(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059253
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】車両制御装置及び車両制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 50/12 20120101AFI20240423BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20240423BHJP
B60K 26/02 20060101ALI20240423BHJP
B60K 28/14 20060101ALI20240423BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B60W50/12
B60W30/09
B60K26/02
B60K28/14
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166823
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】石神 裕丈
(72)【発明者】
【氏名】夏目 充啓
【テーマコード(参考)】
3D037
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D037EA06
3D037EA08
3D037FA16
3D037FA20
3D037FA24
3D037FB01
3D241BA33
3D241BC01
3D241CC01
3D241CE05
3D241DA13Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DC33Z
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF10
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】車種ごとの特性に依存することなく、障害物との衝突を抑制することが可能な車両制御装置及び車両制御プログラムを提供する。
【解決手段】ECU20は、車両の速度に基づいて、車両の加速を制限する上限加速度を設定する上限加速度設定部21と、車両の加速度とアクセル操作量との関係を示す相関データを用い、上限加速度設定部21によって設定された上限加速度に基づいて、アクセル操作量の上限である上限操作量を設定する上限アクセル開度設定部22と、ドライバによる実アクセル操作量が、上限アクセル開度設定部22によって設定された上限操作量に到達していることを判定する判定部23と、判定部23によって実アクセル操作量が上限操作量に到達していると判定された場合に、車両の実加速度と上限加速度との差に基づいて、上限操作量を補正する補正部24と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによるアクセル操作量に基づいて車両の加速状態を制御する車両制御装置(20)であって、
前記車両の速度に基づいて、前記車両の加速を制限する上限加速度を設定する上限加速度設定部(21)と、
前記車両の加速度と前記アクセル操作量との関係を示す相関データを用い、前記上限加速度設定部によって設定された前記上限加速度に基づいて、前記アクセル操作量の上限である上限操作量を設定する上限操作量設定部(22)と、
前記ドライバによる実アクセル操作量が、前記上限操作量設定部によって設定された前記上限操作量に到達していることを判定する判定部(23)と、
前記判定部によって前記実アクセル操作量が前記上限操作量に到達していると判定された場合に、前記車両の実加速度と前記上限加速度との差に基づいて、前記上限操作量を補正する補正部(24)と、を備える車両制御装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記判定部によって前記実アクセル操作量が前記上限操作量に到達していると判定された場合において、前記車両の実加速度が前記上限加速度よりも大きければ、前記上限操作量を減少側に補正し、前記車両の実加速度が前記上限加速度よりも小さければ、前記上限操作量を増加側に補正する、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記実加速度と前記上限加速度との差に基づいてフィードバック制御量を算出し、前記フィードバック制御量に基づいて前記上限操作量を補正する、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記実アクセル操作量に基づいて、前記車両の加速度を予測する加速度予測部を更に備え、
