(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059379
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】リンパ管疾患治療用ステントシステム
(51)【国際特許分類】
A61F 2/95 20130101AFI20240423BHJP
【FI】
A61F2/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167018
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515141702
【氏名又は名称】株式会社エムダップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 洋平
(72)【発明者】
【氏名】島 和彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 和哉
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA05
4C267AA46
4C267BB02
4C267BB43
4C267BB63
4C267CC04
4C267GG24
(57)【要約】
【課題】取扱いが容易で汎用性に優れ、治療の安定性を高めることができるリンパ管疾患治療用ステントシステムを提供する。
【解決手段】リンパ管疾患治療用ステントシステム100は、デリバリカテーテル110と、操作ワイヤ120と、操作ワイヤ120の先端側に設けられ、デリバリカテーテル110の先端部115から遠位側に展開可能に構成された拡張自在のステント部130と、を備える。ステント部130は、軸方向に延びる複数の湾曲した形状復元性を有するワイヤ131を含み、複数のワイヤ131は、ステント部130の先端部及び基端部において束ねられている一方、該先端部及び該基端部の間の中間部では互いに結合されていない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ管疾患の治療に使用されるステントシステムであって、
管状のデリバリカテーテルと、
前記デリバリカテーテルの内腔に挿通された操作ワイヤと、
前記操作ワイヤの先端側に設けられ、前記デリバリカテーテルの先端部から遠位側に展開可能に構成された拡張自在のステント部と、を備え、
前記ステント部は、軸方向に延びる複数の湾曲した形状復元性を有するワイヤを含み、
複数の前記ワイヤは、前記ステント部の先端部及び基端部において束ねられている一方、該先端部及び該基端部の間の中間部では互いに結合されていない、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記ステント部は、さらに、収縮自在であり、前記デリバリカテーテルの前記先端部内に収容可能に構成されている、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
複数の前記ワイヤの各々は、前記ステント部の前記先端部及び前記基端部と、前記中間部と、を接続する直線状の接続部を有し、
前記ステント部が全拡張状態のときに、前記接続部は、軸方向に対して所定の角度を有して傾斜する傾斜部を構成する、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項4】
請求項3において、
前記所定の角度は、5度以上85度以下である、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
前記ステント部が全拡張状態のときに、複数の前記ワイヤは、前記中間部において、互いに接触していない、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
複数の前記ワイヤの各々は、軸方向に延びる螺旋形状を有する、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項7】
請求項1又は請求項2において、
複数の前記ワイヤの各々は、軸方向に延びる正弦曲線形状を有する、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項8】
請求項7において、
