(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059210
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】レーダアレイアンテナ校正装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20240423BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G01S7/40 126
G01S7/02 216
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166750
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】時枝 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】水島 卓哉
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB24
5J070AD05
5J070AD10
5J070AF03
5J070AK02
5J070AK22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本開示は、アレイアンテナ装置の遠方界領域のみならず極近距離領域においても、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正したうえで、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することを目的とする。
【解決手段】本開示では、励振振幅位相校正部21は、校正用反射体RCが位置する所定距離(遠方界領域でもよく、極近距離領域でもよい)において、校正用反射体RCからのレーダ信号を実際に受信したうえで、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算する。そして、励振位相補正部22は、被観測反射体ROが位置する他の距離(当該所定距離によらず、遠方界領域でもよく、極近距離領域でもよい)において、被観測反射体ROからのレーダ信号を実際に受信するまでもなく(実際に受信してもよい)、各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ送受信装置として適用されるアレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正装置であって、
前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算する励振振幅位相校正部と、
前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正部と、
を備えることを特徴とするレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項2】
前記励振位相補正部は、前記各アンテナ素子と前記校正用反射体との間の距離から前記所定距離を減算した距離に対する、前記各アンテナ素子と前記被観測反射体との間の距離から前記他の距離を減算した距離の差分に基づいて、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する
ことを特徴とする、請求項1に記載のレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項3】
前記励振振幅位相校正部は、前記アレイアンテナ装置の遠方界領域に対応する前記所定距離について、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算し、
前記励振位相補正部は、前記遠方界領域に対応する前記他の距離と、前記アレイアンテナ装置のフレネル領域に対応する前記他の距離と、について、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項4】
前記励振振幅位相校正部は、前記アレイアンテナ装置のフレネル領域に対応する前記所定距離について、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算し、
前記励振位相補正部は、前記フレネル領域に対応する前記他の距離と、前記アレイアンテナ装置の遠方界領域に対応する前記他の距離と、について、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項5】
レーダ送受信装置として適用されるアレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正方法であって、
前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値があらかじめ計算されたうえで、
前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正ステップ、
を備えることを特徴とするレーダアレイアンテナ校正方法。
【請求項6】
レーダ送受信装置として適用されるアレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正プログラムであって、
前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値があらかじめ計算されたうえで、
前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正ステップ、