前記補正部は、前記判定部によって前記実アクセル操作量が前記上限操作量に到達していないと判定された場合、前記加速度予測部によって予測された加速度と前記車両の実加速度に基づいて前記上限操作量を補正する、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記車両の速度、加速度センサによって検出された前記車両の前後方向の加速度及び前記車両の鉛直方向の加速度に基づいて前記車両の位置する道路の縦断勾配を推定する推定部を更に備え、
前記補正部は、前記推定部によって推定された前記縦断勾配に基づいて前記上限操作量を補正する、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記縦断勾配は、第1縦断勾配であり、
前記実アクセル操作量に基づいて、前記車両の加速度を予測する加速度予測部を更に備え、
前記推定部は、
ジャイロセンサによって検出された前記車両のピッチ方向の角速度に基づいて、前記車両の位置する道路の第2縦断勾配を推定し、
前記第1縦断勾配と前記第2縦断勾配と、の重み付き和により前記車両の位置する道路の第3縦断勾配を推定し、
前記実加速度と前記加速度予測部によって予測された加速度との差が大きいほど、前記第2縦断勾配の重みを大きくし、
前記第3縦断勾配に基づいて前記上限操作量を補正する、請求項5に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記上限加速度設定部は、前記車両の速度が大きいほど、前記上限加速度を小さい値に設定する、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記車両の進行方向における物体までの距離を取得する距離取得部を更に備え、
前記上限加速度設定部は、前記距離取得部によって取得された前記物体までの距離が短いほど、前記上限加速度を小さい値に設定する、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項9】
前記車両の進行方向において前記車両に対する物体の相対速度を算出する相対速度算出部を更に備え、
前記上限加速度設定部は、前記相対速度算出部によって算出された前記相対速度が小さいほど、前記上限加速度を小さい値に設定する、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項10】
ドライバによるアクセル操作量に基づいて車両の加速状態を制御する車両制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記車両の速度に基づいて、前記車両の加速を制限する上限加速度を設定させる処理と、
前記車両の加速度と前記アクセル操作量との関係を示す相関データを用い、前記上限加速度に基づいて、前記アクセル操作量の上限である上限操作量を設定させる処理と、
前記ドライバによる実アクセル操作量が、前記上限操作量に到達していることを判定させる処理と、
前記実アクセル操作量が前記上限操作量に到達していると判定された場合に、前記車両の実加速度と前記上限加速度との差に基づいて、前記上限操作量を補正させる処理と、を実行させる車両制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置及び車両制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行方向に障害物が存在している状態で急激なアクセル操作が行われた場合に、車両の急発進を防止する発明が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載された発明は、車両の進行方向に障害物が存在し、かつアクセル操作量が基準操作量以上である場合に、駆動輪への付与トルクを低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アクセル操作量に対する車両の加速度、すなわち加速性能は車種によって異なるため、アクセル操作量と車両の付与トルクとの関係は車種によって異なることが考えられる。よって、どの程度のアクセル操作量であれば付与トルクを制限するのかについて、車種ごとに設定して管理する必要がある。すなわち、特許文献1に記載された発明を複数の車種に展開しようと考えた場合、このような設定及び管理が必要となる上、展開対象となる車種が増えるほど管理が複雑になってしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、車種ごとの特性に依存することなく、障害物との衝突を抑制することが可能な車両制御装置及び車両制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
