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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059348
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】火災検知装置および燃焼物特定方法
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/06 20060101AFI20240423BHJP
   G08B 21/00 20060101ALI20240423BHJP
   G08B 17/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G08B17/06 Z
G08B21/00 A
G08B17/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166970
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】井関 晃広
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光明
【テーマコード(参考)】
5C085
5C086
5G405
【Fターム(参考)】
5C085AA11
5C085AA16
5C085BA19
5C085CA30
5C085EA51
5C086AA01
5C086CA09
5C086CB26
5C086DA40
5C086EA40
5G405AA01
5G405AB05
5G405AB07
5G405CA60
5G405EA51
(57)【要約】      (修正有)
【課題】監視エリアで収音される音響データに基づいて、クリブが燃焼することに起因する炎が発生したか否かをより高精度に検知することができる火災検知装置および燃焼物特定方法を提供する。
【解決手段】火災検知装置は、監視エリアで発生する音を音響データとして収音するマイク10と、マイクで収音された音響データから、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移を算出するレベル推移算出部(スペクトル解析部21)及び音圧レベルの時間推移に関してあらかじめ設定された判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に変化する回数をカウントし、回数があらかじめ設定された判定回数以上であると判定した場合には、監視エリアで、燃焼時に突発的な音を発生する特定の燃焼物による炎が発生したことを検知する炎検知部22を有するコンピュータ20と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視エリアで発生する音を音響データとして収音するマイクと、
前記マイクで収音された前記音響データから、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移を算出するレベル推移算出部と、
前記音圧レベルの時間推移に関してあらかじめ設定された判定レベル未満の値から前記判定レベル以上の値に変化する回数をカウントし、前記回数があらかじめ設定された判定回数以上であると判定した場合には、前記監視エリアで、燃焼時に突発的な音を発生する特定の燃焼物による炎が発生したことを検知する炎検知部と
を備える火災検知装置。
【請求項2】
前記所定の高帯域は、3000Hz以上の帯域として設定される
請求項1に記載の火災検知装置。
【請求項3】
監視エリアで発生する音を音響データとして収音するマイクと、
前記マイクで収音された前記音響データから、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移を算出するレベル推移算出部と、
前記音圧レベルの時間推移に関してあらかじめ設定された判定レベル未満の値から前記判定レベル以上の値に変化する回数をカウントし、カウントした前記回数を炎発生の判断に用いる特徴量として出力する特徴量算出部と、
燃焼時に突発的な音を発生する特定の燃焼物を燃やして検出対象である炎をあらかじめ発生させた際に収音された種々の音響データ、および誤報要因も含めた炎が発生していない際に収音された種々の音響データ、のそれぞれに対して、前記特徴量算出部で算出された特徴量をパラメータとして用いることで、前記特定の燃焼物によって前記炎が発生したか否かを判定するための機械学習モデルを作成するモデル作成部と、
前記監視エリアの監視時において、前記特徴量算出部で算出された前記特徴量を前記機械学習モデルの入力とし、前記特定の燃焼物による炎が発生したか否かを判定する炎検知部と
を備える火災検知装置。
【請求項4】