をコンピュータに実行させるためのレーダアレイアンテナ校正プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダアレイアンテナを校正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波等を適用して物標を検出する車載レーダ等において、アレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正する技術が、特許文献1等に開示されている。
【0003】
すなわち、各アンテナ素子の減衰器及び移相器において、製造誤差及び線路長誤差を考慮したうえで、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成する必要がある。そこで、アレイアンテナ装置の正面方向及び遠方界領域に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ミリ波等を適用する車載レーダ等において、1m未満から100m程度まで等の広範囲に位置する物標を検出する必要がある。そして、アレイアンテナ装置の遠方界領域においては、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができることが既に分かっている。しかし、アレイアンテナ装置の極近距離領域においては、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができないことが新たに見出された。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、アレイアンテナ装置の遠方界領域のみならず極近距離領域においても、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正したうえで、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、アレイアンテナ装置の遠方界領域においては、レーダ信号波面がほぼ平面波面であることは勿論であるが、アレイアンテナ装置の極近距離領域においては、レーダ信号波面が平面波面ではないことに新たに着目した。
【0008】
つまり、アレイアンテナ装置の極近距離領域においては、アレイアンテナ装置の遠方界領域と比べて、各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるような、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値が異なることに新たに着目した。
【0009】
そこで、校正用反射体が位置する所定距離においては、校正用反射体からのレーダ信号を実際に受信したうえで、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算する。ここで、当該所定距離として、遠方界領域でもよく、極近距離領域でもよい。
【0010】
そして、被観測反射体が位置する他の距離においては、被観測反射体からのレーダ信号を実際に受信するまでもなく(実際に受信してもよい)、各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する。ここで、当該他の距離として、当該所定距離によらず、遠方界領域でもよく、極近距離領域でもよい。
【0011】
具体的には、本開示は、レーダ送受信装置として適用されるアレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正装置であって、前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算する励振振幅位相校正部と、前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正部と、を備えることを特徴とするレーダアレイアンテナ校正装置である。
【0012】
また、本開示は、レーダ送受信装置として適用されるアレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正方法であって、前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値があらかじめ計算されたうえで、前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正ステップ、を備えることを特徴とするレーダアレイアンテナ校正方法である。
【0013】
また、本開示は、レーダ送受信装置として適用されるアレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正プログラムであって、前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値があらかじめ計算されたうえで、前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正ステップ、をコンピュータに実行させるためのレーダアレイアンテナ校正プログラムである。
【0014】
これらの構成によれば、アレイアンテナ装置の遠方界領域のみならず極近距離領域においても、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するとともに補正したうえで、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができる。
【0015】
