(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059366
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】木質系床材の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20240423BHJP
E04F 15/04 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08J7/00 304
C08J7/00 CEP
E04F15/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167004
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000213769
【氏名又は名称】朝日ウッドテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】竹中 雅也
(72)【発明者】
【氏名】隈元 克紀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真也
【テーマコード(参考)】
2E220
4F073
【Fターム(参考)】
2E220AA33
2E220FA01
2E220GA24X
2E220GB37Z
2E220GB38Z
2E220GB45X
2E220GB46X
2E220GB47X
2E220GB48X
4F073AA06
4F073AA28
4F073BA03
4F073BB02
4F073CA45
(57)【要約】
【課題】低輝度の木質系床材を高効率に製造する方法およびその装置の提供。
【解決手段】本実施形態に係る木質系床材の製造装置10は、表面に塗料が塗布された木質系床材素材(ワーク)Wを搬送する搬送部11と、搬送部11を囲むハウジング12と、ハウジング12に接続され、塗料にエキシマ光を照射する照射部13と、照射部13よりも上流側でハウジング12に接続され、ハウジング12内にワークWの搬送とは逆方向に不活性ガスを流通させる第一ガス流通部14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内で、表面に塗料が塗布されたワークを搬送するに際して、
(1)前記ワークの搬送とは逆方向に流通させた不活性ガスを前記ワークに供給する工程と、
(2)前記ワークにエキシマ光を照射して前記塗料を硬化させる工程と、
を備える木質系床材の製造方法。
【請求項2】
前記ワークの搬送速度が30~70m/minである、
請求項1に記載の木質系床材の製造方法。
【請求項3】
前記(2)の工程において、
前記エキシマ光の光源から前記ワークの表面までの距離が20mm以上であり、前記エキシマ光の光源から前記ワークの裏面までの距離が50mm以下である条件で、前記エキシマ光を前記塗料に照射する、
請求項1に記載の木質系床材の製造方法。
【請求項4】
前記(1)の工程において、
前記不活性ガスを前記ワークに供給する領域の搬送方向における長さが、前記ワークの長さより長い、
請求項1に記載の木質系床材の製造方法。
【請求項5】
前記(2)の工程の後に、さらに、
(3)前記ワークの搬送と一致する方向に流通させた不活性ガスを前記ワークに供給する工程、
を備える、請求項1に記載の木質系床材の製造方法。
【請求項6】
前記(3)の工程において、
前記不活性ガスを前記ワークに供給する領域の搬送方向における長さが、前記ワークの長さより長い、
請求項5に記載の木質系床材の製造方法。
【請求項7】
前記(2)の工程の後に、さらに、
(4)前記塗料の表面をバフ研磨する工程、
を備える、請求項1に記載の木質系床材の製造方法。
【請求項8】
表面に塗料が塗布されたワークを搬送する搬送部と、
前記搬送部を囲むハウジングと、
前記ハウジングに接続され、前記塗料にエキシマ光を照射する照射部と、
前記照射部よりも上流側で前記ハウジングに接続され、前記ハウジング内に前記ワークの搬送とは逆方向に不活性ガスを流通させる第一ガス流通部と、
を備える、木質系床材の製造装置。
【請求項9】
前記第一ガス流通部は、
前記照射部よりも上流側で前記ハウジングに接続され、前記ハウジング内に不活性ガスを供給する第一ガス供給部と、
前記第一ガス供給部よりも上流側で前記ハウジングに接続され、前記ハウジング内のガスを排気する第一ガス排気部とを備える、
請求項8に記載の木質系床材の製造装置。
【請求項10】
搬送方向において、前記第一ガス流通部が設置された領域の長さが、前記ワークの長さよりも長い、
請求項8に記載の木質系床材の製造装置。
【請求項11】
