(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059325
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】コークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20240423BHJP
C10B 57/04 20060101ALI20240423BHJP
C10B 53/08 20060101ALI20240423BHJP
G01N 33/22 20060101ALI20240423BHJP
G06T 7/62 20170101ALI20240423BHJP
【FI】
G01N23/046
C10B57/04
C10B53/08
G01N33/22 A
G06T7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166939
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 功
(72)【発明者】
【氏名】林崎 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】上坊 和弥
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐基
【テーマコード(参考)】
2G001
4H012
5L096
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001HA07
2G001HA14
2G001KA04
2G001LA03
4H012KA06
4H012MA03
5L096AA09
5L096BA18
5L096CA18
5L096EA02
5L096EA07
5L096FA19
5L096GA06
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙量を配合炭の性状によらず高精度に解析可能である、成型炭周囲の空隙量の解析方法、当該解析方法を用いた成型炭周囲の空隙量の推定方法、及び、当該解析方法又は当該推定方法を用いて高強度のコークスを製造する方法を提供する。
【解決手段】成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙量の解析方法であって、X線CT断面画像の3D解析において、成型炭部の周縁から成型炭部と相似形で1回あたり1単位体積を膨張させる膨張処理を行い、膨張処理の各回において体積増加した領域の体積に粉炭部の平均密度と空隙部の平均密度との差分値を乗じて充填低下量を算出し、当該充填低下量を全膨張処理回数で積算して積算充填低下量を算出し、当該積算充填低下量を成型炭周囲の空隙量の指標とする、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙量の解析方法であって、
試験装置を用いて自然落下により成型炭と粉炭とを試験容器に充填し、
X線CTにより試験容器内の断面画像を撮像し、
得られた断面画像の3D解析によって成型炭周囲の空隙量を求め、
前記3D解析において、
密度が既定値を超える高密度部と、密度が前記既定値以下である低密度部とをそれぞれ規定し、
前記高密度部を既定形状パラメータでフィルタリングして成型炭部を規定し、
任意に、前記高密度部のうち、前記成型炭部以外の領域であり且つ体積が既定値を超える領域を塊成炭部と規定し、前記塊成炭部は画素データ不存在として取扱うことで解析対象から除外し、
前記成型炭部の周縁から前記成型炭部と相似形で1回あたり1単位体積を膨張させる膨張処理を(n+1)回以上行い、但しnは自然数であり、
前記(n+1)は、(n+1)回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度が、n回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度と略同一である数であり、
n回目以降の膨張処理で体積増加した領域の平均密度を閾値とし、
膨張処理の各回において体積増加した領域について、密度が前記閾値を超える領域を粉炭部、密度が前記閾値以下である領域を空隙部とそれぞれ規定し、
膨張処理の各回において体積増加した領域について、前記粉炭部の平均密度と前記空隙部の平均密度との差分値を算出し、
膨張処理の各回において体積増加した領域の体積に前記差分値を乗じて充填低下量を算出し、
前記充填低下量を全膨張処理回数で積算して積算充填低下量を算出し、前記積算充填低下量を成型炭周囲の空隙量の指標とする、
成型炭周囲の空隙量の解析方法。
【請求項2】
成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙量の推定方法であって、
粒度構成が互いに異なる水準及び水分率が互いに異なる水準が含まれるように選定した複数種の粉炭サンプルの各々と、任意に選定した成型炭サンプルとの組合せである複数種の配合炭サンプルを調製し、
各配合炭サンプルについて、請求項1に記載の成型炭周囲の空隙量の解析方法に従ってサンプル積算充填低下量を求め、
前記粉炭サンプルの粒度構成及び水分率と前記サンプル積算充填低下量との関係に基づいて、粉炭の粒度構成及び水分率と積算充填低下量との関係式(I)を求め、
コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せである配合炭について、前記使用予定の粉炭の粒度構成及び水分率の値を前記関係式(I)に代入して積算充填低下量推定値を算出し、前記積算充填低下量推定値を成型炭周囲の空隙量の指標とする、
成型炭周囲の空隙量の推定方法。
【請求項3】
成型炭と粉炭とを含む配合炭を用いたコークスの製造方法であって、
試験用に選択した配合炭サンプルについて、請求項1に記載の成型炭周囲の空隙量の解析方法によって算出される積算充填低下量と、成型炭部SVを変化させてもコークス強度が一定であるような成型炭部SV範囲の下限である成型炭部SV下限値との関係式(II)を予め求めておき、
コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せである配合炭について、請求項1に記載の成型炭周囲の空隙量の解析方法に従って積算充填低下量を求め、又は請求項2に記載の成型炭周囲の空隙量の推定方法に従って積算充填低下量推定値を求め、
前記積算充填低下量又は前記積算充填低下量推定値を前記関係式(II)に代入して成型炭部SV下限値を求め、
SV実測値が前記成型炭部SV下限値以上である成型炭を製造し、
前記使用予定の粉炭と、製造された成型炭とで構成される配合炭をコークス製造に供する、
コークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高炉操業に使用されるコークスの製造においては、良質の強粘結炭の資源量枯渇化への対処として、成型炭と粉炭とで構成される配合炭における非微粘結炭などの劣質炭の配合割合を多くしつつコークス強度を良好に維持する方法が種々検討されている。劣質炭を含む配合炭を用いて所望のコークス強度を得るためには、石炭の事前処理プロセスが有用であり得る。例えば、石炭の乾燥プロセスとして、調湿炭装入法(Coal Moisture Coal; CMC)、微粉炭塊成化法(Dry-cleaned and Agglomerated Pre-compaction System; DAPS)等、成型炭など成型物を配合するプロセスとして、微粉炭塊成化法(Dry-cleaned and Agglomerated Precompaction System; DAPS)、成型炭配合法、そのほか石炭の粉砕粒度調整方法等がそれぞれ知られており、これらは適宜組合される。
【0003】
上記のような石炭の事前処理プロセスを適宜に利用して粉炭の粒度構成及び水分率を調整することで、粉炭の膨張性が比較的低い場合であっても、コークス中の残存空隙を低減して良好なコークス強度を得ることが可能になる。但し、成型炭を配合した場合に成型炭の周囲に空隙が生じ、乾留後にも成型炭周囲の空隙が残存することがある。残存する成型炭周囲の空隙はコークス強度の低下を引き起こすため、乾留時に成型炭周囲の空隙を充填するだけの膨張性を有する成型炭の製造が重要である。成型炭周囲の空隙を充填するのに必要な成型炭の膨張性を把握し、配合炭を構成する石炭の配合を決定するためには、コークス炉に装入された配合炭が成型炭周囲に有する空隙の量を正確に見積もることが重要である。
【0004】
特許文献1は、成型炭と石炭を粉砕した粉炭を配合した配合炭とをコークス炉に装入して乾留するコークスの製造方法において、試験装置を用いて自然落下により成型炭と石炭を粉砕した粉炭を配合した配合炭とを容器に充填して、X線CTにより容器内の断面画像を撮像し、得られた断面画像から、成型炭周囲に形成されている空隙の最大幅Wを定量化し、さらに、試験装置を用いて成型炭の乾留時の最大膨張体積を測定して、成型炭の膨張量を膨張前後の円相当径の変化量Δr(mm)として求め、求められた変化量Δrが前記最大幅W(mm)の40%未満の場合は成型炭を構成する石炭配合を変更し、前記変化量Δrが前記最大幅Wの40%以上となる石炭配合を求め、この配合に基づき製造した成型炭を用いることを特徴とするコークスの製造方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される方法では、成型炭と粉炭とを含む配合炭における成型炭周囲の空隙を二次元画像解析により幅として評価する。しかしこの方法には、成型炭周囲の空隙が小さ過ぎる場合、塊成炭を含む粉炭を用いる場合等における評価の正確性の点で、なお改善の余地がある。
【0007】
また、コークスの製造に際して、特許文献1に記載される方法で求められる成型炭周囲の空隙量の値を利用し、目標コークス強度を得るのに必要な成型炭の膨張性の値(具体的には、SV(比容積))を算出することで、配合炭を構成する石炭の配合を決定することができる。しかし、使用する粉炭の粒度構成を変更したりすると、特許文献1に記載される方法で求められる目標コークス強度を得るのに必要な成型炭部SVと、当該目標コークス強度との対応関係が、成型炭部SV実測値とコークス強度実測値との対応関係と一致しなくなる場合があるという問題があった。
