(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059214
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】糖尿病境界域者のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/66 20060101AFI20240423BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G01N33/66 A
G01N33/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166757
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】510248626
【氏名又は名称】株式会社オルトメディコ
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】山本 和雄
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA31
2G045JA03
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、簡易血糖値を用いて糖尿病境界域者を簡便かつ従来よりも高精度にスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】本発明は、血糖値関与パラメータを説明変数とし糖尿病境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析モデルを用いた糖尿病境界域者のスクリーニング方法であって、前記説明変数及び目的変数の実績値を用いてロジスティック回帰分析モデルの偏回帰係数を求める解析ステップと、求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力し、目的変数の出力データに基づいてスクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を推定する推定ステップとを含み、前記血糖値関与パラメータが、空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなり、ただし年齢及び性別を含む場合にはBMIを含めてもよいことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血糖値関与パラメータを説明変数とし糖尿病境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析モデルを用いた糖尿病境界域者のスクリーニング方法であって、
前記説明変数及び目的変数の実績値を用いてロジスティック回帰分析モデルの偏回帰係数を求める解析ステップと、
求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力し、目的変数の出力データに基づいてスクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を推定する推定ステップとを含み、
前記血糖値関与パラメータが、空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなり、ただし年齢及び性別を含む場合にはBMIを含めてもよいことを特徴とする、前記糖尿病境界域者のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記血糖値関与パラメータは、空腹時簡易血糖値及び年齢からなる、あるいは空腹時簡易血糖値、年齢、性別及びBMIからなる、請求項1に記載の糖尿病境界域者のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記スクリーニング対象者は、以下の条件:
(1)空腹時血糖値が100~125mg/dLである、
(2)随時血糖値が140~199mg/dLである、及び
(3)尿糖陽性である
の少なくとも一種の状態を呈する者である、請求項1に記載の糖尿病境界域者のスクリーニング方法。
【請求項4】
血糖値関与パラメータを説明変数とし、糖尿病境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析モデルを用いた糖尿病境界域者のスクリーニング装置であって、
前記説明変数及び目的変数の実績値を用いてロジスティック回帰分析モデルの偏回帰係数を求める解析手段と、
求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力し、目的変数の出力データに基づいてスクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を推定する推定手段とを含み、
