(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059260
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】切換弁
(51)【国際特許分類】
F16K 27/00 20060101AFI20240423BHJP
F16K 27/04 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
F16K27/00 A
F16K27/00 D
F16K27/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166832
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 純一
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠一
【テーマコード(参考)】
3H051
【Fターム(参考)】
3H051AA03
3H051BB09
3H051CC11
3H051DD07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】弁本体の材料を工夫することにより、弁本体の周壁部にクラックが生じることを抑制する切換弁を提供することである。
【解決手段】ハウジング1に対して着脱自在に嵌挿される切換弁100であって、樹脂材料からなり、軸線L方向に沿って延在する中空筒状の弁本体2と、弁本体2の内部に軸線L方向に沿ってスライド自在に設けられた弁体4と、弁本体2に固定されて、弁体4が摺接する板状の弁座部3と、を備え、弁本体2とハウジング1との間、及び、複数のシール部材26により形成される、複数の環状隙間Ac1~Ac3には、作動流体がそれぞれ導入されており、弁本体2は、ポリフェニレンサルファイドにエラストマを添加した樹脂組成物からなる。これにより、弁本体2の周壁部にクラックが生じることを抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに対して着脱自在に嵌挿される切換弁であって、
樹脂材料からなり、軸線方向に沿って延在する中空筒状の弁本体と、
前記弁本体の内部に軸線方向に沿ってスライド自在に設けられた弁体と、
前記弁本体に固定されて、前記弁体が摺接する弁座部と、
を備え、
前記弁本体と前記ハウジングとの間、及び、複数のシール部材により形成される、複数の環状隙間には、作動流体がそれぞれ導入されており、
前記弁本体は、ポリフェニレンサルファイドにエラストマを添加した樹脂組成物からなることを特徴とする切換弁。
【請求項2】
前記エラストマの含有量は、前記樹脂組成物100質量部に対して、3質量部以上25質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の切換弁。
【請求項3】
前記弁座部は、金属材料からなり、前記弁本体に接合固定されることを特徴とする請求項1に記載の切換弁。
【請求項4】
前記弁体を駆動する駆動部と、
金属材料からなる筒状の下蓋と、をさらに備え、
前記下蓋は、前記弁本体の軸線方向端部
に、インサート成形されるとともに、前記駆動部に接続されており、
前記下蓋における前記弁本体への埋設領域は、軸線方向に沿うS字断面形状を有することを特徴とする請求項1に記載の切換弁。
【請求項5】
前記下蓋における前記弁本体への埋設領域は、半径方向への貫通する複数の貫通穴を有し、
前記複数の貫通穴は、周方向に沿って配置されることを特徴とする請求項4に記載の切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに対して着脱自在に嵌挿される切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、切換弁において、組み付け性の向上やメンテナンス性の向上のために、ハウジングに対して着脱自在に嵌挿されるものが採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特に、段落[0024]-[0033]及び
図1-2参照)には、ハウジング11に対して着脱自在に嵌挿される切換弁であって、弁本体51は、軸線方向に沿って設けられる各ポート61~64と、各ポート61~64の間に、外周方向に沿って設けられる複数の外周溝と、を備え、この複数の外周溝に、複数のOリングを配置するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の切換弁(以下、「従来の切換弁」という)では、弁本体51をハウジング11に挿入すると、弁本体51及びハウジング11のそれぞれに形成された流体経路同士が流体連通すると同時に、Oリングにより、各流体経路間がシールされる。この際、ハウジング11と弁本体51との間に、複数の環状隙間が形成されるが、構造上、それぞれの環状隙間には、接続された流体経路より、常時、作動流体が導入されている。また、従来の切換弁は、弁本体の軸線方向の長さが半径方向に比べ大きいとともに、弁本体の周壁部における外周壁及び内周壁は、環状隙間及び弁室を介して、異なる温度を有する作動流体に同時に晒されている。なお、従来の切換弁には、弁本体51の材料が明記されていないが、弁本体51の材料として一般的な金属材料が採用されているものと推察される。
【0006】
ここで、従来の切換弁が、車載用として用いられる場合には、軽量化が要求されるため、弁本体51の材料を、金属材料から樹脂材料へと変更、つまり、線膨張係数が大きいものへと変更することが考えられる。よって、従来の切換弁において、弁本体の材料を金属材料から樹脂材料へと変更する場合には、弁本体は、周囲温度の変化により、特に、長さが大きい軸線方向へと、収縮及び膨張を繰り返すこととなる。これにより、弁本体の内部に比較的大きい熱応力が生じ、結果、弁本体の周壁部にクラックが生じるおそれがあった(以下、「従来の問題点(弁本体の周壁部にクラックが生じる問題)」という)。