【0008】
上記のように、特許文献1に記載される方法では、粉炭粒度構成によらず、成型炭周囲の空隙量を高精度に解析可能とするためには、さらに改善の余地があった。
【0009】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙を粉炭の粒度構成によらず高精度に解析可能である、成型炭周囲の空隙量の解析方法、当該解析方法を用いた成型炭周囲の空隙量の推定方法、及び、当該解析方法又は当該推定方法を用いて高強度のコークスを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙量の解析方法であって、
試験装置を用いて自然落下により成型炭と粉炭とを試験容器に充填し、
X線CTにより試験容器内の断面画像を撮像し、
得られた断面画像の3D解析によって成型炭周囲の空隙量を求め、
前記3D解析において、
密度が既定値を超える高密度部と、密度が前記既定値以下である低密度部とをそれぞれ規定し、
前記高密度部を既定形状パラメータでフィルタリングして成型炭部を規定し、
任意に、前記高密度部のうち、前記成型炭部以外の領域であり且つ体積が既定値を超える領域を塊成炭部と規定し、前記塊成炭部は画素データ不存在として取扱うことで解析対象から除外し、
前記成型炭部の周縁から前記成型炭部と相似形で1回あたり1単位体積を膨張させる膨張処理を(n+1)回以上行い、但しnは自然数であり、
前記(n+1)は、(n+1)回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度が、n回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度と略同一である数であり、
n回目以降の膨張処理で体積増加した領域の平均密度を閾値とし、
膨張処理の各回において体積増加した領域について、密度が前記閾値を超える領域を粉炭部、密度が前記閾値以下である領域を空隙部とそれぞれ規定し、
膨張処理の各回において体積増加した領域について、前記粉炭部の平均密度と前記空隙部の平均密度との差分値を算出し、
膨張処理の各回において体積増加した領域の体積に前記差分値を乗じて充填低下量を算出し、
前記充填低下量を全膨張処理回数で積算して積算充填低下量を算出し、前記積算充填低下量を成型炭周囲の空隙量の指標とする、
成型炭周囲の空隙量の解析方法。
[2] 成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙量の推定方法であって、
粒度構成が互いに異なる水準及び水分率が互いに異なる水準が含まれるように選定した複数種の粉炭サンプルの各々と、任意に選定した成型炭サンプルとの組合せである複数種の配合炭サンプルを調製し、
各配合炭サンプルについて、上記[1]に記載の成型炭周囲の空隙量の解析方法に従ってサンプル積算充填低下量を求め、
前記粉炭サンプルの粒度構成及び水分率と前記サンプル積算充填低下量との関係に基づいて、粉炭の粒度構成及び水分率と積算充填低下量との関係式(I)を求め、
コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せである配合炭について、前記使用予定の粉炭の粒度構成及び水分率の値を前記関係式(I)に代入して積算充填低下量推定値を算出し、前記積算充填低下量推定値を成型炭周囲の空隙量の指標とする、
成型炭周囲の空隙量の推定方法。
[3] 成型炭と粉炭とを含む配合炭を用いたコークスの製造方法であって、
試験用に選択した配合炭サンプルについて、上記[1]に記載の成型炭周囲の空隙量の解析方法によって算出される積算充填低下量と、成型炭部SVを変化させてもコークス強度が一定であるような成型炭部SV範囲の下限である成型炭部SV下限値との関係式(II)を予め求めておき、
コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せである配合炭について、上記[1]に記載の成型炭周囲の空隙量の解析方法に従って積算充填低下量を求め、又は上記[2]に記載の成型炭周囲の空隙量の推定方法に従って積算充填低下量推定値を求め、
前記積算充填低下量又は前記積算充填低下量推定値を前記関係式(II)に代入して成型炭部SV下限値を求め、
SV実測値が前記成型炭部SV下限値以上である成型炭を製造し、
前記使用予定の粉炭と、製造された成型炭とで構成される配合炭をコークス製造に供する、
コークスの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙を粉炭の粒度構成によらず高精度に解析可能である、成型炭周囲の空隙量の解析方法、当該解析方法を用いた成型炭周囲の空隙量の推定方法、及び、当該解析方法又は当該推定方法を用いて高強度のコークスを製造する方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一態様に係る画像処理フローについて説明する概略図である。
【
図3】実施例及び従来例で用いた粉炭の粒度分布を示す図である。
【
図4】実施例1におけるX線CT画像を示す図である。
【
図5】実施例1における、粉砕炭(水分率4質量%)を用いたときの、膨張処理回数と充填低下量との関係を示す図である。
【
図6】実施例1における、粉砕炭(水分率10質量%)を用いたときの、膨張処理回数と充填低下量との関係を示す図である。
【
図7】実施例1における、整粒炭を用いたときの、膨張処理回数と充填低下量との関係を示す図である。
【
図8】実施例1における、粗粒炭と塊成炭との組合せを用いたときの、膨張処理回数と充填低下量との関係を示す図である。
【
図9】従来例1における、粉砕炭(水分率4質量%)を用いたときの、成型炭からの距離と嵩密度変化量との関係を示す図である。
【
図10】従来例1における、粉砕炭(水分率10質量%)を用いたときの、成型炭からの距離と嵩密度変化量との関係を示す図である。
【
図11】従来例1における、整粒炭を用いたときの、成型炭からの距離と嵩密度変化量との関係を示す図である。
【
図12】従来例1における、粗粒炭と塊成炭との組合せを用いたときの、成型炭からの距離と嵩密度変化量との関係を示す図である。
【
図13】実施例2における、粉炭の3mm篩上質量割合と積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図14】実施例2における、粉炭の6mm篩上質量割合と積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図15】実施例2における、粉炭の質量平均径と積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図16】実施例2における、粉炭の水分率と積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図17】実施例2-1における、粉炭の3mm篩上質量割合及び水分率から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図18】実施例2-2における、粉炭の6mm篩上質量割合及び水分率から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図19】実施例2-3における、粉炭の質量平均径及び水分率から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図20】参考例1における、粉炭の3mm篩上質量割合から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図21】参考例2における、粉炭の6mm篩上質量割合から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図22】参考例3における、粉炭の質量平均径から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図23】参考例4における、粉炭の水分率から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図24】実施例2-4における、粉炭の3mm篩上質量割合及び水分率から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図25】実施例2-5における、粉炭の6mm篩上質量割合及び水分率から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図26】実施例2-6における、粉炭の質量平均径及び水分率から推定した積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【
図27】評価例1における、整粒炭を用いたときの、成型炭部SVとコークス強度DI
150
6との関係を示す図である。
【
図28】評価例1における、整粒炭を用いたときの、成型炭部SVとコークス強度DI
150
15との関係を示す図である。
【
図29】評価例1における、粉砕炭(水分率4質量%)を用いたときの、成型炭部SVとコークス強度DI
150
6との関係を示す図である。
【
図30】評価例1における、粉砕炭(水分率10質量%)を用いたときの、成型炭部SVとコークス強度DI
150
6との関係を示す図である。
【
図31】コークス強度DI
150
15が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値の、比較評価例1に基づく値と乾留試験に基づく値との関係を示す図である。
【
図32】実施例1における、積算充填低下量と、評価例1における、コークス強度DI
150
6が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値との関係を示す図である。
【
図33】実施例1における、積算充填低下量と、評価例1における、コークス強度DI
150
