(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059257
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】嗅覚補助装置
(51)【国際特許分類】
A61H 99/00 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
A61H99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166828
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】598133665
【氏名又は名称】学校法人国際医療福祉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】石川 幸伸
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046BB19
4C046DD02
4C046EE32
4C046EE33
(57)【要約】
【課題】喉頭摘出者の嗅覚リハビリテーションの効率を高めるとともに、喉頭摘出者のQOLを向上する。
【解決手段】鼻腔内に気流を誘引する携帯型の嗅覚補助装置4であって、吸気口13aおよび排気口14の2つの開口部を有する筐体7と、吸気口13aから排気口14への気流を生成するマイクロファン12とを備え、筐体7の吸気口13a側が口腔内に挿入され、マイクロファン12によって気流を生成することによって口腔内に陰圧を発生させて、鼻腔内に気流を誘引する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻腔内に気流を誘引する携帯型の嗅覚補助装置であって、
吸気口および排気口の2つの開口部を有する筐体と、
前記吸気口から前記排気口への気流を生成する気流生成ユニットとを備え、
前記筐体の吸気口側が口腔内に挿入され、前記気流生成ユニットによって気流を生成することによって前記口腔内に陰圧を発生させて、前記鼻腔内に気流を誘引する嗅覚補助装置。
【請求項2】
前記吸気口と前記気流発生ユニットとの間に設けられた防塵フィルタを備えた請求項1記載の嗅覚補助装置。
【請求項3】
前記筐体の吸気口側に着脱可能であって、ユーザによって咥えられる着脱部材を備えた請求項1記載の嗅覚補助装置。
【請求項4】
前記排気口が、前記筐体の側面に設けられている請求項1記載の嗅覚補助装置。
【請求項5】
前記排気口が、前記吸気口から前記筐体の長さの3/4までの範囲内に設けられている請求項4記載の嗅覚補助装置。
【請求項6】
長手方向の全長が15センチ以下である請求項1記載の嗅覚補助装置。
【請求項7】
前記気流生成ユニットが、少なくとも1つのファンおよび前記ファンを駆動する駆動ユニットを備える請求項1記載の嗅覚補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嗅覚を補助し、嗅覚の低下を予防又は改善するための嗅覚補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
喉頭がんや下咽頭がんの治療では、喉頭の全摘出が行われることがある。
図1(A)は健常者の気管の構造、
図1(B)は喉頭全摘出術を施された無喉頭者(喉頭摘出者)の気管の構造を示す図である。同図が示すように、喉頭摘出者は、頸部の下方に永久気管孔3が形成され、気道と食道が分離される。永久気管孔3が形成されると、肺への空気の出し入れはすべてその気管孔を通して行われるようになるため、鼻(外鼻孔1)からの呼吸は行われなくなる。
【0003】
においは、鼻腔2の奥の上皮粘膜にある嗅細胞表面の受容体がにおい分子と結合し、それを脳神経に伝達することにより知覚される。このため、鼻呼吸がなくなると嗅覚が低下する。喉頭摘出者を対象とした調査では、約94%の喉頭摘出者が嗅覚障害を訴えていることが報告されている。
【0004】
嗅覚が低下すると、香りや風味を楽しむことができなくなるだけでなく、食品腐敗やガス漏れを察知して危険を回避することも難しくなる。喉頭がんの治療では、患者の10年生存率が70%を超えているため、嗅覚障害は、術後患者のQOL(Quality of Life)に大きく影響する。しかし、発明者らが喉頭摘出者105名を対象に行ったアンケート調査では、医療機関において嗅覚回復のための指導を受けた経験がある者の割合は、僅か4.7%に過ぎなかった。
