(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059256
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】熱伝導シート及び熱伝導シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20240423BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240423BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166826
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】森 大地
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 義知
(72)【発明者】
【氏名】杉田 純一郎
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA02
5E322AB11
5E322FA04
5E322FA09
5F136BC07
5F136FA25
5F136FA53
5F136FA56
5F136FA63
5F136FA82
5F136GA01
5F136GA17
5F136GA33
(57)【要約】
【課題】熱伝導性に優れ、熱抵抗値が小さい熱伝導シートを提供する。
【解決手段】熱伝導シート10は、バインダ樹脂11と、繊維状の熱伝導材料12とを含み、繊維状の熱伝導材料12の少なくとも一部が、熱伝導シート10の厚み方向に所定の角度を有して配向しており、繊維状の熱伝導材料12の平均長さが、熱伝導シート10の厚みより大である。例えば、熱伝導シート10は、繊維状の熱伝導材料12が複数の配列シート14,15,16中に配列されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ樹脂と、繊維状の熱伝導材料とを含む熱伝導シートであって、
上記繊維状の熱伝導材料の少なくとも一部が、当該熱伝導シートの厚み方向に所定の角度を有して配向しており、
上記繊維状の熱伝導材料の平均長さが、当該熱伝導シートの厚みより大である、熱伝導シート。
【請求項2】
上記繊維状の熱伝導材料が、複数の繊維状の熱伝導材料が配列した配列シート中で当該熱伝導シートの厚み方向に配向している、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
上記配列シートのうち、少なくとも一部の配列シートにおける繊維状の熱伝導材料が、当該熱伝導シートの厚み方向に対して傾斜しており、
上記傾斜方向が一方向である、請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
上記配列シートのうち、少なくとも一部の配列シートにおける繊維状の熱伝導材料が、当該熱伝導シートの厚み方向に対して傾斜しており、
上記傾斜方向が上記配列シートごとに異なる、請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
上記配列シートが、上記バインダ樹脂とは異なる樹脂に挟持されている、請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
上記繊維状の熱伝導材料が炭素繊維である、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
バインダ樹脂と、シート状の熱伝導材料とを含む熱伝導シートであって、
少なくとも一部の上記シート状の熱伝導材料の面方向が当該熱伝導シートの厚み方向に対して傾斜しており、
当該熱伝導シートの厚み方向における、上記シート状の熱伝導材料の平均長さが、当該熱伝導シートの厚みより大である、熱伝導シート。
【請求項8】
上記シート状の熱伝導材料が、シート状のグラファイトである、請求項7に記載の熱伝導シート。
【請求項9】
繊維状の熱伝導材料の束を第1の樹脂シート上に開繊する工程と、
上記繊維状の熱伝導材料の束が開繊されてなる複数の繊維状の熱伝導材料を挟むように、上記第1の樹脂シートと第2の樹脂シートとを熱融着し、開繊シートを得る工程と、
上記開繊シートを所定の幅で切断し、開繊シート切片を得る工程と、
上記開繊シート切片を積層し積層体を得る工程、または、上記開繊シート切片を巻回した巻回体を形成する工程と、
上記開繊シート切片の樹脂を溶解または溶融し、上記積層体または上記巻回体の接触面を一体化させる工程と
を有する、熱伝導シートの製造方法。
【請求項10】
繊維状の熱伝導材料の束を第1の樹脂シート上に開繊する工程と、
上記繊維状の熱伝導材料の束が開繊されてなる複数の繊維状の熱伝導材料を挟むように、上記第1の樹脂シートと第2の樹脂シートとを熱融着し、開繊シートを得る工程と、
上記開繊シートを所定の幅で切断し、開繊シート切片を得る工程と、
上記開繊シート切片を配列する工程と、
配列した上記開繊シート切片をバインダ樹脂に埋め込む工程と
を有する熱伝導シートの製造方法。
【請求項11】
上記開繊シート切片を配列する工程では、上記開繊シート切片のうち、少なくとも一部の開繊シート切片における繊維状の熱伝導材料が、当該熱伝導シートの厚み方向に対して傾斜するように、上記開繊シート切片を配列する、請求項10に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項12】
上記繊維状の熱伝導材料が炭素繊維である、請求項10又は11に記載の熱伝導シート。
【請求項13】
炭素繊維支持シート上に、炭素繊維が配列を形成するように、上記炭素繊維を上記炭素繊維支持シートの面に対して所定の角度で立てる工程と、
上記配列をバインダ樹脂で含浸する工程と
を有する熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱伝導シート及び熱伝導シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の更なる高性能化により、半導体素子の高密度化、高実装化が進んでいる。それと比例して、IC(Integrated Circuit)等からの発熱量、発熱密度も増大する傾向にあり、より効率的に熱伝導シートを介して放熱フィン、放熱板等の放熱部材に熱を伝達することが求められる。
【0003】
今後の更なる情報技術の高度化に伴い、次世代通信や次世代サーバ関連のアプリケーションには、小型で高密度のICや、大型で高出力のICが搭載されることが考えられる。熱抵抗の観点では、縦置きの通信機器や大型ICは、冷熱サイクルによる位置ズレや公差の影響を大きく受け、実装ギャップ最小化による熱抵抗の低減を講じるのが難しいと考えられる。
【0004】
熱伝導シートの一例である炭素繊維を使用した熱伝導シートは、一般にバルク熱伝導率が20~50W/m・K程度であり、市場では超高熱伝導性を有する製品として見なされている。炭素繊維を使用した熱伝導シートは、特に0.1mm以上のギャップの高熱密度のサーマルマネジメントにおいて、デファクト化しつつある。
【0005】
しかし、炭素繊維を使用した熱伝導シートは、例えば、炭素繊維を含む熱伝導性フィラーの総充填量が約70体積%程度と多くなっている。そのため、現状の技術では、熱伝導シートを成形するための組成物の十分な混錬、熱伝導シートの成形、炭素繊維の配向などが困難な傾向にあり、熱伝導シートの熱伝導率向上の限界に近づいていると考えられる。
【0006】
以上の実情を踏まえると、炭素繊維などの繊維状の熱伝導材料を使用した熱伝導シートにおいて、今後、更なる高熱伝導化と低熱抵抗化が求められると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、熱伝導性に優れ、熱抵抗値が小さい熱伝導シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本技術に係る熱伝導シートは、バインダ樹脂と、繊維状の熱伝導材料とを含み、繊維状の熱伝導材料の少なくとも一部が、熱伝導シートの厚み方向に所定の角度を有して配向しており、繊維状の熱伝導材料の平均長さが、熱伝導シートの厚みより大である。
【0010】
本技術に係る熱伝導シートは、バインダ樹脂と、シート状の熱伝導材料とを含み、少なくとも一部のシート状の熱伝導材料の面方向が熱伝導シートの厚み方向に対して傾斜しており、熱伝導シートの厚み方向における、シート状の熱伝導材料の平均長さが、熱伝導シートの厚みより大である。
【0011】
本技術に係る熱伝導シートの製造方法は、繊維状の熱伝導材料の束を第1の樹脂シート上に開繊する工程と、繊維状の熱伝導材料の束が開繊されてなる複数の繊維状の熱伝導材料を挟むように、第1の樹脂シートと第2の樹脂シートとを熱融着し、開繊シートを得る工程と、開繊シートを所定の幅で切断し、開繊シート切片を得る工程と、開繊シート切片を積層し積層体を得る工程、または、開繊シート切片を巻回した巻回体を形成する工程と、開繊シート切片の樹脂を溶解または溶融し、積層体または巻回体の接触面を一体化させる工程とを有する。
【0012】
本技術に係る熱伝導シートの製造方法は、繊維状の熱伝導材料の束を第1の樹脂シート上に開繊する工程と、繊維状の熱伝導材料の束が開繊されてなる複数の繊維状の熱伝導材料を挟むように、第1の樹脂シートと第2の樹脂シートとを熱融着し、開繊シートを得る工程と、開繊シートを所定の幅で切断し、開繊シート切片を得る工程と、開繊シート切片を配列する工程と、配列した開繊シート切片をバインダ樹脂に埋め込む工程とを有する。
【0013】