【0007】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたものであり、弁本体の材料を工夫することにより、弁本体の周壁部にクラックが生じることを抑制する切換弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、ハウジングに対して着脱自在に嵌挿される切換弁であって、樹脂材料からなり、軸線方向に沿って延在する中空筒状の弁本体と、前記弁本体の内部に軸線方向に沿ってスライド自在に設けられた弁体と、前記弁本体に固定されて、前記弁体が摺接する弁座部と、を備え、前記弁本体と前記ハウジングとの間、及び、複数のシール部材により形成される、複数の環状隙間には、作動流体がそれぞれ導入されており、前記弁本体は、ポリフェニレンサルファイドにエラストマを添加した樹脂組成物からなる切換弁である。
【0009】
また、上記切換弁であって、前記エラストマの含有量は、前記樹脂組成物100質量部に対して、3質量部以上25質量部以下であるものとしてもよい。
【0010】
また、上記切換弁であって、前記弁座部は、金属材料からなり、前記弁本体に接合固定されるものとしてもよい。
【0011】
また、上記切換弁であって、前記弁体を駆動する駆動部と、金属材料からなる筒状の下蓋と、をさらに備え、前記下蓋は、前記弁本体の軸線方向端部に、インサート成形されるとともに、前記駆動部に接続されており、前記下蓋における前記弁本体への埋設領域は、軸線方向に沿うS字断面形状を有するものとしてもよい。
【0012】
また、上記切換弁であって、前記下蓋における前記弁本体への埋設領域は、半径方向への貫通する複数の貫通穴を有し、前記複数の貫通穴は、周方向に沿って配置されるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、弁本体の材料を工夫することにより、弁本体の周壁部にクラックが生じることを抑制する切換弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る切換弁の断面図である。
【
図2】本発明の冷凍サイクルシステムを示す図であり、(a)は、冷房運転時、(b)は、暖房運転時を、それぞれ表す。
【
図3】
図1に示される弁本体における一点鎖線IIIで囲まれた領域の拡大図である。
【
図4】
図1に示される弁座部における一点鎖線IVで囲まれた領域の拡大図である。
【
図5】
図1に示される下蓋における一点鎖線Vで囲まれた領域の拡大図である。
【
図6】比較例における
図2に対応する冷凍サイクルシステムを示す図であり、(a)は、冷房運転時、(b)は、暖房運転時を、それぞれ表す。
【
図7】
図6に示される弁本体における拡大図であり、(a)は、
図6(a)における一点鎖線VIIaで囲まれた領域、(b)は、
図6(b)における一点鎖線VIIbで囲まれた領域を、それぞれ表す。
【
図8】
図6に示される弁座部における拡大図であり、(a)は、
図6(a)における一点鎖線VIIIaで囲まれた領域、(b)は、
図6(b)における一点鎖線VIIIbで囲まれた領域を、それぞれ表す。
【
図9】
図6に示される下蓋における拡大図であり、(a)は、
図6(a)における一点鎖線IXaで囲まれた領域、(b)は、
図6(b)における一点鎖線IXbで囲まれた領域を、それぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について、
図1から
図5を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態の態様に限定されるものではない。
【0016】
<用語について>
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「左」、「右」、「上」、「下」とは、
図1から
図9に示される方向を示す。本明細書および特許請求の範囲の記載において、「一端側」、「他端側」とは、「軸線方向の左側(X軸方向のマイナス側)」、「軸線方向の右側(X軸方向のプラス側)」をそれぞれ示す。本明細書および特許請求の範囲の記載において、「側方」とは、「軸線と直交する方向(Y軸方向)」を示す。本明細書および特許請求の範囲の記載において、「垂直方向」とは、「Z軸方向」を示す。本明細書および特許請求の範囲の記載において、「水平方向」とは、「XY平面方向」を示す。
【0017】
<切換弁について>
図1を用いて、本実施形態の切換弁100について説明する。切換弁100は、中空筒状のハウジング1、中空筒状の弁本体2、弁本体2に設けられ、軸線L方向に並ぶ複数の弁ポートを有する弁座部3、弁本体2の内部である弁室2aにスライド自在に設けられる弁体4、弁体4をスライド駆動する駆動部5、から主に構成される。以下、切換弁100のそれぞれの構成を順に説明する。ここで、図中の軸線Lは、ハウジング1、弁本体2、駆動部5の中心軸である。なお、本実施形態における切換弁100は、説明のために、四方切換弁とするものであるが、これに限らず、例えば、二方弁や三方切換弁であってもよい。
【0018】
ハウジング1は、アルミ材料からなり、有底筒状に形成される。ハウジング1において、左側壁には、入口経路1dが形成され、右側壁には、弁本体2を挿入するための挿入口1aが形成される。また、ハウジング1の下方には、複数の円筒状の流路として、第1経路1e、出口経路1s、第2経路1cが、軸線L方向に沿って順に形成される。ここで、詳細は後述するが、入口経路1d及び出口経路1sは、圧縮機200(
図2参照)の吐出口及び吸入口にそれぞれ接続され、第1経路1e及び第2経路1cは、凝縮器及び蒸発器の何れか一方にそれぞれ接続される。
【0019】
弁本体2は、ポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」という)にエラストマを添加した樹脂組成物からなり、有底筒状に形成され、内周壁2b、一端側壁部2c、及び、他端側開口部2dを備え、内部に弁室(弁本体の内部)2aが画定される。弁本体2の一端側壁部2cには、弁室2aに連通する入口ポート20が形成される。また、弁本体2の下方の内周壁2bには、水平方向に沿って平坦な固定面2bfが形成されており、この固定面2bfには、複数の円筒状の流路からなる、第1接続流路21、出口接続流路22、第2接続流路23が、軸線L方向に沿って順に形成される。ここで、入口ポート20及び出口接続流路22は、入口経路1d及び出口経路1sにそれぞれ接続され、第1接続流路21及び第2接続流路23は、第1経路1e及び第2経路1cにそれぞれ接続される。なお、固定面2bfの周縁部は、軸線L方向の一端側に形成される一端側ガイド部2cgと、軸線Lと直交する方向の一対の側方に形成される一対の側方ガイド部(不図示)と、を備える。