複数の前記ワイヤの各々は、軸方向視、径方向外側に向かって凸の円弧形状を有する、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項9】
請求項1又は請求項2において、
前記ステント部の先端側及び基端側の少なくとも一方に設けられたマーカ部を備える、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項10】
請求項1又は請求項2において、
リンパ管と静脈との吻合術に使用される、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【請求項11】
請求項1又は請求項2において、
前記ワイヤは、形状記憶合金製である、リンパ管疾患治療用ステントシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リンパ管疾患治療用ステントシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
体内のリンパ系は、損傷した細胞を身体から排除し、感染や癌の拡大を阻止する機能を有している。手足の末梢等に存在する表在リンパ管で吸収された細胞液等(リンパ液)は、鼠径部や腋窩等に存在する所属リンパ節で合流し、中枢に存在する深部リンパ管へ集約される。そして、鎖骨近傍にある静脈角において静脈に合流し、最終的には尿として体外へ排出される(非特許文献1参照)。
【0003】
リンパ管疾患として、例えばリンパ嚢胞、リンパ瘻、乳糜胸腹水等が知られている。これらのリンパ管疾患は、リンパ液の漏出が原因と考えられる難治性の希少疾患であり、有効な治療法は未だ知られていない。
【0004】
また、比較的症例の多いリンパ管疾患としては、リンパ浮腫が挙げられる。リンパ浮腫は、例えば癌の治療部位に近い四肢の皮膚下に、リンパ管に回収されなかったリンパ液が溜まり、浮腫が発生する疾患である。リンパ浮腫の治療法としては、複数の治療法が知られており、例えば、特許文献1には、リンパ浮腫等の体液滞留を治療するデバイスおよび方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版」新東京病院看護部編、2020年2月刊行、照林社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、リンパ管は極めて細いために、その判別や取扱いが難しく、難治性の上記疾患においては有効な治療法の開発の妨げの一因であるとともに、治療法の存在する上記疾患においても安定した治療の提供の妨げの一因となっている。
【0008】
具体的に、例えばリンパ浮腫の治療法の一つとして知られるリンパ管静脈吻合術(LVA)によるバイパス術は、リンパ管を静脈に繋いでリンパ液をバイパスさせることにより、リンパ液の滞留を解消する治療法である。LVAでは、約0.2~0.5mmのリンパ管の先端と静脈の先端とを約50μmの針糸を用いて顕微鏡下で縫合する手技が行われる。当該手技は、技術的に極めて煩雑で難易度が高いため、施術者が熟練者に限られるとともに、安定した結果を得ることが難しいという問題がある。
【0009】
そこで本開示では、取扱いが容易で汎用性に優れ、治療の安定性を高めることができるリンパ管疾患治療用ステントシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、ここに開示するリンパ管疾患治療用ステントシステムの一態様は、リンパ管疾患の治療に使用されるステントシステムであって、管状のデリバリカテーテルと、前記デリバリカテーテルの内腔に挿通された操作ワイヤと、前記操作ワイヤの先端側に設けられ、前記デリバリカテーテルの先端部から遠位側に展開可能に構成された拡張自在のステント部と、を備え、前記ステント部は、軸方向に延びる複数の湾曲した形状復元性を有するワイヤを含み、複数の前記ワイヤは、前記ステント部の先端部及び基端部において束ねられている一方、該先端部及び該基端部の間の中間部では互いに結合されていない。
【0011】
一般的なステントは、内径約1mm以上の血管への適用を目的としており、ラジアルフォースを高めるために、複数のワイヤを互いに結合する結合部が形成された網目構造を有している。
【0012】
リンパ管は、例えば内径が0.2~0.5mm程度の極めて細い脈管であり、一般的なステントの構造をそのまま縮小化しただけでは、結合部が妨げとなって、ステント部のデリバリカテーテルからの展開が困難になる。
【0013】