さらに、前記照射部よりも下流側で前記ハウジングに接続され、前記ハウジング内に前記ワークの搬送と一致する方向に不活性ガスを流通させる第二ガス流通部を備える、
請求項8に記載の木質系床材の製造装置。
【請求項12】
前記第二ガス流通部は、
前記照射部よりも下流側で前記ハウジングに接続され、前記ハウジング内に不活性ガスを供給する第二ガス供給部と、
前記第二ガス供給部よりも下流側で前記ハウジングに接続され、前記ハウジング内のガスを排気する第二ガス排気部と、
を備える、請求項11に記載の木質系床材の製造装置。
【請求項13】
前記第二ガス流通部が設置された領域の長さが、前記ワークの長さよりも長い、
請求項11に記載の木質系床材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系床材の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、艶調整剤を添加した塗料を用いて化粧層表面にマット感を付与した床材があるが、さらなる低輝度化をするのは困難である。また、艶調整剤を添加した塗料の場合には耐汚染性能や耐傷性能を向上させるのも困難である。
【0003】
例えば、特許文献1には、エキシマ光を照射して化粧シートの極表層に畝状の凹凸形状を形成し、低輝度化を実現する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明によって、適切な条件で塗膜にエキシマ光を照射すれば、硬化する際に塗膜の極表層に波紋状の微細な凹凸を発生させることができる。
【0006】
ここで、エキシマ光による塗膜の硬化は、エキシマ光の照射強度および積算光量などの条件に律速されるが、エキシマ光は酸素と接触すると減衰する性質を有しているため、特に、塗膜がエキシマ光の照射により硬化する領域(以下、「硬化領域」ともいう。)における酸素量を極力低減する必要がある。エキシマ光の光源から塗膜の表面までの距離を極力小さくすることができれば、酸素との接触を減らすことができるため、エキシマ光による塗膜の硬化速度を上昇させ、ひいては高効率な生産がしやすくなる。
【0007】
例えば、特許文献1において対象とされる数百ミクロンの厚さの化粧シートであれば、仮に材料自体に反りや凹凸があったとしても、適度な張力を掛けながら搬送するなどの対策を取れば、その影響を抑えることができるので、光源から塗膜の表面までの距離を極力小さくすることができる。
【0008】
しかし、木質系床材には必ず反りや凹凸が存在している。例えば、切削加工などの段階であれば、ロールなどで反りを抑えながら加工を行うことができるが、硬化前の塗料が塗られた状態ではそのような対策を採用することはできない。このため、エキシマ光の光源からワーク表面の塗膜までの距離が小さいと、ワークの接触によりエキシマ光のランプが破損するという問題がある。このため、エキシマ光の光源から塗膜の表面までの距離を大きくせざるを得ず、エキシマ光の照射強度および積算光量が低下する。また、硬化領域における酸素量を低減するのが困難となる。このため、低輝度の木質系床材を高効率に生産ができないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するべくなされたものであり、低輝度の木質系床材を高効率に製造する方法およびその装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の木質系床材の製造方法および製造装置を要旨とする。
【0011】
(A)ハウジング内で、表面に塗料が塗布されたワークを搬送するに際して、
(1)前記ワークの搬送とは逆方向に流通させた不活性ガスを前記ワークに供給する工程と、
(2)前記塗料にエキシマ光を照射して塗料を硬化させる工程と、
を備える木質系床材の製造方法。
【0012】
(B)表面に塗料が塗布されたワークを搬送する搬送部と、
前記搬送部を囲むハウジングと、
前記ハウジングに接続され、前記塗料にエキシマ光を照射する照射部と、
前記照射部よりも上流側で前記ハウジングに接続され、前記ハウジング内に前記ワークの搬送とは逆方向に不活性ガスを流通させる第一ガス流通部と、
