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特開2024-59295FRP緊張材の定着方法及びFRP緊張材の定着構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059295
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】FRP緊張材の定着方法及びFRP緊張材の定着構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20240423BHJP
   E04C 5/08 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
E04G21/12 104D
E04C5/08
E04G21/12 104C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166892
(22)【出願日】2022-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行者名:公益社団法人プレストレストコンクリート工学会、刊行物名:プレストレストコンクリート工学会第30回シンポジウム論文集、該当頁:第639~642頁、頒布日:令和3年10月21日 (2)第30回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム、令和3年10月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】狩野 武
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 裕生
(72)【発明者】
【氏名】永元 直樹
(72)【発明者】
【氏名】横山 和昭
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祐典
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164AA05
2E164AA31
2E164DA01
2E164DA27
(57)【要約】
【課題】無収縮モルタルを充填できない長さの緊張材挿通孔が形成されたプレキャスト部材の緊張材挿通孔に、全長に亘って充填材を充填できるようにする。
【解決手段】プレストレストコンクリート部材(1)におけるFRP緊張材(3)の定着方法は、緊張材挿通孔4の長手方向の一端側の第1端部区間S1に、FRP緊張材をプレキャスト部材(2)に定着させるための第1充填材(5)を注入する第1注入ステップと、緊張材挿通孔の長手方向の中央に位置する中央区間S2に、第1充填材よりも流動性が高い第2充填材(6)を緊張材挿通孔に注入する第2注入ステップと、緊張材挿通孔長手方向の他端側の第2端部区間S3に、第1充填材を注入する第3注入ステップとを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレストコンクリート部材におけるFRP緊張材の定着方法であって、
プレキャスト部材に形成された緊張材挿通孔に前記FRP緊張材を挿入するステップと、
前記緊張材挿通孔に挿入された前記FRP緊張材を緊張するステップと、
前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の長手方向の一端側の第1端部区間に、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための第1充填材を注入する第1注入ステップと、
前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の長手方向の中央に位置する中央区間に、前記第1充填材よりも流動性が高い第2充填材を前記緊張材挿通孔に注入する第2注入ステップと、
前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の長手方向の他端側の第2端部区間に、前記第1充填材を注入する第3注入ステップとを含む、FRP緊張材の定着方法。
【請求項2】
前記第2注入ステップは前記第1注入ステップ後に行われ、前記第2注入ステップにおいて、前記第2充填材は、前記第1注入ステップにて充填された前記第1充填材が充填された位置から行われ、
前記第3注入ステップは前記第2注入ステップ後に行われ、前記第3注入ステップにおいて、前記第1充填材は、前記第2注入ステップにて充填された前記第2充填材が充填された位置から行われる、請求項1に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項3】
前記第1注入ステップでは、前記緊張材挿通孔の前記一端から、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための定着長よりも長い第1長さ離間した第1位置まで前記第1充填材を充填し、
