(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005922
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/01 303
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106396
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 紫門
(72)【発明者】
【氏名】上田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】四ノ宮 文二
(72)【発明者】
【氏名】萩森 普
(72)【発明者】
【氏名】千田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
(72)【発明者】
【氏名】両角 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 忠
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA25
2C056EC03
2C056EC08
2C056EC37
2C056FA04
2C056FA10
2C056HA37
2C056HA42
(57)【要約】
【課題】スプレー機構を備えたインクジェットプリンタにおいて、画像を印刷する媒体にスプレーで液剤を噴霧する際に、液剤の消費量を低減する。
【解決手段】インクを吐出するインクノズルを備えたインクヘッドと、霧化エアー及び液剤を噴霧するスプレーノズルを備えたスプレー機構と、前記インクヘッドと前記スプレー機構とを、それぞれ走査方向に沿って移動可能に保持するキャリッジと、前記スプレー機構からの前記霧化エアーの噴霧タイミングと、前記スプレー機構からの前記液剤の噴霧タイミングとを、それぞれ独立して制御可能な制御部と、を有する印刷装置であって、前記制御部は、前記スプレー機構を前記走査方向に沿って移動させる際に、前記霧化エアーの噴霧開始から所定時間経過後に前記液剤の噴霧を開始する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するインクノズルを備えたインクヘッドと、
霧化エアー及び液剤を噴霧するスプレーノズルを備えたスプレー機構と、
前記インクヘッドと前記スプレー機構とを、それぞれ走査方向に沿って移動可能に保持するキャリッジと、
前記スプレー機構からの前記霧化エアーの噴霧タイミングと、前記スプレー機構からの前記液剤の噴霧タイミングとを、それぞれ独立して制御可能な制御部と、
を有する印刷装置であって、
前記制御部は、前記スプレー機構を前記走査方向に沿って移動させる際に、前記霧化エアーの噴霧開始から所定時間経過後に前記液剤の噴霧を開始する、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記液剤の噴霧を開始するタイミングは、前記スプレー機構を保持した前記キャリッジの前記走査方向における移動速度に応じて決定される、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置であって、
前記インクヘッドによって画像を印刷する領域を印刷領域とし、前記走査方向において前記印刷領域の上流側に隣り合う領域を非印刷領域とした場合に、
前記液剤の噴霧を開始するタイミングは、前記スプレー機構を保持した前記キャリッジが前記走査方向に沿って、前記非印刷領域から前記印刷領域に向かって移動する際に、前記印刷領域に到達するまでの距離に基づいて決定される、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項2に記載の印刷装置であって、
前記インクヘッドによって画像を印刷する領域を印刷領域とし、前記走査方向において前記印刷領域の上流側に隣り合う領域を非印刷領域とした場合に、