また、本開示は、前記励振位相補正部は、前記各アンテナ素子と前記校正用反射体との間の距離から前記所定距離を減算した距離に対する、前記各アンテナ素子と前記被観測反射体との間の距離から前記他の距離を減算した距離の差分に基づいて、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算することを特徴とするレーダアレイアンテナ校正装置である。
【0016】
この構成によれば、校正用反射体が位置する所定距離において、各アンテナ素子の励振位相の校正値を計算したうえで、被観測反射体が位置する他の距離において、各アンテナ素子の伝搬距離に基づいて、各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算することできる。
【0017】
また、本開示は、前記励振振幅位相校正部は、前記アレイアンテナ装置の遠方界領域に対応する前記所定距離について、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算し、前記励振位相補正部は、前記遠方界領域に対応する前記他の距離と、前記アレイアンテナ装置のフレネル領域に対応する前記他の距離と、について、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算することを特徴とするレーダアレイアンテナ校正装置である。
【0018】
この構成によれば、通常の広さの電波暗室において、各アンテナ素子の励振位相の校正値を計算したうえで、被観測反射体が位置する他の距離(遠方界領域でもよく、極近距離領域でもよい)において、各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算することができる。
【0019】
また、本開示は、前記励振振幅位相校正部は、前記アレイアンテナ装置のフレネル領域に対応する前記所定距離について、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算し、前記励振位相補正部は、前記フレネル領域に対応する前記他の距離と、前記アレイアンテナ装置の遠方界領域に対応する前記他の距離と、について、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算することを特徴とするレーダアレイアンテナ校正装置である。
【0020】
この構成によれば、さらに狭めの電波暗室において、各アンテナ素子の励振位相の校正値を計算したうえで、被観測反射体が位置する他の距離(極近距離領域でもよく、遠方界領域でもよい)において、各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算することができる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本開示は、アレイアンテナ装置の遠方界領域のみならず極近距離領域においても、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正したうえで、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示のレーダ送受信システムの構成を示す図である。
【
図2】本開示のアンテナ校正処理の手順を示す図である。
【
図3】本開示の励振位相補正処理の原理を示す図である。
【
図4】本開示の励振位相補正処理の内容を示す図である。
【
図5】本開示の励振位相補正値メモリの内容を示す図である。
【
図6】本開示の励振位相補正値メモリの内容を示す図である。
【
図7】本開示の励振位相補正前後の指向性を示す図である。
【
図8】本開示の励振位相補正前後の指向性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0024】
(本開示のレーダ送受信システムの構成)
本開示のレーダ送受信システムの構成を
図1に示す。本開示のアンテナ校正処理の手順を
図2に示す。レーダ送受信システムSは、アレイアンテナ装置1及びアレイアンテナ校正装置2を備える。レーダ送受信システムSは、ミリ波等を適用して物標を検出する車載レーダ等として利用される。アレイアンテナ装置1は、本開示では、MIMOアレイアンテナ装置であるが、変形例として、通常のフェーズドアレイアンテナ装置でもよい。
【0025】
アレイアンテナ装置1は、送信アンテナ素子T0~T2、受信アンテナ素子R0~R3、直交分離処理部D0~D3及び仮想アンテナ素子V0~V11を備える。アレイアンテナ校正装置2は、励振振幅位相校正部21及び励振位相補正部22を備え、
図2に示したアレイアンテナ校正プログラムをコンピュータにインストールし実現される。
【0026】
送信アンテナ素子T0~T2は、レーダ照射信号を同時に送信する。受信アンテナ素子R0~R3は、合成レーダ反射信号を受信する。直交分離処理部D0は、受信アンテナ素子R0が受信した合成レーダ反射信号のうち、送信アンテナ素子T0、T1、T2が送信したレーダ照射信号成分を、仮想アンテナ素子V0、V4、V8に出力する。直交分離処理部D1は、受信アンテナ素子R1が受信した合成レーダ反射信号のうち、送信アンテナ素子T0、T1、T2が送信したレーダ照射信号成分を、仮想アンテナ素子V1、V5、V9に出力する。直交分離処理部D2は、受信アンテナ素子R2が受信した合成レーダ反射信号のうち、送信アンテナ素子T0、T1、T2が送信したレーダ照射信号成分を、仮想アンテナ素子V2、V6、V10に出力する。直交分離処理部D3は、受信アンテナ素子R3が受信した合成レーダ反射信号のうち、送信アンテナ素子T0、T1、T2が送信したレーダ照射信号成分を、仮想アンテナ素子V3、V7、V11に出力する。
【0027】