前記第2注入ステップでは、前記第1位置よりも前記一端側かつ、前記緊張材挿通孔の前記一端から前記定着長離間した位置よりも前記他端側の前記の第2位置から前記第2充填材を注入し、前記緊張材挿通孔の他端から所定長さ離間した第3位置まで前記第2充填材を充填し、
前記第3注入ステップでは、前記緊張材挿通孔の前記他端から前記定着長よりも長い第2長さ離間しかつ、前記第3位置よりも前記一端側にある第4位置から前記第1充填材を注入する、請求項2に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項4】
前記緊張材挿通孔の前記第1位置には前記第1充填材の到達を確認するための第1確認孔が形成され、前記緊張材挿通孔の前記第3位置には前記第2充填材の到達を確認するための第2確認孔が形成されている、請求項3に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項5】
前記第1充填材は無収縮モルタルであり、前記第2充填材はPCグラウトである、請求項1~4のいずれか1項に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項6】
プレストレストコンクリート部材におけるFRP緊張材の定着構造であって、
前記プレストレストコンクリート部材は、
緊張材挿通孔が形成されたプレキャスト部材と、
前記緊張材挿通孔に配置される前記FRP緊張材と、
前記緊張材挿通孔の少なくとも両端部に充填され、前記FRP緊張材の両端部を前記プレキャスト部材に定着させる第1充填材と、
前記緊張材挿通孔の長手方向の中央部に充填される第2充填材とを有し、前記第2充填材の未硬化状態の流動性が前記第1充填材の未硬化状態の流動性よりも高い、FRP緊張材の定着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート部材におけるFRP緊張材の定着方法及びFRP緊張材の定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート部材にプレストレスを与える緊張材には、PC鋼材が使用されていることがある。プレキャストコンクリート部材には、シースが埋め込まれており、シース内にPC鋼材を挿入する。PC鋼材を緊張させたのち、両端を定着具で固定する。定着具は、PC鋼材の両端をプレキャスト部材に定着させることによってPC鋼材の緊張力を保持する。シース内部にはグラウトが充填されることがある。グラウトが充填されることにより、PC鋼材の腐食が防止されるうえ、グラウトを介してPC鋼材がコンクリート部材に保持される。近年では、金属に代えて繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastic)が緊張材に使用されることがある。
【0003】
特許文献1には、コンクリート製主桁にFRPを緊張材とした、プレストレスを与える方法が開示されている。この方法は、作業員によって以下の手順で行われる。コンクリート製主桁は、FRP緊張材を挿通するためのシースと、コンクリート製主桁の両端部近傍に配置され、シースに連通するように形成された長方体形状の凹陥部とを有する。両凹陥部のそれぞれは、コンクリート製主桁の上面に開口している。まず、シース及び凹陥部にFRPを挿入し、緊張する。PC鋼材に用いるような定着具によってアラミドFRPの端部をプレキャスト部材に定着させることはできない。そこで、緊張後、両凹陥部及びシース内にセメントモルタル、樹脂モルタル等の充填材を注入する。両凹陥部に充填されたモルタルは、FRPをコンクリート製主桁に定着させ、FRPの緊張力を保持する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-133648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モルタルは流動性が低いため、特許文献1のように、凹陥部からシース内にモルタルを注入しても、シースの全長に亘ってモルタルを充填することは困難である。凹陥部のみにモルタルを充填すれば、FRP緊張材をプレキャスト製主桁に定着させることはできる。しかしながら、緊張材が挿通されるシース内(緊張材挿通孔)の中央部に空洞部が存在すると、その部分の強度が端部に比べて低くなるうえ、振動等によってFRP緊張材がプレキャスト部材のシースや他のFRP緊張材に擦れて摩耗する虞もある。