監視エリアで発生する音を音響データとしてマイクにより収音する収音ステップと、
前記マイクで収音された前記音響データから、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移を算出するレベル推移算出ステップと、
前記音圧レベルの時間推移に関してあらかじめ設定された判定レベル未満の値から前記判定レベル以上の値に変化する回数をカウントし、前記回数があらかじめ設定された判定回数以上であると判定した場合には、前記監視エリアで炎が発生したことを検知するとともに、炎が発生した要因が燃焼時に突発的な音を発生する特定の燃焼物によることを特定する特定ステップと
を有する燃焼物特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響データに基づいて監視エリアでクリブによる炎が発生したことを検知する火災検知装置および燃焼物特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
監視エリアにおいて炎が発生したことを検知するために、種々の火災感知器が用いられている。具体的なタイプとしては、例えば、差動式スポット型感知器、定温式スポット型感知器、光電式スポット型感知器などが挙げられる。
【0003】
また、火災時に物が燃焼する際に発生する音を検知する火災検知装置もある(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1では、燃焼時の音の特徴をとらえるための燃焼実験を実施し、その音の周波数分析に基づいて火災時と平常時を区別し、火災と判断する方法が開示されている。
【0004】
特に、非特許文献1では、特定の周波数およびレベルを追いかけるのではなく、ある周波数範囲を指定して、その全体のパワー(レベル)の積分値の時間変化をもとに燃焼現象の有無を識別する方法が妥当であることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「燃焼音の周波数分析について(第2報)」、消防科学研究所報 31号(平成6年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
非特許文献1では、暗騒音と燃焼音をより確実に分離できる方策として、音のパワースペクトルの積分値の時間変化という考え方を導入している。
【0007】
燃焼音は、燃焼物によって異なってくる。発火源などとして用いられるクリブの燃焼音は、ヘプタンの燃焼音と比較すると、低周波領域での周波数スペクトルが大きく現れない傾向にある。非特許文献1に開示された従来技術では、このような周波数特性を有するクリブに関しては、燃焼音からクリブによる炎が発生していることを特定することが困難であった。
【0008】
本開示は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、監視エリアで収音される音響データに基づいて、クリブが燃焼することに起因する炎が発生したか否かをより高精度に検知することができる火災検知装置および燃焼物特定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る火災検知装置は、監視エリアで発生する音を音響データとして収音するマイクと、マイクで収音された音響データから、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移を算出するレベル推移算出部と、音圧レベルの時間推移に関してあらかじめ設定された判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に変化する回数をカウントし、回数があらかじめ設定された判定回数以上であると判定した場合には、監視エリアで、燃焼時に突発的な音を発生する特定の燃焼物による炎が発生したことを検知する炎検知部とを備えるものである。
【0010】
また、本開示に係る火災検知装置は、監視エリアで発生する音を音響データとして収音するマイクと、マイクで収音された音響データから、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移を算出するレベル推移算出部と、音圧レベルの時間推移に関してあらかじめ設定された判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に変化する回数をカウントし、カウントした回数を炎発生の判断に用いる特徴量として出力する特徴量算出部と、燃焼時に突発的な音を発生する特定の燃焼物を燃やして検出対象である炎をあらかじめ発生させた際に収音された種々の音響データ、および誤報要因も含めた炎が発生していない際に収音された種々の音響データ、のそれぞれに対して、特徴量算出部で算出された特徴量をパラメータとして用いることで、特定の燃焼物によって炎が発生したか否かを判定するための機械学習モデルを作成するモデル作成部と、監視エリアの監視時において、特徴量算出部で算出された特徴量を機械学習モデルの入力とし、特定の燃焼物による炎が発生したか否かを判定する炎検知部とを備えるものである。
