(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059416
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】メタノール製造方法およびメタノール製造装置
(51)【国際特許分類】
C07C 29/152 20060101AFI20240423BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240423BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240423BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20240423BHJP
C07C 29/74 20060101ALI20240423BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C07C29/152
B01D53/22
B01D69/02
C07C31/04
C07C29/74
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167079
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】来田 康司
(72)【発明者】
【氏名】今坂 怜史
(72)【発明者】
【氏名】岸田 央範
【テーマコード(参考)】
4D006
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA28
4D006JA25A
4D006JA57Z
4D006KA01
4D006KA16
4D006KA31
4D006KA52
4D006KA53
4D006KA54
4D006KB30
4D006MA02
4D006MB04
4D006PB32
4D006PB65
4D006PC69
4D006PC80
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC41
4H006AD11
4H006AD19
4H006BA05
4H006BA07
4H006BA30
4H006BD82
4H006BE20
4H006BE41
4H006FE11
4H039CA60
4H039CL00
(57)【要約】
【課題】膜反応器よりも製造が容易なメタノール製造装置を用いて、化学平衡を生成側にシフトさせながらメタノールを効率的に製造する。
【解決手段】二酸化炭素と水素を含む反応ガスからメタノールを合成する反応を促進する触媒を具備する2つ以上の反応部と、前記反応の生成物である水蒸気を前記反応ガスから分離する2つ以上の分離部と、を具備し、前記分離部は、非透過側の第1空間と、透過側の第2空間と、前記水蒸気を選択的に前記第1空間から前記第2空間に移動させる水蒸気分離膜と、前記水蒸気分離膜を透過させた前記水蒸気を外部へ導く水蒸気導出路と、を具備し、前記反応ガスが、前記反応部と前記分離部とを交互に流通して、化学平衡を生成側にシフトさせながらメタノールを生成および濃縮する、メタノール製造装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と水素を含む反応ガスからメタノールを合成する反応を促進する触媒を具備する2つ以上の反応部と、
前記反応の生成物である水蒸気を前記反応ガスから分離する2つ以上の分離部と、
を具備し、
前記分離部は、
非透過側の第1空間と、
透過側の第2空間と、
前記水蒸気を選択的に前記第1空間から前記第2空間に移動させる水蒸気分離膜と、
前記水蒸気分離膜を透過させた前記水蒸気を外部へ導く水蒸気導出路と、
を具備し、
前記反応ガスが、前記反応部と前記分離部とを交互に流通して、化学平衡を生成側にシフトさせながらメタノールを生成および濃縮する、メタノール製造装置。
【請求項2】
前記反応部は、前記反応で発生する反応熱を除去する熱媒体流路を具備する、請求項1に記載のメタノール製造装置。
【請求項3】
前記水蒸気分離膜が、100~1000の水蒸気/メタノール分離係数を有する無機膜を具備する、請求項1に記載のメタノール製造装置。
【請求項4】
前記反応部の上流側と前記分離部の上流側とが連通せず互いに独立しており、かつ、前記反応部の下流側と前記分離部の上流側とが連通している、請求項1に記載のメタノール製造装置。