【0005】
嗅覚を回復させるためのリハビリテーションとしては、永久気管孔と口腔をチューブで繋げた状態で鼻から吸気する方法が知られている。しかし、この方法は、チューブ等の器具の装着が必要であり、医療機関でしか行われていないのが実情である。日常的に実施できるリハビリテーションとしては、NAIM(Nasal Airflow Inducing Maneuver)法が知られている(非特許文献1参照)。NAIM法は、唇を閉じた状態で口周りの運動を繰り返すことで、口腔内を陰圧にし、鼻腔内への気流を誘引する方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山口ほか6名、“喉頭全摘出術後の嗅覚のリハビリテーション”,耳鼻と臨床,63巻5号,2017年9月,pp151-156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
NAIM法は器具を使わずに実施できるものの、鼻腔からの吸気量は熟達者であっても健常者の約40%程度にしかならない。また発明者らの研究によれば、NAIM法によるリハビリテーションの成果は、嗅覚閾値(においを検知できる最小濃度)を健常者の37.7%まで改善できる程度に留まっている。
【0008】
また、喉頭摘出者のQOL向上のためには、日常生活において少しでも多くの香りやにおいを知覚できるようにすることが重要である。例えば会食の席で同席者とともに料理の風味を楽しめるようになるだけでも、喉頭摘出者のQOLは大きく向上する。しかし、気管孔と口腔をチューブで繋ぐ、あるいはNAIM法の口周り運動を行うといった方法は、人目につきやすい。このため、周囲の目を気にする人にとっては、香りやにおいを知覚できたとしても、必ずしもQOLの向上に繋がるとは限らない。
【0009】
本発明は、日常的に実施できる嗅覚リハビリテーションにおいて、鼻腔内により多くの気流を誘引できるようにして、リハビリテーションの効率を高めることを第一の課題とする。また、眼鏡や補聴器のように周囲の目を気にせずに気軽に使用することができる携帯型の嗅覚補助装置を提案し、喉頭摘出者のQOLを向上することを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の嗅覚補助装置は、鼻腔内に気流を誘引する携帯型の嗅覚補助装置であって、吸気口および排気口の2つの開口部を有する筐体と、吸気口から排気口への気流を生成する気流生成ユニットとを備え、筐体の吸気口側が口腔内に挿入され、気流生成ユニットによって気流を生成することによって口腔内に陰圧を発生させて、鼻腔内に気流を誘引する。
【0011】
また、本発明の嗅覚補助装置は、吸気口と気流発生ユニットとの間に設けられた防塵フィルタを備えることができる。
【0012】
また、本発明の嗅覚補助装置は、筐体の吸気口側に着脱可能であって、ユーザによって咥えられる着脱部材を備えることができる。
【0013】
また、本発明の嗅覚補助装置において、排気口は、筐体の側面に設けることができる。
【0014】
また、本発明の嗅覚補助装置において、排気口は、吸気口から筐体の長さの3/4までの範囲内に設けることができる。
【0015】
また、本発明の嗅覚補助装置は、長手方向の全長を15cm以下とすることができる。
【0016】
また、本発明の嗅覚補助装置において、気流生成ユニットは、少なくとも1つのファンおよびファンを駆動する駆動ユニットを備えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の嗅覚補助装置は、香りやにおいを含む空気を鼻腔に誘引することにより、喉頭摘出者の嗅覚リハビリテーションの効率を高めるとともに、喉頭摘出者のQOLを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(A)は健常者の気管の構造、(B)は喉頭摘出者の気管の構造を示す図
【
図2】第1実施形態における嗅覚補助装置の概略構成を示す図
【
図3】第1実施形態の嗅覚補助装置の使用方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の嗅覚補助装置の実施形態について詳細に説明する。