【0011】
また、本開示に係る燃焼物特定方法は、監視エリアで発生する音を音響データとしてマイクにより収音する収音ステップと、マイクで収音された音響データから、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移を算出するレベル推移算出ステップと、音圧レベルの時間推移に関してあらかじめ設定された判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に変化する回数をカウントし、回数があらかじめ設定された判定回数以上であると判定した場合には、監視エリアで炎が発生したことを検知するとともに、炎が発生した要因が燃焼時に突発的な音を発生する特定の燃焼物によることを特定する特定ステップとを有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、監視エリアで収音される音響データに基づいて、クリブが燃焼することに起因する炎が発生したか否かをより高精度に検知することができる火災検知装置および燃焼物特定方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の実施の形態1に係る火災検知装置の全体構成を示した説明図である。
図2】本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音とクリブによる燃焼音との周波数特性の違いを比較した説明図である。
図3】本開示の実施の形態1における異なる3種のクリブに関する周波数スペクトルの比較を示した説明図である。
図4】本開示の実施の形態1における異なる3種のクリブに関するスペクトログラムおよび音圧の時間波形の比較を示した説明図である。
図5】本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音とクリブによる燃焼音とのスペクトログラムから算出した音圧のレベル推移の違いを比較した説明図である。
図6】本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音とクリブによる燃焼音との突発的な音の発生回数の違いを比較した説明図である。
図7】本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音、クリブによる燃焼音および換気扇の音のそれぞれについて周波数特性の違いを比較した説明図である。
図8】本開示の実施の形態1において、クリブによる燃焼音、換気扇による音、およびヘプタンによる燃焼音のそれぞれのスペクトログラムから算出した音圧のレベル推移の違いを比較した説明図である。
図9】本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音、クリブによる燃焼音、および換気扇の音のそれぞれで突発的な音の発生回数の違いを比較した説明図である。
図10】本開示の実施の形態1に係る火災検知装置において実行される火災検知方法に関する一連処理を示したフローチャートである。
図11】本開示の実施の形態2に係る火災検知装置の全体構成を示した説明図である。
図12】本開示の実施の形態2に係る火災検知装置において実行される火災検知方法に関する一連処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の火災検知装置および燃焼物特定方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本開示は、監視エリアで収音された音響データに基づく周波数解析結果から、クリブが燃焼することに起因する炎特有の特徴量を抽出して炎発生の有無を判定する点に技術的特徴を有し、従来技術では識別が困難であったクリブによる燃焼を高精度に検知することを実現するものである。
【0015】
なお、本開示における「クリブ」とは、燃焼時に突発的な音を発生する特定の燃焼物の総称を意味している。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1に係る火災検知装置の全体構成を示した説明図である。本実施の形態1における火災検知装置は、マイク10と、コンピュータ20とを備えて構成されている。
【0017】
マイク10は、炎の監視エリアに設置され、監視エリア内で発生する音を音響データとして収音する収音装置である。なお、マイク10は、監視エリア内に複数台設置することも考えられる。
