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特開2024-59394プレキャスト部材及びプレストレストコンクリート構造体
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  • 特開-プレキャスト部材及びプレストレストコンクリート構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059394
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】プレキャスト部材及びプレストレストコンクリート構造体
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167052
(22)【出願日】2022-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (2)発行者名:公益社団法人プレストレストコンクリート工学会、刊行物名:プレストレストコンクリート工学会第30回シンポジウム論文集、該当頁:第643~646頁、頒布日:令和3年10月21日 (1)第30回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム、令和3年10月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】狩野 武
(72)【発明者】
【氏名】紙永 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】内堀 裕之
(72)【発明者】
【氏名】和田 実
(72)【発明者】
【氏名】横山 和昭
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祐典
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059BB39
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】プレキャスト部材の将来の劣化を抑制する。
【解決手段】プレキャスト部材(5)は、吊り具13を取り付けるための複数のインサート部材9を備え、インサート部材9が当該プレキャスト部材(5)の1対の側面5aに埋設される。プレキャスト部材の上面にインサート部材9が設けられないため、プレキャスト部材の劣化が抑制される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャスト部材であって、
吊り具を取り付けるための複数のインサート部材を備え、
前記インサート部材が当該プレキャスト部材の1対の側面に埋設されているプレキャスト部材。
【請求項2】
前記インサート部材がセラミックからなる請求項1に記載のプレキャスト部材。
【請求項3】
前記側面が、隣接する部材にポストテンション方式の緊張材によって接合される接合面である請求項1又は2に記載のプレキャスト部材。
【請求項4】
前記接合面には、当該プレキャスト部材の上面に至る複数の切欠きが形成され、前記インサート部材が前記切欠きの底面に埋設されている請求項3に記載のプレキャスト部材。
【請求項5】
プレストレストコンクリート構造体であって、
概ね水平な所定方向に隣接して配置される複数のプレキャスト部材と、
隣接する1対の前記プレキャスト部材の間に充填される充填材とを備え、
各プレキャスト部材は、
ポストテンション方式の緊張材によって、前記所定方向の両側に隣接する前記プレキャスト部材に前記充填材を介して接合される1対の側面と、
前記側面のそれぞれに埋設された複数のインサート部材とを有するプレストレストコンクリート構造体。
【請求項6】
前記インサート部材がセラミックからなる請求項5に記載のプレストレストコンクリート構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト部材及びプレストレストコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
橋等の構造物を製作するための工法として、プレキャストセグメント工法がある。この工法は、予めプレキャスト化されたコンクリートブロック(セグメント)を現場で継ぎ合わせ、緊張材によりプレストレスを導入することによって一体化させる方法である。重量が大きいプレキャストセグメントは、クレーンを用いて吊り上げられ、所定位置に架設される。箱桁橋のプレキャストセグメントの吊り上げ構造として、床版に貫通孔が形成され、この貫通孔に挿通されたPC鋼棒に固定式フレーム(吊り上げ治具)を取り付けてセグメントを吊り上げる構成が公知である(特許文献1の図2)。