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、モルタルを充填できない長さの緊張材挿通孔が形成されたプレキャスト部材の緊張材挿通孔に、全長に亘って充填材を充填できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、プレストレストコンクリート部材(1)におけるFRP緊張材(3)の定着方法であって、プレキャスト部材(2)に形成された緊張材挿通孔(4)に前記FRP緊張材を挿入するステップ(図3(B))と、前記緊張材挿通孔に挿入された前記FRP緊張材を緊張するステップ(図3(C))と、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の長手方向の一端(4a)側の第1端部区間(S1)に、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための第1充填材(5)を注入する第1注入ステップ(図4(D))と、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の長手方向の中央に位置する中央区間(S2)に、前記第1充填材よりも流動性が高い第2充填材(6)を前記緊張材挿通孔に注入する第2注入ステップ(図4(E))と、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔長手方向の他端側の第2端部区間(S3)に、前記第1充填材を注入する第3注入ステップ(図4(F))とを含む。
【0008】
この態様によれば、第1~第3注入ステップを行うことにより、より長い長さに亘って充填材を緊張材挿通孔に充填することができる。加えて、第2注入ステップにおいて第1充填材よりも流動性が高い第2充填材を緊張材挿通孔に注入することにより、第1充填材を注入する場合に比べて長い長さに亘って充填材を緊張材挿通孔に充填することができる。
【0009】
上記の態様において、前記第2注入ステップは前記第1注入ステップ後に行われ、前記第2注入ステップにおいて、前記第2充填材は、前記第1注入ステップにて充填された前記第1充填材が充填された位置から行われ、前記第3注入ステップは前記第2注入ステップ後に行われ、前記第3注入ステップにおいて、前記第1充填材は、前記第2注入ステップにて充填された前記第2充填材が充填された位置から行われるとよい。
【0010】
この態様によれば、第2注入ステップ及び第3注入ステップにおいて、緊張材挿通孔内の第1充填材と第2充填材との間に空気が残留することを抑制できる。また、両ステップにおいて、緊張材挿通孔内の空気を押し出しながら充填材を緊張材挿通孔に充填することができる。
【0011】
上記の態様において、前記第1注入ステップでは、前記緊張材挿通孔の前記一端から、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための定着長よりも長い第1長さ離間した第1位置(P1)まで前記第1充填材を充填し、前記第2注入ステップでは、前記第1位置(P1)よりも前記一端側かつ、前記緊張材挿通孔の前記一端から前記定着長離間した位置よりも前記他端側の前記の第2位置(P2)から前記第2充填材を注入し、前記緊張材挿通孔の他端から所定長さ離間した第3位置(P3)まで前記第2充填材を充填し、前記第3注入ステップでは、前記緊張材挿通孔の前記他端から前記定着長よりも長い第2長さ離間しかつ、前記第3位置よりも前記一端側にある第4位置(P4)から前記第1充填材を注入するとよい。
【0012】
この態様によれば、FRP緊張材をプレキャスト部材に定着させるための定着長よりも長い区間に第1充填材を注入し、FRP緊張材の両端をプレキャスト部材に定着させることができる。
【0013】
上記の態様において、前記緊張材挿通孔の前記第1位置(P1)には前記第1充填材の到達を確認するための第1確認孔が形成され、前記緊張材挿通孔の前記第3位置(P3)には前記第2充填材の到達を確認するための第2確認孔が形成されているとよい。
【0014】
この態様によれば、第1注入ステップにおいて、第1充填材の注入を開始した後、第1充填材が第1確認孔に到達したことを以て、第1充填材が緊張材挿通孔の一端から第1位置まで充填されたことを判断することができる。また、第2注入ステップにおいて、第2充填材の注入を開始した後、第2充填材が第2確認孔に到達したことを以て、第2充填材が第2位置から第3位置まで充填されたことを判断することができる。よって、緊張材挿通孔内の第1充填材と第2充填材との間に空気が残留することをより確実に抑制できる。
【0015】
上記の態様において、前記第1充填材は無収縮モルタルであり、前記第2充填材は第1充填材よりも流動性が高いPCグラウトであるとよい。
【0016】
この態様によれば、無収縮モルタルよりも流動性が高いPCグラウトを用いて、無収縮モルタルでは充填できない長さにわって容易に緊張材挿通孔に充填材を充填することができる。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明は、プレストレストコンクリート部材(1)におけるFRP緊張材(3)の定着構造であって、前記プレストレストコンクリート部材は、緊張材挿通孔(4)が形成されたプレキャスト部材(2)と、前記緊張材挿通孔に配置される前記FRP緊張材と、前記緊張材挿通孔の少なくとも両端部(S1、S3)に充填され、前記FRP緊張材の両端部を前記プレキャスト部材に定着させる第1充填材(5)と、前記緊張材挿通孔の長手方向の中央部(S2)に充填される第2充填材(6)とを有し、前記第2充填材の未硬化状態の流動性が前記第1充填材の未硬化状態の流動性よりも高い。