[第1実施形態]
【0020】
図2は、本発明の嗅覚補助装置の第1実施形態の概略構成を示す図である。第1実施形態の携帯型の嗅覚補助装置4は、
図2に示すように、筐体7と、防塵フィルタ10と、マイクロファン12と、ファン駆動ユニット16aとを備える。本実施形態においては、マイクロファン12が、本発明の気流生成ユニットに相当する。
【0021】
筐体7は、円筒形の部材から構成され、長さは15cm以下であることが好ましく、本実施形態では約10cmである。また、筐体7の外径は約3cmである。筐体7は、軽量かつ加工が容易で、マイクロファン12を動作中も安定的に支持できる厚みおよび堅さを有する素材(例えばポリカーボネート、ABS樹脂等の樹脂素材、ステンレスおよびチタンなどの金属)からなる。
【0022】
筐体7の一方の開口部には吸気口13aが形成されており、筐体7の他方の開口部には排気口14が形成されている。
【0023】
筐体7の内側には、マイクロファン12を固定するための爪または溝(図示せず)が形成される。そして、マイクロファン12を回転させることにより吸気口13aから取り込まれた空気が排気口14に向かって流れるような位置および向きで、マイクロファン12が爪または溝に固定される。
【0024】
また、筐体7の吸気口13aとマイクロファン12の間の筐体7の内側には、防塵フィルタ10を固定するための爪または溝(図示せず)が形成されており、その爪または溝に防塵フィルタ10が固定されている。
【0025】
防塵フィルタ10は、吸気口13aから吸い込まれた粉塵や唾液などの異物を除去するものであり、たとえば開目0.2mm以下(たとえば0.18mm)の平織金網または不織布などから形成される。また、防塵フィルタ10としては、通気性および耐水性を有する素材を用いることが好ましく、たとえば良好な通気性および耐水性を有するゴアテックス(登録商標)などを用いてもよい。
【0026】
また、防塵フィルタ10は、汚れた場合に取り外して洗浄あるいは交換することができるように、筐体7に対して着脱可能に構成することが好ましい。
【0027】
マイクロファン12は、ファン駆動ユニット16aの制御回路15に配線される。制御回路15は、ファンの駆動/停止並びに駆動時の回転数を制御する。スイッチ8のLow/Highは、動作電圧3.3V/5.0Vに対応しており、ファンの回転数は、Lowで12,000RPM、Highで16,000RPMとなる。マイクロファン12としては、たとえばPELONIS社製のAGA178の電圧3.3Vのタイプを使用することができる。
【0028】
ファン駆動ユニット16aは、筐体7の側面に対して筐体7と一体となるように取り付けられている。ファン駆動ユニット16aは、マイクロファン12の回転を制御する制御回路15、スイッチ8および電池ユニット9から構成される。電池ユニット9には、アルカリ電池あるいはリチウムイオン電池が装填される。
【0029】
また、スイッチ8は、LED(light-emitting diode)8aを有し、1つのスイッチ8のみによって嗅覚補助装置4を操作可能に構成されている。具体的には、スイッチ8を長押しすることによって電源がオンされ、その後、スイッチ8を長押しより短い通常の時間だけ押すごとに風量を変更可能に構成されている。
【0030】
そして、LED8aの発光色によって現在の状態がわかるように構成されている。たとえばLED8aが消滅しているときは電源オフであり、LED8aの発光色が緑の場合には、マイクロファン12がLowに制御されており、LED8aの発光色が青の場合にはマイクロファン12がHighで制御されており、LED8aの発光色が赤の場合には、充電中である。
【0031】
においを嗅ぐ動作を実施する際には、
図3に示すように、筐体7の吸気口13aが形成された端部が、ユーザの口によって咥えられ、口唇を閉じた状態でマイクロファン12が回転する。マイクロファン12の回転によってユーザの口腔内の空気が、嗅覚補助装置4の吸気口13aから吸い出され、筐体7内を通過して排気口14から排出される。この口腔内から吸気口13a、吸気口13aから排気口14、排気口14から嗅覚補助装置4の外部へ流れる気流の発生によって、口腔内に陰圧を発生させて、鼻腔内に気流を誘引する
【0032】