前記液剤の噴霧を開始するタイミングは、前記スプレー機構を保持した前記キャリッジが前記走査方向に沿って、前記非印刷領域から前記印刷領域に向かって移動する際に、前記印刷領域に到達するまでの時間に基づいて決定される、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、前記スプレー機構が、前記印刷領域よりも前記走査方向の下流側に移動した後の所定のタイミングで、前記液剤の噴霧を停止させる、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、前記液剤の噴霧を開始した後で、前記スプレー機構を保持した前記キャリッジを、前記走査方向に沿って一定の速度で移動させる、ことを特徴とする印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、霧化エアーと共に液剤を噴霧することによって、媒体に液剤を塗布するスプレー機構が知られている。例えば特許文献1には、スプレー機構の一例として、霧化エアーのみが噴出するときの塗料の吐出量と、霧化エアーに加えてパターンエアーが噴出するときの塗料の吐出量とを調節することによって、面積の小さい丸パターンで塗料を噴射する際の、噴射量のばらつきを抑制可能なスプレーガンに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなスプレー機構をインクジェットプリンタに組み込むことで、画像を印刷する領域に予め下地材(プライマー等)を塗布したり、印刷された画像の上に仕上げ材(トップコート等)を塗布したりすることが可能となる。しかしながら、画像を印刷する媒体に対して全体的に液剤を塗布しようとすると、液剤の消費量が多くなりやすいという問題がある。
【0005】
本発明は、スプレー機構を備えたインクジェットプリンタにおいて、画像を印刷する媒体にスプレーで液剤を噴霧する際に、液剤の消費量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、インクを吐出するインクノズルを備えたインクヘッドと、霧化エアー及び液剤を噴霧するスプレーノズルを備えたスプレー機構と、前記インクヘッドと前記スプレー機構とを、それぞれ走査方向に沿って移動可能に保持するキャリッジと、前記スプレー機構からの前記霧化エアーの噴霧タイミングと、前記スプレー機構からの前記液剤の噴霧タイミングとを、それぞれ独立して制御可能な制御部と、を有する印刷装置であって、前記制御部は、前記スプレー機構を前記走査方向に沿って移動させる際に、前記霧化エアーの噴霧開始から所定時間経過後に前記液剤の噴霧を開始する、ことを特徴とする印刷装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スプレー機構を備えたインクジェットプリンタにおいて、画像を印刷する媒体にスプレーで液剤を噴霧する際に、液剤の消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】スプレー機構50の構成について説明する模式図である。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、スプレー機構50の噴霧動作について説明する図である。
【
図5】印刷画像が形成される領域について説明する図である。
【
図6】比較例における液剤の塗布方法について説明する図である。
【
図7】印刷装置1を用いた液剤の塗布方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
===実施形態===
<基本構成>
図1A及び
図1Bは、印刷装置1の基本構成の説明図である。
図1Aは、印刷装置1の外観の概略説明図である。
図1Bは、印刷装置1のブロック図である。
【0011】
以下の説明では、後述するキャリッジ21,22の移動方向を「走査方向」と呼ぶことがある。また、媒体Mの移動方向を「搬送方向」と呼ぶことがある。
【0012】
印刷装置1は、媒体M(印刷用紙、印刷フィルムなど)に画像を印刷する装置である。具体的には、印刷装置1は、インクジェットプリンタである。印刷装置1は、キャリッジユニット20と、搬送ユニット30と、ヘッドユニット40と、スプレー機構50と、コントローラー60と、を有する。
【0013】
