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特開2024-59303FRP緊張材の定着方法及びFRP緊張材の定着構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059303
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】FRP緊張材の定着方法及びFRP緊張材の定着構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20240423BHJP
   E04C 5/08 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
E04C5/08
E04G21/12 104D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166903
(22)【出願日】2022-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行者名:公益社団法人プレストレストコンクリート工学会、刊行物名:プレストレストコンクリート工学会第30回シンポジウム論文集、該当頁:第639~642頁、頒布日:令和3年10月21日 (2)第30回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム、令和3年10月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】狩野 武
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 裕生
(72)【発明者】
【氏名】永元 直樹
(72)【発明者】
【氏名】横山 和昭
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祐典
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164AA05
2E164AA31
2E164DA01
2E164DA27
(57)【要約】
【課題】無収縮モルタルを充填できない長さの緊張材挿通孔に、全長に亘って充填材を充填できるようにする。
【解決手段】プレストレストコンクリート部材(1)におけるアラミドFRP緊張材3の定着方法は、緊張材挿通孔4の左端4aから所定の位置に第1仕切り壁6Aを構築するべく仕切り壁用充填材(5)を注入するステップと、緊張材挿通孔4の右端4bから所定の位置に第2仕切り壁6Bを構築するべく仕切り壁用充填材を注入するステップと、緊張材挿通孔4の一端(4a)から第1仕切り壁までの第1端部区間S1に、FRP緊張材をプレキャスト部材(2)に定着させるための第1充填材(7)を注入するステップと、第1仕切り壁から第2仕切り壁までの中央区間S3に第2充填材(8)を注入するステップと、緊張材挿通孔4の他端(4b)から第2仕切り壁までの第2端部区間S2に第1充填材を注入するステップとを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレストコンクリート部材におけるFRP緊張材の定着方法であって、
プレキャスト部材に形成された緊張材挿通孔に前記FRP緊張材を挿入するステップと、
前記緊張材挿通孔に挿入された前記FRP緊張材を緊張するステップと、
前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の一端から、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための定着長より長い距離だけ離間した位置に、第1仕切り壁を構築するべく仕切り壁用充填材を注入する第1注入ステップと、
前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の他端から前記定着長より長い距離だけ離間した位置に、第2仕切り壁を構築するべく前記仕切り壁用充填材を注入する第2注入ステップと、
前記第1注入ステップの後、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の前記一端から前記第1仕切り壁までの第1端部区間に、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための第1充填材を注入する第3注入ステップと、