健常者の鼻孔からの吸気量が平均269.7cm3/秒、NAIM法熟達者の吸気量が平均110.1cm3/秒であるのに対し、嗅覚補助装置4を用いた場合の吸気流量は、350cm3~450cm3であり、この場合、食道側に流れる空気流量も考慮すると、鼻腔内に流れる空気流量は、約250から350cm3/秒程度と試算される。 すなわち、嗅覚補助装置4の使用により、喉頭摘出者であっても、健常者と同等の吸気量を確保することができる。
【0033】
また、嗅覚補助装置4は長さが約10cmであるため、ポケット等に入れて携帯することができ、使用時には片手で持ち、もう一方の手で覆い隠すようにして使用すれば、人目を気にすることなく嗅ぎたい香り、においを嗅ぐことができる。
【0034】
[変形例1]
次に、上記第1実施形態の嗅覚補助装置4の変形例1について説明する。
図4は、変形例1の嗅覚補助装置20の概略構成を示す図である。第1実施形態の嗅覚補助装置4においては、1つのマイクロファン12を設けるようにしたが、
図4に示す変形例1の嗅覚補助装置20のように、2つのマイクロファン12a,12bを設け、二重反転ファンの構成としてもよい。その他の構成は、第1の実施形態の嗅覚補助装置4と同様である。
【0035】
二重反転ファンは、軸流ファンであるマイクロファン12aとマイクロファン12bを直列につないだ構造である。そして、マイクロファン12aとマイクロファン12bの羽根の回転方向は異なる。このように二重反転ファンの構造とすることのよって、吸気流量をより多くすることができ、鼻腔に流れる空気流量を増やすことができる。
【0036】
[変形例2]
次に、上記第1実施形態の嗅覚補助装置4の変形例2について説明する。
図5は、変形例2の嗅覚補助装置21の概略構成を示す図である。第1実施形態の嗅覚補助装置4においては、マイクロファン12を縦軸ファンとし、筐体7の端部に排気口14を設けるようにしたが、
図5に示す変形例2の嗅覚補助装置21のように、ブロアファンのマイクロファン17を設け、排気口14を筐体18の側面18aに設けるようにしてもよい。
【0037】
また、嗅覚補助装置21をユーザが咥えた際に、排気口14がユーザの鼻の近傍に位置するように設けることが好ましい。排気口14は、たとえば吸気口13aから筐体18の長さの3/4の範囲内に設けることが好ましく、より好ましくは2/3の範囲内であり、さらに好ましくは1/2の範囲内である。
【0038】
変形例2の嗅覚補助装置21においては、
図5において矢印で示す方向に気流が発生する。すなわち、筐体18の吸気口13aから吸い込まれた空気は、防塵フィルタ10を通過した後、マイクロファン17の吐出し口から吐き出され、筐体18の側面18aに形成された排気口14から排出される。
【0039】
これにより、排気口14から排出された気流によって、鼻に空気を送気することができるので、より香りを感じやすくすることができる。
【0040】
また、変形例2のように排気口14を筐体18の側面18aに設けることによって、筐体18の吸気口13aとは反対側にスペースSを確保することができるので、そのスペースSにファン駆動ユニット16aの制御回路15および電池ユニット9を設けることができる。なお、スイッチ8は、筐体18の側面18aから露出するように設けられている。これにより、第1実施形態の嗅覚補助装置4よりもサイズをコンパクトにすることができる。
【0041】
[変形例3]
次に、上記第1実施形態の嗅覚補助装置4の変形例3について説明する。
図6は、変形例3の嗅覚補助装置22の概略構成を示す図である。変形例3の嗅覚補助装置22は、防塵フィルタ10および二重反転ファンを構成するマイクロファン12a,12bが収容される筐体23と、その筐体23の長手方向に直交する方向に延設された把手部24とを備える。
【0042】
把手部24も円筒形の部材から形成され、筐体23の長手方向の中央辺りに設けられている。把手部24の内部にはファン駆動ユニット16aの制御回路15および電池ユニット9が設けられている。また、スイッチ8は、把手部24の外周面から露出するように設けられている。
【0043】
変形例3の嗅覚補助装置22においては、
図6において矢印で示す方向に気流が発生する。すなわち、筐体23の吸気口13aから吸い込まれた空気は、防塵フィルタ10およびマイクロファン12a,12bを通過した後、筐体23の排気口14から排出される。その他の構成については、第1実施形態の嗅覚補助装置4と同様である。なお、変形例3の嗅覚補助装置22の二重反転ファンを構成するマイクロファン12a,12bを縦軸ファンに変更してもよい。