本技術に係る熱伝導シートの製造方法は、炭素繊維支持シート上に、炭素繊維が配列を形成するように、炭素繊維を炭素繊維支持シートの面に対して所定の角度で立てる工程と、配列をバインダ樹脂で含浸する工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本技術によれば、熱伝導性に優れ、熱抵抗値が小さい熱伝導シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、従来の熱伝導シートの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本技術に係る熱伝導シートの一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、繊維状の熱伝導材料が、複数の繊維状の熱伝導材料が配列した配列シート中に存在し、各配列シート中で熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シートの一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、繊維状の熱伝導材料が配列した配列シートの一例を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は平面図であり、(C)は斜視図である。
【
図5】
図5は、繊維状の熱伝導材料が配列した配列シートの一例を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、繊維状の熱伝導材料が配列した配列シートの一例を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は平面図であり、(C)は斜視図である。
【
図7】
図7は、繊維状の熱伝導材料が、複数の繊維状の熱伝導材料が配列した配列シート中に存在し、各配列シート中で熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シートの一例を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、少なくとも一部のシート状の熱伝導材料の面方向が熱伝導シートの厚み方向に対して傾斜しており、熱伝導シートの厚み方向におけるシート状の熱伝導材料の長さが、熱伝導シートの厚みより大である熱伝導率シートの一例を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、熱伝導シートの製造方法の一例を説明するための図であり、(A)は繊維状の熱伝導材料の束を第1の樹脂シート上に開繊する工程の一例を説明するための斜視図であり、(B)は開繊シートの一例を示す断面図であり、(C)は開繊シート切片の一例を示す断面図であり、(D)は開繊シート切片中の繊維状の熱伝導材料の長さ方向が立つように並べて整列させた整列シートの一例を示す斜視図であり、(E)は開繊シートの切片を巻回した巻回体の一例を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、炭素繊維支持シート上に、炭素繊維が配列を形成するように、炭素繊維を炭素繊維支持シートの面に対して所定の角度で立てる工程の一例を説明するための断面図である。
【
図11】
図11は、配列をバインダ樹脂で含浸する工程の一例を説明するための断面図である。
【
図12】
図12は、炭素繊維支持シートがあった部分にバインダ樹脂を塗布し、塗布したバインダ樹脂上にカバーフィルムを配置する工程の一例を説明するための断面図である。
【
図13】
図13は、熱伝導シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<熱伝導シートの第1の実施の形態>
本技術に係る第1の実施の形態に係る熱伝導シートは、バインダ樹脂と、繊維状の熱伝導材料とを含み、繊維状の熱伝導材料を含むフィラーの含有量の合計が10~40体積%であり、バインダ樹脂の含有量が60~90体積%であり、下記式1を満たす。
式1:X×Y/100×0.5<Z
【0017】
式1中、Xは、熱伝導シート中、熱伝導率が最も高いフィラーの熱伝導率(W/m・K)である。式1中、Yは、熱伝導シート中、熱伝導率が最も高いフィラーの充填率(体積%)である。
【0018】
式1中、Zは、ASTM-D5470に準拠して測定した熱抵抗に基づく熱伝導シートのバルク熱伝導率(W/m・K)である。ここで、ASTM-D5470に準拠した測定とは、任意の異なる厚みの熱伝導シートを複数作製し、これらのシートに荷重をかけて測定した際の単位面積当たりの熱抵抗ないし熱伝導率、あるいはその双方を測定することを言う。この時の熱伝導率を実効熱伝導率と称することもある。この値は、測定時の測定治具と熱伝導シートの界面における熱抵抗の影響が含まれた値である。また、この際に各厚みの熱伝導シートの圧縮厚みも測定し、それぞれの圧縮厚みと熱抵抗値との関係を一次関数で示し、この一次関数の傾きの逆数をバルク熱伝導率と定義する。バルク熱伝導率とは、熱伝導シートそのものの熱伝導率とも換言できる。測定条件の詳細は、後述する実施例に記載の通りである。式1中のZは、50W/m・K以上であることが好ましく、60W/m・K以上であってもよく、70W/m・K以上であってもよく、80W/m・K以上であってもよく、90W/m・K以上であってもよく、100W/m・K以上であってもよく、60~100W/m・Kの範囲であってもよく、70~100W/m・Kの範囲であってもよく、80~100W/m・Kの範囲であってもよい。
【0019】
繊維状の熱伝導材料とは、例えば、長軸と短軸とを有し、アスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)が1を超える形状であって、熱伝導異方性を有する熱伝導材料である。繊維状の熱伝導材料については、後に詳述する。
【0020】
従来の熱伝導シートは、概ねBruggemanの式に従うため、高熱伝導の熱伝導性フィラーを使用する場合でも、例えば、熱伝導シート中の熱伝導性フィラーの含有量(充填量)が50体積%以下では、熱伝導シートの熱伝導率が低くなる傾向にある。また、従来の熱伝導シートは、例えば、熱伝導シート中の熱伝導性フィラーの含有量が65体積%以上では、熱伝導シートの熱伝導率が上昇する傾向にある。
【0021】
ここで、従来の炭素繊維を使用した熱伝導シートは、例えば、熱伝導率が900W/m・K程度の炭素繊維を20体積%以上含む場合でも、50W/m・K程度のバルク熱伝導率が限界であった。この条件を上述した式1に当てはめると、X:900(W/m・K)、Y:20(体積%)、Z:50(W/m・K)となり、式1の左辺の値が右辺の値よりも大きくなり、式1を満たさない。
【0022】
図1は、従来の熱伝導シートの一例を示す断面図である。従来の炭素繊維を使用した熱伝導シートは、例えば
図1に示すように、熱伝導シート100中の炭素繊維101の長軸の平均長さが、熱伝導シート100の厚みに対して非常に短く、炭素繊維同士の接触や、炭素繊維101と、炭素繊維101よりも熱伝導率が低い他の熱伝導性フィラー102との接触によって熱伝導がもたらされている。このため、炭素繊維101の長軸や隣接した炭素繊維101の間に、炭素繊維101よりも熱伝導率が低い他の熱伝導性フィラー102や、バインダ樹脂103が介在することで、炭素繊維101の高熱伝導性を十分に発揮できないことが一原因と考えられる。
【0023】
この問題に対して、例えば、熱伝導シートの厚み方向において、繊維状の熱伝導材料の長軸の間に、他の熱伝導性フィラーやバインダ樹脂が介在せず、繊維状の熱伝導材料の熱伝導率を十分に発揮できれば、熱伝導シートに繊維状の熱伝導材料(例えば炭素繊維)を高充填しなくても、熱伝導性が良好であり、熱抵抗値が小さい熱伝導シートが得られると考えられる。すなわち、繊維状の熱伝導材料の高熱伝導性を活かした、Bruggemanの式に従わない熱伝導シートが得られると考えられる。
【0024】
図2は、本技術に係る熱伝導シートの一例を示す断面図である。本技術に係る熱伝導シート1は、例えば
図2に示すように、バインダ樹脂2と、繊維状の熱伝導材料3とを含み、熱伝導シート1中の繊維状の熱伝導材料3の長軸の平均長さが一定以上であり、さらに、繊維状の熱伝導材料3の長軸の方向が2方向以上であることが好ましい。ここで、熱伝導シート1中の繊維状の熱伝導材料3の平均長さとは、熱伝導シート1中の全ての繊維状の熱伝導材料3の長軸の長さの平均(平均長軸長さ)を意味する。また、熱伝導シートの面方向に対する繊維状の熱伝導材料3の配向角をθとした場合、繊維状の熱伝導材料3の長さは、以下を満たすように設定することもできる。
繊維状の熱伝導材料の平均長さ:シート厚み/sinθ、[シート厚み<繊維状の熱伝導材料の長さ]
【0025】
<繊維状の熱伝導材料>
繊維状の繊維状3の熱伝導材料の例としては、炭素繊維、窒化アルミニウムウィスカーなどが挙げられる。繊維状の熱伝導材料3は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
熱伝導シート1中、繊維状の熱伝導材料3が、式1中の熱伝導率が最も高いフィラーに該当する場合、繊維状の熱伝導材料3は、熱伝導率が300~500W/m・Kの範囲であってもよいし、熱伝導率が500W/m・Kを超えてもよい。
【0027】
熱伝導シート1において、繊維状の熱伝導材料3の少なくとも一部が、熱伝導シート1の厚み方向に所定の角度を有して配向しているとは、例えば、熱伝導シート1中に存在する繊維状の熱伝導材料3の長軸の方向が2方向以上であり、熱伝導シート1の厚み方向を90°とした場合、熱伝導シート1中の全ての繊維状の熱伝導材料3の長軸の角度の平均(繊維状の熱伝導材料3の長軸の平均配向角度)が、55°以上90°未満または90°超125°以下の範囲であってもよく、55~125°の範囲であってもよく、70~80°(75±5°)の範囲または100~110°(105±5°)の範囲であってもよく、74~76°の範囲または104~106°の範囲であってもよい。
【0028】
ここで、熱伝導シート1の厚み方向を90°とした場合、熱伝導シート1中の全ての繊維状の熱伝導材料3の長軸の配向方向が90°であると、熱伝導シート1の熱伝導率(バルク熱伝導率)は、より向上する傾向にあるが、熱伝導シート1中で繊維状の熱伝導材料3が柱のようになってしまい、熱伝導シート1の柔軟性が失われやすい傾向にある。一方、熱伝導シート1の厚み方向を90°とした場合、熱伝導シート1中の繊維状の熱伝導材料3の長軸の配向方向が90°未満または90°超であると、熱伝導シート1に圧力がかかった際に、繊維状の熱伝導材料3が倒れやすい傾向にあり、繊維状の熱伝導材料3の長軸の配向方向が90°の場合と比べて熱伝導シート1の柔軟性がより向上する。そして、熱伝導シート1の厚み方向を90°とした場合、熱伝導シート1中の繊維状の熱伝導材料3の長軸の配向方向が55°未満または125°超、すなわち、熱伝導シート1の厚み方向に対して繊維状の熱伝導材料3の長軸を大きく傾けると、熱伝導シート1の熱伝導率が悪化する傾向にある。特に、熱伝導シート1の厚み方向を90°とした場合、繊維状の熱伝導材料3の長軸の平均配向角度が55°以上90°未満または90°超125°以下の範囲であると、熱伝導シート1の熱特性(例えば熱伝導性や熱抵抗値)と柔軟性を両立しやすい傾向にある。
