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特開2024-59270クレーン駆動用電動機の制御システム、クレーン駆動用電動機、及び、搬送用クレーン
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  • 特開-クレーン駆動用電動機の制御システム、クレーン駆動用電動機、及び、搬送用クレーン 図1
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  • 特開-クレーン駆動用電動機の制御システム、クレーン駆動用電動機、及び、搬送用クレーン 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059270
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】クレーン駆動用電動機の制御システム、クレーン駆動用電動機、及び、搬送用クレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 15/00 20060101AFI20240423BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B66C15/00 A
B66C13/22 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166852
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】川野 慎治
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA01
3F204CA05
3F204FA03
3F204FA04
3F204FB17
3F204FD03
(57)【要約】
【課題】主幹制御器のクランクハンドルが、搬送用クレーンの停止を指示する「0ノッチ」に入っている場合におけるクレーン駆動用電動機の誤作動を防止すること。
【解決手段】主幹制御器1は、クランクハンドル12が0ノッチ位置にあることを検出する0ノッチ位置検出手段11を有し、操作回路3は、主回路2において方向切替用接触器22又は加速用接触器21がON状態にあることを検出する接触器ON状態検出手段32と、0ノッチ位置検出手段11が、クランクハンドル12が0ノッチ位置にあることを検出したときに閉じるように動作する接点である0ノッチ位置検出時閉鎖接点33と、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33に接続されていて、0ノッチ以外の何れかのノッチに対応する信号が前記接触器に入力されたことを検出する接点閉止検出手段34と、を有する、クレーン駆動用電動機の制御システム10とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクハンドルの操作によって搬送用クレーンの駆動用電動機を制御する主幹制御器と、
前記駆動用電動機の回転速度を制御する接触器を有する主回路と、
前記接触器の開閉を操作する操作回路と、
を備える、
クレーン駆動用電動機の制御システムであって、
前記主幹制御器は、前記クランクハンドルが0ノッチ位置にあることを検出する0ノッチ位置検出手段を有し、
前記操作回路は、
前記主回路において方向切替用接触器又は加速用接触器がON状態にあることを検出する接触器ON状態検出手段と、
前記0ノッチ位置検出手段が前記クランクハンドルが0ノッチ位置にあることを検出したときに閉じるように動作する接点である0ノッチ位置検出時閉鎖接点と、
前記0ノッチ位置検出時閉鎖接点に接続されていて、0ノッチ以外の何れかのノッチに対応する信号が前記接触器に入力されたことを検出する接点閉止検出手段と、
を有する、
クレーン駆動用電動機の制御システム。
【請求項2】
前記接点閉止検出手段が前記0ノッチ以外の何れかのノッチに対応する信号が前記接触器に入力されたことを検出したときに、前記駆動用電動機の主電源を切断する、
請求項1に記載のクレーン駆動用電動機の制御システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のクレーン駆動用電動機の制御システムを備える、
クレーン駆動用電動機。
【請求項4】
請求項3に記載のクレーン駆動用電動機を備える、