【請求項5】
前記反応ガスが第1方向および前記第1方向とは逆の第2方向に交互に流れるように、前記反応部と前記分離部とが横並びに配置されている、請求項1に記載のメタノール製造装置。
【請求項6】
前記反応ガスが、前記反応部を前記第1方向に流れ、前記分離部を前記第2方向に流れる、請求項5に記載のメタノール製造装置。
【請求項7】
少なくとも3つの前記反応部と、少なくとも3つの前記分離部と、
を具備し、
前記反応ガスが、前記反応部を通過した後に前記分離部を通過するプロセスが3回以上繰り返されるように構成されている、請求項1に記載のメタノール製造装置。
【請求項8】
第1端部および第2端部を有し、かつ複数の部屋を有する構造体を具備し、
複数の筒状の前記反応部と複数の筒状の前記分離部とが、それぞれ前記複数の部屋の何れかに配置されており、
前記反応ガスが前記第1端部側から前記第2端部側に向かう第1方向および前記第1方向とは逆の第2方向に交互に流れるように構成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載のメタノール製造装置。
【請求項9】
二酸化炭素と水素を含む反応ガスからメタノールを合成する反応を促進する触媒を具備する2つ以上の反応部と、前記反応の生成物である水蒸気を前記反応ガスから分離する2つ以上の分離部に、前記反応ガスを交互に流通させる工程、
を具備し、
前記分離部は、
非透過側の第1空間と、
透過側の第2空間と、
前記水蒸気を選択的に前記第1空間から前記第2空間に移動させる水蒸気分離膜と、
を具備し、
前記水蒸気分離膜を透過させた前記水蒸気を外部へ導くことにより、化学平衡を生成側にシフトさせながらメタノールを生成および濃縮する工程、
を具備する、メタノール製造方法。
【請求項10】
前記水蒸気分離膜が、100~1000の水蒸気/メタノール分離係数を有する無機膜を具備する、請求項9に記載のメタノール製造方法。
【請求項11】
前記反応部は、前記反応で発生する反応熱を除去する熱媒体流路を具備する、請求項9に記載のメタノール製造方法。
【請求項12】
前記反応ガスが、前記反応部を通過した後に前記分離部を通過するプロセスが3回以上繰り返される、請求項9~11のいずれか1項に記載のメタノール製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、CO2を原料に用いるメタノール製造方法およびメタノール製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CO2(二酸化炭素)を出発原料とするメタノール合成は、以下の反応式で表される。
【0003】
【0004】
本反応は発熱反応であり、低温・高圧ほどメタノールが生成しやすい反応系である。この反応系は、熱力学平衡の制約が大きく、メタノール収率が非常に小さいことが課題である。
【0005】
例えば、モル比3:1で混合されたH2とCO2の原料ガスからメタノールを製造することを考えると、1MPaA、200℃で反応を試みた場合の平衡のメタノール収率は約8%であり、5MPaA、200℃で反応を試みた場合の平衡のメタノール収率は約37%である。原料ガスの大半は未反応ガスとなるため、反応器入口にリサイクルする必要があり、返送と再昇圧に係る圧縮機のエネルギー消費が大きくなる。さらに、メタノールは水との混合物として得られるため、メタノール純度を上げるために蒸留などの精製装置を設置する必要があり、そのエネルギーも膨大とされている。
【0006】
特許文献1および非特許文献1は、メタノール収率を向上させる技術として、膜反応器の利用を提案している。膜反応器は、触媒と水蒸気分離膜(以下、単に「分離膜」ともいう。)を組合せた一体型反応器である。触媒反応で生成するH2Oを分離膜によって反応系から除去することで、化学平衡を生成側にシフトさせることができる。分離膜の種類としては、高温高圧環境下で運転可能な無機膜とこれを支持する多孔質基材を具備する分離膜が有望とされている。また、反応と同時に脱水が進行するため、これまで必要であったメタノール精製装置を簡略化できるといったメリットも生まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. Seshimo et al.,Membranes2021, 11, 505.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