【0003】
また、プレキャスト部材の吊り上げ構造として、図5(A)に示すように、部材本体51にアンカー材52が埋め込まれ、アンカー材52に吊り治具53を取り付けてプレキャスト部材を吊り上げる構成が採られることもある。アンカー材52は部材本体51に形成された箱抜き部54に設けられる。プレキャスト部材が吊り上げられて所定位置に架設された後、箱抜き部54は、図5(B)に示すように無収縮モルタルや膨張コンクリート等の後埋め材55を充填されて平坦に処理される。特許文献1に開示されるような貫通孔も、プレキャスト部材の架設後に後埋め材55によって処理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-80696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の吊り上げ構造では、プレキャスト部材の上面に後埋め材が露出する。長年の使用によって後埋め材が経年劣化すると、後埋め材にひび割れが生じたり、後埋め材とプレキャスト部材との縁が切れたりする虞がある。或いは、後埋め材として膨張コンクリートを用いた場合に、充填時の環境条件によっては十分な膨張効果が得られないことがある。このような場合にも後埋め材とプレキャスト部材との縁が切れやすく、ひび割れが生じやすい。上面にひび割れが生じると、そこから浸入する水による浸食や浸入した水の凍結、鉄筋等の金属部材の水による錆び等により、プレキャスト部材の劣化が進行する。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、プレキャスト部材の将来の劣化を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、プレキャスト部材(5)であって、吊り具(13)を取り付けるための複数のインサート部材(9)を備え、前記インサート部材が当該プレキャスト部材の1対の側面(5a)に埋設される。
【0008】
この態様によれば、吊り具をプレキャスト部材の側面に取り付けてプレキャスト部材を吊り上げることができる。また、プレキャスト部材の上面にインサート部材が設けられないため、プレキャスト部材の劣化が抑制される。
【0009】
上記の態様のプレキャスト部材において、前記インサート部材がセラミックからなると良い。
【0010】
この態様によれば、錆びによるインサート部材の劣化が抑制される。
【0011】
上記の態様のプレキャスト部材において、前記側面が、隣接する部材にポストテンション方式の緊張材(6)によって接合される接合面であると良い。
【0012】
この態様によれば、プレキャスト部材の側面に圧縮力が作用することにより、側面に縁切れやひび割れが生じることが抑制される。よってインサート部材が雨水の凍結などによって損傷することが抑制される。
【0013】
上記の態様のプレキャスト部材において、前記接合面には、当該プレキャスト部材の上面に至る複数の切欠きが形成され、前記インサート部材が前記切欠きの底面に埋設されていると良い。
【0014】
インサート部材がプレキャスト部材の接合面に埋設される場合、プレキャスト部材を所定位置に配置した後に、吊り具をインサート部材から取り外せなくなる虞がある。この態様によれば、インサート部材が切欠きの底面に埋設されることにより、プレキャスト部材を所定位置に配置した後に、インサート部材から吊り具を取り外すことができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために本発明のある態様は、プレストレストコンクリート構造体(4)であって、概ね水平な所定方向(橋軸方向)に隣接して配置される複数のプレキャスト部材(5)と、隣接する1対の前記プレキャスト部材の間に充填される充填材(17)とを備え、各プレキャスト部材は、ポストテンション方式の緊張材(6)によって、前記所定方向の両側に隣接する前記プレキャスト部材に前記充填材を介して接合される1対の側面(5a)と、前記側面のそれぞれに埋設された複数のインサート部材(9)とを有する。
【0016】
この態様によれば、各プレキャスト部材の側面に吊り具を取り付けてプレキャスト部材を吊り上げ、プレキャスト部材を所定の位置に配置することができる。また、プレキャスト部材の上面にインサート部材が設けられないため、プレキャスト部材の劣化が抑制される。加えて、プレキャスト部材の接合面をなす側面は充填材によって圧縮力が作用した状態で覆われるため、側面に縁切れやひび割れが生じることが抑制される。よってインサート部材が雨水の凍結などによって損傷することが抑制される。