前記第1注入ステップ及び前記第2注入ステップの後、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の前記第1仕切り壁から前記第2仕切り壁までの中央区間に第2充填材を注入する第4注入ステップと、
前記第2注入ステップの後、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の前記他端から前記第2仕切り壁までの第2端部区間に前記第1充填材を注入する第5注入ステップとを含む、FRP緊張材の定着方法。
【請求項2】
前記第3注入ステップ及び前記第5注入ステップは、前記第1注入ステップ及び前記第2注入ステップの後に行われる、請求項1に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項3】
前記第4注入ステップは、前記第3注入ステップ及び前記第5注入ステップの後に行われる、請求項2に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項4】
前記第3注入ステップ、前記第4注入ステップ及び前記第5注入ステップでは、各区間の低い側から高い側に向けて前記第1充填材又は前記第2充填材の充填が行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項5】
前記第1端部区間には、前記第1仕切り壁の近傍に前記第1充填材のための注入口又は排出口が形成され、前記第2端部区間には、前記第2仕切り壁の近傍に前記第1充填材のための前記注入口又は前記排出口が形成されている、請求項4に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項6】
前記中央区間には、前記第1仕切り壁又は前記第2仕切り壁の近傍に前記第2充填材のための注入口又は排出口が形成されている、請求項4に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項7】
前記第1充填材は無収縮モルタルであり、前記第2充填材はPCグラウトであり、前記仕切り壁用充填材は増粘剤含有モルタル若しくは樹脂である、請求項1に記載のFRP緊張材の定着方法。
【請求項8】
プレストレストコンクリート部材におけるFRP緊張材の定着構造であって、
前記プレストレストコンクリート部材は、
緊張材挿通孔が形成されたプレキャスト部材と、
前記緊張材挿通孔に配置される前記FRP緊張材と、
前記緊張材挿通孔の一端から、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための定着長より長い距離だけ離間した位置に構築された仕切り壁用充填材からなる第1仕切り壁と、
前記緊張材挿通孔の他端から、前記定着長より長い距離だけ離間した位置に構築された前記仕切り壁用充填材からなる第2仕切り壁と、
前記緊張材挿通孔の前記一端から前記第1仕切り壁までの第1端部区間に充填された、前記FRP緊張材の両端部を前記プレキャスト部材に定着させる第1充填材からなる第1定着部と、
前記緊張材挿通孔の前記他端から前記第2仕切り壁までの第2端部区間に充填された前記第1充填材からなる第2定着部と、
前記緊張材挿通孔の前記第1仕切り壁から前記第2仕切り壁までの中央区間に充填された第2充填材からなる中央充填部とを有し、
前記第2充填材の流動性が前記第1充填材の流動性よりも高い、FRP緊張材の定着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリート部材におけるFRP緊張材の定着方法及びFRP緊張材の定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート部材にプレストレスを与える緊張材には、PC鋼材が使用されていることがある。プレキャストコンクリート部材には、シースが埋め込まれており、シース内にPC鋼材を挿入する。PC鋼材を緊張させたのち、両端を定着具で固定する。定着具は、PC鋼材の両端をプレキャスト部材に定着させることによってPC鋼材の緊張力を保持する。シース内部にはグラウトが充填されることがある。グラウトが充填されることにより、PC鋼材の腐食が防止されるうえ、グラウトを介してPC鋼材がコンクリート部材に保持される。近年では、金属に代えて繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastic)が緊張材に使用されることがある。