膜反応器を製造する場合、分離膜の表面を損傷させることなく触媒と分離膜とを一体化させる必要がある。しかし、分離膜の表面を構成する無機膜は厚さが数μmであり、衝撃や摩擦による損傷を受けやすい。分離膜に損傷を与えることなく、触媒と分離膜とを一体化するためには高度な技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、二酸化炭素と水素を含む反応ガスからメタノールを合成する反応を促進する触媒を具備する2つ以上の反応部と、前記反応の生成物である水蒸気を前記反応ガスから分離する2つ以上の分離部と、を具備し、前記分離部は、非透過側の第1空間と、透過側の第2空間と、前記水蒸気を選択的に前記第1空間から前記第2空間に移動させる水蒸気分離膜と、前記水蒸気分離膜を透過させた前記水蒸気を外部へ導く水蒸気導出路と、を具備し、前記反応ガスが、前記反応部と前記分離部とを交互に流通して、化学平衡を生成側にシフトさせながらメタノールを生成および濃縮する、メタノール製造装置に関する。
【0011】
本発明の別の側面は、二酸化炭素と水素を含む反応ガスからメタノールを合成する反応を促進する触媒を具備する2つ以上の反応部と、前記反応の生成物である水蒸気を前記反応ガスから分離する2つ以上の分離部に、前記反応ガスを交互に流通させる工程、を具備し、前記分離部は、非透過側の第1空間と、透過側の第2空間と、前記水蒸気を選択的に前記第1空間から前記第2空間に移動させる水蒸気分離膜と、を具備し、前記水蒸気分離膜を透過させた前記水蒸気を外部へ導くことにより、化学平衡を生成側にシフトさせながらメタノールを生成および濃縮する工程、を具備する、メタノール製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
膜反応器を製造する場合のように分離膜の表面を損傷させることなく、膜反応器よりも製造が容易なメタノール製造装置を用いて、化学平衡を生成側にシフトさせながらメタノールを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】第1実施形態に係る2段構成の疑似膜反応器の概略図である。
【
図3】
図2の疑似膜反応器の空間Xおよび空間Yの横断面を示す図である。
【
図4】第2実施形態に係る疑似膜反応器の空間Xおよび空間Yの横断面を示す図である。
【
図5】第3実施形態に係る疑似膜反応器の空間Xおよび空間Yの横断面を示す図である。
【
図6】第4実施形態に係る疑似膜反応器の概略図である。
【
図7】第5実施形態に係る疑似膜反応器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上数値B以下」と読み替え可能である。また、複数の材料が例示される場合、その中から1種を選択して単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
また、本開示は、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項の組み合わせを包含する。つまり、技術的な矛盾が生じない限り、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項を組み合わせることができる。
【0016】
メタノール合成のための膜反応器を製造するためには、メタノール合成反応を促進する触媒と水蒸気を分離する分離膜とを隙間なく密着させる必要があるため、実用上の課題が多い。既述のように、分離膜に損傷を与えることなく触媒と分離膜を一体化することは困難であることが多い。
【0017】
次に、初期不良や運転異常により所望の処理能力が得られない場合、触媒と分離膜のどちらに問題が生じているかを判断することが難しい。そのため、触媒と分離膜の両方をプラントから取り出して別々に検査し、措置を施してから再据付する必要がある。そのため膜反応器は運転管理の作業量が多くなる可能性が高い。
【0018】
また、CO2からのメタノール合成反応は発熱反応であるため、こまめな除熱が必要である。しかし、膜反応器は触媒と分離膜とが一体化しているため、除熱手段が限られ、かつ除熱機構が複雑化しやすい。
【0019】
