形成工程S101)
図3に示すように、積層体形成工程S101では、例えば、1枚の放熱側Cu板形成用Cu板51の一方の主面上に、複数(例えば、2枚)のAlN基板30の一方の主面をろう材60を介して配置するとともに、複数のAlN基板30のそれぞれの他方の主面上に、複数(例えば、2枚)の回路パターンCu板形成用Cu板41(の一方の主面)をろう材60を介して配置し、放熱側Cu板形成用Cu板51、複数のAlN基板30、複数の回路パターンCu板形成用Cu板41がそれぞれろう材60を介して順に積層された積層体5を形成する。
【0042】
放熱側Cu板形成用Cu板51および回路パターンCu板形成用Cu板41としては、例えば、純度が99.9質量%以上(好ましくは99.99質量%以上)の熱伝導率、電気伝導率の高い圧延Cu板を用いることが好ましい。
【0043】
AlN基板30は、熱伝導率が100W/(m・K)以上であることが好ましく、130W/(m・K)以上であることがより好ましく、170W/(m・K)以上であることがさらに好ましい。また、AlN基板30の3点曲げ強度は、450MPa以上であることが好ましく、500MPa以上であることがより好ましい。AlN基板30の形状は特に限定されないが、例えば、略矩形のものが多く用いられる。AlN基板30の厚さは、例えば、0.25mm以上3.0mm以下、好ましくは0.3mm以上2.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。
【0044】
ろう材60は、金属とセラミックスとの接合に一般的に用いられている活性金属含有ろう材であり、例えば、Ag-Cu-Ti系、Ag-Cu-Sn-Ti系のろう材を用いることができる。特に、Ag-Cuの共晶付近の組成に活性金属や他の金属元素を添加したろう材を用いることが好ましい。ろう材60の形態はペースト状や箔状が好ましく、ペースト状のものがより好ましい。ペースト状のろう材60であれば、AlN基板30にスクリーン印刷等の簡易な方法で塗布できる。また、ろう材60の厚さは5μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。
【0045】
(接合工程S102)
図4に示すように、接合工程S102では、例えば、SUS304等のステンレス板からなる下部敷板70の上に積層体5を配置し、積層体5の上にSUS304等のステンレス板からなる上部敷板71を載せ、さらに必要に応じてその上に重り(図示せず)を配置する等して、積層体5の厚さ方向に(複数のAlN基板30の一方の主面の面積に対して)0.001kgf/cm
2以上0.1kgf/cm
2以下の応力が負荷されるように調整する。なお、負荷を0.005kgf/cm
2以上とするのがより好ましい。このように応力を加えた状態で、例えば、真空炉に挿入して加熱した後、積層体5を冷却し、放熱側Cu板形成用Cu板51、複数のAlN基板30、複数の回路パターンCu板形成用Cu板41をそれぞれろう材60を介して接合する。
【0046】
本発明の接合工程S102における積層体5の厚さ方向に負荷する応力は小さく、接合時に特別な加圧治具などを用いる必要がない。また、複数の積層体5をセラミックス基板等のスペーサーを挟んで積層体5の厚さ方向に積み上げてから上部敷板71を載せると、多数の積層体5を生産性よく接合することが可能となり、量産性にも優れる。
【0047】
(パターン形成工程S103)
パターン形成工程S103では、例えば、複数のAlN基板30に接合されたそれぞれの複数の回路パターンCu板形成用Cu板41の主面上に、所定の回路パターンに対応するエッチングレジストを形成した後、エッチングにより複数の回路パターンCu板形成用Cu板41(および/またはろう材60)の一部(不要部分)を除去し、複数の回路パターンCu板40を形成する。
【0048】
また、パターン形成工程S103では、例えば、複数のAlN基板30が接合された放熱側Cu板形成用Cu板51の他方の主面上に、所定の形状(放熱側Cu板50の形状に対応する形状)のエッチングレジストを形成した後、エッチングにより放熱側Cu板形成用Cu板51(および/またはろう材60)の一部(不要部分)を除去し、放熱側Cu板50を形成する。なお、必要に応じて、放熱側Cu板形成用Cu板51の一方の主面上にも所定の形状のエッチングレジストを形成してもよい。
【0049】