【0018】
マイク10を用いて収音した音響データに基づいて炎の有無を判断する場合には、火災によって副次的に発生する煙を監視するのではなく、燃焼そのものに起因して発生する音響データにフォーカスしているため、より迅速に火災検知できる。さらに、マイク10は、煙感知器のように天井に設置する必要がなく、設置場所を決める際の自由度がある。
【0019】
コンピュータ20は、マイク10で収音された音響データに対して演算処理を施すことで、監視エリアでクリブによる炎が発生したか否かを判断するコントローラであり、スペクトル解析部21および炎検知部22を備えている。
【0020】
スペクトル解析部21は、マイク10で収音された音響データを周波数解析することでスペクトログラムを算出する。炎検知部22は、スペクトル解析部21で算出されたスペクトログラムに基づいて、クリブが燃焼したことに起因する特有の特徴量が含まれているか否かを判定する。さらに、炎検知部22は、特有の特徴量が含まれていると判定した場合には、監視エリアでクリブが燃焼したことに起因する炎が発生したことを検知する。
【0021】
そこで、スペクトル解析部21および炎検知部22による具体的な処理内容について、図2図9を用いて詳細に説明する。図2は、本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音とクリブによる燃焼音との周波数特性の違いを比較した説明図である。
【0022】
図2(A)は、ヘプタンの燃焼音とクリブの燃焼音のそれぞれに関する周波数スペクトルを示している。両者を比較すると、クリブの燃焼音は、ヘプタンの燃焼音と比べて、低周波領域での周波数スペクトルのレベルが大きく現れない傾向にあり、逆に、高周波領域での周波数スペクトルのレベルが大きく現れる傾向にある。
【0023】
図2(B)は、ヘプタンの燃焼音に関するスペクトログラムであり、図2(C)は、クリブの燃焼音に関するスペクトログラムである。図2(B)、(C)に示したスペクトログラムは、縦軸を対数目盛の周波数、横軸を時間として、周波数成分の経時変化を輝度の連続として表している。
【0024】
図2(B)と図2(C)とを比較すると、クリブに関する燃焼音のスペクトログラムでは、約3000z以上の周波数領域で、クリブ固有の突発的な音(パチパチした破裂音に相当)が発生している。そこで、本開示では、このような高周波領域における突発的な音の発生に着目し、クリブの燃焼を高精度に検出することとする。
【0025】
図3は、本開示の実施の形態1における異なる3種のクリブに関する周波数スペクトルの比較を示した説明図である。具体的には、杉クリブに関して、含水率が6%、12%、24%の3種について、周波数スペクトルを算出した結果が示されている。
【0026】
3種の周波数スペクトルを比較すると、100Hz以下の低周波領域ではレベルの差異は少ないが、高周波領域におけるレベルは差異が見られ、含水率が高いほどより高いレベルとなっていることがわかる。
【0027】
図4は、本開示の実施の形態1における異なる3種のクリブに関するスペクトログラムおよび音圧の時間波形の比較を示した説明図である。具体的には、先の図3と同様に、杉クリブに関して、含水率が6%、12%、24%の3種について、スペクトログラムおよび音圧の時間波形を算出した結果が示されている。
【0028】
図4における(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)は、それぞれ以下の内容を示している。
(A1):含水率24%の杉クリブの燃焼音の音圧に関する時間波形
(A2):含水率24%の杉クリブの燃焼音に関するスペクトログラム
(B1):含水率12%の杉クリブの燃焼音の音圧に関する時間波形
(B2):含水率12%の杉クリブの燃焼音に関するスペクトログラム
(C1):含水率6%の杉クリブの燃焼音の音圧に関する時間波形
(C2):含水率6%の杉クリブの燃焼音に関するスペクトログラム
【0029】
ここで、(A1)、(B1)、(C1)で示した時間波形は、縦軸を音圧[Pa]、横軸を時間[s]とした、音圧の時系列データに相当する。また、(A2)、(B2)、(C2)で示したスペクトログラムは、縦軸を対数目盛の周波数、横軸を時間として、周波数成分の経時変化を輝度の連続として表している。
【0030】
図4に示した各時間波形および各スペクトログラムを比較すると、含水率が高いほど、突発的な音がより多く発生していることがわかる。そこで、本実施の形態1では、このような差異に着目し、高帯域における時間経過に伴う音圧のレベル推移を求めることで、クリブによる燃焼音を定量的に識別することとする。
【0031】