【0044】
変形例3の嗅覚補助装置22によれば、把手部24を有するのでユーザにとって持ちやすくすることができる。
【0045】
[変形例4]
次に、上記第1実施形態の嗅覚補助装置4の変形例4について説明する。
図7は、変形例4の嗅覚補助装置25の概略構成を示す図である。変形例4の嗅覚補助装置25は、防塵フィルタ10およびブロアファンからなるマイクロファン17が収容される筐体26と、その筐体26の長手方向に直交する方向に延設された把手部27とを備える。
【0046】
変形例4の嗅覚補助装置25の把手部27は、筐体26の吸気口13aとは反対側の端部に接続される。また、把手部27の筐体26との接続部分の側面には、排気口14が形成される。また、把手部27の外周面に、把手部27と一体となるようにファン駆動ユニット16aが設けられている。なお、変形例4の嗅覚補助装置25においても、変形例3の嗅覚補助装置22と同様に、把手部27内にファン駆動ユニット16aの制御回路15および電池ユニット9を設け、外周面に露出させてスイッチ8を設けるようにしてもよい。
【0047】
変形例4の嗅覚補助装置25においては、
図7において矢印で示す方向に気流が発生する。すなわち、筐体26の吸気口13aから吸い込まれた空気は、防塵フィルタ10を通過した後、マイクロファン17の吐出し口から吐き出され、把手部27に形成された排気口14から排出される。その他の構成については、第1実施形態の嗅覚補助装置4と同様である。
【0048】
変形例4の嗅覚補助装置25によれば、変形例3の嗅覚補助装置21と同様に、把手部27を有するのでユーザにとって持ちやすくすることができる。
【0049】
[実施形態2]
次に、本発明の嗅覚補助装置の第2実施形態について説明する。第2実施形態の嗅覚補助装置の概略構成は、
図2に示す第1実施形態の嗅覚補助装置4と同様である。そして、第2実施形態の嗅覚補助装置は、筐体7の吸気口13a側の端部に着脱可能に構成された着脱部材29をさらに備える。
【0050】
着脱部材29は、第2実施形態の嗅覚補助装置を使用する際に筐体7に取り付けられ、ユーザが口に咥える部分である。着脱部材29を筐体7に着脱可能に構成することによって、ユーザ毎に着脱部材29を準備することで、第2実施形態の嗅覚補助装置を複数のユーザが使用可能である。
【0051】
着脱部材29は、たとえば円筒形の部材から構成される。
図8は、着脱部材29の長手方向の側面図である。着脱部材29は、
図8に示すように、たとえば呼吸測定に使用されるマウスピースのように、口にくわえる側が窪んでいる事が望ましい。
図8に示すように着脱部材29に窪み(凹部)29aを設けることによって、ユーザが歯で噛む部位を指定でき、嗅覚補助装置4を固定しやすくなる。
【0052】
なお、着脱部材29の形状は、上記の例に限定されるものではなく、例えば口腔内に挿入する先端部をより長くした形状、先端部を筐体7の軸に対して傾斜させた形状など、種々の変形例が考えられる。着脱部材29の素材としては、ユーザによって噛まれた場合でも変形したり、割れたりしないような硬い素材(例えばポリカーボネート、ABS樹脂等の樹脂素材、ステンレスおよびチタンなどの金属)から形成される。
【0053】
[実施形態3]
次に、本発明の嗅覚補助装置の第3実施形態について説明する。
【0054】
第3実施形態の嗅覚補助装置は、上述した喉頭摘出者以外のユーザも考慮したものである。
【0055】
具体的には、嗅覚は認知症やパーキンソン病などの早期より低下することが知られている。また、喉頭摘出者以外でも、急性期で意識障害がある脳血管障害の患者、気管切開患者や遷延性意識障害の患者、中等度から重度の認知症患者、ALSなど変性疾患の患者についても、嗅覚のリハビリ目的で嗅覚補助装置を使用することが考えられる。
【0056】
第3実施形態の嗅覚補助装置は、基本的な構成としては、上述した第1実施形態の嗅覚補助装置4およびその変形例1~4と同様であるが、さらに上述したような患者が適切に使用することができような、アダプタをさらに備える。
【0057】
図9は、上述したアダプタ30の一例の概略構成を示す図である。