パターン形成工程S103では、放熱側Cu板50の他方の主面の面積が、25cm2以上となるように放熱側Cu板50を形成することが好ましい。また、放熱側Cu板50の厚さが、0.3mm以上1.2mm以下となるように放熱側Cu板50を形成することが好ましい。また、複数の回路パターンCu板40の厚さが、0.3mm以上1.2mm以下となるように複数の回路パターンCu板40を形成することが好ましい。
【0050】
以上の工程により、本実施形態の金属-セラミックス接合基板1を製造することができる。
【0051】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0052】
例えば、上述の実施形態では、
図1(c)等に示すように、放熱側Cu板50が、AlN基板30の外周部よりも小さい場合について説明した。
図5は、本発明の他の実施形態の金属-セラミックス接合基板2(Cu-AlN基板)の一例を模式的に示す断面図である。上述の第1実施形態と異なるのは、放熱側Cu板50が、回路パターンCu板40の主面に垂直な方向(上から)から見たときに、AlN基板30の外周部よりも大きいことである。この実施形態の金属-セラミックス接合基板2は、第1実施形態のように放熱側Cu板50の他方の面にCuヒートシンク板(Cuベース板)を接合しても良いし、放熱側Cu板50そのものをCuベース板の代用とすることも可能である。後者の場合、Cuベース板と金属-セラミックス基板とのはんだ付けを省略することができる。
【実施例0053】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0054】
[実施例1]
(積層体形成工程)
セラミックス基板として、長さ48mm、幅58mm、厚さ0.38mmのサイズの略矩形の窒化アルミニウム基板(熱伝導率が170W/(m・K)以上、3点曲げ強度が588MPa、3点曲げ強度試験における破断時のたわみ量が0.659mmのAlN基板)を2枚準備した。また、回路パターンCu板形成用Cu板として長さ50mm、幅60mm、厚さ0.8mmのサイズの略矩形の無酸素Cu板を2枚準備し、放熱側Cu板形成用Cu板として長さ100mm、幅60mm、厚さ0.6mmの無酸素銅板を1枚準備した。また、ろう材はその金属成分として、10質量%のCu粉と、5質量%のSn粉と、(活性金属成分としての)2質量%のTi粉と、残部がAg粉からなる金属粉(合計で100質量%)を準備した。これらの金属粉に、アクリル系のバインダーと溶剤からなるビヒクルを加え混練し、活性金属を含有するペースト状のろう材を作製した。
【0055】
上記AlN基板の表面および裏面の略全面に、上記ろう材をスクリーン印刷により厚さが20μmになるように塗布し、乾燥させてAlN基板の両面にろう材を形成した。
【0056】
ろう材が形成された2枚のAlN基板を、放熱側Cu板形成用Cu板の一方の表面(主面)に(
図3に示すように)2mmの間隔をあけて2枚並べて(放熱側Cu板形成用Cu板の中央部に)配置した。すなわち2枚のAlN基板の一方の表面(主面)の全面がろう材を介して放熱側Cu板形成用Cu板の一方の面(主面)に接触した状態とした。次いで、2枚の回路パターンCu板形成用Cu板を、(
図3に示すように)ろう材が形成された2枚のAlN基板の他方の表面(主面)の全面が覆われるようにそれぞれ配置して、放熱側Cu板形成用Cu板とAlN基板と回路パターンCu板形成用Cu板からなる積層体を得た。
【0057】
(接合工程)
次いで、(
図4に示すように)上記積層体をSUS304製の下部ステンレス板(下部敷板)の上に、放熱側Cu板形成用Cu板の他方の面が接触するように配置(載置)し、さらに積層体の上にSUS304製の上部ステンレス板(上部敷板)を配置(載置)し、積層体の厚さ方向に(AlN基板の主面に対して)0.01kgf/cm
2の応力を負荷した状態(上部ステンレス板の自重がかかった状態)で、真空中で850℃に加熱した後、冷却することにより、AlN基板の両面に放熱側Cu板形成用Cu板および回路パターンCu板形成用Cu板を接合した。
【0058】
(パターン形成工程)
次いでAlN基板に接合した放熱側Cu板形成用Cu板の表面(他方の主面)に、所定の放熱側Cu板の形状に対応する(略矩形の)紫外線硬化アルカリ剥離型レジストをスクリーン印刷により塗布した。また、AlN基板の他方の面に接合した回路パターンCu板形成用Cu板の表面(他方の主面)に、所定の回路パターンCu板の形状に対応する(回路形状の、本実施例では略矩形の)上記レジストをスクリーン印刷により塗布した。
【0059】