キャリッジユニット20は、インクキャリッジ21と、スプレーキャリッジ22と、キャリッジ用モーター25とを備え、各キャリッジ21,22をそれぞれ走査方向に移動させるユニットである。インクキャリッジ21は、後述するインクヘッド41を保持しながら、走査方向に往復移動する部材である。スプレーキャリッジ22は、後述するスプレー機構50を保持しながら、走査方向に往復移動する部材である。インクキャリッジ21の動作と、スプレーキャリッジ22の動作は、コントローラー60によってそれぞれ独立して制御される。なお、インクキャリッジ21とスプレーキャリッジ22とを互いに連結することで一体的に走査方向に移動させることも可能である。キャリッジ用モーター25は、インクキャリッジ21及びスプレーキャリッジ22を走査方向に移動させるためのモーター(駆動部)である。
【0014】
搬送ユニット30は、媒体Mを搬送方向に搬送するユニットである。搬送対象となる媒体Mは、ロール紙のような長尺状の印刷媒体でも良いし、単票用紙でも良い。また、媒体Mは、紙に限られるものではなく、フィルムや布などでも良い。搬送ユニット30は、例えば搬送ローラー31と搬送用モーター35とを有する。搬送ローラー31は、回転することによって媒体Mを搬送方向に搬送する部材である。搬送用モーター35は、搬送ローラー31を回転させるためのモーター(駆動部)である。なお、搬送ユニット30は、搬送ローラー31を用いた構成に限られるものではない。例えば、搬送ユニット30は、搬送台(フラットベッド)を有し、この搬送台を移動させることによって媒体Mを搬送方向に搬送するように構成されても良い。
【0015】
図2は、ヘッドユニット40の構成の説明図である。ヘッドユニット40は、媒体Mに液体(インク)を吐出するためのユニットである。ヘッドユニット40は、インクヘッド41を有する。
【0016】
インクヘッド41は、インクを吐出する複数のノズル(インクノズル43)を有するヘッドである。インクは、画像(インク画像;カラー画像)を構成するドット(インクドット)を媒体Mに形成するための液体である。インクは、カラーインクやプロセスインクなどと呼ばれることもある液体である。インクヘッド41は、複数のインクノズル列44を有する。複数のインクノズル列44は、走査方向に並んで配置されている。本実施形態の印刷装置1において、インクヘッド41は、例えば、シアンインクを吐出するシアンインクノズル列44Cと、マゼンタインクを吐出するマゼンタインクノズル列44Mと、イエローインクを吐出するイエローインクノズル列44Yと、ブラックインクを吐出するブラックインクノズル列44Kとを有している。これら4色のインクノズル列44C,44M,44Y,44Kは、
図2に示されるように走査方向に並んで配置されている。なお、インクヘッド41から吐出されるインクの色は、シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y),ブラック(K)の4色に限られるものでは無い。
【0017】
インクノズル列44は、それぞれ搬送方向に等間隔(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル43)を有する。ここでは、各色のインクノズル列44C~44Kは、それぞれ千鳥配置された複数のノズル(インクノズル43C~43K)によって構成されている。つまり、各々のインクノズル列44は、第1ノズル群と第2ノズル群とにより構成されており、第1ノズル群は、搬送方向に所定ピッチ(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル43)を有しており、第2ノズル群は、第1ノズル群のノズル(インクノズル43)に対して搬送方向に半ピッチPだけずれた状態で搬送方向に所定ピッチ(2×P)で並ぶ複数のノズル(インクノズル43)を有している。但し、それぞれのインクノズル列44は、搬送方向に1列に並ぶ複数のインクノズル43によって構成されても良い。
【0018】
図1Bに示すように、ヘッドユニット40は、ヘッド駆動部45を有する。ヘッド駆動部45は、インクヘッド41の各ノズルからの液体(インク)の吐出/非吐出を行わせる駆動部である。ヘッド駆動部45は、例えばヘッドがピエゾ式であればピエゾ素子である。コントローラー60は、ヘッド駆動部45を制御することによって、それぞれのノズルからの液体の吐出/非吐出を制御することになる。