さらに、弁本体2の右側の端部には、金属材料からなる筒状の下蓋24がインサート成形にて固定される。詳細は後述するが、この下蓋24には、隔壁部材54にインサート成形にて固定された上蓋25が、溶接により固定される。加えて、弁本体2の外周壁及びハウジング1の内周壁のいずれかに、軸線L方向に沿って、所定間隔で複数の溝部Gに配置されたOリング(シール部材)26を備える。よって、弁本体2が、ハウジング1の挿入口1aより、ハウジング1の内部に着脱自在に嵌挿され、弁本体2の一端側が、ハウジング1の底部1bに非当接状態、かつ、弁本体2の他端側が、C型形状の止め輪27により、上蓋25を介してハウジング1に固定状態とされる。この際、Oリング26により、入口経路1d、第2経路1c、出口経路1s、第1経路1eの各間がシールされる。なお、詳細は後述するが、弁座部3は、弁本体2の一端側ガイド部2cg、及び、一対の側方ガイド部(不図示)に位置決めされながら、弁座部3の接着面34が、弁本体2の固定面2bfに接合固定される。接合固定手段としては、接着剤Ad(
図4参照)による接着固定や、インサート成形が採用される。
【0020】
この接着固定に用いられる接着剤Adとしては、エポキシ系接着剤や、アクリル系接着剤が採用される。このエポキシ系又はアクリル系接着剤は、接着強度及び剛性が比較的高いため、弁体4に差圧が作用し弁座部3に押し付けられたとしても、弁本体2と弁座部3の相対位置が変化せず、接着面34における剥離が生じにくい。また、接着剤Adの厚さを、0.1mm以上0.3mm以下とすることにより、弁本体2及び弁座部3の変形量の差により生じるせん断応力に対し、効果的に対抗することができる。ここで、接着剤Adの厚さが、0.1mm未満であると、接着剤Adが、弁本体2の固定面2bf及び弁座部3の接着面34の形状に追従できずに隙間が生じてしまうため、弁漏れを生じるおそれがある。また、接着剤Adの厚さが、0.3mm超であると、せん断応力への対抗力が弱くなり、接着面34に剥離が生じるおそれがある。なお、本実施形態における接着剤Adは、エポキシ系接着剤や、アクリル系接着剤が採用されるものであるが、これに限らず、例えば、シリコン系接着材を用いてもよい。
【0021】
弁座部3は、薄型金属板からなり、弁本体2の固定面2bfに接着固定される。この弁座部3は、第1接続流路21に連通する第1ポート30、出口接続流路22に連通する出口ポート31、第2接続流路23に連通する第2ポート32がそれぞれ軸線L方向に所定の間隔を空けて形成される。第1ポート30、出口ポート31、及び、第2ポート32は、第1接続流路21、出口接続流路22、第2接続流路23よりも内径の寸法が小さい円筒状に形成される。また、弁座部3は、弁座部3における弁室2aに対向し、弁体4が摺接する摺接面33と、摺接面33の反対側に位置し、接着剤Adが塗布される接着面34と、を備える。
【0022】
弁体4は、PPS等の樹脂材料からなり、椀状の容器を裏返した形状である弁体本体40と、右側の端部から軸線L方向に突出する連結部44と、を備える。この弁体4は、弁座部3の摺接面33に対して、下面を当接させながら摺接し、弁座部3との間で空間を形成する。
【0023】
弁体本体40は、弁座部3の摺接面33と対向し、軸線L方向に延びる長円形状の開口縁部40aと、開口縁部40aから弁室2a側に突出する椀状部40bと、椀状部40bの内部に設けられる椀状凹部40cと、を備える。
【0024】
開口縁部40aは、摺接面33に摺接可能なシール部sを構成する。椀状部40bの頂部と弁本体2の内周壁との間には、ばね部材42が挟持され、このばね部材42により、弁体本体40が弁座部3に付勢され、椀状部40bの外部の弁室2aと椀状部40bの内部の椀状凹部40cとの間はシールされる。
【0025】
連結部44は、駆動部5に連結されるようにフック状に形成される。詳細は後述するが、連結部44は、軸材59を介して、駆動部5と連結される。
【0026】
駆動部5は、弁体4をスライド駆動する部分であり、回転可能なロータを有する電動モータとしてのステッピングモータ5aと、ステッピングモータ5aの回転を直線運動に変換して弁体4に伝達する直動機構5bと、を備える。
【0027】
ステッピングモータ5aは、有底筒状を有するキャン50と、マグネットロータ51と、ステータコイル52と、を備える。
【0028】
キャン50は、薄板状の金属材料からなり、有底筒状に形成される。
【0029】
マグネットロータ51は、回転子であり、キャン50の内部に配置される。
【0030】
ステータコイル52は、固定子であり、キャン50を挟んでマグネットロータ51の外周を軸線L回りに取り囲むように配置される。
【0031】
直動機構5bは、軸受け部材53と、隔壁部材54と、雄ねじ部材55と、雌ねじ部材56と、を備える。
【0032】
軸受け部材53は、PPS等の樹脂材料からなり、キャン50の底側の内部に配置され、軸線Lと同軸上に、雄ねじ部材55の右側端部を軸支する第一軸受孔53aを有する。
【0033】
隔壁部材54は、樹脂材料からなり、有底筒状に形成される。隔壁部材54の外周側には、金属材料からなり、テーパー状に形成される上蓋25が、インサート成形にて固定される。ここで、上蓋25の小径部25aが、キャン50に溶接等により固定され、駆動部5内を密閉する。また、上蓋25の大径部25bが、下蓋24に溶接等により固定される。これにより、隔壁部材54、キャン50、軸受け部材53、及び、弁本体2の中心軸は、軸線Lと同軸に配置される。さらに、隔壁部材54の底部側にある仕切壁54dは、軸線Lと同軸上に、雄ねじ部材55の左側端部を軸支する第二軸受孔54aと、第二軸受孔54aを挟んで配置される一対の隔壁孔54b(
図1には片側のみ図示)と、を有する。
【0034】
雄ねじ部材55は、外周面に雄ねじ部55dを有するロータ軸であり、マグネットロータ51の中心に固定部材55aを介して間接的に固定される。
【0035】
雌ねじ部材56は、内周面に雌ねじ部56a1が形成され、隔壁部材54内に半径方向の隙間を有して収容されるねじ筒部56aと、隔壁部材54の一対の隔壁孔54bに挿通することにより、雌ねじ部材56の軸線L回りの回転を規制する一対の連結腕部56b(