送信アンテナ素子T0~T2は、レーダ照射信号を同時に送信するのではなく時分割に送信してもよい。受信アンテナ素子R0~R3は、時分割レーダ反射信号を受信してもよい。直交分離処理部D0は、受信アンテナ素子R0が受信した時分割レーダ反射信号のうち、送信アンテナ素子T0、T1、T2が送信したレーダ照射信号成分を、仮想アンテナ素子V0、V4、V8に出力してもよい。直交分離処理部D1は、受信アンテナ素子R1が受信した時分割レーダ反射信号のうち、送信アンテナ素子T0、T1、T2が送信したレーダ照射信号成分を、仮想アンテナ素子V1、V5、V9に出力してもよい。直交分離処理部D2は、受信アンテナ素子R2が受信した時分割レーダ反射信号のうち、送信アンテナ素子T0、T1、T2が送信したレーダ照射信号成分を、仮想アンテナ素子V2、V6、V10に出力してもよい。直交分離処理部D3は、受信アンテナ素子R3が受信した時分割レーダ反射信号のうち、送信アンテナ素子T0、T1、T2が送信したレーダ照射信号成分を、仮想アンテナ素子V3、V7、V11に出力してもよい。
【0028】
励振振幅位相校正部21は、レーダ送受信システムSの運用前(工場出荷時又は経年変化補償前)において、アレイアンテナ装置1の正面方向及びアレイアンテナ装置1からの所定距離に位置する校正用反射体RCからのレーダ信号を受信する(ステップS1)。ここで、当該所定距離として、遠方界領域でもよく、極近距離領域でもよい。
【0029】
励振振幅位相校正部21は、各仮想アンテナ素子V0~V11の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、各仮想アンテナ素子V0~V11の励振振幅及び励振位相の校正値を計算する(ステップS2)。よって、各仮想アンテナ素子V0~V11の減衰器及び移相器において、製造誤差及び線路長誤差が補償される。
【0030】
ところで、ミリ波等を適用する車載レーダ等において、1m未満から100m程度まで等の広範囲に位置する物標を検出する必要がある。そして、励振振幅位相校正部21のステップS1、S2のみでも、校正用反射体RCが位置する所定距離においては、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができる。しかし、励振振幅位相校正部21のステップS1、S2のみでは、被観測反射体ROが位置する他の距離においては、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができない。そこで、励振位相補正部22によるステップS3、S4を用いて、上記の課題を解決するのである。
【0031】
(本開示の励振位相補正処理の原理)
本開示の励振位相補正処理の原理を
図3に示す。
図3では、簡単のために、仮想アンテナ素子V0~V11に代えて、アンテナ素子A0は、アンテナ素子面の原点0に位置するとし、アンテナ素子A1は、アンテナ素子面の位置xに位置するとし、校正用反射体RC又は被観測反射体ROは、アンテナ素子A0の正面方向に位置するとした。
【0032】
図3の左欄では、校正用反射体RCは、アンテナ素子A0の遠方界領域(距離R
C)に位置する。ここで、アンテナ素子A0、A1の遠方界領域においては、レーダ信号波面W0、W1は、ほぼ平面波面をなす。そして、アンテナ素子A1と校正用反射体RCとの間の往復距離から、アンテナ素子A0と校正用反射体RCとの間の往復距離を減算した距離は、Δj
C・λ/2πになる。しかし、伝搬位相差Δj
Cは、後述の数式5の最右辺のうち、距離Rに依存しない第1項を含むが、距離Rに反比例する第2項をほぼ含まない。そして、アンテナ素子A1の減衰器及び移相器において、製造誤差及び線路長誤差が補償されるとともに、伝搬位相差Δj
Cが補償される。よって、各アンテナ素子A0、A1(同様に各仮想アンテナ素子V0~V11でも)の受信位相は、同一位相になる。そして、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができる。
【0033】
図3の中欄では、被観測反射体ROは、アンテナ素子A0の遠方界領域(距離R
F)に位置する。ここで、アンテナ素子A0、A1の遠方界領域においては、レーダ信号波面W0、W1は、ほぼ平面波面をなす。そして、アンテナ素子A1と被観測反射体ROとの間の往復距離から、アンテナ素子A0と被観測反射体ROとの間の往復距離を減算した距離は、Δj
F・λ/2πになる。しかし、伝搬位相差Δj
Fは、後述の数式5の最右辺のうち、距離Rに依存しない第1項を含むが、距離Rに反比例する第2項をほぼ含まない。そして、アンテナ素子A1の減衰器及び移相器において、製造誤差及び線路長誤差が既に補償されるとともに、伝搬位相差Δj
F(≒Δj
C)が既にほぼ補償される。よって、各アンテナ素子A0、A1(同様に各仮想アンテナ素子V0~V11でも)の受信位相は、同一位相になる。そして、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができる。
【0034】
図3の右欄では、被観測反射体ROは、アンテナ素子A0の極近距離領域(距離R
N)に位置する。ここで、アンテナ素子A0、A1の極近距離領域においては、レーダ信号波面W0、W1は、平面波面をなさない。そして、アンテナ素子A1と被観測反射体ROとの間の往復距離から、アンテナ素子A0と被観測反射体ROとの間の往復距離を減算した距離は、Δj
N・λ/2πになる。さらに、伝搬位相差Δj
Nは、後述の数式5の最右辺のうち、距離Rに依存しない第1項を含むうえに、距離Rに反比例する第2項も含む。よって、アンテナ素子A1の減衰器及び移相器において、製造誤差及び線路長誤差が既に補償されるものの、伝搬位相差Δj
N(≠Δj