本構成では、ステント部を軸方向に延びる複数の湾曲した形状復元性を有するワイヤを用いて構成し、ステント部の先端部及び基端部において束ねた構造とするとともに、該先端部及び該基端部の間の中間部では互いに結合されていない構造とした。これにより、適度なラジアルフォースにより極めて細いリンパ管をステント部の中間部で保持できるとともに、ステント部の展開をスムーズに行うことができる。また、ステント部のワイヤが湾曲した構造を有していることにより、ステント部の柔軟性を確保することができるから、リンパ管へ挿入したときの優れた追従性を確保できる。そうして、取扱いが容易で汎用性に優れたリンパ管疾患治療用ステントシステムを提供できるから、リンパ管疾患の治療の安定性を高めることができる。
【0014】
なお、本明細書において、リンパ管疾患治療用ステントシステムを用いてリンパ管疾患の治療を行うとは、リンパ管にステントシステムを挿入して経カテーテル的治療を行うことを意味する。すなわち、本開示に係るリンパ管疾患治療用ステントシステムは、治療後にステント部をデリバリカテーテル内に収容して体内から除去可能な構成であってもよいし、ステント部を体内に留置可能な構成であってもよい。
【0015】
好ましいのは、治療後にステント部をデリバリカテーテル内に収容して体内から除去可能な構成である。すなわち、前記ステント部は、さらに、収縮自在であり、前記デリバリカテーテルの前記先端部内に収容可能に構成されていることが好ましい。言い換えると、前記ステント部は、前記デリバリカテーテルの先端部から遠位側に展開可能且つ該先端部内に収容可能に構成された拡張収縮自在のステント部であることが好ましい。
【0016】
本構成では、ステント部が展開及び収容可能であるから、治療後にステント部を除去する必要がある手技にも、本構成のステントシステムを好適に使用できる。
【0017】
好ましくは、複数の前記ワイヤの各々は、前記ステント部の前記先端部及び前記基端部と、前記中間部と、を接続する直線状の接続部を有し、前記ステント部が全拡張状態のときに、前記接続部は、軸方向に対して所定の角度を有して傾斜する傾斜部を構成する。
【0018】
本構成では、ステント部の全拡張状態のときに、直線状の接続部が傾斜部を構成する。これにより、ステント部の展開時には、接続部が径方向に放射状に拡張する力を利用してスムーズな展開が可能となる。また、ステント部の収容が可能な場合、収容時には、デリバリカテーテルの先端が接続部に当接することにより、接続部の径方向の収縮が容易に進行するから、スムーズな収容が可能となる。特に、接続部が径方向に収縮を開始すると、ステント部全体が径方向に収縮し始めるから、保持対象の脈管の損傷を抑制しつつ、脈管からのスムーズな離脱が可能となる。
【0019】
前記所定の角度は、5度以上85度以下であることが好ましい。
【0020】
本構成によれば、ステント部のよりスムーズな展開が可能となる。また、ステント部がデリバリカテーテルの先端部内に収容可能な場合には、ステント部のよりスムーズな収容が可能となる。
【0021】
好ましくは、前記ステント部が全拡張状態のときに、複数の前記ワイヤは、前記中間部において、互いに接触していない。
【0022】
本構成によれば、ステント部の径方向の拡張収縮がスムーズに進行する。
【0023】
一実施形態では、複数の前記ワイヤの各々は、軸方向に延びる螺旋形状を有する。
【0024】
本構成によれば、ステント部をデリバリカテーテルから展開するときの摺動抵抗の負荷を効果的に低減できるとともに、保持対象の脈管を確実に保持するための捕獲性をさらに向上できる。
【0025】
一実施形態では、複数の前記ワイヤの各々は、軸方向に延びる正弦曲線形状を有する。
【0026】
本構成によれば、ステント部のラジアルフォースを高めることができる。
【0027】
好ましくは、複数の前記ワイヤの各々は、軸方向視、径方向外側に向かって凸の円弧形状を有する。
【0028】
本構成によれば、ワイヤの内側の十分な空間を確保して、リンパ液等の流路を確保できる。
【0029】
前記ステント部の先端側及び基端側の少なくとも一方に設けられたマーカ部を備えることが好ましい。
【0030】
本構成によれば、X線透視下における良好な視認性を確保することができる。
【0031】
好ましい態様では、本開示に係るリンパ管疾患治療用ステントシステムは、リンパ管と静脈との吻合術に好適に使用される。
【0032】