前記血糖値関与パラメータが、空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなり、ただし年齢及び性別を含む場合にはBMIを含めてもよいことを特徴とする、前記糖尿病境界域者のスクリーニング装置。
【請求項5】
血糖値関与パラメータを説明変数とし、糖尿病境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析モデルを用いた糖尿病境界域者の推定する機能をコンピュータに実現するための糖尿病境界域者スクリーニングプログラムであって、
前記説明変数及び目的変数の実績値を用いてロジスティック回帰分析モデルの偏回帰係数を求める解析機能と、
求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力し、目的変数の出力データに基づいてスクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を推定する推定機能とを含み、
前記血糖値関与パラメータが、空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなり、ただし年齢及び性別を含む場合にはBMIを含めてもよいことを特徴とする、前記糖尿病境界域者スクリーニングプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の糖尿病境界域者スクリーニングプログラムを記録した、コンピュータにより読み取り可能な情報記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病境界域者のスクリーニング方法に関し、より詳細には簡易血糖値を用いた糖尿病境界域者のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血糖値は、膵臓のランゲルハンス島が血糖値に応じて膵臓ホルモンの一種であるインスリンを分泌し、そのインスリンが血液から細胞組織への糖の取り込みを制御することによってほぼ一定に維持されている。インスリンの作用が低下して血糖値が一定以上に高い状態が続くと、糖尿病と診断される。
【0003】
糖尿病は、原因に応じてI型とII型とに大別される。I型糖尿病は、インスリンを分泌する膵β細胞が何等かの理由で壊されてインスリン分泌が不足する又は分泌されても抹消組織におけるインスリン抵抗性のために高血糖状態になる疾病である。一方、II型糖尿病は、高カロリーや高脂肪の食事、運動不足等が原因となってインスリンの分泌量やインスリン作用が低下するために高血糖状態になる疾病である。II型糖尿病は、生活習慣病の一つとしてよく知られている。
【0004】
糖尿病は、自覚症状が少ないので知らぬ間に進行し易いが、そのうちに口渇、多飲、多尿、体重減少等の症状が現れ、重篤になると意識障害、昏睡等を引き起こす。糖尿病はまた、動脈硬化性合併症、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病精神障害等の合併症を併発する。
【0005】
糖尿病者と健常者との間には、糖尿病境界型(Prediabetes)と呼ばれる区分が存在する。糖尿病境界型は、糖尿病発症前の予備軍のほかに、糖尿病の改善した状態、健常者の耐糖機能が何等かの理由で一時的に悪化した者等が含まれる。糖尿病境界型は、自覚症状がなく、糖尿病型への悪化率が正常型に比べて高く、動脈硬化性合併症の危険度も高い。令和元年国民健康・栄養調査によれば、日本国内に糖尿病予備軍が2,250万人いると推計されている。本明細書では、糖尿病境界型に区分される者を、糖尿病境界域者又は単に境界域者ということがある。
【0006】
糖尿病境界域者は、HbA1cと二種類の血糖値と用いて、以下の条件:
【数1】
を満たす者と定義できる。
【0007】
HbA1cは、ヘモグロビン(Hb)にグルコース(ブドウ糖)が結合したグリコモグロビンの割合を意味する。HbA1cは、高血糖状態が続くと上昇するが、食事等による一時的な血糖変化には影響されず、過去1~2ヶ月の血糖状態の指標となる。HbA1cの測定は、通常、臨床検査機関において採血をHPLC法、免疫法又は酵素法を用いて行われる。
【0008】
血糖値は、血液中に含まれるグルコースの濃度である。血糖値は、食後に増加するといったように日間変動するので、空腹時や糖負荷時等の採取条件を明確にする必要がある。血糖値の測定は、一般に臨床検査機関において採血後に分離された血漿又は血清を用いてGOD法等により行われる。GOD法の検出手段には、比色法(試験紙法)と電極法とがある。GOD比色法は、グルコースとGODとの反応により生じた過酸化水素による色素との呈色反応を利用する。GOD電極法は、グルコースとGODとの反応で生成する電子を電極へ運んで電流量を測定する。
【0009】
糖尿病境界型の判定は、上記1)~3)の基準を満たせばよい。HbA1c6.5%は、空腹時血糖値126mg/dL及びOGTT2時間値200mg/dLにほぼ対応するので、HbA1cは空腹時血糖値及びOGTT2時間値からおおよそ把握できる。一方、空腹時血糖値では非境界型に属するが、75gOGTTでは境界型に属する者が少なからずいる。したがって、糖尿病境界域者を漏れなく判定又はスクリーニングするためには、医療機関や臨床検査機関において空腹時血糖値及び75gOGGT2時間値を測定する必要がある。