図1には片側のみ図示)と、を備える。この一対の連結腕部56bは、軸材59を介して、弁体4と連結される。ここで、雌ねじ部56a1及び雄ねじ部55dが互いに螺合することにより、ねじ送り機構を構成する。ここで、雌ねじ部56a1と雄ねじ部55dとの螺合領域Saは、常に、キャン50及び隔壁部材54により画定されるねじ収容空間Ss内に収容される。
【0036】
駆動部5において、ステッピングモータ5aにより、雄ねじ部材55が回転すると、ねじ送り機構により、雄ねじ部材55の回転が、雌ねじ部材56の直線運動に変換される。この雌ねじ部材56の直線運動によって、雌ねじ部材56と連結する弁体4が、軸線L方向にスライドするように進退駆動される。
【0037】
本実施形態において、弁体4を進退駆動する駆動部5は、雄ねじ部材55がマグネットロータ51に間接的に固定されるものであるが、これに限らず、例えば、雄ねじ部材55が、マグネットロータ51に直接的に固定されたものであってもよい。また、本実施形態における直動機構5bは、雄ねじ部材55がハウジング1に対して、回転可能に固定されるとともに、雌ねじ部材56が軸線L方向に進退可能にスライドする様態である。しかしながら、これに限らず、例えば、雌ねじ部材56がハウジング1に対して、回転可能に固定されるとともに、雄ねじ部材55が軸線L方向に進退可能にスライドする様態であってもよい。さらに、本実施形態における切換弁100は、長手方向の軸線Lを水平方向とし、弁体4を水平方向にスライドさせる使用様態としているが、これに限らず、例えば、長手方向の軸線Lを垂直方向とし、弁体4を垂直方向にスライドさせる使用様態であってもよい。また、本実施形態の駆動部5は、説明のために、ステッピングモータ5aを備えたものとしたが、これに限らず、例えば、弁本体2内に設けたピストンにて区画された室の圧力をパイロット弁により切換え、差圧を利用して弁体を駆動する駆動部5としてもよい。
【0038】
<切換弁の動作について>
切換弁100は、
図2(a),(b)に示すように、冷凍サイクルシステムに用いられ、入口経路1d、第2経路1c、出口経路1s、第1経路1eには、D継手管1D、C継手管1C、S継手管1S、E継手管1Eがそれぞれ取り付けられる。切換弁100は、駆動部5により、弁体4を軸線L方向にスライドするように進退駆動させることにより、圧縮機200の吐出口と接続されるD継手管1D、及び、圧縮機200の吸入口と接続されるS継手管1Sを、室外熱交換機300に接続されるC継手管1C、及び、室内熱交換機400に接続されるE継手管1Eのいずれか一方に、それぞれ連通させる。これにより、切換弁100は、冷凍サイクルシステムの流体経路を切り換える。
【0039】
<冷凍サイクルシステムの動作について>
まず、冷房運転時では、
図2(a)に示すように、切換弁100は、駆動部5を駆動し、弁体4を軸線L方向の右側位置へとスライドさせると、弁体本体40と弁座部3により、S継手管1SとE継手管1Eとが、椀状凹部40cを介して連通するとともに、D継手管1DとC継手管1Cとが、弁室2a及び第2ポート32を介して連通する。これにより、圧縮機200で圧縮された高圧の冷媒は、
図2(a)中の実線矢印で示すように、D継手管1Dから弁室2aを介して、C継手管1Cに流入され、室外熱交換機300、絞り装置500、室内熱交換機400の順に流れ、E継手管1Eから椀状凹部40cを介して、S継手管1Sへ流入された後、圧縮機200へと循環する。この際、室外熱交換機300は、凝縮器(コンデンサ)として機能するとともに、室内熱交換機400は、蒸発器(エバポレータ)として機能する。
【0040】
次に、暖房運転時では、
図2(b)に示すように、切換弁100は、駆動部5を駆動し、弁体4を軸線L方向の左側位置へとスライドさせると、弁体本体40と弁座部3により、C継手管1CとS継手管1Sとが、椀状凹部40cを介して連通するとともに、D継手管1DとE継手管1Eとが、弁室2a及び第1ポート30を介して連通する。これにより、圧縮機200で圧縮された高圧の冷媒は、
図2(b)中の破線矢印で示すように、D継手管1Dから弁室2aを介して、E継手管1Eに流入され、室内熱交換機400、絞り装置500、室外熱交換機300の順に流れ、C継手管1Cから椀状凹部40cを介して、S継手管1Sへ流入された後、圧縮機200へと循環する。この際、暖房運転時には、冷媒が冷房運転時とは逆に循環されており、室外熱交換機300は、蒸発器(エバポレータ)として機能するとともに、室内熱交換機400は、凝縮器(コンデンサ)として機能する。なお、
図2(a),(b)に示す冷凍サイクルシステムでは、C継手管1Cを室外熱交換機300に接続し、E継手管1Eを室内熱交換機400に接続したが、これに限らず、例えば、C継手管1Cを室内熱交換機400に接続し、E継手管1Eを室外熱交換機300に接続してもよい。
【0041】
<比較例の切換弁について>
ここからは、本実施形態の切換弁100についての理解を深めるために、まず、
図6及び
図7を用いて、比較例の切換弁100’が有する、従来の問題点(弁本体の周壁部にクラックが生じる問題)について説明した後、
図3を用いて、本実施形態の切換弁100における、この従来の問題点を解消するための構成を説明する。
【0042】
この比較例の切換弁100’は、弁本体2’の材料、及び、下蓋24’の取り付け構造に関して、本実施形態の切換弁100と異なるが、その他の基本構成は、本実施形態と同一である。ここで、同一構成には同一符号を付し、重複する説明は省略する。なお、この比較例は、本実施形態を説明する上で用いるものであり、従来技術を示すものではない。また、
図3及び
図7には、説明のために、弁本体2及び弁本体2’に生じる熱応力(図中の実線矢印及び破線矢印)を模式的に示している。さらに、詳細は後述するが、樹脂材料からなる弁本体2及び弁本体2’は、一般に強化剤が添加されるため樹脂流動方向の線膨張係数と、樹脂流動に直角方向の線膨張係数とが異なることとなる。明細書及び図面を用いた説明においては、金属材料の線膨張係数(例えば、ステンレス鋼:0~100℃において、17.3×10
-6/K)より大きい、樹脂流動に直角方向の線膨張係数(例えば、PPS:-50~50℃において、45×10
-6/K)を有する樹脂材料を用いる。加えて、
図7には、弁本体2’におけるクラックが示されているが、このクラックは、最初から形成されるものではなく、軸線L方向への膨張・収縮を繰り返した結果、生じるものである。
【0043】
<比較例の弁本体における材料について>