【0029】
熱伝導シート1の厚み方向に所定の角度を有して配向している繊維状の熱伝導材料3は、熱伝導シート1中に存在する全ての繊維状の熱伝導材料3の一部であってもよい。例えば、熱伝導シート1中に存在する全ての繊維状の熱伝導材料3のうち、熱伝導シート1の厚み方向を90°とした場合、長軸の角度が55°以上90°未満または90°超125°以下の範囲である繊維状の熱伝導材料3は、20%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよく、99%以上であってもよい。
【0030】
熱伝導シート1中の繊維状の熱伝導材料3の平均長さは、例えば、熱伝導シート1の厚みに対して75%以上であることが好ましく、85%以上であってもよく、95%以上であってもよく、99%以上であってもよく、100%以上であってもよく、75~120%の範囲であってもよく、85~115%の範囲であってもよく、95~110%の範囲であってもよい。
【0031】
例えば、熱伝導シート1の厚み方向を90°とした場合、繊維状の熱伝導材料3の長軸の平均配向角度が85°以上90°未満であって、繊維状の熱伝導材料3の平均長さが熱伝導シート1の厚みに対して100%以上である熱伝導シート1は、繊維状の熱伝導材料3の長軸が、熱伝導シート1の厚み方向の両面にほぼ貫通する程度の長さを有する。換言すると、このような熱伝導シート1は、例えば
図2に示すように、繊維状の熱伝導材料3の長軸が熱伝導シート1の上面から下面まで途切れずにつながっており、複数の繊維状の熱伝導材料3の長軸が熱伝導シート1の厚み方向に沿って整列している。
【0032】
熱伝導シート1中、繊維状の熱伝導材料3を含むフィラーの含有量の合計は、10~40体積%の範囲である。例えば、繊維状の熱伝導材料3が、式1中の熱伝導率が最も高いフィラーに該当する場合、熱伝導シート1中の繊維状の熱伝導材料3の含有量は、40体積%以下であってもよく、35体積%以下であってもよく、30体積%以下であってもよく、25体積%以下であってもよく、20体積%以下であってもよく、5体積%以上であってもよく、10体積%以上であってもよく、15体積%以上であってもよく、20体積%以上であってもよく、20~30体積%の範囲であってもよく、25~30体積%の範囲であってもよい。2種以上の繊維状の熱伝導材料3を併用する場合、その合計量が上述した含有量を満たすことが好ましい。
【0033】
<バインダ樹脂>
熱伝導シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、60体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、75体積%以上であってもよく、80体積%以上であってもよく、60~90体積%の範囲であってもよく、70~80体積%の範囲であってもよく、70~75体積%の範囲であってもよい。バインダ樹脂2は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上のバインダ樹脂2を併用する場合、その合計量が上述した含有量を満たすことが好ましい。
【0034】
バインダ樹脂2は、繊維状の熱伝導材料3を熱伝導シート1内に保持するためのものである。バインダ樹脂2は、熱伝導シート1に要求される機械的強度、耐熱性、電気的性質等の特性に応じて選択される。バインダ樹脂2としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂の中から選択することができる。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のエチレン-αオレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリフェニレン-エーテル共重合体(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル等のポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマー等が挙げられる。
【0036】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0037】
熱硬化性樹脂としては、架橋ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、付加反応もしくは縮合反応型のシリコーン樹脂等が挙げられる。架橋ゴムの具体例としては、天然ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0038】
バインダ樹脂2としては、例えば、発熱体(例えば電子部品)の発熱面とヒートシンク面との密着性の観点では、シリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂としては、例えば、アルケニル基を有するシリコーン(ポリオルガノシロキサン)を主成分とし、硬化触媒を含む主剤と、ヒドロシリル基(Si-H基)を有する硬化剤とからなる、2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いることができる。アルケニル基を有するシリコーンとしては、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。一例として、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。硬化触媒は、アルケニル基を有するシリコーン中のアルケニル基と、ヒドロシリル基を有する硬化剤中のヒドロシリル基との付加反応を促進するための触媒である。硬化触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられ、例えば、白金族系硬化触媒、例えば白金、ロジウム、パラジウムなどの白金族金属単体や塩化白金、白金と有機化合物の錯体などを用いることができる。ヒドロシリル基を有する硬化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサン(ケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン)を用いることができる。
【0039】
熱伝導シート1は、バインダ樹脂2と繊維状の熱伝導材料3以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。例えば、熱伝導シート1は、繊維状の熱伝導材料3以外の他の熱伝導性フィラーをさらに含んでいてもよい。
【0040】
熱伝導シート1は、例えば、バインダ樹脂2と、繊維状の熱伝導材料3としての炭素繊維とからなる場合であって、以下の条件1~5を満たしていてもよい。
条件1:炭素繊維の熱伝導率が300~500W/m・K、好ましくは500W/m・K程度である。
条件2:炭素繊維の含有量が10~40体積%、好ましくは20~30体積%である。
条件3:バインダ樹脂2の含有量が60~90体積%、好ましくは70~80体積%である。
条件4:熱伝導シート1の厚みが2mmの場合に、炭素繊維の長軸の平均長さが、熱伝導シート1の厚みに対して85~125%、好ましくは90~110%程度である。
条件5:熱伝導シート1の厚み方向を90°とした場合、炭素繊維の長軸の平均配向角度が85~90°の範囲である。
【0041】
このような熱伝導シート1は、炭素繊維の長軸が熱伝導シート1の厚み方向の両面にほぼ貫通する程度の長さを有するため、熱伝導シート1の厚み方向のバルク熱伝導率を100W/m・K以上とすることが可能である。また、このような熱伝導シート1は、炭素繊維の長軸が熱伝導シート1の厚み方向の両面にほぼ貫通する程度の長さを有するため、例えば
図2に示す発熱体4に密着させた状態で圧力を加えた場合に炭素繊維の配向が崩れにくい。
【0042】
一方、従来の熱伝導シート、例えば、特許第6978148号に記載の熱伝導シートは、シリコーン樹脂と熱伝導性充填材とを含む複数の単位層を備え、かつ複数の単位層が互いに接着するように積層されている。この従来の熱伝導シートは、熱伝導性充填材として長繊維のものが使用されていないため、条件1~5を満たす熱伝導シート1と比べて、熱性能(例えば熱伝導性や熱抵抗値)が劣ると考えられる。また、この従来の熱伝導シートは、圧縮性を単位層の樹脂比率等で制御しているため、条件1~5を満たす熱伝導シート1のように熱性能を良好にすることが難しいと考えられる。
【0043】
<熱伝導シートの第2の実施の形態>
第2の実施の形態に係る熱伝導シートは、バインダ樹脂と、繊維状の熱伝導材料とを含み、繊維状の熱伝導材料の少なくとも一部が、熱伝導シートの厚み方向に所定の角度を有して配向しており、繊維状の熱伝導材料の平均長さが、熱伝導シートの厚みより大である。
【0044】
繊維状の熱伝導材料の平均長さ、すなわち、繊維状の熱伝導材料の長軸の平均長さが、熱伝導シートの厚みより大であるとは、例えば、ある繊維状の熱伝導材料の長軸が熱伝導シートの厚み方向の両面に貫通する程度の長さを有することをいう。繊維状の熱伝導材料の長軸の平均長さが、熱伝導シートの厚みより大であることにより、例えば、熱伝導シートの厚み方向において、繊維状の熱伝導材料の長軸の間にバインダ樹脂が介在しにくくなり、バインダ樹脂を経由することに起因する熱伝導ロスをより抑制でき、繊維状の熱伝導材料の熱伝導率をより効果的に発揮できる。したがって、熱伝導シートにおいて、繊維状の熱伝導材料の少なくとも一部が熱伝導シートの厚み方向に所定の角度を有して配向しており、繊維状の熱伝導材料の平均長さが熱伝導シートの厚みより大であることにより、熱伝導性を良好とし、熱抵抗値を小さくできる。
【0045】