【0003】
特許文献1には、コンクリート製主桁にFRPを緊張材とした、プレストレスを与える方法が開示されている。この方法は、作業員によって以下の手順で行われる。コンクリート製主桁は、FRP緊張材を挿通するためのシースと、コンクリート製主桁の両端部近傍に配置され、シースに連通するように形成された長方体形状の凹陥部とを有する。両凹陥部のそれぞれは、コンクリート製主桁の上面に開口している。まず、シース及び凹陥部にFRPを挿入し、緊張する。PC鋼材に用いるような定着具によってアラミドFRPの端部をプレキャスト部材に定着させることはできない。そこで、緊張後、両凹陥部及びシース内にセメントモルタル、樹脂モルタル等の充填材を注入する。両凹陥部に充填されたモルタルは、FRPをコンクリート製主桁に定着させ、FRPの緊張力を保持する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-133648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モルタルは流動性が低いため、特許文献1のように、凹陥部からシース内にモルタルを注入しても、シースの全長に亘ってモルタルを充填することは困難である。凹陥部のみにモルタルを充填すれば、FRP緊張材をプレキャスト製主桁に定着させることはできる。しかしながら、緊張材が挿通されるシース内(緊張材挿通孔)の中央部に空洞部が存在すると、その部分の強度が端部に比べて低くなるうえ、振動等によってFRP緊張材がプレキャスト部材のシースや他のFRP緊張材に擦れて摩耗する虞もある。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、モルタルを充填できない長さの緊張材挿通孔が形成されたプレキャスト部材の緊張材挿通孔に、全長に亘って充填材を充填できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、プレストレストコンクリート部材(1)におけるFRP緊張材(3)の定着方法であって、プレキャスト部材(2)に形成された緊張材挿通孔(4)に前記FRP緊張材を挿入するステップ(図3(B))と、前記緊張材挿通孔に挿入された前記FRP緊張材を緊張するステップ(図3(C))と、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の一端(4a)から、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための定着長より長い距離だけ離間した位置に、第1仕切り壁(6A)を構築するべく仕切り壁用充填材(5)を注入する第1注入ステップ(図4(D))と、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の他端(4b)から前記定着長より長い距離だけ離間した位置に、第2仕切り壁(6B)を構築するべく前記仕切り壁用充填材を注入する第2注入ステップ(図4(D))と、前記第1注入ステップの後、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の前記一端から前記第1仕切り壁までの第1端部区間(S1)に、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための第1充填材(7)を注入する第3注入ステップ(図4(E))と、前記第1注入ステップ及び前記第2注入ステップの後、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の前記第1仕切り壁から前記第2仕切り壁までの中央区間(S3)に第2充填材(8)を注入する第4注入ステップ(図4(F))と、前記第2注入ステップの後、前記FRP緊張材が緊張された状態で、前記緊張材挿通孔の前記他端から前記第2仕切り壁までの第2端部区間(S2)に前記第1充填材を注入する第5注入ステップ(図4(E))とを含む。
【0008】