リンパ管静脈吻合術は、上述のごとく、リンパ浮腫の治療法の1つである。本開示に係るリンパ管疾患治療用ステントシステムは、取扱いが容易で汎用性に優れるから、リンパ管静脈吻合術における治療の安定性を高めることができる。
【0033】
なお、リンパ管静脈吻合術では、ステント部はリンパ管に加えて静脈も保持することになる。従って、本明細書において、ステント部の保持対象としては、リンパ管及び治療上関連する静脈を総称して「(保持対象の)脈管」と称することがある。
【0034】
前記ワイヤは、形状記憶合金製であることが好ましい。
【0035】
本構成によれば、ステント部のより優れた自己拡張性及び脈管保持力を確保できる。また、ステント部がデリバリカテーテル内に収容可能である場合には、ステント部のより優れた自己収縮性も確保できる。
【発明の効果】
【0036】
以上述べたように、本開示によると、取扱いが容易で汎用性に優れたリンパ管疾患治療用ステントシステムを提供できるから、リンパ管疾患の治療の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】実施形態1に係るリンパ管疾患治療用ステントシステムを示す全体図。
【
図2】ステント部をデリバリカテーテルから展開及びデリバリカテーテル内に収容するときのステント部の状態を示す図。
【
図4】
図3のステント部を軸方向遠位側から見た図。
【
図6】ステントシステムの使用方法の一例を説明するための図。
【
図7】実施形態2に係るステントシステムのステント部を径方向外側から見た図。
【
図8】
図7のステント部を軸方向遠位側から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0039】
(実施形態1)
<リンパ管疾患治療用ステントシステム>
本実施形態に係るリンパ管疾患治療用ステントシステム100(以下、単に「ステントシステム100」ともいう。)は、
図1に示すように、デリバリカテーテル110と、操作ワイヤ120と、ステント部130と、第1マーカ部140(マーカ部)と、第2マーカ部150(マーカ部)と、を備える。
【0040】
なお、本明細書において、方向は、
図1に示すように、ステントシステム100の使用時を基準として、施術者に近い側を近位側又は基端側、施術者から遠い側、すなわち患者の体内に挿入される側を遠位側又は先端側と称する。また、軸方向、径方向及び周方向は、管状のデリバリカテーテル110を基準とする。
【0041】
[デリバリカテーテル]
デリバリカテーテル110は、管状の部材であり、先端側のパイプ部111と、基端側、すなわち当該パイプ部111の基端部に設けられたハブ112と、を備える。
【0042】
パイプ部111は、操作ワイヤ120を挿通可能なパイプ部内腔113(内腔)を有している。
【0043】
パイプ部111の外径は、リンパ管に挿通可能な径であればよく、具体的には例えば0.5mm以下、好ましくは0.2mm以上0.4mm以下である。
【0044】
パイプ部111の内径は、後述するステント部130が全収縮状態で収容可能な径であればよく、具体的には例えば0.4mm以下、好ましくは0.1mm以上0.3mm以下である。
【0045】
ハブ112は、パイプ部内腔113に連通し且つ該パイプ部内腔113よりも大径のハブ内腔114(内腔)を有する。ハブ112は、施術者が手技を行う際の把持部としても機能し得る。
【0046】
デリバリカテーテル110を構成する材料は、生体適合性のある材料であれば特に限定されず、一般的なカテーテルに使用される材料とすることができる。材料の具体例としては、ステンレス鋼、Ni-Ti合金等の金属製、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリイミド、ポリプロピレン、ABS、PEEK等の樹脂材料製等が挙げられる。デリバリカテーテル110の表面には、生体適合処理等が行われていてもよい。また、パイプ部111とハブ112とは、別の材料で構成されてもよいし、同じ材料で構成されてもよい。
【0047】
[操作ワイヤ]
操作ワイヤ120は、デリバリカテーテル110のパイプ部内腔113及びハブ内腔114に挿通された線材である。操作ワイヤ120は、デリバリカテーテル110に対して軸方向に相対移動可能に構成されている。言い換えると、デリバリカテーテル110は、操作ワイヤ120に対して軸方向に相対移動可能に構成されている。
【0048】