ドライバによるアクセル操作量に基づいて車両の加速状態を制御する車両制御装置であって、
前記車両の速度に基づいて、前記車両の加速を制限する上限加速度を設定する上限加速度設定部と、
前記車両の加速度と前記アクセル操作量との関係を示す相関データを用い、前記上限加速度設定部によって設定された前記上限加速度に基づいて、前記アクセル操作量の上限である上限操作量を設定する上限操作量設定部と、
前記ドライバによる実アクセル操作量が、前記上限操作量設定部によって設定された前記上限操作量に到達していることを判定する判定部と、
前記判定部によって前記実アクセル操作量が前記上限操作量に到達していると判定された場合に、前記車両の実加速度と前記上限加速度との差に基づいて、前記上限操作量を補正する補正部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、車両における上限加速度が、車両の速度に基づいて設定される一方、アクセル開度の上限である上限アクセル開度が、車両の加速度とアクセル開度との関係を示す相関データを用いて、上限加速度に基づいて設定される。また、ドライバによる実アクセル開度が上限アクセル開度に到達していると判定された場合に、車両の実加速度と上限加速度との差に基づいて、上限アクセル開度が補正される。この場合、ドライバによる実アクセル開度と上限アクセル開度とが一致している状況下で、上限加速度が適正値になっているかどうかが判断され、上限加速度が適正値になっていなければ(すなわち、車両の実加速度と上限加速度とに差が生じていれば)、上限アクセル開度が適正値に補正される。これにより、車両の加速度とアクセル開度との関係を示すマップデータを、車種ごとに専用データとして用意しなくても、共通のマップデータを用いつつ適切な加速制限の制御を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る加速抑制システムの構成図。
【
図2】第1実施形態に係るECUの一動作例を説明するフローチャート。
【
図5】第1実施形態に係る加速抑制のシミュレーション波形。
【
図6】第1実施形態の変形例に係るECUの一動作例を説明するフローチャート。
【
図7】第2実施形態に係る加速抑制システムの構成図。
【
図8】第2実施形態に係るECUの一動作例を説明するフローチャート。
【
図9】第3実施形態に係る加速抑制システムの構成図。
【
図10】物体までの距離と上限加速度との関係を示す図。
【
図11】物体との相対速度と上限加速度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
<第1実施形態>
図1を参照して、第1実施形態に係る加速抑制システム100の構成例について説明する。以下では加速抑制システム100は、四輪車等の自動車に搭載されるものとして説明する。
図1に示すように、加速抑制システム100は、車速センサ10と、加速度センサ11と、アクセル開度センサ12と、ECU20(Electronic Control Unit)と、走行駆動装置13を備える。
【0011】
車速センサ10は、車両の速度を検出するセンサであり、車両の速度に応じた速度信号をECU20に出力する。加速度センサ11は、車両の加速度を検出するセンサであり、車両の加速度に応じた加速度信号をECU20に出力する。アクセル開度センサ12は、ドライバの操作対象であるアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)をアクセル開度として検出し、そのアクセル開度を示すアクセル開度信号をECU20に出力する。走行駆動装置13は、車両の走行時に走行用動力を生じさせる装置であり、例えばエンジンや走行用モータである。
【0012】
ECU20は、CPU(Central Processing Unit)、記憶部、及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータである。記憶部は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、フラッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)、又はRAM(Random Access Memory)などであり、ECU20の備えるCPUが実行する各種プログラム(ファームウェアやアプリケーションプログラムなど)やCPUが実行した処理の結果などを格納する。ECU20は、アクセル開度に応じて車両の要求駆動力TR(要求トルク)を算出し、その要求駆動力TRに基づいて走行駆動装置13の駆動を制御する。要求駆動力TRは、例えばアクセル開度と駆動力との関係を定めた相関データ(例えばマップデータや相関式)を用い、アクセル開度に応じて決定される。また、ECU20は、エンジンに対してスロットル開度制御や点火時期制御などを行ったり、走行用モータに対してトルク指令信号を出力したりすることで、車両の駆動力を制御する。