【0010】
血糖値や糖尿病境界型を簡易に予測する方法が開発されている。例えば、特許文献1は、「ユーザの血糖値を予測するための血糖値スクリーニング装置であって、前記ユーザの血糖値の測定値、前記ユーザのHbA1cの測定値及び前記ユーザの健康診断の結果を取得する取得部と、前記血糖値の測定値、前記HbA1cの測定値及び前記健康診断結果に基づいて、前記ユーザが正常型、境界型及び糖尿病型のうちいずれであるかを判別する層判別部と、前記判別の結果と前記ユーザの過去の時点における空腹時血糖値の測定値とを用いて、前記ユーザの今後の空腹時血糖値を予測する予測部とを備える、血糖値スクリーニング装置」を開示する(請求項1)。特許文献1の
図6のフローチャートの層判別部による糖尿病境界型域者の判別条件を表1に整理する。表1のいずれかのステップにおいて判別条件を満たした者は、糖尿病境界域者と判定される。
【0011】
【0012】
特許文献1の発明の判別条件は、上記1)~3)と異なるが、表1に示すようにHbA1c、空腹時血糖値、食後1h血糖値及び食後2h血糖値を測定する必要がある。
【0013】
非特許文献1は、人間ドック受診者の耐糖機能検査の解析によって検診機関からみた診断基準の取り扱いを検討している。この文献では、空腹時血糖値のみのスクリーニングでもcut-off値を≧110mg/dLとすることにより、糖尿病境界型を一次スクリーニングするのに有用であるとする。さらに、cut-off値を空腹時血糖値≧110mg/dL、OGTT1時間値≧185mg/dL、OGTT2時間値≧150mg/dLを用いる方法は、糖尿病境界型を効率良くかつ見逃すことなくスクリーニングできると示唆している。このスクリーニング方法もまた、空腹時血糖値、OGTT1時間値及びOGTT2時間値の3種類を測定する必要がある。
【0014】
血糖値を簡便に測定する方法として、簡易血糖値測定器(Self Monitoring of Blood Glucose、SMBGとも呼ばれる)の使用が知られている。SMBGは、主にGOD法に従い、測定用センサーに固定化されたグルコースオキシダーゼ酵素を血中ブドウ糖と反応させ、生成した過酸化水素から、比色法又は電極法で血糖値を求める方式を採用する。非特許文献2によれば、SMBGで指先全血を用いて測定した簡易血糖値と、医療機関等での静脈血血漿を用いて測定した血糖値とは良く相関するとされる。SMBGは、医療従事者を介さず、場所や時間の制約を受けずに自己測定が可能な点で利便性の高い測定器といえる。
【0015】
非特許文献3は、糖尿病境界域者に対する血糖自己測定の活用がもたらす作用を質的に分析して、SMBGを用いる意義と効果を明らかにし、SMBGの公衆衛生活動における保健指導の手法としての有効性を検討している(要約)。しかし、後述の比較例1に示すとおり、糖尿病境界域者をスクリーニングするに際し、糖血糖関与パラメータに簡易血糖値のみを採用してロジスティック回帰分析を行ったところ、糖尿病境界型のスクリーニング効率は80%を超えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO2017/073713(血糖値予測装置、血糖値予測方法及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体)
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】西田佳子等,「検診機関からみた診断基準の取り扱いに関する検討」,糖尿病,41巻,(1998),A57-A58
【非特許文献2】三浦文子等,「簡易血糖測定器5機種の臨床評価-血液糖濃度、患者および測定環境の影響-」,糖尿病,52,(10),865-870,2009
【非特許文献3】川崎千恵等,「血糖自己測定を糖尿病境界域へ用いる意義と効果をもたらす要因に関する検討 フォーカス・グループ・インタビューによる質的分析」,日本公衛誌,第56巻,(2009),第12号,p875-882
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
糖尿病発症前予備軍である糖尿病境界域者を早期に発見して、その状態に応じて食事療法、運動療法等の生活改善を図り、また投薬による処置を行うことが望ましい。また、糖尿病発症前予備軍を対象として機能性食品や医薬品のモニタリングや治験を行いたいという要望がある。糖尿病の疑われる者や糖尿病境界型の治験参加者から糖尿病境界型を簡易かつ精度高くスクリーニングする方法の開発が望まれる。
【0019】