搬送用クレーン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン駆動用電動機の制御システム、クレーン駆動用電動機、及び、搬送用クレーンに関する。本発明は、詳しくは、工場の天井付近に設けられた搬送路を走行する天井クレーン等の搬送用クレーンの駆動用電動機の制御システム、当該制御システムを備える搬送用クレーンの駆動用電動機、及び、当該駆動用電動機を備える、搬送用クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
天井クレーン等の搬送用クレーンの走行の制御手段として、直接制御方式による制御方法と、間接制御方式による制御方法とがある。直接制御方式による制御方法とは、搬送用クレーンの動作の制御に係る電路の開閉を、手動ドラム型やカム型可逆制御器等で直接行う制御方法である。一方、間接制御方式による制御方法とは、上記搬送用クレーンの動作を制御するための回路における電路の開閉を、電磁接触器のコイルを介して間接的に行う制御方法である(特許文献1参照)。
【0003】
図2は、間接制御方式による搬送用クレーンの制御方法を行う場合に用いられる主幹制御器の一例を示す図である。この主幹制御器1は、上面に回動可能なクランクハンドル12を有している。間接制御方式によって搬送用クレーンの制御を行う場合においては、このような主幹制御器のクランクハンドルを所定位置に回動させることによって、電磁接触器のコイルを介して電路の開閉が行われる。このようにして、クランクハンドルの位置に対応した動作を搬送用クレーンに実施させる主幹制御器を用いた間接制御方式による搬送用クレーンの制御方法は、複雑な制御、大容量のモータ又は高頻度使用に適した制御方法として広く採用されている。
【0004】
図3は、主幹制御器1のクランクハンドル12の位置と、搬送用クレーンの移動方向及び移動速度との関係において、採用可能な組合せの一例を示している。同図に示すように、クランクハンドル12は、実線で描かれる中央位置0(以下、「0ノッチ」とも言う)を基準にして、左(L)方向、及び右(R)方向の夫々に3段階で回動させることができる。主幹制御器1のクランクハンドル12を、「0ノッチ」を基準にして左(L)方向、及び右(R)方向の夫々に3段階で回動させることにより、その位置に対応した移動方向及び移動速度で搬送用クレーンを走行させることができる。
【0005】
ここで、図4は主幹制御器1を用いて間接制御方式による制御を行うクレーン駆動用電動機の制御システムの主回路の回路図の一例を示す図である。同図に示す主回路2において、IMは誘導電動機、Srは起動抵抗器、21A、21Bは起動抵抗器Srを順次短絡させるための加速用接触器、22R、及び22Lは、正転、逆転をさせるための方向切替用接触器である。
【0006】
又、図6は、従来の間接制御方式による制御を行うクレーン駆動用電動機の制御システムにおいて、図4に示す主回路2に設けられている各種接触器を操作するための操作回路(従来型)4の一例を示す図である。同図に示す、22R、22L、21A、21Bは、夫々図4の同符号の接触器と対応する接触器である。CR1~CR5は、クランクハンドル12の位置に応じて所定の組合せで作動する継電器の接点である。ここで、22R、22L、21A、21Bは相互に並列接続となるように構成されており、CR1~CR4は、上記各接触器(22R、22L、21A、21B)に対応した回路上に接続されている。より具体的に説明すると、CR1に対応する回路上には22R、CR2に対応する回路上には22L、CR3に対応する回路上には21A、CR4に対応する回路上には21Bが接続されている。一方、CR5は、CR1~CR4と並列接続となるように構成されているが、CR5に対応する回路は「0ノッチ」に対応した回路であるため、本回路上には接続される接触器はない。
【0007】
図6には、更に、主幹制御器1が、中央の「0ノッチ位置(図3におけるクランクハンドル12の実線位置)」を基準にして、左(L)方向、及び右(R)方向の夫々に3段階(I~III)で回動するクランクハンドル12を有しているとき、クランクハンドル12が配置される位置によって、何れの継電器の接点が閉じるかを示す相関図が併記されている(点線の枠内)。同相関図には、例えば、クランクハンドルを「RIノッチ」に入れたときはCR1の接点が閉じ、クランクハンドルを「RIIノッチ」に入れたときはCR1、及びCR3の両方の接点が閉じることが示されている。
【0008】