また、本来、反応部と脱水部の運転には、個別で最適条件が存在する。供給流束を例にとると、反応部は供給流束が小さい方が十分な滞留時間を確保できるため、単位触媒当たりの反応進行度が向上する傾向にある。一方、脱水部は供給流束が大きい方が、膜表面近傍で発生する濃度分極が軽減され、単位膜面積当たりの脱水性能が向上する傾向にある。しかし一体型の膜反応器では、両者の最適条件を同時に適用することができない。
【0020】
さらに、メンテナンスの上でも、触媒と分離膜のいずれか一方に交換時期が到来した場合、片方のみを交換することができないというデメリットがある。触媒が先に劣化した場合には、触媒と一緒に取り出された分離膜を再利用することは現実的ではない。触媒の寿命が1年で、分離膜の寿命が2年と仮定した場合、触媒の寿命に合わせて分離膜も1年で交換しなければならない。
【0021】
一方、本開示によれば、上記の少なくとも一つの課題を解決しつつ、膜反応器のメリットを享受することができる。本開示に係るメタノール製造装置は、疑似膜反応器と言い換えることができる。疑似膜反応器によれば、膜反応器と同じく平衡シフト効果が得られることに加え、製造もしくは据付が容易であり、メンテナンス性に優れ、かつ反応熱の除熱を効率的に行い得る。また、メタノールを反応系で濃縮できるため、メタノールの精製プロセスを簡略化できる。疑似膜反応器の平衡シフト効果は、例えば分離部による脱水の回数により任意に制御することができる。平衡シフト効果を高めることで、疑似膜反応器でも膜反応器と同等レベルのメタノール製造能力を達成し得る。
【0022】
本開示に係るメタノール製造装置(疑似膜反応器)は、2つ以上の反応部と2つ以上の分離部とを具備する。反応ガスは、反応部と分離部とを交互に流通する。複数の反応部と分離部を反応ガスが交互に流通することで、「触媒反応→脱水」の2ステップからなるプロセスが2段以上繰り返される。そのため、化学平衡を生成側にシフトさせながらメタノールを生成させ、かつ濃縮することができる。反応ガスが反応部を通過した後に分離部を通過するプロセスは3回以上繰り返されてもよい。以下、「触媒反応→脱水」の2ステップからなるプロセスを1段と定義する。
【0023】
なお、反応部と反応部との間に分離部が1つでも介在し、分離部と分離部との間に反応部が1つでも介在すれば、どのようなレイアウトで2つ以上の反応部と2つ以上の分離部を配置しても「交互」に含まれる。例えば、「触媒反応→脱水→触媒反応→脱水」の2段構成の疑似膜反応器でもよく、「触媒反応→脱水→脱水→触媒反応→触媒反応→脱水→脱水→触媒反応」のようなランダムなレイアウトでもよい。
【0024】
図1に疑似膜反応器のコンセプトを示す。疑似膜反応器100は、触媒を具備する反応部101と、脱水を行う分離部102とを直列に繋いだユニット110を複数備える。複数のユニット110は、1つの容器103の内部に収容されてもよい。
【0025】
反応部101では、CO2とH2を原料としてメタノールと水(水蒸気)が合成され、反応熱が生成する。触媒は、CO2とH2からメタノールと水蒸気を合成する反応を促進する。反応部の温度(反応温度)はT1、T2・・、Tnと変化する。従って、最適な除熱の程度も変化する。つまり各反応部の運転の最適条件は異なる。
【0026】
分離部102は、水蒸気を反応ガスから分離する。これにより化学平衡が生成側にシフトするとともにメタノールが濃縮される。分離部は、非透過側の第1空間と、透過側の第2空間と、水蒸気を選択的に第1空間から第2空間に移動させる水蒸気分離膜を具備する。水蒸気分離膜を透過させた水蒸気は、水蒸気導出路を通って外部へ導かれる。各分離部の運転の最適条件も異なる。
【0027】
原料ガスを「触媒反応→脱水」の順番で交互に流通させて、複数回に分けて段階的に反応ガスから脱水を行うことで、反応平衡を生成側に移動させながらメタノールを製造できる。そのため、高い反応効率を実現できる。
【0028】
本反応は発熱反応であるため、反応部101に熱媒体として水や水蒸気を流通させて除熱を行うことが望ましい。よって、反応部は、反応熱を除去する熱媒体流路を具備してもよい。反応で発生する反応熱を除去することによっても化学平衡が生成側にシフトする。複数回に分けて段階的に除熱を行うことで、反応平衡を更に生成側に移動させることができる。各反応部と各分離部とが独立している場合、各反応部と各分離部の運転の最適条件に合わせた除熱を行うことが可能である。