この態様によれば、無収縮モルタルを充填できない長さの緊張材挿通孔において、全長に亘って充填材を充填することができる。また、仕切り壁用充填材によって仕切り壁を構築することにより、第1充填材と第2充填材との混合を防ぐことができる。
【0009】
上記の態様において、前記第3注入ステップ及び前記第5注入ステップは、前記第1注入ステップ及び前記第2注入ステップの後に行われるとよい。
【0010】
この態様によれば、仕切り壁用充填材を注入して第1仕切り壁及び第2仕切り壁を構築した後に、第1充填材を緊張材挿通孔の第1端部区間及び第2端部区間に注入すればよいため、機材や人員を適確に配置して効率的に作業することができる。また、材料の切り替えに伴う材料の無駄を低減することができる。
【0011】
上記の態様において、前記第4注入ステップは、前記第3注入ステップ及び前記第5注入ステップの後に行われるとよい。
【0012】
この態様によれば、FRP緊張材をプレキャスト部材に定着させた状態で、第2充填材を注入することができる。よって、第2充填材が第1及び第2端部区間に流入することがない。また、第1充填材を緊張材挿通孔の第1端部区間及び第2端部区間に注入した後に、第2充填材を緊張材挿通孔の中央区間に注入すればよいため、作業の効率が良い。また、材料の切り替えに伴う材料の無駄を低減することができる。
【0013】
上記の態様において、前記第3注入ステップ、前記第4注入ステップ及び前記第5注入ステップでは、各区間の低い側から高い側に向けて前記第1充填材又は前記第2充填材の充填が行われるとよい。
【0014】
この態様によれば、緊張材挿通孔内の空気を押し出しながら充填材を充填することができる。よって、緊張材挿通孔の第1端部区間、第2端部区間及び中央区間のそれぞれに空気が残留することを抑制できる。
【0015】
上記の態様において、前記第1端部区間には、前記第1仕切り壁の近傍に前記第1充填材のための注入口又は排出口が形成され、前記第2端部区間には、前記第2仕切り壁の近傍に前記第1充填材のための前記注入口又は前記排出口が形成されているとよい。
【0016】
この態様によれば、第1充填材と仕切り壁の間に空気を残留させることなく第1充填材を充填することができる。
【0017】
上記の態様において、前記中央区間には、前記第1仕切り壁又は前記第2仕切り壁の近傍に前記第2充填材のための注入口又は排出口が形成されているとよい。
【0018】
この態様によれば、第2充填材と両仕切り壁の間に空気を残留させることなく第2充填材を充填することができる。
【0019】
上記の態様において、記第1充填材は無収縮モルタルであり、前記第2充填材はPCグラウトであり、前記仕切り壁用充填材は、前記無収縮モルタルより流動性が低い増粘剤含有モルタル若しくは樹脂であるとよい。
【0020】
この態様によれば、無収縮モルタルよりも流動性が高いPCグラウトを用いて、無収縮モルタルを充填できない長さに亘って緊張材挿通孔の中央区間にPCグラウトを充填することができる。また、仕切り壁用充填材に増粘剤含有モルタル若しくは樹脂を用いることにより、緊張材挿通孔の両端方向への仕切り壁用充填材の広がりを抑え、両仕切り壁の上部に隙間ができることを抑制できる。これにより、無収縮モルタルとPCグラウトとの混合を抑制できる。
【0021】
また、上記課題を解決するために、本発明は、プレストレストコンクリート部材(1)におけるFRP緊張材(3)の定着構造であって、前記プレストレストコンクリート部材は、緊張材挿通孔(4)が形成されたプレキャスト部材(2)と、前記緊張材挿通孔に配置される前記FRP緊張材と、前記緊張材挿通孔の一端(4a)から、前記FRP緊張材を前記プレキャスト部材に定着させるための定着長より長い距離だけ離間した位置に構築された仕切り壁用充填材(5)からなる第1仕切り壁と、前記緊張材挿通孔の他端(4b)から、前記定着長より長い距離だけ離間した位置に構築された前記仕切り壁用充填材からなる第2仕切り壁と、前記緊張材挿通孔の前記一端から前記第1仕切り壁までの第1端部区間(S1)に充填された、前記FRP緊張材の両端部を前記プレキャスト部材に定着させる第1充填材(7)からなる第1定着部(21)と、前記緊張材挿通孔の前記他端から前記第2仕切り壁までの第2端部区間(S2)に充填された前記第1充填材からなる第2定着部(22)と、前記緊張材挿通孔の前記第1仕切り壁から前記第2仕切り壁までの中央区間(S3)に充填された第2充填材(8)からなる中央充填部(23)とを有し、前記第2充填材の流動性が前記第1充填材の流動性よりも高い。