そこで、本発明の課題は、簡易血糖値を用いて簡便にそして従来よりも高い精度で糖尿病境界域者をスクリーニングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者等は、空腹時簡易血糖値以外の血糖値関与パラメータを検討したところ、空腹時簡易血糖値以外に年齢、性別及び/又はBMIを加えてロジスティック回帰分析を行ったところ、糖尿病境界域者のスクリーニング効率が改善されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0021】
すなわち、本発明は、血糖値関与パラメータを説明変数とし、糖尿境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析モデルを用いた糖尿病境界域者のスクリーニング方法であって、
前記説明変数及び目的変数の実績値を用いてロジスティック回帰分析モデルの偏回帰係数を求める解析ステップと、
求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力し、目的変数の出力データに基づいてスクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を推定する推定ステップとを含み、
前記血糖値関与パラメータが、空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなり、ただし年齢及び性別を含む場合にはBMIを含めてもよいことを特徴とする、前記糖尿病境界域者のスクリーニング方法を提供する。
【0022】
特許文献1は、本発明のように簡易血糖値を用いて糖尿病境界域者を精度高くスクリーニングすることを教示も示唆もしていない。しかも、特許文献1は、糖尿病境界域者の層判別のために、HbA1c、空腹時血糖値、食事1h後血糖値及び食事2h後血糖値を測定する必要がある。
【0023】
前記血糖値関与パラメータは、空腹時簡易血糖値及び年齢、もしくは空腹時簡易血糖値、年齢、性別及びBMIからなることが好ましい。
【0024】
本発明の方法のスクリーニング対象者は、特に糖尿病境界型が疑われる者である。そのようなスクリーニング対象者は、例えば、
(1)空腹時血糖値が100~125mg/dLである、
(2)随時血糖値が140~199mg/dLである、及び
(3)尿糖陽性である
の少なくとも一種の状態を呈する者である。随時血糖値とは、食事と採血時間との時間関係を問わないで測定した血糖値を意味する。
【0025】
本発明はまた、血糖値関与パラメータを説明変数とし、糖尿境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析モデルを用いた糖尿病境界域者のスクリーニング装置であって、
前記説明変数及び目的変数の実績値を用いてロジスティック回帰分析モデルの偏回帰係数を求める解析手段と、
求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力し、目的変数の出力データに基づいてスクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を推定する推定手段とを含み、
前記血糖値関与パラメータが、空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなり、ただし年齢及び性別を含む場合にはBMIを含めてもよいことを特徴とする、前記糖尿病境界域者のスクリーニング装置を提供する。
【0026】
本発明はまた、血糖値関与パラメータを説明変数とし、糖尿境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析モデルを用いて糖尿病境界域者を推定する機能をコンピュータに実現するための糖尿病境界域者スクリーニングプログラムであって、
前記説明変数及び目的変数の実績値を用いてロジスティック回帰分析モデルの偏回帰係数を求める解析機能と、
求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力し、目的変数の出力データに基づいてスクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を推定する推定機能とを含み、
前記血糖値関与パラメータが、空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなり、ただし年齢及び性別を含む場合にはBMIを含めてもよいことを特徴とする、前記糖尿病境界域者スクリーニングプログラムを提供する。
【0027】
本発明はまた、上記糖尿病境界域者スクリーニングプログラムを記録した、コンピュータにより読み取り可能な情報記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0028】
後述の実施例に示すように、本発明に従って説明変数(血糖値関与パラメータ)の候補に簡易血糖値、年齢、性別、及びBMIを含む場合、糖尿病境界域者又は非境界域者のスクリーニング効率は、それぞれ80%以上と高くなる。すなわち、本発明のスクリーニング方法及び装置によれば、簡易血糖値測定器と一定の血糖値関与パラメータを用いることによって糖尿病境界域者を効率的かつ実用レベルでスクリーニングすることができる。本発明のスクリーニング方法は、医療機関や臨床検査機関による血糖値やHbA1cの測定を省略できる点で特許文献1のような従来技術の糖尿病型の層判別方法よりも優れている。