【0017】
上記の態様のプレストレストコンクリート構造体において、前記インサート部材がセラミックからなると良い。錆びによるインサート部材の劣化が抑制される。
【0018】
この態様によれば、錆びによるインサート部材の劣化が抑制される。
【発明の効果】
【0019】
以上の態様によれば、プレキャスト部材の将来の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る桁橋の施工状況を示す側面図
図2図1中のII矢印から見た桁橋の正面図
図3図1中のIII部の拡大断面図
図4】接合後のプレキャスト床版の接合部の拡大断面図
図5】従来技術に係るプレキャスト部材の吊り上げ構造の説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態では、発明が桁橋1のプレストレストコンクリート床版4及びプレキャスト床版5に適用された例について説明する。
【0022】
図1は実施形態を係る桁橋1の施工状況を示す側面図である。図1に示されるように、桁橋1は、橋軸方向に離間して配置された橋脚2間に架設される主桁3と、主桁3の上に構築されるプレストレストコンクリート床版4とを有する。プレストレストコンクリート床版4は、橋軸方向に並べて配置された複数のプレキャスト床版5を連結して構成される。これらのプレキャスト床版5は、緊張材6によってプレストレスを導入されることによって互いに連結される。緊張材6は、アラミドFRPからなると良く、アラミド以外の繊維強化プラスチックからなっても良い。或いは、緊張材6がPC鋼棒やPC鋼撚り線であっても良い。プレキャスト床版5は、図示しないクレーンによって吊り装置10を介して吊り上げられ、主桁3上の所定の位置に配置される。
【0023】
図2は、図1中のII矢印から見た桁橋1の正面図である。プレキャスト床版5が橋軸直角方向に長いことから、橋軸直角方向に離間した位置に2つの吊り装置10が配置されている。両吊り装置10は同じ構成を有している。両吊り装置10は、図示しない主フレームによって上方で互いに連結されており、主フレームを介して1つのクレーンによって吊り上げられる。吊り装置10のそれぞれは、矩形のフレーム11と、フレーム11の角部近傍から垂下する4つの垂下部材12と、各垂下部材12の下端に設けられ、プレキャスト床版5に取り付けられる4つの吊り具13とを有する。
【0024】
吊り具13は、プレキャスト床版5の橋軸方向を向く1対の側面5aに取り付けられる。これらの側面5aは、ポストテンション方式で緊張される緊張材6によって、橋軸方向の両側に隣接配置されるプレキャスト床版5に接合される接合面である。プレキャスト床版5の橋軸方向を向く側面5aには、複数の緊張材挿通孔7が形成されている。緊張材挿通孔7は、橋軸方向に延在し、プレキャスト床版5の1対の側面5aにて開口している。プレキャスト床版5の側面5aには、図示しないシアキー又はキー溝が形成されていても良い。
【0025】
図3図1中のIII部の拡大断面図である。図2及び図3に示すように、プレキャスト床版5の橋軸方向を向く側面5aには複数の切欠き5bが形成されている。切欠き5bは、略直方体形状をしてプレキャスト床版5の上面に至っており、プレキャスト床版5の側面5a及び上面にて開放されている。各切欠き5bの底面(プレキャスト床版5の橋軸方向を向く側面5aの一部を構成する面)には、複数のインサート部材9が埋設されている。本実施形態では、1つの吊り具13を取り付けるために、4つのインサート部材9が横2列、縦2列に配置されている。吊り具13は、4つのインサート部材9に螺着された4本のボルト15によってプレキャスト床版5の対応する側面5a(切欠き5bの底面)に弾性部材16を介して着脱可能に取り付けられる。本実施形態では、インサート部材9はセラミックから形成されている。吊り具13及びボルト15は金属から形成されている。弾性部材16は天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマから形成されている。切欠き5bは、プレキャスト床版5の配置後にボルト15の取り外しを可能にするために形成されている。弾性部材16は、吊り具13がプレキャスト床版5の側面5aに直接取り付けられることによってプレキャスト床版5の角部が損傷することを防ぐために配置される。
【0026】