【0013】
また、ECU20は、
図1に示す上限加速度設定部21、上限アクセル開度設定部22、判定部23、補正部24及び駆動力制御部25を備えており、これらは、車速センサ10や加速度センサ11などから取得した情報に基づいて記憶部に格納されたプログラムをCPUが実行することにより機能するソフトウェア機能部である。ECU20が提供する機能は、実体的な記憶部に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータだけでなく、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供されてもよい。ECU20が「車両制御装置」に相当する。
【0014】
上限加速度設定部21は、車両の速度に基づいて、車両の加速を制限する上限加速度を設定する。設定された上限加速度は逐次記憶部に記憶される。
【0015】
上限アクセル開度設定部22は、車両の加速度とアクセル開度との関係を示す相関データ(例えばマップデータや相関式)を用い、上限加速度設定部21によって設定された上限加速度に基づいて、アクセル開度の上限である上限アクセル開度を設定する。本実施形態では、車両の加速度とアクセル開度との関係を示す相関データはマップデータ(
図4参照)として説明する。このマップデータは、記憶部に格納されており、複数の車種で共通して用いられるモデルデータである。モデルとなる車両のデータとして、例えば本制御の適用対象となる複数種の車両のうち、アクセル開度が最も抑制されにくい車両のデータが用いられる。アクセル開度が最も抑制されにくいとは、換言すれば同一のアクセル開度に対応する加速度が最も小さいことを意味する。本実施形態では、例えば、排気量が1500ccである車両のマップデータがモデルデータとして複数の車種に展開されていることを想定する。上限アクセル開度設定部22は、「上限操作量設定部」に相当する。上限アクセル開度は「上限操作量」に相当する。
【0016】
判定部23は、ドライバによって実際に操作されたアクセルペダルの操作量である実アクセル開度が、上限アクセル開度設定部22によって設定された上限アクセル開度に到達しているか否かを判定する。実アクセル開度は「実アクセル操作量」に相当する。
【0017】
補正部24は、判定部23によって実アクセル開度が上限アクセル開度に到達していると判定された場合に、加速度センサ11から取得した車両の加速度である実加速度と上限加速度との差に基づいて、上限アクセル開度を補正する。
【0018】
駆動力制御部25は、車両走行時において、アクセル開度に応じて車両の駆動力を制御する一方、車両の加速度が上限加速度設定部21によって設定された上限加速度以下になるように駆動力を制限することで加速制限を実施する。
【0019】
次に、
図2のフローチャートを参照して、ECU20により実行される加速制限処理の一例を説明する。
図2に示す処理は、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0020】
ステップS101において、ECU20は、車速センサ10から車両の速度を取得する。続くステップS102において、ECU20は、ステップS101で取得した速度に基づいて上限加速度を設定する。具体的には、ECU20は、
図3に示すマップデータを用い、速度が大きいほど、上限加速度が小さくなるように上限加速度を設定する。
【0021】
ステップS103において、ECU20は、ステップS102で設定した上限加速度に基づいて上限アクセル開度を設定する。具体的には、ECU20は、
図4に示すマップデータを用い、加速度のうち上限加速度が大きいほど、アクセル開度が大きくなるように上限アクセル開度を設定する。
【0022】
ステップS104において、ECU20は、ドライバによる実際のアクセルペダルの操作量である実アクセル開度が上限アクセル開度に到達しているか否か判定する。実アクセル開度が上限アクセル開度に到達していると判定された場合(ステップS104でYES)、処理はステップS105に進む。一方、実アクセル開度が上限アクセル開度に到達していないと判定された場合(ステップS104でNO)、処理はステップS108に進む。ステップS108において、ECU20は、アクセル開度に応じて決定される要求駆動力TRになるように駆動力を制御する。ステップS105~S107の処理の詳細は後述する。ここで、上述したように、複数の車種に共通のマップデータが展開されるため、車種によっては加速制限が遅れる場合がある。この点について、