図5は、本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音とクリブによる燃焼音とのスペクトログラムから算出した音圧のレベル推移の違いを比較した説明図である。図5における(A)、(B)、(C)は、それぞれ以下の内容を示している。
(A):ヘプタンの燃焼音に関するスペクトログラム
(B):クリブの燃焼音に関するスペクトログラムであり、図4(A2)の含水率24%の杉クリブに相当
(C):各スペクトログラムから算出した、3kHz~10kHzの周波数帯域における音圧のレベル推移
【0032】
例えば、f1=3000[Hz]、f2=10000[Hz]とし、nをf1~f2のサンプル数とした場合、3kHz~10kHzの周波数帯域における音圧のレベル推移は、下式(1)により算出することができる。
【0033】
【数1】
【0034】
さらに、下式(2)により、平均値による正規化を行うことができ、図5(C)では正規化後のレベル推移が示されている。
【0035】
【数2】
【0036】
なお、レベル推移は、スペクトログラムから抽出する以外にも、バンドパスフィルタあるいはハイパスフィルタで所望の高域帯だけを通過させるように帯域制限した後、音圧の時系列波形を抽出することによっても対応できる。
【0037】
図5(C)に示したように、例えば、判定レベルを15dBとした場合に、判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に変化する回数を比較すると、クリブの燃焼音では、ヘプタンの燃焼音と比較して、より多くの回数がカウントされることとなる。
【0038】
なお、判定レベルは、火災が発生していない状態での監視エリアにおける暗騒音の平均レベルからあらかじめ設定することができる。暗騒音が大きい場合には、判定レベルを低めのレベル(例えば、平均暗騒音から6dB高いレベル)に設定し、暗騒音が小さい場合には、判定レベルを高め(例えば、平均暗騒音から15dB高いレベル)に設定することが考えられる。
【0039】
図6は、本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音とクリブによる燃焼音との突発的な音の発生回数の違いを比較した説明図である。具体的には、先の図5(C)に示したレベル推移に関して、判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に変化する回数のカウント結果を示している。従って、判定回数を適切な値に設定することで、ヘプタンの燃焼音とクリブの燃焼音とを識別することができる。
【0040】
以上では、ヘプタンによる燃焼音とクリブによる燃焼音とを識別するための手法について説明した。次に、この手法により、誤報要因の1つである換気扇の燃焼音とクリブの燃焼音とを識別することも可能であることを説明する。
【0041】
図7は、本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音、クリブによる燃焼音、および換気扇の音のそれぞれについて周波数特性の違いを比較した説明図である。図7に示すように、クリブの燃焼音による周波数スペクトルは、低域のパワーがないため、検知が難しい。また、周波数スペクトルのみでは、換気扇の音なども高域の音が含まれるため、クリブと識別することが難しく、誤検知が起こってしまうおそれがある。
【0042】
そこで、上述したように、高帯域におけるレベル推移に着目し、クリブの燃焼音に固有の突発的な音を特徴量として検出することで、換気扇とクリブとの識別が可能となる。
【0043】
図8は、本開示の実施の形態1において、クリブによる燃焼音、換気扇による音、およびヘプタンによる燃焼音のそれぞれのスペクトログラムから算出した音圧のレベル推移の違いを比較した説明図である。
【0044】
図8における(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)は、それぞれ以下の内容を示している。
(A1):含水率24%の杉クリブの燃焼音に関するスペクトログラム
(A2):含水率24%の杉クリブの燃焼音に関するレベル推移
(B1):換気扇の音に関するスペクトログラム
(B2):換気扇の音に関するレベル推移
(C1):ヘプタンの燃焼音に関するスペクトログラム
(C2):ヘプタンの燃焼音に関するレベル推移
【0045】
図8の(A2)、(B2)、(C2)に示したように、例えば、判定レベルを15dBとした場合に、判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に変化する回数を比較すると、換気扇の音は、ヘプタンの音と同等の遷移を示しており、クリブの燃焼音と識別することが可能である。
【0046】
図9は、本開示の実施の形態1において、ヘプタンによる燃焼音、クリブによる燃焼音、および換気扇の音のそれぞれで突発的な音の発生回数の違いを比較した説明図である。図9における(A)、(B)は、それぞれ以下の内容を示している。