を備える、木質系床材の製造装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低輝度の木質系床材を高効率に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る木質系床材の製造装置を説明するための図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る木質系床材の製造装置の照射部を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る木質系床材の製造装置の第一ガス流通部を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る木質系床材の製造装置の第二ガス流通部を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態に係る木質系床材の製造方法および製造装置について、図を参照しながら説明する。まず、装置構成について説明し、その後、装置動作について説明する。本実施形態に係る木質系床材の製造方法の説明は、装置動作の説明に代える。
【0016】
(装置構成)
図1に示すように、本実施形態に係る木質系床材の製造装置10は、表面に塗料が塗布された木質系床材素材(ワーク)Wを搬送する搬送部11と、搬送部11を囲むハウジング12と、ハウジング12に接続され、塗料にエキシマ光を照射する照射部13と、照射部13よりも上流側でハウジング12に接続され、ハウジング12内にワークWの搬送とは逆方向に不活性ガスを流通させる第一ガス流通部14と、を備える。
図1において、符号aはワークWの搬送方向を、符号bは不活性ガスの流通方向をそれぞれ意味している。
【0017】
ハウジング12内にワークWを搬送すると、それに起因してハウジング12の入側の開口部において外部から内部に大気が導入されることになる。このようにして導入された大気によってハウジング内の酸素量が増加するので、硬化領域における酸素量を低減するのが困難となり、高効率な生産ができなくなる。本実施形態に係る木質系床材の製造装置10において、第一ガス流通部14は、ハウジング12内にワークWの搬送とは逆方向に不活性ガスを流通させることにより抑制し、硬化領域における酸素量を低減することが可能となる。
【0018】
搬送部11は、十分な耐熱性と、塗料やエキシマ光に対して十分な耐性を有する構成であれば、特段の制約はなく、例えば、
図1に示すようなモータ(図示省略)に接続されたローラによってベルトを動かす構成であってもよいし、ローラのみで構成されたものであってもよい。搬送部11の繋ぎ目は、ハウジング12の開口部から十分離れた位置にあることが好ましい。反りのあるワークWの場合には、搬送部11の繋ぎ目付近で跳ねることがあり、ハウジング12の開口部に接触する恐れがあるためである。また、同じくワークWの跳ねの観点からは、ハウジング内における搬送部11の繋ぎ目は、極力少ないことが好ましく、ないことが好ましい。ただし、メンテナンス作業性の観点からは、ハウジング内における搬送部11の繋ぎ目は複数あってもよい。
【0019】
ハウジング12は、塗料やエキシマ光に対して十分な耐性を有する構成であれば、特段の制約はない。ハウジング12の入側および出側にはワークWの搬入・搬出を行うための開口部が設けられているが、この開口部が大きすぎると多量の大気が導入されやすく、硬化領域における酸素量を低減するのが困難になる。このため、ハウジング12の開口部において、搬送部11の表面からの高さを50mm以下とすることが好ましい。ただし、この高さが小さすぎると、ワークWがハウジング12の開口部に接触する恐れがあるので、20mm以上とするのが好ましく、30mm以上とするのがより好ましい。
【0020】
照射部13は、100nm以上200nm未満の波長を備えるエキシマ光を照射できる構成であればよい。エキシマ発光の媒体としては、例えば、Ar、Kr、Xe、Ne等の希ガス、F、Cl、I、Br等のハロゲンによる希ガスのハロゲン化物等ガス、又はこれらの混合ガスなどが挙げられる。エキシマ光の中心波長は、媒体によって異なり、例えば、約126nm(Ar)、約146nm(Kr)、約165nm(ArBr)、約193nm(ArF)などである。本実施形態においては、約172nm(Xe)を好適に使用することができる。
【0021】
なお、エキシマ光では、塗膜の極表層を硬化させることにより塗膜の表層に皺(波紋状の微細な凹凸)を生じさせる。これにより、表層の輝度を適切に下げることができるので、化粧層表面にマット感を付与したワークを製造することが可能となる。ただし、エキシマ光では塗膜内部まで硬化させない。塗膜内部の硬化は、UVランプにより塗膜に200nm~400nmの紫外線を照射させることによって行う。塗膜内部の硬化に用いるUVランプとしては、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDUVランプなどが挙げられる。塗膜内部の硬化のためのUVランプは、下流に別工程として設置してもよいが、照射部13内においてエキシマ光の下流に併設するのが好ましい。
【0022】