図5を参照して説明する。
【0023】
図5は、アクセル誤操作(誤踏み込み)に伴う車両の加速度の推移をシミュレーション波形として示したものである。
図5の横軸は時間を示し、縦軸は車両のアクセル開度及び加速度を示す。
図5の実線は、複数の車種に共通して展開されるマップデータのモデルとなった車両A(排気量は1500cc)の加速度の推移を示す。時刻T1において、ドライバによるアクセル誤操作が発生したものとする。このアクセル誤操作の発生により時刻T1以降、アクセル開度が急上昇し、車両が発進することにより、車両Aの加速度が上昇する。
【0024】
時刻T3において、実アクセル開度が上限アクセル開度に到達したため、上限加速度設定部21によって設定された上限加速度以下になるように駆動力が制限され、車両Aの加速は制限される。
【0025】
図5の一点鎖線は、車両Aとは異なる車両Bの加速度の推移を示す。例えば、この車両Bは、排気量が3000ccの車両である。時刻T3において、実アクセル開度が上限アクセル開度に到達したため、車両Bにおいても車両Aと同様に駆動力が制限され、加速が制限されるが、時刻T3における車両Bの加速度は上限加速度を超えている。これは、車両Bに対しても車両Aのマップデータが用いられているからである。上述では、車両Aのマップデータは、同一のアクセル開度に対応する加速度が最も小さいデータと説明した。つまり、車両A,Bともに、実アクセル開度が上限アクセル開度に操作されたとしても、
図5に示すように車両Bのほうが車両Aよりも加速度が大きくなってしまい、加速度の到達タイミングに対して加速制限が遅れる。
【0026】
そこで、本実施形態では、加速制限の遅れを補正すべく、フィードバック制御を行う。具体的には、ステップS105において、ECU20は、加速度センサ11から車両の実加速度を取得する。続くステップS106において、ECU20は、実加速度と上限加速度との差に基づいて、上限アクセル開度を補正する。具体的には、ECU20は、実加速度と上限加速度との差に対し、PI制御又はI制御を行い、フィードバック制御量としての加速度補正量を算出し、上限加速度から加速度補正量を加算又は減算する。ECU20は、加算又は減算された上限加速度に基づいて上限アクセル開度を補正する。
【0027】
ステップS107において、ECU20は、補正後の上限アクセル開度に基づいて車両の加速を制限する。
【0028】
ここで再度
図5を参照して、補正後の上限アクセル開度を用いた場合における車両Bの加速度の変化を説明する。
図5の破線は、補正後の上限アクセル開度を用いた場合の車両Bの加速度の推移を示す。
図5のシミュレーションでは、実加速度が上限加速度よりも大きいため、上限加速度から加速度補正量を減算する処理となる。よって、
図5に示すように上限アクセル開度は減少側に補正されることになる。これにより、時刻T3より前の時刻T2のタイミングで駆動力が制限され、加速が制限される。これにより、車両Bの加速度が上限加速度を超えることが抑制される。このように、実加速度と上限加速度との差がなくなるようにフィードバック制御を行って上限アクセル開度を補正し、補正後の上限アクセル開度を用いて車両の駆動力を制限し加速を制限することにより、共通のマップデータを用いた場合であっても適切な加速制限を行うことができる。
【0029】
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0030】
本実施形態によれば、車両における上限加速度が、車両の速度に基づいて設定される一方、アクセル開度の上限である上限アクセル開度が、車両の加速度とアクセル開度との関係を示す相関データを用いて、上限加速度に基づいて設定される。また、ドライバによる実アクセル開度が上限アクセル開度に到達していると判定された場合に、車両の実加速度と上限加速度との差に基づいて、上限アクセル開度が補正される。この場合、ドライバによる実アクセル開度と上限アクセル開度とが一致している状況下で、上限加速度が適正値になっているかどうかが判断され、上限加速度が適正値になっていなければ(すなわち、車両の実加速度と上限加速度とに差が生じていれば)、上限アクセル開度が適正値に補正される。これにより、車両の加速度とアクセル開度との関係を示すマップデータを、車種ごとに専用データとして用意しなくても、共通のマップデータを用いつつ適切な加速制限の制御を行わせることができる。
【0031】
本実施形態では、車両の実加速度が上限加速度よりも大きい場合は、上限アクセル開度を減少側に補正すると説明した。一方で、車両の実加速度が上限加速度よりも小さい場合は、上限アクセル開度を増加側に補正するとよい。これにより、実加速度と上限加速度との大小関係に関わらず、上限アクセル開度が適正値に補正される。