(A):ヘプタンによる燃焼音、クリブによる燃焼音、および換気扇の音のそれぞれのレベル推移を1つにまとめて示したもの
(B):ヘプタンによる燃焼音、クリブによる燃焼音、および換気扇の音のそれぞれにおける。高帯域(3kHz~10kHz)での突発的な音の発生回数
【0047】
図9(B)に示したように、判定回数を適切な値に設定することで、クリブの燃焼音を、ヘプタンの燃焼音および換気扇の音と識別することができる。
【0048】
次に、フローチャートを用いて、本実施の形態1に係る火災検知装置において実行される一連処理について説明する。図10は、本開示の実施の形態1に係る火災検知装置において実行される火災検知方法に関する一連処理を示したフローチャートである。
【0049】
まず初めに、ステップS1001において、スペクトル解析部21は、監視エリアに設置されたマイク10を介して、監視エリア内で発生する音響データの収音処理を実行する。次に、ステップS1002において、スペクトル解析部21は、マイク10で収音された音響データに対してスペクトル解析処理を施すことでスペクトログラムを算出する。
【0050】
次に、ステップS1003において、炎検知部22は、所定の高帯域における時間経過に伴う音圧のレベル推移の算出処理を実行する。なお、以下の説明では、時間経過に伴う音圧のレベル推移のことを、単に「レベル時間推移」あるいは「音圧レベルの時間推移」と表現する。炎検知部22は、上式(1)を用いることで、レベル時間推移を算出することができる。
【0051】
次に、ステップS1004において、炎検知部22は、レベル時間推移に関して判定レベル以上となる回数のカウント処理を実行する。具体的には、炎検知部22は、レベル時間推移に関してあらかじめ設定された判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に変化する回数を高帯域に渡ってカウントする。判定レベルの一例としては、図9に示したように、15dBを用いることができる。
【0052】
次に、ステップS1005において、炎検知部22は、ステップS1004によりカウントした回数があらかじめ設定された判定回数以上であるか否かを判定する。そして、カウントした回数が判定回数以上である場合には、炎検知部22は、クリブに起因する炎が発生したと判断し、ステップS1006に進む。一方、カウントした回数が判定回数以上でない場合には、炎検知部22は、クリブに起因する炎が発生していないと判断し、一連処理を終了する。
【0053】
ステップS1006に進んだ場合には、炎検知部22は、燃焼物がクリブであると特定するとともに、炎検出報知処理を実行する。例えば、炎検知部22は、火災受信機にクリブによる炎の発生を検知したことを知らせる火災信号を送信することで、消火設備の起動、シャッタ等の防排煙機器の連動動作の起動、非常放送設備等への移報などを実施させることができる。
【0054】
なお、図10におけるステップS1001は収音ステップに相当し、ステップS1002~ステップS1003はレベル推移算出ステップに相当し、ステップS1004~ステップS1006は特定ステップに相当する。
【0055】
以上のように、実施の形態1によれば、監視エリアで収音された音響データに基づく周波数解析結果からクリブによる炎特有の特徴量を算出し、監視エリア内でクリブによる炎が発生したか否かを定量的に判断することができる。具体的には、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移から、突発的な音の発生頻度に相当する特徴量を算出することで、燃焼物がクリブであるか否かの特定、および炎が発生したか否かの検知を、誤報要因と識別してより高精度に行うことができる。
【0056】
特に、本実施の形態1に係る火災検知装置は、監視エリア内で収音された音響データに基づく演算処理により炎が発生したか否かを判断する点に技術的特徴があり、以下のような効果が得られる。
【0057】
効果1:マイクの設置位置に自由度があり、後付けで、あるいは一時的に火災監視機能を付加したい場合にも、容易に対応することができる。すなわち、比較的簡単な構成で、種々の監視エリアにおける火災検知処理を実現できる。
【0058】
効果2:火災によって副次的に発生する煙を監視するのではなく、燃焼そのものに起因して発生する音響データにフォーカスして火災検知処理を行っているため、より迅速に火災検知できる。
【0059】
効果3:本開示による火災検知方法と、他のセンサによる火災検知方法を組み合わせることで、誤報要因を抑制して、クリブによる炎が発生したか否かをより高精度に検知することができる。例えば、他の火災検知方法で火災の可能性があることが検知された際に、さらに本開示の火災検知方法を適用し、クリブによる燃焼音であるか否かを特定することができる。