照射部13において、エキシマ光の光源から塗膜の表面までの距離を極力小さくすることができれば、酸素との接触を減らすことができる。このため、光源と搬送部11の表面との距離H0は、50mm以下とするのが好ましい。しかし、ワークWには必ず反りや凹凸が存在しているため、その距離が近いとワークWが光源と接触するおそれがある。この問題は、特に搬送速度が30m/min以上の場合に顕著となる。このため、光源とワークWの表面との距離H1は、20mm以上とするのが好ましく、30mm以上とするのがより好ましい。
【0023】
照射部13は、必要な照射強度(ピーク値)および照射光量の積算値を達成できる構成であればよい。光源の照射強度(ピーク値)としては、例えば、75mW/cm2以上が好ましく、100mW/cm2以上がより好ましく、150mW/cm2以上がさらに好ましい。また、照射光量の積算値としては、例えば、10mj/cm2以上が好ましく、20mj/cm2以上がより好ましく、30mj/cm2以上がさらに好ましい。上限には特に制限はないが、波長光の照射に必要なランプの灯数の範囲で設定すればよい。なお、光源とワークWの表面との距離H1が大きくなるほどに、必要な照射強度(ピーク値)および照射光量の積算値を達成しにくくなるため、エキシマ光ランプの灯数を複数設けることが好ましい。
【0024】
照射部13は、硬化領域の酸素量を低減するべく、その筐体内に不活性ガスを供給する、不活性ガス供給部をさらに備えることが好ましい。これにより硬化領域の酸素量をさらに低減することが可能となる。このようにして供給された不活性ガスは、後述の第一ガス流通部14の第一ガス排気部14bまたは第二ガス流通部15の第二ガス排気部15bによってハウジング12外に排気される。なお、図面では、搬送されるワークWの上方から不活性ガスを供給する場合を例示しているが、そのような構成に限定されず、ワークの側方から不活性ガスを供給する構成でもよい。特に、搬送されるワークWの上方および側方の両方から不活性ガスを供給することが好ましい。
【0025】
第一ガス流通部14の構成については、ハウジング12内にワークWの搬送とは逆方向に不活性ガスを流通させることができれば限定はないが、例えば、第一ガス流通部14は、照射部13よりも上流側でハウジング12に接続され、ハウジング12内に不活性ガスを供給する第一ガス供給部14aと、第一ガス供給部14aよりも上流側でハウジング12に接続され、ハウジング12内のガスを排気する第一ガス排気部14bとを備えることが好ましい。このような構成を有する第一ガス流通部14によれば、ハウジング12内にワークWの搬送とは逆方向に不活性ガスを流通させることができる。なお、図面では、搬送されるワークWの上方から不活性ガスを供給する場合を例示しているが、そのような構成に限定されず、ワークの側方から不活性ガスを供給する構成でもよい。特に、搬送されるワークWの上方および側方の両方から不活性ガスを供給することが好ましい。
【0026】
第一ガス流通部14は、ハウジング12内にワークWの搬送とは逆方向に不活性ガスを流通させやすくするため、第一ガス供給部14aと第一ガス排気部14bとの間に逆流防止部14cを備えることが好ましい。逆流防止部14cとしては、例えば、ラビリンス構造を備えるものが例示される。
【0027】
第一ガス流通部14は、第一ガス供給部14a、逆流防止部14cおよび第一ガス排気部14bを備えるユニットを、複数備えることが好ましい。すなわち、第一ガス流通部14が設置された領域に複数のユニットが設置されておれば、ワークWの搬送とは逆方向に不活性ガスの流通させやすくなり、硬化領域の酸素量をより低減しやすくなる。
【0028】
第一ガス流通部14が設置された領域の搬送方向における長さLaは、ワークの搬送方向における長さ(以下、Lwという。通常、ワークの長手方向と一致する。)よりも長いことが好ましい。このような構成を有する第一ガス流通部14によれば、硬化領域における酸素量をより低減しやすくなる。なお、通常の塗装工程においては、塗膜の硬化をワークの短手方向と搬送方向が一致するように搬送することも可能である。しかし、このような搬送方法を前提とする場合には、ハウジング12の開口部を大きくせざるを得ず、硬化領域における酸素量を低減することが困難となる。このため、本実施形態に係る木質系床材の製造装置10においては、ワークWの長手方向と搬送方向が一致するように搬送して、硬化領域における酸素量を低減しやすくすることが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る木質系床材の製造装置10において、照射部13よりも下流側でハウジング12に接続され、ハウジング12内にワークWの搬送と一致する方向に不活性ガスを流通させる第二ガス流通部15を備えることが好ましい。