【0029】
本発明のスクリーニング方法によれば、糖尿病発症前予備軍を対象とした機能性食品のモニタリングや医薬品の治験の前に、それらの参加者から糖尿病境界型を簡易かつより精確にスクリーニングできるので、参加者を有効に減じることができ、もって血糖値(血漿)、糖負荷後血糖値及びHbA1cによる糖尿病境界型の確定診断の作業やコストを大幅に削減可能である。
【0030】
本発明のスクリーニング方法はまた、日常使用が可能のため、糖尿病境界域者の早期発見に大きく貢献する。糖尿病境界型であると診断され、生活改善や投薬治療を行っている者は、本発明のプログラムを搭載したコンピュータ、体重計、スマートウォッチ等を利用することで病態を日々管理できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態である糖尿病境界域者のスクリーニング装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】上記装置のコンピュータ本体が有する機能を示すブロック図である。
【
図3】上記装置の入力部に入力された説明変数の値に基づいて、コンピュータ本体が行う糖尿病境界域者のスクリーニング処理の例を説明するフローチャートである。
【
図4】上記装置に記憶されるデータベース及びスクリーニング推定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の一実施形態を添付の図面を参照して説明する。本発明のスクリーニング方法は、
図1に示すような糖尿病境界域者のスクリーニング装置を用いて実行される。
図1は糖尿病境界域者スクリーニング装置の全体構成を示すブロック図、
図2は上記装置のコンピュータ本体が有する機能を示すブロック図、
図3は上記装置の入力部に入力された説明変数の値に基づいてコンピュータ本体が行う糖尿病境界域者のスクリーニング処理例を説明するフローチャート、そして
図4はデータベース及び推定結果の出力例である。
【0033】
本発明の糖尿病境界域者スクリーニング装置1は、
図1に示されるように、コンピュータ本体10、外部記憶装置20、入力部30及び出力部40を含む。糖尿病境界域者スクリーニング装置1は、通常、スタンドアローン型コンピュータであるが、簡易血糖値測定器、体重計、携帯端末、スマートウォッチ等の中に組み込まれていてもよい。
【0034】
コンピュータ本体10は、中央演算処理装置(CPU)11、メインメモリ12、及び外部と接続するためのインターフェース13を含む。
【0035】
コンピュータ本体10は、後述する糖尿病境界域者スクリーニングプログラムによって、
図2に示すように、前記説明変数及び目的変数の実績値を用いてロジスティック回帰分析モデルの偏回帰係数を求める解析手段と、求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力し、目的変数の出力データに基づいてスクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を推定する推定手段として機能させられる。
【0036】
外部記憶装置20は、HDD、光・磁気ディスク、フラッシュメモリ(例えばSSD、USBメモリやSDメモリカード)等であり得る。外部記憶装置20には、糖尿病境界型スクリーニングプログラム、データベース21等が記憶されている。外部記憶装置20に記録された内容は、必要に応じてインターフェース13を介してコンピュータ本体10のメインメモリ12に読み出される。
【0037】
上記糖尿病境界域者スクリーニングプログラムは、血糖値関与パラメータを説明変数とし、糖尿病境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析モデルを用いた糖尿病境界域者の推定する機能をコンピュータに実現するための糖尿病境界域者スクリーニングプログラムであって、前記説明変数及び目的変数の実績値を用いてロジスティック回帰分析モデルの偏回帰係数を求める解析機能と、求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力し、目的変数の出力データに基づいてスクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を推定する推定機能とを含む。前記血糖値関与パラメータは、空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなり、ただし年齢及び性別を含む場合にはBMIを含めてもよい。糖尿病境界域者スクリーニングプログラムは、コンピュータにより読み取り可能な情報記録媒体に記録されていてもよい。
【0038】