C)が未だ補償されない。そして、各アンテナ素子A0、A1(同様に各仮想アンテナ素子V0~V11でも)の受信位相は、同一位相にならない。さらに、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができない。
【0035】
そこで、励振位相補正部22は、レーダ送受信システムSの運用前(工場出荷時又は経年変化補償前)において、アレイアンテナ装置1の正面方向及びアレイアンテナ装置1からの上記所定距離RC以外の他の距離RNに位置すると想定される被観測反射体ROからのレーダ信号を想定する(ステップS3)。ここで、当該他の距離として、当該所定距離RCによらず、極近距離領域(距離RN)でもよく、遠方界領域(距離RF)でもよい。
【0036】
或いは、励振位相補正部22は、レーダ送受信システムSの運用時(工場出荷後又は経年変化補償後)において、アレイアンテナ装置1の正面方向及びアレイアンテナ装置1からの上記所定距離RC以外の他の距離RNに位置すると観測された被観測反射体ROからのレーダ信号を受信する(ステップS3)。ここで、当該他の距離として、当該所定距離RCによらず、極近距離領域(距離RN)でもよく、遠方界領域(距離RF)でもよい。
【0037】
そして、励振位相補正部22は、各アンテナ素子A0、A1の受信位相が同一位相になるように、各アンテナ素子A0、A1の励振位相の校正値に対する、各アンテナ素子A0、A1の励振位相の補正値を計算する(ステップS4)。よって、各アンテナ素子A0、A1の減衰器及び移相器において、製造誤差及び線路長誤差が補償されるとともに、伝搬位相差ΔjN(≠ΔjC)が補償される。各仮想アンテナ素子V0~V11でも、同様である。
【0038】
具体的には、励振位相補正部22は、以下の処理を実行する(ステップS4)。まず、アンテナ素子A1と校正用反射体RCとの間の往復距離から、上記所定距離の往復分2RCを減算した距離ΔjC・λ/2πを計算する。次に、アンテナ素子A1と被観測反射体ROとの間の往復距離から、上記他の距離の往復分2RNを減算した距離ΔjN・λ/2πを計算する。次に、距離ΔjC・λ/2πに対する距離ΔjN・λ/2πの差分に基づいて、アンテナ素子A1の励振位相の校正値に対する、アンテナ素子A1の励振位相の補正値ΔjN-ΔjCを計算する。各仮想アンテナ素子V0~V11でも、同様である。
【0039】
このように、アレイアンテナ装置1の遠方界領域のみならず極近距離領域においても、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するとともに補正したうえで、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができる。
【0040】
そして、校正用反射体RCが位置する所定距離において、各アンテナ素子の励振位相の校正値を計算したうえで、被観測反射体ROが位置する他の距離において、各アンテナ素子の伝搬距離に基づいて、各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算することできる。
【0041】
(本開示の励振位相補正処理の内容)
本開示の励振位相補正処理の内容を
図4に示す。
図4では、
図1に従って、仮想アンテナ素子V0~V11を考えて、送信アンテナ素子T0~T2は、アンテナ素子面の負の位置x
Tに位置するとし、受信アンテナ素子R0~R3は、アンテナ素子面の正の位置x
Rに位置するとした。例えば、仮想アンテナ素子V0(V11)を考えるときには、送信アンテナ素子T0(T2)の位置x
T及び受信アンテナ素子R0(R3)の位置x
Rを考えればよい。そして、一般化のために、校正用反射体RC又は被観測反射体RO(距離R)は、アンテナ素子面の正面方向と比べて、微小角θだけずれた方向に位置するとした。
【0042】
図4の左欄では、励振位相補正部22は、送信アンテナ素子と校正用反射体RC又は被観測反射体ROとの間の距離R
Tを計算する(数式1)。ここで、数式1の最右辺において、距離Rが位置x
Tと比べて十分に大きいことを考慮して、距離Rそのものの第1項と、距離Rに依存しない第2項と、距離Rに反比例する第3項と、のみを抽出する。
【数1】
【0043】
そして、励振位相補正部22は、送信アンテナ素子と校正用反射体RC又は被観測反射体ROとの間の距離R
Tから、校正用反射体RC又は被観測反射体ROの距離Rを減算した距離R
T-Rに基づいて、伝搬位相差Δj
T(
図3のΔj
C、Δj
F、Δj
Nの半分に対応)を計算する(数式2)。ここで、数式2の最右辺において、距離Rに依存しない第1項は、レーダ信号波面が平面波面であるときであっても生じる寄与であり、距離Rに反比例する第2項は、レーダ信号波面が平面波面でないときに初めて生じる寄与である。
【数2】
【0044】
図4の右欄では、励振位相補正部22は、受信アンテナ素子と校正用反射体RC又は被観測反射体ROとの間の距離R
Rを計算する(数式3)。ここで、数式3の最右辺において、距離Rが位置x
Rと比べて十分に大きいことを考慮して、距離Rそのものの第1項と、距離Rに依存しない第2項と、距離Rに反比例する第3項と、のみを抽出する。
【数3】
【0045】
そして、励振位相補正部22は、受信アンテナ素子と校正用反射体RC又は被観測反射体ROとの間の距離R
Rから、校正用反射体RC又は被観測反射体ROの距離Rを減算した距離R
R-Rに基づいて、伝搬位相差Δj
R(
図3のΔj
C、Δj
F、Δj
Nの半分に対応)を計算する(数式4)。ここで、数式4の最右辺において、距離Rに依存しない第1項は、レーダ信号波面が平面波面であるときであっても生じる寄与であり、距離Rに反比例する第2項は、レーダ信号波面が平面波面でないときに初めて生じる寄与である。
【数4】
【0046】
励振位相補正部22は、伝搬位相差Δj
