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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059351
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】壁
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/82 20060101AFI20240423BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20240423BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
E04B1/82 W
E04B2/56 643H
E04B1/86 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166976
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 弘之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秋甫
(72)【発明者】
【氏名】幸山 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】竹嶋 大志
【テーマコード(参考)】
2E001
2E002
【Fターム(参考)】
2E001DF02
2E001FA03
2E001GA24
2E001HA32
2E001HA33
2E002MA15
(57)【要約】
【課題】遮音性能を向上させることができる壁を提供する。
【解決手段】所定の間隔を開けて配置される複数の柱10と、壁面の前面及び後面を構成するように、前記柱10を覆う面材40と、前記面材40と前記柱10との間において、前記柱10の前面及び後面の全体を覆うように当該柱10に固定され、遮音性を有する遮音材(柱前充填材53)と、を具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を開けて配置される複数の柱と、
壁面の前面及び後面を構成するように、前記柱を覆う面材と、
前記面材と前記柱との間において、前記柱の前面及び後面の全体を覆うように当該柱に固定され、遮音性を有する遮音材と、
を具備する壁。
【請求項2】
前記遮音材は、
前記柱の前面及び後面の全体に貼付されるテープ状に形成される、
請求項1に記載の壁。
【請求項3】
前記遮音材の幅寸法は、前記柱の幅寸法と同寸法である、
請求項1に記載の壁。
【請求項4】
前記遮音材は、
人造鉱物繊維により形成され、密度が80kg/m以上である、
請求項1に記載の壁。
【請求項5】
前記遮音材の前後寸法は、10mm以上である、
請求項4に記載の壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、壁の技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、スタッド等による壁下地材を石膏ボード等の内装材で覆うように形成された耐力壁が記載されている。
【0004】
上述のような耐力壁は、例えば集合住宅の居室の境界を隔てる壁として使用されることが想定される。この場合、耐力壁には遮音性能が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-105810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、遮音性能を向上させることができる壁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、所定の間隔を開けて配置される複数の柱と、壁面の前面及び後面を構成するように、前記柱を覆う面材と、前記面材と前記柱との間において、前記柱の前面及び後面の全体を覆うように当該柱に固定され、遮音性を有する遮音材と、を具備するものである。
【0009】
請求項2においては、前記遮音材は、前記柱の前面及び後面の全体に貼付されるテープ状に形成されるものである。
【0010】
請求項3においては、前記遮音材の幅寸法は、前記柱の幅寸法と同寸法であるものである。
【0011】
請求項4においては、前記遮音材は、人造鉱物繊維により形成され、密度が80kg/m以上であるものである。
【0012】
請求項5においては、前記遮音材の前後寸法は、10mm以上であるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、遮音性能を向上させることができる。