【0032】
本実施形態では、実加速度と上限加速度との差に対し、PI制御又はI制御を行って加速度補正量を算出する構成とした。いずれの制御でもI制御が含まれるため、加速度補正量の急激な変動を抑制することができ、ドライバへ与える違和感を抑制することができる。
【0033】
一般的に、車両の速度が大きくなるほど必要となる加速度は小さくなる。そこで本実施形態では、車両の速度が大きいほど、上限加速度を小さい値に設定するようにした(
図3参照)。これにより、車両の高速領域においても適切な加速制限の制御を行わせることができる。
【0034】
<第1実施形態の変形例>
通常の走行時におけるドライバのアクセル操作を利用して、アクセル誤操作が発生した場合の加速制限の応答性を向上させてもよい。この点について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
図6のフローチャートが
図5のフローチャートと異なるのは、ステップS109~S111の処理を更に備えることである。
【0035】
ステップS109において、ECU20は、車両の加速度を予測する。例えば、ECU20は、
図4のマップデータを逆変換したデータを用いて現時点の実アクセル開度から現時点以降の将来加速度を予測することができる。予測された加速度は逐次記憶部に記憶される。ステップS109の処理が「加速度予測部」に相当する。
【0036】
続くステップS110において、ECU20は、加速度センサ11から車両の実加速度を取得する。続くステップS111において、ECU20は、予測された将来加速度が上限加速度を超えるタイミングにおいて、将来加速度と実加速度との差に基づいて、上限アクセル開度を補正する。具体的には、ECU20は、実加速度と将来加速度との差に対し、PID制御のI制御のみを行って加速度補正量を算出し、将来加速度から加速度補正量を加算又は減算する。ECU20は、加算又は減算された将来加速度に基づいて上限アクセル開度を補正する。具体的には、車両の実加速度が将来加速度よりも大きければ、上限アクセル開度を減少側に補正し、車両の実加速度が将来加速度よりも小さければ、上限アクセル開度を増加側に補正する。このように通常の走行時におけるドライバのアクセル操作に基づいて、上限アクセル開度を補正することにより、アクセル誤操作が発生した場合における加速制限の応答性を向上させることが可能となる。
【0037】
<第2実施形態>
次に、
図7~8を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態と重複する構成については符号を引用してその説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。第2実施形態が第1実施形態と相違するのは、
図7に示すようにECU20が学習部26を更に備えることである。ECU20が備える学習部26の機能について
図8のフローチャートを参照して説明する。ただし、ステップS201~S205,S210の処理は、
図2のステップS101~S105,S108の処理と同じため説明を省略する。ステップS206~S208の処理が学習部26の機能に相当する。
【0038】
ステップS206において、ECU20は、車両の実加速度と上限加速度との差を無限インパルス応答フィルタでフィルタリングする。フィルタリングの演算回数は、逐次記憶部に記憶される。処理はステップS207に進み、ECU20は、フィルタリングの演算回数が所定数を超えた場合に、演算回数をゼロにリセットするとともに、フィルタリング出力に1より小さい係数を乗算して加速度補正量を算出する。処理はステップS208に進み、ECU20は、ステップS207で算出した加速度補正量は逐次記憶部に記憶し、更新する。ECU20は、上限加速度に対し加速度補正量を加算又は減算し、加算又は減算された上限加速度に基づいて上限アクセル開度を補正する。
【0039】
ステップS209において、ECU20は、補正後の上限アクセル開度に基づいて車両の駆動力を制限し車両の加速を制限する。このような学習処理を行うことにより、例えば駆動力制限の応答性を向上させることが可能となり、ひいては加速制限の応答性を向上させることが可能となる。
【0040】
なお、誤学習防止の観点から、算出された加速度補正量が所定値を超える場合は、その加速度補正量を更新しなくてもよい。
【0041】
<第3実施形態>
次に、
図9を参照して第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態と重複する構成については符号を引用してその説明は省略する。以下、相違点を中心に説明する。第3実施形態が第1実施形態と相違するのは、