【0029】
熱媒体流路は反応部を囲むように設けてもよい。反応部は、内筒と外筒を有する二重管構造でもよい。その場合、内筒、または内筒と外筒の間の空間に、触媒を充填して反応ガスを流通させ、他方に熱媒体を流通させてもよい。熱媒体には、水や水蒸気を用い得る。
【0030】
疑似膜反応器100から回収された原料ガスとメタノールと水蒸気の混合流体は、気液分離部150で気液分離される。その際に得られるメタノールは高純度であるため、蒸留装置などのメタノール精製装置を簡略化できる。このように1つの容器103の内部に複数のユニット110を収容することで、コンパクトで実用的な疑似膜反応器100が構成される。
【0031】
水蒸気分離膜は、例えば100~1000の水蒸気/メタノール分離係数を有する無機膜を具備してもよい。水蒸気/メタノール分離係数は、高いほど望ましい。しかし、1000を超える水蒸気/メタノール分離係数の水蒸気分離膜を高い生産性で継続的に供給することは必ずしも容易ではない。その点、1000以下の水蒸気/メタノール分離係数の水蒸気分離膜を高い生産性で継続的に供給することが比較的容易である。2つ以上の反応部と2つ以上の分離部に反応ガスを交互に流通させる場合、脱水の機会は2回以上確保される。よって、1000を超える高水準の水蒸気/メタノール分離係数は必ずしも必要ではない。換言すれば、より汎用的な品質の分離膜を利用して高性能なメタノール製造装置を実現できる。一方、水蒸気/メタノール分離係数が100以上であれば、水蒸気を反応ガスから分離する十分な濃縮作用を得ることができる。
【0032】
反応部の上流側と分離部の上流側は、連通せず互いに独立していることが望ましい。その上で、反応部の下流側と分離部の上流側を連通させることで、疑似膜反応器としての性能が向上する。これは、反応ガスの全てが反応部と分離部とを交互に流通するため、メタノールを生成させ、かつ濃縮するプロセスの効率が向上するためである。
【0033】
好ましい一態様に係るメタノール製造装置では、反応ガスが第1方向および第1方向とは逆の第2方向に交互に流れるように、反応部と分離部とが横並びに配置されている。この構成は、コンパクトで体積効率の高いメタノール製造装置を提供し得る。反応部と分離部とを横並びに配置する場合、少ない空間でも反応部を増設することが可能であり、「触媒反応→脱水」のプロセスが複数回繰り返される多段フローを容易に実現し得る。
【0034】
反応ガスは、反応部を第1方向に流れ、分離部を第2方向に流れてもよい。この構成によれば、よりコンパクトで体積効率の高いメタノール製造装置を提供し得る。
【0035】
本開示に係るメタノール製造装置は、少なくとも3つの反応部と、少なくとも3つの分離部とを具備してもよい。この場合、反応ガスが、反応部を通過した後、分離部を通過するプロセスが3回以上繰り返される。よって、化学平衡は生成側に顕著にシフトし、メタノールの濃縮が顕著に進行する。
【0036】
より好ましいメタノール製造装置は、第1端部および第2端部を有し、かつ複数の部屋を有する構造体を具備する。そして、複数の筒状の反応部と複数の筒状の分離部とが、それぞれ複数の部屋の何れかに配置されている。この場合、反応ガスは、第1端部側から第2端部側に向かう第1方向および第1方向とは逆の第2方向に交互に流れるように構成され得る。この構成によれば、更にコンパクトで体積効率の高いメタノール製造装置を提供し得る。
【0037】
本開示は、上記メタノール製造装置を用いるメタノール製造方法にも関する。本開示に係るメタノール製造方法は、二酸化炭素と水素を含む反応ガスからメタノールを合成する反応を促進する触媒を具備する2つ以上の反応部と、反応の生成物である水蒸気を反応ガスから分離する2つ以上の分離部に、反応ガスを交互に流通させる工程を有する。分離部は、非透過側の第1空間と、透過側の第2空間と、水蒸気を選択的に第1空間から第2空間に移動させる水蒸気分離膜を具備する。水蒸気分離膜を透過させた水蒸気は、外部へ導かれる。これにより化学平衡が生成側にシフトする。
【0038】
一般的な反応部の温度は200℃~300℃であるが、平衡シフト効果を発現させることで、200℃未満(例えば150℃~180℃)でもメタノール合成を効率よく行うことができる。一般的な反応部の圧力は、5MPaA~50MPaAであるが、平衡シフト効果を発現させることで、5MPaA未満(例えば0.9MPaA~4MPaA)でもメタノール合成を効率よく行うことができる。