T及び伝搬位相差Δj
R(
図3のΔj
C、Δj
F、Δj
Nの半分に対応)を合計して、伝搬位相差Δj
S(
図3のΔj
C、Δj
F、Δj
Nに対応)を計算する(数式5)。ここで、数式5の最右辺において、距離Rに反比例する第2項は、x
T
2+x
R
2に比例しており、位置x
T、x
Rが距離Rと比べて無視できないときにおける、各仮想アンテナ素子V0~V11の受信位相(階段状の放物線)を反映している(
図3の右欄を参照)。後述の
図5、6では、伝搬位相差Δj
Sを励振位相のずれ値という。
【数5】
【0047】
本開示の励振位相補正値メモリの内容を
図5に示す。
図5の上段では、励振振幅位相校正部21は、アレイアンテナ装置1の遠方界領域に対応する上記所定距離R
Cについて、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振振幅及び励振位相の校正値ΔA
i(R
C)及びΔj
i(R
C)を計算し、励振振幅位相の校正値メモリ23に書き込む。ここで、励振振幅及び励振位相の校正値は、複素数ΔA
i(R
C)exp(jΔj
i(R
C))としてもよい。そして、レーダ送受信システムSの運用前において、校正が補正される場合のみならず、レーダ送受信システムSの運用時において、校正が補正される場合であっても、励振振幅及び励振位相の校正値は、校正値メモリ23に書き込まれる。
【0048】
図5の中段では、励振位相補正部22は、遠方界領域に対応する上記所定距離R
Cと、遠方界領域に対応する上記他の距離R
Оと、フレネル領域に対応する上記他の距離R
О’と、について、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相のずれ値Δj
Si(R
C)、Δj
Si(R
О)、Δj
Si(R
О’)を計算し、励振位相のずれ値メモリ24に書き込む。ここで、励振位相のずれ値は、
図3のΔj
C、Δj
F、Δj
Nに対応する。そして、レーダ送受信システムSの運用前において、校正が補正される場合では、励振位相のずれ値は、ずれ値メモリ24に書き込まれ、レーダ送受信システムSの運用時において、校正が補正される場合では、励振位相のずれ値は、被観測反射体ROの検出毎に計算される。
【0049】
図5の下段では、励振位相補正部22は、遠方界領域に対応する上記所定距離R
Cと、遠方界領域に対応する上記他の距離R
Оと、フレネル領域に対応する上記他の距離R
О’と、について、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相の校正値Δj
i(R
C)に対する、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相の補正値0、Δj
Si(R
О)-Δj
Si(R
C)、Δj
Si(R
О’)-Δj
Si(R
C)を計算し、励振位相の補正値メモリ25に書き込む。ここで、励振位相の補正値は、
図3のΔj
N-Δj
Cに対応する。そして、レーダ送受信システムSの運用前において、校正が補正される場合では、励振位相の補正値は、補正値メモリ25に書き込まれ、レーダ送受信システムSの運用時において、校正が補正される場合では、励振位相の補正値は、被観測反射体ROの検出毎に計算される。
【0050】
このように、通常の広さの電波暗室において、各アンテナ素子の励振位相の校正値を計算したうえで、被観測反射体ROが位置する他の距離(遠方界領域でもよく、極近距離領域でもよい)において、各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算することができる。なお、励振位相のずれ値及び補正値は、
図5のように、距離ビン毎に計算してもよく、変形例として、複数の距離ビンを含む距離ブロック毎に計算してもよい。
【0051】
本開示の励振位相補正値メモリの内容を
図6にも示す。
図6の上段では、励振振幅位相校正部21は、アレイアンテナ装置1のフレネル領域に対応する上記所定距離R
Cについて、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振振幅及び励振位相の校正値ΔA
i(R
C)及びΔj
i(R
C)を計算し、励振振幅位相の校正値メモリ23に書き込む。ここで、励振振幅及び励振位相の校正値は、複素数ΔA
i(R
C)exp(jΔj
i(R
C))としてもよい。そして、レーダ送受信システムSの運用前において、校正が補正される場合のみならず、レーダ送受信システムSの運用時において、校正が補正される場合であっても、励振振幅及び励振位相の校正値は、校正値メモリ23に書き込まれる。
【0052】
図6の中段では、励振位相補正部22は、フレネル領域に対応する上記所定距離R
Cと、遠方界領域に対応する上記他の距離R
Оと、フレネル領域に対応する上記他の距離R
О’と、について、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相のずれ値Δj
Si(R
C)、Δj
Si(R
О)、Δj
Si(R
О’)を計算し、励振位相のずれ値メモリ24に書き込む。ここで、励振位相のずれ値は、
図3のΔj
C、Δj
F、Δj
Nに対応する。そして、レーダ送受信システムSの運用前において、校正が補正される場合では、励振位相のずれ値は、ずれ値メモリ24に書き込まれ、レーダ送受信システムSの運用時において、校正が補正される場合では、励振位相のずれ値は、被観測反射体ROの検出毎に計算される。
【0053】
図6の下段では、励振位相補正部22は、フレネル領域に対応する上記所定距離R
Cと、遠方界領域に対応する上記他の距離R
Оと、フレネル領域に対応する上記他の距離R