15が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値との関係を示す図である。
【
図34】実施例2-5における、積算充填低下量と、評価例1における、コークス強度DI
150
6が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の例示の態様(本開示で、本実施態様ということもある。)について説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0014】
[成型炭周囲の空隙量の解析方法]
本発明の一態様は、粉炭と成型炭とで構成される配合炭における、成型炭周囲の空隙量の解析方法を提供する。本開示で、粉炭とは、粉砕された石炭を指し、粉砕後に更に粒度調整された石炭、及び塊成炭が混在している場合は塊成炭を包含する。本開示で、塊成炭とは、粉炭(一態様において0.3mm篩下の粉炭)に粘結補填材を添加し加圧成型して得られる球相当半径6mm未満の石炭を指す。本開示で、成型炭とは、粉炭(一態様において0.3mm篩下の粉炭)に粘結補填材を添加し加圧成型して得られる球相当半径6mm以上の石炭を指す。
【0015】
本実施態様に係る成型炭周囲の空隙量の解析方法においては、X線CT(Computed Tomography)を用いて得た配合炭の断面画像を3D解析する。断面画像の3D解析によって成型炭周囲の空隙を評価しようとする場合、当該空隙は、充填性が低くなっている領域であるが密度が完全にゼロではないため、どの領域を空隙とみなすかによって評価結果が変わる。前述の特許文献1に記載される方法では、断面画像の2D解析によって、空隙を成型炭周縁からの幅で評価するため、空隙が小さい場合には空隙とみなす領域の決定が難しい。特に、塊成炭と成型炭とが混在している場合、これらを互いに明確に区別できないために成型炭の判別精度が低く、成型炭周囲の空隙量の高精度な評価が困難であった。
【0016】
そこで、本発明者らは、成型炭周囲の空隙を断面画像の3D解析によって評価すること、及びその際、空隙とみなした部位において、密度に体積を乗ずることで体積の重みを考慮した、充填低下量という指標を採用することを着想した。
【0017】
本発明の一態様は、
成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙量の解析方法であって、
試験装置を用いて自然落下により成型炭と粉炭とを試験容器に充填し、
X線CTにより試験容器内の断面画像を撮像し、
得られた断面画像の3D解析によって成型炭周囲の空隙量を求め、
前記3D解析において、
密度が既定値を超える高密度部と、密度が前記既定値以下である低密度部とをそれぞれ規定し、
前記高密度部を既定形状パラメータでフィルタリングして成型炭部と規定し、
任意に、前記高密度部のうち、前記成型炭部以外の領域であり且つ体積が既定値を超える領域を塊成炭部と規定し、前記塊成炭部は画素データ不存在として取扱うことで解析対象から除外し、
前記成型炭部の周縁から前記成型炭部と相似形で1回あたり1単位体積を膨張させる膨張処理を(n+1)回以上行い、但しnは自然数であり、
前記(n+1)は、(n+1)回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度が、n回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度と略同一である数であり、
n回目以降の膨張処理で体積増加した領域の平均密度を閾値とし、
膨張処理の各回において体積増加した領域について、密度が前記閾値を超える領域を粉炭部、密度が前記閾値以下である領域を空隙部とそれぞれ規定し、
膨張処理の各回において体積増加した領域について、前記粉炭部の平均密度と前記空隙部の平均密度との差分値を算出し、
膨張処理の各回において体積増加した領域の体積に前記差分値を乗じて充填低下量を算出し、
前記充填低下量を全膨張処理回数で積算して積算充填低下量を算出し、前記積算充填低下量を成型炭周囲の空隙量の指標とする、
成型炭周囲の空隙量の解析方法を提供する。
充填低下量を用いた評価によれば、成型炭周囲の空隙の大きさ及び形状の制約なく、空隙量の高精度な定量化評価が可能である。
【0018】
本開示で、膨張処理とは、ある1個のボクセル(単位体積)(中央ボクセル)とそれに隣接する26個のボクセル(周辺ボクセル)を考え、周辺ボクセルの最大値を計算し、中央ボクセルの値より大きければ、中心ボクセルの値を最大値に置き換える処理を意味する。断面画像において、成型炭はその周囲よりも高密度である(すなわちX線CT値が大きい)ことから、成型炭周縁に対してこの膨張処理を行うことにより、成型炭が1ボクセル/回にて相似形に膨張されていくことになる。
【0019】
図1は、本発明の一態様における画像処理フローについて説明する概略図である。本実施態様の方法においては、ステップS11で取得したX線CT断面画像について、ステップS12~18で3D解析を行うことで、成型炭周囲の空隙を解析する。以下、
図1を参照しながら、本実施態様に係る成型炭周囲の空隙量の解析方法の手順例について説明する。
【0020】
(ステップS11)
本ステップでは、試験装置を用いて自然落下により成型炭と粉炭とを試験容器に充填し、X線CTにより試験容器内の断面画像を撮像する。成型炭及び粉炭の各々を構成する石炭は、1種でも2種以上の組合せでもよい。粉炭は、一態様において塊成炭を含み、又は一態様において塊成炭を含まない。試験装置及びX線CT装置は市販で入手可能な装置であってよく、X線CTの測定条件は所望に応じて適宜設定してよい。ボクセルサイズは、良好な解析精度を得る観点から、小さいことが好ましく特に限定されない。なお、本発明の一態様においては0.488mm×0.488mm×0.488mmとした。
【0021】
(ステップS12)
ステップS12~18において、3D解析にはX線CT装置の付属ソフトを用いてよい。ステップS12では、ステップS11で取得した断面画像(以下、元画像ともいう。)内の解析範囲(以下、ROIともいう。)を密度によって二値化し、密度が既定値を超える高密度部と、密度が既定値以下である低密度部とをそれぞれ規定する。上記既定値は、成型炭及び存在する場合の塊成炭が高密度部に分類され、塊成炭以外の粉炭部が低密度部に分類されるように適宜設定してよく、例えば、1.0g/cm3としてよい。
【0022】
(ステップS13)
本ステップでは、上記の高密度部を既定形状パラメータでフィルタリングして成型炭部を規定する。成型炭部は、以下の手順で規定してよい。
a) ステップS12で規定した高密度部について、ノイズ除去のため、小粒子(一態様において、100ボクセル以下の小粒子)を除去する。
b) 上記a)の処理後の高密度部について、粒子を分離して1つ1つを区別できるようにする。分離は、ラベリング処理で行ってよい。
c) 上記b)の処理後の高密度部から、既定形状パラメータでのフィルタリングによって、成型炭に相当する領域を抽出する。既定形状パラメータは、成型炭部を正確に規定できるように設定されたものであり、一態様において、Anisotropy(異形度)、Flatness(平坦度)、Elongation(伸長度)、Volume(体積)等のうち1つ又は2つ以上であってよい。成型炭のサイズによらず所望のフィルタリングを容易に実施できる点で、Anisotropy、Flatness、及びElongationの組合せが好ましい。例えば、Anisotropy<0.9,Flatness<0.4,且つElongation>0.4、等によりフィルタリングを行ってよい。
d) 上記c)で抽出した領域について、くびれの検出及び除去を行う。一般に、成型炭はバリの部分にくびれを有する場合が多いためである。くびれの検出は、ウォーターシェッド法を用いて行ってよい。
e) 上記d)の処理後の領域を、1回収縮(すなわち1ボクセルの収縮処理)、上記a)と同手順の小粒子除去、1回膨張(すなわち1ボクセルの膨張処理)、スムージングの順で処理し、残った領域を成型炭部と規定する。
【0023】
(ステップS14)
本ステップは、粉炭が塊成炭を含む場合のみ実施してよい。本ステップでは、ステップS12で規定した高密度部のうち、ステップS13で規定した成型炭部以外の領域であり且つ体積が既定値を超える領域を塊成炭部と規定する。当該塊成炭部は、画素データ不存在として取扱う。粉炭が塊成炭を含む場合、当該塊成炭は、球相当半径6mm未満であるが密度は成型炭同様に高い。成型炭に加えてこのような塊成炭が膨張処理対象領域に含まれると、空隙を正確に評価できなくなる恐れがある。したがって、配合炭が塊成炭を含む場合には、当該塊成炭を解析対象から除外する。
【0024】
具体的には、ステップS12で規定した高密度部から、ステップS13で規定した成型炭部を差し引き、残った領域をラベリングする。このラベリングされた領域から、体積によるフィルタリング(一態様において、Volume>15mm3の体積パラメータを満足する領域のみを選択)によって、塊成炭部を抽出する。
【0025】
なお、配合炭が塊成炭を含む場合には、成型炭周囲に加えて塊成炭周囲にも空隙が形成される。成型炭周囲に塊成炭が存在する場合、成型炭周囲の充填低下量として塊成炭周囲の充填低下量を含むことが考えられるため、塊成炭周囲の充填低下量を求め、これを成型炭周囲の充填低下量から差し引くことが考えられる。しかし、本発明者らの検討によれば、成型炭周囲の充填低下量に含まれる塊成炭周囲の充填低下量の割合は軽微であり、また塊成炭周囲の空隙の存在がコークス強度に与える影響は軽微である。したがって、本実施態様の充填低下量の評価において、塊成炭周囲の充填低下量は考慮しなくてよいものとする。具体的には、本実施態様の3D解析において、塊成炭に対応する部位は、画素データを有さない領域として取扱うことによって本実施態様の解析対象から除外する。本発明では、積算充填低下量は成型炭周囲の充填低下量のことを指す。
【0026】
(ステップS15)