また、第2の実施の形態に係る熱伝導シートは、例えば、従来の熱伝導シート(炭素繊維を使用した熱伝導シート)のように繊維状の熱伝導材料(炭素繊維)を高充填しなくても、熱伝導性を良好とし、熱抵抗値を小さくできる。このように、第2の実施の形態に係る熱伝導シートは、第1の実施の形態に係る熱伝導シートと同様に、繊維状の熱伝導材料の高熱伝導性を活かした、Bruggemanの式に従わない熱伝導シートとすることができる。
【0046】
<熱伝導シートの第2の実施の形態の一態様>
図3は、繊維状の熱伝導材料12が、複数の繊維状の熱伝導材料12が配列した配列シート14,15,16中に存在し、各配列シート14,15,16中で熱伝導シート10の厚み方向に配向している熱伝導シート10の一例を示す斜視図である。第2の実施の形態に係る熱伝導シートの一態様である熱伝導シート10は、例えば
図3に示すように、第1のバインダ樹脂11と、繊維状の熱伝導材料12とを含み、繊維状の熱伝導材料12の少なくとも一部が、熱伝導シート10の厚み方向(z軸方向)に所定の角度を有して配向しており、繊維状の熱伝導材料12の長軸の平均長さが熱伝導シート10の厚みより大であり、繊維状の熱伝導材料12が、複数の繊維状の熱伝導材料12が配列した配列シート14,15,16(以下、単に配列シート14,15,16などという)中に配列されている。ここで、第1のバインダ樹脂11は、繊維状の熱伝導材料12を固定するためのものであり、上述したバインダ樹脂2と同義である。また、繊維状の熱伝導材料12は、上述した繊維状の熱伝導材料3と同義である。
【0047】
このように、熱伝導シート10中の繊維状の熱伝導材料12が、複数の配列シート14,15,16中に設けられており、少なくとも一部の繊維状の熱伝導材料12の長軸が熱伝導シート10の厚み方向に所定の角度を有して配向することにより、上述した良好な熱特性に加えて、熱伝導シート10の圧縮性と応力性(復元性)がより効果的に保持されるため、熱伝導シート10の復元性と安定した熱特性を両立させることができる。
【0048】
図4は、繊維状の熱伝導材料12が配列した配列シート14の一例を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は平面図であり、(C)は斜視図である。
図5は、繊維状の熱伝導材料12が配列した配列シート15の一例を示す斜視図である。
図6は、繊維状の熱伝導材料12が配列した配列シート16の一例を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は平面図であり、(C)は斜視図である。
【0049】
配列シート14,15,16は、例えば
図4~6に示すように、繊維状の熱伝導材料12が、第2のバインダ樹脂13に挟持されている。第2のバインダ樹脂13は、繊維状の熱伝導材料12を固定するためのものであり、第1のバインダ樹脂11とは異なる樹脂であってもよいし、第1のバインダ樹脂11と同一の樹脂であってもよい。
【0050】
図4に示す配列シート14や
図5に示す配列シート15において、繊維状の熱伝導材料12が、繊維状の熱伝導材料12の長軸方向と交差する方向(配列方向)に配列し、その配列方向と交差する方向に繊維状の熱伝導材料12の長軸が所定の角度を有し、繊維状の熱伝導材料12の長軸の平均長さが配列シート14,15の厚みより大である。なお、
図4に示す配列シート14と、
図5に示す配列シート15とでは、繊維状の熱伝導材料12の長軸の角度が異なる。
【0051】
繊維状の熱伝導材料12が配列した配列シートが、
図6(A)~(C)に示す配列シート16のようにシート状である場合、繊維状の熱伝導材料12が、繊維状の熱伝導材料12の長軸方向と交差する方向に配列し、その配列方向と交差する方向と繊維状の熱伝導材料12の長軸方向がほぼ平行であり、繊維状の熱伝導材料12の長軸の長さが配列シート16の厚みとほぼ同じであってもよい。
【0052】
繊維状の熱伝導材料12が配列した配列シートのサイズは、例えば
図6に示す配列シート16を例に挙げると、
図6(A)中、繊維状の熱伝導材料12の配列方向の長さLが200~300mm程度、繊維状の熱伝導材料12の長軸方向に相当する厚みDが1~5mm程度、
図6(B)中、繊維状の熱伝導材料12の短軸方向に相当する幅Wが10~30μm程度である。
図4(A)~(C)に示す配列シート14や
図5に示す配列シート15についても、
図6に示す配列シート16と同様のサイズとすることができる。
【0053】
熱伝導シート10は、例えば
図3に示すように、各配列シート14,15,16がx軸方向に沿って列をなして配列しており、各配列シート14,15,16を構成する複数の繊維状の熱伝導材料12が、x軸方向に交差するy軸方向に沿って列をなしている。
【0054】
熱伝導シート10中、配列シート14,15,16を構成する各繊維状の熱伝導材料12は、熱伝導シート10の厚み方向の表裏に貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。換言すると、配列シート14,15,16を構成する各繊維状の熱伝導材料12が、熱伝導シート10の表面から突出していてもよいし、突出していなくてもよい。
【0055】
熱伝導シート10中、配列シート14,15,16を構成する各繊維状の熱伝導材料12は、熱伝導シート10を構成する第1のバインダ樹脂11と表面を面一に構成していてもよい。また、熱伝導シート10は、一方の表面と他方の表面とで繊維状の熱伝導材料12の突出状態が異なっていてもよく、例えば、一方の表面において繊維状の熱伝導材料12が突出し、他方の表面において繊維状の熱伝導材料12が突出していなくてもよい。
【0056】
図7は、繊維状の熱伝導材料12が、複数の繊維状の熱伝導材料12が配列した配列シート16中に存在し、各配列シート16中で熱伝導シート20の厚み方向に配向している熱伝導シート20の一例を示す斜視図である。繊維状の熱伝導材料が配列した配列シートは、
図3に示すように、
図4に示す配列シート14と
図5に示す配列シート15と
図6に示す配列シート16との組み合わせであってもよいし、
図7に示すように、
図6に示す配列シート16のみで構成されていてもよい。
【0057】
図3に示すように、熱伝導シート10は、複数の配列シート14,15,16における繊維状の熱伝導材料12のうち、少なくとも一部の配列シート14,15,16における繊維状の熱伝導材料12が、熱伝導シート10の厚み方向に対して傾斜しており、その傾斜方向が配列シート14,15,16ごとに異なっていてもよい。
【0058】
熱伝導シートが、
図4に示す配列シート14および
図5に示す配列シート15の少なくとも1種で構成される場合、配列シート14,15を構成する各繊維状の熱伝導材料12が、熱伝導シートの厚み方向に対して傾斜していてもよいし、配列シート14,15を構成する各繊維状の熱伝導材料12が、熱伝導シートの厚み方向に対して傾斜していなくてもよい。
【0059】
図7に示す熱伝導シート20のように、熱伝導材料が配列した配列シートが
図6に示す配列シート16のみで構成される場合、配列シート16における繊維状の熱伝導材料12が熱伝導シート20の厚み方向に対して傾斜しており、その傾斜方向が一方向であってもよい。
【0060】
熱伝導シート10,20中、繊維状の熱伝導材料12の含有量は、上述した熱伝導シート1中の繊維状の熱伝導材料3の含有量と同様とすることができる。2種以上の繊維状の熱伝導材料12を併用する場合、その合計量が上述した含有量を満たすことが好ましい。
【0061】
熱伝導シート10,20は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した第1のバインダ樹脂11及び繊維状の熱伝導材料12以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、繊維状の熱伝導材料12以外の他の熱伝導性の無機フィラーや、酸化防止剤、金属不活性化剤などの添加剤が挙げられる。
【0062】
熱伝導シート10の熱特性(例えばバルク熱伝導率)は、第1の実施の形態に係る熱伝導シートで説明した式1に於けるバルク熱伝導率Zの算出方法にて算出することができる。
【0063】
<熱伝導シートの第2の実施の形態の一態様>
図8は、少なくとも一部のシート状の熱伝導材料31の面方向が熱伝導シート30の厚み方向に対して傾斜しており、熱伝導シート30の厚み方向におけるシート状の熱伝導材料31の平均長さが、熱伝導シート30の厚みより大である熱伝導率シート30の一例を示す斜視図である。熱伝導シート30は、
図8に示すように、第1のバインダ樹脂11と、シート状の熱伝導材料31とを含み、少なくとも一部のシート状の熱伝導材料31の面方向が熱伝導シート30の厚み方向に対して傾斜しており、熱伝導シート30の厚み方向におけるシート状の熱伝導材料31の平均長さが熱伝導シート30の厚みより大である。シート状の熱伝導材料31としては、熱伝導異方性を有するシート状の熱伝導材料が好ましく、例えばシート状のグラファイトが挙げられる。シート状のグラファイトとしては、膨張黒鉛を圧延してシート状としたものや、ポリイミドやポリオキサジアゾール等の高分子フィルムを熱処理して得られたものが挙げられる。特に、シート状のグラファイトとしては、熱伝導シートにかかる荷重などに対してシート状の形態が崩れにくいことから、高分子フィルムを熱処理して得られたシート状のグラファイトが好ましい。シート状の熱伝導材料31のサイズは、例えば、上述した
図6に示す配列シート16と同様のサイズとすることができる。
【0064】
シート状の熱伝導材料31の平均長さが、熱伝導シート30の厚みより大であるとは、例えば、あるシート状の熱伝導材料31が、熱伝導シート30の厚み方向の両面に貫通する程度の長さを有することをいう。この具体例のように、少なくとも一部のシート状の熱伝導材料31の面方向が熱伝導シート30の厚み方向に対して傾斜しており、シート状の熱伝導材料31の平均長さが、熱伝導シート30の厚みより大であることにより、熱伝導シート30の厚み方向において、シート状の熱伝導材料31間に第1のバインダ樹脂11が介在せず、第1のバインダ樹脂11を経由することに起因する熱伝導ロスを抑制でき、シート状の熱伝導材料31の熱伝導率をより効果的に発揮できる。したがって、熱伝導シート30は、熱伝導性が良好であり、熱抵抗値も小さくできる。