【0022】
この態様によれば、緊張材挿通孔の両端部に第1充填材を充填することで、FRP緊張材をプレキャスト部材に定着させることができる。また、緊張材挿通孔の中央区間に第2充填材を充填することで、空洞部が存在しない定着構造体を構築することができる。これにより、振動等によってFRP緊張材がプレキャスト部材や他のFRP緊張材に擦れて摩耗することを防ぐことができる。仕切り壁用充填材によって構築された仕切り壁は、第1充填材と第2充填材との混合を防ぐことができる。よって、FRP緊張材の両端部をプレキャスト部材に確実に定着させることができる。また、緊張材挿通孔の中央区間に第2充填材を充填するため、少ない注入回数で緊張材挿通孔に全長に亘って充填材を充填でき、施工が容易である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、モルタルを充填できない長さの緊張材挿通孔が形成されたプレキャスト部材の緊張材挿通孔に全長に亘って充填材を充填できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係るプレストレストコンクリート床版の側面図
図2】プレストレストコンクリート床版の両端部の拡大断面図
図3】FRP緊張材の定着方法の説明図
図4】FRP緊張材の定着方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明に係るFRP緊張材の定着方法及びFRP緊張材の定着構造の実施形態について説明する。実施形態では、アラミドFRP緊張材3の定着構造が適用されるプレストレストコンクリート製の床版の例について説明する。
【0026】
図1は本発明の実施形態に係るプレストレストコンクリート床版1の側面図である。プレストレストコンクリート床版1は、桁の上に配置された複数のプレキャスト床版部材2を連結して構築される。図中には、プレキャスト床版部材2に、左から順に2、2、2、・・・、2(n―1)、2と符号を付す。これらのプレキャスト床版部材2をまとめて、プレキャスト床版部材2と称することもある。これらのプレキャスト床版部材2は、アラミドFRP緊張材3によってプレストレスを導入されることによって一体化され、プレストレストコンクリート床版1が構築される。
【0027】
図2はプレストレストコンクリート床版1の両端部の拡大断面図である。図2に示すように、各プレキャスト床版部材2には橋軸方向に延在する緊張材挿通孔4が形成されている。複数のプレキャスト床版部材2が所定の位置に配置されることにより、これらの緊張材挿通孔4は橋軸方向に連続し、1本の緊張材挿通孔4となる。
【0028】
緊張材挿通孔4には緊張状態のアラミドFRP緊張材3が配置されている。緊張材挿通孔4の左端4a(一端)からアラミドFRP緊張材3を定着させるための定着長Lよりも長い長さ離間した位置に、仕切り壁6(6A、6B)を構築するための仕切り壁充填材として増粘剤含有モルタル5が充填されている。また、緊張材挿通孔4の右端4b(他端)から定着長Lよりも長い長さ離間した位置にも、仕切り壁6を構築するための増粘剤含有モルタル5が充填されている。仕切り壁用充填材に樹脂が用いられてもよい。樹脂を用いる場合、発泡ウレタンを用いることができる。仕切り壁用充填材に発泡ウレタンを用いることにより、仕切り壁6がアラミドFRP緊張材3の全周を取り囲むように形成され、充填材の漏洩を防止することができる。以下、緊張材挿通孔4の左端4a側の仕切り壁6を第1仕切り壁6Aと称し、緊張材挿通孔4の右端4b側の仕切り壁6を第2仕切り壁6Bと称する。第1仕切り壁6A及び第2仕切り壁6Bの両方を指す場合は単に仕切り壁6と称する。
【0029】