本ステップでは、元画像のROI内において、上記ステップS13で規定した成型炭部について、成型炭部の周縁から当該成型炭部と相似形で1回あたり1単位体積(すなわち1ボクセル)を膨張させる膨張処理を(n+1)回以上行う。但しnは自然数である。(n+1)は、(n+1)回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度が、n回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度と略同一である数である。ここで、略同一とは、(n+1)回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度が、n回目の膨張処理で体積増加した領域の平均密度に対して、一態様において±0.3%以内が例示できる。ここで、±0.3%は測定ばらつき相当であり、特にこの値に限定されない。
【0027】
膨張処理が1回完了するごとに、当該1回の膨張処理で増加した領域の体積(すなわち1回の膨張処理による体積増分)及び平均密度を求める。体積は、体積増加した領域のボクセル数に対応する。平均密度は、体積増加した領域における各ボクセルのCT値を当該領域のボクセル数で数平均することで算出する。膨張処理は、少なくとも、1回の膨張処理で増加した領域の平均密度が膨張処理回数を増加させても略同一となるまで行う。全膨張処理回数は、(n+1)回でもよいし、(n+1)回よりも、例えば10回以上、又は20回以上、多くてもよい。一態様において、全膨張処理回数は、30~50回、例えば30回であり得る。
【0028】
(ステップS16)
本ステップでは、n回目以降の膨張処理で体積増加した領域の平均密度を閾値とし、膨張処理の各回において体積増加した領域について、密度が当該閾値を超える領域を粉炭部、密度が当該閾値以下である領域を空隙部とそれぞれ規定する。
【0029】
(ステップS17)
次いで、膨張処理の各回において体積増加した領域について、粉炭部の平均密度と空隙部の平均密度との差分値を算出する。粉炭部の平均密度は、粉炭部に含まれる各ボクセルのCT値を粉炭部全体のボクセル数で数平均した値であり、空隙部の平均密度は、空隙部に含まれる各ボクセルのCT値を空隙部全体のボクセル数で数平均した値である。次いで、膨張処理の各回において体積増加した領域の体積に上記の差分値を乗じて充填低下量を算出する。
【0030】
(ステップS18)
本ステップでは、ステップS17で算出した充填低下量を全膨張処理回数で積算して積算充填低下量を算出する。この積算充填低下量を成型炭周囲の空隙量の指標とすることができる。
図2は、本開示の充填低下量について説明する概略図である。本ステップで上記のように算出される充填低下量は、ある膨張処理回数(一態様において、上記のn回)までは空隙の存在により変化するが、これを上回る回数(一態様において、上記の(n+1)回以上)であると、膨張処理で増加する領域に空隙部が存在しなくなるためほぼ不変となる。例えば、
図2において、膨張処理8回までは、1回の膨張処理で増加した領域の充填低下量が変化するが、膨張処理9回以降は当該充填低下量が膨張処理8回の値からほぼ変化しなくなる。充填低下量がほぼ不変となるまでの膨張処理回数を通じた充填低下量の累積値は、成型炭周囲に存在する空隙全量を反映する。上記観点から、一態様においては、充填低下量を(n+1)回以上である全膨張処理回数で合計して得られる積算充填低下量が、成型炭周囲の空隙量の指標として有用である。
【0031】
[成型炭周囲の空隙量の推定方法]
本発明の一態様はまた、粉炭と成型炭とで構成される配合炭における、成型炭周囲の空隙量の推定方法を提供する。
【0032】
例えば、前述の特許文献1に記載される方法では、粒度構成、水分率等の性状が異なる種々の粉炭を使用する場合に、断面画像の解析をその都度実施する必要があった。一方、本実施態様に係る成型炭周囲の空隙量の解析方法を用いると、粉炭の粒度構成、水分率等の性状と、積層充填低下量との関係を予め求めておくことによって、性状が種々異なる粉炭の積層充填低下量を、実際の画像解析無しで推定することが可能である。
【0033】
積算充填低下量を左右する因子としては、粉炭の粒度構成、粉炭の水分率、及びその他の因子が考えられるが、本実施態様に係る成型炭周囲の空隙の解析方法を用いて求められた積算充填低下量について本発明者らが検討したところによれば、成型炭周囲の空隙量には粉炭の粒度構成と粉炭の水分率とが特に大きく影響していると考えられる。そして、粒度構成の中でも、粉炭に含まれる粗大粒子の質量割合がとりわけ影響していると考えられる。また粉炭の水分率は、粉炭の流動性に影響することによって成型炭周囲の空隙量に影響すると考えられる。
【0034】
そこで、粉炭の粒度構成、好ましくは粉炭中の粗大粒子の質量割合を用い、当該粒度構成及び粉炭の水分率の組み合わせと積算充填低下量との関係を求めることで成型炭周囲の空隙を推定する方法の構築を着想した。
【0035】
本発明の一態様は、
成型炭と粉炭とを含む配合炭を容器に充填した際に生じる成型炭周囲の空隙量の推定方法であって、
粒度構成が互いに異なる水準及び水分率が互いに異なる水準が含まれるように選定した複数種の粉炭サンプルの各々と、任意に選定した成型炭サンプルとの組合せである複数種の配合炭サンプルを調製し、
各配合炭サンプルについて、本実施態様の成型炭周囲の空隙量の解析方法に従ってサンプル積算充填低下量を求め、
前記粉炭サンプルの粒度構成及び水分率と前記サンプル積算充填低下量との関係に基づいて、粉炭の粒度構成及び水分率と積算充填低下量との関係式(I)を求め、
コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せである配合炭について、前記使用予定の粉炭の粒度構成及び水分率の値を前記関係式(I)に代入して積算充填低下量推定値を算出し、前記積算充填低下量推定値を成型炭周囲の空隙量の指標とする、
成型炭周囲の空隙量の推定方法を提供する。
【0036】
<粉炭サンプルの選定>
本実施態様の推定方法で用いる粉炭サンプルは、粒度構成が互いに異なる水準及び水分率が互いに異なる水準が含まれるように選定する。粉炭サンプルは、粒度構成又は水分率が互いに同一である水準を含んでもよい。粉炭サンプルは、粒度構成及び水分率の各々が、一態様において2以上、好ましくは、3以上の異なる値を有する水準群で構成される。推定精度の観点では、異なる値の数が多い方が有利であるが、作業効率の観点では、上記の異なる値の数は、一態様において、10以下、又は8以下であってよい。
【0037】
推定に用いる粒度構成の値は、一態様において粗大粒子の質量割合の値であり、好ましくは、篩上質量割合及び粒径からなる群から選ばれる1つの値である。成型炭のサイズは、通常、30cc~120ccと想定される。粉炭中の粗大粒子の質量割合の指標としての篩上質量割合の篩サイズ、より具体的にはJIS Z 8801-1準拠の目開きサイズは、典型的には2mm以上であり、好ましくは、2.8mm以上、又は5.6mm以上である。篩サイズは、粉炭中の粗大粒子が成型炭周囲の空隙量に与える影響をより正確に見積もる観点から、一態様において、8mm以下、又は6.7mm以下であってよい。粒径としては、粗大粒子の存在が値に大きく寄与する指標である質量平均径が好ましいが、他の平均粒子径、又は粒度分布の関数表示で得られるパラメータ(例えば、50%径)等を採用してもよい。
【0038】
<関係式(I)の導出>
各配合炭サンプルについて、前述した本発明の一態様に係る成型炭周囲の空隙量の解析方法に従ってサンプル積算充填低下量を求め、次いで、粉炭サンプルの粒度構成及び水分率とサンプル積算充填低下量との関係に基づいて、粉炭の粒度構成及び水分率と積算充填低下量との関係式(I)を導出する。一態様において、関係式(I)は下記関係式(I-1)のように表される。
積算充填低下量=a×[粉炭の粒度構成の値]+b×[粉炭の水分率の値]+c (I-1)
(式中、a及びbは、粉炭サンプルの粒度構成及び水分率とサンプル積算充填低下量との関係から導出された係数であり、cは、粉炭サンプルの粒度構成及び水分率とサンプル積算充填低下量との関係から導出された定数項である。)
粉炭サンプルの粒度構成及び水分率とサンプル積算充填低下量との関係から関係式(I)を導出する方法は、これに限定されないが例えば単回帰分析又は重回帰分析等の多変量解析であってよい。以下、これらの各々の例示の解析手順について説明する。
【0039】
(単回帰分析)
一態様に係る単回帰分析においては、粒度構成及び水分率の各々を変数とし、これらの各々とサンプル積算充填低下量との関係を、線形回帰又は多項式回帰、典型的には線形回帰してよい。具体的には、粒度構成及び水分率の各々の値をx軸、積算充填低下量の値をy軸にそれぞれプロットし、当該プロットから、例えば最小自乗法を用いた線形回帰により単回帰式を求めてよい。
【0040】
次に、粒度構成と積算充填低下量との関係を示す単回帰式から求めた回帰係数(一態様においては線形回帰式の傾き)の値を上記関係式(I-1)の係数aとし、水分率と積算充填低下量との関係を示す単回帰式から求めた回帰係数(一態様においては線形回帰式の傾き)の値を関係式(I-1)の係数bとする。係数cは、例えば0であってよく、又は0以外であってよい。これにより、粉炭の粒度構成及び水分率と積算充填低下量との関係式(I)としての関係式(I-1)を得ることができる。
【0041】
(重回帰分析)
一態様に係る重回帰分析においては、粒度構成及び水分率の両方を変数とし、これら変数とサンプル積算充填低下量との関係を、線形回帰又は多項式回帰、典型的には線形回帰してよい。具体的には、粒度構成及び水分率を説明変数とし、積算充填低下量を目的変数とする多回帰分析を行ってよい。本発明者らの検討によれば、粒度構成と水分率との間には強い相関がないことから、これらを説明変数とすることは有意な多回帰分析を行う点で有利であり得る。回帰は、これに限定されないが例えば最小自乗法により行ってよい。
【0042】
次に、粒度構成及び水分率と積算充填低下量との関係を示す重回帰式から求めた回帰係数の値を上記関係式(I-1)の係数a、bとし、当該重回帰式の切片の値を係数cとする。これにより、粉炭の粒度構成及び水分率と積算充填低下量との関係式(I)としての上記関係式(I-1)を得ることができる。なお重回帰分析においては、標準化により切片c(すなわち定数項)が0である関係式(I-1)を得てよいが、標準化を行わないこともできる。
【0043】