【0019】
スプレー機構50は、スプレー機構駆動部55を有し、所定の液剤を噴霧することにより、媒体Mに対して当該液剤を塗布するユニットである。スプレー機構50の機能及び構成については後で説明する。
【0020】
コントローラー60は、印刷装置1の制御を司る制御部である。コントローラー60は、外部のコンピューターからの印刷指令に基づいて、印刷装置1の駆動部(キャリッジ用モーター25、搬送用モーター35、ヘッド駆動部45、及びスプレー機構駆動部55等)を制御する。また、後述するように、コントローラー60は、スプレー機構50を用いて媒体M上に液剤を噴霧する際に、霧化エアーの噴霧タイミング及び液剤の噴霧タイミングの制御を行う。
【0021】
また、印刷装置1は、クリーニングユニット70を備えていても良い。クリーニングユニット70は、インクヘッド41のクリーニングを行うユニットであり、印刷待機時にインクノズル43を保護するキャップや、インクノズル列44の表面に付着したインク等の汚れを清掃するワイパーを有する。
図1において、クリーニングユニット70は印刷装置1の走査方向における一方側の端部に設けられている。印刷待機時において、キャリッジユニット20が移動していないときは、ヘッドユニット40及びスプレー機構50は、通常、走査方向においてクリーニングユニット70が設けられている位置(ホームポジションとも呼ぶ)に配置されている。
【0022】
<スプレー機構50について>
図3は、スプレー機構50の構成について説明する模式図である。スプレー機構50は、スプレーノズル51と、エアーバルブ52と、ニードル53と、液剤タンク54とを有する。
【0023】
スプレーノズル51は、液剤及び霧化エアーを噴霧するノズルであり、エアーノズル511と、液剤ノズル512とを有している。エアーノズル511と液剤ノズル512は、中心軸を共通とする直径の異なる二つのシリンダ状のノズルである。エアーノズル511は外部から供給された圧縮空気を溜めて、当該圧縮空気を先端部から霧化エアーとして噴霧する部位である。霧化エアーは、
図3のようにエアーノズル511の先端から噴霧対象(本実施形態では媒体M)に向けて放射状に広がりながら噴霧される。液剤ノズル512は、外部(本実施形態では液剤タンク54)から供給された液剤を溜めて、当該液剤を、エアーノズル511から噴射される霧化エアーに混入させ、微粒化して噴霧させる部位である。
【0024】
エアーバルブ52は、外部から供給される圧縮空気の圧力を調整してエアーノズル511に供給するための調節弁である。本実施形態において、エアーバルブ52は、スプレー機構駆動部55により作動し、コントローラー60によって動作を制御することが可能である。これにより、スプレーノズル51から噴霧される霧化エアーの噴霧タイミングが調整される。なお、圧縮空気は、公知のコンプレッサー等によってエアーノズル511に供給される。コンプレッサーは、印刷装置1自体に設けられていても良いし、印刷装置1の外部に設けられていても良い。
【0025】
ニードル53は、液剤ノズル512の中心軸に沿って配置され、先端部分が細くなった針状の部材である。ニードル53は、スプレー機構駆動部55によって液剤ノズル512の軸方向に沿ってスライド移動可能に構成されている。
図3において、ニードル53が最も下側に位置しているときには、該ニードル53によって液剤ノズル512の先端が閉塞される。そして、この状態からニードル53が液剤ノズル512の軸方向に沿って上側に移動すると、液剤ノズル512の先端が開放され、液剤ノズル512内の液剤がエアーノズル511側に供給され、霧化エアーと共に噴霧される。すなわち、コントローラー60によってニードル53の動作を制御することによって、スプレー機構50における液剤の噴霧を制御することが可能となる。
【0026】
液剤タンク54は、スプレーノズル51から噴霧される所定の液剤(例えば、プライマーやトップコート剤)を貯留するタンクであり、液剤ノズル512に連通して、該液剤ノズル512の内部に液剤を供給する。
【0027】