ステントシステム100の使用時には、上述のハブ112よりも遠位側が体内に挿入され、ハブ112を含む近位側が体外に配置される。すなわち、ハブ112及びハブ112の近位端側に配置された操作ワイヤ120の近位端部が体外に配置される。そうして、体外に配置されたデリバリカテーテル110の近位側、好ましくはハブ112、又は、操作ワイヤ120の近位端部を施術者が操作することにより、ステントシステム100のステント部130の操作が可能になる。
【0049】
操作ワイヤ120の径は、パイプ部111の内径よりも小径であれば特に限定されないが、例えば0.1mm以上0.35mm以下、好ましくは0.15mm以上0.25mm以下とすることができる。
【0050】
操作ワイヤ120を構成する材料は、生体適合性を有していれば特に限定されず、例えば一般的なガイドワイヤ等と同様の材料とすることができる。当該材料は、具体的には例えば、ステンレス鋼等の金属、Ni-Ti合金等の形状記憶合金、ポリイミド、ポリアミド、PEEK等の樹脂材料とすることができる。
【0051】
[ステント部]
操作ワイヤ120の先端側にはステント部130が設けられている。
【0052】
ステント部130は、自己拡張型のステントである。
【0053】
具体的に、
図1及び
図2に示すように、ステント部130は、径方向に拡張収縮自在に構成されており、デリバリカテーテル110及び操作ワイヤ120の少なくとも一方の軸方向の移動により、デリバリカテーテルの先端部115から遠位側に展開可能且つ該先端部115内に収容可能に構成されている。
【0054】
具体的に、ステント部130の非使用時には、ステント部130は、例えばデリバリカテーテル110を遠位側に押すことにより、デリバリカテーテル110の先端部115内に全収縮状態で収容された状態となる(
図2(a))。
【0055】
一方、ステント部130の使用時には、例えばデリバリカテーテル110を近位側に引くことにより、ステント部130は、デリバリカテーテル110の先端部115から遠位側に展開される(
図2(b))。そうして、ステント部130の全体が先端部115から展開されると、ステント部130は、全拡張状態となる(
図2(c))。
【0056】
図3~
図5は、ステント部130の形状を示している。なお、これらの図では、第2マーカ部150の図示を省略している。
【0057】
図3~
図5に示すように、ステント部130は、軸方向に延びる複数(本例では4本)の湾曲したワイヤ131からなる。
【0058】
図3に示すように、4本のワイヤ131は、ステント部130の先端部132及び基端部133において束ねられており、好ましくは束ねられて互いに接合されている。一方、4本のワイヤ131は、先端部132及び基端部133の間の中間部134では互いに結合されておらず、互いに独立している。
【0059】
本構成によれば、適度なラジアルフォースにより極めて細いリンパ管をステント部130の中間部134で保持できるとともに、ステント部130の展開及び収容をスムーズに行うことができる。
【0060】
また、ステント部130のワイヤ131が湾曲した構造を有していることにより、ステント部の柔軟性を確保することができるから、リンパ管へ挿入したときの優れた追従性を確保できる。
【0061】
そうして、取扱いが容易で汎用性に優れたステントシステム100を提供できるから、リンパ管疾患の治療の安定性を高めることができる。
【0062】
なお、
図3に示すように、ステント部130が全拡張状態のときに、中間部134において、4本のワイヤ131は互いに接触していないことが好ましい。これにより、ステント部130の径方向の拡張収縮がスムーズに進行する。
【0063】
また、
図3~
図5に示すように、各ワイヤ131の中間部134は、軸方向に延びる螺旋形状を有することが好ましい。中間部134の形状は、曲線状であれば特に限定されないが、螺旋形状を有することにより、デリバリカテーテル110から展開するときの摺動抵抗の負荷を効果的に低減できるとともに、リンパ管等の脈管を確実に保持するための捕獲性をさらに向上できる。
【0064】
4本のワイヤ131の各々は、先端部132及び基端部133と、中間部134と、を接続する直線状の接続部135を有している。詳細には、接続部135は、先端部132と中間部134とを接続する遠位側接続部135Aと、基端部133と中間部134とを接続する近位側接続部135Bとを有する。
【0065】