さて、図6に示す従来型の操作回路4、及び図4に示す主回路2を有する従来のクレーン駆動用電動機の制御システムの下では、搬送用クレーンは次のように動作する。先ず、クランクハンドル12を「RIノッチ」に入れた場合には、CR1が閉じて図6に示す方向切替用接触器22Rに電流が流れるので、図4の22Rが閉じて誘導電動機IMはR側に回転する。この状態においては、加速用接触器21A、21Bは何れも開いており、起動抵抗器Srは全て接続されて起動電流は制限されている。次に、クランクハンドル12を「RIIノッチ」に入れた場合には、更にCR3が閉じて加速用接触器21Aに電流が流れるので、図4の21Aが閉じて右端の起動抵抗器Srが短絡されて誘導電動機IMを流れる電流が増えトルクが増大する。つまり、クランクハンドルを「RIIノッチ」に入れることにより、R側への移動速度を「RIノッチ」に入れたときよりも高めるように制御することができる。更に、クランクハンドルを「RIIIノッチ」に入れた場合には、加速用接触器21Aに加え、更に、CR4が閉じて21Bにも電流が流れるので、図4の21Bが閉じて全ての起動抵抗器Srが短絡されて誘導電動機IMを流れる電流が更に増加してトルクが最大となる。これらの制御はクランクハンドル12をL側に順次回動させるときも同様に行われる。そして、クランクハンドルを「0ノッチ」に戻すと、全ての接触器(22R、22L、21A、21B)が開放されるので、誘導電動機IMに流れる電流を遮断して搬送用クレーンを停止状態にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭50-37271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、上述したような間接制御方式による制御を行う従来のクレーン駆動用電動機の制御システムにおいては、高湿度の環境等で使用されたときに、クランクハンドル12を「0ノッチ」に入れているにもかかわらず、結露による回路の短絡に起因して、例えば、接点CR1~CR4の何れかが意図せずに閉じ、方向切替用接触器(図6では、22R、22L)や、加速用接触器(図6では、21A、21B)に電流が流れてしまい、意図しない態様で搬送用クレーンが走行してしまうことがあった。クランクハンドルが、搬送用クレーンの停止を指示する「0ノッチ」に入っている場合における上記のような搬送用クレーンの逸走は、重大な事故につながるリスクがあるため、このようなクレーン駆動用電動機の誤作動を未然に防止することができる制御手段が求められていた。
【0011】
本発明は、主幹制御器による間接制御方式で走行の制御を行う搬送用クレーンにおいて、クランクハンドルが、搬送用クレーンの停止を指示する「0ノッチ」に入っている場合におけるクレーン駆動用電動機の誤作動を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、クレーン駆動用電動機の制御システムにおいて、主回路の接触器の開閉を操作する操作回路の回路構成を独自の設計思想の下に改良することにより、上記課題を解決できることに想到し、本発明を完成させるに至った。本発明は、具体的には、以下のものを提供する。
【0013】
(1) クランクハンドルの操作によって搬送用クレーンの駆動用電動機を制御する主幹制御器と、前記駆動用電動機の回転速度を制御する接触器を有する主回路と、前記接触器の開閉を操作する操作回路と、を備える、クレーン駆動用電動機の制御システムであって、前記主幹制御器は、前記クランクハンドルが0ノッチ位置にあることを検出する0ノッチ位置検出手段を有し、前記操作回路は、前記主回路において方向切替用接触器又は加速用接触器がON状態にあることを検出する接触器ON状態検出手段と、前記0ノッチ位置検出手段が前記クランクハンドルが0ノッチ位置にあることを検出したときに閉じるように動作する接点である0ノッチ位置検出時閉鎖接点と、前記0ノッチ位置検出時閉鎖接点に接続されていて、0ノッチ以外の何れかのノッチに対応する信号が前記接触器に入力されたことを検出する接点閉止検出手段と、を有する、クレーン駆動用電動機の制御システム。
【0014】
(1)のクレーン駆動用電動機の制御システムによれば、主幹制御器による間接制御方式で走行の制御を行う搬送用クレーンにおいて、クランクハンドルが「0ノッチ」に入っている場合におけるクレーン駆動用電動機の誤作動を防止することができる。
【0015】
(2) 前記接点閉止検出手段が前記0ノッチ以外の何れかのノッチに対応する信号が前記接触器に入力されたことを検出したときに、前記駆動用電動機の主電源を切断する、(1)に記載のクレーン駆動用電動機の制御システム。
【0016】