【0065】
図8に示す熱伝導シート30は、各シート状の熱伝導材料31の長辺がy軸方向に沿っており、各シート状の熱伝導材料31の幅がx軸方向に沿っている。シート状の熱伝導材料31の長さとは、熱伝導シートの厚み方向に沿う辺の長さであり、z軸方向に相当する。
【0066】
熱伝導シート30中、シート状の熱伝導材料31の含有量は、上述した熱伝導シート1中の繊維状の熱伝導材料3の含有量と同様とすることができる。2種以上のシート状の熱伝導材料31を併用する場合、その合計量が上述した含有量を満たすことが好ましい。
【0067】
<熱伝導シートの製造方法の第1の実施の形態>
熱伝導シートの製造方法の一態様は、以下の工程A1~A5を有する。
工程A1:繊維状の熱伝導材料の束を第1の樹脂シート上に開繊する工程;
工程A2:繊維状の熱伝導材料の束が開繊されてなる複数の繊維状の熱伝導材料を挟むように、第1の樹脂シートと第2の樹脂シートとを熱融着し、開繊シートを得る工程;
工程A3:開繊シートを所定の幅で切断し、開繊シート切片を得る工程;
工程A4:開繊シート切片を積層し積層体を得る工程、または、開繊シート切片を巻回した巻回体を形成する工程;
工程A5:開繊シート切片の樹脂を溶解または溶融し、積層体または巻回体の接触面を一体化させる工程。
【0068】
ところで、例えば特許5953160号に記載された、繊維状熱伝導性充填材が熱伝導性成形体の厚み方向に配向されたシート状の熱伝導性成形体の製造方法は、繊維状熱伝導性充填材の配向方向が同じになるように複数の多孔質シートを積層した後、熱プレスにより溶融固着させて積層ブロックを形成する工程と、繊維状熱伝導性充填材の配向方向と直交する方向に積層ブロックを切断してシート状の熱伝導性成形体を得る工程とを備える。
【0069】
しかし、上述の従来の製造方法では、繊維が高充填された積層ブロックが強靭なため、積層ブロックを切断するには、ハイパワーの特殊な装置が必要となる。また、上述の従来の製造方法では、シート状の熱伝導性成形体を大面積化するのに限度があり高コストとなる。さらに、上述の従来の製造方法では、スライスした面(積層ブロックの切断面)が、せん断シェアによって荒れてしまい、得られるシート状の熱伝導性成形体の接触熱抵抗が高くなってしまうおそれがある。
【0070】
一方、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法によれば、開繊シート切片の樹脂を溶解または溶融し、積層体または巻回体の接触面を一体化させることで、熱伝導シートの厚み方向に繊維状の熱伝導材料の長軸が整列した熱伝導シートが得られる。このように、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法によれば、上述したシート状の熱伝導性成形体の製造方法のように、積層ブロックを形成した後に積層ブロックを切断する工程を行うことなく、熱伝導シートの厚み方向に繊維状の熱伝導材料の長軸が整列した熱伝導シートを得ることができる。
【0071】
工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法によれば、積層ブロックを切断するための特殊な装置が不要となり、従来の製造方法と比べて熱伝導シートを大面積化するのに自由度が大きくなり、従来の製造方法のように積層ブロックを切断することに起因した接触熱抵抗の上昇を抑制できる。
【0072】
また、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法では、上述したシート状の熱伝導性成形体の製造方法のように、積層ブロックを形成した後に積層ブロックを切断する工程が不要となるため、コストとエンジニアリングスピードを両立させることができる。
【0073】
また、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法によれば、開繊シート切片の樹脂を溶解または溶融させて、積層体または巻回体の接触面を一体化させるため、得られた熱伝導シートが、熱源に密着させるための面圧にも十分に耐えうる強度を有することができる。
【0074】
また、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法によれば、製造工程の途中でバインダ樹脂を追加する必要がないため、熱伝導シート中の繊維状の熱伝導材料の比率が下がることに起因した熱特性の悪化を防止できる。
【0075】
<工程A1>
図9は、熱伝導シートの製造方法の一例を説明するための図であり、(A)は繊維状の熱伝導材料の束を第1の樹脂シート上に開繊する工程の一例を説明するための斜視図であり、(B)は開繊シートの一例を示す断面図であり、(C)は開繊シート切片の一例を示す断面図であり、(D)は開繊シート切片中の繊維状の熱伝導材料の長さ方向が立つように並べて整列させた整列シートの一例を示す斜視図であり、(E)は開繊シートの切片を巻回した巻回体の一例を示す斜視図である。
【0076】
工程A1では、
図9(A)に示すように、繊維状の熱伝導材料の束の一例である炭素繊維束40を第1の樹脂シート41上に開繊する。例えば、工程A5で開繊シート切片43Aの樹脂を溶剤で溶解する場合、第1の樹脂シート41として、溶剤に可溶な熱可塑性樹脂を用いた薄膜を剥離フィルムに塗布した熱可塑性樹脂層を用いることができる。例えば、溶剤に可溶な熱可塑性樹脂としては、EVA(製品名:レバプレン800)が挙げられる。また、例えば、工程A5で開繊シート切片43Aの樹脂を熱で溶融する場合、第1の樹脂シート41として、軟化点が100℃以下の熱可塑性樹脂の薄膜を剥離フィルムに塗布した熱可塑性樹脂層を用いることができる。軟化点が100℃以下の熱可塑性樹脂は、例えば取扱性の観点では、ガラス転移点が常温以下であり、微タック性を有することが好ましい。軟化点が100℃以下であり、ガラス転移点が常温以下である熱可塑性樹脂の例としては、LA3320(クラレ社製、nBA-MMAコポリマー、Tg:-30℃)などのアクリル系の樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂を用いた薄膜の厚みは、例えば15~80μm程度とすることができる。
【0077】
工程A1では、例えば、炭素繊維束40を幅広く薄くなるまでほぐして、第1の樹脂シート41上に並べる。炭素繊維束40としては、例えば炭素繊維のヤーンを用いることができる。炭素繊維束40を幅広く薄くなるまでほぐすとは、例えば、直径10μmの繊維が12000本からなる束を、均一な厚さで幅10cmになるまで炭素繊維束40を開繊することをいう。
【0078】
<工程A2>
工程A2では、炭素繊維束40が開繊されてなる複数の炭素繊維44を挟むように、第1の樹脂シート41と第2の樹脂シート42とを熱融着し、開繊シート43を得る。工程A2では、例えば、工程A1で開繊された炭素繊維束40を第1の樹脂シート41と第2の樹脂シート42とで挟んだ積層体を得る。次に、この積層体に熱を加えて、第1の樹脂シート41や第2の樹脂シート42を構成する樹脂を炭素繊維44に含浸させるとともに、第1の樹脂シート41と第2の樹脂シート42を融着させる。これにより、工程A2では、
図9(B)に示すように、ほぼ一方向に整列した複数の炭素繊維44を挟むように、第1の樹脂シート41と第2の樹脂シート42とが一体化された開繊シート43が得られる。
【0079】
<工程A3>
工程A3では、開繊シート43を所定の長さで切断し、開繊シート切片43Aを得る。工程A3では、工程A2で得られた開繊シート43を、開繊シート43中の炭素繊維44を裁断する方向に所定の長さで切断して、例えば
図9(C)に示すような開繊シート切片43A、換言すると開繊シート43の短冊を得る。開繊シート43を切断する長さ(開繊シート切片43Aの長さT)は、所望とする熱伝導シートの厚みに近い長さとすればよい。
【0080】
<工程A4>
工程A4では、開繊シート切片43Aを積層した積層体45を得るか、開繊シート切片43Aを巻回した巻回体46を形成する。工程A4で積層体45を得る場合、
図9(D)に示すように、開繊シート切片43A中の炭素繊維44の長さ方向が立つように並べて整列させた整列シートとする。また、工程A4で開繊シート切片43Aを巻回した巻回体46を形成する場合、例えば
図9(E)に示すように、開繊シート切片43Aを炭素繊維44の配列方向に巻回した巻回体46を準備する。積層体45や巻回体46を形成した際、積層体45や巻回体46を構成する樹脂(第1の樹脂シート41および第2の樹脂シート42を構成する樹脂(もしくは開繊シート43))のタックにより、暫定的に形状を維持できるが、必要に応じて、積層体45や巻回体46の形成時(開繊シート切片43Aの整列時)に、より大きなタックが発現するように熱を加えてもよい。
【0081】
<工程A5>
工程A5では、開繊シート切片43Aの樹脂(積層体45や巻回体46を構成する樹脂)を溶解または溶融することで、積層体45または巻回体46の接触面(整列させた複数の開繊シート切片43A同士)を一体化させる。この工程A5により、十分に強固な熱伝導シートが得られる。例えば、工程A5で開繊シート切片43Aの樹脂を溶解させる場合、積層体45または巻回体46を構成する樹脂を溶解可能な溶剤を用いて樹脂を部分的に溶解させ、溶剤を熱や風で乾燥させることで、積層体45や巻回体46の接触面をより一体化できる。また、工程A5で開繊シート切片43Aの樹脂を溶融させる場合、積層体45や巻回体46を構成する熱可塑性樹脂に、この熱可塑性樹脂の軟化点以上の熱を加えて軟化させ、開繊シート切片43A同士を部分的に融着させることで、積層体45や巻回体46の接触面をより一体化させることができる。工程A5で開繊シート切片43Aの樹脂を溶融させる場合、例えば、オーブン、オートクレーブ、真空オーブンなどを用いて樹脂を溶融することができる。
【0082】
工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法では、積層体45または巻回体46の接触面が一体化された熱伝導シートの表面を研磨してもよいし、単板熱プレス等により平滑化してもよい。
【0083】