重回帰分析が有効に行われたか否かの確認方法は特に限定されず、通常の手法により検定を行ってよい。有意水準は所望に応じて選択してよく、例えば5%又は1%としてよい。回帰結果が有意水準を満たさない場合には、粒度構成として選択するパラメータを変更した上で重回帰分析を再度行う操作を、有意水準が満たされるまで繰り返してよい。粒度構成として篩上質量割合を用いる場合、ある篩サイズでの篩上質量割合による重回帰分析が有意水準を満たさないときには、篩サイズをより大きいものに変更した上で重回帰分析を再度行ってよい。変数とする篩上質量割合の篩サイズを大きくすると、有意Fが小さくなり好ましい傾向がある。
【0044】
なお、上記では、成型炭周囲の空隙量の推定における変数として粉炭の粒度構成及び水分率の値を用いる場合について説明したが、積層充填低下量に大きく影響する他の因子が存在する場合には、粒度構成及び/又は水分率に代えて、又は粒度構成及び水分率に加えて、当該他の因子を採用することも可能である。例えば、上記では、重回帰分析の説明変数が2つである場合を例示したが、説明変数を3つ以上としてもよい。
【0045】
<積算充填低下量推定値の算出>
上記例示した手順で導出した関係式(I)を用いることで、配合炭の積算充填低下量推定値を算出できる。一態様においては、コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せである配合炭について、当該使用予定の粉炭の粒度構成及び水分率の値を、上記関係式(I)に代入して積算充填低下量推定値を算出する。この積算充填低下量推定値を、成型炭周囲の空隙量の指標とすることができる。
【0046】
[コークスの製造方法]
本発明の一態様は、成型炭と粉炭とを含む配合炭を用いたコークスの製造方法も提供する。本発明者らは、本実施態様の充填低下量という指標を用いて成型炭周囲の空隙の量を高精度に解析することで、劣質炭を多く使用しつつ高強度のコークスを製造できることを見出した。本発明者らの検討によれば、成型炭と粉炭とを含む配合炭のコークス強度は、成型炭部のSVが所定値以上であるとほぼ一定であるが、当該所定値を下回ると、当該成型炭部のSVが低くなるに従って低くなるという傾向がある。この傾向は、粉炭の膨張性・水分率・粒度構成によらず同様にみられ、積算充填低下量が異なると上記所定値が異なる。SVが低い成型炭は、劣質であるが故に安価であり得る。したがって、成型炭部のSVの上記所定値、すなわち、成型炭部SVを低下させたときのコークス強度低下が生じない限度値である成型炭部SV下限値を求め、この成型炭部SV下限値を示す成型炭を選択して用いることは、高強度のコークスを安価に得る点で有利である。積算充填低下量と成型炭部SV下限値との関係式(II)を予め求めておき、使用予定の粉炭を含む配合炭について積算充填低下量を求め、これを上記関係式(II)に代入して成型炭部SV下限値を算出し、SVがこの成型炭部SV下限値以上である成型炭を上記使用予定の粉炭と配合することができる。なお、劣質炭を多く使用しつつ高強度のコークスを形成可能な配合炭を構成するためには、成型炭部SV下限値に近い値であるほど好ましい。具体的には、実操業での成型炭部SVのばらつきが通常±0.1cm3/g程度であることを考慮し、成型炭部SV下限値+0.1cm3/gのSV値を有する成型炭を、上記使用予定の粉炭と配合することが好ましい。
【0047】
本実施態様のコークスの製造方法においては、
A) 試験用に選択した配合炭について、本実施態様の成型炭周囲の空隙量の解析方法によって算出される積算充填低下量と、成型炭部SVを変化させてもコークス強度が一定であるような成型炭部SV範囲の下限である成型炭部SV下限値との関係式(II)を予め求めておき、
B) コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せについて、B1)本実施態様の成型炭周囲の空隙量の解析方法を用いて積算充填低下量を求め、又は、B2)本実施態様の成型炭周囲の空隙量の推定方法を用いて積算充填低下量推定値を求め、
C) B1)で求めた積算充填低下量又はB2)で求めた積算充填低下量推定値を前記関係式(II)に代入して成型炭部SV下限値を求め、
D) SV実測値が前記成型炭部SV下限値以上である成型炭を製造し、前記使用予定の粉炭と、製造された成型炭とで構成される配合炭をコークス製造に供する。
以下、より具体的に説明する。
【0048】
(積算充填低下量と成型炭部SV下限値との関係式(II)の導出)
上記A)において、試験用に選択した配合炭について、本実施態様の成型炭周囲の空隙量の解析方法によって算出される積算充填低下量と、成型炭部SVを低下させたときのコークス強度低下が生じない限度値である成型炭部SV下限値との関係式(II)を予め求めておく。一態様において、水分率及び/又は粒度構成が異なる複数水準の粉炭と、SVが異なる複数水準の成型炭とを選定する。粉炭の各水準と、成型炭のうち任意に選択した1水準とを組合せた試験用配合炭について、本実施態様の方法によって、積算充填低下量を算出する。例えば、粉炭を3水準、成型炭を10水準選定する場合、計3種の試験用配合炭について積算充填低下量を算出する。積算充填低下量の算出に供する成型炭としては、上記複数水準のうち、欠損等がないものを選択する。
【0049】
成型炭部SVを低下させたときのコークス強度低下が生じない限度値である成型炭部SV下限値は、以下のように求める。
a)試験用に選定した成型炭の各水準について、JIS M8801に準拠し、ジラートメーターを用いた乾留試験によってSVを実測する。
b) 試験用配合炭から得られたコークスの各々について、JIS K 2151に準拠し、ドラム試験によってコークス強度を実測する。コークス強度は、一態様においてDI150
15又はDI150
6であってよい。DI150
15は、ドラム試験における150回転後の15mm篩上の割合であって、コークスの体積破壊強度を主に表す指標であり、DI150
6は、ドラム試験における150回転後の6mm篩下の割合であって、コークスの表面破壊強度を主に表す指標である。
c) 全試験用配合炭について、粉炭の水準ごとに、成型炭部SV(x軸)と試験用配合炭から得られたコークス強度(y軸)との関係をプロットする。例えば、粉炭を3水準、成型炭を10水準選定する場合、第1の水準の粉炭と第1~第10の水準の各々の成型炭との組合せに係る試験用配合炭についての第1のプロット、第2の水準の粉炭と第1~第10の水準の各々の成型炭との組合せに係る試験用配合炭についての第2のプロット、並びに、第3の水準の粉炭と第1~第10の水準の各々の成型炭との組合せに係る試験用配合炭についての第3のプロットを作成する。各プロットについて、コークス強度が、成型炭部SVの値によらず一定に維持される領域の成型炭部SVの最小値を、成型炭部SV下限値と規定する。コークス強度が、成型炭部SVの値によらず一定に維持される領域とは、各プロットにおいて、コークス強度の値が標準偏差内に収まる領域を意味する。例えば、各プロットの標準偏差が0.4である場合、コークス強度が成型炭部SVの値によらず一定に維持される領域は、コークス強度が±0.4の範囲に収まる領域である。このようにして、粉炭の水準ごとの成型炭部SV下限値を得る。なお、成型炭部SV(x軸)の増加に対して、試験用配合炭から得られたコークス強度(y軸)が増加する度合が明らかに変化してほぼ同じ値に維持されていれば、一定に維持される領域と見なすことができ、その判断は標準偏差に限定されない。
d) 上記で算出した、粉炭の水準毎の積算充填低下量をx軸、上記で規定した、粉炭の水準毎の成型炭部SV下限値をy軸にプロットし、例えば線形近似によって、積算充填低下量と成型炭部SV下限値との関係式(II)を導出する。
【0050】
(コークス製造における使用候補の石炭の選定)
上記B1)において、コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せについて、本実施態様の成型炭周囲の空隙量の解析方法を用いて積算充填低下量を求める。成型炭としては、欠損等がないものを選択してよい。
【0051】
又は、上記B2)において、コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せについて、本実施態様の成型炭周囲の空隙量の推定方法を用いて積算充填低下量推定値を求める。
【0052】
上記C)において、上記B1)で求めた積算充填低下量又は上記B2)で求めた積算充填低下量推定値を、上記A)で求めた関係式(II)に代入して、成型炭部SV下限値を求める。この成型炭部SV下限値は、使用予定の粉炭を含む配合炭において成型炭に起因する(より具体的には、成型炭部のコークス化時の膨張不足に起因してコークスに空隙が残存することによる)コークス強度低下を生じさせずに、成型炭部SVを下げる(すなわち、より劣質の成型炭を活用する)ことができる限界を示すものである。
【0053】
上記D)において、SV実測値が上記で求めた成型炭部SV下限値以上である成型炭を製造する。製造される成型炭のSV実測値は、上記成型炭部SV下限値に近い値であるほど好ましいが、実操業での成型炭部SVのばらつきが通常±0.1cm3/g程度であることを考慮し、例えば成型炭部SV下限値+0.1cm3/gである値が好ましい。このような成型炭は、成型炭に起因するコークス強度低下を生じさせない限度において最も劣質であり得る。成型炭のSV実測値は、例えば、当該成型炭の製造に用いる石炭及び/又は粘結補填材の種類及び/又は量を調整することによって、所望の値に調整できる。上記のように製造された成型炭を用いた配合炭をコークス製造に供することで、安価でありながら所望のコークス強度を維持したコークスの製造が可能になる。
【実施例0054】
以下、本発明の例示の態様を実施例を挙げて更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
【0055】
[実施例1]
<成型炭周囲の空隙量の解析>
(使用した石炭)
解析には、表1に示す水準1~4の粉炭と、欠損等がない成型炭とを用いた。なお、「粉砕炭」とは、粉炭のうち粉砕で得た石炭自体を指し、「粗粒炭」とは、粒径0.3mm未満の微粉を除いた石炭を指し、「整粒炭」とは、粒径を0.3mm~3mmとした石炭を指す。各粉炭の粒度分布を