図3に示すように、ステント部130が全拡張状態のときに、遠位側接続部135A及び近位側接続部135Bは、
図3中符号P1で示す軸方向に対してそれぞれ所定の角度θ1及び所定の角度θ2を有して傾斜する傾斜部を構成する。
【0066】
ステント部130が全拡張状態のときに、軸方向視、接続部135は、径方向に、すなわち放射状に広がる(
図4)。これにより、ステント部130の展開時には、接続部135が径方向に放射状に拡張する力を利用してスムーズな展開が可能となる。また、ステント部130の収容時には、デリバリカテーテル110の先端部115が近位側接続部135Bに当接することにより、近位側接続部135Bの径方向の収縮が容易に進行するから、スムーズな収容が可能となる。
【0067】
特に、近位側接続部135Bが径方向に収縮を開始すると、ステント部130全体が径方向に収縮し始める。具体的には、
図2(c)に示すように、ステント部130が全拡張状態のときには、ステント部130の外径Dは、最大径D1である。そして、
図2(b)に示すように、近位側接続部135Bがデリバリカテーテル110内に引き込まれて、ステント部130の径方向の収縮が開始すると、ステント部130の最も遠位側であり最も外径が大きい部分の外径Dは、好ましくは最大径D1よりも小さいD2となる。また、たとえ、ステント部130の最も遠位側であり最も外径が大きい部分の外径Dが最大径D1と同一であっても、ステント部130のデリバリカテーテル110外に配置されている部分のうち少なくとも近位側の部分の外径は最大径D1よりも小さくなる。従って、ステント部130の主に中間部134がその全長に亘って脈管を保持する
図2(c)の全拡張状態から、ステント部130の基端側の一部(近位側接続部135B)の収縮が開始する
図2(b)の一部拡張収縮状態に移行するだけで、ステント部130の全体(主に中間部134)が接触していた脈管から容易に離脱する。そうして、リンパ管等の脈管の損傷を抑制しつつ、脈管からの離脱が可能となる。
【0068】
このように、ステント部130は、接続部135の弾性を利用して、拡張収縮自在に構成されている。
【0069】
なお、接続部135は、直線状に限らず、曲線状であってもよいが、ステント部130のよりスムーズな拡張及び収縮動作を得る観点から、直線状であることが好ましい。
【0070】
また、所定の角度θ1及び所定の角度θ2は、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。所定の角度θ1及び所定の角度θ2は、好ましくは5度以上85度以下、より好ましくは10度以上75度以下、特に好ましくは15度以上65度以下である。
【0071】
また、
図4に示すように、ステント部130が全拡張状態のときには、中間部134におけるワイヤ131の径方向内側に略円筒状の空間C1が形成される。ステント部130の使用時、空間C1は、リンパ液等の流路として機能する。
【0072】
ステント部130が全拡張状態のときの、空間C1の直径R1は、好ましくは0.1mm以上2.0mm以下、より好ましくは0.1mm以上1.2mm以下、特に好ましくは0.2mm以上0.8mm以下である。
【0073】
ステント部130が全拡張状態のときの、中間部134の外径D1は、好ましくは0.2mm以上2.1mm以下、より好ましくは0.2mm以上1.3mm以下、特に好ましくは0.3mm以上0.9mm以下である。
【0074】
ワイヤ131の径は、好ましくは0.01mm以上0.15mm以下、より好ましくは0.02mm以上0.10mm以下、特に好ましくは0.03mm以上0.08mm以下である。
【0075】
ワイヤ131の数は、複数であれば特に限定されないが、3本以上6本以下であることが好ましい。
【0076】
ワイヤ131は形状復元性を有する。本明細書において、「形状復元性」とは、ステント部130がデリバリカテーテル110外に展開されたときに、ワイヤ131の形状が全拡張状態のときの形状に復元する性質のことをいう。ワイヤ131を構成する材料は、形状復元性及び生体適合性を有する材料であれば特に限定されず、一般的なステントに使用される材料を採用できる。ワイヤ131の材料としては、具体的には例えば、Ni-Ti合金等の形状記憶合金、ステンレス鋼、Co-Cr合金等の金属、ポリエチレン、ポリプロピレン等の高分子材料等が挙げられる。ワイヤ131は、例えば上記金属材を上記高分子材料で被覆した複合材料製であってもよい。ワイヤ131は、形状記憶合金製であることが好ましい。ワイヤ131が形状記憶合金製であることにより、ステント部130のより優れた自己拡張収縮性及び脈管保持力を確保できる。ステント部130と操作ワイヤ120とは、同一の材料で構成されてもよいし、異なる材料で構成されてもよい。また、ステント部130と操作ワイヤ120とは、一体的に形成されてもよいし、別体として形成されて溶接等の方法により互いに接合されてもよい。