また、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法では、積層体45または巻回体46の接触面が一体化された熱伝導シートにおいて、炭素繊維44が熱伝導シート中の厚み方向に貫通した構造としてもよい。この場合、工程A1で炭素繊維束40を第1の樹脂シート41上に開繊する際に、炭素繊維44が熱伝導シートの厚み方向に所定の角度を有して配向し、炭素繊維44の長さが熱伝導シートの厚みより大となるようにすればよい。これにより、上述した第1の実施の形態に係る熱伝導シートや、第2の実施の形態に係る熱伝導シート10,20を得ることができる。
【0084】
なお、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法では、工程A1で第1の樹脂シート41上に開繊された炭素繊維44の形状維持ができる場合は、工程A2において第1の樹脂シート41と第2の樹脂シート42とを熱融着しなくてもよい。また、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法では、炭素繊維束44を用いることを前提としたが、炭素繊維束44以外の繊維状の熱伝導材料12の束を用いてもよい。
【0085】
<熱伝導シートの製造方法の第2の実施の形態>
熱伝導シートの製造方法の一態様は、以下の工程B1~B5を有する。
工程B1:繊維状の熱伝導材料の束を第1の樹脂シート上に開繊する工程;
工程B2:繊維状の熱伝導材料の束が開繊されてなる複数の繊維状の熱伝導材料を挟むように、第1の樹脂シートと第2の樹脂シートとを熱融着し、開繊シートを得る工程;
工程B3:開繊シートを所定の幅で切断し、開繊シート切片を得る工程;
工程B4:開繊シート切片を配列する工程;
工程B5:配列した開繊シート切片をバインダ樹脂に埋め込む工程。
【0086】
工程B1~B5を有する熱伝導シートの製造方法において、工程B1~B3は、上述した工程A1~A3と同様であり、その詳細な説明を省略する。
【0087】
工程B4では、開繊シート切片43Aを配列する。例えば、工程B4では、工程B3で得られた開繊シート切片43Aの炭素繊維44の長軸方向が揃うように、開繊シート切片43Aを所定の間隔で配列させる。例えば、開繊シート切片43Aが
図4,5に示す配列シート14,15である場合、
図3に示す熱伝導シート10のように、少なくとも一部の開繊シート切片43Aにおける炭素繊維44の長軸が、熱伝導シートの厚み方向(z軸方向)に対して傾斜するように開繊シート切片43Aを配列してもよいし、炭素繊維44の長軸が熱伝導シートの厚み方向にほぼ平行となるように開繊シート切片43Aを配列してもよい。また、開繊シート切片43Aが
図6に示す配列シート16である場合、
図7に示す熱伝導シート20のように、少なくとも一部の開繊シート切片43Aにおける炭素繊維44の長軸が、熱伝導シートの厚み方向(z軸方向)に対して傾斜するように開繊シート切片43Aを配列してもよいし、炭素繊維44の長軸が熱伝導シートの厚み方向にほぼ平行となるように開繊シート切片43Aを配列してもよい。
【0088】
工程B5では、工程B4で配列した開繊シート切片43Aをバインダ樹脂に埋め込む。開繊シート切片43Aが
図4,5に示す配列シート14,15である場合、開繊シート切片43Aを第1のバインダ樹脂11に埋め込むことにより、
図3に示すような熱伝導シート10が得られる。また、開繊シート切片43Aが
図6に示す配列シート16である場合、開繊シート切片43Aを第1のバインダ樹脂11に埋め込むことにより、
図7に示すような熱伝導シート20が得られる。なお、工程B5では、後述する工程C1、C2を有する熱伝導シートの製造方法の工程C2と同様に、炭素繊維支持シート50上に立てられた開繊シート切片43Aをバインダ樹脂11で含浸させるようにしてもよい。
【0089】
このような工程B1~B5を有する熱伝導シートの製造方法では、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法と同様に、上述した第1の実施の形態に係る熱伝導シートや、第2の実施の形態に係る熱伝導シート10,20を得ることができる。
【0090】
なお、工程B1~B5を有する熱伝導シートの製造方法でも、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法と同様に、炭素繊維束44以外の繊維状の熱伝導材料12の束を用いてもよい。
【0091】
<熱伝導シートの製造方法の第3の実施の形態>
熱伝導シートの製造方法の一態様は、以下の工程C1、C2を有する。
工程C1:炭素繊維支持シート上に、炭素繊維が配列を形成するように、炭素繊維を炭素繊維支持シートの面に対して所定の角度で立てる工程;
工程C2:配列をバインダ樹脂で含浸する工程。
【0092】
<工程C1>
図10は、炭素繊維支持シート50上に、炭素繊維が配列51を形成するように、炭素繊維の長軸を炭素繊維支持シート50の面に対して所定の角度で立てる工程の一例を説明するための断面図である。工程C1で用いる炭素繊維支持シート50は、炭素繊維が配列51を形成するように、炭素繊維を炭素繊維支持シート50の面に対して所定の角度で立てることが可能なものであれば特に限定されない。例えば、炭素繊維支持シート50としては、レンズフィルムのように、表面に凹凸を有するシートを用いることができる。このような表面に凹凸を有する炭素繊維支持シート50において、
図10に示すように、凹部50Aの底面に粘着剤52を配置し、炭素繊維の長軸が所定の角度で立ちやすくなるようにしてもよい。配列51は、例えば炭素繊維が線状(ライン状)に配列されており、具体例として、
図10中の奥行方向から手前方向にわたって、炭素繊維の長軸が、炭素繊維支持シート50の面に対して所定の角度で立つように線状に配列されている。なお、本実施形態は、炭素繊維を用いた場合であるが、炭素繊維を前述の繊維状の熱伝導材料に置き換えることも可能である。
【0093】
工程C1では、例えば、配列51の形成のために、
図4~6に示す配列シート14,15,16を、表面に凹凸を有する炭素繊維支持シート50の凹部50Aに配置してもよい。これにより、配列51を構成する炭素繊維の長軸を炭素繊維支持シート50の面に対して所定の角度で立てることができる。
【0094】
配列51の形成のために、
図4,5に示す配列シート14,15を用いる場合、
図10中の破線Aで囲まれた領域のように、炭素繊維支持シート50の底面に対してほぼ垂直となるように、換言すると、配列51を構成する炭素繊維の長軸が、炭素繊維支持シート50の厚み方向とほぼ平行となるように配置してもよい。また、配列51の形成のために、
図4,5に示す配列シート14,15を用いる場合、
図10中の破線Bで囲まれた領域のように、配列51を構成する炭素繊維の長軸が炭素繊維支持シート50の厚み方向に対して傾斜するように配置してもよい。
【0095】
配列51の形成のために、
図6に示す配列シート16を用いる場合、
図10中の破線Bで囲まれた領域のように、配列51を構成する炭素繊維の長軸が炭素繊維支持シート50の厚み方向に対して傾斜するように配置してもよい。また、配列51の形成のために、
図6に示す配列シート16を用いる場合、配列51を構成する炭素繊維の長軸が、
図10中の奥行方向か手前方向に傾斜するように配列51を形成してもよい。配列51として、
図4~6に示す配列シート14,15,16を用いる場合、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0096】
<工程C2>
図11は、配列51をバインダ樹脂53で含浸する工程の一例を説明するための断面図である。換言すると、この工程C2では、炭素繊維支持シート50上に立てられた配列51を構成する炭素繊維をバインダ樹脂53で含浸する。工程C2では、例えば
図11に示すように、炭素繊維支持シート50上に配置された配列51がバインダ樹脂53で覆われるように、バインダ樹脂53を塗布する。工程C2では、バインダ樹脂53を塗布した後に、バインダ樹脂53上にカバーフィルム56を配置してもよい。例えば
図11に示すように、コンマロール54とバックロール55との間に、炭素繊維支持シート50上に配置された配列51をMD方向に搬送することにより、バインダ樹脂53上にカバーフィルム56を配置する際に、バインダ樹脂53の厚みを一定とするとともに、配列51を構成する炭素繊維の傾斜角度を、炭素繊維支持シート50の凹凸の形状に沿うように調整できる。
【0097】
図12は、炭素繊維支持シート50があった部分にバインダ樹脂57を塗布し、塗布したバインダ樹脂57上にカバーフィルム58を配置する工程の一例を説明するための断面図である。工程C1、C2を有する熱伝導シートの製造方法は、
図12に示すように、工程C2の後に、炭素繊維支持シート50をバインダ樹脂53から剥離し、炭素繊維支持シート50があった部分の凹部Vにバインダ樹脂57を塗布し、バインダ樹脂57上にカバーフィルム58を配置する工程C3をさらに有してもよい。工程C3で用いるバインダ樹脂57は、工程C2で用いるバインダ樹脂53と同一であってもよいし、異なっていてもよい。なお、工程C2で得られた、炭素繊維支持シート50上に配置された配列51がバインダ樹脂53で覆われた状態でも支障がない場合は、工程C2の後に、炭素繊維支持シート50を剥離しなくてもよい。
【0098】
<熱伝導シートの製造方法の第4の実施の形態>
上述した熱伝導シート30は、例えば、工程C1、C2を有する熱伝導シートの製造方法の工程C1において、炭素繊維支持シート50上に、シート状の熱伝導材料31を所定の角度で立て、工程C2において、シート状の熱伝導材料31をバインダ樹脂53で含浸することにより得ることができる。
【0099】
<電子機器>
本技術に係る熱伝導シートは、例えば、発熱体と放熱体との間に配置させることにより、発熱体で生じた熱を放熱体に逃がすためにそれらの間に配された構造の電子機器(サーマルデバイス)とすることができる。電子機器は、発熱体と放熱体と熱伝導シートとを少なくとも有し、必要に応じて、その他の部材をさらに有していてもよい。このように、熱伝導シートを適用した電子機器は、発熱体と放熱体との間に熱伝導シートが挟持されているため、熱伝導シートにより高熱伝導性を実現しつつ、発熱体への熱伝導シートの密着性に優れ、熱伝導シートからのバインダ樹脂の過剰なブリードを抑制できる。