これらのレジストに紫外線を照射して硬化させた後、塩化銅と塩酸と残部の水とからなるエッチング液によりCu板の不要な部分をエッチングし、水酸化ナトリウム水溶液によりレジストを除去し、次いでAlN基板の表面に残存する不要なろう材を、EDTA(エチレンジアミン4酢酸)を含有する公知のエッチング液で除去し、Cu板の表面を市販の化学研磨液で化学研磨処理して表面の外観ムラを除去し、放熱側Cu板および回路パターンCu板を形成した。
【0060】
以上により、長さ96mm、幅56mm、厚さ0.6mmの略矩形の放熱側Cu板の上に2枚のAlN基板が接合され、上記2枚のAlN基板の表面(他方の面)にそれぞれ長さ46mm、幅56mm、厚さ0.8mmの略矩形の回路パターンCu板が形成された金属-セラミックス接合基板を得た。
図1に示すように、回路パターンCu板の端部とAlN基板の端部の間の最小距離W1は1mmであり、また、(AlN基板の側面が対向する辺を除き)放熱側Cu板の端部とAlN基板の端部の間の最小距離W2は1mmであった。
【0061】
(評価)
・基板割れ
得られた金属-セラミックス接合基板を目視で観察したところ、セラミックス基板に割れは確認されなかった。
・絶縁耐力
この金属-セラミックス接合基板の回路パターンCu板(表側)と放熱側Cu板(裏側)にそれぞれ電極を設け、大気中でこれらの電極の間(表裏間)に印加する交流電圧を徐々に上げて1mA以上のリーク電流が流れたときの電圧を絶縁耐力として測定したところ、2.5kVでも絶縁破壊はおこらず、絶縁耐力は2.5kV以上であった。
2.5kVの電圧を印加した場合に絶縁性が保たれる場合を〇(絶縁耐力2.5kV以上)、絶縁性が破壊される場合を×(絶縁耐力2.5kV未満)としたところ、本例は〇(絶縁耐力2.5kV以上)の評価であった。
・反り量
また、キーエンスの3Dワンショット測定器(VR―5000)を使用して、金属-セラミックス接合基板の放熱側Cu板の表面(他方の主面)の高さデータを全面測定した。該装置に付属するソフトを用いて各高さデータから最小二乗法を用いて平面である基準面を設定し、設定された基準面が水平になるように各高さデータが補正され、さらに基準面の高さが0になるように高さ方向にオフセットした。該ソフトの処理により補正・オフセットされた高さデータを用いて、略矩形の放熱側Cu板の対角線の高さデータを取得した。この放熱側Cu板の2本の対角線上における高さデータの最大および最小の差をそれぞれ算出し、いずれか大きい方を金属-セラミックス接合基板の反り量とした。その結果、反り量は0.652mmであり良好であった。
・反り換算値
上記により算出された放熱側Cu板の他方の主面の反り量(mm)、AlN基板の厚さ(mm)および放熱側Cu板の対角線長さ(mm)を用いて、下記式(1)により表される値を反り換算値とした。その結果、反り換算値は2.2×10-3mmであった。
なお、実施例1において放熱側Cu板の他方の主面の反り量は0.652mm、AlN基板の厚さは0.38mm、放熱側Cu板の対角線長さは111.14mmである。
反り換算値(mm)=放熱側Cu板の反り量(mm)×AlN基板の厚さ(mm)/放熱側Cu板の対角線長さ(mm)・・・(1)
【0062】
[比較例1]
接合時に積層体の厚さ方向に負荷する応力を(AlN基板の主面に対して)4.17kgf/cm2とした以外は、実施例1と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。なお、積層体への応力の負荷は、積層体が配置された上側ステンレス板と下側ステンレス板の間をボルト締めする治具を用いることにより実施した。具体的には、上部および下部ステンレス板の四隅には穴が形成されており、上部および下部ステンレス板の前記穴にボルトを通し、ナットで締め付けることにより行った。
【0063】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様に目視で観察したところ、セラミックス基板に割れが確認され、表裏のCu板間の絶縁耐力は×(2.5kV未満)であった。また、実施例1と同様に反り量および反り換算値を評価したところ、反り量は0.620mm、反り換算値は2.1×10-3mmであった。
【0064】
[比較例2]
(積層体形成工程)
セラミックス基板として、長さ96mm、幅58mm、厚さ0.38mmのサイズの略矩形の窒化アルミニウム基板(熱伝導率が170W/(m・K)以上のAlN基板、3点曲げ強度が588MPa、3点曲げ強度試験における破断時のたわみ量が659μmのAlN基板)を1枚準備した。また、回路パターンCu板形成用Cu板として、長さ100mm、幅60mm、厚さ0.8mmのサイズの略矩形の無酸素Cu板を1枚準備し、放熱側Cu板形成用Cu板として、長さ100mm、幅60mm、厚さ0.6mmの無酸素Cu板を1枚準備した。