比較例の切換弁100’は、軽量化のために、従来の切換弁における、弁本体2’の材料を、金属材料に代えて、樹脂材料を採用したものである。この弁本体2’の樹脂材料は、線膨張係数が比較的大きいPPSのみであり、エラストマ等は添加されていない。
【0044】
<比較例の弁本体の周壁部にクラックが生じる問題点について>
弁本体2’が、ハウジング1の内部に嵌挿されると、弁本体2’とハウジング1との間、及び、隣接する2つのOリング26により、複数の環状隙間Ac1~Ac3が形成される。この各環状隙間Ac1~Ac3には、円周方向に開口する各連通開口部Op1~Op3を介して、常時、高温又は低温の作動流体が導入される。ここで、従来の切換弁のように、弁本体が金属材料からなる場合には、弁本体の線膨張係数は、比較的小さいため、弁本体にクラックが生じるおそれはなかった。
【0045】
しかしながら、比較例の弁本体2’は、線膨張係数が比較的大きいPPSからなり、また、
図6(a)及び
図6(b)に示すように、弁本体2’の周壁部における外周壁及び内周壁は、各環状隙間Ac1~Ac3及び弁室2aを介して、異なる温度を有する作動流体に同時に晒されている。したがって、弁本体2’は、特に、長尺である軸線L方向へと、比較的大きな変形(収縮及び膨張)を繰り返すことにより、弁本体2’の内部には、比較的大きな熱応力が生じている。
【0046】
具体的には、冷房運転時における比較例の切換弁100’では、
図6(a)及び
図7(a)に示すように、環状隙間Ac3及び弁室2aには、高温の作動流体(図中の濃いドット参照)がそれぞれ導入されるため、弁本体2’の内周壁及び外周壁には、膨張方向(
図7(a)の実線矢印参照)に熱応力が生じる。一方、暖房運転時における比較例の切換弁100’では、
図6(b)及び
図7(b)に示すように、環状隙間Ac3及び弁室2aには、低温の作動流体(図中の薄いドット参照)及び高温の作動流体(図中の濃いドット参照)がそれぞれ導入されるため、弁本体2’の内周壁及び外周壁には、膨張方向及び収縮方向(
図7(b)の破線矢印参照)に異なる熱応力が同時に生じる。なお、この時点では、弁本体2’にクラックは生じていない。
【0047】
このように、比較例の切換弁100’では、冷凍サイクルシステムの流体経路が切り換えられる毎に、弁本体2’の内周壁及び外周壁が、作動流体などの温度変化に晒され、収縮及び膨張を繰り返すことにより、従来の問題点(弁本体の周壁部にクラックが生じる問題)を有していた。
【0048】
これに対して、本実施形態における切換弁100では、従来の問題点(弁本体の周壁部にクラックが生じる問題)を解消するために、弁本体2の材料を工夫するものである。なお、本実施形態において、従来の問題点(弁本体の周壁部にクラックが生じる問題)を解消するために、弁本体の樹脂材料として、金属材料と同等の線膨張係数を有する特殊樹脂材料を採用することも考えられるが、このような特殊樹脂材料は極めて高コストであるため、好ましくない。
【0049】
<本実施形態の弁本体における材料について>
弁本体2は、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物からなる。このエラストマの含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、3質量部以上25質量部以下である。このように、弁本体2における材料として、線膨張係数が比較的大きいPPSにエラストマを均一に添加した樹脂組成物を採用することで、詳細は後述するが、弁本体2の靭性(シャルピー衝撃強さ)を著しく向上させることができる。
【0050】
なお、エラストマの含有量が、樹脂組成物100質量部に対して、3質量部未満であると、十分な靭性を発揮できなくなる。また、エラストマの含有量が25質量部超であると、構造体としての剛性を維持できなくなる。
【0051】
ここで、エラストマとは、ポリアミド系エラストマ及びポリエステル系エラストマ、各種ポリオレフィン系エラストマ、オレフィン共重合体系エラストマ、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素添加SBR、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン―ジエン系ゴム(EPDM)、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム及び各種熱可塑性エラストマのいずれか一つ又は二つ以上の組み合わせである。
【0052】
本実施形態の弁本体2(樹脂組成物100質量部に対して、エラストマ8質量部)、及び、比較例の弁本体2’(PPSのみ)について、ISO 179/1eA及びISO 179/1eUに準拠(測定温度23℃)して、シャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)及びシャルピー衝撃強さ(ノッチなし)をそれぞれ計測した。ここで、シャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)が、10kJ/m2以上、かつ、シャルピー衝撃強さ(ノッチなし)が、50kJ/m2以上の場合には、実際の使用環境において、弁本体にクラックが生じないことから、優れた靭性を有するものとする。
【0053】
本実施形態の弁本体2における、シャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)は、10kJ/m2であり、シャルピー衝撃強さ(ノッチなし)は、60kJ/m2である。これに対して、比較例の弁本体2’(PPSのみ)における、シャルピー衝撃強さ(ノッチなし)は、7kJ/m2であり、シャルピー衝撃強さ(ノッチなし)は、40kJ/m2である。このように、弁本体2の材料を、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物とすることにより、シャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)及びシャルピー衝撃強さ(ノッチなし)をともに、1.4倍程度大きくすることができ、靭性を著しく向上させることができる。
【0054】