【0100】
発熱体としては、特に限定されず、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱体には、通信機器における光トランシーバ等の光信号を受信する部品も含まれる。また、発熱体は、単一の集積回路素子や電子部品等に限定されず、回路上の複数の集積回路素子や電子部品上に単一の熱伝導シートを配置してもよい。
【0101】
放熱体としては、特に限定されず、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバ筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。ヒートシンクやヒートスプレッダの材質としては、例えば、銅、アルミニウムなどが挙げられる。放熱体としては、ヒートスプレッダやヒートシンク以外にも、熱源から発生する熱を伝導して外部に放散させるものであればよく、例えば、放熱器、冷却器、ダイパッド、プリント基板、冷却ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、ベーパーチャンバー、金属カバー、筐体等が挙げられる。ヒートパイプは、例えば、円筒状、略円筒状又は扁平筒状の中空構造体である。
【0102】
図13は、熱伝導シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。例えば、熱伝導シート1は、
図13に示すように、各種電子機器に内蔵される半導体装置60に実装され、発熱体と放熱体との間に挟持される。なお、熱伝導シート1は、上述した熱伝導シート1,10,20,30を包含する。
図13に示す半導体装置60は、電子部品61と、ヒートスプレッダ62と、熱伝導シート1とを備え、熱伝導シート1がヒートスプレッダ62と電子部品61との間に挟持される。また、熱伝導シート1が、ヒートスプレッダ62とヒートシンク63との間に挟持されることにより、ヒートスプレッダ62とともに、電子部品61の熱を放熱する放熱部材を構成する。熱伝導シート1の実装場所は、ヒートスプレッダ62と電子部品61との間や、ヒートスプレッダ62とヒートシンク63との間に限らず、電子機器や半導体装置の構成に応じて、適宜選択できる。ヒートスプレッダ62は、例えば方形板状に形成され、電子部品61と対峙する主面62aと、主面62aの外周に沿って立設された側壁62bとを有する。ヒートスプレッダ62は、側壁62bに囲まれた主面62aに熱伝導シート1が設けられ、主面62aと反対側の他面62cに熱伝導シート1を介してヒートシンク63が設けられる。
【実施例0103】
以下、本技術の実施例について説明する。なお、本技術は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
<熱伝導シートの実験例>
まず、上述した熱伝導シートの第1の実施の形態、すなわち、バインダ樹脂としてのシリコーン樹脂と、繊維状の熱伝導材料としての炭素繊維とからなり、炭素繊維の含有量が10~40体積%であり、シリコーン樹脂の含有量が60~90体積%であり、式1を満たす熱伝導シートに関する実験例を示す。
【0105】
熱特性の測定としては、1mm、2mm、3mmの各厚みのシート状サンプルを作製した。このシート状サンプルを直径20mmの大きさに打ち抜き、荷重0.5kgf/cm2~5kgf/cm2の間で0.5kgf/cm2刻みで熱抵抗を測定し、さらに熱抵抗測定時の圧縮厚みも測定した。各々の厚みのシート状サンプルの、測定時の圧縮厚みを横軸、得られた熱抵抗値を縦軸として、グラフにプロットしてその関係を一次関数として得たうえで、一次関数の傾きの逆数をバルク熱伝導率とした。プロットに採用した熱抵抗値と圧縮厚みは、荷重を変えて測定した熱抵抗値のうち、最も低い熱抵抗値と、その時の圧縮厚みである。熱抵抗測定時には、シート状サンプルの圧縮状態が安定するように、200秒の時間を取った。また、熱抵抗測定と同時に熱伝導率も得た。この時の熱伝導率は、シート状サンプル表裏の界面における接触熱抵抗の影響も含み、実効熱伝導率とした。
【0106】
実験例1-1~1-3,1-7におけるフィラーの充填率(体積%)は、体積を規定したサンプルを窒素雰囲気下で20℃/分の昇温速度で1000℃に加熱することで、バインダ樹脂(シリコーン樹脂)のみを焼き飛ばし、その灰分から炭素繊維の体積を計算することで規定した。また、実験例1-4~1-6,1-8については、配合時の重量から、フィラーの体積比率を逆算した。結果を表1に示す。
【0107】
[実験例1-1]
4cm×4cm×長さ15cmの直方体の金型の長軸と同じ長さに合わせて、熱伝導率500W/m・Kの炭素繊維を切断し、炭素繊維の長軸を金型の長軸方向に配向させた状態で炭素繊維を金型に入れた。その上に、2液付加硬化型のシリコーン樹脂を加え、真空脱泡を行い、加圧状態で80℃、4時間加熱することでシリコーン樹脂と炭素繊維との混合物を硬化させた。硬化後の直方体のサンプルを、長軸方向に対して直交した方向に1mm、2mm厚または3mm厚に超音波スライサーで切断した。切断したシート状のサンプルの両面を、ラッピングフィルム(1000番および3000番)で表面研磨を行った。
【0108】
実験例1-1で得られたシート状のサンプルは、厚み方向を90°とした場合、炭素繊維の長軸の平均配向角度が85~90°であり、炭素繊維の平均長さがシート状のサンプルの厚みに対して100%であった。例えば、実験例1で得られたシート状のサンプルの厚みが2mmの場合、炭素繊維の平均長さが2000μm(2mm)であった。
【0109】
また、実験例1-1で得られたシート状のサンプルは、式1の右辺の値、すなわち、バルク熱伝導率が100W/m・Kであり、式1の左辺の値(X×Y/100×0.5=62.5)よりも大きく、式1を満たすことが分かった。
【0110】
[実験例1-2]
実験例1-2では、実験例1における硬化後の直方体のサンプルを長軸方向に約75°に傾けた状態で、超音波スライサーで切断したこと以外は、実験例1-1と同様にシート状のサンプルを準備した。
【0111】
実験例1-2で得られたシート状のサンプルは、厚み方向を90°とした場合、炭素繊維の長軸の平均配向角度が75±5°であり、炭素繊維の平均長さがシート状のサンプルの厚みに対して100%であった。例えば、実験例2で得られたシート状のサンプルの厚みが2mmの場合、炭素繊維の平均長さが2000μm(2mm)であった。
【0112】
また、実験例1-2で得られたシート状のサンプルは、式1の右辺の値が80W/m・Kであり、式1の左辺の値(X×Y/100×0.5=62.5)よりも大きく、式1を満たすことが分かった。
【0113】
[実施例1-3]
実験例1-3では、実験例1における熱伝導率500W/m・Kの炭素繊維を、熱伝導率300W/m・Kの炭素繊維に変更したこと以外は、実験例1-1と同様にシート状のサンプルを準備した。
【0114】
実験例1-3で得られたシート状のサンプルは、厚み方向を90°とした場合、炭素繊維の長軸の平均配向角度が85~90°であり、炭素繊維の平均長さがシート状のサンプルの厚みに対して100%であった。例えば、実験例1-3で得られたシート状のサンプルの厚みが2mmの場合、炭素繊維の平均長さが2000μm(2mm)であった。
【0115】
また、実験例1-3で得られたシート状のサンプルは、式1の右辺の値が60W/m・Kであり、式1の左辺の値(X×Y/100×0.5=45)よりも大きく、式1を満たすことが分かった。
【0116】
[実験例1-4]
実験例1-4では、平均粒子径80μmの球状の窒化アルミニウム(熱伝導率270W/m・K)と、平均粒子径が20μmと5μmのアルミナ(熱伝導率40W/m・K)と、n-デシルトリメトキシシランと、2液付加硬化型のシリコーン樹脂とからなる組成物を、プラネタリーミキサーで混合した。混合後の組成物を、両面が剥離処理されたPETフィルムに挟んだ状態で、バーコーターで所定の厚み(1mm厚、2mm厚または3mm厚)に成型し60℃で6時間加熱して硬化させた。
【0117】
ここで、平均粒子径とは、粒子径分布全体を100%とした場合に、粒子径分布の小粒子径側から粒子径の値の累積カーブを求めたとき、その累積値が50%となるときの粒子径をいう。なお、粒度分布(粒子径分布)は、体積基準によって求められたものである。粒度分布の測定方法としては、例えば、レーザー回折型粒度分布測定機を用いる方法が挙げられる。
【0118】
実験例1-4で得られたシート状のサンプルは、フィラーとして、球状の窒化アルミニウムとアルミナを用いたため、配向角度に異方性がなかった。実験例4で得られたシート状のサンプル中、合計フィラーの充填率は、81体積%であり、熱伝導率が最も高いフィラー(球状の窒化アルミニウム)の充填率は、33体積%であった。実験例1-4で得られたシート状のサンプル中、熱伝導率が最も高いフィラー(球状の窒化アルミニウム)の平均長さは、熱伝導シートの厚みに対して4%であった。例えば、実験例1-4で得られたシート状のサンプルの厚みが2mmの場合、球状の窒化アルミニウムの平均長さが80μmであった。
【0119】
また、実験例1-4で得られたシート状のサンプルは、式1の右辺の値が7W/m・Kであり、式1の左辺の値(X×Y/100×0.5=44.55)よりも大きく、式1を満たさないことが分かった。
【0120】
[実験例1-5]
実験例1-5では、平均粒子径40μmの板状の窒化ホウ素(熱伝導率200W/m・K)と、平均粒子径が3μmのアルミナ(熱伝導率40W/m・K)と、n-デシルトリメトキシシランと、2液付加硬化型のシリコーン樹脂とからなる組成物を、プラネタリーミキサーで混合した。混合後の組成物を、5cm×5cm×長さ40cmの中空四角柱状の金型の中に押出成形し、直方体の成型体を得た。オーブン中で、成型体を60℃で6時間加熱して硬化させて成型体の硬化物を得た。この硬化物を所定の厚みになるよう長軸方向に対して直交した方向に切断した。この切断後の硬化物を、両面が剥離処理されたPETフィルムで挟み、87℃、0.5MPa、3分の条件でプレスしてシート状のサンプルを得た。シート状のサンプルにおいて、板状の窒化ホウ素は、サンプルの厚み方向に配向していた。
【0121】