(2)のクレーン駆動用電動機の制御システムによれば、主幹制御器による間接制御方式で走行の制御を行う搬送用クレーンにおいて、クランクハンドルが「0ノッチ」に入っている場合における搬送用クレーンの逸走に伴う重大事故の発生をより確実に防止することができる。
【0017】
(3) (1)又は(2)に記載のクレーン駆動用電動機の制御システムを備える、クレーン駆動用電動機。
【0018】
(3)のクレーン駆動用電動機によれば、(1)又は(2)のクレーン駆動用電動機の制御システムの奏する上記各効果を享受して、クレーン駆動用電動機の誤作動を防止することにより搬送用クレーンの動作の安全性を著しく高めることができる。
【0019】
(4) (3)に記載のクレーン駆動用電動機を備える、搬送用クレーン。
【0020】
(4)の搬送用クレーンによれば、工場の天井付近に設けられた搬送路を走行する天井クレーン等の搬送用クレーンの動作の安全性を著しく高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、主幹制御器による間接制御方式で走行の制御を行う搬送用クレーンにおいて、クランクハンドルが、搬送用クレーンの停止を指示する「0ノッチ」に入っている場合におけるクレーン駆動用電動機の誤作動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のクレーン駆動用電動機の制御システムの基本構成を示すブロック図である。
図2】クレーン駆動用電動機の制御システムを構成する主幹制御器の全体形状の概略を示す斜視図。
図3図2の主幹制御器の回動可能なクランクハンドルの位置と、搬送用クレーンの移動方向、及び、そのときの設定移動速度との関係において、採用可能な組合せの一例を示す図である。
図4】本発明のクレーン駆動用電動機の制御システムにおいて、駆動用電動機の作動速度を制御する主回路の回路図である。
図5】本発明のクレーン駆動用電動機の制御システムにおいて、図4に示す主回路に設けられた各種の接触器を操作するための操作回路の回路図である。
図6】従来のクレーン駆動用電動機の制御システムにおいて、図4に示す主回路に設けられた各種の接触器を操作するための操作回路(従来型)の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0024】
<クレーン駆動用電動機の制御システム>
本発明のクレーン駆動用電動機の制御システムは、工場の天井付近に設けられた搬送路を走行する天井クレーン等、各種の搬送用クレーンの走行を、間接制御方式により制御するための制御システムである。本発明のクレーン駆動用電動機の制御システム(クレーン駆動用電動機の制御システム10)は、図1に示すように、主幹制御器1、主回路2、操作回路3を含んで構成される。
【0025】
クレーン駆動用電動機の制御システム10において、主回路2は、通常、制御対象となるクレーン駆動用電動機の内部に配置され、操作回路3は、主幹制御器1の内部に配置される。但し、クレーン駆動用電動機の制御システム10内における上記各構成要件(主幹制御器1、主回路2、操作回路3)の配置は、上記配置態様に限定されない。例えば、主回路2や操作回路3を、駆動用電動機や、主幹制御器1とは離間した位置に制御装置として別途配置し、各回路及び各装置を、電気通信回線を介して通信可能に接続した構成の制御システムとする等、様々な配置態様で、本発明のクレーン駆動用電動機の制御システム10を構成することが可能である。
【0026】
[主幹制御器]
図2は、クレーン駆動用電動機の制御システム10を構成する主幹制御器1の全体形状の概略を示す斜視図である。図2に示す通り、主幹制御器1は、その上面に回動可能なクランクハンドル12を有している。主幹制御器1は、クランクハンドル12の操作によって搬送用クレーンの駆動用電動機を制御する機器である。具体的には、クランクハンドル12を回動させて所定位置に配置することによって、その位置に対応した動作を搬送用クレーンに実施させることができる。尚、主幹制御器1の本体部13は、鋼板製エンドプレート及びケースで覆われており、内部に配置される各回路の接点の点検も行い易い構造とされている。
【0027】