О’と、について、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相の校正値Δj
i(R
C)に対する、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相の補正値0、Δj
Si(R
О)-Δj
Si(R
C)、Δj
Si(R
О’)-Δj
Si(R
C)を計算し、励振位相の補正値メモリ25に書き込む。ここで、励振位相の補正値は、
図3のΔj
N-Δj
Cに対応する。そして、レーダ送受信システムSの運用前において、校正が補正される場合では、励振位相の補正値は、補正値メモリ25に書き込まれ、レーダ送受信システムSの運用時において、校正が補正される場合では、励振位相の補正値は、被観測反射体ROの検出毎に計算される。
【0054】
このように、さらに狭めの電波暗室において、各アンテナ素子の励振位相の校正値を計算したうえで、被観測反射体ROが位置する他の距離(極近距離領域でもよく、遠方界領域でもよい)において、各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算することができる。なお、励振位相のずれ値及び補正値は、
図6のように、距離ビン毎に計算してもよく、変形例として、複数の距離ビンを含む距離ブロック毎に計算してもよい。
【0055】
(本開示の励振位相補正前後の指向性)
本開示の励振位相補正前後の指向性を
図7に示す。
図7では、励振振幅位相校正部21は、上記所定距離R
C=3m>2D
2/λ(Dは開口長)について、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相の校正値Δj
i(R
C)を計算する。そして、励振位相補正部22は、上記他の距離R
О=20mについて、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相の補正値Δj
Si(R
О)-Δj
Si(R
C)を計算し、元々の校正値Δj
i(R
C)を新たな校正値Δj
i(R
C)-{Δj
Si(R
О)-Δj
Si(R
C)}に補正する。
【0056】
励振振幅位相校正部21の校正処理のみでは、上記所定距離RC=3mにおいては、サイドローブが小さいビームを正面方向に形成することができるが、他の観測距離RО=5m、10m、20mに移るにつれて、サイドローブが小さいビームを正面方向に形成することができない。励振位相補正部22の補正処理により、上記他の距離RО=20mにおいては、サイドローブが小さいビームを正面方向に最適化することができるが、他の観測距離RО=10m、5m、3mに移るにつれて、サイドローブが小さいビームを正面方向に形成することができない。しかし、ビームを最適化する距離RОを変更すればよい。
【0057】
本開示の励振位相補正前後の指向性を
図8にも示す。
図8では、励振振幅位相校正部21は、上記所定距離R
C=1.2m≒2D
2/λ(Dは開口長)について、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相の校正値Δj
i(R
C)を計算する。そして、励振位相補正部22は、上記他の距離R
О=20mについて、各仮想アンテナ素子Vi(i=0~11)の励振位相の補正値Δj
Si(R
О)-Δj
Si(R
C)を計算し、元々の校正値Δj
i(R
C)を新たな校正値Δj
i(R
C)-{Δj
Si(R
О)-Δj
Si(R
C)}に補正する。
【0058】
励振振幅位相校正部21の校正処理のみでは、他の観測距離RО=3mにおいては、サイドローブが小さいビームを正面方向に形成することができるが、他の観測距離RО=5m、10m、20mに移るにつれて、サイドローブが小さいビームを正面方向に形成することができない。励振位相補正部22の補正処理により、上記他の距離RО=20mにおいては、サイドローブが小さいビームを正面方向に最適化することができるが、他の観測距離RО=10m、5m、3mに移るにつれて、サイドローブが小さいビームを正面方向に形成することができない。しかし、ビームを最適化する距離RОを変更すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示のレーダアレイアンテナ校正装置、方法及びプログラムは、ミリ波等を適用して物標を検出する車載レーダ等において、アレイアンテナ装置の遠方界領域のみならず極近距離領域においても、各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正したうえで、サイドローブが小さいビームを所望方位角に形成することができる。
【符号の説明】
【0060】
S:レーダ送受信システム
1:アレイアンテナ装置
2:アレイアンテナ校正装置
T0~T2:送信アンテナ素子
R0~R3:受信アンテナ素子
D0~D3:直交分離処理部
V0~V11:仮想アンテナ素子
21:励振振幅位相校正部
22:励振位相補正部
23:校正値メモリ
24:ずれ値メモリ
25:補正値メモリ
RC:校正用反射体
RO:被観測反射体
A0、A1:アンテナ素子
W0、W1:レーダ信号波面
【手続補正書】
【提出日】2023-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ送受信装置として適用されるアレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正装置であって、
前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算する励振振幅位相校正部と、