【0018】
この態様によれば、緊張材挿通孔の両端部に第1充填材を充填することで、緊張状態のFRP緊張材の両端部をプレキャスト部材に定着させることができる。また、緊張材挿通孔の中央部に第2充填材を充填することで、空洞部が存在しない定着構造体を構築することができる。これにより、振動等によってFRP緊張材がコンクリート部材や他のFRP緊張材に擦れて摩耗することを防ぐことができる。また、緊張材挿通孔の長手方向の中央部に第2充填材を充填するため、少ない注入回数で緊張材挿通孔に全長に亘って充填材を充填でき、工程を短縮することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、モルタルを充填できない長さの緊張材挿通孔が形成されたプレキャスト部材の緊張材挿通孔に全長に亘って充填材を充填できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係るプレストレストコンクリート床版の側面図
図2】プレストレストコンクリート床版の両端部の拡大断面図
図3】FRP緊張材の定着方法の説明図
図4】FRP緊張材の定着方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係るFRP緊張材の定着方法及びFRP緊張材の定着構造の実施形態について説明する。実施形態では、アラミドFRP緊張材3の定着構造が適用されるプレストレストコンクリート製の床版の例について説明する。
【0022】
図1は本発明の実施形態に係るプレストレストコンクリート床版1の側面図である。プレストレストコンクリート床版1は、桁の上に配置された複数のプレキャスト床版部材2を連結して構築される。図中には、プレキャスト床版部材2に、左から順に2、2、2、・・・、2(n―1)、2と符号を付す。これらのプレキャスト床版部材2をまとめて、プレキャスト床版部材2と称することもある。これらのプレキャスト床版部材2は、アラミドFRP緊張材3によってプレストレスを導入されることによって一体化され、プレストレストコンクリート床版1が構築される。
【0023】
図2はプレストレストコンクリート床版1の両端部の拡大断面図である。図2に示すように、各プレキャスト床版部材2には橋軸方向に延在する緊張材挿通孔4が形成されている。複数のプレキャスト床版部材2が所定の位置に配置されることにより、これらの緊張材挿通孔4は橋軸方向に連続し、1本の緊張材挿通孔4となる。
【0024】
緊張材挿通孔4には緊張状態のアラミドFRP緊張材3が配置されている。緊張材挿通孔4の両端部には、アラミドFRP緊張材3をプレキャスト床版部材2に定着させる第1充填材として無収縮モルタル5が充填されている。無収縮モルタル5は、アラミドFRP緊張材3を定着させるための所定の定着長Lよりも長い長さに亘って緊張材挿通孔4に充填されている。橋軸方向の各端部に配置された少なくとも1つのプレキャスト床版部材2は、アラミドFRP緊張材3を定着させるための定着床版部材である。以下、無収縮モルタル5が充填された緊張材挿通孔4の左端側の部分を第1端部区間S1と称し、無収縮モルタル5が充填された緊張材挿通孔4の右端側の部分を第2端部区間S3と称する。
【0025】
緊張材挿通孔4の無収縮モルタル5が充填されていない部分、すなわち緊張材挿通孔4の中央部には、空洞部を埋めるための第2充填材としてPCグラウト6が充填されている。PCグラウト6は、未硬化状態において、無収縮モルタル5の流動性よりも高い流動性を有している。以下、PCグラウト6が充填された緊張材挿通孔4の中央の部分を中央区間S2と称する。充填材の注入は、緊張材挿通孔4の長手方向の一端である左端4aから他端である右端4bの向きに行われる。
【0026】
左端に配置されたプレキャスト床版部材2に隣接するプレキャスト床版部材2及び右端に配置されたプレキャスト床版部材2に隣接するプレキャスト床版部材2(n―1)の緊張材挿通孔4には注入口7、10及び排出口8、9が設けられている。プレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4はシースによって形成されてよく、注入口7、10及び排出口8、9はシースを連結するカプラーに設けられてよい。またプレキャスト床版部材2~2(n―2)の緊張材挿通孔4に予備の注入口及び排出口が設けられてもよい。
【0027】
注入口7、10は緊張材挿通孔4の下側から下方へ延び、プレキャスト床版部材2の下面に至っている。排出口8、9はプレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4の上側から湾曲しながらプレキャスト床版部材2の下面に至っている。注入口7、10及び排出口8、9がプレキャスト床版部材2の下面にて開口し、上面に開口が設けられないことにより、路面から劣化因子が浸入するリスクが回避されている。
【0028】
プレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4に設けられた左側の注入口7は、緊張材挿通孔4の中央区間S2の左端に設けられている。以下、この位置を第2位置P2と称する。第2位置P2は、プレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4の左端4aから定着長Lより長い長さ離間した位置である。プレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4に設けられた左側の排出口8は、第2位置P2の右側近傍に設けられている。以下、この位置を第1位置P1と称する。第2位置P2も、プレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4の左端4aから定着長Lより長い長さ離間した位置である。
【0029】
プレキャスト床版部材2(n―1)の緊張材挿通孔4に設けられた右側の排出口9は、緊張材挿通孔4の第2端部区間S3の左端近傍に設けられている。以下、この位置を第3位置P3と称する。第3位置P3は、プレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4の右端4bから定着長Lより長い長さ離間した位置である。プレキャスト床版部材2(n―1)の緊張材挿通孔4に設けられた右側の注入口10は、第3位置P3の左側近傍であって第2端部区間S3の左端に設けられている。以下、この位置を第4位置P4と称する。第4位置P4も、プレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4の右端4bから定着長Lより長い長さ離間した位置である。
【0030】
プレストレストコンクリート床版1は以上のように構成されている。次に、図3及び図4を用いて、プレストレストコンクリート床版1におけるアラミドFRP緊張材3を定着させる方法について説明する。以下の作業は作業員によって行われる。
【0031】
図3(A)に示すように、複数のプレキャスト床版部材2を所定の位置に配置する。この状態で、緊張材挿通孔4は橋軸方向に連続し、左端4a及び右端4bにおいて開口している。注入口7、10及び排出口8、9のプレキャスト床版部材2の下面側の端部にはバルブが設けられている。図3(B)以降、バルブは図示省略する。
【0032】
図3(B)に示すように、橋軸方向に連続した緊張材挿通孔4にアラミドFRP緊張材3を挿入する。アラミドFRP緊張材3を挿入したのち、図3(C)に示すように、緊張装置11を用いてアラミドFRP緊張材3を緊張する。緊張装置11にはジャッキ等を用いてよい。アラミドFRPを緊張させた後、緊張材挿通孔4の左端4aに注入ホース12を設け、緊張材挿通孔4の他端に排出ホース13を設ける。排出ホース13は後述する図4(F)のステップまでに設けられればよい。
【0033】
図4(D)に示すように、アラミドFRP緊張材3が緊張装置11によって緊張された状態で、注入ホース12から緊張材挿通孔4内に無収縮モルタル5を注入し、緊張材挿通孔4の左端4aから第1位置P1まで無収縮モルタル5を充填する。無収縮モルタル5の注入作業中は第1位置P1及び第2位置P2のバルブは開かれた状態とされる。第2位置P2の注入口7から無収縮モルタル5の排出が確認された後、第2位置P2のバルブを閉じる。次いで、第1位置P1の排出口8から無収縮モルタル5の排出が確認された後、第1位置P1のバルブを閉じて、無収縮モルタル5の注入を停止する。
【0034】
図4(E)に示すように、上記無収縮モルタル5の注入作業後、無収縮モルタル5が硬化する前に、第2位置P2のバルブを開き、第2位置P2の注入口7から緊張材挿通孔4内にPCグラウト6を注入し、第3位置P3までPCグラウト6を充填する。PCグラウト6の注入作業中は第1位置P1、第3位置P3及び第4位置P4のバルブは開かれた状態とされる。第4位置P4の注入口10からPCグラウト6の排出が確認された後、第4位置P4のバルブを閉じる。次いで、第3位置P3の排出口9からPCグラウト6の排出が確認された後、第3位置P3のバルブを閉じて、PCグラウト6の注入を停止する。上記無収縮モルタル5注入作業時に、第2位置P2の注入口7が無収縮モルタル5によって塞がれた場合、中央区間S2に配置された他のプレキャスト床版部材2に設けられた予備の注入口からPCグラウト6を注入してもよい。
【0035】
図4(F)に示すように、上記PCグラウト6の注入作業後、第4位置P4の注入口10から緊張材挿通孔4内に無収縮モルタル5を注入し、緊張材挿通孔4の右端4bまで無収縮モルタル5を充填する。緊張材挿通孔4の右端4bに設けた排出ホース13から無収縮モルタル5の排出が確認された後、無収縮モルタル5の注入を停止する。
【0036】
図3及び図4で示す工程の後、第1端部区間S1及び第2端部区間S3に充填された無収縮モルタル5を硬化させる。これにより、アラミドFRP緊張材3の両端部が橋軸方向の両端部に配置されたプレキャスト床版部材2、2に定着される。その後、緊張装置11を取り外し、緊張材挿通孔4の両端部から露出したアラミドFRP緊張材3を切除する。また、プレキャスト床版部材2の下面に開口する注入口7、10及び排出口8、9に取り付けたバルブやホース(12、13)等を除去する。以上により、プレストレストコンクリート床版1が構築される。