そして、本発明のクレーン駆動用電動機の制御システム10を構成する主幹制御器1は、クランクハンドル12が「0ノッチ位置」にあることを検出する0ノッチ位置検出手段11が設けられている(図1参照)ことを従来品とは異なる主たる特徴とする。0ノッチ位置検出手段11は、具体的には、クランクハンドルのクランク軸に設けられた角度検出器により構成することができる。そして、0ノッチ位置検出手段11によって、クランクハンドル12が「0ノッチ位置(図3におけるクランクハンドル12の実線位置)」にあることが検出された場合には、操作回路3の「接点X0(図5参照)」に対して、接点を閉じる動作を命令する信号が出力される。「接点X0」は、0ノッチ位置検出手段11によってクランクハンドル12が「0ノッチ位置」にあることが検出されたときに閉じる接点として操作回路3内に設けられている接点である。操作回路3の回路構成の詳細は後述する。
【0028】
ここで、クランクハンドル12には、通常、その回動方向の動きには幾らかの遊びがある。このため、0ノッチ位置検出手段11を、クランクハンドル12が、その「0ノッチ位置」を中心とした「所定可動領域」内に配置されている場合に、クランクハンドルが「0ノッチ位置」にあるとみなすように構成することが好ましい。具体的には、例えば、クランク軸を中心としたクランクハンドル12が、「0ノッチ位置」にある場合の回動角度を0°とした場合に、図3に示すL1側及びR1側に、±5°の範囲までの回動範囲を「所定可動領域」とし、この範囲内にクランクハンドル12が配置されているときに、クランクハンドル12が「0ノッチ位置」にあるとみなすように上記の角度検出器の設定を調整することが好ましい。「所定可動領域」をこのようなクランクハンドル12の遊びの大きさに応じた領域に設定するようにすることにより、「0ノッチ位置」の検出が行い易くなる。
【0029】
[主回路]
図4は、クレーン駆動用電動機の制御システム10を構成する主回路2の回路図である。主回路2は、クレーン駆動用電動機の制御システム10において、駆動用電動機の回転速度を制御するための電気的な信号を駆動用電動機に向けて出力する回路である。又、本明細書における「回転速度」速度とは駆動用電動機の回転方向と速さ(単位時間当たり回転数)の少なくとも何れかを含む概念である。図4に示す主回路2において、IMは誘導電動機、Srは起動抵抗器である。そして、21A、21Bは起動抵抗器Srを順次短絡させて駆動用電動機の速さを制御する加速用接触器21であり、22R、22Lは、正転、逆転をさせるための、即ち、回転方向を制御する、方向切替用接触器22である。
【0030】
[操作回路]
図5は、クレーン駆動用電動機の制御システム10を構成する操作回路3の回路図である。操作回路3は、主回路2に設けられている駆動用電動機の作動速度を制御するための各種接触器の開閉を命令する電気的な信号を主回路2に向けて出力する回路である。操作回路3において、図5に示す(A)の領域に設けられている接触器22R、22L、21A、21Bは、夫々図4の主回路2における同符号の接触器と対応する接触器である。又、同じく図5に示す(A)の領域に設けられている接点CR1、CR2、CR3、CR4、CR5は、クランクハンドル12の位置に対応して所定の組合せで閉じるように作動する継電器の接点である。上記の接触器22R、22L、21A、21B及び接点CR1、CR2、CR3、CR4、CR5については、本発明のクレーン駆動用電動機の制御システム10を構成する操作回路3においても、図6に示す従来型の操作回路4と同様の回路構成である。
【0031】
(接触器ON状態検出手段)
操作回路3には、従来とは異なる構成として、図5に示す(A)の領域に、主回路2において方向切替用接触器22R、22L、加速用接触器21A、21BがON状態にあることを検出する接触器ON状態検出手段32として、電流検出手段「AcR1」、「AcR2」、「AcR3」、「AcR4」が設けられている。これらの電流検出手段のうち、「AcR1」、「AcR2」は、主回路2において方向切替用接触器22R、22Lに対応した回路に流れる電流を検出する。又、「AcR3」、「AcR4」は、同様に加速用接触器21A、21Bに対応した回路に流れる電流を検出する。
【0032】
接触器(22R、22L、21A、21B)は、相互に並列接続となるように構成されており、接触器ON状態検出手段32として機能する上記各電流検出手段(「AcR1」、「AcR2」、「AcR3」、「AcR4」)は、夫々の上記接触器(22R、22L、21A、21B)に対応した回路上に接続されている。例えば、クレーン駆動用電動機を正転せるための方向切替用接触器22Rに対応する回路上には接触器ON状態検出手段32として機能する電流検出手段「AcR1」が接続されている。同様に接触器22Lに対応する回路上には電流検出手段「AcR2」、加速用接触器21Aに対応する回路上には電流検出手段「AcR3」、加速用接触器21Bに対応する回路上には電流検出手段「AcR4」が、夫々接続されている。