【0015】
請求項2においては、遮音性能をより向上させることができる。
【0016】
請求項3においては、遮音材の幅寸法を最低限の寸法とすることができる。
【0017】
請求項4においては、遮音性能をより向上させることができる。
【0018】
請求項5においては、遮音性能をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る壁の構成を模式的に示した正面図。
図2図1におけるX-X断面図。
図3】コンセントを設置した壁の構成を模式的に示した正面図。
図4】耐力部側充填材の仕様と、遮音性能と、の関係を示す表。
図5】(a)柱前充填材の仕様と、遮音性能と、の関係を示す表。(b)柱及び柱前充填材の変形例を模式的に示した断面図、(c)柱及び柱前充填材の他の変形例を模式的に示した断面図。
図6】(a)コンセントの配置と、遮音性能と、の関係を示す表。
図7】(a)コンセントを片面4ヵ所、千鳥状に配置した例を模式的に示す平面図。(b)コンセントを片面4ヵ所、表裏同じ位置に配置した例を模式的に示す平面図。(c)コンセントを片面8ヵ所、表裏同じ位置に配置した例を模式的に示す平面図。
図8】コンセントを上下方向に千鳥状に配置した例を模式的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図1から図3までを用いて、本発明の一実施形態に係る界壁1の構成について説明する。また、以下では、図中の矢印に基づいて、前後方向、左右方向及び上下方向を定義して説明を行う。
【0021】
界壁1は、集合住宅(長屋や共同住宅等)の各住戸の境界を隔てるものである。界壁1は、耐火性能及び遮音性能を有する。界壁1は、壁面を前後方向に向けて配置される。界壁1は、軽量鉄骨造の下地(後述するスタッド30等)の前後に、後述する面材40を設けることで形成される。界壁1は、柱10、ブレース20、スタッド30、面材40、充填材50及びコンセント60を具備する。
【0022】
なお、図1では、後述する面材40(下張用面材41及び上張用面材42)の図示を適宜省略し、界壁1の内部を露出させている。また、図2では、例えば中空状の部材の断面図を便宜的に中実状に示す等、各部を模式的に示している。
【0023】
柱10は、界壁1を支持するものである。柱10は、下階の構造体(例えば基礎や下階の梁等)と、上階の構造体(例えば上階の梁等)と、の間に設けられる。柱10は、例えば角形鋼管等の中空状の鉄骨柱により形成される。柱10は、所定間隔を開けて複数設けられる。本実施形態では、柱10の長さ寸法(上下寸法)を2700mm程度に形成している。
【0024】
ブレース20は、界壁1の耐力を向上させるものである。ブレース20は、隣り合う柱10同士を接続するように配置される。ブレース20は、斜め方向に延びる本体部21と、本体部21の端部を柱10に接続する接続部22と、を具備する。
【0025】
図1に示すように、ブレース20は、一方側の柱10の上下方向中央部から、他方側の柱10の上端側及び下端側にそれぞれ延びるように、一対の本体部21を設けている。一方側の柱10の上下方向中央部には、一対の本体部21の一方側の端部が接続される共通の接続部22が固定されている。また、他方側の柱10の上端側及び下端側には、一対の本体部21の他方側の端部が接続される接続部22がそれぞれ固定されている。
【0026】
このように、ブレース20は、正面視略K字状(K型)に形成される。また、図例では、3つの柱10の間の空間(2つの空間)のそれぞれに、一対のブレース20を左右対称に配置している。また、上述した例では、K型のブレース20を採用した例を示したが、このような態様に代えて、正面視略N字状(N型)のブレース20を採用してもよい。
【0027】
本実施形態ではブレース20として、長尺な鋼製の心材と、心材を覆うことで心材の座屈を拘束する拘束材と、により本体部21を形成した座屈拘束ブレースを採用している。本体部21は、断面視における外郭形状が矩形状に形成される(図2を参照)。
【0028】
以下では、界壁1のうち、ブレース20が配置された柱10の間の領域を「耐力部」、ブレース20が配置されていない柱10の間の領域を「非耐力部」と称して説明する。なお、図1及び図2に示すように、本実施形態では、柱10の「耐力部」と「非耐力部」との境界を、柱10の左右方向中央に位置させている。
【0029】