実験例1-5で得られたシート状のサンプルは、厚み方向を90°とした場合、板状の窒化ホウ素の長軸の平均配向角度が85~90°であり、板状の窒化ホウ素の平均長さがシート状のサンプルの厚みに対して40%であった。実験例1-5で得られたシート状のサンプル中、合計フィラーの充填率は、67体積%であり、熱伝導率が最も高いフィラー(板状の窒化ホウ素)の充填率は、27体積%であった。実験例1-5で得られたシート状のサンプル中、熱伝導率が最も高いフィラー(板状の窒化ホウ素)の平均長さは、シート状のサンプルの厚みに対して2%であった。例えば、実験例5で得られたシート状のサンプルの厚みが2mmの場合、板状の窒化ホウ素の平均長さが40μmであった。
【0122】
また、実験例1-5で得られたシート状のサンプルは、式1の右辺の値が10W/m・Kであり、式1の左辺の値(X×Y/100×0.5=27)よりも大きく、式1を満たさないことが分かった。
【0123】
[実験例1-6]
平均繊維長300μmの炭素繊維(熱伝導率900W/m・K)と、平均粒子径が5μmのアルミナ(熱伝導率40W/m・K)と、平均粒子径が2μmの窒化アルミニウム(熱伝導率270W/m・K)と、n-デシルトリメトキシシランと、2液付加硬化型シリコーン樹脂とからなる組成物をプラネタリーミキサーで混合した。混合後の組成物を、5cm×5cm×長さ40cmの中空四角柱状の金型の中に押出成形し、直方体の成型体を得た。オーブン中で、成型体を60℃で6時間加熱して硬化させて成型体の硬化物を得た。この硬化物を所定の厚みになるよう長軸方向に対して直交した方向に切断した。この切断後の硬化物を、硬化物と接する面が剥離処理されたPETフィルムで挟み、87℃、0.5MPa、3分の条件でプレスしてシート状のサンプルを得た。シート状のサンプルにおいて、炭素繊維は、サンプルの厚み方向に配向していた。
【0124】
実験例1-6で得られたシート状のサンプルは、厚み方向を90°とした場合、炭素繊維の長軸の平均配向角度が85~90°であった。実験例1-6で得られたシート状のサンプル中、合計フィラーの充填率は、72体積%であり、熱伝導率が最も高いフィラー(炭素繊維)の充填率は、25体積%であった。実験例1-6で得られたシート状のサンプル中、熱伝導率が最も高いフィラー(炭素繊維)の平均長さは、シート状のサンプルの厚みに対して8%であった。例えば、実験例1-6で得られたシート状のサンプルの厚みが2mmの場合、炭素繊維の平均長さが150μmであった。
【0125】
また、実験例1-6で得られたシート状のサンプルは、式1の右辺の値が50W/m・Kであり、式1の左辺の値(X×Y/100×0.5=112.5)よりも大きく、式1を満たさないことが分かった。
【0126】
[実験例1-7]
実験例1-7では、実験例1における硬化後の直方体のサンプルを長軸方向に約45°に傾けた状態で、超音波スライサーで切断したこと以外は、実験例1-1と同様にシート状のサンプルを準備した。
【0127】
実験例1-7で得られたシート状のサンプルは、厚み方向を90°とした場合、炭素繊維の長軸の平均配向角度が45±5°であり、炭素繊維の平均長さがシート状のサンプルの厚みに対して100%であった。例えば、実験例1-7で得られたシート状のサンプルの厚みが2mmの場合、炭素繊維の平均長さが2000μm(2mm)であった。
【0128】
また、実験例1-7で得られたシート状のサンプルは、式1の右辺の値が40W/m・Kであり、式1の左辺の値(X×Y/100×0.5=62.5)よりも大きく、式1を満たさないことが分かった。
【0129】
[実験例1-8]
平均繊維長6mmの炭素繊維(熱伝導率500W/m・K)と、平均粒子径が5μmのアルミナ(熱伝導率40W/m・K)と、平均粒子径が2μmの窒化アルミニウム(熱伝導率270W/m・K)と、n-デシルトリメトキシシランと、2液付加硬化型シリコーン樹脂とからなる組成物をプラネタリーミキサーで混合した。混合の際に炭素繊維が砕かれることで、炭素繊維は繊維長が短くなった。混合後の組成物を、中空四角柱状の金型の中に押出成形し、直方体の成型体を得た。オーブン中で、成型体を100℃で6時間加熱して硬化させて成型体の硬化物を得た。この硬化物を所定の厚みになるよう長軸方向に対して直交した方向に切断した。この切断後の硬化物を、硬化物と接する面が剥離処理されたPETフィルムで挟み、87℃、0.5MPa、3分の条件でプレスしてシート状のサンプルを得た。シート状のサンプルにおいて、炭素繊維は、サンプルの厚み方向に配向していた。
【0130】
実験例1-8で得られたシート状のサンプルは、窒素雰囲気下で20℃/分の昇温速度で1000℃に加熱することで加熱することでシリコーン樹脂を焼き飛ばした後、SEM画像を測定し、残った20本の炭素繊維の繊維長(長さ)を測定した。20本の炭素繊維の平均長さは300μmであった。
【0131】
実験例1-8で得られたシート状のサンプルは、厚み方向を90°とした場合、炭素繊維の長軸の平均配向角度が85~90°であり、炭素繊維の平均長さがシート状のサンプルの厚みに対して15%であった。実験例1-8で得られたシート状のサンプル中、合計フィラーの充填率は、68体積%であり、熱伝導率が最も高いフィラー(炭素繊維)の充填率は、24体積%であった。
【0132】
また、実験例1-8で得られたシート状のサンプルは、式1の右辺の値が30W/m・Kであり、式1の左辺の値(X×Y/100×0.5=60)よりも大きく、式1を満たさないことが分かった。
【0133】
【0134】
実験例1-1~1-3のシート状のサンプルは、バインダ樹脂としてのシリコーン樹脂と、繊維状の熱伝導材料としての炭素繊維とを含み、炭素繊維を含むフィラーの含有量の合計が10~40体積%であり、シリコーン樹脂の含有量が60~90体積%であり、上述した式1を満たすことが分かった。
【0135】
一方、実験例1-4~1-8のシート状のサンプルは、上述した式1を満たさないことが分かった。実験例1-4,1-5のシート状のサンプルが式1を満たさなかったのは、繊維状の熱伝導材料(炭素繊維)を含まなかったためと考えられる。また、実験例1-6,1-8のシート状のサンプルが式1を満たさなかったのは、熱伝導率が最も高いフィラー(炭素繊維)の平均長さが、シート状のサンプルの厚みに対して75%以上でなかったためと考えられる。さらに、実験例1-7のシート状のサンプルが式1を満たさなかったのは、シート状のサンプルの厚み方向を90°とした場合、炭素繊維の長軸の平均配向角度が55°以上90°未満または90°超125°以下の範囲でなかったためと考えられる。
【0136】
<熱伝導シート製造方法の実験例>
次に、上述した熱伝導シートの製造方法の第1の実施の形態、すなわち、工程A1~A5を有する熱伝導シートの製造方法に関する実験例を示す。
【0137】
[実験例2-1]
<工程A1>
第1の樹脂シート41および第2の樹脂シート42として、EVA(Ethylene-vinyl acetate、ランクセス社製、製品名:レバプレン800)をトルエンに溶解し、これをバーコーターで剥離処理がされたPETに塗布し乾燥させた30μmの塗膜を用いた。炭素繊維束40として、炭素繊維の原糸(三菱ケミカル社製、直径10μmの繊維が12000本)を用いた。これを10cm幅に広げ、第1の樹脂シート41上に並べた。
【0138】
<工程A2>
第1の樹脂シート41上に並べた複数の炭素繊維44を挟むように、第1の樹脂シート41と第2の樹脂シート42とを、120℃、180秒、0.1MPaの条件で単板熱プレスを行うことにより、炭素繊維44がEVAでラミネートされた開繊シート43を得た。
【0139】
<工程A3>
開繊シート43を、炭素繊維44の長軸方向に直交する方向で3mm長に切断して、幅10cm×長さ3mmの開繊シート切片43Aを得た。
【0140】
<工程A4>
開繊シート切片43Aを、炭素繊維44の配列方向に巻回した直径20mmの巻回体46を形成した。
【0141】
<工程A5>
巻回体46を構成する開繊シート切片43Aの樹脂(EVA)をトルエンで溶解し、その後、80℃で12時間乾燥し、開繊シート切片43Aの接触面を一体化させることで、熱伝導シートのサンプルを得た。
【0142】
[実験例2-2]
実験例2-2では、工程A5において、巻回体46を構成する開繊シート切片43Aに、EVA樹脂の溶液を含浸させ、乾燥させたこと以外は、実験例2-1と同様に行った。
【0143】
[実験例2-3]
実験例2-3では、工程A5において、巻回体46を構成する開繊シート切片43Aに、2液付加硬化型のシリコーン樹脂を含浸させ、100℃で6時間熱硬化させたこと以外は、実験例2-1と同様に行った。
【0144】
実験例2-1~2-3で得られた熱伝導シートのサンプルついて、ASTM-D5470に準拠した測定機を用いて、荷重を0.5kgf/cm2、1.0kgf/cm2、1.5kgf/cm2、2.0kgf/cm2と段階的に上げながら実効熱伝導率を測定し、合わせてシートとして形状を維持できるかどうかで耐荷重性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0145】
【0146】
実験例2-1で得られた熱伝導シートのサンプルは、2.0kgf/cm2の荷重に耐えうることが分かった。また、実験例2-1で得られた熱伝導シートのサンプルは、測定時の条件(測定面圧)を1.0kgf/cm2としたときの実効熱伝導率が12.8W/m・Kであることが分かった。
【0147】
実験例2-2で得られた熱伝導シートのサンプルは、1.0kgf/cm2荷重まで耐えうることが分かった。また、実験例2-2で得られた熱伝導シートのサンプルは、測定面圧を1.0kgf/cm2としたときの実効熱伝導率が5W/m・Kであることが分かった。
【0148】
実験例2-3で得られた熱伝導シートのサンプルは、0.5kgf/cm2荷重まで耐えうることが分かった。また、実験例2-3で得られた熱伝導シートのサンプルは、測定面圧を荷重0.5kgf/cm2としたときの実効熱伝導率が1.9W/m・Kであることが分かった。
【0149】
実験例2-1~2-3の結果の相違について、実験例2-1では、開繊シート切片43Aの樹脂が溶解して、巻回体46の接触面が一体化されたのに対して、実験例2-2,2-3では、開繊シート切片43Aの樹脂が溶解しない、または、巻回体46の接触面が一体化されなかったことが一原因と考えられる。