【0033】
尚、図5に示す通り、0ノッチ電流検出手段31として機能する電流検出手段「AcR0」も、接触器ON状態検出手段32として機能する電流検出手段「AcR1」、「AcR2」、「AcR3」、「AcR4」と並列接続となるように構成されているが、電流検出手段「AcR0」に対応する回路は、0ノッチに対応した回路であるため、本回路上には接続される接触器はない。
【0034】
(0ノッチ電流検出手段)
又、クレーン駆動用電動機の制御システム10を構成する操作回路3においては、従来とは異なる構成として、図5に示す(A)の領域に、「0ノッチ」が入力されたときに流れる電流を検出する0ノッチ電流検出手段31として電流検出手段「AcR0」が設けられていることが好ましい。この電流検出手段「AcR0」は、上記の接点CR5(クランクハンドル12の位置に対応して所定の組合せで閉じるように作動する継電器の接点)に対応した回路に設けられ、「0ノッチ」が入力されたときに流れる電流を検出する。
【0035】
0ノッチ電流検出手段31は、クレーン駆動用電動機の制御システム10において、クランクハンドル12が、搬送用クレーンの停止を指示する「0ノッチ」に入っている場合におけるクレーン駆動用電動機の誤作動を防止するという最小限の効果を担保する上で、不可欠な構成ではない。但し、操作回路3に0ノッチ電流検出手段31が備えられていることによって、CR1~CR4が互いに並列接続となるように構成された各々の回路の異常に加え、CR1~CR4に並列接続となるように構成されたCR5に対応する回路の異常ついても検出することができるようになる。つまり、主幹制御器1のクランクハンドル12が0ノッチに配置された状態となっているにもかかわらず、「0ノッチ」が入力されていない状態を直接的に検出することができるようになる。操作回路3への0ノッチ電流検出手段31の設置は、このように、「0ノッチ」以外の短絡と合わせて「0ノッチ」に係る各接点の異常等を速やかに検出して異常が生じた回路を特定することができるようになる点において、大いに有用である。
【0036】
(0ノッチ位置検出時閉鎖接点)
又、操作回路3には、従来とは異なる構成として、図5に示す(B)の領域に、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33として接点「X0」が設けられていて、この接点「X0」によって(A)の領域の回路と接続されている新たな制御回路が更に設けられている。この新たな制御回路は、主幹制御器1から各ノッチに対応する信号が操作回路3に出力されたときに閉じる各ノッチの入力接点「AcR0」、「AcR1」、「AcR2」、「AcR3」、「AcR4」及び接点閉止検出手段34(BcR0~BcR5)を含んで構成されている。
【0037】
0ノッチ位置検出時閉鎖接点33として機能する接点「X0」は、0ノッチ位置検出手段11と対応する継電器の接点である。具体的には、接点「X0」は、主幹制御器1に備えられている0ノッチ位置検出手段11(角度検出器)が、クランクハンドル12が「0ノッチ位置」にあることを検出したときに閉じるように動作する接点である。
【0038】
同じく上記(B)の領域に設けられている各ノッチの入力接点「AcR0」、「AcR1」、「AcR2」、「AcR3」、「AcR4」は、図5における(A)の領域に示される同符号の電流検出手段と対応する継電器の接点である。ここで、(B)の領域に設けられているこれらの各ノッチの入力接点(「AcR0」、「AcR1」、「AcR2」、「AcR3」、「AcR4」)は、相互に並列接続となる態様で、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33として機能する接点「X0」に接続されている。
【0039】
上記(B)の領域に設けられている各ノッチの入力接点のうち接点「AcR0」は、クレーン駆動用電動機の制御システム10において、クランクハンドル12が、搬送用クレーンの停止を指示する「0ノッチ」に入っている場合におけるクレーン駆動用電動機の誤作動を防止するという最小限の効果を担保する上で、不可欠な構成ではない。但し、操作回路3に接点「AcR0」が備えられていることによって、接点CR1~CR4が互いに並列接続となるように構成された各々の回路の異常に加え、接点CR1~CR4に並列接続となるように構成された接点CR5に対応する回路の異常ついても検出することができるようになる。つまり、主幹制御器1のクランクハンドル12が0ノッチに配置された状態となっているにも拘らず「0ノッチ」が入力されていない状態を直接的に検出することができるようになる。操作回路3への接点「AcR0」の設置は、このように、「0ノッチ」以外の短絡と合わせて「0ノッチ」に係る各接点の異常等を速やかに検出して異常が生じた回路を特定することができるようになる点において、大いに有用である。