緊張材挿通孔4の左端4aから第1仕切り壁6Aまでの区間及び、緊張材挿通孔4の右端から第2仕切り壁6Bまでの区間には、アラミドFRP緊張材3をプレキャスト床版部材2に定着させる第1充填材として無収縮モルタル7が充填されている。以下、緊張材挿通孔4の左端4aから第1仕切り壁6Aまでの区間を第1端部区間S1と称し、緊張材挿通孔4の右端4bから第2仕切り壁6Bまでの区間を第2端部区間S2と称する。第1端部区間S1に充填され、硬化した無収縮モルタル7によって、アラミドFRP緊張材3の左端部をプレキャスト床版部材2に定着させる第1定着部21が形成される。第2端部区間S2に充填され、硬化した無収縮モルタル7によって、アラミドFRP緊張材3の右端部をプレキャスト床版部材2に定着させる第2定着部22が形成される。第1端部区間S1及び第2端部区間S2は定着長Lよりも長い。緊張材挿通孔4の、左端4aから定着長Lの区間及び、右端4bから定着長Lの区間は、緊張材挿通孔4の中央部よりも太い孔であってもよい。橋軸方向の各端部に配置された少なくとも1つのプレキャスト床版部材2は、アラミドFRP緊張材3を定着させるための定着床版部材である。
【0030】
第1仕切り壁6Aから第2仕切り壁6Bまでの区間には、空洞部を埋めるための第2充填材としてPCグラウト8が充填されている。この区間に充填され、硬化したPCグラウト8によって中央充填部23が形成される。PCグラウト8は、未硬化状態において、無収縮モルタル7の流動性よりも高い流動性を有している。以下、第1仕切り壁6Aから第2仕切り壁6Bまでの区間を中央区間S3と称する。充填材の注入は、各区間の低い側から高い側に向けて行われる。すなわち、本実施形態では緊張材挿通孔4の左端4aから右端4bの向きに行われる。
【0031】
左端に配置されたプレキャスト床版部材2に隣接するプレキャスト床版部材2及び右端に配置されたプレキャスト床版部材2に隣接するプレキャスト床版部材2(n―1)の緊張材挿通孔4には増粘剤含有モルタル注入口18、19が設けられている。加えて、無収縮モルタル注入口9、無収縮モルタル排出口11、PCグラウト注入口10、及びPCグラウト排出口12が設けられている。以下、無収縮モルタル注入口9及びPCグラウト注入口10を単に充填材注入口と称する。増粘剤含有モルタル注入口18、19及び充填材注入口(9、10)を総称して注入口と称することもある。また、無収縮モルタル排出口11及びPCグラウト排出口12を単に排出口と称する。プレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4はシースによって形成されてよく、注入口及び排出口はシースを連結するカプラーに設けられてよい。またプレキャスト床版部材2~2(n―2)の緊張材挿通孔4に予備の注入口及び排出口が設けられてもよい。
【0032】
注入口は緊張材挿通孔4の下側から下方へ延び、プレキャスト床版部材2の下面に至っている。排出口はプレキャスト床版部材2の緊張材挿通孔4の上側から湾曲しながらプレキャスト床版部材2の下面に至っている。注入口及び排出口がプレキャスト床版部材2の下面にて開口し、上面に開口が設けられないことにより、路面から劣化因子が浸入するリスクが回避されている。
【0033】
増粘剤含有モルタル注入口18は、緊張材挿通孔4の左端4aから定着長Lよりも長い長さ離間した位置に設けられている。また、PCグラウト注入口10は、中央区間S3の左端に設けられている。さらに、無収縮モルタル排出口11は第1端部区間S1の右端に設けられている。PCグラウト注入口10及び無収縮モルタル排出口11は緊張材挿通孔4の左端4aから定着長Lよりも長い長さ離間した位置に設けられている。
【0034】
増粘剤含有モルタル注入口19は、緊張材挿通孔4の右端4bから定着長Lよりも長い長さ離間した位置に設けられている。また、PCグラウト排出口12は、中央区間S3の右端に設けられている。さらに、無収縮モルタル注入口9は第2端部区間S2の左端に設けられている。無収縮モルタル注入口9及びPCグラウト排出口12は緊張材挿通孔4の右端4bから定着長Lよりも長い長さ離間した位置に設けられている。
【0035】
プレストレストコンクリート床版1は以上のように構成されている。次に、図3及び図4を用いて、プレストレストコンクリート床版1におけるアラミドFRP緊張材3を定着させる方法について説明する。以下の作業は作業員によって行われる。
【0036】
図3(A)に示すように、複数のプレキャスト床版部材2を所定の位置に配置する。この状態で、緊張材挿通孔4は橋軸方向に連続し、左端4a及び右端4bにおいて開口している。充填材注入口(9、10)及び排出口(11、12)のプレキャスト床版部材2の下面側の端部にはバルブが設けられている。図3(B)以降、バルブは図示省略する。
【0037】