なお、スプレー機構50から液剤を噴霧する動作において、エアーバルブ52及び液剤タンク54は必ずしも走査方向に移動する必要は無い。したがって、これら(52,54)はスプレーキャリッジ22に搭載されず、印刷装置1の所定の場所に固定されていても良い。
【0028】
図4A及び
図4Bは、スプレー機構50の噴霧動作について説明する図である。
図4Aは、スプレー機構50から霧化エアーのみを噴霧する動作を表し、
図4Bは、スプレー機構50から霧化エアー及び液剤を噴霧する動作を表している。
図4Aにおいて、霧化エアーを噴霧する場合、コントローラー60は、ニードル53によって液剤ノズル512を閉塞させた状態で、エアーバルブ52を開いてエアーノズル511内に圧縮空気を送り込む。そして、エアーノズル511内に充満した圧縮空気が、エアーノズル511の先端部から噴射される。
図4Aのようにエアーノズル511の先端部ではノズル径が絞られており、圧縮空気は、放射状に広がりながら霧状の霧化エアーとして噴霧される。
【0029】
次に、液剤を噴霧する場合、コントローラー60は、
図4Aの状態からニードル53を動作させ、液剤ノズル512の先端を開放する。すると、液剤タンク54に加えられている正圧によって液剤ノズル512の先端から液剤が吐出される。なお、本実施形態では、液剤タンク54の正圧によって液剤の吐出が行われるため、霧化エアーを噴霧していない状態で液剤を吐出することも可能である。このとき、ニードル53の移動量を調整して、液剤ノズル512先端部の開放量の大小を変更することで、噴霧される液剤の量を調整することが可能である。噴霧された液剤は、霧化エアーと共に放射状に広がりながら媒体に付着する。これにより、媒体表面に均一かつ広範囲に液剤を塗布することが可能となる。
【0030】
<画像を印刷する際の液剤噴霧について>
次に、印刷装置1を用いて媒体M上に画像を印刷する際に、当該媒体Mにプライマー等の液剤を塗布する動作について説明する。先ず、印刷対象となる画像が形成される領域を以下のように定義する。
【0031】
図5は、印刷画像が形成される領域について説明する図である。媒体M上の或る領域に
図5の様な星形の画像Xを印刷する場合、画像Xが印刷される領域である「印刷領域PA」が設定される。
図5では、画像Xに外接する矩形状の領域を印刷領域PAとしている。この印刷領域PAは、インクヘッド41からインクが吐出される予定の領域であり、コントローラー60によって画像Xを形成するための印刷データ(画素データ)に基づいて設定される。但し、印刷領域PAは、ユーザーによって設定されるのであっても良い。また、印刷領域PAは、
図5の様な矩形状の領域に限られるものではなく、例えば、画像Xと同じ形状の星型の領域として設定されるのであっても良い。
【0032】
続いて、走査方向において、印刷領域PAの上流側に隣り合う所定の範囲の領域を「非印刷領域NA」と定義する。非印刷領域NAは、画像Xを印刷する際にインクヘッド41からインクが吐出されない領域である。すなわち、走査方向に沿ってインクヘッド41を移動させる際に、インクヘッド41がインクを吐出することなく通過する領域である
【0033】
図5のような印刷領域PAに画像Xを印刷する場合、画像Xを形成するインクの定着性を向上させるために、印刷領域PAに予めプライマー等の液剤(下地材)を塗布しておくことが望ましい。また、画像Xが印刷された後には、当該画像を保護するために、印刷領域PAにトップコート等の液剤(仕上げ材)を塗布することが望ましい。本実施形態の印刷装置1では、スプレー機構50から下地材や仕上げ材等の液剤を噴霧することにより、印刷領域PAに当該液剤を塗布することが可能となる。
【0034】
ここで、比較例として、従来型の一般的なスプレーを用いて印刷領域PAに液剤を塗布する場合の動作について説明する。
図6は、比較例における液剤の塗布方法について説明する図である。一般に、或る領域(ここでは印刷領域PA)に均一に液剤を塗布したい場合、スプレーから液剤を噴霧させながら走査方向に沿って移動させる動作が行われる。このとき、走査方向において上流側の非印刷領域NAから下流側の印刷領域PAに亘って、スプレーから液剤を噴霧することにより、印刷領域PAに対して液剤を均一に塗布することが可能となる。
【0035】