【0040】
接点「AcR0」を設ける場合には、0ノッチ電流検出手段31(接点AcR0)において電流を検出しない状態では開くように動作する接点「AcR0(A)」と、閉じるように動作する接点「AcR0(B)」とからなる構成とすることが好ましい。この場合、0ノッチ電流検出手段31((A)の領域に設けられている電流検出手段「AcR0」)において電流を検出すると、接点AcR0(A)においては閉じるように動作し、接点AcR0(B)においては開くように動作する。
【0041】
又、上記(B)の領域に設けられている各ノッチの入力接点のうち接点「AcR1」、「AcR2」、「AcR3」、「AcR4」は、接触器ON状態検出手段32((A)の領域に設けられている接点「AcR1」、「AcR2」、「AcR3」、「AcR4」)において電流を検出しない状態では開くように動作し、接触器ON状態検出手段32において電流を検出すると閉じるように動作する。
【0042】
(接点閉止検出手段)
又、操作回路3には、従来とは異なる構成として、図5に示す(B)の領域に、0ノッチ以外の何れかのノッチに対応する信号が接触器に入力されたことを検出する接点閉止検出手段34として、電流検出手段「BcR0」、「BcR1」、「BcR2」、「BcR3」、「BcR5」が更に設けられている。接点閉止検出手段34を構成するこれらの各電流検出手段は、上記の接点「AcR0」、「AcR1」、「AcR2」、「AcR3」、「AcR4」の夫々に対応した回路上に設けられている。このため、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33(接点X0)が閉じた状態にあるときには、接点閉止検出手段34(電流検出手段BcR0~BcR5)によって上記の接点(AcR0~AcR4)のうち、何れの接点が閉じたかを特定して検出することができる。この動作により、接点閉止検出手段34は、0ノッチ以外の何れかのノッチに対応する信号が接触器に入力されたことを個別に検出することができる。
【0043】
例えば、0ノッチ位置検出手段11(角度検出器)から出力された信号に基づいて、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33(接点X0)が閉じた状態にあるとき、接点閉止検出手段34を構成する各電流検出手段のうち、電流検出手段BcR2において電流を検出したならば、主幹制御器1のクランクハンドル12が0ノッチ位置に配置されているにもかかわらず、接点AcR1が閉じた状態にあること、即ち、接点CR1が閉じて方向切替用接触器22Rに電流が流れている状態になっていることを検出することができる。このようにして、クレーン駆動用電動機の制御システム10は、主幹制御器1のクランクハンドル12が0ノッチ位置に配置されている状態のときに、主幹制御器の内部回路に生じた短絡等によって0ノッチ以外のノッチが入力されて、操作回路3の接点CR1~CR4の何れかが意図せずに閉じた場合に、操作回路3における意図しない電流の流れを即座に検出し、クランクハンドル12が0ノッチ位置に配置されている状態であるにもかかわらず搬送用クレーンが走行を開始してしまうような危険な誤作動を防止することができる。
【0044】
<クレーン駆動用電動機の制御システムの動作>
次に、本実施形態におけるクレーン駆動用電動機の制御システムの動作の具体例について詳細に説明する。
【0045】
(正常時の動作)
先ず、主幹制御器1の内部回路の短絡等の不具合が生じていない正常時の動作について説明する。先ず、この状態においては、主幹制御器1のクランクハンドル12が、0ノッチ位置に配置された状態となっていることにより、0ノッチ位置検出手段11(角度検出器)は、そのクランクハンドルの「0ノッチ位置」を検出して、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33(接点X0)が閉じる動作を行う信号を出力し、接点X0が閉じる。
【0046】