スタッド30は、柱10と柱10との間に設置される間柱である。スタッド30は、後述する面材40を取り付けるための下地材を構成する。スタッド30は、例えば厚さが0.5mm~0.8mm程度の金属製の板を断面視略コ字状(C字状)に折り曲げた部材(軽量鉄骨(LSG))により形成される。スタッド30は、左右方向に延びる部材であるランナー2を介して、建物の上下階の構造体に固定される。本実施形態では、柱10と柱10との間に、2つのスタッド30を配置している。
【0030】
図1及び図2に示すように、耐力部に配置されるスタッド30には、ブレース20の本体部21との干渉を避けるために切り欠かれた切欠き部31が形成されている。切欠き部31は、後方に凹むように形成される。切欠き部31は、1つのスタッド30に対して2ヵ所に形成される。切欠き部31は、長さ寸法が700mm以下に形成される。
【0031】
面材40は、界壁1の壁面を構成するものである。面材40は、スタッド30の前面及び後面に固定される。面材40は、石膏ボードにより形成される。石膏ボードとしては、耐火性能を強化するために、ガラス繊維等が混入されたもの(網入り強化石膏ボード)を採用可能である。面材40の固定には、ステープルやビス等の止具が用いられる。なお、ステープル等に加えて、接着剤を用いて固定を行うようにしてもよい。面材40としては、高さ寸法(上下寸法)が、1820mm程度で、幅寸法(左右寸法)が606mm~1210mm程度のものを採用可能である。面材40は、柱10、ブレース20及びスタッド30を覆うように複数配置される。
【0032】
面材40には、下地側に配置される下張用面材41と、下張用面材41を覆うように配置される上張用面材42と、が含まれる。面材40は、隣り合う下張用面材41同士の継ぎ目と、隣り合う上張用面材42同士の継ぎ目と、が前後に重複しないように(継ぎ目をずらして)配置される。上記面材40の継ぎ目(端部目地)には、端部用目地処理材(不図示)を用いた処理が施される。端部用目地処理材としては、アクリル系気密防水テープやアルミ蒸着テープ等の気密テープ(気密シート)や、シリコーン等のシーリング材を採用可能である。
【0033】
図1及び図2に示すように、界壁1には、前後の各面材40(下張用面材41)の間に空間である内部空間Aが形成される。内部空間Aは、前後の下張用面材41や柱10、ブレース20、スタッド30により複数の空間に区画(分割)される。
【0034】
本実施形態では、内部空間Aの前後寸法Xを、100mm程度としている(図2を参照)。また、本実施形態では、スタッド30の前後寸法を概ね前後寸法Xと同寸法としている。また、柱10の前後寸法を前後寸法Xよりも小さくしている。また、本実施形態では、ブレース20の本体部21の前後寸法を、前後寸法Xの半分以上の寸法(例えば65mm)に形成している。
【0035】
図1及び図2に示す充填材50は、内部空間Aに充填されるものである。充填材50は、耐火性や遮音(吸音)性を有する材料で形成される。充填材50としては、ロックウールやグラスウール、アルカリアースシリケート(AES)ウール等の人造鉱物繊維や、鋼板等を採用可能である。充填材50は、略板形状に形成される。充填材50には、非耐力部側充填材51、耐力部側充填材52、及び柱前充填材53が含まれる。
【0036】
非耐力部側充填材51は、界壁1の非耐力部における内部空間Aに充填されるものである。具体的には、非耐力部側充填材51は、非耐力部において、前後の下張用面材41、柱10及びスタッド30により区画された空間に充填される。非耐力部側充填材51は、正面視において、上記区画された空間の形状(正面視矩形状)に対応する形状に加工される。非耐力部側充填材51の厚さ寸法(前後寸法)は、概ね前後寸法Xと同寸法に形成される。
【0037】
耐力部側充填材52は、界壁1の耐力部における内部空間Aに充填されるものである。具体的には、耐力部側充填材52は、耐力部において、前後の下張用面材41、柱10、ブレース20及びスタッド30により区画された空間に充填される。すなわち、耐力部側充填材52は、非耐力部と概ね同様な正面視矩形状の空間を、ブレース20により更に区画(分割)した空間に充填される。耐力部側充填材52は、正面視において、上記区画された空間に対応する形状に加工される。耐力部側充填材52の厚さ寸法(前後寸法)は、概ね前後寸法Xと同寸法に形成される。
【0038】
本実施形態では、非耐力部側充填材51及び耐力部側充填材52を、1枚(1層)の充填材としてしている。また、本実施形態では、ブレース20の前後には充填材を設けていない。なお、このような態様に代えて、ブレース20の前後を覆うように充填材を設けるようにしてもよい。この場合は、ブレース20として、比較的厚さ寸法が小さいフラットなもの(本体部21が板形状であるもの)を採用してもよい。
【0039】