図9に示すように、アダプタ30は、ユーザの口唇を覆うためのマスク部31と、ユーザの開口を確保するためのバイトブロック32とを備える。
【0058】
マスク部31は、たとえばシリコン素材から形成され、その中央部に孔31aが形成されている。そして、その孔31aにバイトブロック32が挿入される。
【0059】
バイトブロック32は、円筒形の部材であり、ユーザによって噛まれた場合でも変形したり、割れたりしないような硬い素材(例えばポリカーボネート、ABS樹脂等の樹脂素材、ステンレスおよびチタンなどの金属)から形成される。そして、バイトブロック32をマスク部31の孔31aに挿入することによって、バイトブロック32にマスク部31が装着される。バイトブロック32の外径とマスク部31の孔31aの内径は、バイトブロック32からマスク部31が容易に外れないような大きさに設定されている。
【0060】
そして、
図10に示すように、アダプタ30のバイトブロック32の一方の端部をユーザに噛ませることによってアダプタ30を固定し、その後、バイトブロック32の他方の端部に対して、上述した第1実施形態の嗅覚補助装置4または変形例1~変形例4の嗅覚補助装置20,21,22,25が取り付けられる。
【0061】
また、上記実施形態の説明では、円筒形の筐体を例示したが、筐体は断面形状が正方形、長方形あるいは六角形等の多角形状である角筒であってもよい。吸気口および排気口の形状や配置も、本明細書の例示に限定されるものではなく、種々の変形例が考えられる。
【0062】
また、上記実施形態の説明では、1つまたは2つのマイクロファンにより気流を生成しているが、マイクロファンの数は、個々のマイクロファンの性能に応じて調整すればよく、3個以上のマイクロファンを備えるようにしてもよい。
【0063】
また、上記実施形態の説明では、マイクロファンとファン駆動ユニットが近接して配置されているが、ファン駆動ユニットを本体(筐体)から分離した構造も考えられる。分離構造では、両者を接続する配線を長くとる必要はあるものの、ファン駆動ユニットを胸ポケットに入れたまま本体を使用するといったことが可能になる。
【0064】
ファン駆動ユニットを本体から分離した構造では、本体の軽量化を図ることができるため、耳掛け式のマウスシールド(マウスガード)や頭部固定式のフェイスシールド(フェイスガード)、あるいは専用の保持具に本体を固定して、眼鏡や補聴器のように身につけて使用することも可能になる。手を使わずに嗅覚補助装置を使用することができれば、においを嗅ぎながら料理をすることもでき、喉頭摘出者のQOLを向上することができる。
【0065】
また、上記第1~第3実施形態の嗅覚補助装置および変形例1~4の嗅覚補助装置において、排気口14に対して、匂いを発生する部材を設置可能なカートリッジなどのオプション部品を着脱可能に構成するようにしてもよい。匂いを発生する部材としては、アロマオイル等の嗅素を染みこませたガーゼ、あるいは脱脂綿、スポンジ等がある。これにより、日常生活の中にある匂いだけでなく、意図的に調合等した匂いを嗅げるようになるため、より積極的なリハビリテーション、トレーニングを行うことができる。
【0066】
また、オプション部品の形状は、排気口の仕様に応じて、種々の変形例を採用することができる。
【0067】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記実施形態および変形例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。たとえば実施形態に示される全構成要素を適宜組み合わせても良い。このような、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0068】
1 外鼻孔
2 鼻腔
3 永久気管孔
4,20,21,22,25 嗅覚補助装置
7 筐体
8 スイッチ
9 電池ユニット
10 防塵フィルタ
12 マイクロファン
12a,12b マイクロファン
13a 吸気口
14 排気口
15 制御回路
16a ファン駆動ユニット
17 マイクロファン
18 筐体
18a 側面
23 筐体
24 把手部
26 筐体
27 把手部
29 着脱部材
29a 窪み(凹部)
30 アダプタ
31 マスク部
31a 孔
32 バイトブロック
105 喉頭摘出者
S スペース