上記データベースは、糖尿病に関する健康診断結果を有する者の関連情報(識別番号、名前、身長、体重、持病、既往症、投薬歴、その他の健康診断結果、記録日時等)、ロジスティック回帰分析モデルの目的変数として糖尿病境界型の有無、そして説明変数として血糖値関与パラメータ(空腹時簡易血糖値、性別、年齢、BMI)とを対応させたデータを記憶している。すなわち、上記健康診断結果を有する者の説明変数及び目的変数の実績値を用いて、ロジスティック回帰分析に必要な糖尿病境界域者及び糖尿病非境界域者のデータを用意しておく。
【0039】
前記スクリーニング対象者が糖尿病に関する確定診断を受けた場合、データベースは、その者の関連情報(識別番号、名前、身長、体重、持病、既往症、投薬歴、その他の健康診断結果、記録日時等)、ロジスティック回帰分析モデルの目的変数として糖尿病境界型の有無、そして説明変数として血糖値関与パラメータ(空腹時簡易血糖値、性別、年齢、BMI)とを対応させたデータが逐次追加して記憶できる構造となっている。
【0040】
入力部30は、糖尿病境界型の確定診断結果を有する者の関連情報、診断結果及び特定パラメータや、これからスクリーニングを受ける者(スクリーニング対象者)の関連情報及び特定パラメータを入力できるキーボード、マウス、タッチパッド等からなる。簡易血糖値の情報は、簡易血糖値測定器(図示せず)から無線又は有線でインターフェース13を介して直接取り込まれてもよい。
【0041】
出力部40は、上記データベースの内容やスクリーニングを受けた者のスクリーニング結果を表示するディスプレイやプリンターからなる。
【0042】
糖尿病境界型が疑わしい者からなるスクリーニング対象者から糖尿境界域者を容易にスクリーニングする本発明の方法を、
図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0043】
まず、血糖値関与パラメータを説明変数とし、糖尿病境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析モデルに用いるデータベースを用意しておく(S0)。具体的には、糖尿病境界型と診断されている者(糖尿病境界域者)と糖尿病境界型でないと診断されている者(糖尿病非境界域者)を統計的に有意となる人数分集める。これらの背景因子を揃えるために、性別、年代及びBMIでマッチングを行うことが好ましい。
【0044】
適宜のマッチングを行って絞り込んだ糖尿病境界域者及び糖尿病非境界域者の関連情報(識別番号、名前、身長、体重、持病、既往症、投薬歴、その他の健康診断結果、記録日時等)、ロジスティック回帰分析モデルの目的変数の実績値としての糖尿病境界型の有無、そして説明変数の実績値としての血糖値関与パラメータ(空腹時簡易血糖値、性別、年齢、BMI)を基に
図4に例示するようなデータベースを用意する。
【0045】
次に、解析ステップにおいて、スクリーニング対象者の血糖値関与パラメータを説明変数とし、糖尿境界型の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析を行う(S1)。ロジスティック回帰分析モデルでは、糖尿病境界域者で「1:ある」・「0:ない」の出現する確率Pは、下記式(1)で表される。
【数2】
(式中、簡易血糖値の単位はmg/dLであり、性別は男性:1、女性:0とし、BMIはkg体重/(m身長)
2である、β
0は定数であり、β
1~β
4は偏回帰係数である)
で表される。
【0046】
式(1)の偏回帰係数は、ロジスティック回帰分析機能を備えた汎用の統計解析ソフトウエア(例えば製品名SPSS(登録商標)、IBM社製)を用いて決定される(S2)。
【0047】
血糖値関与パラメータは、空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなる、ただし、年齢及び性別を含む場合には、さらにBMIを含めてもよい。この二種類のパラメータを用いた糖尿病境界型のスクリーニング効率は、簡易血糖値単独の場合よりも格段に改善される。
【0048】
最後に、スクリーニングステップにおいて、求められた偏回帰係数を設定したロジスティック回帰分析モデルの説明変数にスクリーニング対象者の血糖値関与パラメータに関するデータを入力する(S3)。
【0049】
前記スクリーニング対象者の例は、健康診断や自己診断で以下の条件:
(1)空腹時血糖値が100~125mg/dLである、
(2)随時血糖値が140~199mg/dLである、及び
(3)尿糖陽性である
の少なくとも一種を満たす者である。
【0050】
食後の尿糖検査での尿糖陽性は、随時血糖値170~180mg/dL以上と相関する。よって、(1)~(3)の者は、糖尿病境界域者の疑いが強い。(1)及び(2)の血糖値測定は、SMPGで測定可能であり、(3)の尿糖検査は、市販の検査用試験紙や尿糖計を用いることができる。したがって、本発明のスクリーニング方法は、糖尿病境界型の疑念からその推定までを一貫して、医療機関や医療分析機関を介さずに自己で行えるという極めて簡便な方法であるといえる。
【0051】