【0039】
反応ガスのメタノール化を促進する触媒は、例えばCu/ZnO系の触媒であることが望ましいが、イリジウム系の複核錯体触媒であってもよい。
【0040】
反応ガスはCO2およびH2を含み、CO2に対してH2は3倍以上のモル比で混合されていることが望ましい。また、触媒に十分な反応速度を与えるため、加熱器を介して予熱されて導入されることが望ましい。
【0041】
水蒸気分離膜は、反応部の温度に耐える耐熱性があればよい。水蒸気分離膜は、例えばアルミナなどの多孔質基材の表面にシリカ膜、ゼオライト膜などの無機膜を成膜したものである。
【0042】
分離膜の形状は、円筒状が望ましい。円筒の両端は開放されていてもよく、片端が封止されていてもよい。片端が封止されている場合は、分離膜の内側に細管を挿入し、不活性ガスで掃引できる構造とすることが望ましい。細管を挿入できない場合は、分離膜の中空空間を真空ポンプ等で減圧し、一定以上の水蒸気の分圧差を維持できるようにしてもよい。
【0043】
以下では、本開示に係るメタノール製造装置(疑似膜反応器)およびメタノール製造方法の例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する疑似膜反応器およびメタノール製造方法の例の構成要素および工程には、上述した構成要素および工程を適用できる。以下で説明する例の疑似膜反応器およびメタノール製造方法の例の構成要素および工程は、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。以下で説明する例の疑似膜反応器およびメタノール製造方法の例の構成要素および工程のうち、本開示に係る疑似膜反応器およびメタノール製造方法に必須ではない構成要素および工程は省略してもよい。なお、以下で示す図は模式的なものであり、実際の部材の形状や数を正確に反映するものではない。
【0044】
《第1実施形態》
図2は、2段構成(2ユニットタイプ)の疑似膜反応器の概略図であり、(a)は外観、(b)は内部構造を示している。
図3は、
図2の疑似膜反応器の空間Xおよび空間Yの横断面を示す図であり、(a)A1-A1矢視断面図、(b)A2-A2矢視断面図、(c)B1-B1矢視断面図、(d)B2-B2矢視断面図を示している。
【0045】
疑似膜反応器200の胴体部は、第1端部201Tおよび第2端部202Tを有し、かつ第1端部201Tから第2端部202Tに延びる部屋を複数(ここでは4個)有する構造体である。各部屋には、筒状の反応部210または筒状の分離部220が収容されている。筒状の反応部210または筒状の分離部220は、いずれも筒状体である。反応ガスは、第1端部201T側から第2端部202T側に向かう第1方向および第1方向とは逆の第2方向に交互に流れるように構成されている。2本の筒状の反応部210では触媒反応が進行する。2本の筒状の分離部(脱水部)220では反応ガスから水蒸気が除去される。なお、反応部210および分離部220の数は合計4本に限定されず、5本以上であってもよい。一つの胴体部の中で触媒反応と脱水が交互に行われるレイアウトで反応部210および分離部220が配置されていればよい。
【0046】
胴体部の中央寄りの大部分を占める内部空間Yは、反応ガスが流通する反応部210および分離部220の中空空間Y1と、胴体部外壁と筒状の反応部210または筒状の分離部220との間の空間Y2に区画されている。空間Y2には、熱媒体(水、水蒸気など)が流通可能である。筒状の反応部210および筒状の分離部220の両端は、それぞれ第1仕切り板203、204を貫通して固定されており、中空空間Y1は、両端の仕切り空間X1、X2に連通している。
【0047】
反応ガスは、仕切り空間X1の入口から流入し(矢印(1))、触媒が充填された1つ目の反応部210を流通し、仕切り空間X2で流路が変更され(矢印(2))、1つ目の分離部220に折り返して流入する。
【0048】
分離部220は二重管構造であり、円筒状の水蒸気分離膜221が挿入されている。反応ガスは筒状の分離部220の内壁と分離膜221の外壁との隙間を通過する。分離膜221は水蒸気を選択的に透過させて分離膜221の中空に導く。
【0049】