柱前充填材53は、内部空間Aのうち、柱10の前後に形成される隙間(柱10と下張用面材41との間の隙間)に充填されるものである。柱前充填材53は、柱10の前面及び後面の略全体を覆うように、柱10の前後に貼り付けられる。図2に示す例では、柱前充填材53の幅寸法(左右寸法)を、柱10の幅寸法と概ね同寸法に形成した例を示している。なお、上記例に代えて、柱前充填材53の幅寸法を、柱10の幅寸法よりも大きく形成してもよい。この場合は、柱前充填材53を、柱10を跨ぐようにして、当該柱10の左右両側のスタッド30に固定するようにしてもよい。
【0040】
図3及び図7(a)に示すコンセント60は、電力を取り出し可能な差込口を構成するものである。コンセント60は、界壁1の下端側に配置される。コンセント60は、面材40に形成され、内部空間Aと連通する開口に取り付けられる。コンセント60は、界壁1(上張用面材42)の前面及び後面において、左右方向に間隔を開けて複数(図例では片面に4つ)配置される。
【0041】
本実施形態では、コンセント60の個数を、界壁1の片面における所定範囲に対して4つ以下としている。ここで、「所定範囲」は、界壁1の幅寸法(例えば3680mm程度)で規定された範囲でもよく、面積(例えば10m程度)で規定された範囲でもよい。また、「所定範囲」を、界壁1の片面の全体としてもよい。また、本実施形態では、界壁1の片面に形成される開口の合計(図例では4つ分)の面積を、0.045m以下としている。また、本実施形態では、上張用面材42を構成する1枚の石膏ボードに対して、2つ以下のコンセント60を配置している。
【0042】
本実施形態では、界壁1において前後に位置するコンセント60同士が、互いに前後に重複しないように配置している。本実施形態では、前後のコンセント60同士を、コンセント60の幅寸法(左右寸法)よりも大きい間隔を開けて配置している。本実施形態では、前後のコンセント60同士の幅方向の間隔Y(最も狭い間隔)を、165mm程度に設定している(図7(a)を参照)。また、本実施形態では、壁幅方向に隣り合う複数のスタッド30の間に、前後のコンセント60のうちの1つのコンセント60が位置するように、コンセント60を配置している(図1を参照)。また、本実施形態では、左右方向において、前後のコンセント60が交互に位置するように(千鳥状に)、コンセント60を配置している。
【0043】
コンセント60を設置するには、面材40に開口を形成する必要があるため、前後のコンセント60を重複するように設けた場合、上記重複する部分において遮音性能が低下するおそれがある。このようなものとは異なり、前後のコンセント60を重複しないように配置することで、遮音性能の低下を抑制することができる。また、本実施形態では、前後のコンセント60同士の壁幅方向の間隔を比較的大きくすることで、遮音性能をより向上させることができる。
【0044】
以上、本実施形態に係る界壁1について説明した。なお、上記説明で例示した具体的な数値は一例であり、任意に変更することが可能である。また、上記説明で例示した部材の有無や、種類、寸法、個数等は一例であり、上記部材の有無や種類等は、適宜変更可能である。
【0045】
上述の如き界壁1は、所定の遮音性能評価において定められた基準(例えば建築基準法第30条に係る基準)に基づく遮音性能を有することが求められる。界壁1の遮音性能は、界壁1の仕様により決定される。ここで「界壁1の仕様」とは、界壁1を構成する各部材の仕様(各部材の有無や材料、寸法等)である。
【0046】
界壁1を設計する者(設計者)は、界壁1が面する部屋の用途等に応じて、界壁1の仕様の決定を実行可能である。例えば、界壁1が、居室(居間等)同士の境界に位置する場合、比較的高い遮音性能を備える仕様(「運用仕様」等)となるように、界壁1の仕様を決定する。また、界壁1が、水回り同士の境界に位置する場合、最低限の遮音性能を備える仕様となるように、界壁1の仕様を決定する。
【0047】
以下では、図4から図8までを用いて、界壁1を構成する各部材の仕様と遮音性能との関係について説明する。
【0048】
図4は、耐力部側充填材52の仕様と、遮音性能と、の関係を示す表である。より詳細には、図4の表では、界壁1の耐力部において、正面視における耐力部側充填材52の面積の割合と、遮音性能と、の関係を示している。図4では、「充填材100%充填」の試験体と、「充填材92%充填」の試験体と、の比較を行っている。
【0049】
ここで、「充填材100%充填」とは、正面視における耐力部側充填材52の面積が、界壁1の耐力部の全体の面積に対して100%であることを示す。すなわち、「充填材100%充填」の試験体では、ブレース20を含めて耐力部の全体が耐力部側充填材52で覆われている。