このように、本実施形態における弁本体2は、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物からなることにより、弁本体2の靭性(シャルピー衝撃強さ)を著しく向上させることができる。よって、本実施形態における弁本体2は、
図3に示すように、弁本体2の内部に繰り返し生じる熱応力に対抗することができ、結果、従来の問題点(弁本体の周壁部にクラックが生じる問題)を解消することができる。
【0055】
なお、本実施形態の弁本体2は、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物からなるが、これに限らず、例えば、エラストマに加え、炭素繊維、ガラス繊維等の強化剤を添加してもよい。これにより、弁本体2の強度を向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態の弁本体2において、
図1に示すように、弁本体2の他端側が、C型形状の止め輪27により、上蓋25を介してハウジング1に固定状態されている一方、弁本体2の一端側が、ハウジング1の底部1bに非当接状態、つまり、自由端を有している。これにより、弁本体2は、特に、長尺である軸線L方向へと、比較的大きな変形(収縮及び膨張)を繰り返すこととなるが、弁本体2の一端側が自由に伸縮できるため、弁本体2の一端側が、ハウジング1に拘束されている場合と比べ、弁本体2の内部に生じる熱応力を抑制することができる。
【0057】
さらに、本実施形態の弁本体2(樹脂組成物100質量部に対して、エラストマ8質量部)の線膨張係数は、雰囲気温度が-50~50℃において、樹脂流動方向に、15×10-6/K、樹脂流動に対して直角方向に、50×10-6/Kであり、雰囲気温度が100~200℃において、樹脂流動方向に、15×10-6/K、樹脂流動に対して直角方向に、135×10-6/Kである。これに対して、比較例の弁本体2’(PPSのみ)の線膨張係数は、雰囲気温度が-50~50℃において、樹脂流動方向に、15×10-6/K、樹脂流動に対して直角方向に、45×10-6/Kであり、雰囲気温度が100~200℃において、樹脂流動方向に、15×10-6/K、樹脂流動に対して直角方向に、125×10-6/Kである。このように、本実施形態の弁本体2の材料として、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物を採用した場合と、比較例の弁本体2’の材料として、PPSのみを採用した場合とを比較すると、樹脂流動方向及び樹脂流動に対して直角方向の線膨張係数は、それほど変わるものではない。つまり、本実施形態の弁本体2が、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物からなることにより、従来の問題点(弁本体の周壁部にクラックが生じる問題)を解消することができるとの効果は、弁本体2の線膨張係数を低下させることに起因するものではなく、弁本体2の靭性を向上させることに起因するものである。
【0058】
以上より、本実施形態における弁本体2が、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物からなることにより、弁本体2の靭性(シャルピー衝撃強さ)を著しく向上させることができる。これにより、弁本体2は、内部に繰り返し生じる熱応力に対抗することができ、結果、従来の問題点(弁本体の周壁部にクラックが生じる問題)を解消することができる。
【0059】
<比較例の切換弁における新たな問題点について>
ここからは、
図8及び
図9を用いて、比較例の切換弁100’が有する新たな問題点について説明する。なお、
図8及び
図9には、説明のために、弁本体2’、弁座部3、下蓋24’に生じる熱応力(図中の実線矢印及び破線矢印)を模式的に示している。また、
図8及び
図9には、弁本体2’におけるクラックや、弁本体2’と下蓋24’との界面における剥離が示されているが、このクラック及び剥離は、最初から形成されるものではなく、軸線L方向又は半径方向への膨張・収縮を繰り返した結果、生じるものである。
【0060】
比較例の切換弁100’において、線膨張係数が比較的大きいPPSからなる弁本体2’に対して、線膨張係数が比較的小さい金属材料(例えば、ステンレス鋼)からなる弁座部3及び下蓋24’が、それぞれ、接着固定及びインサート成形されている。なお、PPSの樹脂流動に直角方向の線膨張係数は、-50~50℃において、50×10-6/Kである一方、ステンレス鋼の線膨張係数は、0~100℃において、17.3×10-6/Kである。以下、「弁座部の取り付け構造」を、「第1の取り付け構造」といい、「下蓋の取り付け構造」を、「第2の取り付け構造」という。このため、比較例の第1の取り付け構造及び第2の取り付け構造では、弁本体2’と、弁座部3及び下蓋24’との線膨張係数の違いにより、新たな問題点を有していた。以下では、第1の取り付け構造及び第2の取り付け構造における、新たな問題点及びこの問題点を解消する構成を順に説明する。
【0061】
<比較例の第1の取り付け構造について>
まず、
図8(a)及び
図8(b)を用いて、弁座部3を弁本体2’に対して接着固定した場合を例に、比較例の第1の取り付け構造(弁座部3の取り付け構造)について説明する。
【0062】
弁座部3は、弁本体2’の一端側ガイド部2cg、及び、一対の側方ガイド部(不図示)に位置決めされながら、弁座部3の接着面34を、接着剤Adを介して、弁本体2’の固定面2bfに接着固定される。
【0063】
<比較例の第1の取り付け構造における新たな問題点について>
比較例の切換弁100’において、線膨張係数が比較的大きいPPSからなる弁本体2’に対して、線膨張係数が比較的小さい金属材料(例えば、ステンレス鋼)からなる弁座部3が、接着固定されている。よって、弁本体2’と弁座部3との間には、線膨張係数の違いが生じているため、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、作動流体などの温度変化により、異なる変形量を有する収縮及び膨張を、主に、弁本体2’及び弁座部3が延在する軸線L方向に繰返すものである。
【0064】
具体的には、冷房運転時における比較例の切換弁100’では、
図6(a)及び
図8(a)に示すように、第2経路1c、入口経路1d、及び、弁室2aには、高温の作動流体(図中の濃いドット参照)がそれぞれ導入されるため、一点鎖線VIIIaで囲まれた領域における弁本体2’及び弁座部3には、膨張方向(