【0060】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、音響データの周波数解析結果から高帯域における突発的な音の発生頻度を特徴量として算出し、特徴量があらかじめ設定した判定回数以上になることで、燃焼物をクリブと特定し、クリブによる炎が発生したことを検知する場合について説明した。これに対して、本実施の形態2では、算出した特徴量を学習モデルの入力として、クリブによる炎が発生したか否かを判定する場合について説明する。
【0061】
図11は、本開示の実施の形態2に係る火災検知装置の全体構成を示した説明図である。本実施の形態2における火災検知装置は、マイク10と、コンピュータ20とを備えて構成されている。
【0062】
マイク10は、炎の監視エリアに設置され、監視エリア内で発生する音を音響データとして収音する。コンピュータ20は、マイク10で収音された音響データに対して演算処理を施すことで、監視エリアでクリブによる炎が発生したか否かを判断するコントローラであり、スペクトル解析部21および炎検知部22を備えている。
【0063】
本実施の形態2における図11の構成と、先の実施の形態1における図1の構成とを比較すると、本実施の形態2では、炎検知部22が、内部構成として特徴量算出部23とサポートベクタマシン24とを有している点が異なっている。そこで、実施の形態1と実施の形態2との相違点を中心に、以下に説明する。
【0064】
先の実施の形態1では、炎検知部22により、以下の機能1~機能3をすべて実施していた。
機能1:スペクトル解析部21によるスペクトル解析結果から、所定の高帯域に関する音圧レベルの時間推移を算出する機能。
機能2:音圧レベルの時間推移に関して判定レベルを用いたカウント処理を実行し、判定レベル以上となる回数を特徴量として算出する機能。
機能3:特徴量とあらかじめ設定された判定回数とを比較し、特徴量が判定回数以上である場合には、燃焼物がクリブであると特定するとともに、、監視エリアでクリブによる炎が発生したとする判定結果を出力する機能。
【0065】
これに対して、本実施の形態2では、機能1および機能2により特徴量を算出する部分までを、特徴量算出部23で実施している。さらに、本実施の形態2におけるサポートベクタマシン24では、特徴量を入力パラメータとする学習モデルをあらかじめ作成するとともに、学習モデルに対して、特徴量算出部23で算出した特徴量を入力として、機械学習により、クリブによる炎が発生したか否かを判定している。
【0066】
すなわち、本実施の形態2では、あらかじめ判定回数を設定しておく代わりに、特徴量を入力パラメータとした学習モデルを作成しておくことで、クリブによる炎が発生したか否かを判定している。そこで、サポートベクタマシン24について、以下に補足説明する。
【0067】
サポートベクタマシン24は、教師あり学習を用いる識別手法の1つであり、既知の学習モデルである。本実施の形態2では、クリブによる炎が発生しているか否かを識別するために、種々の状況における特徴量の算出結果に基づく学習モデルの作成を行う。
【0068】
すなわち、検出対象であるクリブによる炎が実際に発生した際の音響データに基づく特徴量と、誤報要因も含め、炎が発生していない際の音響データに基づく特徴量とを入力パラメータとして用いて、サポートベクタマシン24による学習モデルの作成をあらかじめ行っておく。
【0069】
この結果、炎検知部22内のサポートベクタマシン24は、特徴量算出部23で算出された特徴量を入力として、監視エリア内でクリブによる炎が発生しているか否かを、機械学習により特定することが可能となる。
【0070】
このような構成を備えることにより、本実施の形態2に係る火災検知装置は、あらかじめ学習モデルを作成しておき、監視時において収音された音響データから算出した特徴量を学習済みのサポートベクタマシン24への入力パラメータとして適用することで、監視エリア内でクリブによる炎が発生したか否かを、誤報要因と識別してより高精度に検知することができる。
【0071】
次に、フローチャートを用いて、本実施の形態2に係る火災検知装置において実行される一連処理について説明する。図12は、本開示の実施の形態2に係る火災検知装置において実行される火災検知方法に関する一連処理を示したフローチャートである。
【0072】
まず初めに、ステップS1201において、スペクトル解析部21は、監視エリアに設置されたマイク10を介して、監視エリア内で発生する音響データの収音処理を実行する。次に、ステップS1202において、スペクトル解析部21は、マイク10で収音された音響データに対してスペクトル解析処理を施すことでスペクトログラムを算出する。
【0073】