前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正部と、
を備えることを特徴とするレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項2】
前記励振位相補正部は、前記各アンテナ素子と前記校正用反射体との間の距離から前記所定距離を減算した距離に対する、前記各アンテナ素子と前記被観測反射体との間の距離から前記他の距離を減算した距離の差分に基づいて、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する
ことを特徴とする、請求項1に記載のレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項3】
前記励振振幅位相校正部は、前記アレイアンテナ装置の遠方界領域に対応する前記所定距離について、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算し、
前記励振位相補正部は、前記遠方界領域に対応する前記他の距離と、前記アレイアンテナ装置のフレネル領域に対応する前記他の距離と、について、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項4】
前記励振振幅位相校正部は、前記アレイアンテナ装置のフレネル領域に対応する前記所定距離について、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算し、
前記励振位相補正部は、前記フレネル領域に対応する前記他の距離と、前記アレイアンテナ装置の遠方界領域に対応する前記他の距離と、について、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項5】
レーダ送受信装置として適用されMIMOを適用するアレイアンテナ装置の各仮想アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正装置であって、
前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各仮想アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各仮想アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値を計算する励振振幅位相校正部と、
前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各仮想アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各仮想アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各仮想アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正部と、
を備えることを特徴とするレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項6】
前記励振位相補正部は、前記各仮想アンテナ素子に対応する各送信アンテナ素子及び各受信アンテナ素子と前記校正用反射体との間の距離から前記所定距離を減算した距離に対する、前記各仮想アンテナ素子に対応する各送信アンテナ素子及び各受信アンテナ素子と前記被観測反射体との間の距離から前記他の距離を減算した距離の差分に基づいて、前記各仮想アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各仮想アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する
ことを特徴とする、請求項5に記載のレーダアレイアンテナ校正装置。
【請求項7】
レーダ送受信装置として適用されるアレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正方法であって、
前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値があらかじめ計算されたうえで、
前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正ステップ、
を備えることを特徴とするレーダアレイアンテナ校正方法。
【請求項8】
レーダ送受信装置として適用されるアレイアンテナ装置の各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相を校正するレーダアレイアンテナ校正プログラムであって、
前記レーダ送受信装置の運用前において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの所定距離に位置する校正用反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信振幅及び受信位相が同一振幅及び同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振振幅及び励振位相の校正値があらかじめ計算されたうえで、
前記レーダ送受信装置の運用前(又は運用時)において、前記アレイアンテナ装置の正面方向及び前記アレイアンテナ装置からの前記所定距離以外の他の距離に位置すると想定される(又は観測された)被観測反射体からのレーダ信号について、前記各アンテナ素子の受信位相が同一位相になるように、前記各アンテナ素子の励振位相の校正値に対する、前記各アンテナ素子の励振位相の補正値を計算する励振位相補正ステップ、
をコンピュータに実行させるためのレーダアレイアンテナ校正プログラム。