図1において、符号cは、第二ガス流通部15における不活性ガスの流通方向を意味している。このような条件で不活性ガスを流通させることにより、ハウジング12の出側からの大気の導入を抑制することができる。
【0030】
第二ガス流通部15は、照射部13よりも下流側でハウジング12に接続され、ハウジング12内に不活性ガスを供給する第二ガス供給部15aと、第二ガス供給部15aよりも下流側でハウジング13に接続され、ハウジング13内のガスを排気する第二ガス排気部15bと、を備えることが好ましい。このような条件で不活性ガスを流通させることにより、ハウジング12の出側からの大気の導入をより抑制しやすくなる。なお、図面では、搬送されるワークWの上方から不活性ガスを供給する場合を例示しているが、そのような構成に限定されず、ワークの側方から不活性ガスを供給する構成でもよい。特に、搬送されるワークWの上方および側方の両方から不活性ガスを供給することが好ましい。
【0031】
第二ガス流通部15は、ハウジング12内にワークWの搬送と一致する方向に不活性ガスを流通させやすくするため、第二ガス供給部15aと第二ガス排気部15bとの間に逆流防止部15cを備えることが好ましい。逆流防止部15cとしては、例えば、ラビリンス構造を備えるものが例示される。
【0032】
第二ガス流通部15は、第二ガス供給部15a、逆流防止部15cおよび第二ガス排気部15bを備えるユニットを、複数備えることが好ましい。すなわち、第二ガス流通部15が設置された領域に複数のユニットが設置されておれば、ワークWの搬送と一致する方向に不活性ガスの流通させやすくなり、硬化領域の酸素量をより低減しやすくなる。
【0033】
第二ガス流通部15が設置された領域の長さLbは、ワークWの長さLwよりも長いことが好ましい。このような構成を有する第二ガス流通部15によれば、ハウジング内に導入された大気を第二ガス排気部15bによって排気しやすく、硬化領域における酸素量をより低減しやすくなる。
【0034】
本実施形態に係る木質系床材の製造装置10において、硬化した塗膜(より具体的には、内部まで硬化させた塗膜)の表面をバフ研磨する工程をさらに備えてもよい。バフ研磨は、塗装表面の凹凸を調整して、触感を変えることができる。バフ研磨としては、バフロールその他の公知の装置を採用することができる。また、手動のバフ研磨でもよい。バフの素材としては、例えば、麻、綿、布、ウール、フェルト、不織布、スポンジなどが挙げられる。
【0035】
(装置動作)
本実施形態に係る木質系床材の製造装置10においては、ハウジング12内で、表面に塗料が塗布されたワークWに搬送するに際して、(1)ワークWの搬送とは逆方向に流通させた不活性ガスをワークWに供給する工程と、(2)エキシマ光を照射して塗料を硬化させる工程と、を備える工程により木質系床材を製造する。上記(1)の工程により、ワークWがハウジング12に装入される際に導入される大気が硬化領域に到達するのを抑制し、硬化領域における酸素量を低減することが可能となる。硬化領域における酸素量とは、具体的には、エキシマ光の光源直下における酸素量である。硬化領域における酸素量は、1500ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、500ppm以下であることがさらに好ましい。このような低酸素量の領域であれば、高効率にエキシマ光による塗膜の硬化を促進しやすくなる。
【0036】
不活性ガスとしては、エキシマ光によって変性しないガスであれば制約はなく、例えば、窒素ガス、または、アルゴン、ヘリウムなどの希ガスでもよいが、取り扱いが容易である点で、窒素ガスを用いるのが好ましい。窒素ガスの濃度は高いことが好ましく99.9%以上であることが好ましく、特に、搬送速度を高める場合には、99.99%以上であることが好ましい。窒素ガスの導入および排気は、硬化領域における酸素量を十分に低減できるものであればよい。窒素ガスの流量については、ハウジング12内の容積によって異なるが、100Nm3/h以上であることが好ましい。窒素ガスの流量とは、ハウジング12内に供給される窒素ガスの総流量であり、具体的には、第一ガス流通部14の第一ガス供給部14a、照射部13の不活性ガス供給部および第二ガス流通部15の第二ガス供給部15aに供給される窒素ガスの総流量である。
【0037】
ワークWの搬送速度が30~70m/minであることが好ましい。ワークWの搬送速度は、木質系床材の生産効率に直結するため、極力高いことが好ましい。上記の条件を満たせば、30m/min以上の搬送速度を達成しやすくなる。搬送速度は、40m/min以上が好ましく、50m/min以上がより好ましく、60m/min以上がさらに好ましい。ただし、搬送速度があまりに高い場合には、ハウジング12内に導入される大気の量が増えて硬化領域の酸素量が増加し、また、ワークWの上下動が大きくなってエキシマ光の光源に接触する可能性が高くなる。よって搬送速度の上限は70m/minとするのが好ましい。