【0065】
上記AlN基板の表面および裏面の略全面に、上記ろう材をスクリーン印刷により厚さが20μmになるように塗布し、乾燥させてAlN基板の両面にろう材を形成した。
【0066】
ろう材が形成された1枚のAlN基板を、放熱側Cu板形成用Cu板の一方の表面の中央に配置した。すなわちAlN基板の一方の表面の全面がろう材を介して放熱側Cu板形成用Cu板の一方の面に接触した状態とした。次いで、1枚の回路パターンCu板形成用Cu板を、ろう材が形成された1枚のAlN基板の他方の全面が覆われるように配置して、放熱側Cu板形成用Cu板とAlN基板と回路パターンCu板形成用Cu板からなる積層体を得た。
【0067】
(接合工程)
次いで、上記積層体をSUS304製の下部ステンレス板の上に、放熱側Cu板形成用Cu板の他方の面が接触するように配置し、さらに積層体の上にSUS304製の上部ステンレス板を配置し、積層体の厚さ方向に(AlN基板の主面に対して)0.01kgf/cm2の応力を負荷した状態(上部ステンレス板の自重がかかった状態)で、真空中で850℃に加熱した後、冷却することにより、AlN基板の両面にCu板を接合した。
【0068】
(パターン形成工程)
次いでAlN基板に接合した放熱側Cu板形成用Cu板の表面に、所定の放熱側Cu板の形状に対応する(略矩形の)紫外線硬化アルカリ剥離型レジストをスクリーン印刷により塗布した。また、AlN基板の他方の面に接合した回路パターンCu板形成用Cu板の表面に、所定の回路パターン形状に対応する(回路形状の、本実施例では略矩形の)上記レジストをスクリーン印刷により塗布した。
【0069】
これらのレジストに紫外線を照射して硬化させた後、塩化銅と塩酸と残部の水とからなるエッチング液によりCu板の不要な部分をエッチングし、水酸化ナトリウム水溶液によりレジストを除去し、次いでAlN基板の表面に残存する不要なろう材を、EDTA(エチレンジアミン4酢酸)を含有する公知のエッチング液で除去し、放熱側Cu板および回路パターンCu板を形成した。
【0070】
以上により、長さ96mm、幅56mm、厚さ0.6mmの略矩形の放熱側Cu板の上に1枚のAlN基板が接合され、上記1枚のAlN基板の表面(他方の面)に長さ96mm、幅56mm、厚さ0.8mmの略矩形の回路パターンCu板が形成された金属-セラミックス接合基板を得た。
【0071】
(評価)
得られた金属-セラミックス接合基板を目視で観察したところ、セラミックス基板に割れは確認されず、表裏のCu板間の絶縁耐力は〇(2.5kV以上)であった。また、実施例1と同様に反り量および反り換算値を評価したところ、反り量は1.031mm、反り換算値は3.5×10-3mmであり、反りが大きく不良であった。
【0072】
[比較例3]
接合時に積層体の厚さ方向に負荷する応力を(AlN基板の主面に対して)4.17kgf/cm2とした以外は、比較例2と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。なお、積層体への応力の負荷は、積層体が配置された上側ステンレス板と下側ステンレス板の間をボルト締めすることにより実施した。具体的には、上部および下部ステンレス板の四隅には穴が形成されており、上部および下部ステンレス板の前記穴にボルトを通し、ナットで締め付けることにより行った。
【0073】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様に目視で観察したところ、セラミックス基板に割れが確認され、表裏のCu板間の絶縁耐力は×(2.5kV未満)であった。また、実施例1と同様に反り量および反り換算値を評価したところ、反り量は0.672mm、反り換算値は2.3×10-3mmであった。
【0074】
[実施例2]
セラミックス基板として、長さ48mm、幅58mm、厚さ0.635mmのサイズの略矩形の窒化アルミニウム基板(熱伝導率が170W/(m・K)以上、3点曲げ強度が593MPa、3点曲げ強度試験における破断時のたわみ量が0.467mmのAlN基板)を2枚使用した以外は、実施例1と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。
【0075】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様に目視で観察したところ、セラミックス基板に割れは確認されず、表裏のCu板間の絶縁耐力は〇(2.5kV以上)であった。また、実施例1と同様に金属-セラミックス基板の反り量および反り換算値を評価したところ、反り量は0.273mm、反り換算値は1.6×10-3mmで反りが小さく良好であった。