上記スクリーニング対象者の説明変数の入力後、ロジスティック回帰モデルの目的変数の出力データとして式(1)のP値を算出する(S4)。式(1)の算出結果から、スクリーニング対象者の糖尿病境界型の有無を以下:
P>0.5であれば、糖尿病境界域者である、
P<0.5であれば、糖尿病境界域者でない、
と推定する(S5)。スクリーニング対象者の推定結果の出力例を
図4に示す。
【0052】
本発明のスクリーニング方法によれば、後述の実施例1~4に示すとおり、スクリーニング対象者は、糖尿病境界型の有無が80%以上、好ましくは85%以上の効率でスクリーニング可能となる。
【0053】
上記スクリーニングステップのスクリーニングの結果は、医療機関や臨床検査機関が血漿血糖値、OGTTやHbA1cを用いた確定診断による糖尿病境界型の早期発見や早期治療、あるいは糖尿病発症前予備軍を対象とした機能性食品のモニタリングや医薬品の治験参加者の絞り込みに利用され得る。
【実施例0054】
以下に示す実施例及び比較例により、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1~4及び比較例1~4〕
(1)データベースの用意
糖尿病境界型が疑わしいと自覚する者からなるスクリーニング対象者から糖尿境界域者を容易にスクリーニングする方法を確立するために、まず、糖尿病境界型と診断されている者(糖尿病境界域者)と糖尿病境界型でないと診断されている者(糖尿病非境界域者)を合計1043名集めた。これらの背景因子を揃えるために、性別、年代及びBMIでマッチングを行って98名(糖尿病境界域者と糖尿病非境界域者との割合はほぼ同じ)に絞り込んだ。98名の関連情報(識別番号、名前、住所、既往症、記録日時等)、ロジスティック回帰分析モデルの目的変数としての糖尿病境界型の有無、そして説明変数としての血糖値関与パラメータ(空腹時簡易血糖値、性別、年齢、BMI)を基にして
図4に示すようなデータベースを作成した。
【0056】
(2)解析ステップ
次に、SPSS(登録商標)解析ツールを用いて、説明変数として簡易血糖値、年齢、性別、及びBMIを表2に示すとおり採用し、目的変数を空腹時静脈血糖値の境界域者の「有」・「無」の2値とするロジスティック回帰分析モデルを実施した。
【0057】
ロジスティック回帰分析モデルにおいて、糖尿病型境界域者で「ある」・「ない」の出現する確率Pは、
【数3】
(式中、簡易血糖値の単位はmg/dLであり、性別は男性:1、女性:0とし、BMIはkg体重/(m身長)
2である、β
0は定数であり、β
1~β
4は偏回帰係数である)
で表される。ロジスティック回帰で得られた式(1)の偏回帰係数を表2に示す。
【0058】
【0059】
(3)推定ステップ
各スクリーニング対象者の情報を式(1)に代入した時に、P>0.5であれば、糖尿病境界域者と推定し、そしてP<0.5であれば、糖尿病非境界域者と推定した。スクリーニング対象者98名の推定結果を確定診断結果と照合することによってロジスティック回帰分析モデルのスクリーニング効率を求めた。結果を表3に示す。
【0060】
【0061】
表3に示すとおり、比較例1の簡易血糖値単独での糖尿病境界域者のスクリーニング効率は、77.6%と低かった。比較例1のスクリーニング方法は、簡易血糖値は正常であったもののOGTTが高かったために糖尿病境界域者と診断された者を見逃していることが示唆される。
【0062】
比較例2~4で、比較例1のパラメータにBMIとさらに年齢又は性別を追加しても、P>0.5群及びP<0.5群のスクリーニング効率は、比較例1と同程度であった。特に、比較例2~4でBMIの追加は、追加しない比較例1と比べてP<0.5群の非境界域者のスクリーニング効率を若干下げるように働くことが判明した。
【0063】
一方、実施例1~3では、空腹簡易血糖値に年齢及び/又は性別のみを追加することで、P>0.5群の境界域者のスクリーニング効率が83.7~85.7%に改善し、そしてP<0.5群の非境界域者のスクリーニング効率も81.6~83.7%に改善した。
【0064】
実施例4では、年齢及び性別にBMIを追加することで、P>0.5群の境界域者のスクリーニング効率を85.7%と高めつつ、P<0.5群の非境界域者のスクリーニング効率は81.6%と80%以上を維持した。
【0065】
以上の結果から、血糖値関与パラメータは、本発明に従って空腹時簡易血糖値と年齢及び/又は性別とからなる場合、あるいは年齢、性別及びBMIからなる場合、P>0.5群の境界域者の高いスクリーニング効率とP<0.5群の非境界域者の高いスクリーニング効率を同時に達成可能である。
【0066】
P>0.5群の境界域者の高いスクリーニング効率を重視する場合、実施例2及び4のように、簡易血糖値及び年齢、もしくは血糖値、年齢、性別及びBMIからなることが好ましいといえる。
1: 糖尿病境界域者のスクリーニング装置 10:コンピュータ本体 11:中央演算処理装置 12:メインメモリ 13:インターフェース 20:外部記憶装置 21:データベース 30:入力部 40:出力部