図8(a)の実線矢印参照)に熱応力が生じる。一方、暖房運転時における比較例の切換弁100’では、
図6(b)及び
図8(b)に示すように、第2経路1cには、低温の作動流体(図中の薄いドット参照)が導入されるとともに、入口経路1d及び弁室2aには、高温の作動流体(図中の濃いドット参照)が導入されるため、一点鎖線VIIIbで囲まれた領域における弁本体2’及び弁座部3には、収縮方向(
図8(b)の破線矢印参照)に熱応力が生じる。
【0065】
このように、弁本体2’及び弁座部3の軸線L方向の変形量の差が比較的大きいことに起因して、弁本体2’の弁座部3近傍に比較的大きいせん断応力が負荷され、結果、
図8(b)に示すように、弁本体2’にクラックが生じる問題があった(以下、「新たな問題点(弁本体の弁座部近傍にクラックが生じる問題)」という)。
【0066】
<本実施形態の第1の取り付け構造について>
図4を用いて、本実施形態の第1の取り付け構造(弁座部3の取り付け構造)について説明する。なお、
図4には、説明のために、弁本体2及び弁座部3に生じる熱応力(図中の実線矢印及び破線矢印)を模式的に示している。
【0067】
本実施形態の第1の取り付け構造では、上記<本実施形態の弁本体における材料について>で説明したように、弁本体2の材料を、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物とすることにより、従来の問題点(弁本体の周壁部にクラックが生じる問題)を解消させるのと同時に、新たな問題点(弁本体の弁座部近傍にクラックが生じる問題)も解消させることができる。なお、この弁本体2の材料については、上記<本実施形態の弁本体における材料について>での説明内容と重複するため、ここでは省略する。
【0068】
なお、本実施形態の弁座部3の取り付け構造は、弁本体2と弁座部3との間を、接着剤Adにより、接着固定するものであるが、これに限らず、例えば、弁座部3を弁本体2にインサート成形するものを採用してもよい。
【0069】
<比較例の第2の取り付け構造について>
次に、
図9(a)及び
図9(b)を用いて、比較例の第2の取り付け構造(下蓋24’の取り付け構造)について説明する。
【0070】
比較例の下蓋24’は、筒状を有する金属材料からなり、弁本体2’にインサート成形される。この下蓋24’は、弁本体2’から露出され、軸線L方向に延在する露出部24a’と、弁本体2’に埋設され、半径方向に延在する埋設部(埋設領域)24b’と、を備える。なお、下蓋24’には、上蓋25を介して、重量の大きい駆動部5が固定されることから、下蓋24’と上蓋25との固定手段には、必然的に、固着強度が比較的大きい溶接固定が採用される。ここで、比較例の第2の取り付け構造における下蓋24’と弁本体2’との固定手段として、インサート成形に代えて、接着固定を採用することも考えられる。ここで、下蓋24’と弁本体2’との固定手段として接着固定を採用した場合には、インサート成形と比べ、固着強度が極めて小さくなる上、下蓋24’と弁本体2’との間に形成される固化した接着剤が、下蓋24’と上蓋25との溶接固定時に生じる溶接熱に晒されるため、固着強度がさらに低下するおそれがあった。よって、下蓋24’と弁本体2’との固定手段として、接着固定を採用することはできず、インサート成形が採用される。
【0071】
<比較例の第2の取り付け構造における新たな問題点について>
比較例の切換弁100’において、線膨張係数が比較的大きいPPSからなる弁本体2’に対して、線膨張係数が比較的小さい金属材料(例えば、ステンレス鋼)からなる下蓋24’が、インサート成形されている。よって、弁本体2’と下蓋24’との間には、線膨張係数の違いが生じているため、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、作動流体などの温度変化により、異なる変形量を有する収縮及び膨張を、主に、埋設部24b’が延在する半径方向に繰返すものである。なお、下蓋24’は、止め輪27により、溶接固定された上蓋25の大径部25bを介して、ハウジング1に固定される。
【0072】
具体的には、冷房運転時における比較例の切換弁100’では、
図6(a)及び
図9(a)に示すように、環状隙間Ac1及び弁室2aには、低温の作動流体(図中の薄いドット参照)及び高温の作動流体(図中の濃いドット参照)がそれぞれ導入されるため、弁本体2’及び下蓋24’には、収縮方向(
図9(a)の実線矢印参照)に熱応力が生じる。一方、暖房運転時における比較例の切換弁100’では、
図6(b)及び
図9(b)に示すように、環状隙間Ac1及び弁室2aには、高温の作動流体(図中の濃いドット参照)がそれぞれ導入されるため、弁本体2’及び下蓋24’には、膨張方向(
図9(b)の破線矢印参照)に熱応力が生じる。なお、この時点では、弁本体2’及び下蓋24’との界面における剥離、及び、弁本体2’におけるクラックはそれぞれ生じていない。
【0073】
このように、弁本体2’及び下蓋24’の半径方向に変形量の差が比較的大きいことに起因して、弁本体2’及び下蓋24’の間のインサート成形による接合部に、半径方向応力(圧縮応力、引張応力)及びせん断応力が生じる。ここで、半径方向応力は、
図9(a)に示される第1の接合部J1に負荷されるものであり、せん断応力は、
図9(a)に示される第2の接合部J2に負荷されるものである。まず、この半径方向応力は、冷房運転時及び暖房運転時において負荷される方向が入れ替わることにより、第1の接合部J1が有する引張強度の低下を徐々に引き起こし、この半径方向応力が、第1の接合部J1が有する引張強度を超えると、弁本体2’と下蓋24’の露出部24a’との間の円筒形状の界面において、剥離が生じる。次に、せん断応力は、冷房運転時及び暖房運転時において負荷される方向が入れ替わることにより、第2の接合部J2が有するせん断強度の低下を徐々に引き起こし、このせん断応力が、第2の接合部J2が有するせん断強度を超えると、弁本体2’と下蓋24’の埋設部24b’との間の軸線L方向に対向する一対の円板形状の界面において、剥離が生じる。最後に、弁本体2’と下蓋24’とは、半径方向の対向面のみで接着固定されるため、弁本体2’及び下蓋24’の半径方向の変形量の差により生じるせん断応力が、弁本体2’の内部に直接負荷され、