図3に示す。成型炭は粒径40mm程度のピロー型を用いた。
【0056】
以下の手順で、成型炭周囲の空隙を充填低下量により解析した。
【0057】
(ステップS11)
試験装置を用いて、自然落下により成型炭と粉炭とを試験容器に充填し、X線CTにより試験容器内の断面画像を撮像した。
【0058】
試験装置として、ASTM D 291-86に準拠した嵩密度試験において以下の条件を改良したASTM改良型嵩密度測定装置(清塘et al.,コークスサーキュラー,30(11),13-5(1981).)の1/2スケールである、Mini ASTM装置(落下高さ1m)を用いた。
【0059】
Mini ASTM装置の試験容器(150×150×150mm)に、各水準の粉炭のうち1.5kgを落下させ、次いで成型炭(カップサイズ30cc、球形換算で粒径39mm)を落下させ、最後に残りの各水準の粉炭2.75kgを落下させて、石炭を充填した。石炭が充填された試料容器を、X線CT診断装置(東芝メディカルシステムズ(株)製TSX-201(Aquilion LB))で撮影した。X線CTの撮影条件は以下のとおりである。下記撮影条件により、1ピクセルあたり0.488mmの解像度が得られた。
スキャンモード:Helical
管電圧:120kV
管電流:400mA
FOV(視野径):440mm
撮影スライス厚:0.5mm
【0060】
得られた断面画像を画像解析ソフトAvizoにて処理した。解析はすべて3次元で実施した。解析範囲(ROI)は、壁効果を除くために、中央の120mm矩形領域(すなわち、容器寸法(150×150×150mm)中の中央部分(120×120×120mm))とした。
【0061】
(ステップS12)
ROI内の各画素のX線CT値に基づき、密度(BD)を下記関係式:
BD(t/m3)=0.001×(X線CT値)+1
に従って算出した。密度が1.0g/cm3を超える領域を高密度部、1.0g/cm3以下の領域を低密度部と規定した。
【0062】
(ステップS13)
a) ステップS12で規定した高密度部について、100ボクセル以下の小粒子を除去した。
b) 上記a)の処理後の高密度部について、粒子を分離して1つ1つを区別できるように、ラベリング処理を行った。
c) 上記b)の処理後の高密度部から、Anisotropy<0.9,Flatness<0.4,且つElongation>0.4、の形状パラメータを満足するもののみを、異形粒子として選択した。
d) 上記c)で抽出した異形粒子について、ウォーターシェッド法を用いて、くびれを検出及び除去した。
e) 上記d)の処理後の異形粒子を、1ボクセル収縮、上記a)と同手順の小粒子除去、1ボクセル膨張、スムージングの順で処理し、残った領域を成型炭部と規定した。膨張及び収縮の処理は、全て球形(ball dilation/ball erosion)で行った。
【0063】
(ステップS14)
本ステップは、塊成炭を含む水準のみ行った。ステップS12で規定した高密度部から、ステップS13で規定した成型炭部を差し引き、残った領域をラベリングした。このラベリングされた領域から、Volume>15mm3の体積パラメータを満足する領域のみを、塊成炭部として選択した。この領域に対してマスク処理をすることで、解析対象から除外した。
【0064】
(ステップS15)
元画像のROI内において、上記ステップS13で規定した成型炭部について、成型炭部の周縁から当該成型炭部と相似形で1回あたり1ボクセルを膨張させる膨張処理を30回行った。
【0065】
(ステップS16)
膨張処理が1回完了するごとに、当該1回の膨張処理で増加した領域の体積(すなわち1回の膨張処理による体積増分)及び平均密度を求めた。膨張処理回数21回を超えると、上記平均密度がほぼ変化しなくなったことから、膨張処理回数21回以降の平均密度を粉炭部の平均密度とした。この平均密度を閾値とし、当該閾値を超える領域を粉炭部、当該閾値以下の領域を空隙部と規定した。
【0066】
(ステップS17)
粉炭部に対応する各ボクセルのX線CT値から算出される密度の粉炭部全体での数平均を粉炭部の平均密度とし、空隙部に対応する各ボクセルのX線CT値から算出される密度の空隙部全体での数平均を空隙部の平均密度とし、粉炭部の平均密度と空隙部の平均密度との差分値を算出した。膨張処理回数ごとに、下記式に従って充填低下量を算出した。
充填低下量=[膨張処理の各回において体積増加した領域の体積]×[粉炭部の平均密度と空隙部の平均密度との差分値]
【0067】
(ステップS18)
上記の充填低下量を膨張処理回数で積算して、積算充填低下量を算出した。
図2は、粗粒炭+塊成炭(水分4質量%)の粉炭を用いたときの積算充填低下量を示す。
図2に示すハッチング領域が積算充填低下量に相当する。当該積算充填低下量を、成型炭周囲の空隙量の指標とした。
【0068】
図2に示すように、積算充填低下量を指標とする空隙評価においては、膨張処理が所定回数(
図2では8回)を超えると、膨張処理回数による充填低下量の変動がほぼなくなること、したがって、膨張処理回数を所定以上とすれば良好な評価結果が得られることが分かる。
【0069】
図4は、水準1~4の各粉炭を用いた例におけるX線CT画像を示す。水分率が互いに異なる水準1と水準2とでCT画像を比較すると、水分が少ない水準1では水分が多い水準2よりも空隙が小さいことが分かった。また、粒度構成が互いに異なる水準1,3,4でCT画像を比較すると、粉砕炭(水準1)、粗粒炭及び塊成炭(水準4)と比べて、整粒炭(水準3)では空隙が小さいことが分かった。
【0070】
図5~8は、水準1~4の各粉炭を用いた実施例1における、膨張処理回数と積算充填低下量との関係を示す。
【0071】
[従来例1]
実施例1と同様の配合炭を用い、特許文献1(特に段落番号0020~0026)に記載される方法に従い、以下の手順で、成型炭周囲の空隙の幅を評価した。
2値化で抽出した成型炭部分を選択領域として、成型炭部分を単位幅a(mm)=0.488mmでn回膨張し、成型炭周縁から幅Xn(=a×n)(mm)にて離れた領域を除いた部分の粉炭部の密度BDp,nを求め、Xnに対するBDp,n+1-BDp,nの変化量が所定の範囲に収束したときのXnを成型炭周囲の空隙の幅とした。
【0072】
図9~12は、従来例1における、水準1~4の各粉炭を用いた成型炭からの距離Xと、膨張処理の各回での嵩密度変化量との関係を示す。
【0073】
図5~12に示す結果から得た、成型炭周囲の積算充填低下量の解析結果(実施例1)、及び成型炭周囲の空隙の最大幅の解析結果(従来例1)を表1に示す。
【0074】
従来例1に係る空隙の最大幅による評価において、粉砕炭(水準1)は整粒炭(水準3)と比べて空隙の幅が小さかった。これに対し、実施例1に係る積算充填低下量による評価において、粉砕炭(水準1)は整粒炭(水準3)と比べて空隙の値が大きく、従来例1とは逆の結果となった。従来例1の方法では、粉炭部と空隙とが正しく区別できなかったと考えられる。実施例1の積算充填低下量による解析結果は、
図4に示すCT画像とも良く一致しており、水準1~4中、整粒炭条件(水準3)で積算充填低下量が最小であった。上記より、実施例1に係る解析方法は従来例1に係る解析方法と比べて優れることが分かる。
【0075】
成型炭を複数個使用した場合に、成型炭周囲の積算充填低下量が変化するか検討した。その検討方法として、水準2の粉砕炭70質量%と成型炭30質量%とで構成される配合炭を準備し事前によく混合した。混合した配合炭を、試験装置を用いて自然落下により試験容器に充填し、X線CTにより試験容器内の断面画像を撮像した。撮像した断面画像の解析については上記ステップS12~S18を実施した。なお、成型炭領域の体積を成型炭1個の体積で割ることで解析領域中の成型炭の個数を求めたところ約11.2個であった。成型炭を複数個使用した場合の積算充填低下量の絶対値を求めたところ6.83g(成型炭1個あたりに換算すると0.61g)であり、実施例1について表1に示す水準2の積算充填低下量0.68gと近い値であることが確認された。
【0076】
[実施例2]
<成型炭周囲の空隙量の推定>
実施例2では、画像解析をせずに、成型炭周囲の空隙に影響する因子を用いて成型炭周囲の空隙量を推定する方法を検討した。
図4、表1の結果より、成型炭周囲の空隙の大小には、粉炭の粒度構成(より具体的には粗大粒子の割合)、及び粉炭の水分率が影響していることがわかる。本例では、粉炭の粒度構成として、粉炭の3mm篩上質量割合、6mm篩上質量割合、及び質量平均径に着目した。これらはいずれも、粉炭中の粗大粒子の割合の指標となる。また、粉炭の水分率は、粉炭の流動性に影響し、したがって積算充填低下量に影響すると考えられる。なお、積算充填低下量に影響する因子は粉炭の粒度構成及び水分率に限られるものではないが、本例では、積算充填低下量に対する影響度合いが大きい主な因子である粒度構成及び水分率に着目して推定を行った。なお実施例及び参考例では、便宜上、JIS Z 8801-1準拠の目開きが2.8mm及び5.6mmである篩をそれぞれ3mm篩及び6mm篩と称している。
【0077】
(1)実施例2-1~2-3:単回帰分析の組合せ
本例では、粉炭の粒度構成と水分率とをそれぞれ単独で説明変数とし、積算充填低下量を目的変数として単回帰分析を行った。得られた回帰係数を用いて、粒度構成及び水分率と積算充填低下量との関係式を求めた。粒度構成としては、粉炭の3mm篩上質量割合、粉炭の6mm篩上質量割合、及び粉炭の質量平均径から1つを選んだ。
【0078】
(使用した石炭)
推定には、実施例1で用いたのと同様の、表1に示す水準1~4の粉炭と欠損等がない成型炭とを用いた。
【0079】
(推定手順)
上記粉炭の各々と、上記成型炭との組合せについて、実施例1と同様の手順で積算充填低下量を求め、
図13~16に示すようにプロットした。
図13は、3mm篩上質量割合と積算充填低下量との関係を示す図であり、
図14は、6mm篩上質量割合と積算充填低下量との関係を示す図であり、
図15は、質量平均径と積算充填低下量との関係を示す図であり、
図16は、水分率と積算充填低下量との関係を示す図である。