分離膜221の両端は、第2仕切り板205、206を貫通して固定されている。第2仕切り板205、206は、仕切り空間X1、X2と、その外側の端部空間Z1、Z2を仕切っている。端部空間Z1、Z2は、外部と連通している。分離膜221の中空空間と端部空間Z1、Z2とが連通して、水蒸気を外部へ導く水蒸気導出路を形成している。
【0050】
分離膜221は、反応ガスが端部空間Z1、Z2に漏れないようにOリングやグラファイトパッキンを介して第2仕切り板205、206に固定されている。
【0051】
端部空間Z1、Z2は、シェルカバーで覆われており、分離膜221の中空空間に掃引ガスを流通できる構造になっている。掃引ガスは、分離膜221による水蒸気の分離性能を高く維持するとともに、反応部210で発生した反応熱を除熱するのに役立つ。掃引ガスは、不活性ガスであればよく、窒素、アルゴン、CO2でもよい。掃引ガスを導入する一番の目的は、分離膜221の表裏で水蒸気の分圧差を確保することであり、一定以下の露点を持つガスが望ましい。掃引ガスの露点は-30℃以下が望ましく、-50℃以下がさらに望ましい。除熱効果を高めるために予め温度調節した掃引ガスを導入してもよい。反応部210の温度に応じて掃引ガスの温度を調整すればよい。掃引ガスの圧力は、例えば10kPaA~500kPaAであり、大気圧でもよい。
【0052】
続いて、分離部220から出た反応ガスは、仕切り空間X1で流路が変更され、触媒が充填された2つ目の反応部210に折り返して流入する(矢印(3))。その後、2つ目の反応部210から出た反応ガスは、仕切り空間X2で流路が変更され、2つ目の分離部220に折り返して流入する(矢印(4))。最後に、分離部220から出た反応ガスは仕切り空間X1で流路が変更され、疑似膜反応器200から放出される(矢印(5))。
【0053】
疑似膜反応器200から放出された反応ガスには、未反応原料も含まれるため、所定の気液分離器を介してメタノールを回収する。未反応原料は、疑似膜反応器200の前段にリサイクルすることが望ましい。リサイクルされる未反応原料の量は、単純な直接反応器に比べると大幅に低減される。
【0054】
「触媒反応+脱水」の2ステップからなるプロセスの段数が多いほど、メタノール収率を向上させることができる。従って、段数に上限はない。段数が少なすぎると効果が小さくなる。よって、プロセスの段数は、少なくとも2段以上であることが望ましく、4段以上がより好ましくは、6段以上がさらに好ましい。これにより未反応原料を削減し、原料ガスのリサイクルにかかる動力を低減できる。
【0055】
筒状の反応部210と筒状の分離部220の内径は、同じでもよく、同じでなくてもよい。反応部210の内径が大きいほど、供給流束を下げることができ、十分な滞留時間を確保できるため、単位触媒当たりの反応進行度が向上する。一方、分離部220の内径は小さいほど、供給流束が大きくなり、膜表面近傍で発生する濃度分極が軽減され、単位膜面積当たりの分離性能(脱水性能)が向上する。条件により、従来の膜反応器よりも反応効率を向上させることができる。
【0056】
図2の疑似膜反応器200の各部屋には、胴体部外壁と筒状の反応部210または筒状の分離部220との間の空間Y2が存在する。空間Y2には反応部210および分離部220を温度制御するために、熱媒体としてボイラ水やスチームを流入させることができる。
図3に示されるように、熱媒体の流路は互いに仕切られているため、2つの反応部210および2つの分離部220をそれぞれ個別に温度管理することができる。ただし、コスト低減の観点から熱媒体の流路に仕切りを設けず、一括で温度管理してもよい。
【0057】
《第2実施形態》
疑似膜反応器の胴体部の形状は、円筒である必要はなく、角筒(多角柱)であってもよい。胴体部の形状を四角柱としてもよい。
図4は、本実施形態に係る疑似膜反応器300の空間Xおよび空間Yの横断面を示す図である。
図4(a)は、
図3(a)に対応するA1-A1矢視図であり、
図4(b)は、
図3(c)に対応するB1-B1矢視図である。横断面が四角形を呈する形状の胴体部は、内部に配置される反応部310および分離部320(分離膜321)のレイアウトがシンプルになり、段数の増加が容易となる。
【0058】
《第3実施形態》
図5は、本実施形態に係る疑似膜反応器400の空間Xおよび空間Yの横断面を示す図である。疑似膜反応器400の胴体部は、横断面が四角形を呈している。プロセスの段数は4段である。
図5(a)は、