【0050】
また、「充填材92%充填」とは、正面視における耐力部側充填材52の面積が、界壁1の耐力部の全体の面積に対して92%であることを示す。本実施形態では、ブレース20の前後に充填部(耐力部側充填材52)を設けなかった結果、耐力部側充填材52の面積が、耐力部の全体の面積の92%となっている。なお、上記各試験体は、耐力部側充填材52の面積の割合を除いて、他の条件を概ね同様にしている。
【0051】
図4の表では、複数の周波数(125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、200Hz)ごとに、各試験体の音響透過損失(dB)を比較している。なお、上記表では、各周波数における「充填材100%充填」の試験体の音響透過損失(dB)をベンチマーク(BM)とし、「充填材92%充填」の試験体の音響透過損失(dB)については、上記ベンチマークとの差を示している。上記差が正の値であれば比較的遮音性能が高く、負の値であれば比較的遮音性能が低いことが示される。
【0052】
図4の表に示すように、「充填材92%充填」の試験体の音響透過損失(dB)は、125Hzで-0.9dB、250Hzで-0.5dB、500Hzで0dB、1000Hzで+0.1dB、200Hzで-0.1dBであった。上記表の結果から、「充填材92%充填」を採用した(ブレース20の前後に充填部を設けない)場合には、僅かに遮音性能は低下するものの、ベンチマーク(「充填材100%充填」)との差は、1dB以下であり、大きくは影響しないという検証結果が得られた。
【0053】
図5(a)は、柱前充填材53の仕様(材料や厚さ)と、遮音性能と、の関係を示す表である。図5(a)では、「遮音技術なし」の試験体と、「AES」の試験体と、「RW10厚」の試験体と、「RW8厚」の試験体と、「鋼版」の試験体と、の比較を行っている。
【0054】
ここで、「遮音技術なし」とは、柱10に柱前充填材53を設けていないものである。また、「AES」とは、密度130kg/m、厚さ12.5mmのアルカリアースシリケート(AES)ウールの柱前充填材53を設けたものである。また、「RW10厚」とは、密度80kg/m、厚さ10mmのロックウールの柱前充填材53を設けたものである。また、「RW8厚」とは、密度80kg/m、厚さ8mmのロックウールの柱前充填材53を設けたものである。また、「鋼版」とは、厚さ0.5mmの鋼板の柱前充填材53を設けたものである。
【0055】
なお、各試験体のうち、「AES」、「RW10厚」、「RW8厚」の試験体は、柱10の幅寸法と概ね同寸法に形成した柱前充填材53を、柱10に直接固定している。また、「鋼版」の試験体は、柱10の幅寸法よりも大きく形成された柱前充填材53を、柱10を跨ぐようにして、当該柱10の左右両側のスタッド30に固定している。また、上記各試験体は、他の条件を概ね同様にしている。
【0056】
ここで、柱10が中空状である場合、柱10の長さに対応する波長の周波数の音が、共鳴現象により増幅・放射されるため当該周波数の遮音性能が低下する。本実施形態では、柱10の長さ寸法(2700mm)が、125Hzの周波数の波長と概ね一致することから、125Hz前後の周波数帯域での遮音性能が低下し易くなる。このため、以下の説明では、最も不利な結果が出る125Hzにおける遮音性能に注目して、検証を行う。なお、上記表では、125Hzにおける「遮音技術なし」の試験体の音響透過損失(dB)をベンチマーク(BM)とし、他の試験体の音響透過損失(dB)については、上記ベンチマークとの差を示している。
【0057】
図5(a)の表に示すように、「AES」の試験体の音響透過損失(dB)は2.7dB、「RW10厚」の試験体の音響透過損失(dB)は2.1dB、「RW8厚」の試験体の音響透過損失(dB)は1.7dB、「鋼版」の試験体の音響透過損失(dB)は2.0dBであった。
【0058】
上記表の結果から、柱前充填材53を柱10に設けた場合には、125Hzの周波数帯域の遮音性能を向上させることができるという検証結果が得られた。また、柱前充填材53の密度及び厚さ寸法が大きい、すなわち重い方が遮音性能が高いという検証結果が得られた。ここで、上記結果では、最も重い「鋼版」の試験体よりも、「AES」や「RW10厚」の試験体の方が遮音性能が高い。このことから、柱10に対して鋼板の柱前充填材53を間接的に設置するよりも、柱10に対して人造鉱物繊維の柱前充填材53を直接的に固定する方が、効率的に遮音性能を向上させることができるという結果が得られた。
【0059】