スプレーを走査方向に沿って移動させる際に、仮に、印刷領域PAのみで液剤を噴霧させた場合、スプレーから噴霧を開始した直後は液剤の濃度が安定しないため、印刷領域PAにおいて液剤の塗布ムラが発生するおそれがある。そのため、印刷領域PAよりも走査方向の上流側に位置する非印刷領域NAから液剤の噴霧を開始する必要がある。
図6では、走査方向に沿ってスプレーを移動させる際に、移動開始直後から霧化エアー及び液剤の噴霧が開始されている。つまり、
図6の比較例の場合、非印刷領域NA及び印刷領域PAの全域に亘って、霧化エアー及び液剤の噴霧が行われる。この場合、本来液剤を塗布する必要のない非印刷領域NAにおいて広く液剤が噴霧されることから、液剤の消費量が無駄に多くなるという問題が生じる。
【0036】
これに対して、本実施形態では、液剤の無駄な消費を低減することが可能となる。
図7は、本実施形態の印刷装置1を用いた液剤の塗布方法について説明する図である。本実施形態において、印刷領域PAに液剤を塗布する場合、比較例と同様に、スプレー機構50を走査方向の上流側から下流側に移動させながら液剤を噴霧する動作が行われる。但し、印刷装置1では、非印刷領域NAの一部の領域でのみ液剤が噴霧される。
【0037】
具体的には、スプレー機構50が走査方向に沿って移動を開始した直後から、スプレーノズル51による霧化エアーの噴霧が開始される。そして、霧化エアーの噴霧が開始されてから所定時間が経過して、スプレー機構50が走査方向の下流側へ移動し、非印刷領域NAから印刷領域PAへ進入する前の所定のタイミングで液剤の噴霧を開始する。
図7では、走査方向において、非印刷領域NAの始点NA1でスプレーノズル51から霧化エアーの噴霧が開始され、非印刷領域NAの始点NA1と印刷領域PAの始点PA1との間の所定位置SPにて液剤の噴霧が開始されている。そして、所定位置SPよりも走査方向の下流側の領域(印刷領域PAを含む)では、霧化エアー及び液剤が両方噴霧される。すなわち、コントローラー60は、スプレー機構50を走査方向に沿って移動させる際に、霧化エアーの噴霧開始から所定時間経過後に液剤の噴霧を開始するように、印刷装置1の動作を制御する。
【0038】
これにより、非印刷領域NAにおいて無駄に噴霧される液剤の量を低減することができる。少なくとも、
図7の非印刷領域NAのうち、走査方向における始点NA1と所定位置SPとの間では液剤の噴霧が行われないため、
図6の比較例と比較して、非印刷領域NAに噴霧される液剤の量が低減される。このように、本実施形態では、走査方向に沿ってスプレー機構50を移動させる際に、先に霧化エアーのみを噴霧させておき、後から液剤の噴霧を開始することで、本来液剤の噴霧が不要な領域である非印刷領域NAに噴霧される液剤の量を相対的に少なくすることができる。したがって、インクジェットプリンタで、画像を印刷する領域にスプレーで液剤を噴霧する際に、液剤の消費量を低減することができる。
【0039】
そして、スプレー機構50から液剤の噴霧を開始するタイミングは、スプレー機構50を保持した状態で移動するスプレーキャリッジ22の、走査方向における移動速度に応じて決定されるようにすると良い。例えば、コントローラー60は、スプレーキャリッジ22を走査方向に移動させる際に、その移動速度から、スプレー機構50が
図7の所定位置SPに到達するタイミングを算出し、算出されたタイミングにて液剤の噴霧を開始させる。これにより、走査方向において印刷領域PAの始点PA1よりも上流側の所定位置SPで正確に液剤噴霧を開始させることができる。
【0040】
仮に、スプレーキャリッジ22が印刷領域PAの始点PA1に到達したタイミングで液剤の噴霧が開始された場合、液剤の噴霧開始直後は液剤の濃度が安定し難いため、始点PA1付近にて液剤の塗布ムラが生じるおそれがある。これに対して、印刷領域PAの始点PA1よりも走査方向の上流側である所定位置SPにて液剤噴霧を開始することにより、走査方向において所定位置SPから始点PA1の間で液剤の噴霧濃度を安定させることができる。したがって、印刷領域PAの全体で均一な濃度で液剤を塗布することが可能となる。
【0041】
また、スプレーキャリッジ22が走査方向に沿って移動する際に、スプレーキャリッジ22(スプレー機構50)が印刷領域PAに到達するまでの距離に基づいて、スプレー機構50から液剤の噴霧を開始するタイミングが決定されるようにしても良い。例えば、