図13~16に示すように、プロット値からの最小自乗法による線形回帰にて単回帰を行い、回帰式を得た。各回帰式の傾きである回帰係数を用いて、粒度構成及び水分率と、積算充填低下量との関係式(I)を導出した。
【0080】
(実施例2-1)
3mm篩上質量割合及び水分率の各々を説明変数とし、積算充填低下量を目的関数として、
図13に示す単回帰式の回帰係数(=0.0222)及び
図16に示す単回帰式の回帰係数(=0.0539)を用い、関係式(I)としての下記関係式(2-1)を得た。
積算充填低下量=[粉炭の3mm篩上質量割合(質量%)]×0.0222+[粉炭の水分率(質量%)]×0.0539 (2-1)
図17は、各粉炭の3mm篩上質量割合及び水分率の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0081】
(実施例2-2)
6mm篩上質量割合及び水分率の各々を説明変数とし、積算充填低下量を目的関数として、
図14に示す単回帰式の回帰係数(=0.0395)及び
図16に示す単回帰式の回帰係数(=0.0539)を用い、関係式(I)としての下記関係式(2-2)を得た。
積算充填低下量=[粉炭の6mm篩上質量割合(質量%)]×0.0395+[粉炭の水分率(質量%)]×0.0539 (2-2)
図18は、各粉炭の6mm篩上質量割合及び水分率の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0082】
(実施例2-3)
質量平均径及び水分率の各々を説明変数とし、積算充填低下量を目的関数として、
図15に示す単回帰式の回帰係数(=0.3347)及び
図16に示す単回帰式の回帰係数(=0.0539)を用い、関係式(I)としての下記関係式(2-3)を得た。
積算充填低下量=[粉炭の質量平均径(mm)]×0.3347+[粉炭の水分率(質量%)]×0.0539 (2-3)
図19は、各粉炭の質量平均径及び水分率の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0083】
図17~19に示す結果から、上記の実施例2-1~2-3のいずれの方法でも積算充填低下量を推定可能であることが示された。すなわち、コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せである配合炭について、当該使用予定の粉炭の粒度構成及び水分率の値を、本開示の関係式(I)としての上記関係式(2-1)~(2-3)のいずれかに代入して積算充填低下量推定値を算出し、当該積算充填低下量推定値を成型炭周囲の空隙量の指標とすれば、上記配合炭の成型炭周囲の空隙量を精度よく推定することが可能である。
【0084】
[参考例1]
3mm篩上質量割合のみを変数として、
図13に示す単回帰式の回帰係数(=0.0222)を用い、下記関係式(A)に従って積算充填低下量を算出した。
積算充填低下量=[粉炭の3mm篩上質量割合(質量%)]×0.0222 (A)
図20は、各粉炭の3mm篩上質量割合の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0085】
[参考例2]
6mm篩上質量割合のみを変数として、
図14に示す単回帰式の回帰係数(=0.0395)を用い、下記関係式(B)に従って積算充填低下量を算出した。
積算充填低下量=[粉炭の6mm篩上質量割合(質量%)]×0.0395 (B)
図21は、各粉炭の6mm篩上質量割合の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0086】
[参考例3]
質量平均径のみを変数として、
図15に示す単回帰式の回帰係数(=0.3347)を用い、下記関係式(C)に従って積算充填低下量を算出した。
積算充填低下量=[粉炭の質量平均径(mm)]×0.3347 (C)
図22は、各粉炭の質量平均径の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0087】
[参考例4]
水分率のみを変数として、
図16に示す単回帰式の回帰係数(=0.0539)を用い、下記関係式(D)に従って積算充填低下量を算出した。
積算充填低下量=[粉炭の水分率(質量%)]×0.0539 (D)
図23は、各粉炭の水分率の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0088】
図20~23に示す結果から、参考例1~4においては、関係式(A)~(D)の各々で求めた積算充填低下量と実施例1の手順で求めた積算充填低下量との乖離が大きいこと、すなわち、粒度構成及び水分率から選んだ1つのみを変数とした場合、積算充填低下量を精度良く推定できないことが示された。
【0089】
(2)実施例2-4~2-6:重回帰分析
本例では、粉炭の粒度構成及び水分率の両方を説明変数とし、積算充填低下量を目的変数とし、最小自乗法による線形回帰で重回帰分析を行った。得られた回帰式の傾きである回帰係数を用いて、粒度構成及び水分率と、積算充填低下量との関係式(I)を導出した。粒度構成としては、粉炭の3mm篩上質量割合、粉炭の6mm篩上質量割合、及び粉炭の質量平均径から1つを選んだ。
【0090】
なお、説明変数として用いた粒度構成と水分率との間に強い相関がないことは、以下の方法で予め確認した。
粒度構成と水分率の関係を示す図において、プロット値からの最小自乗法による線形回帰にて単回帰を行い、回帰式の決定係数(R2乗値)を得て、トレランス(=1-R2乗値)が0.1より大きいことを確認した。
【0091】
(使用した石炭)
推定には、表2に示す水準1~7の粉炭と、実施例1と同じ成型炭とを用いた。表2に示す水準1~4の粉炭は表1に示す水準1~4の粉炭と同じである。本例では、水準1~4に加え、粒径0.3mm未満の微粉を除いた粗粒炭(水準5)、3mm篩下質量割合100%とした粉砕炭(水準6)、水準3の整粒炭に塊成炭を配合した整粒炭+塊成炭(水準7)を用いた。すなわち、水準1~7に係る7種の粉炭を用いることで、重回帰分析を適切に行うためのサンプル数を確保した。
【0092】
(推定手順)
上記粉炭の各々と、上記成型炭との組合せについて、実施例1と同様の手順で断面画像解析により積算充填低下量を求めた。表2に各条件での積算充填低下量を示す。水準1~7の結果をもとに、粉炭の3mm篩上質量割合及び水分率の組み合わせ(実施例2-4について)、粉炭の6mm篩上質量割合及び水分率の組み合わせ(実施例2-5について)、又は粉炭の質量平均径及び水分率の組み合わせ(実施例2-6について)を説明変数とし、積算充填低下量を目的変数として重回帰分析を実施した。このとき、有意水準としては、重回帰分析において一般的である5%を採用した。
【0093】
(実施例2-4)
3mm篩上質量割合及び水分率を説明変数として、重回帰分析を実施した。得られた回帰式の回帰係数(=0.01956、0.03984)を用い、関係式(I)としての下記関係式(2-4)を得た。
積算充填低下量=[粉炭の3mm篩上質量割合(質量%)]×0.01956+[粉炭の水分率(質量%)]×0.03984 (2-4)
なお本例では、切片を有意に0と異なるとして重回帰分析を実施した際の切片のP値が有意水準を超えたため、切片は有意に0と異ならない(すなわち、切片=0)として再度重回帰分析を実施し、得られた結果を採用した。
図24は、各粉炭の3mm篩上質量割合及び水分率の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0094】
上記の重回帰分析は、関係式(2-4)に従って算出した積算充填低下量と、実施例1の手順で求めた積算充填低下量(すなわち実測値)との2つの群における分散の比の上側確率(有意F)が0.00030であり、0.05より小さいことから、回帰分析に意味があると判断した。また、粉炭の3mm篩上質量割合及び粉炭の水分率の回帰係数が極端な値となる確率であるP値は、それぞれ0.00124、0.00788であり、どちらも0.05より小さいことから、各回帰係数は有意な係数であると判断した。
【0095】
(実施例2-5)
6mm篩上質量割合及び水分率を説明変数として、重回帰分析を実施した。得られた回帰式の回帰係数(=0.03366、0.05159)を用い、関係式(I)としての下記関係式(2-5)を得た。
積算充填低下量=[粉炭の6mm篩上質量割合(質量%)]×0.03366+[粉炭の水分率(質量%)]×0.05159 (2-5)
なお本例では、切片を有意に0と異なるとして重回帰分析を実施した際の切片のP値が有意水準を超えたため、切片は有意に0と異ならない(すなわち、切片=0)として再度重回帰分析を実施し、得られた結果を採用した。
図25は、各粉炭の6mm篩上質量割合及び水分率の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0096】
上記の重回帰分析は、分散分析の有意Fが0.00023であり、0.05より小さいことから回帰分析に意味があると判断した。また、粉炭の6mm篩上質量割合及び粉炭の水分率のP値はそれぞれ0.00093、0.00107であり、いずれも0.05より小さいことから、各回帰係数は有意な係数であると判断した。
【0097】
(実施例2-6)
質量平均径及び水分率を説明変数として、重回帰分析を実施した。得られた回帰式の回帰係数(=0.02924、0.06227)及び定数項(=-0.3472)を用い、関係式(I)としての下記関係式(2-6)を得た。
積算充填低下量=[粉炭の質量平均径(mm)]×0.02924+[粉炭の水分率(質量%)]×0.06227-0.3472 (2-6)
なお本例では、切片を有意に0と異なるとして重回帰分析を実施した際の切片のP値が有意水準を超えなかったため、当該重回帰分析の結果をそのまま用いた。
図26は、各粉炭の質量平均径及び水分率の値を上記式に代入して算出した積算充填低下量推定値と、各粉炭について実施例1の手順で求めた積算充填低下量との関係を示す図である。
【0098】