【0077】
ステント部130の形成方法としては、例えば以下のとおりである。すなわち、ワイヤ131の原料となる直線状のワイヤを、全拡張状態のときの形状に成形し、複数のワイヤ131の両端部を束ねて全拡張状態のステント部130とする。ワイヤ131は、適度な弾性及び柔軟性を有しているから、ステント部130がデリバリカテーテル110外に展開されたときは全拡張状態の形状に復元され、デリバリカテーテル110内に収容されたときは全収縮状態となることができる。
【0078】
[第1マーカ部及び第2マーカ部]
ステント部130の先端側及び基端側には、それぞれ第1マーカ部140及び第2マーカ部150が設けられている。
【0079】
第1マーカ部140及び第2マーカ部150は、手技中でのX線透視下における良好な視認性を確保するために設けられる。第1マーカ部140及び第2マーカ部150は、例えば金、白金、イリジウム等の少なくとも一種からなるリング状の造影マーカ等であってもよいし、例えば操作ワイヤ120やワイヤ131の表面にバリウム等の造影剤を配合した樹脂被膜であってもよい。
【0080】
ステント部130を構成するワイヤ131自体がX線下における視認性に優れていれば第1マーカ部140及び第2マーカ部150は設けなくてもよいが、ワイヤ131は極めて細いことから、設けられていることが好ましい。第1マーカ部140及び第2マーカ部150は、両方設けられていてもよいし、いずれか一方のみ設けられていてもよい。また、両方設ける場合は、両方とも同一の材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。具体的には例えば、両者とも金メッキを施したリング状の造影マーカであってもよいし、第1マーカ部140を金メッキを施したリング状の造影マーカ、第2マーカ部150を白金-イリジウム合金からなるリング状の造影マーカとしてもよい。
【0081】
<ステントシステムの用途>
ステントシステム100は、リンパ管に挿入することにより、リンパ管疾患の治療に使用される医療器具である。
【0082】
リンパ管疾患は、リンパ管が関連する疾患であれば特に限定されないが、具体的には例えば、リンパ浮腫、リンパ嚢胞、リンパ瘻、乳糜胸腹水等が挙げられる。リンパ嚢胞、リンパ瘻、乳糜胸腹水等は難治性疾患であるが、これらの疾患についても、将来的に治療法の確立が進めば、対象となり得る。
【0083】
ステントシステム100の使用対象の治療としては、限定する意図ではないが、具体的には例えば、リンパ管と静脈との吻合術、閉塞したリンパ管における異物の除去やリンパ管の拡張等が挙げられる。特に、ステントシステム100は、リンパ管と静脈との吻合術及びその応用的な施術に使用することが好ましい。
【0084】
<ステントシステムの使用方法>
ステントシステム100の使用方法の一例として、ステントシステム100を経カテーテル的リンパ管静脈吻合術に使用する場合について、
図6を参照して、説明する。なお、
図6では、ステント部130を簡略化して記載している。
【0085】
まず、ステント部130をデリバリカテーテル110に収容した状態で、ステントシステム100を施術対象のリンパ管200内に挿入する。そして、例えば、ステントシステム100の先端部がリンパ管200の先端部201、すなわち吻合個所まで到達したところで、デリバリカテーテル110を近位側に引き、ステント部130を展開する。そうして、
図6(a)に示すように、自己拡張したステント部130により、リンパ管200の先端部201を保持する。そして、吻合対象の静脈300の先端部301を、ステント部130により保持されたリンパ管200の先端部201の上に被せる。そして、リンパ管200と静脈300との重複部分に例えばフィブリン等の接着剤400を付与して両者を吻合する(
図6(b))。
【0086】