図3(B)に示すように、橋軸方向に連続した緊張材挿通孔4にアラミドFRP緊張材3を挿入する。アラミドFRP緊張材3を挿入したのち、図3(C)に示すように、緊張装置13を用いてアラミドFRP緊張材3を緊張する。緊張装置13にはジャッキ等を用いてよい。アラミドFRP緊張材3を緊張させた後、緊張材挿通孔4の左端4aに注入ホース14を設け、緊張材挿通孔4の右端4bに排出ホース15を設ける。
【0038】
図4(D)に示すように、アラミドFRP緊張材3が緊張装置13によって緊張された状態で、増粘剤含有モルタル注入口18、19から増粘剤含有モルタル5を注入する。増粘剤含有モルタル5の注入作業中は、増粘剤含有モルタル注入口18、19の近傍に設けられた充填材注入口(9、10)及び排出口(11、12)のバルブは開かれた状態とされる。増粘剤含有モルタル5の注入量は、少なくとも増粘剤含有モルタル注入口18、19から緊張材挿通孔4の上部まで隙間なく充填できる量である。増粘剤含有モルタル5のための注入口を新たに加え、プレキャスト床版部材2の上下方向から緊張材挿通孔4に増粘剤含有モルタル5を注入してもよい。増粘剤含有モルタル5の注入後、バルブを閉じて、増粘剤含有モルタル5を硬化させる。
【0039】
図4(E)に示すように、増粘剤含有モルタル5を硬化させた後、注入ホース14から無収縮モルタル7を注入し、第1端部区間S1に無収縮モルタル7を充填する。無収縮モルタル7の注入作業中は、無収縮モルタル排出口11のバルブは開かれた状態とされる。無収縮モルタル排出口11から無収縮モルタル7の排出が確認された後、バルブを閉じて無収縮モルタル7の注入を停止する。また、無収縮モルタル注入口9から無収縮モルタル7を注入し、第2端部区間S2に無収縮モルタル7を充填する。緊張材挿通孔4の右端4bに設けた排出ホース15から無収縮モルタル7の排出が確認された後、無収縮モルタル7の注入を停止する。第1端部区間S1の無収縮モルタル注入作業及び第2端部区間S2の無収縮モルタル注入作業は、いずれかから始めてもよい。両区間の無収縮モルタル7の注入後、無収縮モルタル7を硬化させる。
【0040】
図4(F)に示すように、上記無収縮モルタル7の注入作業後、PCグラウト注入口10からPCグラウト8を注入し、中央区間S3にPCグラウト8を充填する。PCグラウト8の注入作業中はPCグラウト排出口12に設けられたバルブは開かれた状態とされる。PCグラウト排出口12からPCグラウト8の排出が確認された後、バルブを閉じて、PCグラウト8の注入を停止する。
【0041】
図4(E)の工程の後、無収縮モルタル7が硬化することにより、アラミドFRP緊張材3の両端部が橋軸方向の両端部に配置されたプレキャスト床版部材2、2に定着される。その後、緊張装置13を取り外し、緊張材挿通孔4の両端部から露出したアラミドFRP緊張材3を切除する。また、プレキャスト床版部材2の下面に開口する充填材注入口(9、10)及び排出口(11、12)に取り付けたバルブやホース(14、15)等を除去する。以上により、プレストレストコンクリート床版1が構築される。
【0042】
このように、第1仕切り壁6A及び第2仕切り壁6Bは、無収縮モルタル7とPCグラウト8との混合を防ぐことができる。緊張材挿通孔4の左端4aから第1仕切り壁6Aまでの第1端部区間S1及び、第2仕切り壁6Bから緊張材挿通孔4の右端4bまでの第2端部区間S2に無収縮モルタル7からなる第1定着部21及び第2定着部22が設けられることで、アラミドFRP緊張材3の両端をプレキャスト床版部材2に定着させることができる。また、第1仕切り壁6Aから第2仕切り壁6Bまでの中央区間S3にPCグラウト8からなる中央充填部23が設けられることで、空洞部が存在しないプレストレストコンクリート床版1を構築することができる。この構造によって、振動等によってアラミドFRP緊張材3がプレキャスト床版部材2や他のアラミドFRP緊張材3に擦れて摩耗することを防ぐことができる。
【0043】
中央区間S3が長尺のために中央区間S3に無収縮モルタル7を充填することが困難な場合、場所を移動しながら複数回に亘って注入作業を行わなければならず、施工性が悪い。これに対し上記実施形態では、中央区間S3に無収縮モルタル7の代わりにPCグラウト8が充填される。PCグラウト8は、未硬化状態において、無収縮モルタル7の流動性よりも高い流動性を有している。よって、無収縮モルタル7では充填できない長さに亘って容易に緊張材挿通孔4に充填材を充填することができる。これにより、無収縮モルタル7を充填する注入作業が困難なほど長尺の中央区間S3に、少ない注入回数でPCグラウト8を容易に注入することでき、施工性が向上する。