なお、上述した例では、図2に示すように、柱10の前面及び後面に柱前充填材53を設けた例を示したが、上記例に限定されない。例えば、図5(b)、(c)に示す変形例のようにしてもよい。
【0060】
図5(b)では、柱10の四周の全体に、柱前充填材53を設けた例を示している。これによれば、共鳴現象による放射音を抑制し、遮音性能を向上させることができる。また、図5(c)では、中空状の柱10の中空部分に、柱前充填材53を充填した例を示している。これによれば、共鳴現象を抑制し、遮音性能を向上させることができる。
【0061】
図6は、コンセント60の仕様(数や配置等)と、遮音性能と、の関係を示す表である。図6では、「コンセントなし」の試験体と、「片面4ヵ所千鳥配置」の試験体と、「片面4ヵ所裏表同じ位置」の試験体と、「片面8ヵ所裏表同じ位置」の試験体と、の比較を行っている。
【0062】
ここで、「コンセントなし」とは、界壁1にコンセント60を設けていないものである。また、「片面4ヵ所千鳥配置」は、図7(a)に示すように、界壁1の片面4ヵ所に、千鳥状にコンセント60を設けたものである。また、「片面4ヵ所裏表同じ位置」は、図7(b)に示すように、界壁1の片面4ヵ所に、表裏で同じ位置となるように(背中合わせに)コンセント60を設けたものである。また、「片面8ヵ所裏表同じ位置」は、図7(c)に示すように、界壁1の片面8ヵ所に、表裏で同じ位置となるように(背中合わせに)コンセント60を設けたものである。なお、各試験体は、壁厚さが150mm程度とされ、前後のコンセント60同士の幅方向の間隔Y(最も狭い間隔)が、165mm程度に設定されている。上記各試験体は、コンセント60の仕様を除いて、他の条件を概ね同様にしている。
【0063】
図6の表では、各周波数(125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、200Hz)ごとに、各試験体の音響透過損失(dB)を比較している。なお、上記表では、「コンセントなし」の試験体の音響透過損失(dB)をベンチマーク(BM)とし、他の試験体の音響透過損失(dB)については、上記ベンチマークとの差を示している。
【0064】
図6の表に示すように、「片面4ヵ所千鳥配置」の試験体の音響透過損失(dB)は、125Hzで-1.7dB、250Hzで-0.6dB、500Hzで-1.9dB、1000Hzで-4.3dB、200Hzで-1.8dBであった。また、「片面4ヵ所裏表同じ位置」の試験体の音響透過損失(dB)は、125Hzで-1.2dB、250Hzで-0.7dB、500Hzで-3.7dB、1000Hzで-7.1、200Hzで-2.1dBであった。また、「片面8ヵ所裏表同じ位置」の試験体の音響透過損失(dB)は、125Hzで-2.7dB、250Hzで-2.1dB、500Hzで-5.8dB、1000Hzで-10.2dB、200Hzで-3.0dBであった。
【0065】
上記表の結果から、片面8ヵ所にコンセント60を設けた試験体より、片面4ヵ所にコンセント60を設けた試験体の方が遮音性能が高いという検証結果が得られた。また、片面4ヵ所にコンセント60を設けた場合でも、コンセント60を千鳥状に配置した場合は、特に遮音性能が高いという検証結果が得られた。
【0066】
より詳細には、「片面4ヵ所千鳥配置」の試験体の結果では、500Hz以下の周波数帯域では、ベンチマーク(「コンセントなし」)との差が2dB以下であり、大きくは影響しないという検証結果が得られた。なお、人の声は250Hz~500Hzの周波数帯域が中心であるので、コンセント60を「片面4ヵ所千鳥配置」で設けたことで、日常会話が隣室に漏れるリスクは小さい。
【0067】
また、上記表の結果から、「片面4ヵ所千鳥配置」の試験体は、人の聴覚で敏感に感じ易い500Hz~1000Hzの周波数帯域において、「片面4ヵ所千鳥配置」、「片面8ヵ所裏表同じ位置」の試験体と比べて高い遮音性能を有することが示された。
【0068】
なお、上述した例では、図2及び図7(a)に示すように、コンセント60を左右方向に間隔を開けて配置した例を示したが、上記例に限定されない。例えば、図8に示す変形例のように、コンセント60を上下方向に間隔を開けて配置してもよい。
【0069】
図8に示す界壁1においても、前後に位置するコンセント60同士が、互いに前後に重複しないように千鳥状に配置している。本実施形態では、前後のコンセント60同士の上下方向の間隔Y(最も狭い間隔)を、165mm程度に設定している。また図8に示す例によれば、例えば上下のコンセント60のうち、上段のコンセント60をエアコン、冷蔵庫用のコンセントとして使用し、中断のコンセント60を照明のスイッチを備えるコンセントとして使用し、下段のコンセント60を一般的な家電用のコンセントとして使用することができる。