上記の重回帰分析は、分散分析の有意Fが0.00456であり、0.05より小さいことから回帰分析に意味があると判断した。また、粉炭の質量平均径、粉炭の水分率及び切片のP値はそれぞれ0.00256、0.01276、0.03849であり、いずれも0.05より小さいことから、各回帰係数は有意な係数であると判断した。
【0099】
上記の(実施例2-4)~(実施例2-6)のいずれの方法でも積算充填低下量を推定可能であり、また粉炭の流動性の指標として粉炭の水分率を用いることが可能であることが示された。すなわち、コークス製造における使用予定の粉炭と、任意に選定した解析用成型炭との組合せである配合炭について、当該使用予定の粉炭の粒度構成及び水分率の値を、本開示の関係式(I)としての上記関係式(2-4)~(2-6)のいずれかに代入して積算充填低下量推定値を算出し、当該積算充填低下量推定値を成型炭周囲の空隙量の指標とすれば、上記配合炭の成型炭周囲の空隙量を精度よく推定することが可能である。
【0100】
[評価例1]
<試験コークス炉を用いた乾留試験による成型炭部SV下限値の評価>
(使用した石炭)
次に、粉炭を水分率4質量%又は10質量%にて成型炭と配合してなる配合炭について、試験コークス炉を用いた乾留試験より成型炭部SV下限値を評価した。
【0101】
表3に、各石炭の性状を示し、表4及び5に、表3の石炭を用いた配合炭における粉炭部の配合条件を示す。配合条件1は粒度0.3~3mmの整粒炭(水分率4質量%)、配合条件2は3mm篩下割合85%の粉砕炭(水分率4質量%)、配合条件3は3mm篩下割合85%の粉砕炭(水分率10質量%)とした。粉砕粒度としての3mm篩下質量割合は、配合条件1、2、3でそれぞれ92.5%、85%、85%であった。液体粘結補填材としてタール系粘結補填材を用い、固体粘結補填材としてアスファルトピッチ(ASP)を用いた。
【0102】
表6に、成型炭部の配合を示す。粉砕粒度が3mm篩下質量割合90%である粉炭を配合1~23にて成型機(新東工業(株)製のBMS II)で成型して成型炭を製造した。成型炭は粒径40mm程度のピロー型とした。液体粘結補填材としてタール系粘結補填材を用い、固体粘結補填材としてアスファルトピッチ(ASP)を用いた。なお、配合1~8、9~15、16~23の3つのシリーズのうち、配合1~8、9~15については、成型炭部SVによる影響を評価するために、ΣVMをほぼ同じ値に揃える一方、成型炭部SVを異ならせた。なお水準1~8で用いた整粒炭は、粉炭部SV×BD=1.13である。SV×BDとは空隙充填度と呼ばれ、単位体積の中で膨張した石炭が満たすことができる空間の割合を示す。
【0103】
(ジラートメーターを用いた乾留試験による成型炭部SVの測定)
ジラートメーターを用いた乾留試験を行った。表6に示す各配合条件の成型炭を粉砕して3mm篩下質量割合100%に粒度調整した後、ジラートメーター用の成型機を用いて、嵩密度1.10g/cm3(乾燥ベース)、高さ60mmの成型物として反応管に入れ、昇温速度3℃/分で加熱して乾留試験を行い、成型炭部SVを測定した。結果を表6に示す。
【0104】
(ドラム試験によるコークス強度の測定)
表7に示す水準1~23の条件で粉炭と成型炭とを配合してなる配合炭を試験コークス炉にて乾留し、コークスとしたものについて、ドラム試験を回転数30及び150回転、N=3で実施した。結果を表7に示す。また、水準1~8について、成型炭部SVとDI
150
6との関係を
図27に示し、成型炭部SVとDI
150
15との関係を
図28に示す。
【0105】
ジラートメーターを用いた乾留試験で測定した成型炭部SVとドラム試験で測定したコークス強度の値とから、コークス強度が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値を求めた。
図27に示す結果から、成型炭部SVが1.0cm
3/gよりも高い範囲では配合炭全体のコークス強度DI
150
6は略同一であるが、成型炭部SVが0.93cm
3/g、更に0.9cm
3/gと低くなるとコークス強度DI
150
6が大きく低下していることが分かる。成型炭部SVが0.9cm
3/g及び0.93cm
3/gであるプロットを結んだ直線と、その他のプロットのDI
150
6の平均値を示す直線との交点を成型炭部SV下限値として求めたところ、0.97cm
3/gであった。
図28に示す成型炭部SVとDI
150
15との関係においても同様にして成型炭部SV下限値を求めたところ、0.95cm
3/gであり、DI
150
6について求めた成型炭部SV下限値と近い値であった。
【0106】
同様に、水準9~15(すなわち、配合条件2である水分率4質量%の粉砕炭を配合したもの)についての成型炭部SVとDI
150
6との関係を示す
図29から求められる成型炭部SV下限値は1.10cm
3/gであり、水準16~23(すなわち、配合条件3である水分率10質量%の粉砕炭を配合したもの)についての成型炭部SVとDI
150
6との関係を示す
図30から求められる成型炭部SV下限値は1.50cm
3/gであり、粉砕炭を用いた配合炭においては、整粒炭を用いた配合炭よりも、成型炭部SV下限値が高かった。
【0107】
[比較評価例1]
従来例1に係る方法で求めた成型炭周囲の空隙の最大幅から、特許文献1(特開2014-224242号公報)に記載の下記式(1):
Δr=r{(SV×ρ)1/3-1} (1)
(ここで、r:膨張前の円相当半径(mm)、SV:成型炭の膨張比容積(cm3/g)、ρ:成型炭の密度(g/cm3)である。)
を用いて、コークス強度DI150
15が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値を求めた。なお、この下限値を求めるに際して下記の処理を行った。
【0108】
表1に示す、従来例1に係る成型炭周囲の空隙の最大幅は、成型炭1個の周囲に生じる空隙の最大幅であり、特許文献1に記載されるような複数個の成型炭に係る空隙の最大幅とは異なる。成型炭の数が増加すると、成型炭と成型炭との距離が近い場合には密度が低い領域が合わさることになるため、成型炭周囲の空隙の最大幅は、成型炭が1個の場合に比べて成型炭が複数個の場合には大きい値として算出されると考えられる。そこで、成型炭部SVを求める際には、表1に示す水準2の粉炭を用いる例における成型炭周囲の空隙の最大幅の値が、特許文献1の実施例において段落0044に記載される5.37mmと一致するように、表1に示す従来例1で得た成型炭周囲の空隙の最大幅の値を約3.1倍する補正を行った。
【0109】
なお、特許文献1では、配合炭全体のコークス強度DI150
15が一定に維持される成型炭部SVの範囲について、成型炭部SVとともにΣVMも変化させた配合条件で検討しているため、コークス強度DI150
6が一定に維持される成型炭部SVは、コークス強度DI150
15が一定に維持される成型炭部SVと異なる。特許文献1では、DI150
6が一定に維持される成型炭部SVの範囲を求めることができる評価条件は記載されていない。
【0110】
そこで、本比較評価例では、表1の水準2における成型炭周囲の空隙の最大幅を5.37mmとした場合に特許文献1に記載の上記式(1)から得られる成型炭部SV下限値が1.50cm3/gとなるように、成型炭の膨張前後の球相当半径の変化量Δrを、Δr=w×0.75(式中、wは、成型炭周囲の空隙の最大幅である。)として計算した。
【0111】
[評価結果]
比較評価例1で算出した成型炭部SV下限値と、乾留試験で求めた成型炭部SVに基づいて算出した成型炭部SV下限値との関係を、表8及び
図31に示す。特に、水準3(整粒炭条件)では、比較評価例1に基づく成型炭部SV下限値1.40cm
3/gと、乾留試験に基づく成型炭部SV下限値0.97cm
3/gとが大きく乖離していた。これは、従来例1に係る空隙の最大幅による成型炭周囲の空隙量の解析方法では、粉炭部の粒度構成が従来と異なる、整粒炭条件において、粉炭部と空隙とが正しく区別できなかったためだと考えられる。
【0112】
一方、表1に示す成型炭周囲の積算充填低下量と、
図27、29及び30に示すように求めたコークス強度DI
150
6が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値との関係を整理すると(
図32)、強い相関が得られた。
図32から得られた相関式を本開示の関係式(II)として用いて、コークス強度DI
150
6が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値を求めたところ、配合条件1(整粒炭条件)で0.95cm
3/g、配合条件2(粉砕炭条件、水分率4質量%)で1.12cm
3/g、配合条件3(粉砕炭条件、水分率10質量%)で1.49cm
3/gであった。特に、整粒炭条件の成型炭部SV下限値は、比較評価例1よりも、乾留試験での整粒炭条件の値0.97cm
3/gに近い値であり、これから、実施例1に係る積算充填低下量による成型炭周囲の空隙量の解析方法は、従来例1に係る解析方法に比べて解析精度が高いことが示された。
同様に、成型炭周囲の積算充填低下量と、コークス強度DI
150
15が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値との関係(
図33)においても、強い相関が得られた。したがって、成型炭周囲の積算充填低下量と、コークス強度が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値との関係に基づき、配合炭の成型炭部SV下限値を精度よく予測できる。このような成型炭部SV下限値を下回らない限度においてSVが低い成型炭を製造し、これをコークス製造に用いることで、安価且つ高強度のコークスの製造が可能になる。
【0113】
また、実施例2-5において関係式(2-5)に従って算出した積算充填低下量推定値(x軸)と、コークス強度DI
150
6が一定に維持される限度である成型炭部SV下限値(y軸)との関係を整理すると(
図34)、実施例1の手順で求めた積算充填低下量をx軸としている
図32と同様に、強い相関が得られることが確認できた。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】