【0044】
図2に示すように、緊張材挿通孔4の、左端4aから定着長Lの区間及び、右端4bから定着長Lの区間は、緊張材挿通孔4の中央部よりも太い。これにより、無収縮モルタル7の注入が容易に行われる。
【0045】
また、実施形態のアラミドFRP緊張材3の定着方法においては、図4(D)に示すように仕切り壁6を構築することによって、緊張材挿通孔4が第1端部区間S1、第2端部区間S2及び中央区間S3の3区間に明確に分けられる。仕切り壁6を構築した後、図4(E)及び図4(F)に示す注入ステップを行うことにより、無収縮モルタル7とPCグラウト8との混合を防ぐことができる。加えて、図4(E)に示すように、中央区間S3に無収縮モルタル7よりも流動性が高いPCグラウト8を緊張材挿通孔4に注入することにより、無収縮モルタル7を注入する場合に比べて長い長さに亘って充填材が緊張材挿通孔4に充填される。
【0046】
また、実施形態のアラミドFRP緊張材3の定着方法において、仕切り壁6を構築した後、図4(E)に示す第1端部区間S1及び第2端部区間S2に無収縮モルタル7を注入することによって、無収縮モルタル7が中央区間S3に流入することなく充填される。また、機材や人員を適確に配置して効率的に作業することができる上、材料の切り替えに伴う材料の無駄を低減することができる。
【0047】
さらに、実施形態のアラミドFRP緊張材3の定着方法において、図4(F)に示す中央区間S3にPCグラウト8を注入することによって、PCグラウト8が第1端部区間S1及び第2端部区間S2に流入することなく充填される。また、材料の切り替えに伴う材料の無駄を低減することができる。
【0048】
図4(E)及び図4(F)に示すように、充填材の注入は、各区間の低い側から高い側に向けて行われる。これにより、緊張材挿通孔4内の空気を押し出しながら充填材を充填することができる。よって、緊張材挿通孔4の第1端部区間S1、第2端部区間S2及び中央区間S3のそれぞれに空気が残留することを抑制できる。
【0049】
図4(E)に示すように、第1端部区間S1の右端且つ第1仕切り壁6Aの近傍に無収縮モルタル排出口11が形成されている。また、第2端部区間S2の左端且つ第2仕切り壁6Bの近傍に無収縮モルタル注入口9が形成されている。これにより無収縮モルタル7と仕切り壁6の間に空気を残留させることなく無収縮モルタル7が充填される。
【0050】
図4(F)に示すように、中央区間S3の端部且つ第1仕切り壁6Aの近傍又は第2仕切り壁6Bの近傍にPCグラウト注入口10又はPCグラウト排出口12が形成されている。これによりPCグラウト8と仕切り壁6の間に空気を残留させることなくPCグラウト8を充填することができる。
【0051】
図4(D)に示すように、仕切り壁6を構築するための仕切り壁用充填材は増粘剤含有モルタル5を用いている。増粘剤含有モルタル5の流動性は無収縮モルタル7の流動性よりも低い。これにより、緊張材挿通孔4の両端方向への増粘剤含有モルタル5の広がりを抑え、仕切り壁6の上部に隙間ができることを抑制できる。よって、無収縮モルタル7とPCグラウト8との混合を抑制できる。
【0052】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、本発明に係るFRP緊張材の定着方法及び定着構造がプレストレストコンクリート床版1に適用されているが、箱桁橋に適用されてもよい。また、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材、或いは構築手順等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 :プレストレストコンクリート床版
2 :プレキャスト床版部材
3 :アラミドFRP緊張材
4 :緊張材挿通孔
4a :左端(一端)
4b :右端(他端)
5 :増粘剤含有モルタル(仕切り壁用充填材)
6 :仕切り壁
6A :第1仕切り壁
6B :第2仕切り壁
7 :無収縮モルタル(第1充填材)
8 :PCグラウト(第2充填材)
21 :第1定着部
22 :第2定着部
23 :中央充填部
L :定着長
S1 :第1端部区間
S3 :中央区間
S2 :第2端部区間
図1
図2
図3
図4