図9(a)に示すように、弁本体2’にクラックが生じる問題があった。(以下、「新たな問題点(下蓋の取り付け構造に剥離が生じる問題)」という)。
【0074】
ここで、比較例の第2の取り付け構造は、流体経路の一部を形成するため、第2の取り付け構造において剥離が生じた場合、作動流体が、剥離した領域を介して、弁室2aから環状隙間Ac1及び第1経路1eへと漏洩が生じるおそれがあった。よって、比較例の切換弁100’においては、弁本体2’にクラックが生じることを抑制することはもちろん、その前提として、下蓋24’の取り付け構造に剥離が生じること自体を抑制する必要があった。なお、「弁本体2’にクラックが生じることを抑制すること」については、上記<本実施形態の弁本体における材料について>で説明したように、弁本体2’の材料を、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物とすることにより、問題を解消させることができるため、ここでの説明は省略する。
【0075】
これに対して、本実施形態における切換弁100では、新たな問題点(下蓋の取り付け構造に剥離が生じる問題)を解消するために、下蓋24の埋設部24bの形状を工夫するものである。
【0076】
<本実施形態の第2の取り付け構造について>
図5を用いて、本実施形態の第2の取り付け構造(下蓋24の取り付け構造)について説明する。なお、
図5には、説明のために、弁本体2及び下蓋24に生じる熱応力(図中の実線矢印及び破線矢印)を模式的に示している。
【0077】
本実施形態の第2の取り付け構造において、下蓋24は、弁本体2から露出され、軸線L方向に延在する露出部24aと、弁本体2の他端側(軸線方向端部)に埋設され、軸線L方向に沿うS字断面形状を有する埋設部(埋設領域)24bと、を備える。
【0078】
ここで、埋設部24bが、軸線L方向に沿うS字断面形状を有しているため、特に、半径方向に対向する弁本体2と埋設部24bとの密着した接合面積を著しく増加させ、弁本体2に対する埋設部24bの接合強度を比較的大きくすることができる。この埋設部24bの比較的大きな接合強度は、弁本体2及び下蓋24の変形量(主に、半径方向の変形量)の差が小さくなるように働き、第1の接合部J1及び第2の接合部J2における半径方向応力(圧縮応力、引張応力)及びせん断応力を比較的小さくするため、新たな問題点(下蓋の取り付け構造に剥離が生じる問題)を解消することができる。
【0079】
なお、弁室2a内の圧力の上昇などにより、弁本体2に生じる軸線L方向応力が、下蓋24に負荷されたとしても、軸線L方向に沿うS字断面形状を有する埋設部24bにおける一端側及び他端側が、この軸線L方向応力を分散して受けるとともに、埋設部24bが有する弾性力が、この分散された軸線L方向応力に、それぞれ対抗するため、新たな問題点(下蓋の取り付け構造に剥離が生じる問題)を解消することができる。
【0080】
また、本実施形態の第2の取り付け構造において、下蓋24のS字断面形状を有する埋設部24bは、半径方向への貫通する複数の貫通穴24cを有し、この複数の貫通穴24cは、周方向に沿って配置される。ここで、下蓋24が弁本体2に対してインサート成形される際に、樹脂組成物は、複数の貫通穴24cに充填された状態で固化する。これにより、下蓋24の貫通穴24cが、弁本体2に対して密着性をさらに高め、抜け止め手段として機能するため、新たな問題点(下蓋の取り付け構造に剥離が生じる問題)を確実に解消することができる。
【0081】
なお、本実施形態における複数の貫通穴24cは、周方向に沿って配置されるものであればよく、例えば、周方向への均等配置されるものや、周方向への不均等配置されるものも含む。
【0082】
以上より、本実施形態における弁本体2が、PPSにエラストマを添加した樹脂組成物からなることにより、弁本体2にクラックが生じることを抑制できる上、下蓋24の埋設部24bが、軸線L方向に沿うS字断面形状を有することにより、弁本体2に対する埋設部24bの接合強度を比較的大きくすることができるため、新たな問題点(下蓋の取り付け構造に剥離が生じる問題)を解消することができる。また、本実施形態における埋設部24bが、半径方向への貫通する複数の貫通穴24cを有することにより、弁本体2に対して抜け止め手段として機能するため、新たな問題点(下蓋の取り付け構造に剥離が生じる問題)を確実に解消することができる。
【0083】
<その他>
本実施形態の切換弁100は、例示する冷凍サイクルシステムだけでなく、あらゆる流体装置及び流体回路に適用可能であることは言うまでもない。また、本発明は、上述した各形態や、各実施形態、随所に述べた変形例に限られることなく、本発明の技術的思想から逸脱しない範囲で、適宜の変更や変形が可能である。
【符号の説明】
【0084】
100 切換弁
100’ 比較例の切換弁
1 ハウジング
1a 挿入口
1b 底部
1c 第2経路
1d 入口経路
1e 第1経路
1s 出口経路
1C C継手管
1D D継手管
1E E継手管
1S S継手管
2,2’ 弁本体
2a 弁室(弁本体の内部)
2b 内周壁
2c 一端側壁部
2cg 一端側ガイド部
2d 他端側開口部
20 入口ポート
21 第1接続流路
22 出口接続流路
23 第2接続流路
24,24’ 下蓋
24a,24a’ 露出部
24b,24b’ 埋設部(埋設領域)
24c 貫通穴
25 上蓋
25a 小径部
25b 大径部
26 Oリング(シール部材)
27 止め輪
3 弁座部
30 第1ポート
31 出口ポート
32 第2ポート
33 摺接面
34 接着面
4 弁体
40 弁体本体
40a 開口縁部
40b 椀状部
40c 椀状凹部
42 ばね部材
44 連結部
45 締結バンド
5 駆動部
5a ステッピングモータ
5b 直動機構
50 キャン
51 マグネットロータ
52 ステータコイル
53 軸受け部材
53a 第一軸受孔
54 隔壁部材
54a 第二軸受孔
54b 一対の隔壁孔
54d 仕切壁
55 雄ねじ部材
55a 固定部材
55d 雄ねじ部
56 雌ねじ部材
56a ねじ筒部
56a1 雌ねじ部
56b 一対の連結腕部
59 軸材
200 圧縮機
300 室外熱交換機
400 室内熱交換機
500 絞り装置
Ac1~Ac3 環状隙間
Ad 接着剤
G 溝部
J1 第1の接合部
J2 第2の接合部
Op1~Op3 連通開口部
s シール部
Sa 螺合領域
Ss ねじ収容空間