一方、操作回路3においては、クランクハンドルの「0ノッチ位置」に対応した接点CR5のみが閉じ、図5の領域に配置されている0ノッチ電流検出手段31(電流検出手段AcR0)のみに電流が流れ、この電流が検出されることにより、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33(接点X0)に接続されている接点AcR0(A)は閉じるように動作し、接点AcR0(B)は開くように動作する。
【0047】
このとき、接触器ON状態検出手段32(接点AcR1~AcR4)には電流が流れないため、これらの接触器ON状態検出手段32(接点AcR1~AcR4)では電流の検出は行われず、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33(接点X0)に接続されている接点(接点AcR1~AcR4)は全て開く。このため、接点閉止検出手段34を構成する電流検出手段(BcR0~BcR5)のうちで、電流を検出するのはBcR0のみとなる。
【0048】
(異常時の動作)
次に、主幹制御器1の内部回路の短絡等の不具合が生じた場合の異常時の動作について説明する。具体例として、主幹制御器1のクランクハンドル12が0ノッチ位置に配置された状態となっているときに、短絡等の回路内の不具合によって意図せずに操作回路3の接点CR1が閉じてしまうような場合を例示する。この場合も、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33(接点X0)については、上記同様、0ノッチ位置検出手段11(角度検出器)からの信号によって閉じることとなる。一方、クランクハンドル12の位置に対応した操作回路3内の接点(接点CR1~CR5)については、クランクハンドル12が0ノッチに入れられていることに起因して接点CR5が閉じるとともに、尚且つ、短絡等の不具合に起因して接点CR1も閉じてしまう状態となる。
【0049】
上記の状態においては、接触器ON状態検出手段32を構成する電流検出手段のうち、AcR0及びAcR1が電流を検出する。これにより、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33(接点X0)に接続されている接点AcR1、及び接点AcR0(A)は閉じるように動作し、一方で、接点AcR0(B)は開くように動作する。この結果、接点閉止検出手段34を構成する電流検出手段のうち、BcR0及びBcR2が電流を検出する。又、何らかの不具合によって意図せず接点CR1、及び、接点CR3が閉じてしまう場合も、上記と同様にして、接点閉止検出手段34を構成する電流検出手段のうち、BcR0、BcR2及びBcR4が電流を検出する。
【0050】
このように、操作回路3においては、主幹制御器1の内部回路に短絡が生じた場合等の異常時においては、接点閉止検出手段34を構成する電流検出手段のうち、BcR0の他に、接点異常が生じた回路に対応する接点(例えば、BcR2~BcR5の何れか)において電流を検出するようになる。このため、BcR0の他に、例えば、BcR2~BcR5の何れかにおいて電流を検出状態にあるときにクレーン駆動用電動機の主電源を切断するような回路を構成すれば、搬送用クレーンの逸走等、クランクハンドルが0ノッチに入れられているときに生じる、搬送用クレーンの意図しない動作を効果的に防止することが可能である。
【0051】
さて、本発明のクレーン駆動用電動機の制御システムにおいては、0ノッチ位置検出時閉鎖接点33(接点X0)に接続されている接点閉止検出手段34の上記動作によって、主幹制御器1のクランクハンドル12が0ノッチに配置された状態となっている場合において、本来閉じるべき接点である接点CR5以外の何れかの接点CR1~4が閉じていること、又、何れの接点が閉じてしまっているのかを特定して検出することができる。例えば、接点閉止検出手段34を構成する全ての電流検出手段のうち、BcR0の他に、BcR3~BcR5において電流が検出された状態にあるときは、短絡等によって接点CR2~接点CR4が閉じてしまった状態であることを特定することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 主幹制御器
11 0ノッチ位置検出手段
12 クランクハンドル
13 本体部
2 主回路
21(21A、21B) 加速用接触器
22(22L、22R) 方向切替用接触器
3 操作回路
31 0ノッチ電流検出手段
32 接触器ON状態検出手段
33 0ノッチ位置検出時閉鎖接点
34 接点閉止検出手段
4 操作回路(従来型)
図1
図2
図3
図4
図5
図6