【0070】
以上の如く、本実施形態に係る壁(界壁1)は、
所定の間隔を開けて配置される複数の柱10と、
複数の前記柱10同士を接続するブレース20と、
壁面の前面及び後面を構成するように、前記柱10及び前記ブレース20の前後方向両面を覆う面材40と、
前後方向に見て前記柱10及び前記ブレース20によって区画されると共に、上下方向に見て前記面材40によって区画される空間(耐力部における内部空間A)に配置され、遮音性を有する遮音材(耐力部側充填材52)と、
を具備するものである。
【0071】
このように構成することにより、遮音性能を向上させることができる。すなわち、前後方向に見て柱10及びブレース20によって区画された空間に遮音材(耐力部側充填材52)を配置することで、遮音材(耐力部側充填材52)の厚さを確保し易くなり、遮音性能を向上させることができる。また、例えばブレース20の前面及び後面を覆うように遮音材を配置するものとは異なり、壁厚が膨らむことを抑制することができる。また、1枚(1層)の遮音材(耐力部側充填材52)を用いることができ、作業性を向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態に係る壁(界壁1)は、
複数の前記柱10の間に配置され、前記面材40が固定される間柱(スタッド30)を具備し、
前記間柱(スタッド30)は、
前記ブレース20との干渉を避けるように形成された切欠き部31を有し、
前記空間(耐力部における内部空間A)は、
前後方向に見て前記柱10、前記ブレース20及び前記間柱(スタッド30)によって区画されているものである。
【0073】
このように構成することにより、間柱(スタッド30)を備える壁(界壁1)において、遮音材(耐力部側充填材52)により壁厚が膨らむことを抑制することができる。
【0074】
また、本実施形態に係る壁(界壁1)は、
前記ブレース20の前後には、前記遮音材(耐力部側充填材52)を配置しないものである。
【0075】
このように構成することにより、遮音材(耐力部側充填材52)により壁厚が膨らむことを抑制することができる。また、作業の負担を軽減することができる。すなわち、例えばブレース20の前面及び後面を覆うように遮音材を配置した場合、上記ブレース20の厚みに遮音材の厚みが加わることになり、界壁1の内部空間Aに設けられる部材の厚みが比較的大きくなるため、壁厚が膨らむおそれがある。一方、本実施形態に係る界壁1では、耐力部における内部空間Aのみに遮音材(耐力部側充填材52)を設け、ブレース20の前後には遮音材(耐力部側充填材52)を設けないため、壁厚が膨らむことを抑制することができる。
【0076】
また、前記ブレース20の前後寸法は、前記空間(耐力部における内部空間A)の前後寸法Xの半分以上であるものである。
【0077】
このように構成することにより、ブレース20の前後寸法(厚さ)を比較的大きくすることで、ブレース20によって遮音材(耐力部側充填材52)を保持し易くすることができる。
【0078】
また、前記遮音材(耐力部側充填材52)の前後寸法は、前記空間(耐力部における内部空間A)の前後寸法Xと同寸法であるものである。
【0079】
このように構成することにより、遮音材(耐力部側充填材52)の前後寸法(厚さ)を確保し、遮音性能を向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態に係る壁(界壁1)は、
所定の間隔を開けて配置される複数の柱10と、
壁面の前面及び後面を構成するように、前記柱10を覆う面材40と、
前記面材40と前記柱10との間において、前記柱10の前面及び後面の全体を覆うように当該柱10に固定され、遮音性を有する遮音材(柱前充填材53)と、
を具備するものである。
【0081】
このように構成することにより、遮音性能を向上させることができる。すなわち、柱10の前面及び後面の全体を覆うように、遮音材(柱前充填材53)を柱10に固定することで、遮音性能を向上させることができる。
【0082】
また、前記遮音材(柱前充填材53)は、
前記柱10の前面及び後面の全体に貼付されるテープ状に形成されるものである。
【0083】
このように構成することにより、遮音性能をより向上させることができる。すなわち、柱前充填材53を前記柱10の前面及び後面の全体に貼付することで、遮音性能をより向上させることができる。
【0084】
また、前記遮音材(柱前充填材53)の幅寸法は、前記柱10の幅寸法と同寸法であるものである。
【0085】