【0038】
前記(2)の工程においては、前記ワークの表面から20~50mm離れた位置からエキシマ光を照射することが好ましい。ワークWには必ず反りや凹凸が存在しているため、その距離が近いとワークWが光源と接触するおそれがあるので、この距離H1は、20mm以上とするのが好ましく、30mm以上とするのがより好ましい。しかし、あまりにこの距離が大きくなりすぎると、エキシマ光が接触する酸素量が多くなり、十分な照射強度が得られなくなる恐れがある。このため、エキシマ光の光源と搬送部11の表面(ワークWの裏面)との距離H0は、50mm以下とするのが好ましい。なお、距離H1が大きくなると、照射強度(ピーク値)および照射光量の積算値が小さくなるため、不活性ガスの濃度を高める、流量を増加させる、エキシマ光の光源を増加させるなどの工夫が必要となる。
【0039】
(木質系床材の素材の製造方法)
木質系床材の素材については、特段制約がない。例えば、6~15mmの厚さの無垢材が例示される。また、例えば、木質基材の上に化粧材を貼り付けたものが例示される。化粧材としては、突板、挽き板などの木質化粧材のほか、樹脂製の化粧シート、印刷紙、樹脂含浸紙などでもよい。厚みは特に限定はないが、木質化粧材の場合には、例えば、0.2~3.0mmである。また、木質基材としては、種々の合板、パーティクルボード、MDF、OSB、LVLなどが例示される。
【0040】
また、必要に応じて、木質基材と化粧材との間、または、木質基材層の裏面側に、耐傷性、耐凹み性、寸法安定性、および干割れ防止性などの機能を備える機能性付与層を設けてもよい。機能性付与層としては、例えば、MDF、HB等の木質繊維板、樹脂含浸紙、防湿シートなどが例示される。機能性付与層の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01~3.0mmである。
【0041】
木質系床材の素材として、木質基材の上に接着剤を用いて化粧材を貼り付け、圧着させたものである場合、接着剤としては、例えば、フェノール樹脂系、メラミン樹脂系、エポキシ樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、またはポリウレタン樹脂系などの合成樹脂系接着剤を用いることができる。また、接着剤として、ホットメルト接着剤を用いてもよい。
【0042】
木質系床材の素材として、公知の方法で、実加工、溝加工(縦溝、横溝、ハーフ溝)などを形成したものでもよい。
【0043】
木質系床材の素材は、塗装工程を経過した後に本実施形態に係る装置によって、塗膜が硬化される。塗装工程は、公知の方法でよく、下塗り塗装、中塗り塗装を含んでもよく、また、塗装前に着色工程を含んでもよい。ただし、塗料については、艶調整剤を含まないことが好ましい。艶調整剤を添加した塗料の場合には、耐汚染性能や耐傷性能が劣化しやすいからである。
【0044】
(木質系床材)
本実施形態に係る木質系床材の製造装置10によって製造される木質系床材は、例えば、60°および85°におけるグロス値が10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは5以下、もっとも好ましくは4以下の低輝度の床材である。
【0045】
塗料に艶調整剤を添加しない場合には、木質系床材の耐汚染性能および耐傷性能が向上する。具体的には、耐汚染性能については、床材の表面に毛染め剤、塩素系漂白剤、カレー、皮脂汚れを滴下し、6時間後にふき取り、表面状態を評価する。また耐傷性能については、JAS引きかき硬度試験に準拠し、引きかき硬度により評価し、また、スチールウールと塗装面に接する面積が9cm2になるように治具にスチールウールを貼り付け、治具上に荷重が2kgになるように重りを載せ30往復させたのちの表面状態を評価する(なお、スチールウールの粒度番号(#)は、数値が大きいほど粗いことを意味する。)。
【実施例0046】
実施例は、艶調整剤を含まない塗料を塗布したワークを、ワークの搬送とは逆方向に不活性ガスを流通させながら搬送し、エキシマレーザにて塗料の表層のみを硬化させ、その後に、水銀ランプ(UV)にて塗料の内部まで硬化させる方法により床材を製造した例である。一方、比較例は、艶調整剤を含む塗料を塗布したワークを水銀ランプ(UV)にて表層から内部まで硬化させる方法により床材を製造した例である。これらの例について、意匠性、耐汚染性、耐傷性を評価した結果を表1に示す。表1に示すように、実施例は、意匠性、耐汚染性、耐傷性のいずれにおいても比較例よりも優れていた。
【0047】