【0076】
[比較例4]
接合時に積層体の厚さ方向に負荷する応力を(AlN基板の主面に対して)4.17kgf/cm2とした以外は、実施例2と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。なお、積層体への応力の負荷は、積層体が配置された上側ステンレス板と下側ステンレス板の間をボルト締めすることにより実施した。具体的には、上部および下部ステンレス板の四隅には穴が形成されており、上部および下部ステンレス板の前記穴にボルトを通し、ナットで締め付けることにより行った。
【0077】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様に目視で観察したところ、セラミックス基板に割れが確認され、表裏のCu板間の絶縁耐力は×(2.5kV未満)であった。また、実施例1と同様に反り量および反り換算値を評価したところ、反り量は0.149mm、反り換算値は0.9×10-3mmであった。
【0078】
[比較例5]
セラミックス基板として、長さ96mm、幅58mm、厚さ0.635mmのサイズの略矩形の窒化アルミニウム基板(熱伝導率が170W/m・K以上のAlN基板)を使用した以外は、比較例2と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。
【0079】
(評価)
得られた金属-セラミックス接合基板を目視で観察したところ、セラミックス基板に割れは確認されず、表裏のCu板間の絶縁耐力は〇(2.5kV以上)であった。また、実施例1と同様に反り量および反り換算値を評価したところ、反り量は0.526mm、反り換算値は3.0×10-3mmであり、反りが大きく不良であった。
【0080】
[比較例6]
接合時に積層体の厚さ方向に負荷する応力を(AlN基板の主面に対して)4.17kgf/cm2とした以外は、比較例5と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。なお、積層体への応力の負荷は、積層体が配置された上側ステンレス板と下側ステンレス板の間をボルト締めすることにより実施した。具体的には、上部および下部ステンレス板の四隅には穴が形成されており、上部および下部ステンレス板の前記穴にボルトを通し、ナットで締め付けることにより行った。
【0081】
得られた金属-セラミックス接合基板を目視で観察したところ、セラミックス基板に割れは確認されず、表裏のCu板間の絶縁耐力は〇(2.5kV以上)であった。また、実施例1と同様に反り量および反り換算値を評価したところ、反り量は0.555mm、反り換算値は3.2×10-3mmと大きかった。
【0082】
[実施例3]
接合時に積層体の厚さ方向に負荷する応力を(AlN基板の主面に対して)0.03kgf/cm2とした以外は、実施例1と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。なお、積層体への応力の負荷の調整は、上部敷板に重りを載置することにより実施した。
【0083】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様に目視で観察したところ、セラミックス基板に割れは確認されず、表裏のCu板間の絶縁耐力は〇(2.5kV以上)であった。また、実施例1と同様に反り量および反り換算値を評価したところ、反り量は0.664mm、反り換算値は2.3×10-3mmであった。
【0084】
[実施例4]
接合時に積層体の厚さ方向に負荷する応力を(AlN基板の主面に対して)0.03kgf/cm2とした以外は、実施例2と同様の方法で金属-セラミックス接合基板を作製した。なお、積層体への応力の負荷の調整は、上部敷板に重りを載置することにより実施した。
【0085】
得られた金属-セラミックス接合基板を実施例1と同様に目視で観察したところ、セラミックス基板に割れは確認されず、表裏のCu板間の絶縁耐力は〇(2.5kV以上)であった。また、実施例1と同様に反り量を評価したところ、反り量は0.382mm、反り換算値は2.2×10-3mmであった。
【0086】
以上より、1枚の放熱側Cu板に複数(本実施例では2枚)のAlN基板がろう材を介して接合、形成されていることにより、大面積でありながら、セラミックス基板の割れを抑制し、反りの小さい金属-セラミックス接合基板を実現することができることを確認した。