【0037】
このように、緊張材挿通孔4の左端4a側の第1端部区間S1及び、緊張材挿通孔4の右端4b側の第2端部区間S3に無収縮モルタル5を充填することで、緊張状態のアラミドFRP緊張材3の両端部をプレキャスト床版部材2に定着させることができる。また、第2位置P2から第4位置P4までの中央区間S2にPCグラウト6を充填することで、空洞部が存在しない定着構造体を構築することができる。この構造によって、振動等によってアラミドFRP緊張材3がプレキャスト床版部材2や他のアラミドFRP緊張材3に擦れて摩耗することを防ぐことができる。
【0038】
中央区間S2が長尺のために中央区間S2に無収縮モルタル5を充填することが困難な場合、場所を移動しながら複数回に亘って注入作業を行わなければならず、施工性が悪い。これに対し上記実施形態では、中央区間S2に無収縮モルタル5の代わりにPCグラウト6が充填される。PCグラウト6は、未硬化状態において、無収縮モルタル5の流動性よりも高い流動性を有している。よって、無収縮モルタル5では充填できない長さに亘って容易に緊張材挿通孔4に充填材を充填することができる。これにより、無収縮モルタル5を充填する注入作業が困難なほど長尺の中央区間S2に、少ない注入回数でPCグラウト6を容易に注入することでき、施工性が向上する上、工程が短縮される。
【0039】
また、実施形態のアラミドFRP緊張材3の定着方法においては、図4(D)~(F)に示す3回の注入ステップを行うことにより、より長い長さに亘って充填材を緊張材挿通孔4に充填することができる。加えて、図4(E)に示すように、中央区間S2に無収縮モルタル5よりも流動性が高いPCグラウト6を緊張材挿通孔4に注入することにより、無収縮モルタル5を注入する場合に比べて長い長さに亘って充填材が緊張材挿通孔4に充填される。
【0040】
図4に示したように、図4(D)~(F)に示す3回の注入ステップがこの順に行われることにより、充填は左側から順に緊張材挿通孔4に充填される。これにより、各充填材の注入作業において、緊張材挿通孔4内の空気を押し出しながら充填材を緊張材挿通孔4に充填することができる。また、第2位置P2と第1位置P1との間の区間及び第4位置P4と第3位置P3との間の区間では、無収縮モルタル5を注入する区間とPCグラウト6を注入する区間が重複する。これにより、緊張材挿通孔4内の無収縮モルタル5とPCグラウト6との間に空気が残留することが抑制される。
【0041】
また、図4(E)に示す注入ステップにおいて、緊張材挿通孔4の左端4aから定着長L離間した位置よりも前記他端側の前記の第2位置P2からPCグラウト6を注入することにより、無収縮モルタル5が充填される第1端部区間S1が定着長Lよりも長くなる。また、図4(F)に示す注入ステップにおいて、緊張材挿通孔4の右端4bから定着長Lよりも長く離間した第4位置P4から無収縮モルタル5を注入することにより、無収縮モルタル5が充填される第2端部区間S3が定着長Lよりも長くなる。よって、FRP緊張材の両端がプレキャスト床版部材2に定着される。
【0042】
図4を参照して説明したように、注入作業時に関連するバルブを開けることによって、緊張材挿通孔4内の空気を押し出しながら充填材を緊張材挿通孔4に充填することができる。また、図4(D)の無収縮モルタル5の注入作業において、第1位置P1の排出口8は、無収縮モルタル5が第1位置P1まで到達したことを確認できる第1確認孔として機能する。さらに、図4(E)のPCグラウト6の注入作業において、第3位置P3の排出口9は、PCグラウト6が第3位置P3まで到達したことを確認できる第2確認孔として機能する。これによって、緊張材挿通孔4内の無収縮モルタル5とPCグラウト6との間に空気が残留することがより確実に抑制される。
【0043】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、本発明に係るFRP緊張材の定着方法及び定着構造がプレストレストコンクリート床版1に適用されているが、箱桁橋に適用されてもよい。また、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材、或いは構築手順等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 :プレストレストコンクリート床版
2 :プレキャスト床版部材
3 :FRP緊張材
4 :緊張材挿通孔
4a :左端(一端)
4b :右端(他端)
5 :無収縮モルタル(第1充填材)
6 :PCグラウト(第2充填材)
8 :第1確認孔(排出口)
9 :第2確認孔(排出口)
L :定着長
S1 :第1端部区間
S2 :中央区間
S3 :第2端部区間
P1 :第1位置
P2 :第2位置
P3 :第3位置
P4 :第4位置
図1
図2
図3
図4