図4は、図1中のIV部の拡大断面図であり、接合後のプレキャスト床版5の接合部を示している。図4に示すように、プレキャスト床版5は隣接するプレキャスト床版5に対して所定の間隙を空けて配置される。橋軸方向に互いに隣接して配置された1対のプレキャスト床版5の間には充填材17が充填される。充填材17はプレキャスト床版5の切欠き5bにも充填される。充填材17は、例えば無収縮モルタルであって良い。緊張材6(図1)によるプレストレスは、充填材17の硬化後に導入される。1対のプレキャスト床版5の間に充填材17が充填されることにより、両プレキャスト床版5は充填材17を介して互いに面接触する。これにより、プレキャスト床版5や充填材17にプレストレスが均等に導入される。
【0027】
以下、実施形態に係るプレキャスト床版5及びプレストレストコンクリート床版4の作用効果を説明する。
【0028】
図3に示すように、本実施形態のプレキャスト床版5においては、吊り具13を取り付けるための複数のインサート部材9が、当該プレキャスト部材の1対の側面5aに埋設される。そのため、吊り具13をプレキャスト床版5の側面5aに取り付けてプレキャスト床版5を吊り上げることができる。また、プレキャスト床版5の上面にインサート部材9が設けられないため、プレキャスト床版5の劣化が抑制される。
【0029】
また、インサート部材9がセラミックからなるため、錆びによるインサート部材9の劣化が抑制される。
【0030】
図4に示すように、プレキャスト床版5の側面5aは、隣接する部材にポストテンション方式の緊張材6によって接合される接合面である。そのため、プレキャスト床版5の側面5aに圧縮力が作用する。これにより、プレキャスト床版5の側面5aに縁切れやひび割れが生じることが抑制される。よってインサート部材9が雨水の凍結などによって損傷することが抑制される。
【0031】
インサート部材9がプレキャスト床版5の接合面をなす側面5aに埋設される場合、プレキャスト床版5を隣接するプレキャスト床版5に近接する所定位置に配置した後に、吊り具13をインサート部材9から取り外せなくなる虞がある。本実施形態では、インサート部材9が切欠き5bの底面に埋設されているため、プレキャスト床版5を所定位置に配置した後に、ボルト15を抜き取ってインサート部材9から吊り具13を取り外すことができる。
【0032】
また、図1に示すように、本実施形態のプレストレストコンクリート床版4は、概ね水平な橋軸方向(所定方向)に隣接して配置される複数のプレキャスト床版5と、隣接する1対のプレキャスト床版5の間に充填される充填材17とを備える。図4に併せて示すように、各プレキャスト床版5は、ポストテンション方式の緊張材6によって、橋軸方向の両側に隣接するプレキャスト床版5に充填材17を介して接合される1対の側面5aと、側面5aのそれぞれに埋設された複数のインサート部材9とを有する。そのため、各プレキャスト床版5の側面5aに吊り具13を取り付けてプレキャスト床版5を吊り上げ、プレキャスト床版5を所定の位置に配置することができる。また、プレキャスト床版5の上面にインサート部材9が設けられないため、プレキャスト床版5の劣化が抑制される。加えて、プレキャスト床版5の接合面をなす側面5aは充填材17によって圧縮力が作用した状態で覆われるため、側面5aに縁切れやひび割れが生じることが抑制される。よってインサート部材9が雨水の凍結などによって損傷することが抑制される。
【0033】
プレストレストコンクリート床版4においても、インサート部材9がセラミックからなるために、錆びによるインサート部材9の劣化が抑制される。
【0034】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。
【0035】
例えば、発明に係るプレストレストコンクリート構造体が箱桁橋に適用され、発明に係るプレキャスト部材が箱桁橋のプレキャストセグメントに適用されても良い。また、発明に係るプレストレストコンクリート構造体がボックスカルバートに適用され、発明に係るプレキャスト部材がボックスカルバートのプレキャストセグメントに適用されても良い。或いは、発明に係るプレストレストコンクリート構造体が開削溝に適用され、発明に係るプレキャスト部材が開削溝のプレキャストセグメントに適用されても良い。
【0036】
この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材、或いは構築手順等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 :桁橋
2 :橋脚
3 :主桁
4 :プレストレストコンクリート床版(プレストレストコンクリート構造体)
5 :プレキャスト床版(プレキャスト部材)
5a :側面
5b :切欠き
6 :緊張材
7 :緊張材挿通孔
9 :インサート部材
10 :吊り装置
11 :フレーム
12 :垂下部材
13 :吊り具
15 :ボルト
16 :弾性部材
17 :充填材
図1
図2
図3
図4
図5