このように構成することにより、遮音材(柱前充填材53)の幅寸法を最低限の寸法とすることができる。
【0086】
また、前記遮音材(柱前充填材53)は、
人造鉱物繊維により形成され、密度が80kg/m以上であるものである。
【0087】
このように構成することにより、遮音性能をより向上させることができる。すなわち、人造鉱物繊維により形成された遮音材(柱前充填材53)の密度を比較的大きくすることで、遮音性能をより向上させることができる。
【0088】
また、前記遮音材(柱前充填材53)の前後寸法は、10mm以上であるものである。
【0089】
このように構成することにより、遮音性能をより向上させることができる。すなわち、人造鉱物繊維により形成された遮音材(柱前充填材53)の前後寸法(厚さ寸法)を比較的大きくすることで、遮音性能をより向上させることができる。
【0090】
また、本実施形態に係る壁(界壁1)は、
所定の間隔を開けて配置される複数の柱10と、
壁面の前面及び後面を構成するように、前記柱10の前面及び後面を覆う面材40と、
前面側及び後面側の前記面材40のそれぞれに、壁幅方向に間隔を開けて配置される複数のコンセント60と、
を具備し、
複数の前記コンセント60は、
前後方向に見て、前側の前記コンセント60と後側の前記コンセント60とが重複しないように配置されるものである。
【0091】
このように構成することにより、遮音性能を向上させることができる。すなわち、壁にコンセント60を設ける場合、面材40に開口部を形成する必要がある。このため、前側のコンセント60と後側のコンセント60とを重複するように設けた場合、上記重複する部分において遮音性能が低下するおそれがある。このようなものとは異なり、前側のコンセント60と後側のコンセント60とが重複しないように配置することで、遮音性能を向上させることができる。
【0092】
また、前側の前記コンセント60と後側の前記コンセント60との壁幅方向の間隔は、前記コンセント60の幅寸法よりも大きく形成されているものである。
【0093】
このように構成することにより、遮音性能をより向上させることができる。すなわち、前後のコンセント60同士の壁幅方向の間隔を比較的大きくすることで、遮音性能をより向上させることができる。
【0094】
また、前側の前記コンセント60及び後側の前記コンセント60は、千鳥状に配置されているものである。
【0095】
このように構成することにより、コンセント60前後のコンセント60を千鳥状に配置することで、遮音性能をより向上させることができる。
【0096】
また、本実施形態に係る壁(界壁1)は、
複数の前記柱10の間に配置され、前記面材40が固定される複数の間柱(スタッド30)を具備し、
壁幅方向に隣り合う複数の前記間柱(スタッド30)の間には、前側の前記コンセント60と後側の前記コンセント60のうちの1つの前記コンセント60が配置されるものである。
【0097】
このように構成することにより、前後のコンセント60の壁幅方向の間隔を比較的大きくすることができ、遮音性能をより向上させることができる。
【0098】
なお、本実施形態に係る界壁1は、本発明に係る壁の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る耐力部側充填材52、柱前充填材53は、本発明に係る遮音材の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るスタッド30は、本発明に係る間柱の実施の一形態である。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想の範囲内で適宜の変更が可能である。
【0100】
例えば、本実施形態では、非耐力部側充填材51及び耐力部側充填材52を、1枚(1層)の充填材としたが、本発明はこれに限るものではなく、複数枚(例えば2枚)の充填材としてもよい。
【0101】
また、本実施形態では、本発明に係る壁として、界壁1の例を示したが、本発明はこれに限るものではない。本発明に係る壁は、建物の外壁や間仕切りにも適用可能である。
【0102】
また、本実施形態では、界壁1を集合住宅(長屋や共同住宅等)に適用した例を示したが、本発明はこれに限るものではなく、戸建の住宅や、宿泊施設、高齢者施設(介護施設)、商業施設等の種々の建物に適用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 界壁
10 柱
20 ブレース
30 スタッド
40 面材
50 充填材
60 コンセント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8