図3(a)に対応するA1-A1矢視図であり、
図5(b)は、
図3(c)に対応するB1-B1矢視図である。胴体部には、4ユニットの反応部410および分離部420(分離膜421)が収容されている。反応ガスは、矢印(1)から矢印(9)の順に流れて、疑似膜反応器400から外部に流出する。
【0059】
第2、第3実施形態と同様に、5段(5ユニット)以上の段数を有する疑似膜反応器を構成することが可能である。
【0060】
《第4実施形態》
図6は、本実施形態に係る疑似膜反応器500の概略図である。1つの反応部に配置される筒状体の数、および、1つの分離部に配置される筒状体の数は、必ずしも1本である必要はない。疑似膜反応器500は、反応部510の筒状体を1本とし、分離部520の筒状体(分離膜521)を3本とした例を示している。一部の分離膜521を使用しない場合はプラグ等で分離膜521の端部を塞いでおけばよい。一方、脱水能力が不足している場合は、分離膜を増設すればよい。反応部510で生成する水蒸気量に応じて、分離膜521の本数を増減することで、より効率的なメタノール合成を行うことができるようになる。
【0061】
《第5実施形態》
図7は、本実施形態に係る疑似膜反応器600の概略図である。疑似膜反応器600では、反応部610と一部の分離部620とが同じ部屋に収容されている。その部屋では反応ガスが反応部610と分離部620を同じ方向に流れる。分離部620に収容されている分離膜621の反応部610との接続部側の片端は封止されている。このように片端が封止されている場合、分離膜621の内側に細管630を挿入し、不活性ガスを掃引することが望ましい。あるいは、分離膜621の中空空間を真空ポンプ等で減圧してもよい。
【0062】
[実施例]
図1に示すコンセプトの疑似膜反応器において、原料ガス(組成:CO
2:H
2=1:3(モル比))からメタノール合成する場合のプロセスシミュレーションをシミュレーションソフトウェア(Aspen Tech社製 Aspen Plus)を用いて行った。結果を表1に示す。表1において、R1は、分離係数6000の超高性能分離膜を用いた場合の参考例(特開2018-8940号公報)のシミュレーション結果である。
【0063】
なお、メタノール収率は、疑似膜反応器に投入した総CO2量に対するメタノールの生成量であり、(疑似膜反応器出口でのメタノールのモル流量)/(疑似膜反応器入口でのCO2のモル流量)で求められる。
【0064】
また、メタノール回収率は、反応により生成したメタノールが分離膜にて除去されずに残存している割合を意味し、(疑似膜反応器の後段に設置した気液分離器で回収されるメタノールのモル流量)/(メタノール収率から計算される量論のメタノール生成量)で求められる。
【0065】
メタノール回収率は、高い分離係数の分離膜を適用するほど大きな値となり、メタノール損失が少ないと言える。
【0066】
メタノール純度は、疑似膜反応器の後段に設置した気液分離器で回収されるメタノールの濃度である。
【0067】
リサイクルガス量比は、直接合成法(分離膜を用いずに触媒反応器のみで構成された反応プロセス)でメタノールを製造した場合に発生する未反応ガス流量に対する、疑似膜反応器の未反応ガス流量である。値が100%から下回るほど未反応ガス量が削減されていることを意味する。
【0068】
【0069】
表1より、2段以上のプロセスで、触媒反応器のみで構成された反応プロセスに係る直接合成法(B1、B2)よりもメタノールの収率が上昇することがわかる。また、6段以上のプロセスでは、分離係数が6000の超高性能分離膜を用いた場合と同程度のメタノール製造能力が期待できることがわかる。さらに、疑似膜反応器によれば高純度のメタノールを製造できることがわかる。
【符号の説明】
【0070】
100、200、300、400、500、600:疑似膜反応器
101:反応部
102:分離部
103:容器
110:反応部と分離部のユニット
150:気液分離部
201T:第1端部
202T:第2端部
203、204:第1仕切り板
205、206:第2仕切り板
210、310、410、510、610:筒状の反応部
220、320、420、520、620:筒状の分離部
221、321、421、521、621:分離膜
Y1:中空空間
Y2:胴体部外壁と反応部または分離部との間の空間
X1、X2:仕切り空間
Z1、Z2:端部空間