リンパ管は極めて細いため、施術対象のリンパ管を特定するには、予めリンパ管造影検査等を行う必要があり、特定作業も容易ではない。ステントシステム100を使用した経カテーテル的リンパ管静脈吻合術では、特定した施術対象のリンパ管200の先端部201をステント部130で確実に保持できるから、治療が容易となる。
【0087】
また、リンパ管200の先端部201に静脈300の先端部301を被せたときに、これらの脈管を例えば同軸上に配置することができる(
図6(a))。これにより、ステントシステム100を使用した場合、従来のリンパ管静脈吻合術に比べて、治療が容易となる。
【0088】
すなわち、ステントシステム100は、取扱いが容易で汎用性に優れるから、リンパ管疾患の治療の安定性を高めることができる。
【0089】
なお、
図6では、接着剤400を用いる例を示しているが、
図6(a)の状態で、針糸等を使用して縫合によりリンパ管200と静脈300とを吻合してもよい。上述のごとく、ステント部130の4本のワイヤ131は、リンパ管200を支持する中間部134では互いに結合されていない。従って、隣り合うワイヤ131間に位置するリンパ管200と静脈300とを縫い合わせることにより、ステント部130をこれらの脈管に縫い付けることなく、両脈管を縫合できる。そうして、吻合後、ステントシステム100を速やかに除去できる。
【0090】
(実施形態2)
以下、本開示に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0091】
実施形態1では、ステント部130の各ワイヤ131は、螺旋形状を有する構成であったが、各ワイヤ131の形状は当該構成に限られない。
【0092】
例えば、ステント部130の変形例を
図7~
図9に示す。当該変形例では、ステント部130の各ワイヤ131は、例えば軸方向に延びる正弦曲線形状を有している。具体的には、
図7に示すように、1本のワイヤ131を径方向外側から見たときに、当該ワイヤ131は、正弦曲線形状を有している。これにより、ステント部のラジアルフォースを高めることができる。
【0093】
なお、
図8に示すように、軸方向視、径方向外側へ凸状の円弧形状を有するように各ワイヤ131を構成してもよい。これにより、ワイヤ131の内側の十分な空間C1を確保して、リンパ液等の流路を確保できる。
【0094】
(実施形態3)
上記実施形態では、ステント部130は、デリバリカテーテル110の先端部内に収容可能な構成であり、最終的にはステント部130を体内から除去する態様について説明したが、当該構成に限られない。具体的には例えば、ステント部130は、デリバリカテーテル110の先端部から展開後、該先端部内に収容することなく、体内に留置する構成としてもよい。この場合、ステント部130は、少なくとも拡張自在であれば収縮自在でなくてもよい。具体的には例えば、操作ワイヤ120又は操作ワイヤ120の先端部を大径とし、操作ワイヤ120の先端部で別体のステント部130を支持する構成を採用できる。当該構成によれば、操作ワイヤ120の先端部でステント部130を支持しつつ、デリバリカテーテル110を基端側へ引くことで、ステント部130を展開後、ステント部130だけをそのままリンパ管内に留置することができる。
【0095】
(その他の実施形態)
操作ワイヤ120及びステント部130をパイプ部内腔113及びハブ内腔114に挿通させるときの滑りやすさを確保するためにこれらの表面に、樹脂被膜を設けてもよい。樹脂被膜の材料としては、例えばPTFE、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体)等のフッ素系樹脂、ポリウレタン、親水性コーティング等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本開示は、取扱いが容易で汎用性に優れ、治療の安定性を高めることができるリンパ管疾患治療用ステントシステムを提供することができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0097】
100 リンパ管疾患治療用ステントシステム
110 デリバリカテーテル
115 (デリバリカテーテルの)先端部
120 操作ワイヤ
130 ステント部
131 ワイヤ
132 (ステント部の)先端部
133 (ステント部の)基端部
134 (ステント部の)中間部
135 接続部
135A 遠位側接続部
135B 近位側接続部
140 第1マーカ部(マーカ部)
150 第2マーカ部(マーカ部)
200 リンパ管
300 静脈