次に、ステップS1203において、炎検知部22は、所定の高帯域における時間経過に伴う音圧のレベル推移の算出処理を実行する。なお、以下の説明では、時間経過に伴う音圧のレベル推移のことを、単に「レベル時間推移」あるいは「音圧レベルの時間推移」と表現する。炎検知部22は、上式(1)を用いることで、レベル時間推移を算出することができる。
【0074】
次に、ステップS1204において、炎検知部22は、レベル時間推移に関して判定レベル以上となる回数のカウント処理を実行する。具体的には、炎検知部22は、レベル時間推移に関してあらかじめ設定された判定レベル未満の値から判定レベル以上の値に変化する回数を高帯域に渡ってカウントすることで、この回数を特徴量として求める。判定レベルの一例としては、図9に示したように、15dBを用いることができる。
【0075】
次に、ステップS1205において、サポートベクタマシン24は、あらかじめ学習モデルを作成しておき、ステップS1204で特徴量として算出した回数を入力として、機械学習モデルを用いた炎検出処理を実行する。
【0076】
次に、ステップS1206において、サポートベクタマシン24は、機械学習モデルを用いた炎検出処理を実行した結果、クリブによる炎が発生したと判断した場合には、ステップS1207に進む。
【0077】
一方、サポートベクタマシン24は、機械学習モデルを用いた炎検出処理を実行した結果、クリブによる炎が発生していないと判断した場合には、一連処理を終了する。
【0078】
ステップS1207に進んだ場合には、炎検知部22は、燃焼物がクリブであると特定する処理を実行するとともに、炎検出報知処理を実行する。例えば、炎検知部22は、火災受信機にクリブによる炎の発生を検知したことを知らせる火災信号を送信することで、消火設備の起動、シャッタ等の防排煙機器の連動動作の起動、非常放送設備等への移報などを実施させることができる。
【0079】
以上のように、実施の形態2によれば、監視エリアで収音された音響データに基づく周波数解析結果からクリブによる炎特有の特徴量を算出し、事前に学習した機械学習モデルを用いて、監視エリア内でクリブによる炎が発生したか否かを定量的に判断することができる。具体的には、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移から、突発的な音の発生頻度に相当する特徴量を算出することで、燃焼物がクリブであるか否かの特定、および炎が発生したか否かの検知を、誤報要因と識別してより高精度に行うことができる。
【0080】
換言すると、あらかじめ判定回数を設定しておく代わりに、学習モデルを作成しておくことによっても、所定の高帯域における音圧レベルの時間推移から、突発的な音の発生頻度に相当する特徴量を算出することで、クリブによる炎が発生したか否かを、高精度に検知でき、先の実施の形態1と同様に、効果1~効果3を実現できる。
【0081】
なお、先の図11では、炎検知部22の中に特徴量算出部23およびサポートベクタマシン24を有する構成を示したが、特徴量算出部23およびサポートベクタマシン24を炎検知部22とは独立した構成とすることも可能である。
【0082】
この場合には、特徴量算出部は、特徴量の算出に特化し、サポートベクタマシン24は、機械学習モデルの事前生成に特化し、炎検知部22は、監視エリアの監視時において、特徴量算出部23で算出された特徴量を、サポートベクタマシン24で事前生成された機械学習モデルに対する入力パラメータとし、クリブによる炎が発生したか否かを判定することに特化することとなる。
【0083】
また、実施の形態1、2では、音響データからスペクトログラムを求めた後に、高帯域における音圧レベルの時間推移を求める場合について説明したが、音響データに対して適切なフィルタリング処理を施すことで、高帯域における音圧レベルの時間推移を求めることも可能である。
【0084】
換言すると、スペクトル解析処理を実施するスペクトル解析部は必須の構成ではなく、音響データに基づいて高帯域における音圧レベルの時間推移を求めることができるレベル推移算出部を有する構成を有していればよい。
【0085】
なお、上述した実施の形態2では、機械学習モデルを作成するモデル作成部として、サポートベクタマシンを用いる場合について説明したが、モデル作成部は、これに限定されるものではない。ニューラルネットワークなど、他の手段によってモデル作成部を構成して機械学習モデルを作成することによっても、同様の効果を実現できる。
【符号の説明】
【0086】
10 マイク、20 コンピュータ、21 スペクトル解析部、22 炎検知部、23 特徴量算出部、24 サポートベクタマシン(モデル作成部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12