図9に示すように、加速抑制システム100がジャイロセンサ14を更に備えることと、ECU20が推定部27を更に備えることである。
【0042】
推定部27は、車両の位置する道路の縦断勾配を推定する。例えば、推定部27は、車速センサ10から取得した車両の速度、加速度センサ11から取得した車両の前後方向の加速度及び車両の鉛直方向(上下方向)の加速度に基づいて、車両の位置する道路の縦断勾配を推定することができる。このように推定した縦断勾配を、第1縦断勾配と呼ぶ。推定部27は、推定した第1縦断勾配を補正部24に出力する。
【0043】
ジャイロセンサ14は、車両のピッチ方向(上下方向)の角速度を検出し、検出した角速度をECU20の推定部27に出力する。推定部27は、ジャイロセンサ14から取得した角速度を用いて車両の位置する道路の縦断勾配を推定する。このように推定した縦断勾配を、第2縦断勾配と呼ぶ。また、推定部27は、第1縦断勾配及び第2縦断勾配の重み付き和で縦断勾配を推定する。このように推定した縦断勾配を、第3縦断勾配と呼ぶ。第3縦断勾配を推定する際、推定部27は、実加速度と加速度予測部によって予測された予測加速度の差が大きいほど第2縦断勾配の重みを重くする。
【0044】
実加速度と予測加速度との差が大きいということは、重力の加速度成分に車両の加速度成分が加わり、加速度センサ11の検出精度が低くなり、ひいては第1縦断勾配の推定精度が低くなることを意味する。そこで本実施形態では、実加速度と加速度予測部によって予測された予測加速度の差が大きいほど第2縦断勾配の重みを重くする。これにより第3縦断勾配の推定精度が向上する。推定部27は、推定した第3縦断勾配を補正部24に出力する。
【0045】
補正部24は、推定部27から取得した第3縦断勾配のサイン値に重力加速度及び1より小さい係数を乗算して加速度補正量を算出する。補正部24は、上限加速度に対し加速度補正量を加算又は減算し、加算又は減算された上限加速度に基づいて上限アクセル開度を補正する。
【0046】
勾配を有する道路と平坦な道路では、制限すべき上限加速度は異なる。勾配を有する道路を上がる場合は平坦な道路と比較して必要となる加速度は大きくなる一方で、勾配を有する道路を下がる場合は平坦な道路と比較して必要となる加速度は小さくなる。そこで本実施形態では、推定された縦断勾配(例えば第3縦断勾配)に基づいて加速度補正量を算出し、上限加速度に対し加速度補正量を加算又は減算する。加算又は減算された上限加速度に基づいて上限アクセル開度を補正し、補正後の上限アクセル開度を用いて車両の駆動力を制限し加速を制限することにより、勾配を有する道路においても共通のマップデータを用いた加速制限を行うことができる。
【0047】
第3縦断勾配に基づいて上限アクセル開度の補正を行うと説明したが、これに限定されず、第1縦断勾配に基づいて上限アクセル開度の補正を行ってもよく、第2縦断勾配に基づいて上限アクセル開度の補正を行ってもよい。
【0048】
<その他の実施形態>
・上限加速度設定部21は、車両の進行方向における物体までの距離が短いほど、上限加速度を小さい値に設定してもよい(
図10参照)。車両の進行方向における物体までの距離が短いほど速やかな加速制限制御が求められる。そこで、物体までの距離が短いほど上限加速度を小さくすることにより、いち早く加速制限を行わせることができる。車両の進行方向における物体までの距離は、カメラ、ライダ、レーダなどを用いて検出することができる。「距離取得部」は、カメラ、ライダ、レーダなどによって検出された物体までの距離を取得する機能である。
【0049】
・上限加速度設定部21は、車両の進行方向において車両に対する物体の相対速度が小さいほど、上限加速度を小さい値に設定してもよい(
図11参照)。車両の進行方向において車両に対する物体の相対速度が小さいほど速やかな加速制限制御が求められる。そこで、車両に対する物体の相対速度が小さいほど上限加速度を小さくすることにより、いち早く加速制限を行わせることができる。ECU20の機能のうち、車両の進行方向において車両に対する物体の相対速度を算出する機能は、「相対速度算出部」に相当する。
【0050】
・
図4のマップデータとして、アクセル開度が最も抑制されにくい車両のデータが用いられると説明したが、マップデータはこれに限定されない。例えば、パワートレインの出力公称値を車重で除算した値が最も小さい車両のデータがマップデータとして採用されてもよい。
【0051】
・フィードバック制御に関し、PI制御又はI制御を行うと説明したが、PID制御やP制御を行ってもよい。
【0052】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
20…ECU、21…上限加速度設定部、22…上限アクセル開度設定部、23…判定部、24…補正部。