図7の場合、コントローラー60は、走査方向において、印刷領域PAの始点PA1の位置とその上流側の所定位置SPとの間の距離が所定の長さとなるタイミングで、スプレー機構50から液剤の噴霧を開始させるように調整する。これにより、走査方向に移動するスプレー機構50によって液剤の噴霧が開始されてから、液剤の噴霧濃度が安定するまでの助走距離が確保されやすくなり、印刷領域PAの全体で均一な液剤塗布を行いやすくなる。
【0042】
また、スプレーキャリッジ22が走査方向に沿って移動する際に、スプレーキャリッジ22(スプレー機構50)が印刷領域PAに到達するまでに要する時間に基づいて、スプレー機構50から液剤の噴霧を開始するタイミングが決定されるようにしても良い。例えば、
図7の場合、コントローラー60は、走査方向において、スプレーキャリッジ22が所定位置SPを通過してから印刷領域PAの始点PA1に到達するまでに要する時間が所定の長さとなるタイミングで、スプレー機構50から液剤の噴霧を開始させるように調整する。これにより、走査方向に移動するスプレー機構50によって液剤の噴霧が開始されてから、液剤の噴霧濃度が安定するまでの助走期間が確保されやすくなり、印刷領域PAの全体で均一な液剤塗布を行いやすくなる。
【0043】
また、スプレー機構50が液剤を噴霧しながら走査方向に沿って移動し、印刷領域PAを通過した後の所定のタイミングで液剤の噴霧が停止されるようにすることが望ましい。例えば、
図7の場合、コントローラー60は、走査方向において、スプレーキャリッジ22が印刷領域PAの終点PA2の位置よりも下流側に移動した後の所定のタイミングで、スプレー機構50からの液剤の噴霧を停止させるように調整する。走査方向において、印刷領域PAよりも下流側の領域は、印刷領域PAよりも上流側の非印刷領域NAと同様に画像が形成されない領域である。したがって、印刷領域PAよりも走査方向の下流側の領域では下地材等の液剤を塗布する必要は無く、当該領域において噴霧される液剤は無駄な消費となる。そこで、スプレーキャリッジ22が印刷領域PAの終点PA2を通過した後の所定のタイミングで液剤の塗布を停止させることにより、液剤の無駄な消費を低減することができる。
【0044】
また、スプレー機構50を保持したスプレーキャリッジ22が走査方向に沿って移動する際に、印刷領域PAでは一定の速度で移動するようにすることが望ましい。スプレーキャリッジ22(スプレー機構50)が印刷領域PAを通過する際の速度が変動した場合、印刷領域PAの単位面積当たりに噴霧される液剤の量も変動するおそれがあり、印刷領域PAに液剤を一様に塗布することが困難になる。本実施形態において、コントローラー60は、スプレーキャリッジ22が走査方向に沿って移動を開始してから徐々に加速させ、少なくとも印刷領域PAの始点PA1に到達する前に移動速度が一定となるよう制御する。そして、スプレーキャリッジ22が一定速度を維持した状態で、印刷領域PAの上流側(PA1)から下流側(PA2)へ移動させる。これにより、印刷領域PAの単位面積当たりに噴霧される液剤の量が変動し難くなり、印刷領域PAに液剤を一様に塗布することができる。
【0045】
===その他の実施形態===
上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 印刷装置、
20 キャリッジユニット、
21 インクキャリッジ、22 スプレーキャリッジ、25 キャリッジ用モーター、
30 搬送ユニット、
31 搬送ローラー、35 搬送用モーター、
40 ヘッドユニット、
41 インクヘッド、43 インクノズル、
44 インクノズル列、
44C シアンインクノズル列、44M マゼンタインクノズル列、
44Y イエローインクノズル列、44K ブラックインクノズル列、
45 ヘッド駆動部、
50 スプレー機構、
51 スプレーノズル、511 エアーノズル、512 液剤ノズル、
52 エアーバルブ、53 ニードル、54 液剤タンク、55 スプレー機構駆動部、
60 コントローラー、
70 クリーニングユニット、
PA 印刷領域、NA 非印刷領域、
M 媒体